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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1328363 |
審判番号 | 不服2016-3935 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-15 |
確定日 | 2017-05-17 |
事件の表示 | 特願2014-117530「入力支援装置、入力支援方法、及び、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開、特開2014-167829〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成22年4月15日に出願した特願2010-93992号の一部を平成26年6月6日に新たな特許出願としたものであって,平成27年5月15日付けで特許法第50条の2の通知を伴う拒絶の理由が通知され,これに対して,平成27年8月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが,当該手続補正書が平成27年12月18日付けで却下されるとともに同日付で拒絶査定がなされ,同査定の謄本は同年12月22日に請求人に送達された。これに対して,平成28年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで手続補正書が提出され,平成28年5月18日付けで前置報告書が作成されたものである。 第2 平成28年3月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年3月15日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1. 本件補正について (1)本件補正により,特許請求の範囲は,次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。 「【請求項1】 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部と, 使用者の顔を撮像する撮像部と, 前記撮像部により撮像された前記使用者の顔の画像から前記使用者の表情を判定する判定部と, 前記記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択部と, を備え, 前記変換候補選択部は,該入力文字列が未確定文字列のときは該入力文字列の変換候補である前記候補文字列を表示し,該入力文字列が入力確定文字列のときは次入力候補の文字列である前記候補文字列を表示し, 前記撮像部は,該入力文字列を入力する前の文字入力モードに遷移したタイミングで前記使用者の顔を撮像し,該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで前記使用者の顔を撮像し,更に,次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで前記使用者の顔を撮像する, ことを特徴とする入力支援装置。 【請求項2】 前記変換候補テーブルは,前記候補文字列の表示順の情報をさらに含み, 前記変換候補選択部は,選択した前記変換候補テーブルからさらに前記候補文字列の表示順を取得し,取得した前記表示順に従って前記候補文字列を表示させる, ことを特徴とする請求項1に記載の入力支援装置。 【請求項3】 前記記憶部は,前記変換候補テーブルを時間帯毎に記憶し, 変換候補選択部は,現在の時間に対応した前記変換候補テーブルを選択する, ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の入力支援装置。 【請求項4】 携帯電話装置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の入力支援装置。 【請求項5】 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部を備えた入力支援装置に用いられる入力支援方法であって, 撮像部が,使用者の顔を撮像する撮像過程と, 判断部が,前記撮像部により撮像された前記使用者の顔の画像から前記使用者の表情を判定する判定過程と, 変換候補選択部が,前記記憶部から前記判定過程における表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択過程と, を有し, 前記変換候補選択部は,該入力文字列が未確定文字列のときは該入力文字列の変換候補である前記候補文字列を表示し,該入力文字列が入力確定文字列のときは次入力候補の文字列である前記候補文字列を表示し, 前記撮像部は,該入力文字列を入力する前の文字入力モードに遷移したタイミングで前記使用者の顔を撮像し,該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで前記使用者の顔を撮像し,更に,次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで前記使用者の顔を撮像する, ことを特徴とする入力支援方法。 