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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1328299
審判番号 不服2016-6458  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-05-11 
事件の表示 特願2011-262273「投影光学系の結像特性の変動量の算出方法、露光装置およびデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月10日出願公開、特開2013-115348〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月30日を出願日とする出願であって、平成27年8月14日付(発送日 同年同月25日)で拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書が提出されるとともに明細書についての手続補正がなされ、平成28年1月26日付け(送達日 同年2月2日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に、明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、発明の詳細な説明の段落【0049】を以下のとおり補正する事項を含むものである。なお、下線は、請求人が付したものであり、補正箇所を示す。

(1)本件補正前
「そこで、露光光の強度の違い、投影光学系を構成している光学素子の光学特性、例えば波長に対する透過率の違いなどを考慮して、第1波長帯域の露光係数を利用して第2波長帯域の露光係数を算出する。第1工程で使用した第1波長帯域の露光光の強度をα1、第2波長帯域の露光光の強度をα2とし、投影光学系の光透過率について、第1波長帯域の光の透過率をβ1、第2波長帯域の光の透過率をβ2とする。基準となる第1波長帯域の露光係数をK(1)とすると、第2波長帯域の露光係数K(2)は式(4)により求めることができる。
K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β2/β1)・・・(4)」

(2)本件補正後
「そこで、露光光の強度の違い、投影光学系を構成している光学素子の光学特性、例えば波長に対する透過率の違いなどを考慮して、第1波長帯域の露光係数を利用して第2波長帯域の露光係数を算出する。第1工程で使用した第1波長帯域の露光光の強度をα1、第2波長帯域の露光光の強度をα2とし、投影光学系の光透過率について、第1波長帯域の光の透過率をβ1、第2波長帯域の光の透過率をβ2とする。基準となる第1波長帯域の露光係数をK(1)とすると、第2波長帯域の露光係数K(2)は式(4)により求めることができる。
K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β1/β2)・・・(4)」

2 補正の適否(特許法第17条の2第3項について)(下線は当審で付与した。)
本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か、即ち、本件補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて、以下に検討する。

(1)当初明細書等の記載事項
ア 上記補正された事項に関する記載について、当初明細書等には、
(ア)
「【請求項1】
光源からの光を用いてマスクを照明し、前記マスクのパターンの像を投影光学系を用いて基板に投影する露光装置における前記投影光学系の結像特性の変動量を算出する算出方法において、
単位露光エネルギー当たりの前記投影光学系の結像特性の変動量を露光係数として、
前記基板を露光するための露光光が第1波長帯域である場合の前記投影光学系の光学特性の変動量のデータを用いて、前記第1波長帯域の露光係数を算出する工程と、
前記第1波長帯域とは異なる第2波長帯域の露光係数を、前記第1波長帯域の露光係数を用いて算出する工程と、
前記第2波長帯域の露光係数を用いて、前記第2波長帯域の露光光を用いて前記基板を露光する場合の前記投影光学系の結像特性の変動量を算出する工程とを有することを特徴とする算出方法。
・・・
【請求項4】
前記第2波長帯域の露光係数を、前記第1波長帯域に対する第2波長帯域の光強度比および前記投影光学系の透過率比を用いて算出することを特徴とする請求項1に記載の算出方法。」

