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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1328254
審判番号 不服2016-3551  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-08 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 特願2012-538921号「組織修復装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月19日国際公開、WO2011/059995、平成25年3月28日国内公表、特表2013-510659号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成22年11月10日(パリ条約による優先権主張 2010年5月13日、米国 2009年11月10日、米国 2009年12月29日、米国 2009年11月10日、米国 2010年3月10日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年7月17日付けで拒絶理由が通知され、平成26年10月8日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成27年3月26日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたところ、平成27年11月20日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成28年3月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

第2 平成28年3月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年3月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成28年3月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成27年6月17日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。

(1)補正前
「空洞部、および前記空洞部への開口部を画定するアンカーと、
前記アンカー空洞部内に配置されるように構成された頭部のない挿入部材であり、ねじが切られた近位部分、ねじのない遠位部分、および前記挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有する本体を含む挿入部材と
を備え、
前記アンカーは、また前記アンカーを貫通して延びる横断貫通孔を含み、前記横断貫通孔は、可撓性のある部材を収容するためのものであり、開口部が前記横断貫通孔のそれぞれの端部にさらに配置されるアンカー組立体。」

(2)補正後
「空洞部、および前記空洞部への開口部を画定するアンカーと、
前記アンカー空洞部内に配置されるように構成された頭部のない挿入部材であり、ねじが切られた近位部分、ねじのない遠位部分、および前記挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有する本体を含む挿入部材と
を備え、
前記アンカーは、また前記アンカーを貫通して延びる横断貫通孔を含み、前記横断貫通孔は、可撓性のある部材を収容するためのものであり、開口部が前記横断貫通孔のそれぞれの端部にさらに配置され、
前記アンカー空洞部が、ねじが切られた近位部分、およびねじのない遠位部分を含み、
前記アンカー空洞部の前記ねじが切られた近位部分が前記アンカー空洞部の近位端まで延在する、アンカー組立体。」(以下、「補正発明」という。下線部は補正個所を示し、当審で付加した。)

2 補正の適否の検討
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「アンカー空洞部」について、「前記アンカー空洞部が、ねじが切られた近位部分、およびねじのない遠位部分を含み、前記アンカー空洞部の前記ねじが切られた近位部分が前記アンカー空洞部の近位端まで延在する」との点を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。

そこで、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するかについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2009/055800号(以下、「引用文献1」という。)、本件の優先日前に頒布された刊行物である特表2008-528110号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の発明ないし技術事項が記載されている。

(2-1)引用文献1
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「ANCHOR ASSEMBLY」(アンカーアセンブリ)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、引用文献1に対応する国際出願(PCT/US2008/081342)の日本語公表公報(特表2011-516795号公報)における翻訳文に準じた仮訳である。

(ア)「[0002] This invention relates generally to tissue repair and, more particularly, for an anchor assembly for securing tissue to bone.」([0002]この発明は一般的に、組織修復に関し、より具体的には、骨に組織を固定するためのアンカーアセンブリのための組織修復に関する。)

(イ)「[0015] Referring to the accompanying drawings in which like reference numbers indicate like elements, Figs. 1-3 show the anchor assembly 10 of the present disclosure. The assembly 10 includes the anchor 20 and the insertion member 30. The anchor 20 includes a proximal portion 21, a distal portion 22, and an inner cavity 23. An opening 24 to the cavity 23 is located at the proximal portion 21 of the anchor 20. A transverse through hole 25 is located between the proximal and distal portions 21,22 and extends through the anchor 20.Openings 25a,b are located at each end of the through hole 25. 」([0015]参照番号が同様の構成要素を指し示す添付した図面を参照すると、図1?3は、本開示のアンカーアセンブリ10を示す。アンカーアセンブリ10は、アンカー20と、挿入部材30と、を含む。アンカー20は、近位部分21と、遠位部分22と、内部キャビティー23と、を含む。内部キャビティー23への開口部24は、アンカー20の近位部分21に配置される。横断方向貫通孔25は、近位部分21と遠位部分22との間に配置され、且つアンカー20を通じて延在する。開口部25a、25bは、横断方向貫通孔25の各端部に配置される。)