【請求項6】 入力支援装置として用いられるコンピュータを, 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部, 使用者の顔を撮像する撮像部, 前記撮像部により撮像された前記使用者の顔の画像から前記使用者の表情を判定する判定部, 前記記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択部, として機能させ, 前記変換候補選択部は,該入力文字列が未確定文字列のときは該入力文字列の変換候補である前記候補文字列を表示し,該入力文字列が入力確定文字列のときは次入力候補の文字列である前記候補文字列を表示し, 前記撮像部は,該入力文字列を入力する前の文字入力モードに遷移したタイミングで使用者の顔を撮像し,該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで使用者の顔を撮像し,更に,次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで使用者の顔を撮像する, ことを特徴とするプログラム。」 (2)本件補正前の,出願当初の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部と, 使用者の表情を判定する判定部と, 前記記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択部と, を備えることを特徴とする入力支援装置。 【請求項2】 前記変換候補テーブルは,前記候補文字列の表示順の情報をさらに含み, 前記変換候補選択部は,選択した前記変換候補テーブルからさらに前記候補文字列の表示順を取得し,取得した前記表示順に従って前記候補文字列を表示させる, ことを特徴とする請求項1に記載の入力支援装置。 【請求項3】 使用者の顔を撮像する撮像部をさらに備え, 前記判定部は,前記撮像部が撮像した画像から表情を判定する, ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の入力支援装置。 【請求項4】 前記記憶部は,前記変換候補テーブルを時間帯毎に記憶し, 変換候補選択部は,現在の時間に対応した前記変換候補テーブルを選択する, ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の入力支援装置。 【請求項5】 携帯電話装置であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の入力支援装置。 【請求項6】 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部を備えた入力支援装置に用いられる入力支援方法であって, 判断部が,使用者の表情を判定する判定過程と, 変換候補選択部が,前記記憶部から前記判定過程における表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択過程と, を有することを特徴とする入力支援方法。 【請求項7】 入力支援装置として用いられるコンピュータを, 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部, 使用者の表情を判定する判定部, 前記記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択部, として機能させることを特徴とするプログラム。」 2.新規事項について 本件補正前の請求項1を本件補正前の請求項3の内容で限定し,さらに,本件補正前の請求項3の「撮像部」という発明特定事項について「前記撮像部は,該入力文字列を入力する前の文字入力モードに遷移したタイミングで使用者の顔を撮像し,該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで使用者の顔を撮像し,更に,次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで使用者の顔を撮像する,」と補正している。 この補正は,図5および図6,ならびに,明細書の段落0031「なお,変換候補選択部17は,図5において選択された次入力候補文字列,あるいは,図6において選択された変換候補文字列を入力確定文字列として,図5の処理を繰り返す。あるいは,使用者がキー入力部2により文字列を入力した場合,この入力した文字列を未確定文字列として図6の処理を繰り返す。」という記載を根拠として行われた。 しかし,「撮像部」が「該入力文字列を入力する前の文字入力モードに遷移したタイミングで使用者の顔を撮像」することは,明細書の段落0017や0033に記載されているものの,「該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで使用者の顔を撮像し」たり,「次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで使用者の顔を撮像する」ことについては,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲または図面に何ら記載も示唆も無い。 