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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1328348
審判番号 不服2015-5220  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-18 
確定日 2017-05-17 
事件の表示 特願2013- 48132「半導体デバイスおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日出願公開,特開2013-110443〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成22年10月29日(パリ条約による優先権主張2009年10月29日,アメリカ合衆国,2010年7月29日,アメリカ合衆国)に出願した特願2010-243342号(以下「もとの出願」という。)の一部を平成25年3月11日に新たな特許出願としたものであって,平成26年3月6日付けの拒絶理由の通知に対して,同年6月18日に意見書と手続補正書が提出されたが,同年11月12日付けで拒絶査定され,平成27年3月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成28年5月26日付けで,前記平成27年3月18日付けの手続補正を却下するとともに同日付けで当審から拒絶理由を通知し,これに対して,平成28年8月31日に意見書と手続補正書が提出されたものである。
そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,前記平成28年8月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
複数の誘電体層および導電層を含む基板と,
前記複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続しており,約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクトと,
前記金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層と,
前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッドと,
前記コンタクトパッドおよび前記第1パッシベーション層上に設けられた第2パッシベーション層であって,前記第2パッシベーション層は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触することと,を備える半導体デバイスにおいて,
前記金属コンタクトは,前記コンタクトパッドに対して縦方向に整列されることを特徴とする半導体デバイス。」

なお,請求項1には,「前記金属コンタクトパッドおよび前記第1パッシベーション層上に設けられた第2パッシベーション層であって,前記第2パッシベーション層は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触すること」と記載されているが,当該記載箇所よりも前には,「コンタクトパッド」との記載は存在するが,「前記金属コンタクトパッド」の「前記」に対応する「金属コンタクトパッド」との記載は存在せず,しかも,平成28年8月31日に提出された意見書における,「(カ)について,関連する記載は,他の適切な記載(第2パッシベーション層を前記コンタクトパッドおよび前記第1パッシベーション層上に形成するステップであって,前記第2パッシベーション層は前記コンタクトパッドの上面を露出するとともに,前記第1パッシベーション層と接触する)により置き換えました。よって,これに関連する拒絶理由は解消したものと考えます。」との主張を踏まえると,前記「金属コンタクトパッド」は,「コンタクトパッド」の誤記と認められる。
したがって,本願発明1を上記のように認定した。

2 引用例の記載と引用発明
(1)当審の拒絶理由で引用した,もとの出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-296621号公報(以下「引用例1」という。)には,「半導体装置およびその製造方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図11とともに以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

(1a)「【請求項1】 半導体基板上に設けられた配線層と,前記配線層上に設けられた保護膜と,前記保護膜上に設けられた電極パッドと,を含み,前記配線層と前記保護膜との間に,前記配線層を構成する元素と異なる異種元素を含む酸化防止層を有することを特徴とする半導体装置。
<途中省略>
【請求項6】 請求項1乃至5いずれかに記載の半導体装置において,前記保護膜がTi層またはTiN層を含むことを特徴とする半導体装置。
<途中省略>
【請求項8】 半導体基板上に配線層を形成する工程と,
前記配線層上に保護膜を形成する工程と,
前記配線層の表面に,前記保護膜を構成する元素であって,前記配線層を構成する元素と異なる異種元素を熱拡散させ,前記配線層と前記保護膜との間に酸化防止層を形成する工程と,
前記保護膜上に電極パッドを設ける工程と,
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
<途中省略>
【請求項14】 請求項8乃至13いずれかに記載の半導体装置の製造方法において,保護膜を形成する前記工程は,Ti層またはTiN層を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,電極パッドを有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体デバイスにおいて,半導体基板上にパターニングされた配線構造のうち,最上層の配線に,外部との電気的接続を確保するための接続用の電極パッドが形成されることがある。以下,電極パッドを有する半導体装置の製造方法の例について説明する。」

(1c)「【0016】
【発明が解決しようとする課題】
このように,従来の半導体装置では,良品/不良品選別のプロセスにおける基板の上面方向からの衝撃に対する耐性が充分でなかった。また,衝撃により銅配線が露出した際に,露出した表面の腐食の抑制された半導体装置が求められていた。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的は半導体装置の上面方向からの耐衝撃性を向上させる技術を提供することにある。また,本発明の別の目的は,最上層配線の表面の耐食性を向上させる技術を提供することにある。また,本発明の別の目的は,良品/不良品選別過程で電極パッドの表面にプローブを突き当てた際の配線層の上層に生じる亀裂を抑制する技術を提供することにある。また,本発明のさらにまた別の目的は,良品/不良品選別過程で電極パッドの表面にプローブを突き当てた際の配線層の腐食を防止する技術を提供することにある。」

(1d)「【0023】
本発明に係る製造方法は,配線層上に保護膜を形成する工程を含むため,プローブを突き当てた際の耐衝撃性に優れた半導体装置を得ることができる。このため,配線層の上層に損傷が生じ,配線層の表面が露出した際にも,配線層の酸化による腐食が抑制される半導体装置を得ることができる。また,配線層と保護膜との間に,配線層を構成する元素と異なる異種元素を含む酸化防止層を確実に形成することができる。酸化防止層は,異種元素が配線層の表面に拡散して形成された層であってもよいし,配線層を構成する元素が保護膜の表面に拡散して形成された層であってもよい。」

(1e)「【0029】
本発明の半導体装置において,前記保護膜がTi層またはTiN層である構成とすることができる。また,本発明の半導体装置の製造方法において,保護膜を形成する前記工程は,Ti層またはTiN層を形成する工程を含んでもよい。保護膜がTi層またはTiN層を含むことにより,保護層の機械的強度が確保されるため,プローブを突き当てた際の配線層の損傷をさらに抑制することができる。」