(イ)
「【0048】
次に、第1の波長帯域とは異なる波長である第2波長帯域の露光係数を算出する工程(第3工程)について説明する。例えば、第1の波長帯域としてi線、第2の波長帯域としてh線とする。波長帯域が異なると、露光条件が同じであっても、光源から出力される光の強度の違い、投影光学系を構成している光学素子の波長に対する透過率差などの光学特性の違いから、結像特性の変動量に違いが生じる。図6(a)は、第1波長帯域における結像特性の変動履歴、および、第2波長帯域における結像特性の変動履歴を示す。結像特性の変動量は、上記の式(1)、式(2)、式(3)を用いて予測する。そのため、第2波長帯域における結像特性の変動量を、第1波長帯域の露光係数を用いて予測すると図6(b)のように誤差が生じてしまう。
【0049】
そこで、露光光の強度の違い、投影光学系を構成している光学素子の光学特性、例えば波長に対する透過率の違いなどを考慮して、第1波長帯域の露光係数を利用して第2波長帯域の露光係数を算出する。第1工程で使用した第1波長帯域の露光光の強度をα1、第2波長帯域の露光光の強度をα2とし、投影光学系の光透過率について、第1波長帯域の光の透過率をβ1、第2波長帯域の光の透過率をβ2とする。基準となる第1波長帯域の露光係数をK(1)とすると、第2波長帯域の露光係数K(2)は式(4)により求めることができる。
K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β2/β1)・・・(4)
【0050】
算出された露光係数K(1)およびK(2)は主制御装置103内の露光係数記憶部123に記憶される。なお、光強度比と透過率比を用いて第1波長帯域の露光係数から第2波長帯域の露光係数を算出したが、光強度比と透過率比以外の他のパラメータを用いて算出することもできる。」
と記載されている。

(2)補正事項についての検討
本件補正において、「第2波長帯域の露光係数」を算出することに関連し、誤記の訂正を目的とするものであるとして「β2/β1」を「β1/β2」と補正する事項(以下、「補正事項」という。)について検討する。

ア 当初明細書等には補正事項そのものの記載はなく、「第2波長帯域の露光係数を、」「透過率比を用いて算出する」ことについて、透過率比を用いた具体的な式は、上記摘記事項(イ)のとおり、段落【0049】に式(4)として「K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β2/β1)」と記載されているのみである。
そこで、「β2/β1」を「β1/β2」とする補正事項が誤記の訂正に該当するか否か検討する。
「誤記の訂正」とは、「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正す」ことである。
発明の詳細な説明には、「第2波長帯域の露光係数」を算出する「透過率比を用いて算出する」ことに関連して、段落【0048】に「光学素子の波長に対する透過率差などの光学特性の違いから、結像特性の変動量に違いが生じる」との記載があり、また、段落【0049】に「波長に対する透過率の違いなどを考慮して、第1波長帯域の露光係数を利用して第2波長帯域の露光係数を算出する」との記載がある。また、【請求項4】及び段落【005】に「透過率比」を用いて算出することが記載されている。これらの記載から、露光係数は、「透過率差」や「透過率の違い」に関連するものであるとはいえるものの、「β2/β1」の「透過率比」ではない「β1/β2」の「透過率比」に関連することが明らかであるとはいえない。
そこで、「投影光学系に吸収される光の強度は、投影光学系の光透過率ではなく光吸収率に関係し、光吸収率が大きいほど、より光が吸収されて熱吸収量が大きくなることは当業者にとって自明である」こと(後記イ(ア)a下線部参照。)及び「投影光学系に入射した光はほとんどが透過し、透過しなかった残りの全ての光が投影光学系で吸収されると近似できると考えられため、1から透過率を引いて吸収率を求めることが可能な関係となる。」ことは技術常識であること(後記イ(ア)b下線部参照。)を踏まえてさらに検討する。
1から透過率を引いて吸収率を求めることが可能であるから、第1、2波長帯域の投影光学系の光吸収率は、それぞれ(1-β1)、(1-β2)と記述でき、「光吸収率が大きいほど、より光が吸収されて熱吸収量が大きくなることは当業者にとって自明であ」り、熱吸収量が大きい方が投影光学系の結像特性の変動量は大きくなるから、「単位露光エネルギー当たりの前記投影光学系の結像特性の変動量」である「露光係数」「K」は、第1、2波長帯域の投影光学系の光吸収率の違い、つまり光吸収率の比(「(1-β2)/(1-β1)」)に関連するといえるが、「β1/β2」の「透過率比」に関連するとはいえない。
以上のとおり、当初明細書等には「β1/β2」の「透過率比」についての記載はなく、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であることを踏まえても、当初明細書等の記載から「β1/β2」の「透過率比」を導くことはできないから、「β2/β1」を「β1/β2」とする補正事項は、誤記の訂正を目的とするものに該当するとはいえない。