明細書の段落0011?0013および0017?0033には以下のように記載されている(下線は当審で付加した。)。 「【0011】 以下,図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。 図1は,本発明の一実施形態による入力支援装置10の構成を示すブロック図である。同図に示すように,入力支援装置10は,記憶部11,入力部12,制御部13,撮像部14,判定部15,表情記憶部16,変換候補選択部17,及び,表示部18を備えて構成される。 【0012】 記憶部11は,表情に対応した変換候補テーブル8を記憶する。変換候補テーブル8は,入力文字列と,候補文字列のリストとの対応付けを表すデータである。候補文字列のリストには,1または複数の候補文字列と,各候補文字列の表示順とが示されており,対応している表情に応じて,候補文字列のリストに含まれる候補文字列と,その表示順が異なる。リストに記述されている候補文字列の順番を表示順としてもよい。また,候補文字列は共通とし,表示順のみ変えてもよい。入力文字列には,未確定文字列,あるいは,入力確定文字列があり,入力文字列が未確定文字列の場合,候補文字列は変換候補の文字列であり,入力文字列が入力確定された文字列の場合,候補文字列は次入力候補の文字列である。なお,本実施形態において,文字列は,1文字のみからなる場合も含む。 【0013】 制御部13は,各機能部の制御を行なう。入力部12は,キーやボタンなどのユーザインタフェースであり,使用者の操作による情報の入力を受ける。撮像部14は,例えば,カメラであり,使用者の顔を撮像する。判定部15は,撮像部14が撮像した顔の画像のデータから,使用者の表情を判定し,判定結果を表情記憶部16に書き込む。なお,顔の画像データに基づいた表情の判定には,既存技術を用いることができる。表情記憶部16は,判定部15により書き込まれた表情の判定結果を記憶する。変換候補選択部17は,表情記憶部16から読み出した表情の判定結果に従って変換候補テーブル8を選択し,選択した変換候補テーブル8から,入力部12により入力された未確定文字列に対応した変換候補文字列とその表示順,あるいは,入力部12により入力確定された文字列に対応した次入力候補文字列その表示順を読み出し,読み出した候補文字列の一覧を表示順に表示部18に表示させる。表示部18は,LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイである。」 「【0017】 次に,図3及び図4を用いて,図2に示す携帯電話装置1の処理について説明する。 図3は,文字入力モード遷移処理の処理フローである。 使用者が,図2に示す携帯電話装置1のキー入力部2により,メール作成やメモ作成などのアプリケーションの起動指示を入力すると,文字入力モードへの遷移が行われる。するとまず,制御部13は,カメラ部3を起動し,使用者の顔の撮影を指示する。カメラ部3は,使用者の顔を撮影すると,撮影された画像データを判定部15に出力する(ステップS110)。判定部15は,受信した画像データから使用者の表情を判定し(ステップS120),判定した表情を表すパラメータ“表情”を表情記憶部16に書き込む(ステップS130)。 【0018】 図4は,辞書選択処理の処理フローである。 図3に示す文字入力モード遷移処理の後,使用者がキー入力部2により文字入力を行うと,変換候補選択部17は,表情記憶部16に書き込まれているパラメータ“表情”を取得し,パラメータ“表情”が「笑い」を示している場合は(ステップS210:YES),変換候補テーブル8-1を選択し(ステップS220),「怒り」を示している場合は(ステップS210:NO,ステップS230:YES),変換候補テーブル8-2を選択し(ステップS240),「笑い」及び「怒り」のいずれにも該当しない場合は(ステップS210:NO,ステップS230:NO),変換候補テーブル8-3を選択する(ステップS250)。 【0019】 変換候補選択部17は,未確定文字列に対応した変換候補文字列及びその表示順,あるいは,入力確定文字列に対応した次入力候補文字列及びその表示順を,図4の辞書選択処理によって選択した変換候補テーブル8-n(nは1,2,または3)から読み出し,候補選択フィールド部6に表示する。 【0020】 図5は,入力確定文字列に対応して次入力候補文字列を表示する場合の例を示す。 同図に示すように,入力フィールド部5には,使用者が入力確定した文字列「久しぶり」が表示されている。 【0021】 使用者が入力確定した「久しぶり」の文字列に対して,文字入力時の表情が「笑い」であれば,続く入力としては「だね」,「だよね」といった柔らかい語感の言葉が選択される可能性が高いため,これらを少ないカーソルキー操作で選択可能な位置,例えば候補選択フィールド部6の左上に優先的に配置する。つまり,「笑い」に対応した変換候補テーブル8-1には,入力確定文字列「久しぶり」に対応して,表示順に次入力候補文字列「だね」,「だよね」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に入力確定文字列が表示される。 【0022】 同様に「怒り」であれば,入力文字列として「だな」,「だろ」といった強い語感の言葉が選択される可能性が高い為,これらを優先的に配置する。