(1f)「【0032】
(第一の実施形態)
図1は,本実施形態に係るパッド構造を示す図である。図1に示したように,パッド構造124では,めっき法により成膜されたCu配線112の上部にTi膜116およびTiN膜115がこの順に形成されたTiN/Ti膜125を有している。TiN膜115は機械的強度に優れる膜であるため,良品/不良品選別試験の際には,TiN/Ti膜125がCu配線112の保護膜となる。このため,パッド構造124の良品/不良品選別の際に,プローブをパッド金属膜117に突き当てた際の耐衝撃性に優れた構造となっている。
【0033】
なお,本明細書では,積層された保護膜は,「上層/下層」のように表す。たとえば,TiN/Ti膜125では,Ti膜116が下層となり,TiN膜115が上層となる。
【0034】
また,パッド構造124では,Cu配線112の上面に,Ti-Cu層113が形成されている。このため,プローブを突き当てた際にTiN/Ti膜125にクラックが生じてCu配線112が露出した場合にも,Cu配線112の腐食が抑制される。これは,TiはCuよりも卑な,すなわち酸化還元電位が低い金属であるため,パッド金属膜117が空気中に曝され酸素や水と接触した際に,Ti-Cu層113中のTiがCuよりも優先的に酸化され,Cuの酸化を防止するためである。このように,Ti-Cu層113はCu配線112表面の腐食を防止する酸化防止層としての役割を果たしており,Cu配線112を設けることにより,Cu配線112の表面が腐食されることによる電気的コンタクトの低下が抑制される。
【0035】
Cu配線112およびTiN/Ti膜125の厚さは所定の厚さに設計することができるが,たとえば,Cu配線112の厚さを1.6μm程度,Ti膜116の厚さを50nm程度,TiN膜115の厚さを200nm程度とすることができる。こうすれば,Cu配線112表面に好適にTi-Cu層113が形成されるとともに,TiN/Ti膜125に好適な機械強度が確保される。
【0036】
また,Ti-Cu層113は,CuとTiとの合金であってもよいし,TiとCuとを含む化合物であってもよい。また,めっき法により形成されたCu配線112の表面のグレインのバウンダリーにTiが拡散した形態であってもよい。Ti-Cu層113中のTiとCuの割合は,Cuの酸化が抑制される範囲で任意に選択することができる。好ましくは,固溶限以下の範囲とする。また,Ti-Cu層113の厚さはたとえば10nm以上とすることができる。こうすることにより,Cuの腐食を確実に抑制することができる。また,20nm以上とすることが好ましい。こうすれば,より一層確実にCuの腐食が抑制される。また,Ti-Cu層113の厚さに特に上限はないが,たとえばCu配線112の厚さの1/2以下とすることができる。こうすることにより,電気抵抗の上昇が好適に抑制される。
【0037】
パッド構造124では,パッド金属膜117の材料として,たとえばAl-Cu合金を用いることができる。また,Al-Ti合金,Al-W合金,Al-Mg合金,Al-Si合金またはAlとしてもよい。保護膜としてTiN/Ti膜125を用い,パッド金属膜117としてAl-Cu合金を用いることにより,パッド金属膜117中のAlの(111)面方向の配向性が良好となる。このため,パッド金属膜117とTiN/Ti膜125との間の導電性が向上するともに,パッド金属膜117を配線として用いた場合,EM(エレクトロマイグレーション)耐性が向上する。
【0038】
Al-Cu合金を用いる場合,AlとCuの比率はたとえばAl/Cu=50/50?98/2(重量比)程度とすることができる。また,パッド金属膜117の厚さは,たとえば1μm?2μm程度とすることができる。
【0039】
また,パッド構造124において,層間絶縁膜114の材料としては,たとえばシリコン酸化膜や,シリコン酸窒化膜,シリコン窒化膜,各種低誘電率絶縁膜等を用いることができる。」

(1g)「【0040】
次に,図1のパッド構造の製造方法について図2を参照して説明する。図2は,本実施形態に係るパッド構造の製造方法を示す図である。
【0041】
まず,シリコン基板110上に,配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111を形成する。最上層の層間絶縁膜上にCu配線112を形成する。次いで,SiON及びSiO_(2)を含む2層構造の層間絶縁膜114を形成する。そして,パッドビアフォトリソグラフィーおよびパッドビアエッチング工程を経て,パッドビアを開口するビアホール122を形成する(図2(a))。
【0042】
次に,層間絶縁膜114上にTi膜116,TiN膜115,パッド金属膜117およびTiN膜121を順次形成する。ここで,Ti膜116およびTiN膜115が積層したTiN/Ti膜125は,たとえば反応性スパッタにより形成する。そして,パッド金属膜117のフォトリソグラフィーを行い,エッチングによりハンダボールの搭載に適した大きさのパッド電極となるようにパターニングし,パッド電極を形成する(図2(b))。
【0043】
つづいて,不活性ガス雰囲気中で熱アニールを行う。この工程により,Ti膜116中のTiがCu配線112との界面からCu配線112中に熱拡散する。このため,Cu配線112の表面に,Tiの共存するTi-Cu層113が形成される(図2(c))。アニールに用いる不活性ガスは,たとえばH_(2)ガス,N_(2)ガス,Arガス等とすることができる。また,アニール条件は,たとえば350?450℃の温度で30分以上の炉アニールとする。また,炉アニールを施す時間の上限は特にないが,たとえば120分以下とすることができる。
【0044】
このように,後述する電極パッドの形成に通常用いられる加熱条件を上回る条件でアニールすることにより,Ti-Cu層113が確実に形成される。通常行われるボンディング時の加熱では,充分なアニール効果は得られないため,このようなTi-Cu層113を安定的に得ることは困難である。
【0045】
パッド構造124においては,図2(c)のアニールのステップでTi-Cu層113が形成される。このアニールに特有の効果によりTi-Cu層113が形成され,Cu配線112の腐食が確実に防止される。また,Cu配線112の表面が腐食しないため,プローブを突き当てた際に,Cu配線112の上層に損傷が生じた際にも,ハンダボール120と露出したCu配線112との間の密着性が向上する。
【0046】
アニールに次いで,カバー膜を形成した後,カバーフォトリソグラフィーを経てカバースルーホールを形成する。すなわち,パッド金属膜117を覆うようにポリイミド膜118を形成した後,ポリイミド膜118をパターニングして開口部119を設け,パッド金属膜117の一部を露出させる(図2(d))。その後,開口部119底部のTiN膜121を,ドライエッチングによって除き,アミン系有機溶剤を用いて,パッド金属膜117の表面の酸化膜をとりのぞき,図2(d)に示したパッド電極構造を得る。」

