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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1328260
審判番号 不服2016-5758  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-31 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 特願2013- 37623号「多軸プレートを使用するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-144121号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年7月25日(パリ条約による優先権主張 2005年7月25日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2008-524048号の一部を平成25年2月27日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月21日付けの拒絶理由通知に対し同年9月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月15日付けの最後の拒絶理由通知に対し同年7月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月19日付けで、平成27年7月27日付け手続補正書でした補正について補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、その後、平成28年3月31日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされたものである。


II.平成28年3月31日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年3月31付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)。
「【請求項1】
(a)下面、上面、および、前記下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部を備える骨プレートと、
(b)前記開口部を通して挿入可能なファスナと、
(c)前記ファスナの頭部から外側に延在する複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記層の個々のフィンそれぞれが、別の層の個々のフィンそれぞれの真上に位置し、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた開口部のねじ山と協働するように構成されている、複数のフィンからなる、1つより多い層と、
備えることを特徴とする、多軸骨固定アセンブリ。」

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無等
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「少なくとも1セットの複数のフィン」に関し、
i)補正前の「少なくとも1セットの複数のフィンであって、」を「複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記層の個々のフィンそれぞれが、別の層の個々のフィンそれぞれの真上に位置し、」と技術的に限定し、
ii)補正前の「少なくとも1セットの複数のフィンと」を「複数のフィンからなる、1つより多い層と」と技術的に限定する、
補正であって、しかも、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところはない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。

3-1 本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載された「備えること」は、「を備えること」の明白な誤記と認められるので、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりものである。
「【請求項1】
(a)下面、上面、および、前記下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部を備える骨プレートと、
(b)前記開口部を通して挿入可能なファスナと、
(c)前記ファスナの頭部から外側に延在する複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記層の個々のフィンそれぞれが、別の層の個々のフィンそれぞれの真上に位置し、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた開口部のねじ山と協働するように構成されている、複数のフィンからなる、1つより多い層と、
を備えることを特徴とする、多軸骨固定アセンブリ。」

3-2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2004/0073218号明細書(以下「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(括弧内に付記した邦訳は当審による。)。
a:「[0036] In the embodiment illustrated in FIGS.2A-2D , the tappable property is realized by structuring contact region 85 as a matrix of protrusions 87 and interstices 89 between protrusions 87 . ・・・
[0037] It will be noted that the density of protrusions 87 over the area of inside surface 81, and the size of individual protrusions 87 , are not limited by the invention, so long as the matrix formed on inside surface 81 renders contact region 85 tappable. ・・・」
(図2A-2Dに示す実施例において、タッピング特性は、突起87と突起87間の間隙89とのマトリクスとしての接触領域85を構成することにより実現される。・・・
内面81上に形成されるマトリクスに基づいて接触領域85がタッピング可能でありさえすれば、内面81上の突起87の密度や突起87の個々の大きさは、本発明において制限されないことに気がつくであろう。・・・)

b:「[0044] The manner by which head section 40 of fastener 10 is affixed to aperture A of receiving member 60 depends on whether contact region 85 illustrated in FIGS.2A-3 or contact region 105 illustrated in FIGS.6 and 7 is provided. In the use of contact region 85 , second thread 51 of head section 40 is driven through a series of available interstices 89 (see, e.g., FIGS.2C and 2D ) and between a series of protrusions 87 adjacent to these interstices 89 . The driving of second thread 51 causes this series of protrusions 87 to contact second thread 51 and maintain fastener 10 at the desired insertion angle IA. As described hereinabove, protrusions 87 contacting second thread 51 may or may not deform or otherwise move in response to the driving of second thread 51 into contact region 85 .・・・」
(ファスナー10のヘッド部40を受け部材60の開口Aに固定する態様は、接触領域が、図2A-3に示す接触領域85であるか、図6及び7に示す接触領域105であるかによって異なる。接触領域85を用いた場合、ヘッド部40の第2ねじ51は、有用な一連の間隙89(例えば、図2C及び2D参照)を通り、これらの間隙89に隣接する一連の突起87の間を通過するように駆動される。第2ねじ51の駆動により、この一連の突起87は第2ねじ51と接触し、ファスナー10は所望の挿入角度IAで保持される。上述したとおり、第2ねじ51が接触領域85へと駆動されることに応じて、第2ねじ51と接触する突起87には、変形又は移動が生じることも、生じないこともあり得る。・・・)