イ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、補正事項の補正の根拠として、以下のとおり主張している。なお、下線は当審で付与した。

a「本願明細書の段落49の式(4)中の(β2/β1)を(β1/β2)に補正しました。今回の段落49の補正は誤記の訂正です。投影光学系に吸収される光の強度は、投影光学系の光透過率ではなく光吸収率に関係し、光吸収率が大きいほど、より光が吸収されて熱吸収量が大きくなることは当業者にとって自明であるから、式(4)中の(β2/β1)が誤記であることは明らかです。」((iii)(a)補正の根拠の明示)

b「審査官殿がご指摘のように、投影光学系の熱吸収量は直接的には投影光学系に吸収される光の強度に関係します。
ここで、レンズが照射される場合を考えます。レンズに入射する光には、レンズにおいて透過、吸収又は反射のいずれかが生じます。通常、レンズの透過率は例えば90%以上と高く、透過しない残りの光が吸収と反射になります。さらに、通常、レンズに反射防止膜が施されているため、レンズにおいて反射率は非常に小さいです。つまり、投影光学系に入射した光はほとんどが透過し、透過しなかった残りの全ての光が投影光学系で吸収されると近似できると考えられます。そのため、1から透過率を引いて吸収率を求めることが可能な関係となります。これは当業者の技術常識です。
ここで、通常、レンズの性能を示すデータとしては透過率がよく用いられ、これを計算に利用することが可能です。したがって、現実的に考えて、透過率のデータを用いて計算を行うのが良く、上記式(4)では吸収率ではなく、透過率を用いています。また、式(4)の計算において、現実的に計算精度は悪くなく、問題になっていません。
したがって、式(4)を用いて第2波長帯域における露光係数K(2)を算出することは困難ではなく、式(4)を用いた計算方法は適切です。」((iii)(b)(3)第2波長帯域における露光係数を算出する、第3工程について)

(イ)しかしながら、上記アで検討するように、審判請求人が主張する、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であること(上記(ア)a、bの下線部参照。)を踏まえても、当初明細書等の記載から「β1/β2」の「透過率比」を導くことはできず、補正事項は誤記の訂正に該当するものであるとはいえない。また、当初明細書等には、「式(4)を用いた計算方法は適切で」あることを裏付けるような記載や示唆はなく、「式(4)を用いた計算方法は適切で」あるとすることが自明な事項であるともいえない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 小括
したがって、補正事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものでない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、本件補正は、同条第5項の規定に違反するものであるので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
明細書についての平成28年4月28日付け手続補正(本件補正)は、上記のとおり却下されており、また、平成27年10月26日付け手続補正は、明細書についての補正であるから、本願の請求項1?7に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されたものであって、以下のとおりである。
「【請求項1】
光源からの光を用いてマスクを照明し、前記マスクのパターンの像を投影光学系を用いて基板に投影する露光装置における前記投影光学系の結像特性の変動量を算出する算出方法において、
単位露光エネルギー当たりの前記投影光学系の結像特性の変動量を露光係数として、
前記基板を露光するための露光光が第1波長帯域である場合の前記投影光学系の光学特性の変動量のデータを用いて、前記第1波長帯域の露光係数を算出する工程と、
前記第1波長帯域とは異なる第2波長帯域の露光係数を、前記第1波長帯域の露光係数を用いて算出する工程と、
前記第2波長帯域の露光係数を用いて、前記第2波長帯域の露光光を用いて前記基板を露光する場合の前記投影光学系の結像特性の変動量を算出する工程とを有することを特徴とする算出方法。
【請求項2】
前記第1波長帯域の露光係数および前記第2波長帯域の露光係数を用いて、前記第1波長帯域の光および前記第2波長帯域の光を含む露光光に対して、前記第1波長帯域の光強度および前記第2波長帯域の光強度および前記投影光学系の透過率に応じた合成露光係数を算出する工程を有し、
前記合成露光係数を用いて、前記第1波長帯域の光および前記第2波長帯域の光を含む露光光を用いて前記基板を露光する場合の前記投影光学系の結像特性の変動量を算出することを特徴とする請求項1に記載の算出方法。
【請求項3】
前記第1波長帯域の露光係数を算出する工程において、前記投影光学系の結像特性の変動量を露光エネルギー値で割ることにより前記露光係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の算出方法。
【請求項4】
前記第2波長帯域の露光係数を、前記第1波長帯域に対する第2波長帯域の光強度比および前記投影光学系の透過率比を用いて算出することを特徴とする請求項1に記載の算出方法。
【請求項5】
光源からの光を用いてマスクを照明する照明光学系と、前記マスクのパターンの像を基板に投影する投影光学系とを有する露光装置において、
単位露光エネルギー当たりの前記投影光学系の結像特性の変動量を露光係数として、
前記基板を露光するための露光光の第1波長帯域の露光係数および前記第1波長帯域とは異なる第2波長帯域の露光係数を記憶する記憶部と、
前記投影光学系の結像特性の変動量を算出する算出部とを有し、
前記記憶部は、前記露光光が第1波長帯域である場合の前記投影光学系の結像特性の変動量のデータを用いて算出された前記第1波長帯域の露光係数と、前記第1波長帯域の露光係数を用いて算出された前記第2波長帯域の露光係数とを記憶し、
前記算出部は、前記第2波長帯域の露光係数を用いて、前記第2波長帯域の露光光を用いて前記基板を露光する場合の前記投影光学系の結像特性の変動量を算出することを特徴とする露光装置。
【請求項6】
該算出された前記投影光学系の結像特性の変動量を用いて、前記投影光学系、前記マスクを支持するマスクステージおよび前記基板を支持する基板ステージの少なくとも1つを制御することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
請求項5に記載の露光装置を用いて、前記投影光学系の結像特性を制御して前記基板を露光する工程と、
該露光された基板を現像する工程とを有することを特徴とするデバイス製造方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
「●理由1(特許法第36条第4項第1号)について
・請求項 1-7
平成27年10月26日付け手続補正書により、出願人は明細書の発明の詳細な説明についてのみ補正した。しかしながら、この出願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が請求項1-7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