(1h)「【0063】
また,TiN膜121は,硬い,もしくは,弾性率の高い金属膜であればよく,TaN,Ta,WN,W,Mo,TiWなどの膜を用いてもよい。さらに,ポリイミド膜118に代わり,たとえばシリコン酸化膜やシリコン窒化膜を用いてもよい。」

(1i)「【0065】
【実施例】
(実施例)
本実施例では,ウェハ上に厚さ1.6μmの銅膜,厚さ約200nmのTiN層,さらに,50nmのTi層および厚さ約1.2μmのAl膜を設けた構造体を作製した。銅膜は配線層に対応し,Al膜がパッド電極に対応する。銅膜は,めっき法で作製し,Al膜はスパッタ法で形成した。TiN層は反応性スパッタにより形成した。
【0066】
得られた構造体を,H_(2)雰囲気中,400℃,30分の条件でアニールした。」

(1j)図1は,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施形態に係るパッド構造を示す図であって,上記摘記(1f)の記載を参酌すれば,同図から,Cu配線112が,Ti膜116およびTiN膜115がこの順に形成されたTiN/Ti膜125及びパッド金属膜117並びにTiN膜121からなる部材に対して,縦方向に整列していることを見て取ることができる。

・引用発明1
上記記載に照らして,引用例1には,図2を参照して説明される図1に示される,以下の発明(以下「引例発明1」という。)が開示されているといえる。

「めっき法により成膜された,厚さを1.6μm程度のCu配線112の上部に,Ti膜116およびTiN膜115がこの順に形成されたTiN/Ti膜125,及び,パッド金属膜117を有し,前記Cu配線112が,前記Ti膜116および前記TiN膜115がこの順に形成された前記TiN/Ti膜125及び前記パッド金属膜117並びにTiN膜121からなる部材に対して,縦方向に整列しているているパッド構造であって,
(i)シリコン基板110上に,配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111を形成する工程と,
(ii)最上層の層間絶縁膜上にCu配線112を形成する工程と,
(iii)SiON及びSiO_(2)を含む2層構造の層間絶縁膜114を形成する工程と,
(iv)パッドビアフォトリソグラフィーおよびパッドビアエッチング工程を経て,前記層間絶縁膜114に,パッドビアを開口するビアホール122を形成する工程と,
(v)前記層間絶縁膜114上にTi膜116,TiN膜115,パッド金属膜117およびTiN膜121を順次形成する工程と,
(vi)パッド金属膜117のフォトリソグラフィーを行い,エッチングによりハンダボールの搭載に適した大きさのパッド電極となるようにパターニングし,パッド電極を形成する工程と,
(vii)不活性ガス雰囲気中で熱アニールを行う工程であって,この工程により,Ti膜116中のTiがCu配線112との界面からCu配線112中に熱拡散して,Cu配線112の表面に,Tiの共存するTi-Cu層113が形成される工程と,
(viii)前記パッド金属膜117を覆うようにポリイミド膜118を形成した後,ポリイミド膜118をパターニングして開口部119を設け,パッド金属膜117の一部を露出させ,その後,開口部119底部のTiN膜121を,ドライエッチングによって除き,アミン系有機溶剤を用いて,パッド金属膜117の表面の酸化膜をとり除く工程と
を含む方法によって作製されたパッド電極構造。」

(2)当審の拒絶理由で引用した,もとの出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-16514号公報(以下「引用例2」という。)には,「半導体装置の製造方法および半導体装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図19とともに以下の記載がある。

