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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1328355
審判番号 不服2015-16759  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-11 
確定日 2017-05-17 
事件の表示 特願2013-530533「波状欠陥のない無方向性電磁鋼板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日国際公開、WO2012/041053、平成25年11月 7日国内公表、特表2013-540900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年) 4月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年 9月30日、中国(CN))を国際出願日とする出願であって、平成26年 8月18日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月26日付けの誤訳訂正書が提出され、平成27年 5月 7日付けで拒絶査定がされたものである。
本件審判は、この拒絶査定を不服として、平成27年 9月11日に請求された拒絶査定不服審判である。

第2 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明(以下、「本願発明1?2」といい、総称するときは「本願発明」という。)は、平成26年11月26日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

【請求項1】
波状欠陥のない無方向性電磁鋼板であって、その化学組成の重量パーセントは、C<0.005%、Siは1.2?2.2%、Mnは0.2?0.4%、P<0.2%、S<0.005%、Alは0.2?0.6%、N<0.005%、O<0.005%、残りはFeおよび不可避的不純物である、無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の波状欠陥のない無方向性電磁鋼板を製造するための方法であって、
1)無方向性電磁鋼板の化学組成の重量パーセントは、C<0.005%、Siは1.2?2.2%、Mnは0.2?0.4%、P<0.2%、S<0.005%、Alは0.2?0.6%、N<0.005%、O<0.005%、残りはFeおよび不可避的不純物であり、前記化学組成に従って、鋼鉄溶融処理、回転炉製錬、RH精製、ならびに連続鋳込みによってスラブが得られるステップを備え、連続鋳込みの際に、二次冷却水の流量は100?190l/分に制御され、液体鋼の平均過熱温度は10?45℃に制御され、さらに、
2)スラブが加熱され、熱間圧延されるステップを備え、
スラブの吐出し温度は1050?1150℃であり、スラブが加熱される際に、その長さ方向の任意二点間の温度差は25℃より低く、熱間圧延処理は粗圧延処理および仕上げ圧延処理を含み、仕上げ圧延処理において、入口温度は970℃以上であり、さらに、
3)酸洗い、冷間圧延、アニーリング、およびコーティングによって、無方向性電磁鋼板の完成品が得られるステップを備える、方法。

第3 拒絶査定の理由
平成27年 5月 7日付けの拒絶査定の理由は、以下のとおりである。

特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について
請求項1に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明であるか、引用文献1?3に記載された発明及び引用文献7に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、請求項2に係る発明は、引用文献1?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、引用文献1?6記載された発明及び引用文献7に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献1.特開平05-171279号公報
引用文献2.特開平11-061256号公報
引用文献3.特開2000-273549号公報
引用文献4.特開2004-332031号公報
引用文献5.特開昭49-039526号公報
引用文献6.特公平07-084617号公報
引用文献7.特開2010-024531号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献等
1 引用文献2について
原査定の査定の理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平11-061256号公報(公開日 平成11年 3月 5日)には、以下の事項が記載されている。

(2-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 C:0?0.005wt%、P:0?0.1wt%、N:0?0.005wt%、Si:1.5?4.0wt%、Mn:0.05?1.0wt%、Sol.Al:0.1?1.0wt%、S:0?0.007wt%、残部が実質的にFeからなる組成のスラブを熱間圧延した後、冷間圧延および仕上焼鈍を経て無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、熱間圧延を行うに際し、スラブを1150℃以下の温度に加熱した後、粗圧延機にて60%以上の圧下率で粗圧延し、引き続き該粗圧延材を1000?1150℃の温度に加熱してこの温度範囲に2?10秒間保持する加熱処理を施した後、仕上圧延を行い、650℃以上で巻き取ることを特徴とする表面性状が優れ且つ鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法。」

(2-イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】この発明は、リジングの発生がない優れた表面性状を有し且つ鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。」

