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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1328205
審判番号 不服2016-3654  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-09 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2013-527127「マルチレンジ・レーダシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月8日国際公開、WO2012/030615、平成25年10月17日国内公表、特表2013-539022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)8月25日(パリ条約による優先権主張、2010年(平成22年)9月1日(以下、「優先日」という。)、アメリカ合衆国)を国際出願日とする国際出願であって、平成27年2月6日付けの拒絶理由の通知に対し同年5月11日に意見書及び手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「補正1」という。)が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定(同年11月10日謄本送達)(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して平成28年3月9日に拒絶査定不服審判が請求され同時に手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正」という。)が提出され、同年8月30日に上申書が提出されたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正事項を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「送信器アンテナと、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された第1マイクロ波放射源であって、第1レンジ内に在る物体を検出するように形成された第1マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された、前記第1マイクロ波放射源とは異なる第2マイクロ波放射源であって、前記第1レンジとは異なる第2レンジ内に在る物体を検出するように形成された第2マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように、前記第1および第2マイクロ波放射源を前記送信器アンテナに対して選択的に接続すべく作用可能であるマルチプレクサと、
前記第1および第2マイクロ波放射源からのエコーを受信すべく作用可能である受信器と、
前記受信器からエコーを受信すべく、且つ、検出された物体の箇所を決定するために前記エコーを処理すべく作用可能であるプロセッサであって、当該プロセッサは、前記送信器アンテナの中間レンジもしくはロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するために、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である、前記プロセッサと、を備える、
マルチレンジ・レーダシステム。」

(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線は、補正箇所を示す。)。
「送信器アンテナと、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された第1マイクロ波放射源であって、第1レンジ内に在る物体を検出するように形成された第1マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された、前記第1マイクロ波放射源とは異なる第2マイクロ波放射源であって、前記第1レンジとは異なる第2レンジ内に在る物体を検出するように形成された第2マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように、前記第1および第2マイクロ波放射源を前記送信器アンテナに対して選択的に接続すべく作用可能であるマルチプレクサと、
前記第1および第2マイクロ波放射源からのエコーを受信すべく作用可能である受信器であって、複数の要素を含む前記受信器と、
前記受信器からエコーを受信すべく、且つ、検出された物体の箇所を決定するために前記エコーを処理すべく作用可能であるプロセッサであって、当該プロセッサは、前記送信器アンテナの中間レンジもしくはロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するために、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である、前記プロセッサと、
位相シフト器と、を備え、
前記第1のマイクロ波放射源がロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するように制御され、且つ、前記複数の要素が、それぞれが予め決定された数の要素を含む複数のグループに分割された場合、前記プロセッサは、前記位相シフト器を起動して、それぞれのグループに対して、一グループ中の前記予め決定された数の要素が等しい位相シフトに設定されるように、更に作用可能である、
マルチレンジ・レーダシステム。」

2 補正の目的
本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について、「受信器」が「複数の要素を含む」点、「位相シフト器」「を備え」る点、及び、「前記第1のマイクロ波放射源がロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するように制御され、且つ、前記複数の要素が、それぞれが予め決定された数の要素を含む複数のグループに分割された場合、前記プロセッサは、前記位相シフト器を起動して、それぞれのグループに対して、一グループ中の前記予め決定された数の要素が等しい位相シフトに設定されるように、更に作用可能である」点をそれぞれ限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正による補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用例
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-249399号公報(平成20年10月16日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審で付与した。以下同じ。)。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を用いた車載用レーダ装置の技術分野に関するもので、特に複数の周波数帯域モードを用いた複合モードレーダ装置の技術分野に関するものである。」

b 「【0028】
これに対し、本発明の複合モードレーダ装置では、22GHz以上29GHz以下の高周波帯域において、狭帯域信号と広帯域信号とがそれぞれ重ならないように帯域を設定している。一例として、図2(a)では、狭帯域レーダの中心周波数である第1周波数を例えば24.125GHzとし、広帯域レーダの中心周波数である第2周波数を例えば26.5GHzとしている。また、狭帯域信号の帯域幅を200MHz以下とする一方、広帯域信号をUWB信号とし、その帯域幅を少なくとも450MHz以上としている。」

c 「【0030】
本発明の第1の実施の形態に係る複合モードレーダ装置の基本構成を、図1に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の複合モードレーダ装置100は、狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とが同じ筐体内に設けられており、演算部101からの制御で両者が協調して動作するように構成されている。また、狭帯域レーダ部102及び広帯域レーダ部103で測定されたデータはともに演算部101に入力され、両者から入力した検知データをもとに演算部101で測角を高精度に行えるようにしている。
【0031】
狭帯域信号及び広帯域信号を送受信するためのアンテナとして、本実施形態では狭帯域送信アンテナ151、広帯域送信アンテナ152、及び左右に位置を離して設置された共用受信アンテナ153a、153bを備えている。モノパルス方式を用いて角度検出を行うために、共用受信アンテナ153a、153bを左右に2つ設け、これにより2方向の反射波を受信するように構成している。
【0032】
狭帯域レーダ部102は、第1の周波数を中心周波数とする狭帯域信号を角度測定に用いており、この狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部110と、共用受信アンテナ153a、153bから受信信号を入力して検知データを取得する狭帯域受信処理部130とを備えている。また、広帯域レーダ103は、第2の周波数を中心周波数とする広帯域信号を角度測定に用いており、この狭帯域信号を生成する広帯域信号発生部120と、共用受信アンテナ153a、153bから受信信号を入力して検知データを取得する広帯域受信処理部140とを備えている。
【0033】
狭帯域信号発生部110には狭帯域波源111が備えられており、ここで生成された狭帯域信号が増幅器112で増幅された後、狭帯域送信アンテナ151から送信される。狭帯域波源111として、ここではVCO(Voltage Controlled Oscillator)を用いている。本実施形態では、狭帯域信号としてFMCWを用いることとしており、VCOを用いて周波数変調された連続波を生成している。
【0034】
FMCWを用いたレーダ機能では、周波数を時系列で順次変化させた連続波を用いており、これが遠方の物体で反射されて受信されたときは周波数が高くなり、近傍の物体で反射されたときには周波数が低くなる、といった特性を用いて測定を行っている。FMCWは、図3に示すような三角波状の制御信号を用いて周波数変調を行っている。このような三角波状の制御信号を生成するために、本実施形態では三角波生成器104が設けられている。
【0035】
三角波生成器104は、演算部101から事前に設定された制御値に従って図3に示すような三角波状の制御信号を狭帯域波源111であるVCOに出力している。VCOは、三角波生成器104から入力した制御信号に従って、周波数を三角波状に変調させた高周波電波を生成しており、これを狭帯域波として出力している。三角波状の制御信号を用いた周波数の変調幅(帯域幅)は20MHz程度と小さく、狭帯域信号発生部110で生成される信号は狭帯域な信号となっている。
【0036】
狭帯域波源111で生成され増幅器112で増幅された狭帯域信号は、演算部101からの制御に従って狭帯域送信アンテナ151に出力されるよう、スイッチ113が設けられている。狭帯域信号は連続波であり、これを常時送信し続けることはレーダ機能にとって好ましくない。すなわち、連続波の狭帯域信号が常時出力されていると、回り込みによって一部の狭帯域信号が受信アンテナ153a、153bに直接受信されてしまい、受信回路が飽和して測定不能になってしまう。そこで、スイッチ113を設けることで、演算部101から送信要求があるときのみこれを閉として狭帯域信号を狭帯域送信アンテナ151から送信するようにしている。」

