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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1328203
審判番号 不服2016-2276  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-15 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2014-539905「協調マルチポイントシステムにおける送信ポイントインジケーション」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月10日国際公開、WO2013/066205、平成26年12月 8日国内公表、特表2014-533033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)3月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年11月4日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 6月11日 手続補正書の提出
平成27年 5月 8日付け 拒絶理由の通知
平成27年 6月 2日 意見書、手続補正書の提出
平成27年10月 5日付け 拒絶査定
(謄本送達日平成27年10月13日)
平成28年 2月15日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成28年2月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年2月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成28年2月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成27年6月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲(以下、「補正前の特許請求の範囲」という。)について、以下のとおりの特許請求の範囲(以下、「補正後の特許請求の範囲」という。)に補正することを含むものである。

(補正前の特許請求の範囲)
「【請求項1】
複数のワイヤレス送信を受信することを容易にするためにユーザ機器(UE)によって用いられるための装置であって、前記装置は、
複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セットの複数の個々の発展型ノードB(eNB)のそれぞれに関連づけられた複数の送信ポイントインデックスをそれぞれ含む複数の共通基準信号(CRS)パラメータを受信し、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントインデックスを受信する
通信モジュールと、
前記通信モジュールに結合され、前記第1のeNBの前記送信ポイントインデックスを含む前記複数の共通基準信号(CRS)パラメータに基づいて物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターンを生成する、マッピングモジュールと
を備える、装置。
【請求項2】?【請求項24】(省略)」

(補正後の特許請求の範囲)
「【請求項1】
複数のワイヤレス送信を受信することを容易にするためにユーザ機器(UE)によって用いられるための装置であって、前記装置は、
複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セットの複数の個々の発展型ノードB(eNB)のそれぞれに関連づけられた複数の共通基準信号パラメータ(複数のCRSパラメータ)を、無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信し、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントインデックスを含む下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)を受信する
通信モジュールと、
前記通信モジュールに結合され、前記第1のeNBの前記送信ポイントインデックスを含む前記複数の共通基準信号(CRS)パラメータに基づいて物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターンを生成する、マッピングモジュールと
を備え、
前記複数のCRSパラメータは、前記複数の個々の発展型ノードB(eNB)のCRSアンテナポートの数、CRS周波数シフト及び送信ポイントインデックスを含み、
前記複数のCRSパラメータは、前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第2のeNBから受信され、
前記DCIメッセージは、前記第1又は第2のeNBから受信される、装置。
【請求項2】?【請求項15】(省略)」

2 本件補正の適合性
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「通信モジュール」について、
「複数の共通基準信号パラメータ(複数のCRSパラメータ)を無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信し、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントインデックスを含む下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)を受信する」と限定するとともに、
「前記複数のCRSパラメータは、前記複数の個々の発展型ノードB(eNB)のCRSアンテナポートの数、CRS周波数シフト及び送信ポイントインデックスを含み、
前記複数のCRSパラメータは、前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第2のeNBから受信され、
前記DCIメッセージは、前記第1又は第2のeNBから受信される」と限定する補正事項を含むものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、ETRI, Downlink control signaling for downlink CoMP, 3GPP TSG RAN WG1 Meeting #66bis, Zhuhai, China, 10th-14th, October 2011, R1-113066(2011年10月4日、以下「引用例」という。)には、図面とともに、次のとおりの記載がある(なお、下線は当審において付したものである。)。

(ア)「Title: Downlink control signaling for downlink CoMP」(第1ページ第4行)
(当審訳:「タイトル:ダウンリンクCoMPのためのダウンリンク制御シグナリング」)