c:「[0046] As an alternative to the embodiments specifically illustrated in FIGS.1-7 , the interface between second thread 51 of head section 40 and contact region 85 or 105 of aperture A could be reversed. That is, head section 40 of fastener 10 could be provided with contact region 85 or 105 , and aperture A of fastener receiving member 60 could be provided with second thread 51 . This alternative embodiment likewise enables fastener 10 to be rigidly secured non-coaxially to aperture A.」
(図1-7に具体的に示す実施例に代えて、ヘッド部40の第2ねじ51と開口Aの接触領域85又は105との間の結合手段は、逆にすることができる。すなわち、ファスナー10のヘッド部40に接触領域85又は105を設けるとともに、ファスナー受け部材60の開口Aに第2ねじ51を設けることができる。この代替実施例は、同様に、ファスナー10を開口Aに対し非同軸的にしっかりと固定できる。)

d:「What is claimed is:
・・・
21. A fastening apparatus adapted for multi-angular insertion, comprising:
(a) a fastener comprising an elongate section and an adjoining head section disposed along a fastener axis, the head section comprising a thread; and
(b) a fastener receiving member comprising first and second opposing major surfaces, an inside surface extending between the first and second major surfaces and defining an aperture generally coaxially disposed about an aperture axis, and a tappable contact region disposed on the inside surface, wherein the tappable contact region has a minimum inside diameter large enough to permit the elongate section to pass therethrough at an insertion angle defined between the fastener axis and the aperture axis, and the tappable contact region is adapted for being tapped by the thread of the head section to affix the head section to the tappable contact region at the insertion angle.
22. The apparatus according to claim 21 wherein the fastener is a surgical bone screw.
23. The apparatus according to claim 21 wherein the elongate section comprises a thread.
・・・
30. The apparatus according to claim 23 wherein the first and second major surfaces of the fastener receiving member define a surgical plate.
・・・
33. The apparatus according to claim 23 wherein the tappable contact region comprises a plurality of protrusions extending generally radially inwardly from the inside surface and a plurality of interstices between the protrusions.
・・・」
(特許請求の範囲:
・・・
21.多数の角度での挿入に適した締結装置であって、前記締結装置は、
(a)ファスナーであって、前記ファスナーは、
その軸方向に配置された、細長部と隣接するヘッド部とを含み、前記ヘッド部はねじがきられた、ファスナー;及び
(b)ファスナー受け部材であって、前記ファスナー受け部材は、
対向する第1及び第2の主面と、
前記第1及び第2の主面の間に延びる内面であって、前記内面は開口を画定し、前記開口はその開口軸と略同軸に配置される、内面と、
前記内面に設けられたタップ接触領域であって、前記タップ接触領域は、前記ファスナーがその軸と前記開口軸との間で画定される挿入角度で挿入される際に、前記細長部が通過するに十分な最小内径を有し、さらに、ヘッド部をタップ接触領域に前記挿入角度で固定するために、前記ヘッド部のねじのねじ込みに適合している、タップ接触領域と
を含むファスナー受け部材
を備える締結装置。
22.前記ファスナーは外科用骨ねじである、請求項21に記載の装置。
23.前記細長部はねじを有することを特徴とする、請求項21に記載の装置。
・・・
30.前記ファスナー受け部材の前記第1及び第2の主面は、外科用プレートを画定する、請求項23に記載の装置。
・・・
33.前記タップ接触領域は、前記内面から半径方向内側へ延在する多数の突起と、前記突起の間に多数の間隙とを有する、請求項23に記載の装置。
・・・)