d 「【0045】
本実施形態の複合モードレーダ装置100は、狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とを演算部101からの制御により協調動作させることが可能に構成されており、狭帯域レーダ部102で検出された狭帯域検波データと広帯域レーダ部103で検出された広帯域検波データとを組み合わせて高度な角度測定を行うことが可能となっている。一例として、狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とを図5に示すような基本動作で用いることが可能であり、この基本動作をみ合わせることで狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とを協調させて好適なレーダ機能を実現することができる。
【0046】
上記の基本動作として、図5(a)に示す狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とを適宜切り替えて動作させる切り替え方式と、図5(b)に示す狭帯域レーダ部102と広帯域レーダ部103とを並行して動作させる並用方式の2種類がある。このような基本動作を用いることで、高度な角度検出を行うことが可能となる。
【0047】
すなわち、近距離の物体に対する角度検出では、広帯域レーダ部103を用いて測定すると同時に、遠距離の物体に対する角度検出では、狭帯域レーダ部102を用いて検出するといった、広帯域レーダ部103による角度検出と狭帯域レーダ部102による角度検出とを並行して行うことが可能となる。」

e 「【0049】
本発明の第2の実施の形態に係る複合モードレーダ装置の基本構成を、図6に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の複合モードレーダ装置200では、狭帯域信号発生部110で生成された狭帯域信号と広帯域信号発生部120で生成された広帯域信号とを共用送信アンテナ251で送信するようにしている。
【0050】
第1の実施形態では、狭帯域信号を送信するための狭帯域送信アンテナ151と広帯域信号を送信するための広帯域送信アンテナ152とをそれぞれ独立に設けていたが、本実施形態では、共用受信アンテナ153a、153bに加えて、送信アンテナも共用送信アンテナ251に置き換えており、これによりアンテナ数を減らして複合モードレーダ装置200の小型化を図っている。
【0051】
狭帯域信号の送信と広帯域信号の送信とを1つの共用送信アンテナ251で送信するために、本実施形態の複合モードレーダ装置200では合波器271を備えた構成としており、狭帯域信号発生部110で生成された狭帯域信号と広帯域信号発生部120で生成された広帯域信号とを合波器271で合波して1つの送信信号としている。合波器271で合波された送信信号は、共用送信アンテナ251から送信される。
【0052】
本実施形態の複合モードレーダ装置200でも、狭帯域信号と広帯域信号とは帯域が重ならないよう中心周波数が離されていることから、合波器271で合波されて1つの送信信号として共用送信アンテナ251から送信されても、相互に影響を与えるおそれはない。1つの送信信号として送信され、物体で反射されて共用受信アンテナ153a、153bで受信された受信信号は、第1の実施形態と同様に、LPF131a、131b及びBPF141a、141bでそれぞれの信号のみがろ波されるように構成されている。これ以降の狭帯域受信処理部130及び広帯域受信処理部140における処理も、第1の実施形態と同様である。」

(イ)よって、上記(ア)aないしeの記載並びに図面の図5及び6から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、関連する記載箇所を示す。)。
「複合モードレーダ装置であって、(【0001】)
狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部と、(【0032】、【0051】)
広帯域信号を生成する広帯域信号発生部と、(【0032】、【0051】)
狭帯域信号と広帯域信号とを合波して1つの送信信号とする合波器と、(【0051】)
合波器で合波された送信信号を送信する共用送信アンテナと、(【0051】)
モノパルス方式を用いて角度検出を行うために左右に2つ設けられ、1つの送信信号として送信され物体で反射された反射波を受信する共用受信アンテナと、(【0031】、【0052】)
共用受信アンテナから受信信号を入力して検知データを取得する狭帯域受信処理部及び広帯域受信処理部と、(【0032】、【0052】)
入力した検知データをもとに測角を行う演算部と、を備え、(【0030】)
狭帯域信号と広帯域信号とは、22GHz以上29GHz以下の高周波帯域において、帯域がそれぞれ重ならないように設定され、(【0028】)
狭帯域信号は、FMCWを用いるものであって、演算部で事前に設定された制御値に従って出力される制御信号に従い、周波数を三角波状に変調させた高周波電波として生成されるとともに、演算部からの送信要求があるときのみに閉とされるスイッチを介して送信され、(【0033】、【0035】、【0036】)
狭帯域信号を角度測定に用いる狭帯域レーダ部と、広帯域信号を角度測定に用いる広帯域レーダ部とを、切り替えてあるいは並行して動作させ、近距離の物体に対する角度検出には広帯域レーダ部を用いる一方、遠距離の物体に対する角度検出には狭帯域レーダ部を用いる、(【0032】、【0046】、【0047】)
複合モードレーダ装置。」