(2-ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、熱延板焼鈍を施さなくともリジング発生を適切に回避でき、且つ鉄損特性にも優れた無方向性電磁鋼板の製造条件について検討を行い、その結果、下記のような知見を得た。
(1) C:0?0.005wt%、P:0?0.1wt%、N:0?0.005wt%、Si:1.5?4.0wt%、Mn:0.05?1.0wt%、Sol.Al:0.1?1.0wt%、S:0?0.007wt%、残部が実質的にFeからなる組成のスラブを素材として無方向性電磁鋼板を製造する場合、熱延板焼鈍を施すことなく仕上焼鈍後の鉄損を低下させるためには、スラブ加熱温度を低温加熱領域である1150℃以下にする必要がある。
【0006】(2) また、スラブを上記(1)のように低温加熱することによって、熱間圧延後に微細な析出物が析出せず、熱延板の再結晶温度が低下する。
(3) 但し、このようなスラブの低温加熱では、粗圧延後1000℃以上の温度域への再加熱を実施しない限り、所定の巻取温度を確保することが極めて困難となる。
(4) 一方、粗圧延後の再加熱温度が1150℃を超えると、析出物が再固溶するため仕上焼鈍後の鉄損が低下する。
【0007】(5) リジングに対しては仕上圧延前組織を再結晶させることが重要であり、このためには、再結晶に必要な歪みエネルギーを粗圧延段階において与えるために、粗圧延で圧下率60%以上の圧下を施し、しかる後に1000℃以上、保持時間2秒以上の加熱処理を施すことが有効である。
(6) 但し、この加熱保持時間が10秒を超えると一部に析出物の再固溶が起こり、最終の鉄損特性が劣化してしまうため、加熱保持時間は10秒以下とし、その後、仕上圧延を行う必要がある。
(7) さらに、上記熱延板を650℃以上で巻き取ることによって熱延板が再結晶し、リジングの回避に有効に作用する。
【0008】本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は、C:0?0.005wt%、P:0?0.1wt%、N:0?0.005wt%、Si:1.5?4.0wt%、Mn:0.05?1.0wt%、Sol.Al:0.1?1.0wt%、S:0?0.007wt%、残部が実質的にFeからなる組成のスラブを熱間圧延した後、冷間圧延および仕上焼鈍を経て無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、熱間圧延を行うに際し、スラブを1150℃以下の温度に加熱した後、粗圧延機にて60%以上の圧下率で粗圧延し、引き続き該粗圧延材を1000?1150℃の温度に加熱してこの温度範囲に2?10秒間保持する加熱処理を施した後、仕上圧延を行い、650℃以上で巻き取ることを特徴とする表面性状が優れた且つ鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法である。」