平成27年10月26日付け意見書で、出願人は以下の点を主張している。
・出願人の主張
(1)「(3)第2波長帯域における露光係数を算出する、第3工程について ・・・(中略)・・・
K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β2/β1)・・・(4)
・・・(中略)・・・投影光学系の熱吸収量は直接的には投影光学系に吸収される光の強度に関係します。・・・(中略)・・・1から透過率を引いて吸収率を求めることが可能な関係となります。・・・(中略)・・・式(4)を用いて第2波長帯域における露光係数K(2)を算出することは困難ではなく、式(4)を用いた計算方法は適切です。」

・前記出願人の主張(1)について
投影光学系に吸収される光の強度は、投影光学系の光透過率ではなく光吸収率に関係し、光吸収率が大きいほど、より光が吸収されて熱吸収量が大きくなることは明らかであり、また、熱吸収量が大きい方が、収差変動量がより大きくなると思われる。
ここで、仮に、第1波長帯域の光の透過率β1=0.9、第2波長帯域の光の透過率β2=0.8、露光光の強度をα1=α2とする。そうすると、1から透過率を引くことにより吸収率を求めるのであれば、第1、第2波長帯域の光の吸収率は、それぞれ、1-β1=0.1、1-β2=0.2となり、第2波長帯域の吸収率は第1波長帯域の吸収率の2倍に大きくなるから、同じ照射露光エネルギーに対する収差変動量は、第2波長帯域の方が大きくなると思われる。
一方、β2/β1=0.8/0.9≒0.89となるから、式(4)からK(2)=0.89K(1)の関係が得られ、この関係と式(1):ΔF=K×Qとを用いると、同じ照射露光エネルギーQに対する収差変動量は第2波長帯域の方が小さくなることがわかる。つまり、式(4)で透過率を用いて求めた露光係数K(2)と式(1)とを用いて収差変動量を計算すると、第1波長帯域の収差変動量よりも第2波長帯域の収差変動量の方が小さくなる。
そうすると、吸収率の変化に対して想定される収差変動量の変化と、式(4)により求めた露光係数Kの変化に対して想定される収差変動量の変化とは、変化の向きが逆になる。
したがって、「吸収率ではなく、透過率を用い」た式(4)を適用して、第2波長における露光係数K(2)を算出することは、困難であると思われる。
したがって、出願人の上記主張は採用できない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、依然として、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができない。」