イ 周知例2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-218690号公報(平成19年8月30日出願公開。以下、「周知例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【0092】
図21は、フラクタル構造のアンテナを用いたFMCWレーダ装置の構成例を示している。図21のFMCWレーダ装置は、受信アンテナ2101、送信アンテナ2102、デマルチプレクサ(DEMUX)2103、マルチプレクサ(MUX)2104、スイッチ2119、低雑音増幅器2106、2107、高出力増幅器2108、2109、ミキサ2110、2111、分岐部(HYB)2112、2113、2114、周波数逓倍器2115、干渉検出部2116、無線周波数発振器2117、制御部2118、可変遅延器2120、データ生成器2121、およびベースバンド発振器2122を備える。」

b 「【0095】
高出力増幅器2109および分岐部2112、2114は、メインチャネルの送信部を構成し、高出力増幅器2108、分岐部2113、および周波数逓倍器2115は、サブチャネルの送信部を構成する。周波数逓倍器2115は、制御部2118からの制御信号に基づいて、無線周波数発振器2117の出力信号の周波数をN倍にして出力する。マルチプレクサ2104は、メインチャネルとサブチャネルの送信信号を多重化して送信アンテナ2102に出力する。」

(イ)よって、周知例2には、次の技術が記載されている。
「FMCWレーダ装置において、メインチャネルとサブチャネルの送信信号を多重化して送信アンテナに出力するマルチプレクサを備える」技術。

ウ 周知例3
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-95066号公報(平成14年3月29日出願公開。以下、「周知例3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【0002】
【従来の技術】図1は、地理的領域2中にあるワイヤレスユニット12へワイヤレス通信サービスを提供するワイヤレス通信システム1の概略図を示す。移動体交換センタ3は、とりわけ、ワイヤレスユニット間の通話およびワイヤレスユニットとワイヤラインユニット(例えば、ワイヤラインユニット4)との間の通話を確立し、かつ維持する役割を負う。そして、MSC3は、その地理的領域2中のワイヤレスユニットを、公衆交換電話網(PSTN)5と相互接続する。MSC3によりサービスされる地理的エリアは、「セル」と呼ばれる空間的に別個なエリアに分割されている。」

b 「【0004】典型的な基地局は、基地局のための無線資源を管理し、MSC3へ情報を中継する基地局コントローラ(BSC)7を含む。例えば、BSC7は、トラフィックチャネル割当てを容易にするために、アクセスチャネルメッセージからパイロット信号測定値のような無線関連情報を抽出する。基地局は、そのセル中のワイヤレスユニットとのワイヤレス通信リンクを実際に確立するために基地局が使用する基地局トランシーバ(BTS)8a-iおよびアンテナを含む。
【0005】セルラ通信システム中でワイヤレスユニットおよび基地局がどのように通信するかを決定するための多くの異なるスキームが存在する。例えば、ワイヤレスユニットと基地局との間のワイヤレス通信リンクは、符号分割多元接続(CDMA)またはワイドバンド符号分割多元接続(WCDMA)のような異なる無線プロトコルに従って定義されることができ、アンテナを介す送信に先立って、異なるBTSからの順方向リンク上の通信信号が、コンバイナ/マルチプレクサ9により結合され、大電力増幅器により増幅される。」

(イ)よって、周知例3には、次の技術が記載されている。
「ワイヤレスユニットへワイヤレス通信サービスを提供するワイヤレス通信システムにおいて、基地局は、異なる無線プロトコルに従って定義されるワイヤレス通信リンクを確立するための基地局トランシーバ(BTS)およびアンテナを含み、アンテナを介す送信に先立って、異なるBTSからの順方向リンク上の通信信号が、コンバイナ/マルチプレクサにより結合される」技術。

エ 周知例4
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-173895号公報(平成18年6月29日出願公開。以下、「周知例4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用のダイバーシティアンテナ装置に係り、特に、人工衛星から送信される円偏波と地上局から送信される垂直偏波の両方を受信できるようにしたダイバーシティアンテナ装置に関する。」

b 「【0013】
発明の実施の形態を図面を参照して説明すると、図1は本発明の実施形態例に係るダイバーシティアンテナ装置を自動車に取り付けた状態を示す説明図、図2は図1のA部拡大図、図3は図2に示すアンテナ素子の平面図、図4は図1のB部拡大図、図5は図1に示す自動車を上方から見た説明図、図6?図8は本実施形態例に係るシミュレーションに基づく特性図である。
【0014】
これらの図に示すダイバーシティアンテナ装置は、使用周波数が2.3GHz帯のSDARS(Satellite-delivered Digital Audio Radio Service)用に開発された車載用のアンテナ装置である。このダイバーシティアンテナ装置は、自動車30のフロントガラス31側とリアガラス32側にそれぞれ取り付けられたパッチアンテナ構造の一対のアンテナ素子1,2と、両アンテナ素子1,2で受信された信号がダウンコンバータ3,4を介して入力されるマルチプレクサ(信号処理回路)5とを備えた構成になっており、各アンテナ素子1,2は信号ケ-ブル6,7(図5参照)によってダウンコンバータ3,4と接続されている。」

c 「【0019】
マルチプレクサ(信号処理回路)5には、ダウンコンバータ3,4を介して4種類の受信信号が入力される。すなわち、第1のアンテナ素子1が受信した衛星波と地上波の信号がダウンコンバータ3を介して入力されると共に、第2のアンテナ素子2が受信した衛星波と地上波の信号がダウンコンバータ4を介して入力される。マルチプレクサ5は、これら4種類の受信信号のうち感度が良好なものを選択して切り替えたり、複数種類の受信信号を合成するなどして受信信号の最適化処理を行い、IF信号として出力する。
【0020】
そして、図1に示すように、マルチプレクサ5の出力信号は復調器8に入力されて、IF信号からディジタル信号に復調された後、このディジタル信号が復調器8からデコーダ9に出力されてアナログ信号に変換されるようになっている。なお、ダウンコンバータ3,4やマルチプレクサ5、復調器8、デコーダ9等は受信機10を構成している。」