(イ)「- The work for specifying CoMP support in Rel-11 should focus on
・Joint transmission
・Dynamic point selection, including dynamic point blanking
・Coordinated scheduling/beamforming, including dynamic point blanking
- Specification in support of DL CoMP operation potentially including:
・Enhancements and requirements on downlink reference signals
- enhancements to improve interference measurements
- enhancements to identify and measure the downlink channel status of multiple transmission points
- consider performance requirements for flexible mapping of antenna ports to transmission points
・PDCCH extension and other enhancements on downlink control signalling」(第1ページ第14行?第25行)
(当審訳:「-リリース11におけるCoMP支援を特定する作業は、以下に焦点を当てるべきである。
・協働送信
・動的ポイント選択、動的ポイントブランキングを含む
・調整されたスケジューリング/ビームフォーミング、動的ポイントブランキングを含む
-DL CoMPオペレーションの支援の仕様は、潜在的に以下を含む。
・ダウンリンク参照信号の強化及び要求
- 干渉測定の改善のための強化
- 複数の送信ポイントのダウンリンクチャネル状態を確認及び測定するための強化
- 送信ポイントへのアンテナポートの柔軟なマッピングのための性能要求の検討
・ダウンリンク制御シグナリングに関するPDCCHの拡張及び他の強化」)

(ウ)「2.1 Transparent JP
In the CoMP scenarios 1, 2 and 3, each transmission point corresponds to a cell. Each cell may have different PDCCH region sizes and CRS configurations. PDCCH region size here means the number of OFDM symbols of the PDCCH. CRS configurations here mean the number of CRS antenna ports and CRS frequency shift that is dependent on physical cell ID.
For the JP, the PDSCH may be transmitted from one or multiple cell(s) and the cell that transmits the DL assignment may or may not transmit the PDSCH. The PDSCH transmission is dependent on the PDCCH region sizes and CRS configurations of the cell(s) that transmits (transmit) the PDSCH. The cell(s) that transmits (transmit) the PDSCH is (are) referred to as Cell_PDSCH and the cell transmits the DL assignment is referred to as Cell_DLassignment for short hereafter.」(第1ページ下から2行目?第2ページ第8行、なお、第1ページ下から6行目によれば、「JP」は「Joint Processing」の略)
(当審訳:「2.1透過的JP
CoMPシナリオ1、2及び3において、各送信ポイントは、セルに対応する。各セルは、異なるPDCCH領域サイズ及びCRS構成を有してもよい。PDCCH領域サイズは、ここでは、PDCCHのOFDMシンボル数を意味する。CRS構成は、ここでは、CRSアンテナポートの数及び物理的なセルIDに依存するCRS周波数シフトを意味する。
ジョイントプロセシング(JP)では、PDSCHは、1又は複数のセルから送信されてよく、ダウンリンクアサインメントを送信するセルは、PDSCHを送信してもしなくてもよい。PDSCH送信は、PDCCH領域のサイズ及びPDSCHを送信するセルのCRS構成に依存する。以下、短縮して、PDSCHを送信するセルをCell_PDSCHといい、ダウンリンクアサインメントを送信するセルをCell_DLassignmentという。」)

(エ)「PDCCH region size
For the JP, the cell(s) transmits (transmit) the PDSCH right after the maximum of PDCCH region(s) of Cell_PDSCH. For the transparent JP, the UE receives the PDSCH right after the PDCCH region of Cell_DLassignment since the UE has no knowledge of the PDCCH region(s) of Cell_PDSCH. The UE includes one or two PDCCH symbol(s) for the PDSCH rate-matching when the PDCCH region size of Cell_DLassignment is less than the maximum of PDCCH region size(s) of Cell_PDSCH.
The problem above can be explained with Dynamic Cell Selection (DCS for short hereafter). An example of DCS is illustrated in Figure 1 where the cell transmitting the PDCCH is different from the cell transmitting the PDSCH.」(第2ページ第12行?第20行)
(当審訳:「PDCCH領域サイズ
JPでは、セルは、Cell_PDSCHのPDCCH領域の最大値のすぐ後にPDSCHを送信する。透過的なJPでは、UEは、Cell_PDSCHのPDCCH領域に関する知識を持たないので、UEは、Cell_DLassignmentのPDCCH領域のすぐ後にPDSCHを受信する。Cell_DLassignmentのPDCCH領域サイズがCell_PDSCHのPDCCH領域サイズの最大値より小さい場合、UEは、PDSCHレートマッチングのために1つ又は2つのPDCCHシンボルを取り込む。
上記の問題は、動的セル選択(短縮してDCS)とともに説明される。DCSの例が図1に図示される。ここで、PDCCHを送信するセルは、PDSCHを送信するセルとは異なっている。」)