e:「・・・
39. A method for affixing a fastener to a fastener receiving member at a desired orientation, comprising the steps of ・・・.
・・・
43. The method according to claim 39 wherein the tappable contact region comprises a plurality of protrusions extending generally radially inwardly from the inside surface and a plurality of interstices between the protrusions, ・・・.
44. The method according to claim 43 wherein driving the thread of the head section into contact with the series of protrusions deforms at least some of the protrusions.
・・・」
(・・・
39.ファスナーをファスナー受け部材に所望の方向で固定する方法であって、前記方法は、・・・の工程を含む方法。
・・・
43.前記タップ接触領域は、前記内面から半径方向内側へ突出する多数の突起と、前記突起の間に多数の間隙とを有し、・・・である、請求項39に記載の方法。
44.前記ヘッド部にきられたねじを駆動することにより、ねじ山が一連の突起と接触し、少なくとも一部の突起が変形する、請求項43に記載の方法。
・・・)

続いて図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。
A)摘記事項aの「図2A-2Dに示す・・・突起87と突起87間の間隙89とのマトリクスとしての接触領域85」なる記載に基づき図面をみると、FIG.2B-2Dには、突起87が多層を成して千鳥状に配置される事項が図示されており、この図示内容を踏まえると、摘記事項dの「締結装置」における「多数の突起」は、多層を成して千鳥状に配置される「多数の突起」をも包含するものといえる。

B)摘記事項bの「ファスナー10のヘッド部40を受け部材60の開口Aに固定する」、「第2ねじ51と接触する突起87には、変形又は移動が生じる」の各記載、摘記事項eの「ヘッド部にきられたねじを駆動することにより、ねじ山が一連の突起と接触し、少なくとも一部の突起が変形する」の記載等からみて、摘記事項dの「締結装置」においても、「ヘッド部をタップ接触領域に前記挿入角度で固定する」に当たり、ヘッド部にきられたねじを駆動することにより、ねじ山が一連の突起と接触し、少なくとも一部の突起が変形するものといえる。

よって、上記摘記事項a、b、d、eの各記載及び上記A)、B)の検討内容を総合すれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「多数の角度での挿入に適した締結装置であって、前記締結装置は、
(a)ファスナーであって、前記ファスナーは、
その軸方向に配置された、細長部と隣接するヘッド部とを含み、前記ヘッド部はねじがきられた、ファスナー;及び
(b)ファスナー受け部材であって、前記ファスナー受け部材は、
対向する第1及び第2の主面と、
前記第1及び第2の主面の間に延びる内面であって、前記内面は開口を画定し、前記開口はその開口軸と略同軸に配置される、内面と、
前記内面に設けられたタップ接触領域であって、前記タップ接触領域は、前記ファスナーがその軸と前記開口軸との間で画定される挿入角度で挿入される際に、前記細長部が通過するに十分な最小内径を有し、さらに、ヘッド部をタップ接触領域に前記挿入角度で固定するために、前記ヘッド部のねじのねじ込みに適合している、タップ接触領域と
を含むファスナー受け部材
を備え、
前記ファスナーは外科用骨ねじであり、
前記ファスナー受け部材の前記第1及び第2の主面は、外科用プレートを画定し、
前記タップ接触領域は、前記内面から半径方向内側へ延在する多数の突起と、前記突起の間に多数の間隙とを有し、
前記多数の突起は、多層を成して千鳥状に配置され、
前記ヘッド部にきられたねじを駆動することにより、ねじ山が一連の突起と接触し、少なくとも一部の突起が変形する、
締結装置。」