(2-エ)「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細をその限定理由とともに説明する。本発明では、特定の成分組成のスラブを素材とし、これを熱間圧延する際に、スラブを1150℃以下の温度に加熱した後、粗圧延機にて60%以上の圧下率で粗圧延し、引き続き該粗圧延材を1000?1150℃の温度に加熱昇温してこの温度範囲に2?10秒間保持する加熱処理を施した後、仕上圧延を行い、650℃以上で巻き取る。
【0010】先ず、スラブ加熱温度および粗圧延後の加熱処理における加熱温度(再加熱温度)がリジングの発生および仕上焼鈍後の鉄損に及ぼす影響を調査するため、以下のような試験を行った。C:0.0022wt%、Si:1.76wt%、Mn:0.29wt%、P:0.05wt%、S:0.0033wt%、Sol.Al:0.34wt%、N:0.0022wt%の組成の鋼を溶製し、これを鋳造してスラブを作製した。このスラブを常温から1100℃と1200℃にそれぞれに加熱して圧下率70%で粗圧延した後、引き続き高周波加熱装置を用いて900?1250℃の範囲に加熱昇温し、その温度に5秒間保持する加熱処理を施した後、板厚2.0mmまで仕上圧延を行い、700℃で巻き取った。次いで、この熱延板を酸洗した後、板厚0.5mmまで冷間圧延し、さらに25%H_(2)-75%N_(2)雰囲気中で900℃×1分間の仕上焼鈍を行った。
【0011】このようにして得られた鋼板の鉄損とリジング発生の有無を図1に示す。これによれば、鉄損についてはスラブ加熱温度を1100℃とし、粗圧延後の加熱処理における加熱温度を1150℃以下とした場合に優れた鉄損が得られている。これに対して、スラブ加熱温度を1200℃とした場合には、粗圧延後の加熱処理による鉄損低減化効果は全く得られていない。粗圧延後の加熱処理による鉄損低減効果が得られるスラブ加熱温度についてさらに検討を行った結果、上記鉄損低減効果が得られるスラブ加熱温度の上限はほぼ1150℃であることが判った。一方、スラブ加熱温度を1100℃とした場合のリジングの発生の有無については、粗圧延後の加熱温度が1000℃以上の場合にリジングが減少する傾向があることが判る。以上の理由から本発明では、スラブを常温から加熱する際のスラブ加熱温度を1150℃以下とし、且つ粗圧延後の加熱処理における加熱温度を1000?1150℃とする。但し、スラブ加熱温度が950℃未満では熱間圧延自体が困難となるため、スラブ加熱温度の下限は950℃とすることが好ましい。
【0012】次に、粗圧延後の加熱処理における加熱保持時間がリジングの発生および仕上焼鈍後の鉄損に及ぼす影響を調査するため、以下のような試験を行った。C:0.0030wt%、Si:1.79wt%、Mn:0.34wt%、P:0.04wt%、S:0.0028wt%、Sol.Al:0.32wt%、N:0.0021wt%の組成の鋼を溶製し、これを鋳造してスラブを作製した。このスラブを常温から1100℃に加熱して圧下率70%で粗圧延した後、引き続き高周波加熱装置を用いて1150℃に加熱昇温し、この温度に1?20秒間保持する加熱処理を施した後、板厚2.0mmまで仕上圧延を行い、700℃で巻き取った。次いで、この熱延板を酸洗した後、板厚0.5mmまで冷間圧延し、さらに25%H_(2)-75%N_(2)雰囲気中で900℃×1分間の仕上焼鈍を行った。
【0013】このようにして得られた鋼板の鉄損とリジング発生の有無を図2に示す。これによれば、粗圧延後の加熱処理における保持時間が10秒を超えると鉄損が劣化する傾向にあり、一方、保持時間が2秒未満ではリジングが発生する傾向があることが判る。以上の理由から本発明では、粗圧延後の加熱処理における1000?1150℃での保持時間を2?10秒間とし、その後、仕上圧延を行うものとする。
【0014】さらに、粗圧延の圧下率がリジングの発生に及ぼす影響を調査するため、以下のような試験を行った。図2の試験で用いたスラブと同じ組成のスラブを1100℃に加熱して圧下率40?90%で粗圧延した。引き続き、この粗圧延材を高周波加熱装置を用いて1150℃に加熱昇温し、この温度に5秒間保持する加熱処理を施した後、板厚2.0mmまで仕上圧延を行い、700℃で巻き取った。次いで、この熱延板を酸洗した後、板厚0.5mmまで冷間圧延し、さらに25%H_(2)-75%N_(2)雰囲気中で900℃×1分間の仕上焼鈍を行った。表1は、粗圧延を各圧下率で実施した材料について仕上焼鈍後のリジングの有無を示したものであり、圧下率60%以上においてリジング発生が回避されていることが判る。このため本発明では、粗圧延の圧下率を60%以上とする。但し、粗圧延の圧下率が90%を超えるとミルの負荷増大により熱間圧延が不可能となるため、粗圧延の圧下率の上限は90%とすることが好ましい。
【0015】
【表1】