(ウ)「[0016] ・・・As shown in Fig. 2, the cavity 23 extends into the through hole 25 and includes a proximal portion 23a and a threaded distal portion 23b for receipt of the insertion member 30, as will be further described below.」([0016]・・・図2に示されるように、内部キャビティー23は、横断方向貫通孔25内へ延在し、以下にさらに記載されるように、近位部分23aと、挿入部材30の受容のためのねじ山が切られた遠位部分23bと、を含む。)

(エ)「[0017] The insertion member 30 includes a body 31, having a proximal end portion 31a and a flat distal end portion 31b, and a head 32 coupled to the proximal end portion 31a. The head 32 is configured for engagement with a delivery tool and the body 31 includes threads 31c that are configured for engagement with the threads 23c of the cavity 23 when the insertion member is arranged within the cavity 23, as shown in Fig. 2.」([0017]挿入部材30は、近位端部31a及び平坦な遠位端部31bを有している本体31と、近位端部31aに結合されたヘッド部32と、含む。ヘッド部32は、供給工具との係合のために構成され、本体31は、ねじ部31cを含み、該ねじ部31cは、図2に示されるように、挿入部材が内部キャビティー23内に配置される場合に、内部キャビティー23のねじ部23cと係合するために構成される。)

(オ)「[0019] Next, at least one end 61 of the flexible member 60 is passed through the transverse through hole 25 of a second anchor, such as the anchor 20 of the present disclosure, and the anchor 20 is subsequently placed into a previously drilled hole 51 in the medial aspect of the bone 50, as shown in Fig. 4B, such that the flexible member 60 is housed within the transverse through hole 25 and both slots 29 of the anchor 20 and the ends 61 extend out of the hole 51.・・・
[0020]・・・The insertion member 30 is subsequently placed in the anchor cavity 23 in a rotary manner, via a delivery tool 80, to secure the flexible member 60 in the through hole 25 and the tissue 70 to the bone 50.・・・」

([0019]次いで、フレキシブル部材60の少なくとも1つの端部61は、本開示のアンカー20などの第2のアンカーの横断方向貫通孔25を通じて貫通され、該第2のアンカー20は引き続いて、図4Bに示されるように、骨50の内側側面で以前にドリルで開けられた穴51内に配置され、それによって、フレキシブル部材60は、第2のアンカー20の横断方向貫通孔25及び両方のスロット29内に収容され、その端部61が穴51の外側に延在する。・・・
[0020]・・・挿入部材30は引き続いて、横断方向貫通孔25及び軟部組織70におけるフレキシブル部材60を骨50に固定するために、供給工具80によって回転されて、第2のアンカーの内部キャビティー23内に配置される。・・・)

(カ)「What is Claimed Is:
1. An anchor assembly comprising: an anchor defining a cavity and an opening to the cavity; and an insertion member configured for arrangement within the anchor cavity, the insertion member including a body having a proximal end portion and a flat distal end portion, and a head coupled to the proximal end portion of the body, wherein the anchor includes protrusions located on an outer surface of the anchor, the protrusions configured to facilitate loading of a flexible member into the anchor.
・・・
10. The anchor assembly of claim 5 wherein the insertion member is arranged within the anchor cavity such that the insertion member secures the flexible member in the through hole.
・・・」(特許請求の範囲: 1.キャビティー及び該キャビティーへの開口部を画定しているアンカーと、前記アンカーの前記キャビティー内への配置のために構成された挿入部材であって、近位端部と平坦な遠位端部とを有する本体と、前記本体の前記近位端部に結合されたヘッド部と、を含む挿入部材と、を備えているアンカーアセンブリであって、該アンカーは、該アンカーの外側表面に配置された複数の突出部を含み、該複数の突出部は、該アンカー内へのフレキシブル部材の供給を容易にするように構成されることを特徴とするアンカーアセンブリ。
・・・
10.前記挿入部材は、前記挿入部材が前記横断方向貫通孔内に前記フレキシブル部材を固定するように、前記アンカーの前記キャビティー内に配置されることを特徴とする、請求項5に記載のアンカーアセンブリ。
・・・)