(オ)「CRS placement
CRS placement is dependent on the CRS configurations. For the JP, the cell(s) processes (process) the PDSCH rate-matching according to Cell_PDSCH. For the transparent JP, the UE processes the PDSCH rate-matching according to Cell_DLassignment since the UE has no knowledge of CRS placement(s) of Cell_PDSCH. The UE includes CRS for the PDSCH rate-matching when the CRS placement of Cell_DLassignment is different from that of Cell_PDSCH.
This issue above can also be described with DCS. Figure 1 shows an example of DCS. Figure 2 illustrates the PDSCH rate-matching of the UE and Cell B. The Cell B transmits the PDSCH except CRS REs of Cell B, but the UE assumes the PDSCH is transmitted except CRS REs of Cell A.
Decoding performance of PDSCH will be degraded severely because the CRS REs are regarded as the PDSCH RE. Note that it is impossible for UE to cancel or suppress the CRS without the information of Cell_PDSCH. This issue may happen frequently since CRS frequency shifts would be different between neighboring cells in order to mitigate CRS-to-CRS interference. Note that CRS cancellation is not a mandatory requirement for the UE receiver of Rel-8.
This issue can be avoided when the CRS placement of Cell_PDSCH is the same as that of Cell_DLassignment or is the subset of CRS placement of Cell_DLassignment. This solution, however, may restrict application scenarios of the JP.」(第3ページ第4行?第20行)
(当審訳:「CRS配置
CRS配置は、CRS構成に依存する。JPでは、セルは、Cell_PDSCHに従ってPDSCHレートマッチングを処理する。透過的なJPでは、UEは、Cell_PDSCHのCRS構成に関する知識を持たないので、Cell_DLassignmentに従ってPDSCHレートマッチングを処理する。UEは、Cell_DLassignmentのCRS配置がCell_PDSCHのそれと異なるときには、該PDSCHレートマッチングのためのCRSを取り込む。
上記問題は、DCSでも説明される。図1は、DCSの例を示す。図2は、UE及びセルBのPDSCHレートマッチングを図示したものである。セルBは、セルBのCRS REを除いてPDSCHを送信するが、UEは、PDSCHはセルAのCRS REを除いて送信されるとみなす。
CRS REがPDSCH REとして扱われるため、PDSCHの解読能力は大幅に低下する。UEにとって、Cell_PDSCHの情報なくしてCRSをキャンセル又は抑圧することはできないことに留意すべきである。CRS間の干渉を緩和するためにCRS周波数シフトが近隣セル間で異なるので、この問題がしばしば生じる。CRSキャンセルは、リリース8のUEレシーバーにとって必須条件ではないことに留意すべきである。
Cell_PDSCHのCRS配置がCell_DLassignmentのCRS配置と同じ、又はCell_DLassignmentのCRS配置の部分集合である場合、この問題は避けることが出来る。しかしながら、この解決策は、JPの適用シナリオを制限する。」)

(カ)「PDSCH starting position
The problem of PDCCH region size can be handled by signaling the PDSCH starting position. There are several ways to signal the starting OFDM symbol for the PDSCH as follows:」(第3ページ第27行?第29行)
(当審訳:「PDSCH開始位置
PDCCH領域サイズの問題は、PDSCH開始位置をシグナリングすることによって対応することができる。PDSCHの開始OFDMシンボルをシグナルするためのいくつかの方法は、次のとおりである。」)