(2a)「【0027】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1による電極層に接続する半田バンプ電極を有する半導体装置の製造方法を図1?図5を用いて工程順に説明する。図1はCMOSデバイスおよび多層配線を含む半田バンプ電極の要部断面図,図2?図5はCMOSデバイスを省略した半田バンプ電極のみの要部断面図である。
【0028】
まず,図1に示すように,シリコン単結晶からなる半導体基板(円形の薄い板状に加工した半導体ウエハ)1の主面に所望する半導体素子を形成する。
<途中省略>
【0030】
次に,半導体基板1上に絶縁膜10を形成した後,レジストパターンをマスクとしたエッチングにより絶縁膜10を加工して接続孔11を形成する。この接続孔11はn型半導体領域8またはp型半導体領域9上などの必要部分に形成する。続いて接続孔11の内部に,例えばW(タングステン)を主導体とするプラグ12を形成した後,プラグ12に接続する第1層目の配線M1を形成する。配線M1は,例えばCuを主導体とし,シングルダマシン法により形成される。さらに上層の第2層目の配線M2から第6層目の配線M6を形成する。配線M2?M5は,例えばCuを主導体とし,デュエルダマシン法により形成される。配線M6は,例えばAlを主導体とし,半導体基板1上に堆積されたAl膜をレジストパターンをマスクとしたエッチングにより加工することにより形成される。配線M6の厚さは,例えば1μmである。なお,本実施の形態1では,第6層目の配線M6はAlを主導体とするとしたが,Cuを主導体とすることもできる。また配線層を6層としたが,層数はこれに限定されるものではない。
【0031】
次に,第6層目の配線M6上に窒化シリコン膜13aを形成し,窒化シリコン膜13a上に酸化シリコン膜13bを形成する。これら窒化シリコン膜13aおよび酸化シリコン膜13bは,外部からの水分や不純物の侵入防止およびα線の透過の抑制を行うパッシベーション膜14として機能する。続いてレジストパターンをマスクとしたエッチングにより酸化シリコン膜13bおよび窒化シリコン膜13aを順次加工して,第6層目の配線M6の一部であるボンディングパッド部M6aを露出させる第1の開口部C1を形成する。
【0032】
次に,パッシベーション膜14上に開口部C1より大きめの開口を有するレジストパターンを形成し,第1の開口部C1を介してボンディングパッド部M6aに接続する第1の金属膜15を半導体基板1上に形成した後,第1の金属膜15上に第2の金属膜16を形成する。第2の金属膜16としては,半田の拡散を抑制するバリアメタルとして機能する他に,Auとの密着性が良い,半田の拡散が早い,半田の濡れ性が良い等の性質を有する金属膜,例えばNi膜が用いられる。第1の金属膜15としては,半田の拡散を抑制するバリアメタルとして機能する他に,接触電気抵抗が低く,シート抵抗が低い等の性質を有し,さらに上記第2の金属膜16と比較してAuとの密着性が悪い,半田の拡散が遅い,半田の濡れ性が悪い等の性質を有する金属膜,例えばCu膜,Ti膜,TiN膜,TiW膜,Ta膜,W膜,Cr膜等が用いられる。第1の金属膜15の厚さは,例えば3μm,第2の金属膜16の厚さは,例えば3μmである。続いてレジストパターンを除去し,図2に示すように,第1の開口部C1を介してボンディングパッド部M6aに電気的に接続する第1の金属膜15および第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17を形成する。
【0033】
次に,図3に示すように,無電解メッキ法により,UBM17の上層を構成する第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的にAuシード層18を形成する。Auは,第2の金属膜(代表的な材料としては,例えばNi膜)16上には成長しやすいが,第1の金属膜(代表的な材料としては,例えばCu膜)15上には成長しにくいことから,第2の金属膜16の表面に選択的にAuシード層18を形成することができる。Auシード層18の厚さは,例えば0.08μmである。
【0034】
次に,図4に示すように,半導体基板1上に樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜を塗布した後,リソグラフィ法により加工して,UBM17の上面であって,半田バンプ電極が形成される領域のAuシード層18を露出させる第2の開口部C2を形成する。樹脂膜19の厚さは,例えば5μmである。」

(2b)図4は,引用例2の特許請求の範囲に記載された発明の実施の形態1による半導体装置の製造工程中の要部断面図であって,上記摘記(2a)の記載を参酌すれば,同図から,ボンディングパッド部M6aが,第1の金属膜15及び第2の金属膜からなるUBM(電極層)17並びにAuシード層18に対して,縦方向に整列していることを見て取ることができる。

・引用発明2
上記記載に照らして,引用例2には,以下の発明(以下「引例発明2」という。)が開示されているといえる。

「(i)シリコン単結晶からなる半導体基板(円形の薄い板状に加工した半導体ウエハ)1の主面に所望する半導体素子を形成する工程と,
(ii)前記半導体基板1上に絶縁膜10を形成した後,レジストパターンをマスクとしたエッチングにより絶縁膜10を加工して接続孔11を形成し,続いて前記接続孔11の内部に,例えばW(タングステン)を主導体とするプラグ12を形成した後,プラグ12に接続する第1層目の配線M1を形成する工程と,
(iii)さらに上層の第2層目の配線M2から第6層目の配線M6を形成する工程であって,前記配線M6は,例えばAlを主導体とし,半導体基板1上に堆積されたAl膜をレジストパターンをマスクとしたエッチングにより加工することにより形成され,当該配線M6の厚さは,例えば1μmである工程と,
(iv)第6層目の前記配線M6上に,外部からの水分や不純物の侵入防止およびα線の透過の抑制を行うパッシベーション膜14として機能する窒化シリコン膜13a及び酸化シリコン膜13bからなる層を形成する工程と,
(v)レジストパターンをマスクとしたエッチングにより前記酸化シリコン膜13bおよび前記窒化シリコン膜13aを順次加工して,第6層目の前記配線M6の一部であるボンディングパッド部M6aを露出させる第1の開口部C1を形成する工程と,
(vi)前記パッシベーション膜14上に開口部C1より大きめの開口を有するレジストパターンを形成し,第1の開口部C1を介してボンディングパッド部M6aに接続する第1の金属膜15を半導体基板1上に形成した後,第1の金属膜15上に第2の金属膜16を形成して,前記第1の金属膜15および前記第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17を形成する工程と,
(vii)無電解メッキ法により,UBM17の上層を構成する第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的にAuシード層18を形成する工程と,
(viii)前記半導体基板1上に樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜を塗布した後,リソグラフィ法により加工して,UBM17の上面であって,半田バンプ電極が形成される領域のAuシード層18を露出させる第2の開口部C2を形成する工程を含む製造方法によって作製された半導体装置であって,
前記ボンディングパッド部M6aが,前記第1の金属膜15及び前記第2の金属膜からなる前記UBM(電極層)17並びに前記Auシード層18に対して,縦方向に整列している半導体装置。」

(3)当審の拒絶理由で引用した,もとの出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-32600号公報(以下「引用例3」という。)には,「半導体装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図11とともに以下の記載がある。