(2-オ)「【0016】次に、鋼組成の限定理由について説明する。Siは鋼板の固有抵抗を上げるのに有効な元素であり、この作用を得るためには1.5wt%以上の添加が必要であるが、4.0wt%を超えると飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が低下する。このためSiは1.5?4.0wt%とする。AlはSiと同様、固有抵抗を上げるために有効な元素であるが、Sol.Alが1.0wt%を超えると飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が低下する。一方、Sol.Alが0.1wt%未満ではAlNが微細化し、粒成長性が低下する。このためSol.Alは0.1?1.0wt%とする。
【0017】Cは磁気時効の問題があるため、0?0.005wt%(無添加の場合を含む)とする。Mnは熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために0.05wt%以上添加する必要があるが、1.0wt%超えると磁束密度を低下させるので、0.05?1.0wt%とする。Pは鋼板の打ち抜き性を改善するために有効な元素であるが、0.1wt%を超えて添加すると鋼板が脆化するため、0?0.1wt%(無添加の場合を含む)とする。
【0018】Sは微細な析出物を生成して磁気特性を劣化させるため、0?0.007wt%(無添加の場合を含む)とする。Nは、その含有量が多いとAlNの析出量が多くなり、AlNが粗大化したとしても粒成長性を低下させて鉄損を増大させる。このためNは0?0.005wt%(無添加の場合を含む)とする。残部は実質的にFeからなり、不可避不純物元素等の少量の成分元素を含むことを妨げない。」

(2-カ)「【0019】本発明の製造方法では、上述した製造条件以外は特別な制約はなく、したがって、通常の製造条件を採用して構わない。すなわち、転炉で吹練した溶鋼を脱ガス処理して所定の成分に調整した後、スラブに鋳造し、このスラブを上述した条件で熱間圧延する。熱間圧延後の熱延板焼鈍は行ってもよいが必須ではなく、特に本発明では、熱延板焼鈍を実施しなくてもリジング発生の防止と仕上焼鈍後の低鉄損化を達成できる。次いで、一回の冷間圧延若しくは中間焼鈍をはさんだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚とした後に、仕上焼鈍を行う。」

(2-キ)「【0020】
【実施例】転炉吹錬および脱ガス処理を経て表2に示す組成の鋼を溶製し、これをスラブに鋳造し、このスラブを表3に示す条件で板厚2.0mmまで熱間圧延した。次いで、この熱延板を酸洗した後、板厚0.5mmまで冷間圧延し、さらに25%H_(2)-75%N_(2)雰囲気中で900℃×1分間の仕上焼鈍を行った。このようにして得られた各鋼板の鉄損W15/50を25cmエプスタイン試験片を用いて測定するとともに、仕上焼鈍後のリジングの有無を調べた。その結果を、表3に併せて示す。表3によれば、本発明例で製造された無方向性電磁鋼板はリジングの発生がない優れた表面性状を有し、しかも仕上焼鈍後の鉄損も十分に低減されていることが判る。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】



(2-ク)「【0023】
【発明の効果】以上述べたように本発明法によれば、リジングの発生がない優れた表面性状を有し、且つ仕上焼鈍後の鉄損が低い無方向性電磁鋼板を安定して製造することができる。」

(2-ケ)「【図1】



(2-コ)「【図2】



上記(2-ア)?(2-コ)の記載事項から、引用文献2に記載された発明について、検討する。

ア 前記(2-エ)の【0010】?【0011】の記載事項、及び、前記(2-ケ)の【図1】に示される事項によれば、C:0.0022wt%、Si:1.76wt%、Mn:0.29wt%、P:0.05wt%、S:0.0033wt%、Sol.Al:0.34wt%、N:0.0022wt%の組成の鋼を溶製し、これを鋳造してスラブを作製し、このスラブを常温から1100℃と1200℃にそれぞれに加熱して圧下率70%で粗圧延した後、引き続き高周波加熱装置を用いて900?1250℃の範囲に加熱昇温し、その温度に5秒間保持する加熱処理を施した後、板厚2.0mmまで仕上圧延を行い、700℃で巻き取り、次いで、この熱延板を酸洗した後、板厚0.5mmまで冷間圧延し、さらに25%H_(2)-75%N_(2)雰囲気中で900℃×1分間の仕上焼鈍を行い得られた鋼板について、スラブ加熱温度を1100℃とした場合であって、粗圧延後の加熱温度が1000℃以上の場合にリジングが減少し、リジングなしとなることが記載されているといえる。