(イ)よって、周知例4には、次の技術が記載されている。
「車載用のダイバーシティアンテナ装置において、一対のアンテナ素子と、両アンテナ素子で受信された信号がダウンコンバータを介して入力されるマルチプレクサとを備え、マルチプレクサは、受信信号のうち感度が良好なものを選択して切り替えたり、受信信号を合成するなどして出力する」技術。

オ 周知例5
(ア)本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、ウェブページ“Frequency Diversity Radar”[online],Radartutorial.eu, 2010年(平成22年)4月11日アーカイブ[平成28年12月1日検索],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20100411054133/http://www.radartutorial.eu/01.basics/rb15.en.html>(以下、「周知例5」という。)には、次の事項が掲載されている(括弧書きは当審訳である。)。
a 「Frequency Diversity Radar(周波数ダイバーシティレーダー)
In order to overcome some of the target size fluctuations many radars use two or more different illumination frequencies.(目標サイズの変動の一部を克服するために、多くのレーダーは2つ以上の異なる照明周波数を使用する。) Frequency diversity typically uses two transmitters operating in tandem to illuminate the target with two separate frequencies like shown in the picture.(周波数ダイバーシティは、典型的には、図に示すように2つの別々の周波数で目標を照明するよう協働する2つの送信機を使用する。)」

b 「

Figure 1: Block diagramm of a frequency-diversity radar(図1:周波数ダイバーシティレーダーのブロック図)」

c 「Transmitter(送信機)
The radar transmitter produces the short duration high-power rf pulses of energy that are radiated into space by the antenna.(レーダ送信機は、アンテナによって空間に放射される短時間で高電力のRFパルスを生成する。)」

d 「Commutator(コミュテータ)
A commutator is actually a time controlled switch.(コミュテータは、実際には時間制御されたスイッチである。) The word comes from Latin and means “collecting bar” or “call handling”.(この単語はラテン語に由来し、「collecting bar」又は「call handling」を意味する。) Either the commutator works passively (all incoming RF pulses on the three input jacks will be conduct to the output jack) or actively (the RF input pulses are switched to the output time controlled by separate gate pulses like shown in the figure.)(コミュテータは、受動的に(3つの入力ジャックに到来する全てのRFパルスを出力ジャックに導く)又は能動的に(入力RFパルスが、図示のように分離されたゲートパルスにより時間制御されて出力へスイッチされる)動作する。)Since very high frequencies must be switched very fast, the commutator uses a wiring technology like the one used by the duplexer.(非常に高い周波数を非常に高速に切り替える必要があるため、コミュテータはデュプレクサのような配線技術を使用する。)」

e 「

Figure 2: Commutator(図2:コミュテータ)」

(イ)よって、周知例5には、次の技術が掲載されている。
「2つの別々の周波数で目標を照明するよう協働する2つの送信機を使用する周波数ダイバーシティレーダーにおいて、コミュテータを備え、コミュテータは、送信機から入力される全てのRFパルスを出力ジャックに導くよう動作するか、又は、送信機から入力されるRFパルスが、分離されたゲートパルスにより時間制御されて出力へスイッチされるよう動作する」技術。

カ 周知例6
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-186233号公報(平成21年8月20日出願公開。以下、「周知例6」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【0019】
レーダー装置10は、例えば車両のフロントグリル部に配設されたミリ波レーダーである。レーダー装置10は、変調信号発生装置11と、VCO(Voltage-Controlled Oscillator)12と、第1アンプ13と、送信用アンテナ14と、第2アンプ15と、アレイアンテナ20と、スイッチ部21と、第3アンプ22と、ミキサー23と、第4アンプ24と、ローパスフィルター25と、A/D変換器26と、DSP(Digital Signal Processor)27と、を備える。
【0020】
変調信号発生装置11が三角波を変調した変調信号を出力すると、VCO12は、三角波の勾配に応じて周波数が増減するように変調された送信用信号を出力する。この送信用信号は第1アンプ13で増幅され、送信用アンテナ14により車両前方に放射される。送信用信号の一部は電力分配器により第2アンプ15で増幅されてミキサー23に出力される。
【0021】
アレイアンテナ20は、複数のアンテナ素子を有する。各アンテナ素子は、スイッチ部21により周期的に第3アンプ22以降の機器に接続される。従って、各アンテナ素子が受信した受信波信号は、順次選択されて第3アンプ22に出力される。第3アンプ22に出力された受信波信号は、第3アンプ22で増幅されてミキサー23に出力される。これにより、受信波信号がダウンコンバートされて、ビート信号が生成される。なお、スイッチ部21を有さず、全てのアンテナ素子の受信波信号に対してミキシング処理を行なってもよい。ビート信号は、第4アンプ24で増幅され、ローパスフィルター25を介してA/D変換機26に入力され、変調信号発生装置11の変調信号(又はVCO12の送信用信号)と同期したタイミングでデジタル信号に変換され、DSP27に出力される。
【0022】
DSP27は、入力されたデジタル信号に対してFM-CWレーダーの原理を適用して情報処理装置30が物体と認識する候補となる物標との距離及び相対速度を算出し、DBF(Digital Beam Forming)によって物標の方位角を算出する。そして、距離及び方位角から物標の横位置を算出し、距離、相対速度、及び横位置を情報処理装置30に出力する。横位置とは、車両中心軸の延長線からの乖離をいう(図2参照)。」