(3a)「【0003】
例えば,非特許文献1(K.Kikuchi,et al.,“A Package-process-oriented tilevel 5-μm-thick Cu Wiring Technology with Pulse Periodic Reverse Electroplating and Photosensitive Resin”,Proceeding of the IEEE 2003 International Interconnect Technology Conference(United States of America),June 2003,p.189-191)には,厚さ0.5μm程度のアルミニウム配線からなる微細配線構造部の上に,厚さ5μmの銅で形成された巨大配線からなる巨大配線構造部を設けた技術が開示されている。非特許文献1には,これにより,配線抵抗による電圧降下を通常のLSI配線と比較して1/5に低減できると記載されている。」

(3b)「【0050】
配線層15及び17は,微細配線構造部12の配線層28の2倍以上の厚さを持っている。第2配線層15の厚さ及び第3配線層17の厚さは,例えば3乃至12μmであり,好ましくは5乃至10μmである。配線層15,17の厚さが3μm未満の場合,配線抵抗が高くなり,半導体装置の電気特性が悪化してしまうという欠点がある。厚さが12μmを超える配線層は,プロセス上の制約から形成することが困難であるという欠点がある。厚さが5μm未満の場合,第2配線層15及び第3配線層17の厚さが破断し易くなり,厚さが10μmを超える場合,巨大配線構造部13全体が厚くなり,その内部応力により基板が反ってしまう虞がある。」

(3c)「【0062】
また,配線を伝搬する応力は,第2巨大配線構造部13bの配線23内で減衰し,更に第1巨大配線構造部13aの絶縁層14及び配線層15内で減衰し緩和される。更に,巨大配線構造部13における配線層15及び配線層17の厚さを微細配線構造部12の配線層28の2倍以上として,絶縁層14及び絶縁層16の変形による配線層15及び配線層17の破断を防止することができるとともに,配線21及び配線23の配線抵抗を小さくすることができる。配線層15及び配線層17の厚さが配線層28の厚さの2倍未満である場合,配線層15及び配線層17が破断し易くなり,また配線抵抗が大きくなるという欠点がある。更にまた,配線層15及び配線層17の厚さが大きくなると,それに対応して絶縁層14及び絶縁層16の1層当たりの厚さも大きくなるため,応力を緩和する効果が高まる。これにより,微細配線構造部12への応力の伝搬を効果的に低減することができ,実装時の信頼性の高い半導体装置を実現できる。従って,巨大配線構造部を使用して,駆動電流が大きく高周波で動作する信頼性の高い半導体装置を提供することが可能となる。」

3 引用発明1を主引例とした進歩性の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「(i)シリコン基板110上に,配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111を形成する工程」における,「シリコン基板110」,「配線層」及び「層間絶縁膜」は,それぞれ,本願発明1の「基板」,「導電層」及び「誘電体層」に相当する。
そして,引用発明1は,「配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111を形成する」ものであるから,前記「配線層及び層間絶縁膜」は,複数であると解される。
したがって,本願発明1と,引用発明1は,「複数の誘電体層および導電層を含む基板」を備える点で一致する。

イ 引用発明1の「1.6μm程度」の「厚さ」は,約15,000Åより大きい厚さに該当する。
そして,引用発明1の「(vii)不活性ガス雰囲気中で熱アニールを行う工程であって,この工程により,Ti膜116中のTiがCu配線112との界面からCu配線112中に熱拡散して,Cu配線112の表面に,Tiの共存するTi-Cu層113が形成される工程」を経た後の「表面にTiの共存するTi-Cu層113が形成されたCu配線」が,金属コンタクトの一種であることは明らかである。
したがって,本願発明1と,引用発明1は,「約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクト」を備える点で一致する。

ウ 引用発明1の「SiON及びSiO_(2)を含む2層構造の層間絶縁膜114」は,本願発明1の「金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層」に相当する。

エ 本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0021】
しかしながら,当業者なら認識するであろうが,コンタクトパッド203を形成する上述のプロセスは,1つの材料および形成方法にすぎない。他の好適な材料,例えば,アルミニウム,金,銀,ニッケル,銅,タングステン,チタン,タンタル,前述の化合物,前述の合金,前述の多層構造,前述の複合物,前述の組み合わせを含む(しかしこれに限定されるものではない)材料が用いられ得る。また,異なる材料は,異なる形成方法,例えばスパッタリング,または更にはデュアルダマシンプロセスなどを必要とする可能性がある。これらの材料および形成方法の全ては,代替的に用いられてよく,かつそれぞれ本発明の範囲内に含まれることを十分に意図するものである。」
すなわち,本願発明1の「コンタクトパッド」として,多層構造が用いられ得ることが理解できる。
そうすると,引用発明1の,「(v)前記層間絶縁膜114上にTi膜116,TiN膜115,パッド金属膜117およびTiN膜121を順次形成する工程」,「(vi)パッド金属膜117のフォトリソグラフィーを行い,エッチングによりハンダボールの搭載に適した大きさのパッド電極となるようにパターニングし,パッド電極を形成する工程」及び「(viii)前記パッド金属膜117を覆うようにポリイミド膜118を形成した後,ポリイミド膜118をパターニングして開口部119を設け,パッド金属膜117の一部を露出させ,その後,開口部119底部のTiN膜121を,ドライエッチングによって除き」の工程を経た後の,「ハンダボールの搭載に適した大きさのパッド電極となるようにパターニング」された「Ti膜116,TiN膜115,パッド金属膜117およびTiN膜121」からなる構造体は,本願発明1の「前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド」に相当するといえる。

オ 引用発明1の「前記パッド金属膜117を覆うように」形成された「ポリイミド膜118」と,本願発明1の「第2パッシベーション層」は,いずれも,コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた「層」であって,前記「層」は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触する「層」である点で一致する。