3 当審の判断
本願請求項1?4には「前記第1波長帯域とは異なる第2波長帯域の露光係数を、前記第1波長帯域の露光係数を用いて算出する工程」が記載され、本願請求項5?7には「前記第1波長帯域の露光係数を用いて算出された前記第2波長帯域の露光係数とを記憶」することが記載されている。
一方、第1波長帯域の露光係数から第2波長帯域の露光係数を算出することに関連する記載のある段落【0049】の補正を含む本件補正は上記のとおり却下されているから、本件補正前の段落【0049】の記載は、上記「第2」「1」「(1)本件補正前」に記載のとおりのものである。再掲すれば、以下のとおりである。
「そこで、露光光の強度の違い、投影光学系を構成している光学素子の光学特性、例えば波長に対する透過率の違いなどを考慮して、第1波長帯域の露光係数を利用して第2波長帯域の露光係数を算出する。第1工程で使用した第1波長帯域の露光光の強度をα1、第2波長帯域の露光光の強度をα2とし、投影光学系の光透過率について、第1波長帯域の光の透過率をβ1、第2波長帯域の光の透過率をβ2とする。基準となる第1波長帯域の露光係数をK(1)とすると、第2波長帯域の露光係数K(2)は式(4)により求めることができる。
K(2)=K(1)×(α2/α1)×(β2/β1)・・・(4)」
よって、請求項1-7に係る発明において、第1波長帯域の露光係数から第2波長帯域の露光係数の算出は、具体的には式(4)によってなされるものである。

ここで、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であることを踏まえて、露光係数Kについて検討する。
第1波長帯域と第2波長帯域の光透過率がβ1>β2の関係にある場合、第1波長帯域と第2波長帯域の光吸収率は(1-β1)<(1-β2)の関係となる。そして、露光光の強度が第1波長帯域と第2波長帯域で変わらないとすると、光吸収率の大きい第2波長帯域の方が熱吸収量が大きくなり、熱吸収量が大きい第2波長帯域の方が、収差変動量はより大きくなり、収差変動量が大きい方である第2波長帯域の露光係数K(2)は第1波長帯域の露光係数K(1)よりも大きいことになる。
一方、式(4)において、第1波長帯域と第2波長帯域の光透過率がβ1>β2の関係にある場合、(β2/β1)<1となり、露光光の強度が第1波長帯域と第2波長帯域で変わらないとすると(α2/α1=1)、露光係数はK(1)>K(2)の関係になる。
してみると、第1波長帯域と第2波長帯域の光透過率がβ1>β2の関係にある場合、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であることから求められる露光係数の大小関係は、K(1)<K(2)となるのに対し、式(4)から求められる露光係数の大小関係は、K(1)>K(2)となり、また、第1波長帯域と第2波長帯域の光透過率がβ1<β2の関係にある場合、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であることから求められる露光係数の大小関係は、K(1)>K(2)となるのに対し、式(4)から求められる収差変動量は、K(1)<K(2)となる。
つまり、第1波長帯域の露光係数から第2波長帯域の露光係数を算出することに関連して、発明の詳細な説明に記載された式(4)から第2波長帯域の露光係数を算出することは、上記当業者にとって自明であること及び上記技術常識であることに反することになり、妥当な算出結果を得ることができないものである。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、第1波長帯域の露光係数から第2波長帯域の露光係数を算出することを含む請求項1-7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

第4 むすび
本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-10 
結審通知日 2017-03-14 
審決日 2017-03-27 
出願番号 特願2011-262273(P2011-262273)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤尾 隼人今井 彰  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
森 竜介
発明の名称 投影光学系の結像特性の変動量の算出方法、露光装置およびデバイス製造方法  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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