(キ)FIG.1より、本体31とヘッド部32からなる挿入部材30について、その本体31は、その軸方向ほぼ中央部にねじ部31cを有し、その近位端部31a側には、近位端部31aからねじ部31cに至るねじのない部分を、同じくその遠位端部31b側には、ねじ部31cから遠位端部31bに至るねじのない部分を有することが見て取れる。

(ク)FIG.1及び2より、アンカー20の内部キャビティー23は、アンカー20の近位部分21から遠位部分22に向かう方向(以下、「遠位方向」という。)に、ねじが切られていない近位部分23aと、挿入部材30の受容のためのねじ山が切られた遠位部分23bと、前記遠位部分23bから遠位方向に延びるねじのない部分と、を順に有することが見て取れる。

(ケ)FIG.2より、挿入部材30がアンカー20の内部キャビティー23内に配置された状態で、挿入部材30のヘッド部32は、内部キャビティー23の近位部分23aにほぼ覆われている状態であることが見て取れる。

(コ)FIG.4Cより、挿入部材30が、第2のアンカー20内への配置のために、供給工具80に係合されることが見て取れる。さらに、FIG.1とFIG.4Cの挿入部材30を見比べると、FIG.4Cにおいて、供給工具80の先端から露出しているのは挿入部材30の本体31であり、挿入部材30のヘッド部32は、供給工具80に覆われる態様で係合されていることが理解できる。

(サ)摘記事項(カ)の「キャビティー」、「キャビティーへの開口部」、「アンカー」及び「挿入部材」は、摘記事項(イ)の「内部キャビティー23」、「開口部24」、「アンカー20」及び「挿入部材30」を指すことが明らかであるから、アンカー20は内部キャビティー23及び内部キャビティー23への開口部24を画定しているものであり、挿入部材30はアンカー20の内部キャビティー23内への配置のために構成されたものといえる。

イ 引用発明1
引用文献1の記載事項(ア)ないし(カ)、図示内容(キ)ないし(コ)及び認定事項(サ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「内部キャビティー23、および前記内部キャビティー23への開口部24を画定しているアンカー20と、
前記アンカー20の内部キャビティー23内への配置のために構成された挿入部材30であり、近位端部31aに結合されたヘッド部32と、近位端部31aからねじ部31cに至るねじのない部分、ねじ部31c、ねじ部31cから遠位端部31bに至るねじのない部分を有する本体31を含む挿入部材30とを備え、
前記アンカー20は、前記アンカー20を通じて延在する横断方向貫通孔25を備え、前記横断方向貫通孔25はフレキシブル部材60を収容するためのものであり、開口部25a、25bは横断方向貫通孔25の各端部に配置され、
前記アンカー20の内部キャビティー23は、ねじが切られていない近位部分23a、挿入部材30の受容のためのねじ山が切られた遠位部分23b、前記遠位部分23bから遠位方向に延びるねじのない部分を含む、
アンカーアセンブリ。」

(2-2)引用文献2
ア 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、「滑車溝インプラントならびに関連の方法および器具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0030】
・・・本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「ライン」という用語は、ワイヤ、ケーブル、コード、縫合糸、編組ライン、それらの組み合わせ、または任意のタイプの可撓性フィラメントを含むように広く意図されている。」

(イ)「【0041】
顆インプラント300を脛骨12に固定するために用いられるアンカー組立体810の1つの実施形態が、図15に示される。アンカー組立体810は、ロック813と作動可能に接続する骨アンカー812を含む。以下により詳細に説明されるように、骨アンカー812が、第1のドライバ814によって選択的に配置され、ロック813が、第2のドライバ816によって選択的に配置される。
【0042】
図16を参照すると、骨アンカー812は、実質的に円筒形の形状を有する管状の本体818を含む。本体818は、各々が基端部822と反対側の末端部823との間に延びる、内面820および外面821を含む。・・・」