3-3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「締結装置」は、「ファスナー」及び「ファスナー受け部材」を備え、しかも、「前記ファスナーは外科用骨ねじであ」ることを踏まえると、引用発明の「多数の角度での挿入に適した締結装置」は、本願補正発明の「多軸骨固定アセンブリ」に相当する。
(イ)引用発明では、「ファスナー受け部材の前記第1及び第2の主面は、外科用プレートを画定」することから、引用発明の「ファスナー受け部材」はプレート状の部材といえ、また、引用発明では、「ファスナー受け部材」が、「外科用骨ねじであ」る「ファスナー」と共に「締結装置」を成していることから、引用発明の「ファスナー受け部材」は、本願補正発明の「骨プレート」に相当する。
引用発明の「第1及び第2の主面」は、文言の意味、形状、機能等からみて、本願補正発明の「下面、上面」に相当する。
引用発明では、「第1及び第2の主面の間に延びる内面・・・は開口を画定」しているのであるから、引用発明における「第1及び第2の主面の間に延びる内面」により画定される「開口」は、本願補正発明の「下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部」に相当する。
よって、「ファスナー受け部材を備え」る引用発明は、「下面、上面、および、前記下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部を備える骨プレート」を備える点で、本願補正発明と一致する。
(ウ)引用発明の「ファスナー」は、本願補正発明の「ファスナ」に相当する。
また、引用発明では、「開口を画定」する「内面」に関し、「内面に設けられたタップ接触領域」は、「ファスナーがその軸と前記開口軸との間で画定される挿入角度で挿入される際に、前記細長部が通過するに十分な最小内径を有」するというのであるから、引用発明が備える「ファスナー」も、開口を通して挿入可能なものといえる。
よって、引用発明は、「開口部を通して挿入可能なファスナ」を備える点で、本願補正発明と一致する。
(エ)引用発明の「ヘッド部」は、本願補正発明の「頭部」に相当する。
また、引用発明では、「開口を画定」する「内面から半径方向内側へ突出する多数の突起」を有し、「ファスナー」の「ヘッド部にきられたねじを駆動することにより、ねじ山が一連の突起と接触し、少なくとも一部の突起が変形」し、「ヘッド部をタップ接触領域に前記挿入角度で固定する」のであるから、引用発明の「多数の角度での挿入に適した締結装置」は、様々な角度で開口においてファスナーを固定するように、少なくともねじがきられた箇所のねじ山と協働するように構成されている、多数の突起を備えるものといえる。
(オ)上記(エ)で示した「ねじ山と協働する」という機能やその形状からみて、引用発明の「多数の突起」は、“複数のフィン”である点で、本願補正発明と共通する。
また、引用発明の「多数の突起」は、「多層を成して千鳥状に配置され」ていることから、引用発明は、“個々のフィンが格子状に配置される、複数のフィンからなる、1つより多い層”を備える点で、本願補正発明と共通する。
(カ)上記(エ)、(オ)の検討を総合すれば、引用発明は、“前記ファスナの頭部又は開口部の一方から突出する複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記個々のフィンが格子状に配置され、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた、前記ファスナの頭部又は開口部の他方のねじ山と協働するように構成されている、複数のフィンからなる、1つより多い層”を備える点で、本願補正発明と共通する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
(a)下面、上面、および、前記下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部を備える骨プレートと、
(b)前記開口部を通して挿入可能なファスナと、
(c)前記ファスナの頭部又は開口部の一方から延在する複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記個々のフィンが格子状に配置され、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた、前記ファスナの頭部又は開口部の他方のねじ山と協働するように構成されている、複数のフィンからなる、1つより多い層と、
を備える、多軸骨固定アセンブリ。

<相違点>
「複数のフィンからなる、1つより多い層」に関し、本願補正発明では、該「層」が、「ファスナの頭部から外側に延在する複数のフィンからなる、1つより多い層であって、前記層の個々のフィンそれぞれが、別の層の個々のフィンそれぞれの真上に位置し、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた開口部のねじ山と協働するように構成されている、複数のフィンからなる、1つより多い層」であるのに対し、引用発明では、「複数のフィンからなる、一つより多い層」の延在する箇所が、開口部の内面であり、また、「複数のフィンからなる、一つより多い層」の配置が、千鳥状の配置であり、さらに「複数のフィンからなる、一つより多い層」の協働する相手が、ねじがきられたファスナの頭部のねじ山である点。