カ 引用発明1の「パッド電極構造」と,本願発明1の「半導体デバイス」は,いずれも構造体である点で一致する。

キ 以上をまとめると,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「複数の誘電体層および導電層を含む基板と,
約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクトと,
前記金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層と,
前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッドと,
前記コンタクトパッドおよび前記第1パッシベーション層上に設けられた層であって,前記層は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触することと,を備える構造体において,
前記金属コンタクトは,前記コンタクトパッドに対して縦方向に整列される構造体。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1の「金属コンタクト」が,「複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続」しているのに対して,引用発明1の「Cu配線112」が,「配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111」のうちの最上層の配線層と電気的に接続しているか明記されていない点。

・相違点2:コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた「層」であって,前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触する「層」が,本願発明1では,「パッシベーション層」であるのに対して,引例発明1では,「ポリイミド膜」である点。

・相違点3:本願発明1が,「半導体デバイス」に係る発明であるのに対して,引用発明1が,「パッド構造」に係る発明である点。

(2)判断
・相違点1について
層間絶縁膜を介して隣接して積層された配線層を,電気的に接続する構造は周知である。
したがって,引用発明1において,「Cu配線112」を,「配線層及び層間絶縁膜等が積層した多層膜111」のうちの最上層の配線層と電気的に接続することは,当業者が適宜なし得たことである。

・相違点2について
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0022】
図3は,第2パッシベーション層201上の第3パッシベーション層301,バンプ下地金属(UBM)302,およびマスク303の形成を示している。第3パッシベーション層301は,ウエハ100が遭遇する可能性のある次のプロセスおよび他の環境の間に,第2パッシベーション層201およびコンタクトパッド203を物理的損傷および環境的損傷から保護するために,第2パッシベーション層201およびコンタクトパッド203上に形成することができる。第3パッシベーション層301は,代替的に第1パッシベーション層107と第2パッシベーション層201と異なる材料より形成されてもよいが,第3パッシベーション層301は,第1パッシベーション層107と第2パッシベーション層201(図1および図2にそれぞれ関連して上記に説明した)と同様の材料で,かつ同様のプロセスによって形成されてもよい。」
すなわち,本願発明1の「パッシベーション層」は,「保護層」という程度の意味で用いられている用語であると理解される。
そして,引用発明1の「ポリイミド膜」は,保護層の一種といえる。
したがって,相違点2は,実質的なものとは認められない。

なお,仮に,本願の発明の詳細な説明の【0016】の「第1パッシベーション層107は,最上層の第2導電層115上に形成され得,酸化物または窒化ケイ素などの誘電体材料を含み得るが,他の好適な誘電体,例えば,高k誘電体,またはこれらの材料の任意の組み合わせが代替的に用いられてもよい。」との記載に基づいて,「パッシベーション層」を,「酸化物または窒化ケイ素など」に限定して解したとしても,引用文献1の上記摘記(1h)の「さらに,ポリイミド膜118に代わり,たとえばシリコン酸化膜やシリコン窒化膜を用いてもよい。」との記載に基づいて,引用発明1の「ポリイミド膜」を,「シリコン酸化膜やシリコン窒化膜」に変更することは当業者が適宜なし得たことである。

・相違点3について
引用文献1の上記摘記(1b)の「本発明は,電極パッドを有する半導体装置およびその製造方法に関する。」との記載に基づいて,引用発明1を,「半導体装置」に適用することは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求の理由において,請求人は,「一方,審査官殿は,引用例1は,図1を参照して,金属コンタクト112,第1保護層114,コネクタ120,コンタクトパッド117/116/115,および第2保護層118を開示すると認定されました(参考図2:引用例1,図1)。 しかしながら,引用例1は,本願発明の『第2保護層がコンタクトパッドの上面に接続する』との限定は,開示していません。引用例1では,第2保護層(118)とコンタクトパッド(117/116/115)は,TiN層(121)により分離されておりますが,TiN層(121)は,コネクタ(120)と金属コンタクト(112)を電気的に接続するために利用されておらず,コンタクトパッドとして構成されないものです。したがって,請求項1,3および5,ならびにそれらの従属請求項2,4?5,および6?7は,引用例1に対して,特許されるべきと思料いたします。」と主張する。
しかしながら,上記「3(1)エ」で検討したように,本願発明1の「コンタクトパッド」として,多層構造が用いられ得ることが理解できるから,引用発明1の「Ti膜116,TiN膜115,パッド金属膜117およびTiN膜121」からなる構造体は,本願発明1の「前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド」に相当すると認められる。
また,仮に,TiN層(121)が,「コネクタ(120)と金属コンタクト(112)を電気的に接続するために利用されておらず,コンタクトパッドとして構成されないもの」と解したとしても,TiN層(121)は,引用発明1において,必須の構成要素ではないから,引用発明1において,前記TiN層(121)を省略することは当業者が適宜なし得たことである。
この点について,請求人は,平成28年8月31日に提出した意見書において,「TiN膜121は,保護膜であります(引用例1の請求項1参照)。なお,TiN膜121は,引用例1の必須要素であり,当業者は,引用例1に基づいてこれを容易に省略することはできないと考えます。」と主張する。
しかしながら,引用文献1の請求項1において必須の構成要素として特定される「配線層上に設けられた保護膜」は,引用発明1の「Ti膜116およびTiN膜115がこの順に形成されたTiN/Ti膜125」(あるいは,「Ti膜125」)であって,「TiN膜121」ではないから,請求人の前記主張は前提を誤っており採用することはできない。