つまり,「怒り」に対応した変換候補テーブル8-2には,入力確定文字列「久しぶり」に対応して,表示順に次入力候補文字列「だな」,「だろ」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に入力確定文字列が表示される。 【0023】 また,「その他」に対応した変換候補テーブル8-3には,入力確定文字列「久しぶり」に対応して,表示順に次入力候補文字列「です」,「に」,「の」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に入力確定文字列が表示される。 【0024】 使用者が,カーソルキー部7によって,候補選択フィールド部6に表示されている次入力候補文字列を選択し,確定を入力すると,変換候補選択部17は,選択された次入力候補文字列を入力フィールド部5の「久しぶり」の後に表示させる。 【0025】 図6は,未確定文字列に対応して変換候補文字列を表示する場合の例を示す。 同図に示すように,入力フィールド部5には,使用者がキー入力部2により入力した未確定文字列「いらい」が表示されている。 【0026】 未確定文字列「いらい」の文字列に対して,文字入力時の表情が「笑い」であれば,続く入力としては「以来」,「依頼」といった言葉が選択される可能性が高いため,これらを少ないカーソルキー操作で選択可能な位置,例えば候補選択フィールド部6の左上に優先的に配置する。つまり,「笑い」に対応した変換候補テーブル8-1には,未確定文字列「いらい」に対応して,表示順に変換候補文字列「以来」,「依頼」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に変換候補文字列が表示される。 【0027】 同様に,未確定文字列「いらい」の文字列に対して,文字入力時の表情が「怒り」であれば,続く入力としては「イライラ」,「依頼」といった言葉が選択される可能性が高いため,これらを少ないカーソルキー操作で選択可能な位置,例えば候補選択フィールド部6の左上に優先的に配置する。つまり,「怒り」に対応した変換候補テーブル8-2には,未確定文字列「いらい」に対応して,表示順に変換候補文字列「イライラ」,「依頼」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に変換候補文字列が表示される。 【0028】 また,「その他」に対応した変換候補テーブル8-3には,未確定文字列「いらい」に対応して,表示順に変換候補文字列「依頼」,「以来」,…が記述されており,この表示順に従って候補選択フィールド部6に変換候補文字列が表示される。 【0029】 使用者が,カーソルキー部7によって,候補選択フィールド部6に表示されている変換候補文字列を選択し,確定を入力すると,変換候補選択部17は,入力フィールド部5に表示されている未確定文字列を削除し,選択された変換候補文字列を入力フィールド部5に表示させる。 【0030】 上記のように,図5に示す次入力候補文字列の表示と同様に,パラメータ“表情”に応じて,変換候補文字列の配置を切り替えることにより,少ないキー操作で,状況に適した候補文字列を選択することが可能となる。 【0031】 なお,変換候補選択部17は,図5において選択された次入力候補文字列,あるいは,図6において選択された変換候補文字列を入力確定文字列として,図5の処理を繰り返す。あるいは,使用者がキー入力部2により文字列を入力した場合,この入力した文字列を未確定文字列として図6の処理を繰り返す。 【0032】 上述した実施形態により,使用時の気分に応じた文体の候補文字列を優先的に配置し,より少ない操作で適切な候補文字列を選択することが可能となり,文字入力時の利便性を向上させることが出来る。 例えば,業務用途で使用している場合よりも,個人用途で使用している場合のほうが「笑い」や「怒り」などの表情が現われやすく,これを利用して業務用途の辞書と個人用途の辞書とを選択するようにすることができる。 【0033】 上述したように,本実施形態によれば,文字入力時における変換候補文字列や次入力候補文字列を使用者の状況に応じて切り替えることにより,入力の利便性を向上させることが可能であり,例えば,カメラを具備した携帯電話装置,特に文字入力時に使用者と正対するカメラを備える携帯電話装置に適用される。 具体的には,メール作成等の文字入力モードの起動時に,携帯電話装置に具備されたカメラを用いて使用者の表情を撮像して表情を検出し,表情毎に異なる変換候補テーブルを選択することで,優先表示する変換候補文字列,あるいは,次入力候補文字列の配置を変え,より少ないキー操作で使用者が望む候補文字列を選択することが可能となる。」 段落0021の「文字入力時の表情が「笑い」であれば」,段落0022の「同様に「怒り」であれば」,段落0026の「文字入力時の表情が「笑い」であれば」,段落0027の「文字入力時の表情が「怒り」であれば」という記載だけを見ると,一見して,文字入力する度毎に表情を判断しているかのように解釈されうる。 