(ウ)「【0043】
図17に示されるように、内面820は、骨アンカー812を通って長手方向に延びるチャネル826を境界付ける。基端方向から末端方向に延びている内面820は、ねじ付き部分828と、切頭円錐形状のテーパー部分830と、細められた円筒部分833とを含む。
【0044】
図16に戻ると、示される実施形態において、ロック813は、コレットを含む。一般に、ロック813は、基端部836と、反対側の末端部838と、これらの間に延びるチャネル840とを有する。より具体的には、ロック813は、基端部836から第2の端部850まで延びる管状の本体846を含む。1つまたは複数の螺旋状のねじ山852が、本体846を取り囲み、本体846から半径方向外方に突出している。ねじ山852は、骨アンカー812のねじ付き部分828と係合するように構成される。本体846を通って延びるチャネル840の少なくとも一部は、多角形または他の非円形の横断面を有する内面847によって境界付けられ、ロック813を選択的に回転させるために、第2のドライバ816(図15)を内部に固定することができる。
【0045】
複数の可撓性フィンガ856が、本体846の第2の端部850から突出している。図18に示されるように、4つのフィンガ856が設けられ、各々のフィンガ856は、該フィンガ856の長手方向に沿って延びるスロット857によって分離される。・・・
【0046】
図19に示されるように、作動中、ロック813は、骨アンカー812の基端部822内に部分的にねじ込まれる。この位置において、フィンガ856が撓んでいない場合には、ライン438は、チャネル826および840を貫通する。以下により詳細に説明されるように、ライン438を骨アンカーに対して固定することが望ましい場合、ロック813は、内部にしっかりと固定されるまで、骨アンカー812内にさらに前進される。その際、ロック813のフィンガ856は、骨アンカー812のテーパー状部分830を付勢し、これにより、フィンガ856が半径方向内方に細くなり、ライン438に確実に係合するようになる。この位置において、ライン438は、いずれの方向にも引っ張ることができない。・・・」

(エ)図16より、ロック813の複数の可撓性フィンガ856は、本体846の第2の端部850から突出し末端部838に至るものであり、その外面にはねじがないこと、同じくロック813のチャネル840は基端部836側の端面に開口していることが見て取れる。

イ 引用発明2
引用文献2の記載事項(ア)ないし(ウ)、図示内容(エ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、引用文献2には次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明2」という。)。

「アンカー組立体810の骨アンカー812の内面820のねじ付き部分828と係合するように構成されるロック813であって、基端部836と、反対側の末端部838と、これらの間に延び、基端部836側の端面に開口しているチャネル840とを有し、該チャネル840の少なくとも一部は、多角形または他の非円形の横断面を有する内面847によって境界付けられ、ロック813を選択的に回転させるために、第2のドライバ816を内部に固定することができるとともに、基端部836から第2の端部850まで延びる管状の本体846を含み、ねじ山852が該本体846を取り囲み、さらに第2の端部850から突出し末端部838に至る複数の可撓性フィンガ856を備え、該フィンガ856の外面にはねじがないロック813。」

(3)対比
補正発明と引用発明1とを対比する。
補正発明と引用発明1(以下、それぞれを「前者」、「後者」といい、それらを併せて「両者」ということがある。)とを、それぞれの構成が奏する機能及び技術常識を踏まえ対比すると、後者の「内部キャビティー23」は前者の「空洞部」に相当し、以下同様に、「内部キャビティー23への開口部24」は「空洞部への開口部」に、「アンカー20」は「アンカー」に、「アンカー20の内部キャビティー23」は「アンカー空洞部」に、「挿入部材30」は「挿入部材」に、「フレキシブル部材60」は「可撓性のある部材」に、「アンカーアセンブリ」は「アンカー組立体」に、それぞれ相当する。
そこで両者の挿入部材について検討すると、後者の「本体31」は前者の「本体」に、以下同様に、「ねじ部31cから遠位端部31bに至るねじのない部分」は「ねじのない遠位部分」に、それぞれ相当する。さらに後者の「ねじ部31c」は、挿入部材のねじのない遠位部分である「ねじ部31cから遠位端部31bに至るねじのない部分」よりも近位端部31a側に存在する部分であるから、前者の「ねじが切られた近位部分」に相当するということができる。
つぎに両者のアンカーについて検討すると、後者の「アンカー20を通じて延在する横断方向貫通孔25」は前者の「アンカーを貫通して延びる横断貫通孔」に相当するから、後者の「横断方向貫通孔25の各端部に配置され」る「開口部25a、25b」は前者の「横断貫通孔のそれぞれの端部にさらに配置され」る「開口部」に相当するということができる。
そして両者のアンカー空洞部について検討すると、後者の「遠位部分23bから遠位方向に延びるねじのない部分」は前者の「ねじのない遠位部分」に相当する。さらに、後者の「遠位部分23b」は、アンカー空洞部のねじのない遠位部分である「遠位部分23bから遠位方向に延びるねじのない部分」よりも、遠位方向と逆方向側、つまり近位方向側に存在する部分であり、「ねじ山が切られた」部分であるから、前者の「ねじが切られた近位部分」に相当するということができる。