b 「【0028】
次に、DBFについて概説する。図5に示す如く、レーダー装置10の中心方向Xに対して、角度θの方向から到来する電波を間隔dで配列されたアンテナ素子からなるアレーアンテナで受信する場合、素子アンテナ#1に対する電波の伝搬経路長に比して、素子アンテナ#2、#3…に対する伝搬経路長は、dsinθずつ長くなる。したがって、各素子アンテナが受信する電波の位相が、素子アンテナ#1が受信する電波の位相よりも(2πdsinθ)/λずつ遅れることとなる。λは電波の波長である。仮にこの遅れ分を移相器で修正すると、θ方向からの電波が全素子アンテナにおいて同位相で受信されることになり、指向性がθ方向に向けられたことになる。DBFは、こうした原理に基づいて位相、振幅変換を行なって各アンテナ素子の受信波を合成することにより、アンテナの指向性を形成する技術である。これにより、物標の方位角を求めることができる。」

(イ)よって、周知例6には、次の技術が記載されている。
「レーダー装置において、複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、DSP(Digital Signal Processor)とを備え、DSPは、入力されたデジタル信号に対しFM-CWレーダーの原理を適用して物標との距離及び相対速度を算出するとともに、各アンテナ素子の受信波を位相、振幅変換により合成してアンテナの指向性を形成するDBF(Digital Beam Forming)を行い、これによって物標の方位角を算出し、さらに、距離及び方位角から物標の横位置を算出し出力する」技術。

キ 周知例7
(ア)原査定において周知技術を示す文献として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-71792号公報(平成14年3月12日出願公開。以下、「周知例7」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【0010】レーダ装置1は、走行制御装置2からのレーダ計測切り替え信号を受けて、計測状態を切り替えて計測を行う。レーダ計測切り替え信号は、レーダ装置1が備える入力端子(図示しない)で入力を受け付けてもよい。計測状態には、たとえば、距離分解能に関する計測状態(高分解能モードと低分解能モード)、最大探知距離に関する計測状態(長距離モードと近距離モード)、電波の広がる幅(ビーム幅)に関する計測状態(幅広モードと幅が狭いモード)等がある。計測状態の切り替えは、上記の距離分解能に関する計測状態、最大探知距離に関する計測状態、および、電波の広がる幅に関する計測状態のいずれか一つを切り替えてもよいし、二つ以上を切り替えてもよい。この計測状態の変化は、たとえば、変調信号の周波数、変調信号の周期、送信される電波の送信電力、および、送信される電波が広がる幅(ビーム幅)のうちの少なくとも一つを制御することにより行う。さらに、上記制御を行うことにより、電波の出力態様が変化する。また、レーダ装置1は、レーダ計測切り替え信号を受けて、距離の分解能、アンテナビーム幅、送信電力の少なくとも一つを含む計測パラメータを変更する。」

b 「【0042】次に、送信周波数に三角波の変調を施して送信し、前方車両までの距離と速度を計測するFMCW方式を適用し、距離分解能と計測可能距離を変化させる場合の例について、図2、図7?図9を用いて説明する。」

c 「【0050】ここで、cは光速、fmは三角波繰り返し周波数、ΔFは三角波の周波数変移幅である。この式から、計測可能な最大探知距離は、三角波の繰り返し周波数fmと、三角波の周波数変移幅ΔFに反比例することがわかる。したがって、例えば図9(a)に示すように、三角波の周波数変移幅をΔF、繰り返し周波数をfmとした状態Cと、三角波の周波数変移幅をΔF’、繰り返し周波数をfmとした状態Dにおいて、ΔF<ΔF’の関係が成り立つようにする。このとき、状態Cの方が状態Dよりも計測可能距離が長くなる。図9(b)に示す状態は、上記の周波数変移幅が異なる状態とするのに加えて、繰り返し周波数fmも異なるようにする。すなわち、状態D’では、繰り返し周波数をfm’とし、fm>fm’の関係が成り立つようにする。このとき、状態D’は、状態Cおよび状態Dよりも、計測可能距離が短くなることがわかる。」

(イ)よって、周知例7には、次の技術が記載されている。
「最大探知距離に関する計測状態(長距離モードと近距離モード)を切り替えて計測を行う、FMCW方式のレーダ装置において、三角波の周波数変移幅及び繰り返し周波数を異ならせることにより計測可能距離を変化させる」技術。

ク 周知例8
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-19045号公報(平成5年1月26日出願公開。以下、「周知例8」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【0010】
【実施例】以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係るFMレーダーのブロック構成図である。このFMレーダー1は、FM信号発生回路2と、掃引速度切り替え手段3と、電力分配器4と、サーキュレータ5と、送受信兼用のアンテナ6と、混合回路7と、距離検出回路8とからなる。」

b 「【0018】対象物までの距離が一定であれば、掃引速度を早くするほどビート信号の周波数は高くなり、ビート信号の増幅器の周波数帯域を広くする必要がある。また、掃引速度が一定であっても、対象物までの距離が遠くなればビート信号の周波数は高くなる。
【0019】そこで、この実施例では、近距離検出モードの最大検出距離を80メートル、遠距離検出モードの最大検出距離を160メートルとし、掃引速度をそれぞれ200μS,400μSとして、ビート信号の最大ビート周波数を2.132MHzとしている。そして、ビート信号の増幅器等の受信系の周波数帯域を2.132MHzと狭帯域化している。
【0020】以上のように、FM変調送信波の掃引速度を、最大探知距離に応じて遅くする構成としたので、ビート信号の最大ビート周波数を所定の範囲内にすることができる。よって、受信系の周波数帯域を狭帯域化することで、受信系の熱雑音を低減し、所定の送信電力での最大探知距離を増加させることができる。
【0021】なお、この実施例ではFM変調送信信号の変調偏位幅(例えば59.8GHz?60.2GHzまでの400MHz)を一定とし、掃引周期を異ならしめる構成について説明したが、掃引周期は一定で変調偏位幅を例えば200MHzと400MHzとに切り替えるよう構成してもよい。また、切り替え段数を3段以上としてもよい。【0022】この実施例では、近距離用と遠距離用の掃引速度を交互に切り替える構成について示したが、距離検出回路8内に対象物までの距離が予め設定した距離よりも近いことを判定する手段を設け、その判定出力を掃引速度切り替え手段3へ供給し、掃引速度切り替え手段3はその判定出力に基づいて対象物が近距離にある間は近距離用の掃引速度で継続的に掃引し、近距離に対象物がない場合は遠距用の掃引速度での掃引を継続するよう構成してもよい。また、掃引速度の切り替え判断は、検出距離情報8aを掃引速度切り替え手段3へ供給し、掃引速度切り替え手段3内で行なってもよい。」