しかし,請求人が補正の根拠として挙げた図5および図6ならびに段落0031について,図5およびその説明である段落0020?0024は,「入力確定文字列に対応して次入力候補文字列を表示する場合の例」(段落0020)を示し,図6およびその説明である段落0025?0030は,「未確定文字列に対応して変換候補文字列を表示する場合の例」(段落0025)を示しており,段落0031には「変換候補選択部17は,図5において選択された次入力候補文字列,あるいは,図6において選択された変換候補文字列を入力確定文字列として,図5の処理を繰り返す。あるいは,使用者がキー入力部2により文字列を入力した場合,この入力した文字列を未確定文字列として図6の処理を繰り返す。」と記載されている。 つまり,図5および図6の処理は,「変換候補選択部17」が実行する候補選択処理であるといえる。 そして,「変換候補選択部17」が実行する候補選択処理について,段落0013には「変換候補選択部17は,表情記憶部16から読み出した表情の判定結果に従って変換候補テーブル8を選択し,選択した変換候補テーブル8から,入力部12により入力された未確定文字列に対応した変換候補文字列とその表示順,あるいは,入力部12により入力確定された文字列に対応した次入力候補文字列その表示順を読み出し,読み出した候補文字列の一覧を表示順に表示部18に表示させる。」と記載されており,さらに,段落0019にも「変換候補選択部17」が「未確定文字列に対応した変換候補文字列及びその表示順,あるいは,入力確定文字列に対応した次入力候補文字列及びその表示順を,図4の辞書選択処理によって選択した変換候補テーブル8-n(nは1,2,または3)から読み出し,候補選択フィールド部6に表示する」と記載されている。ここで,図4の辞書選択処理では,「図3に示す文字入力モード遷移処理の後,使用者がキー入力部2により文字入力を行うと,変換候補選択部17は,表情記憶部16に書き込まれているパラメータ“表情”を取得し,パラメータ“表情”が「笑い」を示している場合は(ステップS210:YES),変換候補テーブル8-1を選択し(ステップS220),「怒り」を示している場合は(ステップS210:NO,ステップS230:YES),変換候補テーブル8-2を選択し(ステップS240),「笑い」及び「怒り」のいずれにも該当しない場合は(ステップS210:NO,ステップS230:NO),変換候補テーブル8-3を選択する(ステップS250)。」(段落0018)(下線部は当審で付加した。)と記載されている。 つまり,「文字入力時の表情」は,「表情記憶部16に書き込まれているパラメータ“表情”を取得し」たものであり,「表情記憶部16に書き込まれているパラメータ“表情”」は,段落0017に「使用者が,図2に示す携帯電話装置1のキー入力部2により,メール作成やメモ作成などのアプリケーションの起動指示を入力すると,文字入力モードへの遷移が行われる。するとまず,制御部13は,カメラ部3を起動し,使用者の顔の撮影を指示する。カメラ部3は,使用者の顔を撮影すると,撮影された画像データを判定部15に出力する(ステップS110)。判定部15は,受信した画像データから使用者の表情を判定し(ステップS120),判定した表情を表すパラメータ“表情”を表情記憶部16に書き込む(ステップS130)。」と記載されているように,文字入力モードへの遷移の際に,表情記憶部16に書き込まれたものであるといえる。 そして,「撮像部」が「該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで使用者の顔を撮像し」たり,「次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで使用者の顔を撮像する」ことについて,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲または図面(以下,「当初明細書等」という。)の他の記載箇所を見ても,該当する記載は見当たらない。 したがって,「撮像部」が「該入力文字列が,未確定文字列から前記候補文字列より選択され,入力確定文字列となったタイミングで使用者の顔を撮像し」たり,「次入力候補の文字列である前記候補文字列より選択され,次入力文字列として確定されたタイミングで使用者の顔を撮像する」ことについては,当初明細書等に何ら記載も示唆もされておらず,また,当初明細書等から当業者が自明に導き出せるものでもない。 よって,この補正は,当初明細書等のすべての記載事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法第17条の2第3項の規定に適合しない。 3.むすび したがって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明の特許要件についての検討 1.本願発明 平成28年3月15日にされた手続補正による補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本願の出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,上記第2 1(2)に前述した以下のとおりのものである。 「【請求項1】 入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部と, 使用者の表情を判定する判定部と, 前記記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補テーブルを選択し,選択した前記変換候補テーブルから入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる変換候補選択部と, を備えることを特徴とする入力支援装置。」 