イ ここで、引用文献2に記載された発明は、例えば前記(2-イ)に記載されるようにリジングの発生がない優れた表面性状を有し且つ鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものであるから、上記アの「得られた鋼板」が、「無方向性電磁鋼板」であることは明らかである。

ウ そして、例えば前記(2-ア)、及び、前記(2-オ)の【0018】の記載によれば、上記アの鋼の組成は、残部がFe及び不可避的不純物からなるものであり、さらに、鋼板の組成が、溶製された鋼の組成と同様であるという技術常識を踏まえて、上記アの記載を「得られた鋼板」に着目して整理すると、引用文献2には、「リジングの発生がない無方向性電磁鋼板であって、C:0.0022wt%、Si:1.76wt%、Mn:0.29wt%、P:0.05wt%、S:0.0033wt%、Sol.Al:0.34wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、である無方向性電磁鋼板。」が記載されているといえる。

エ また、前記(2-エ)の【0012】?【0015】、及び、(2-コ)の【図2】に示される事項によれば、上記ア?ウの検討と同様にして、引用文献2には、「リジングのない無方向性電磁鋼板であって、C:0.0030wt%、Si:1.79wt%、Mn:0.34wt%、P:0.04wt%、S:0.0028wt%、Sol.Al:0.32wt%、N:0.0021wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、である無方向性電磁鋼板。」が記載されているといえる。

オ さらに、前記(2-キ)の記載によれば、上記ア?ウの検討と同様にして、引用文献2には、「リジングのない無方向性電磁鋼板であって、C:0.0023wt%、Si:1.78wt%、Mn:0.22wt%、P:0.035wt%、S:0.003wt%、Sol.Al:0.33wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、である無方向性電磁鋼板。」が記載されているといえる。

カ してみると、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「リジングのない無方向性電磁鋼板であって、
C:0.0022wt%、Si:1.76wt%、Mn:0.29wt%、P:0.05wt%、S:0.0033wt%、Sol.Al:0.34wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、
C:0.0030wt%、Si:1.79wt%、Mn:0.34wt%、P:0.04wt%、S:0.0028wt%、Sol.Al:0.32wt%、N:0.0021wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、又は、
C:0.0023wt%、Si:1.78wt%、Mn:0.22wt%、P:0.035wt%、S:0.003wt%、Sol.Al:0.33wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成
である、無方向性電磁鋼板。」(以下、「引用発明2」という。)

2 引用文献7について
原査定の査定の理由で引用文献7(周知技術を示す文献)として引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2010-024531号公報(公開日 平成22年 2月 4日)には、以下の事項が記載されている。

(7-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター鉄芯などの高周波用途に用いられる、優れた固有抵抗を有する高級グレードの無方向性電磁鋼鋳片、およびその製造方法に関するものである。」

(7-イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、常法の製造工程を変えることなく、高周波鉄損と強度の良好な無方向性電磁鋼板を、低コストでかつ生産性よく製造することが可能な無方向性電磁鋼鋳片と、その製造方法を提供することを目的とする。」

(7-ウ)「【0036】
次に、本発明における成分組成の限定理由について説明する。
・・・
【0053】
[O]:Oは、溶鋼中に0.005質量%より多く含有されると、酸化物が多数生成し、この酸化物によって、磁壁移動や結晶粒成長が阻害される。よって、0.005質量%以下とする。下限は0質量%を含む。
・・・
【0064】
以上の他にも、公知の元素を添加することが可能であり、例えば、磁気特性を改善する元素として、Bi、Geなどを用いることができ、これらを、所要の磁気特性に応じて適宜選択すればよい。また、上述した成分以外の元素で、本発明の鋼の効果を大きく妨げるものでなければ、含有していてもよく、本発明の範囲内とする。」