(イ)よって、周知例8には、次の技術が記載されている。
「FMレーダーにおいて、最大検出距離が80メートルの近距離検出モードと、最大検出距離が160メートルの遠距離検出モードとで、FM変調送信信号の掃引速度(掃引周期)又は変調偏位幅を切り替える」技術。

ケ 周知例9
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-252396号公報(平成17年9月15日出願公開。以下、「周知例9」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、移動体通信システムに用いられるアレーアンテナに関し、特に、垂直面内指向性を制御するアレーアンテナに関する。」

b 「【0004】
そこで、基地局などに使用されるアンテナは、放射素子を垂直に複数個並べてリニアアレー化し、位相や振幅を調整することにより、垂直面内の指向性の最大放射方向を傾けること、つまりチルトさせることで、上記の電波干渉などに対応している。
【0005】
従来、図5に示すように、放射素子14a、14b、14cを一つのサブアレーブロック13a内に直線上に大地に対して垂直に配置し、サブアレーブロック13a、13b、…、13hを直線上に大地に対して垂直に配置したリニアアレーアンテナがある。このリニアアレーアンテナは、サブアレーブロック13a、13b、…、13h毎に移相器11a、11b、…、11h及び振幅制御装置12a、12b、…、12hを備え、サブアレーブロック13a、13b、…、13h毎に、位相及び振幅を調整する(例えば、特許文献1参照)。このように、従来のアレーアンテナでは、移相器の数を減少させるため、サブアレーブロックの外に移相器を配置している。」

(イ)よって、周知例9には、次の技術が記載されている。
「放射素子を複数個並べてなるアレーアンテナにおいて、位相や振幅を調整することによって指向性の最大放射方向を傾けるにあたり、複数の放射素子からなるサブアレーブロック毎に移相器及び振幅制御装置を備え、サブアレーブロック毎に位相及び振幅を調整する」技術。

コ 周知例10
(ア)本願の優先日前に頒布された刊行物である特公昭49-21997号公報(昭和49年6月5日出願公告。以下、「周知例10」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
a 「発明の詳細な説明
本発明は位相走査空中線を使用するレーダ装置に関する。
近年レーダ等において電子走査空中線への要求は年々強くなつてきているが、位相走査方式は最も有望な方式の一つである。
周知のごとく、アレイ空中線の位相走査法は第1図に示すように多数個の電磁波輻射素子11,12,13…1nを直線状(もしくは平面状)にならべ、この輻射素子と給電系30との間に電磁波移相器21,22,23…2nを挿入し、これを位相制御器40によって制御して、輻射素子から輻射される電磁波の位相を制御するものである。空中線のメインビームは電磁波位相面に対して垂直方向に生じるから、移相器の移相量を制御して位相面を変られば空中線のビーム方向に任意に変化させうる。ここで位相制御方法として電子的位相制御方法を採用すれば、機械的走査方法に比べてきわめて高速度にビーム走査が可能となる。従来、電磁波移相器として移相器の制御電流等の大きさに対応した位相量を与える。いわゆるアナログ型移相器が使用されてきたが、このようなアナログ型移相器では常に高い精度で安定した移相量を与えることが困難である。このため最近なデイジタル的に移相量を制御するデイジタル型移相器、たとえばラツチング・フエライト移相器などが注目を集めている。
一般にデイジタル型移相器はN個の移相素子で構成され、2^(N)通りの異なった移相量を与えることができる。たとえば4ビツト(N=4)構成のデイジタル型移相器では、0°,22.5°,45°,……315°,337.5°(22.5°単位)計16通り(2^(4)=16)の移相状態をとりうる。このようなデイジタル移相器群によって位相走査を行なうと、アレイ空中線の各素子による位相面は第2図に示すように、希望する直線状位相面Sに対して鋸歯状波もしくはこれに類似する量子化位相誤差を生じることになる。第2図は従来の、デイジタル型位相器を用いた位相走査空中線における開口面位相分布の一例を示すものである。その横軸は開口面位置、すなわち第1図を例にとれば輻射素子11,12,13…1nの位置H_(1),H_(2),H_(3)…H_(n)であり、これを複数個の群に分け、第1の群にある移相器の移相量を零に、次の第2の群にある移相器の移相量をθ_(1)に、その次をθ_(2)というように移相量が決められているので、希望する直線状位相面Sに対して各開口面位置において破線で示すような量子化位相誤作が生じる。・・・」(第1欄第24行ないし第2欄第33行)

(イ)よって、周知例10には、次の技術が記載されている。
「位相走査空中線を使用するレーダ装置において、アレイ空中線の多数個の電磁波輻射素子と給電系との間に電磁波移相器をそれぞれ挿入し、輻射素子から輻射される電磁波の位相を制御して空中線のビーム方向に任意に変化させるにあたり、輻射素子を複数個の群に分け、第1の群にある移相器の移相量を零に、次の第2の群にある移相器の移相量をθ_(1)に、その次をθ_(2)というように移相量を決める」技術。

(3)対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「共用送信アンテナ」は、本件補正発明の「送信器アンテナ」に相当する。