2.引用例 (1) 引用例1 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2004-199550号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。) ア「【0010】 本発明の他の目的は,テキストメッセージの書き手が自分の感情等をテイストとしてメッセージに反映させることができる端末装置およびサーバを提供することにある。」 イ「【0017】 前記端末装置は,予め定められた複数のテイストに対応した複数の予測変換辞書と,ユーザの指示に従って,これらの複数の予測変換辞書のうちの一つを選択する手段とをさらに備えてもよい。この場合,前記テイストの選択は前記予測変換辞書の選択により行われることになる。」 ウ「【0029】 【発明の実施の形態】 以下,本発明の実施の形態について,図面を参照して詳細に説明する。 【0030】 図1に本発明が適用されるシステムの概略構成を示す。ここでは,テキストメッセージを送受信するシステムの一例として,電子メール(単にメールともいう)システムを示している。このシステムは,通信ネットワーク(図示せず)を介して相互に接続される複数の端末装置(端末)100,102,104と,サーバ400とからなる。 【0031】 図1(a)に示すシステムでは,送信側端末から,表示属性情報を含んだテキストメッセージとしての所定のフォーマット(ここではXML)のメッセージ240aが,サーバ400に送られる。このサーバ400は,メッセージ240aと同じ,または,表示属性情報が追加もしくは変更されたメッセージとしてのXML文書240bを受信側端末へ送信する。端末の種類としては,携帯電話機,携帯情報端末(PDA)等のような携帯型端末の他,パーソナルコンピュータ(PC)等を含みうる。図では,送信側の端末として携帯電話機のみを示している。これは,本発明でのメール作成が携帯電話機のような表示エリアや入力機能が限られた端末に適用して好適であるためであるが,送信側端末として携帯電話機以外の端末に本発明を適用できないという意味ではない。」 エ「【0035】 この端末100は,電話および通信機能に関連した部位として,アンテナ200,デュプレクサ(アンテナ共用器)301,受信部(RX)302,送信部(TX)303,デジタル信号処理部DSP(Digital Signal Processor)304,スピーカ305,マイク306,イヤレシーバ307を含む。端末100は,さらに,この端末の制御に関連した部位として,制御部308,表示部309,入力操作部311,ROM313,RAM314等を有する。制御部308は中央処理装置(CPU)などから構成される。入力操作部311は端末の各種キーやボタン,ジョグダイヤル等に相当する。ROM313には本実施の形態の後述する動作を実現するための制御プログラムが格納されている。ROM313は,フラッシュROMのような再書き込み可能なメモリを含んでもよい。本実施の形態における辞書データ,フォントデータ等はROM313および/またはRAM314に格納される。各種文書等のデータはRAM314に格納される。」 オ 「【0045】 図6により,図1の端末100に採用された予測変換手法の具体例について説明する。今,図6(a)に示すように,ユーザが,端末100の表示画面上のメール本文入力領域21に,端末の入力操作部(テンキー)から文字「て」を入力したとする。画面上,この入力文字は強調表示(例えば反転表示)されている。このとき,この入力文字に該当する語句群が選択候補として選択候補表示欄23にリスト表示される。この選択候補の語句群は,複数の辞書の検索結果として抽出されたものである。このときユーザは「デンワ」という語句を入力しようとしたとする。該当する語句「デンワ」は選択候補表示欄23内に見あたらない。(なお,「て」の入力に対して「デンワ」が選択候補としてあげられる場合もありうるが,ここでは説明の都合上,「デンワ」が選択候補として含まれない場合を示している。)そこで,図6(b)に示すように,ユーザは次に濁点をキー入力する。この時点までに入力された文字「で」から予測される入力語句群が選択候補表示欄23にリスト表示される。この状態では3番目の選択候補として「デンワ」が表示されている。この状態で,ユーザが所定の操作,例えばジョグダイヤルによるカーソル24の移動および「選択」操作を行うことにより,語句「デンワ」を選択すれば,図6(c)に示すように,選択された語句「デンワ」が入力領域21に表示される。なお,この状態では選択候補表示欄23には,「デンワ」に続く可能性がある選択候補が表示されている。」 カ 「【0050】 図7は,テイスト選択画面の一例を示す。ここでは,メニュー形式で,ラブラブモード,怒りモード,ハッピーモード,親父モード,お嬢様モード,ショックモード等の各種テイストを選択できるようになっている。これによって,使用されるオプションの予測変換辞書も変わる。このユーザインタフェースはメニュー形式(プルダウン,ポップアップ等を含む)に限るものではなく,ラジオボタン形式やアイコン指定形式等,任意の他の形式であってよい。 