(4)効果について
請求人は,平成28年8月31日に提出した意見書において,「本願発明の半導体デバイスは,その補正された明細書及び特許請求の範囲からも明らかなとおり,『複数の誘電体層および導電層を含む基板』を有する点,『複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続しており,約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクト』を有する点,『金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層』を有する点,『第1パッシベーション層を貫通して延伸し,金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド』を有する点,『コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた第2パッシベーション層は,コンタクトパッドの上面を露出し,第1パッシベーション層と接触する』点,及び『金属コンタクトは,コンタクトパッドに対して縦方向に整列される』点において,引用例1-7に対して新規であり,このような新規な構成を有するため,金属コンタクトは,基板に含まれる誘電体層により良い緩衝を与えることができ,誘電体層が他の物体によって損傷,剥離,又は亀裂を生じることなく,より粗野な処理,運送,および使用を可能にする,という格別なる効果を奏するものであります。」と格別の効果を主張する。
しかしながら,請求人が,「このような新規な構成」と主張する構成は,上記で検討したように,いずれも引用発明1が備える構成であるから,これらの構成を備える引用発明1もまた同様に,本願発明1と同様の効果を奏するものと認められる。
したがって,本願発明1が,引用発明1と比較して,格別の効果を奏するものであると認めることはできないから,審判請求人の前記主張は採用することができない。

(5)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明1において,上記相違点1ないし3に係る本願発明1の構成を採用することは,引用例1に接した当業者であれば周知技術に基づいて容易になし得たことである。
したがって,本願発明1は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 引用発明2を主引例とした進歩性の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「シリコン単結晶からなる半導体基板(円形の薄い板状に加工した半導体ウエハ)1」,「第1層目の配線M1」及び「絶縁膜10」は,それぞれ,本願発明1の「基板」,「導電層」及び「誘電体層」に相当する。
そして,引用発明2は,「(iii)さらに上層の第2層目の配線M2・・・を形成する工程」を含むのであるから,引用発明2は,「複数の誘電体層および導電層」を含むといえる。
したがって,本願発明1と,引用発明2は,「複数の誘電体層および導電層を含む基板」を備える点で一致する。

イ 引用発明2の「第6層目の前記配線M6の一部であるボンディングパッド部M6a」は,金属コンタクトの一種であるといえる。
したがって,本願発明1と,引用発明2は,「所定の厚さを有する金属コンタクト」を備える点で一致する。

ウ 引用発明2の「SiON及びSiO_(2)を含む2層構造の層間絶縁膜114」は,本願発明1の「金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層」に相当する。

エ 本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0021】
しかしながら,当業者なら認識するであろうが,コンタクトパッド203を形成する上述のプロセスは,1つの材料および形成方法にすぎない。他の好適な材料,例えば,アルミニウム,金,銀,ニッケル,銅,タングステン,チタン,タンタル,前述の化合物,前述の合金,前述の多層構造,前述の複合物,前述の組み合わせを含む(しかしこれに限定されるものではない)材料が用いられ得る。また,異なる材料は,異なる形成方法,例えばスパッタリング,または更にはデュアルダマシンプロセスなどを必要とする可能性がある。これらの材料および形成方法の全ては,代替的に用いられてよく,かつそれぞれ本発明の範囲内に含まれることを十分に意図するものである。」
すなわち,本願発明1の「コンタクトパッド」として,多層構造が用いられ得ることが理解できる。
そうすると,引用発明2の,「第1の開口部C1を介してボンディングパッド部M6aに接続する第1の金属膜15を半導体基板1上に形成した後,第1の金属膜15上に第2の金属膜16を形成して,前記第1の金属膜15および前記第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17を形成する工程」と,「無電解メッキ法により,UBM17の上層を構成する第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的にAuシード層18を形成する工程」とを経ることで形成された,「第1の金属膜15および前記第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17」と,前記第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的に形成された「Auシード層18」とからなる構造体は,本願発明1の「前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド」に相当する。

オ 引用発明2の「樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜」と,本願発明1の「第2パッシベーション層」は,いずれも,コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた「層」であって,前記「層」は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触する「層」である点で一致する。

カ 以上をまとめると,本願発明1と引用発明2の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「複数の誘電体層および導電層を含む基板と,
前記複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続しており,所定の厚さを有する金属コンタクトと,
前記金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層と,
前記第1パッシベーション層を貫通して延伸し,前記金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッドと,
前記コンタクトパッドおよび前記第1パッシベーション層上に設けられた層であって,前記層は前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触することと,を備える半導体デバイスにおいて,
前記金属コンタクトは,前記コンタクトパッドに対して縦方向に整列される半導体デバイス。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1の「金属コンタクト」が,「約15,000Åより大きい厚さを有する」のに対して,引用発明2の「第6層目の前記配線M6の一部であるボンディングパッド部M6a」の厚さが,「例えば1μm」である点。

・相違点2:コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた「層」であって,前記コンタクトパッドの上面を露出し,前記第1パッシベーション層と接触する「層」が,本願発明1では,「パッシベーション層」であるのに対して,引例発明2では,「樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜」である点。