(イ)引用発明の「狭帯域信号」が、「合波器」で「広帯域信号と」「合波」された上で「共用送信アンテナ」から「送信」されることから、引用発明の「狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部」は、「共用送信アンテナ」に対して作用可能に接続されたものといえる。また、引用発明の「狭帯域信号を角度測定に用いる狭帯域レーダ部」が、「遠距離の物体に対する角度検出に」「用い」られることから、引用発明の「狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部」は、「遠距離の物体」を検出するように形成されたものともいえる。そして、引用発明の「遠距離の物体」は、本件補正発明の「第1レンジ内に在る物体」に相当し、引用発明の「狭帯域信号」は、「22GHz以上29GHz以下の高周波帯域」の信号であって、マイクロ波の帯域に属する信号であるから、引用発明の「狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部」は、本件補正発明の「前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された第1マイクロ波放射源であって、第1レンジ内に在る物体を検出するように形成された第1マイクロ波放射源」に相当する。

(ウ)引用発明の「広帯域信号」が、「合波器」で「狭帯域信号と」「合波」された上で「共用送信アンテナ」から「送信」されることから、引用発明の「広帯域信号を生成する広帯域信号発生部」は、「共用送信アンテナ」に対して作用可能に接続されたものといえる。また、引用発明の「広帯域信号を角度測定に用いる広帯域レーダ部」が、「近距離の物体に対する角度検出に」「用い」られることから、引用発明の「広帯域信号を生成する広帯域信号発生部」は、「近距離の物体」を検出するように形成されたものともいえる。そして、引用発明の「近距離の物体」は、本件補正発明の「前記第1レンジとは異なる第2レンジ内に在る物体」に相当し、引用発明の「広帯域信号」は、「狭帯域信号と」「帯域が重ならないように設定され」た「22GHz以上29GHz以下の高周波帯域」の信号であって、マイクロ波の帯域に属する信号であるから、引用発明の「広帯域信号を生成する広帯域信号発生部」は、本件補正発明の「前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された、前記第1マイクロ波放射源とは異なる第2マイクロ波放射源であって、前記第1レンジとは異なる第2レンジ内に在る物体を検出するように形成された第2マイクロ波放射源」に相当する。

(エ)引用発明の「合波器」は、「演算部からの送信要求があるときのみに閉とされるスイッチを介して送信され」る「狭帯域信号」と、「広帯域信号とを合波して1つの送信信号と」した上で、「合波された送信信号を」「共用送信アンテナ」に出力するものであるから、引用発明における「スイッチ」と「合波器」とからなる構成は、「共用送信アンテナ」に対して、「狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部」及び「広帯域信号を生成する広帯域信号発生部」を接続すべく作用可能な手段であるといえる。また、引用発明は、「狭帯域信号を角度測定に用いる狭帯域レーダ部と、広帯域信号を角度測定に用いる広帯域レーダ部とを、切り替えてあるいは並行して動作させ」るものであるから、引用発明における「スイッチ」と「合波器」とからなる構成は、「狭帯域信号と広帯域信号とを」独立的にあるいは同時に「共用送信アンテナ」に出力する手段であるともいえる。したがって、引用発明における、「演算部からの送信要求があるときのみに閉とされ」て「狭帯域信号」を「送信」する「スイッチ」と、「狭帯域信号と広帯域信号とを合波して1つの送信信号とする合波器」と、からなる構成と、本件補正発明における、「前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように、前記第1および第2マイクロ波放射源を前記送信器アンテナに対して選択的に接続すべく作用可能であるマルチプレクサ」とは、「前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように、前記第1および第2マイクロ波放射源を接続すべく作用可能な手段」である点で共通する。

(オ)引用発明の「1つの送信信号として送信され物体で反射された反射波」は、本件補正発明の「前記第1および第2マイクロ波放射源からのエコー」に相当するから、引用発明の「モノパルス方式を用いて角度検出を行うために左右に2つ設けられ、1つの送信信号として送信され物体で反射された反射波を受信する共用受信アンテナ」は、本件補正発明の「前記第1および第2マイクロ波放射源からのエコーを受信すべく作用可能である受信器であって、複数の要素を含む前記受信器」に相当する。

(カ)引用発明において、「狭帯域信号は、FMCWを用いるものであって、演算部から事前に設定された制御値に従って出力される制御信号に従って、狭帯域信号発生部で生成され」ることから、引用発明の「演算部」は、「狭帯域信号発生部」を制御するように作用可能な手段であるといえる。したがって、引用発明における、「共用受信アンテナから受信信号を入力して検知データを取得する狭帯域受信処理部及び広帯域受信処理部」と、「入力した検知データをもとに測角を行う演算部」と、からなる構成と、本件補正発明における、「前記受信器からエコーを受信すべく、且つ、検出された物体の箇所を決定するために前記エコーを処理すべく作用可能であるプロセッサであって、当該プロセッサは、前記送信器アンテナの中間レンジもしくはロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するために、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である、前記プロセッサ」とは、「前記受信器からエコーを受信すべく、且つ、検出された物体の空間情報を決定するために前記エコーを処理すべく作用可能な処理手段であって、当該処理手段は、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である、前記処理手段」である点で共通する。

(キ)引用発明の「複合モードレーダ装置」は、「近距離の物体に対する角度検出には広帯域レーダ部を用いる一方、遠距離の物体に対する角度検出には狭帯域レーダ部を用いる」ものであるから、次の相違点は除いて、本件補正発明の「マルチレンジ・レーダシステム」に相当する。