(キ)「CRS placement
The issue of CRS placement can be handled by signaling the CRS configurations of Cell_PDSCH. The cell(s) of Cell_PDSCH would be varied dynamically, but the CRS configurations would be rather static. Thus it would be proper to use DL assignment for the information of Cell_PDSCH and RRC signaling for the CRS configurations of CoMP cooperating set. Based on the discussion above, we propose the following:
Proposal 2: Utilize DL assignment for the information of Cell_PDSCH and RRC signaling for the CRS configurations of CoMP cooperating set.」(第3ページ第41行?最終行)
(当審訳:「CRS配置
CRS配置の問題は、Cell_PDSCHのCRS配置をシグナリングすることによって対応することができる。Cell_PDSCHのセルは、動的に変化するが、CRS構成は、むしろ静的である。それ故、Cell_PDSCHの情報のためにダウンリンクアサインメントを使用し、CoMP協調セットのCRS構成のためにRRCシグナリングを使用することが適切である。上記議論に基づいて、我々は、以下を提案する。:
提案2:ダウンリンクアサインメントをCell_PDSCHの情報のために使用し、RRCシグナリングをCoMP協調セットのCRS構成のために使用する。」)

(ク)以下の図面が記載されている。

Figure 1:An example of DCS
(当審訳:図1:DCSの例)

Figure 2:PDCCH regions and CRS placements of Cell A and Cell B
(当審訳:図2:セルA及びセルBのPDCCH領域及びCRS配置)

イ そうすると、引用例に記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、
(ア)「Cell_DLassignmentのPDCCH領域サイズがCell_PDSCHのPDCCH領域サイズの最大値より小さい場合、UEは、PDSCHレートマッチングのために1つ又は2つのPDCCHシンボルを取り込むというPDCCH領域サイズの問題」、
(イ)「CRS配置は、CRS構成に依存し、JPでは、セルは、Cell_PDSCHに従ってPDSCHレートマッチングを処理し、透過的なJPでは、UEは、Cell_PDSCHのCRS構成に関する知識を持たないので、Cell_DLassignmentに従ってPDSCHレートマッチングを処理し、UEは、Cell_DLassignmentのCRS配置がCell_PDSCHのそれと異なるときには、該PDSCHレートマッチングのためのCRSを取り込む、というCRS配置の問題」であって、DCSにおいては、
「CRS間の干渉を緩和するためにCRS周波数シフトが近隣セル間で異なるので、セルBは、セルBのCRS REを除いてPDSCHを送信するが、UEは、PDSCHはセルAのCRS REを除いて送信されるとみなし、CRS REがPDSCH REとして扱われるため、PDSCHの解読能力は大幅に低下し、UEにとって、Cell_PDSCHの情報なくしてCRSをキャンセル又は抑圧することはできないというCRS配置の問題」、
を解決するための、以下のとおりのものと認める。

「リリース11におけるCoMP支援のCoMPシナリオ1、2及び3において、各送信ポイントは、セルに対応し、各セルは、異なるPDCCH領域サイズ及びCRS構成を有してもよく、CRS構成は、CRSアンテナポートの数及び物理的なセルIDに依存するCRS周波数シフトを意味し、
ジョイントプロセシング(JP)では、PDSCHは、1又は複数のセルから送信されてよく、ダウンリンクアサインメントを送信するセル(Cell_DLassignment)は、PDSCHを送信してもしなくてもよく、PDSCH送信は、PDCCH領域のサイズ及びPDSCHを送信するセルのCRS構成に依存し、
動的セル選択(DCS)において、PDCCHを送信するセルは、PDSCHを送信するセル(Cell_PDSCH)とは異なっており、
PDCCH領域サイズの問題は、PDSCH開始位置をシグナリングすることによって対応することができ、
CRS配置の問題は、Cell_PDSCHのCRS配置をシグナリングすることによって対応することができ、
Cell_PDSCHのセルは、動的に変化するが、CRS構成は、むしろ静的である故、Cell_PDSCHの情報のためにダウンリンクアサインメントを使用し、CoMP協調セットのCRS構成のためにRRCシグナリングを使用する、
ダウンリンクCoMPのためのダウンリンク制御シグナリングを受信するUE」