(2)判断
・相違点1について
半導体装置の配線設計において,配線層の厚さは設計事項であって,当該厚さを,許容される電圧降下の程度,配線の破断の可能性,配線形成のプロセス上の制約等の条件によって適宜定めることは,当業者において周知慣用の手順といえる。
そして,引用例3の上記摘記(3a)ないし(3c)には,配線抵抗を低く抑えることで半導体装置の電気特性を良好なものとするために,配線層17の厚さを,「例えば3乃至12μm」とすること,すなわち,本願発明1で規定する「約15,000Åより大きい厚さ」に含まれる厚さとすることが記載されている。
してみれば,引用発明2において,「例えば1μm」と特定されている,「第6層目の前記配線M6の一部であるボンディングパッド部M6a」の厚さを,引用発明2が適用される「半導体装置」に求められる電気的特性に応じて,より大きい厚さである,「約15,000Åより大きい厚さ」に含まれる値とすることは当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0022】
図3は,第2パッシベーション層201上の第3パッシベーション層301,バンプ下地金属(UBM)302,およびマスク303の形成を示している。第3パッシベーション層301は,ウエハ100が遭遇する可能性のある次のプロセスおよび他の環境の間に,第2パッシベーション層201およびコンタクトパッド203を物理的損傷および環境的損傷から保護するために,第2パッシベーション層201およびコンタクトパッド203上に形成することができる。第3パッシベーション層301は,代替的に第1パッシベーション層107と第2パッシベーション層201と異なる材料より形成されてもよいが,第3パッシベーション層301は,第1パッシベーション層107と第2パッシベーション層201(図1および図2にそれぞれ関連して上記に説明した)と同様の材料で,かつ同様のプロセスによって形成されてもよい。」
すなわち,本願発明1の「パッシベーション層」は,「保護層」という程度の意味で用いられている用語であると理解される。
そして,引用発明2の「樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜」は,保護層の一種といえる。
したがって,相違点2は,実質的なものとは認められない。

なお,仮に,本願の発明の詳細な説明の【0016】の「第1パッシベーション層107は,最上層の第2導電層115上に形成され得,酸化物または窒化ケイ素などの誘電体材料を含み得るが,他の好適な誘電体,例えば,高k誘電体,またはこれらの材料の任意の組み合わせが代替的に用いられてもよい。」との記載に基づいて,「パッシベーション層」を,「酸化物または窒化ケイ素など」に限定して解したとしても,引用文献1の上記摘記(1h)の「さらに,ポリイミド膜118に代わり,たとえばシリコン酸化膜やシリコン窒化膜を用いてもよい。」との記載に基づいて,引用発明2の「樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜」を,「シリコン酸化膜やシリコン窒化膜」に変更することは当業者が容易になし得たことである。

(3)審判請求人の主張について
請求人は,平成28年8月31日に提出した意見書において,「引用例2において,参考図2を参照して,第2パッシベーション層19は,縦方向に整列された金属コンタクトM6aおよびコネクタ20と接続するコンタクトパッド15+16の上面とは接触していないと考えます。」と主張する。
しかしながら,上記「4(1)エ」で検討したように,本願発明1の「コンタクトパッド」として,多層構造が用いられ得ることが理解できるから,引用発明2の「『第1の金属膜15および前記第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17』と,前記第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的に形成された『Auシード層18』とからなる構造体」が,本願発明1の「コンタクトパッド」に相当するものと認められる。
そして,引用例2の図4等からも明らかなように,引用発明2の「樹脂膜19,例えばポリイミド樹脂膜」は,前記「『第1の金属膜15および前記第2の金属膜16の積層膜からなるUBM(電極層)17』と,前記第2の金属膜16の表面(上面および側面)に選択的に形成された『Auシード層18』とからなる構造体」の上面と接触している。
したがって,請求人の前記主張は採用することはできない。

(4)効果について
請求人は,平成28年8月31日に提出した意見書において,「本願発明の半導体デバイスは,その補正された明細書及び特許請求の範囲からも明らかなとおり,『複数の誘電体層および導電層を含む基板』を有する点,『複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続しており,約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクト』を有する点,『金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層』を有する点,『第1パッシベーション層を貫通して延伸し,金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド』を有する点,『コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた第2パッシベーション層は,コンタクトパッドの上面を露出し,第1パッシベーション層と接触する』点,及び『金属コンタクトは,コンタクトパッドに対して縦方向に整列される』点において,引用例1-7に対して新規であり,このような新規な構成を有するため,金属コンタクトは,基板に含まれる誘電体層により良い緩衝を与えることができ,誘電体層が他の物体によって損傷,剥離,又は亀裂を生じることなく,より粗野な処理,運送,および使用を可能にする,という格別なる効果を奏するものであります。」と格別の効果を主張する。
しかしながら,請求人が,「このような新規な構成」と主張する構成のうち,「複数の誘電体層および導電層を含む基板」を有する点,「金属コンタクト上に設けられた第1パッシベーション層」を有する点,「第1パッシベーション層を貫通して延伸し,金属コンタクトと電気的に接触するコンタクトパッド」を有する点,「コンタクトパッドおよび第1パッシベーション層上に設けられた第2パッシベーション層は,コンタクトパッドの上面を露出し,第1パッシベーション層と接触する」点,及び「金属コンタクトは,コンタクトパッドに対して縦方向に整列される」点は,上記で検討したように,いずれも引用発明2が備える構成であり,さらに,「複数の導電層のうちの最上層と電気的に接続しており,約15,000Åより大きい厚さを有する金属コンタクト」を有する相違点に係る効果は,引用例3の上記摘記(3c)の「配線層15及び配線層17の厚さが大きくなると,それに対応して絶縁層14及び絶縁層16の1層当たりの厚さも大きくなるため,応力を緩和する効果が高まる。これにより,微細配線構造部12への応力の伝搬を効果的に低減することができ,実装時の信頼性の高い半導体装置を実現できる。」等の記載から当業者が予測する範囲内のものと認められる。
したがって,本願発明1の効果は,当業者が予測する範囲内のものと認められるから,審判請求人の前記主張は採用することができない。

(5)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明2において,上記相違点1ないし2に係る本願発明1の構成を採用することは,引用例2及び引用例3に接した当業者であれば容易になし得たことである。
したがって,本願発明1は,引用例2に記載された発明,引用例2に記載された事項及び引用例3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-12 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2017-01-04 
出願番号 特願2013-48132(P2013-48132)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 拓也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
加藤 浩一
発明の名称 半導体デバイスおよびその製造方法  
代理人 中島 成  
代理人 田澤 英昭  
代理人 辻岡 将昭  
代理人 濱田 初音  
代理人 河村 秀央  
代理人 坂元 辰哉  

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