イ 上記ア(ア)ないし(キ)から、本件補正発明と引用発明とは、
「送信器アンテナと、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された第1マイクロ波放射源であって、第1レンジ内に在る物体を検出するように形成された第1マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナに対して作用可能に接続された、前記第1マイクロ波放射源とは異なる第2マイクロ波放射源であって、前記第1レンジとは異なる第2レンジ内に在る物体を検出するように形成された第2マイクロ波放射源と、
前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように、前記第1および第2マイクロ波放射源を前記送信器アンテナに対して接続すべく作用可能な手段と、
前記第1および第2マイクロ波放射源からのエコーを受信すべく作用可能である受信器であって、複数の要素を含む前記受信器と、
前記受信器からエコーを受信すべく、且つ、検出された物体の空間情報を決定するために前記エコーを処理すべく作用可能な処理手段であって、当該処理手段は、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である、前記処理手段と、を備える、
マルチレンジ・レーダシステム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明では、「前記第1および第2マイクロ波放射源を前記送信器アンテナに対して選択的に接続すべく作用可能であるマルチプレクサ」によって、「前記送信器アンテナを通して前記第1および第2マイクロ波放射源を独立的に、あるいは、同時に送信するように」しているのに対し、
引用発明では、「演算部からの送信要求があるときのみに閉とされ」て「狭帯域信号」を「送信」する「スイッチ」と、「狭帯域信号と広帯域信号とを合波して1つの送信信号とする合波器」とによって、「狭帯域信号と広帯域信号とを」独立的にあるいは同時に「共用送信アンテナ」に出力している点。

(相違点2)
本件補正発明の「プロセッサ」では、「検出された物体の箇所を決定する」のに対し、
引用発明の「演算部」では、測角を行うものの、「検出された物体の箇所を決定する」点については、特定がない点。

(相違点3)
本件補正発明の「プロセッサ」では、「前記送信器アンテナの中間レンジもしくはロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するために、前記第1マイクロ波放射源を制御するように作用可能である」のに対し、
引用発明の「演算部」では、「狭帯域信号発生部」を制御するように作用可能であるものの、「前記送信器アンテナの中間レンジもしくはロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するため」の制御については、特定がない点。

(相違点4)
本件補正発明では、「位相シフト器」「を備え」るとともに、「前記第1のマイクロ波放射源がロングレンジの距離内にある物体を検出するように作用可能な所望波形を生成するように制御され、且つ、前記複数の要素が、それぞれが予め決定された数の要素を含む複数のグループに分割された場合、前記プロセッサは、前記位相シフト器を起動して、それぞれのグループに対して、一グループ中の前記予め決定された数の要素が等しい位相シフトに設定されるように、更に作用可能である」のに対し、
引用発明では、「モノパルス方式を用いて角度検出を行う」ものであり、そのような構成とはされていない点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
引用発明における「スイッチ」と「合波器」とからなる構成は、「狭帯域信号と広帯域信号とを」多重化して「1つの送信信号と」した上で、「共用送信アンテナ」に出力するものであるから、当該「スイッチ」と「合波器」とからなる構成は、多重化器すなわちマルチプレクサとしての機能を有するものということができる。
そして、一般に、複数の入力に対し選択的に接続することが可能なマルチプレクサ(多重化器)を用い、当該複数の入力からの信号を、独立的にあるいは同時に出力させることは、周知の技術である(例えば、周知例2(上記(2)イ(イ))、周知例3(上記(2)ウ(イ))、周知例4(上記(2)エ(イ))、周知例5(上記(2)オ(イ))を参照。)から、引用発明においても、「狭帯域信号と広帯域信号とを」独立的にあるいは同時に「共用送信アンテナ」に出力する手段として、「スイッチ」と「合波器」とからなる構成に代えて、「狭帯域信号を生成する狭帯域信号発生部」及び「広帯域信号を生成する広帯域信号発生部」を選択的に接続可能なマルチプレクサを採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
レーダ装置において、プロセッサを用い、物体の角度測定のほか距離測定等も行って、検出された物体の位置(箇所)を決定することは、一般に広く行われていることである(例えば、周知例6(上記(2)カ(イ))を参照。)から、引用発明においても、「演算部」としてプロセッサを採用するとともに、該プロセッサにより検出された物体の箇所を決定するようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)相違点3について
一般に、FMCW方式のレーダ装置において、計測対象とする距離範囲を複数に分け、それぞれの距離範囲内において物体を検出するために適した波形を生成することは、周知の技術である(例えば、周知例7(上記(2)キ(イ))、周知例8(上記(2)ク(イ))を参照。)から、引用発明においても、「FMCW」の「狭帯域信号」が用いられる「遠距離の物体に対する」距離範囲について、それを更に複数の距離範囲(中間レンジ及びロングレンジ)に分け、それぞれの距離範囲内において物体を検出するために適した波形を生成するよう制御することは、当業者が適宜なし得たことである。

(エ)相違点4について
FMCW方式のレーダ装置において、アレイアンテナを用い、ビームフォーミングによって物標の方位角を算出することは、一般に広く行われていることであり(例えば、周知例6(上記(2)カ(イ))を参照。)、また、一般に、アレイアンテナによるビームフォーミングの具体的手法として、複数のアンテナ素子をグループ分けし、各グループに属する素子に対し移相器により等しい位相シフトを設定することも、周知の技術である(例えば、周知例9(上記(2)ケ(イ))、周知例10(上記(2)コ(イ))を参照。)。してみると、引用発明において、「FMCW」の「狭帯域信号」を用いた「遠距離の物体に対する角度検出」を、アレイアンテナのビームフォーミングによって行うとともに、該ビームフォーミングの具体的手法として、複数のアンテナ素子からなるグループごとに移相器により同一の位相シフトを設定するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(オ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本願の請求項1ないし16に係る発明は、いずれも、引用例1に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

3 引用例
引用例1及び周知例2ないし8並びにそれらの記載事項は、上記第2[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]2において検討したとおり、本件補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものと認められるところ、本願発明の発明特定事項を全て含みさらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-06 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2013-527127(P2013-527127)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 575- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 関根 洋之
大和田 有軌
発明の名称 マルチレンジ・レーダシステム  
代理人 鶴田 準一  
代理人 南山 知広  
代理人 島田 哲郎  
代理人 青木 篤  

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