(2)対比(一致点及び相違点)
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、CoMPで用いられるユーザ側の装置に関するものであって、「ジョイントプロセシング(JP)では、PDSCHは、1又は複数のセルから送信されてよ」いのであるから、引用発明の「UE」が、「複数のワイヤレス送信を受信する」ものであることは明らかである。
してみると、引用発明の「UE」は、本件補正発明にいう「複数のワイヤレス送信を受信することを容易にするためにユーザ機器(UE)によって用いられるための装置」に対応するものといえる。
また、引用発明は、3GPPの「リリース11」を想定したものであって、「各送信ポイントは、セルに対応」するから、引用発明の「セル」は、本件補正発明にいう「発展型ノードB(eNB)」に相当する。
そして、引用発明の「CoMP協調セット」は、上記UEに対してCoMP支援を行う複数のセルのセットであるから、本件明細書の「少なくとも最初は、eNB104は、UE108との確立されたワイヤレス接続を有することができ、CoMP測定セット内のサービス提供ノードとして動作し得る。ネットワーク100の1または複数の追加のeNB、たとえば、eNB112および116もまた、CoMP測定セット内に含まれ得る。eNB112および116は、eNB104との協調によってUE108とのワイヤレス通信を容易にするように構成され得る。1または複数の追加のeNBは、まとめて「協調ノード」と呼ばれ得る。eNBは、協調ノードの役割とサービス提供ノードの役割との間を遷移し得る。」(段落13。なお、下線は当審において付したものである。)の記載からみて、本件補正発明にいう「複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セット」に相当するといえる。

(イ)引用発明において、各セルは「異なるCRS構成を有してもよく」、かつ、引用発明の「CRS構成」は、「CRSアンテナポートの数及び物理的なセルIDに依存するCRS周波数シフトを意味する」。
そして、引用発明は、上記CRS配置の問題(上記(1)イ(イ))を解決するために、「静的」である「CRS構成」は予め「RRCシグナリングを使用して」受信し、「動的に変化する」PDSCHを送信するセルに関する情報(「Cell_PDSCHの情報」)は、「ダウンリンクアサインメントを使用」して受信し、予め受信した各セルの「CRS構成」の中から、「Cell_PDSCHの情報」に基づいて、PDSCHを送信するセルのCRS構成を特定するものといえる。
そうすると、予め受信する「CRS構成」は、セル毎に異なる「CRSアンテナポートの数」及び「CRS周波数シフト」が、それぞれどのセルのものかが特定できる形で受信されるものと推認することができ、該予め受信する「CRS構成」が、送信ポイントを特定するための「インデックス」を含むかどうかは別として、何らかの「送信ポイントを特定するための情報」を含んでいるということができる。
してみると、引用発明の「CRS構成」は、本件補正発明にいう「複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セットの複数の個々の発展型ノードB(eNB)のそれぞれに関連づけられた複数の共通基準信号パラメータ(複数のCRSパラメータ)」であって、「前記複数の個々の発展型ノードB(eNB)のCRSアンテナポートの数、CRS周波数シフト及び送信ポイントを特定するための情報を含」む点で、本件補正発明と一致する。
そして、引用発明は、「CoMP協調セットのCRS構成のためにRRCシグナリングを使用する」のであるから、本件補正発明にいう「無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信」する機能を備えているといえる。

(ウ)引用発明においては、「PDCCHを送信するセルは、PDSCHを送信するセル(Cell_PDSCH)とは異なっており」、引用発明の「UE」は、動的に変化するCell_PDSCHを特定するために、「ダウンリンクアサインメントを使用」して「Cell_PDSCHの情報」を受信していることから、上記「ダウンリンクアサインメント」は、上記「PDCCHを送信するセル」から送信されたものと解するのが自然である。
また、上記「ダウンリンクアサインメント」は、「UE」が「PDCCHを送信するセル」から受信する制御情報の一種であるから、引用発明の「ダウンリンクアサインメント」と本件補正発明の「下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)」とは、いずれも「下りリンク制御情報」である点で一致する。
そうすると、引用発明の「PDSCHを送信するセル(Cell_PDSCH)」は、本件補正発明にいう「協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNB」に相当し、引用発明の「PDCCHを送信するセル」及び「ダウンリンクアサインメントを送信するセル(Cell_DLassignment)」は、本件補正発明にいう「第2のeNB」に対応するといえるので、引用発明は、本件補正発明にいう「協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントを特定するための情報を含む下りリンク制御情報を受信する」機能を有するものといえ、引用発明の「下りリンク制御情報」は、「第2のeNBから受信」されるといえる。