3-4 判断
上記相違点について検討する。
引用例には、「ヘッド部40の第2ねじ51と接触領域85又は105の開口Aとの間の結合手段は、逆にすることができる。すなわち、ファスナー10のヘッド部40に接触領域85又は105を設けるとともに、ファスナー受け部材60の開口Aに第2ねじ51を設けることができる。」(摘記事項c)との教示もあることから、同教示に接した当業者であれば、引用発明に上記の「結合手段は、逆にすることができる」という教示事項を踏まえ、複数のフィンからなる、1つより多い層を「ファスナの頭部から外側に延在する」ように設けるとともに、開口部を「ねじがきられた開口部」として、フィンと開口部のねじ山とを協働させることは、容易に想到し得たことである。
ところで、引用例に、「内面81上に形成されるマトリクスに基づいて接触領域85がねじ込み可能でありさえすれば、内面81上の突起87の密度や突起87の個々の大きさは、本発明において制限されない」(摘記事項a)と示されるように、引用発明において、どのような大きさ・形状の突起をどのように配置するかは、「ねじ山が一連の突起と接触し」、「ヘッド部をタップ接触領域に前記挿入角度で固定する」ことを妨げない限り、随意に選択可能な設計的事項にすぎないものといえる。
そうすると、引用発明に対する上記教示事項の適用に当たり、複数のフィンからなる、1つより多い層を「ファスナの頭部から外側に延在する」ように設ける際に、千鳥状の配置に代えて、同じく格子状の配置の一種といえる縦横状の配置、すなわち「層の個々のフィンそれぞれが、別の層の個々のフィンそれぞれの真上に位置」するような配置を採用する程度のことは、当業者が適宜になし得たことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別のものとはいえない。
なお、本願補正発明の効果に関し、請求人は審判請求書において、「本願発明における各層の複数のフィンは互いに真上真下に位置しており、・・・この特徴により、上下のフィンを一度に製造できるため、引用文献1に複数のフィンの複雑な構造による製造コストの面で非常に有利・・・」などと主張する。
本願補正発明に係る物が、どのような製造方法によって製造された物であるのかは、そもそも不明ではあるが、請求人の当該主張についても一応検討するに、製造工程の簡素化や製造コストの低減等は、普遍の技術課題であって、当業者は、これらの課題をも踏まえた上で、各フィンの配列設計を行うのが通常というべきであるから、仮に、本願補正発明が、「上下のフィンを一度に製造できる」、「製造コストの面で非常に有利」等の効果を奏するものであったとしても、そのような効果は、予想外の効果ではなく、当業者であれば当然に予測し得た程度の効果であって、格別のものとは、やはりいえない。

3-5 小括
よって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年9月2日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである(同補正書による補正後の請求項1に記載された「備えること」は、「を備えること」の明白な誤記と認める。)。
「【請求項1】
(a)下面、上面、および、前記下面から前記上面へと延びる少なくとも1つの開口部を備える骨プレートと、
(b)前記開口部を通して挿入可能なファスナと、
(c)前記ファスナの頭部から外側に延在する少なくとも1セットの複数のフィンであって、前記複数のフィンが、様々な角度で前記開口部において前記ファスナを固定するように少なくともねじがきられた開口部のねじ山と協働するように構成されている、少なくとも1セットの複数のフィンと、
を備えることを特徴とする、多軸骨固定アセンブリ。」


IV.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3-2に記載したとおりである。


V.対比・判断
本願発明は、前記II.3-1の本願補正発明から、前記II.2で指摘した限定事項を省いたものに相当する発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-3、3-4、3-5に示したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-25 
結審通知日 2016-11-28 
審決日 2016-12-15 
出願番号 特願2013-37623(P2013-37623)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西尾 元宏森林 宏和  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 関谷 一夫
田中 成彦
発明の名称 多軸プレートを使用するためのシステムおよび方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

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