してみると、補正発明と引用発明1とは、以下の点において一致する。
(一致点)
「空洞部、および前記空洞部への開口部を画定するアンカーと、
前記アンカー空洞部内に配置されるように構成された挿入部材であり、ねじが切られた近位部分、ねじのない遠位部分を有する本体を含む挿入部材と
を備え、
前記アンカーは、また前記アンカーを貫通して延びる横断貫通孔を含み、前記横断貫通孔は、可撓性のある部材を収容するためのものであり、開口部が前記横断貫通孔のそれぞれの端部にさらに配置され、
前記アンカー空洞部が、ねじが切られた近位部分、およびねじのない遠位部分を含む、
アンカー組立体。」

そして、補正発明と引用発明1とは、以下の相違点1及び2において相違する。
(相違点1)挿入部材に関し、補正発明では、頭部のない挿入部材であるとともに、前記挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有する本体を含む挿入部材であるのに対して、引用発明1では、ヘッド部32を有する挿入部材であるとともに、前記挿入部材の本体は前記挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有しない点。

(相違点2)アンカー空洞部に関し、補正発明では、ねじが切られた近位部分がその近位端まで延在するアンカー空洞部であるのに対して、引用発明1では、ねじが切られていない近位部分23aが存在し、ねじが切られた近位部分がその近位端まで延在するアンカー空洞部とはいえない点。

(4)判断
ア 相違点1について
(ア)補正発明における「カニューレ挿入部」について
補正発明における「カニューレ挿入部」に関し、本願明細書には、「挿入部材30は・・・図3Aおよび3Bで示すように、部材30は、部材30の部分的な長さで延びる三角形の形状をしたカニューレ挿入部31eを含む。」(段落【0017】)、「図4?7は本開示の送達装置40を示す。装置40は、シャフト41、シャフト41に結合されたハンドル42、およびハンドル42に結合されたノブ43を含む。シャフト41は、外側部材41aと、外側部材41aの内部に摺動可能に設けられ、かつそれに結合された内側部材41bとを含む。内側部材41bは、挿入部材30のカニューレ挿入部31e内に配置されるように構成された遠位端41b’と、ノブ43に結合された近位端41b’’とを含む。端部41b’は、カニューレ挿入部31eの壁31e’に係合するような直径をしており、それにより、ノブ43を回転させると、部材30を移動させることができる・・・」(段落【0018】)との記載がある。さらに、本願図面の【図3A】、【図3B】をみると、カニューレ挿入部31eは挿入部材30の本体31の近位部分31a側の端面に開口する孔部であることが見てとれる。
これらの本願明細書の記載及び図面の図示内容を参酌すれば、補正発明における「カニューレ挿入部」とは、挿入部材の本体の近位部分側の端面に開口し、アンカー組立体とともに用いられる送達装置40の内側部材41bの遠位端41b’が配置される孔部であって、内側部材41bを回転させることにより挿入部材30を回転させるために内側部材41bの遠位端41b’と係合する壁31e’を備えた孔部、すなわち“挿入部材の本体の近位部分側の端面に開口し、挿入部材を回転させるための器具が配置され、それと係合するための壁を備えた孔部”ということができる。