(エ)上記(イ)のとおり、引用発明は、予め受信した各セルの「CRS構成」の中から、「Cell_PDSCHの情報」に基づいて、「PDSCHを送信するセル」のCRS構成を特定することでCRS配置の問題を解決するものであるから、引用発明が、「PDSCHを送信するセル」に対応する「送信ポイントを特定するための情報」を含む予め受信した各セルの「CRS構成」に基づいてCRS配置を特定する機能を有していることは当業者に自明の事項といえる。
そして、図2のとおり、PDSCHは、別途シグナリングされるPDSCH開始位置以降のCRSを除く領域に配置されるものであるから、引用発明においても、PDSCHの配置を示す「物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターン」を生成しているといえ、引用発明は、「前記第1のeNBの前記送信ポイントを特定するための情報を含む前記複数の共通基準信号(CRS)パラメータに基づいて物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターンを生成する」マッピング機能を備えているといえる。

イ したがって、両者は、
「複数のワイヤレス送信を受信することを容易にするためにユーザ機器(UE)によって用いられるための装置であって、前記装置は、
複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セットの複数の個々の発展型ノードB(eNB)のそれぞれに関連づけられた複数の共通基準信号パラメータ(複数のCRSパラメータ)を無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信する機能と、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントを特定するための情報を含む下りリンク制御情報を受信する機能と、
前記第1のeNBの前記送信ポイントを特定するための情報を含む前記複数の共通基準信号(CRS)パラメータに基づいて物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターンを生成する、マッピング機能と、
を備え、
前記複数のCRSパラメータは、前記複数の個々の発展型ノードB(eNB)のCRSアンテナポートの数、CRS周波数シフト及び送信ポイントを特定するための情報を含み、
前記下りリンク制御情報は、前記第1又は第2のeNBから受信される、装置」
である点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1] 予めRRCシグナリングを介して受信する複数のCRSパラメータに含まれる「送信ポイントを特定するための情報」であって、下りリンク制御情報において「送信ポイントを特定するための情報」が、本件補正発明では「送信ポイントインデックス」であるのに対し、引用発明では、「送信ポイントインデックス」かどうか定かではない点。

[相違点2] 下りリンク制御情報が、本件補正発明では「下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)」であるのに対し、引用発明では、「ダウンリンクアサインメント」である点。

[相違点3] 本件補正発明では、無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信する機能と下りリンク制御情報を受信する機能とを実行する「通信モジュール」、及び、「前記通信モジュールに結合され、」マッピング機能を実行する「マッピングモジュール」を備えるのに対し、引用発明では、これらの機能を実行する部分が「通信モジュール」及び「前記通信モジュールに結合され」た「マッピングモジュール」であるかどうか定かではない点。

[相違点4] 複数のCRSパラメータが、本件補正発明では、「協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第2のeNBから受信され」るのに対し、引用発明では、どこから受信されるか定かではない点。

(3)判断
ア 上記各相違点につき判断する。
[相違点1]
UEと通信を行うことが想定されている複数のeNBに予め少ないビット数からなるインデックスを付与し、以後のUEとeNBとの通信では該インデックスを用いてeNBを特定することは、当該技術分野における周知技術(例えば、国際公開第2011/046334号(査定時の引用文献3。特に、段落41及び段落55参照。対応する特表2013-507821号公報の段落32及び段落46参照。)又は特開2010-258612号公報(特に、段落15-17、段落120、段落124-127参照。))である。
引用発明において、予めRRCシグナリングを介して受信するCRS構成に、各eNBに対応する少ないビット数の「送信ポイントインデックス」を含めておき、後の下りリンク制御信号で、PDSCHを送信するセルに対応する「送信ポイントインデックス」を受信して送信ポイントを特定することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易に想到し得ることである。
また、これによる効果も引用発明及び周知技術から予測できる範囲のものである。