3 参考文献1について
審判請求人が、審判請求書において引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-158589号公報(公開日 平成11年 6月15日、以下「参考文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(参1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、歪取り焼鈍後の磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、・・・、歪取り焼鈍後に特性のばらつきが生じることのない優れた磁気特性を安定して得ようとするものである。」

(参1-イ)「【0022】次に、この発明において、鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
・・・
【0023】S:40 ppm以下、O:30 ppm以下、N:50 ppm以下
S, OおよびNはいずれも、不純物元素として鋼中に混入するもので、極力低減することが望ましい。特に、S>40 ppm, O>30 ppm, N>50 ppmになると、硫化物や酸化物、窒化物によって磁壁移動や粒成長が阻害され、磁性特性を改善が望み難くなるので、それぞれ上記の範囲に制限した。」

4 参考文献2について
審判請求人が、審判請求書において引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-60247号公報(公開日 平成 8年 3月 5日、以下「参考文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(参2-ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電動機、発電機等の回転機器の鉄芯材料として用いられる磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。」

(参2-イ)「【0011】・・・。この発明において鋼の化学成分を限定した理由は以下のとおりである。・・・。OはSi、Mn、Alと酸化物を形成して結晶粒の成長を障害するため、0.015%以下とした。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明2とを対比する。

イ 引用発明2の無方向性電磁鋼板の組成は、O以外の成分について、本願発明1のそれぞれの成分の組成範囲に含まれている。

ウ 引用発明2の「リジング」は、技術常識からみて波状欠陥である(例えば、特開平2-182829号公報第2頁左上欄第11行?第16行参照)から、引用発明2の「リジングの発生がない」ことは、本願発明1の「波状欠陥のない」ことに相当する。

エ してみると、両者は、
「波状欠陥のない無方向性電磁鋼板であって、その化学組成の重量%は、
C:0.0022wt%、Si:1.76wt%、Mn:0.29wt%、P:0.05wt%、S:0.0033wt%、Sol.Al:0.34wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、
C:0.0030wt%、Si:1.79wt%、Mn:0.34wt%、P:0.04wt%、S:0.0028wt%、Sol.Al:0.32wt%、N:0.0021wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成、又は、
C:0.0023wt%、Si:1.78wt%、Mn:0.22wt%、P:0.035wt%、S:0.003wt%、Sol.Al:0.33wt%、N:0.0022wt%、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成
である、無方向性電磁鋼板。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:無方向性電磁鋼板の化学組成について、本願発明1が「O<0.005%」であるのに対し、引用発明2は、酸素の含有量について特定されていない点。

オ そこで、上記相違点1について検討する。

カ 引用文献7の前記(7-ア)?(7-ウ)には、高周波鉄損と強度の良好な無方向性電磁鋼板を製造することが可能な無方向性電磁鋼鋳片において、その成分組成の限定理由として、Oは、溶鋼中に0.005質量%より多く含有されると、酸化物が多数生成し、この酸化物によって、磁壁移動や結晶粒成長が阻害されため、0.005質量%以下とすることが記載されており、無方向性電磁鋼板において、酸素が酸化物の生成により磁壁移動や結晶粒成長を阻害する不純物元素であるために、その含有量を低減すること、及び、その際の酸素の含有量として0.005質量%未満とすることが本願の優先日前に周知であったと認められる。

キ さらに、参考文献1の前記(参考1-ア)?(参考1-イ)には、無方向性電磁鋼板において、Oが不純物元素として鋼中に混入するもので極力低減することが望ましく、O>30 ppmになると酸化物によって磁壁移動や粒成長が阻害され、磁性特性を改善が望み難くなることが記載されており、また、参考文献2の前記(参考2-ア)?(参考2-イ)には、無方向性電磁鋼板において、OはSi、Mn、Alと酸化物を形成して結晶粒の成長を障害することが記載されていることからみても、無方向性電磁鋼板において、酸素が酸化物の生成により磁壁移動や結晶粒成長を阻害する不純物元素であるために、その含有量を低減すること、及び、その際の酸素の含有量として0.005質量%未満とすることは、本願の優先日において、周知技術であったと認められる。