(イ)補正発明における「頭部のない挿入部材」について
本願明細書における「図1、2A?2B、および3A?3Bは、本開示のアンカー組立体10およびその構成要素の第1の実施形態を示している。組立体10は、アンカー20および挿入部材30を含む。アンカー20は、近位部分21、遠位部分22、および内側空洞部23を含む。空洞部23への開口部24は、アンカー20の近位部分21に位置している。」(段落【0016】)との記載、「挿入部材30は、ねじが切られた近位部分31a、およびねじのない遠位部分31bを有する頭部のない本体31を含む。・・・図3Aおよび3Bで示すように、部材30は、部材30の部分的な長さで延びる三角形の形状をしたカニューレ挿入部31eを含む。ねじ31a’は、挿入部材30が空洞部23内に配置されたとき、空洞部23のねじ23cと係合するように構成され・・・る。」(段落【0017】)との記載を参酌すると、補正発明の「挿入部材」は本体の外面にねじを有し、アンカーの内側空洞部に螺入される部材であるということができる。
ここで、螺入される部材(例えば、いわゆる“ねじ”や”ボルト”)の一般的な構成を想起すると、その螺入方向側に設けられた“ねじ部分”と、当該螺入される部材を回転させるための器具(例えば、いわゆる“ドライバー”や“レンチ”)と係合するために、ねじ部分から螺入方向と反対側に突出して設けられた“頭部”とを備えた構成であることは技術常識である。
そして、補正発明の「挿入部材」の「本体」は、上記螺入される部材の一般的な構成の“ねじ部分”に相当するから、上記技術常識を踏まえれば、補正発明における「頭部のない挿入部材」とは、“挿入部材を回転させるための器具と係合するために、本体からその螺入方向と反対側に突出して設けられた“頭部”を備えていない挿入部材”を意味するものということができる。
これは、補正発明の「挿入部材」が、上記(ア)で検討した補正発明における「カニューレ挿入部」、すなわち“挿入部材の本体の近位部分側の端面に開口し、挿入部材を回転させるための器具が配置され、それと係合するための壁を備えた孔部”を備えており、そこに挿入部材を回転させるための器具を配置するためには、「挿入部材」の「本体」から螺入方向と反対側に突出する“頭部”を持つことができないこととも整合するものである。

(ウ)引用発明2について
引用発明2の「アンカー組立体810」は補正発明の「アンカー組立体」に、以下同様に、「骨アンカー812」は「アンカー」に、「ロック813」は「挿入部材」にそれぞれ相当し、それらを踏まえると引用発明2の「骨アンカー812の内面820のねじ付き部分828と係合する」「ロック813」は、補正発明の「アンカー空洞部内に配置されるように構成された挿入部材」ということができる。
また、引用発明2の「ロック813」の「基端部836」側及び「末端部838」側は、その螺入方向から見て、補正発明の「挿入部材」の「近位部分」側及び「遠位部分」側にそれぞれ相当するから、引用発明2の「ねじ山852が」「取り囲」む「基端部836から第2の端部850まで延びる管状の本体846」は、補正発明の「ねじが切られた近位部分」に、同様に引用発明2の「第2の端部850から突出し末端部838に至」り、その「外面にはねじがない」「複数の可撓性フィンガ856」は、補正発明の「ねじがない遠位部分」に、それぞれ相当するということができる。
そして、上記(イ)で検討したように、補正発明における「カニューレ挿入部」とは、“挿入部材の近位部分側の端面に開口し、挿入部材を回転させるための器具が配置され、それと係合するための壁を備えた孔部”であるから、引用発明2の「ロック813」の「基端部836と、反対側の末端部838と」「の間に延び、基端部836側の端面に開口している」「チャネル840の少なくとも一部」であって、「多角形または他の非円形の横断面を有する内面847によって境界付けられ、ロック813を選択的に回転させるために、第2のドライバ816を内部に固定することができる」「チャネル840の少なくとも一部」は、補正発明の「カニューレ挿入部」ということができる。
してみると、引用発明2の「ロック813」は、「基端部836と、反対側の末端部838との間に延び、基端部836側の端面に開口しているチャネル840」「を有」し、そ「の少なくとも一部は、多角形または他の非円形の横断面を有する内面847によって境界付けられ」るのであるから、補正発明の「挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有する本体を含む挿入部材」ということができる。
さらに、上記(ア)で検討したように、補正発明における「頭部のない挿入部材」とは、“挿入部材を回転させるための器具と係合するために、本体からその螺入方向と反対側に突出して設けられた“頭部”を備えていない挿入部材”であるところ、引用発明2の「ロック813」も、その螺入方向と反対側である「基端部836」側に突出して設けられた“頭部”を備えていないから、補正発明の「頭部のない挿入部材」ということができる。
以上から、引用発明2は、“アンカー空洞部内に配置されるように構成された頭部のない挿入部材であり、ねじが切られた近位部分、ねじのない遠位部分、および前記挿入部材の部分的な長さで延びるカニューレ挿入部を有する本体を含む挿入部材”ということができる。