[相違点2]
下りリンク制御情報を「下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)」として受信することは、当該技術分野の周知技術(例えば、上記国際公開第2011/046334号(査定時の引用文献3。特に、段落2、段落41及び段落55参照。対応する特表2013-507821号公報の段落2、段落32及び段落46参照。)、国際公開第2008/156064号(特に、段落8-9参照。)又は国際公開2011/135964号(特に、段落17参照。))であり、相違点2に係る構成とすることに格別の困難性はない。
また、これによる効果も引用発明及び周知技術から予測できる範囲のものである。

[相違点3]
RRCシグナリング及び下りリンク制御信号を、携帯端末の受信部で受信することは、例示するまでもなく周知技術であり、引用発明において、これらの信号を受信する受信部を「通信モジュール」とすることも、当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
また、マッピング機能は、予めRRCシグナリングを介して受信したCRS構成と、下りリンク制御信号に含まれるダウンリンクアサインメントとを用いて実行される機能であるところ、該マッピング機能を実行する部分をモジュール化して「マッピングモジュール」とし、「前記通信モジュールに結合」することも、当業者が適宜なし得ることである。
これらによる効果も引用発明及び周知技術から予測できる範囲のものである。

[相違点4]
引用発明は、CoMP協調セットにおいて、PDCCHを送信するセル(サービングセル)とPDSCHを送信するセルとが異なる場合に生じるCRS配置の問題を解決するために、静的なCRS構成は予めRRCシグナリングを介して受信するように構成したものであるところ、CoMP協調セットのサービングセルがRRCシグナリングによるCRS構成の送信とPDCCHの送信とを行い、他のセルがPDSCHの送信を行うように構成することは、引用発明に触れた当業者が容易に想到し得るCoMP協調の態様であるといえ、相違点4に係る構成とすることに格別の困難性はない。
また、これによる効果も引用発明及び周知技術から予測できる範囲のものである。

イ 以上判断したとおり、本件補正発明における上記相違点1から4までに係る構成はいずれも当業者が容易に想到し得たものであり、また、各相違点を総合しても本件補正発明は当業者が想到することが困難なものとはいえない。
そして、本件補正発明の作用効果も、上記引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

よって、本件補正発明は、上記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

上記(1)?(3)のとおりであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

したがって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年2月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から24までに係る発明は、平成27年6月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から24までに記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
複数のワイヤレス送信を受信することを容易にするためにユーザ機器(UE)によって用いられるための装置であって、前記装置は、
複数の発展型ノードB(eNB)を含む協調マルチポイント(CoMP)測定セットの複数の個々の発展型ノードB(eNB)のそれぞれに関連づけられた複数の送信ポイントインデックスをそれぞれ含む複数の共通基準信号(CRS)パラメータを受信し、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントインデックスを受信する
通信モジュールと、
前記通信モジュールに結合され、前記第1のeNBの前記送信ポイントインデックスを含む前記複数の共通基準信号(CRS)パラメータに基づいて物理下りリンク共有チャネル(PDSCH)マッピングパターンを生成する、マッピングモジュールと
を備える、装置。」

2 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、引用例に記載される引用発明は、前記第2[理由]2(1)イに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2(2)及び(3)で検討した本件補正発明から「通信モジュール」についての、
「複数の共通基準信号パラメータ(複数のCRSパラメータ)を無線リソース制御シグナリング(RRCシグナリング)を介して受信し、
前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第1のeNBに対応する送信ポイントインデックスを含む下りリンク制御情報メッセージ(DCIメッセージ)を受信する」、及び、
「前記複数のCRSパラメータは、前記複数の個々の発展型ノードB(eNB)のCRSアンテナポートの数、CRS周波数シフト及び送信ポイントインデックスを含み、
前記複数のCRSパラメータは、前記協調マルチポイント(CoMP)測定セットの第2のeNBから受信され、
前記DCIメッセージは、前記第1又は第2のeNBから受信される」
との限定を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記特定の限定を省いた本願発明も同様の理由により、引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-05 
結審通知日 2016-12-06 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2014-539905(P2014-539905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三浦 みちる  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 山本 章裕
北岡 浩
発明の名称 協調マルチポイントシステムにおける送信ポイントインジケーション  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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