ク そして、引用発明2は、酸素の含有量を特定していないが、技術常識からみて、不純物元素として酸素を含んでいることは明らかであり、上記キの周知技術に基づいて、酸素の含有量を0.005質量%未満の範囲に特定することにより、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

ケ また、本願明細書に記載される酸素の含有量とオキシデートの不純物量、結晶粒の成長、及び、鉄損との関係についての本願発明1の効果は、上記周知技術からみて、技術水準から予測される範囲を超えて顕著なものとはいえない。

コ してみると、本願発明1は、引用発明2と引用文献7等に記載されるような周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書において、以下(ア)及び(イ)の主張をしている。

(ア)審判請求人は、審判請求書において、本願発明1について、「引用文献7には、本発明の課題である「波状欠陥のない無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する」こと(本願明細書の段落[0011])を解決するために、酸素の含有量を0.005質量%未満とすることにつきましては記載も示唆もされていません。したがいまして、当業者は、本発明の課題を解決するために、引用文献7の記載から酸素の含有量を0.005質量%未満とすることは容易になし得ることではありません。」と主張している。

(イ)審判請求人は、審判請求書において、本願発明2について、「本願請求項2に係る発明は、・・・、『二次冷却水の流量は100?190l/分に制御され」ることの技術的特徴を有しています。・・・、冷却水の流量を制御することによって、スラブをゆっくりと冷却する効果を効果的にどのように達成するのかということが主に考慮される。』と主張している。

イ これらの主張について、当審の見解は次のとおりである。

ウ 上記(ア)の主張について、本願明細書には、酸素の含有量について、「Oは0.005%未満である。Oの含有量が0.005%より高い場合はAl_(2)O_(3)などのオキシデートの不純物量が大幅に増えることになり、したがって結晶粒の成長が強く妨げられ、鉄損が悪化する。」(【0020】)と記載されているものの、「酸素の含有量を0.005質量%未満とすること」と「波状欠陥のない無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する」こととの関連性についての記載も示唆も見出すことができない。してみると、上記(ア)の主張は、本願明細書の記載に基づくものではないから、採用することができない。

エ 上記(イ)の主張について、本願発明2の「連続鋳込みの際に、二次冷却水の流量は100?190l/分に制御され」るという発明特定事項について、技術常識からみて「連続鋳込み」とは「連続鋳造」の意味で用いられていると仮定でき、「二次冷却」とは鋳型による凝固後の冷却を意味するものであって、多数の冷却スプレーがスラブの幅方向に配列された冷却スプレー列が、スラブの長手方向に多段に配列された冷却装置により行われるものであると認められる。この前提において、「二次冷却水の流量は100?190l/分」という発明特定事項は、単一のスプレーの水量であるのか、単一のスプレー列の水量であるのか、二次冷却全体での水量であるのか、又は、これら以外の意味であるのか明確ではない。さらに、「二次冷却水の流量」が、上記のいずれかの意味であるとしても、冷却されるスラブの冷却速度は、単位時間あたりの二時冷却水の流量のみに依存するものではなく、単位時間あたりに冷却されるスラブの重量に大きく依存し、また、冷却方法(冷却水がスラブにどのように当たるか等)にも依存するという技術常識からみて、単に二次冷却水の単位時間あたりの水量を特定しただけでは、スラブをゆっくりと冷却する効果を当然に奏するものとはいえないから、上記(イ)の主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1について前記第3に示した拒絶査定の理由のうち、請求項1に係る発明は引用文献2に記載された発明及び引用文献7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由は妥当である。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-07 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2017-01-04 
出願番号 特願2013-530533(P2013-530533)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 113- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 富永 泰規
小川 進
発明の名称 波状欠陥のない無方向性電磁鋼板およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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