(エ)相違点1についての判断
以上の検討を踏まえると、引用発明1及び引用発明2は、上記(2) 摘記事項(2-1) ア (ア)及び(カ)、同(2-2) ア (ア)ないし(ウ)の記載からみて、いずれも骨に固定されるアンカーアセンブリという共通の技術分野に属するものであって、それらの挿入部材はいずれも、アンカーのキャビティー内に配置され、アンカーアセンブリに縫合糸等のフレキシブル部材を固定するという共通の機能を有するものである。
そうすると、引用発明1の挿入部材に代えて、引用発明2を採用することにより、相違点1に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ 相違点2について
相違点2について検討する。
引用発明1における、内部キャビティー23のねじが切られていない近位部分23aについて検討すると、上記図示内容(2-1) ア (ケ)「挿入部材30がアンカー20の内部キャビティー23内に配置された状態で、挿入部材30のヘッド部32は、内部キャビティー23の近位部分23aにほぼ覆われている状態であること」、同じく(コ)「挿入部材30のヘッド部32は、供給工具80に覆われる態様で係合され」ることを考え合わせると、内部キャビティー23のねじが切られていない近位部分23aは、挿入部材30がアンカー20の内部キャビティー23内に配置された状態で、挿入部材30のヘッド部32を覆うとともに、供給工具80により挿入部材30を回転させる際に、ヘッド部32に係合する供給工具80を受け入れるスペースをアンカー20にもたらすためのものであることが窺える。

してみると、上記ア(エ)で指摘したように、引用発明1において、ヘッド部32を有する挿入部材30に代えて、引用発明2の頭部のないロック813を採用した場合には、引用発明1のヘッド部32を覆うとともに、ヘッド部32に係合する供給工具80を受け入れるためのスペースをもたらすためのものである、内部キャビティー23のねじが切られていない近位部分23aは不要であり、この種の装置において自明の課題であるアンカーアセンブリを小型化して侵襲性を最小化するという観点からすれば、むしろ取り除くべきものということができる。
そして、引用発明1において、アンカー空洞部のねじが切られていない近位部分23aを取り除いた場合には、ねじ山が切られた遠位部分23bが内部キャビティー23の上端まで延在することとなる。
そうすると、引用発明1において、相違点2に係る補正発明の特定事項とすることは、引用発明2の採用に伴い、当業者が容易に想到できたことである。

また、補正発明の効果をみても、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものということはできない。

よって、補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

(5)本件補正についての結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下すべきものである。

よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成27年6月17日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2 1 (1)に示すとおりのものである。

第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び図示内容は、上記第2 2 (2-1) ア に示したとおりである。そして、引用発明1は上記第2 2 (2-1) イ で認定したとおりのものである。

第5 対比及び判断
本件発明は、補正発明から「前記アンカー空洞部が、ねじが切られた近位部分、およびねじのない遠位部分を含み、前記アンカー空洞部の前記ねじが切られた近位部分が前記アンカー空洞部の近位端まで延在する」という発明特定事項を削除したものに相当する。つまり、補正発明は、本件発明の発明特定事項の全てを含んでいる。
そうすると、補正発明が上記第2 2 (3)?(4)に示したように、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであることから、本件発明も同様に、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

第6 結び
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-29 
結審通知日 2016-12-05 
審決日 2016-12-16 
出願番号 特願2012-538921(P2012-538921)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司村上 聡  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 内藤 真徳
橘 均憲
発明の名称 組織修復装置  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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