【0051】 図8に,予測変換辞書の構成例を示す。予測変換辞書90としては,オプションのテイストに関係なく共通に適用される共通辞書91と,オプションで適用される辞書92,93,…がある。オプション辞書は通信ネットワークを介してサーバからダウンロードして追加することができる。テイストに関するオプション辞書は,図7で説明したようなユーザによるテイストの選択に応じて選択される。テイスト別の予測変換辞書の選択により,予測変換時には当該テイストに合致した語句が選択候補表示欄23に表示されやすくなる。例えば,ラブラブモード辞書92には,入力文字「あ」に対して,「愛」「愛してる」「I Love You」などの語句が割り当てられている。」 キ 「【0060】 図13に,本実施の形態における送信側端末でのメール作成・送信処理のフローチャートを示す。ユーザは,前述したように,メールの作成に先立って,モード(テイスト)の選択を行う(S11)。この代わりに,メール作成の最後にモードを指定または変更するようにすることも可能である。モードが指定されたら,それに対応する辞書が端末内に存在しているか否かをチェックする(S12)。存在していなければ,ネットワーク上の所定サーバ(サーバ400と同じでなくても可)にアクセスして,当該辞書をダウンロードする(S13)。これは,辞書のメニューのみが保存されている場合,あるいは,一旦ダウンロードした辞書の本体を削除した場合に相当する。全く,メニューにない新たな辞書をサーバからダウンロードすることも可能である。」 ク 以上のア?キの記載および関連する図面を参照すると,引用例1には以下の事項を含む発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。 「テキストメッセージの書き手が自分の感情等をテイストとしてメッセージに反映させることができる端末装置であって, 前記テキストメッセージは電子メールであり, 端末は,携帯電話機,携帯情報端末(PDA)等のような携帯型端末であり, 予測変換辞書などの辞書データ等はROMおよび/またはRAMに格納されており, 前記端末の入力操作部(テンキー)から文字を入力した際に,この入力文字に該当する語句群が選択候補として選択候補表示欄にリスト表示され,この選択候補の語句群は,複数の辞書の検索結果として抽出されたものであり, テイスト選択画面では,メニュー形式で,怒りモード,ハッピーモード等の各種テイストを選択できるようになっており,これによって,使用されるオプションの予測変換辞書も変わり, テイスト別の予測変換辞書の選択により,予測変換時には当該テイストに合致した語句が選択候補表示欄に表示されやすくなる 端末装置。」 (2)引用例2 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2009-253931号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,メール作成機能付き携帯端末などの電子データの編集(作成)機能を備えた電子データ編集装置,電子データ編集方法及びプログラムに関する。 【背景技術】 【0002】 たとえば,携帯電話機等のメール作成機能付き携帯端末は,テキストデータ等のメールデータ(文章データ)を任意に編集(作成)できるので,電子データの編集(作成)機能を備えた電子データ編集装置の一例である。以下,このメール作成機能付き携帯端末を「携帯電話機」とすると,この携帯電話機で作成可能なメールは,テキスト文字主体のメールまたは絵文字混在のメールであり,前者の無味乾燥なテキストメールに対して,絵文字混在メールは様々な絵文字(予め用意されたハートマークなどの多種多様なグラフィック記号のこと)を使用することができ,文字だけでは伝わりにくい感情を込めることができる。 【0003】 しかし,絵文字混在メールは,いちいちリストから適当な絵文字を選択して,その絵文字をメール中に挿入しなければならず,この作業を手動で行うことから,面倒を否めなかった。 【0004】 そこで,メールの作成時に,ユーザの声をマイクで拾って感情を判断し,その感情から特定された絵文字を自動挿入するという技術が知られている(たとえば,特許文献1参照。)。 【0005】 【特許文献1】特開2006-277567号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら,上記の従来技術にあっては,絵文字などのように,手入力に時間がかかるデータを電子メールなどの編集データ(電子データ)中に自動挿入することが可能であるが,感情の判断に一定量の音声データが必要で,音声データの収集から感情判断までに相応の時間を要するため,感情を速やかに判断できず,電子データを編集する際の操作性を悪くするという問題点がある。 また,携帯電話機で絵文字を入力する場合に限らず,デジタルカメラで撮影した画像データにユーザが任意に入力した文字列からなる名称を付加するような場合にも操作性の問題点がある。つまり,通常のデジタルカメラでは,パーソナルコンピュータのような入力し易いキーボードや高度な入力支援機能を備えておらず,カーソルキーなどにより文字を入力する必要があるので,絵文字に限らず,文章そのものを入力するのも面倒であった。 【0007】 そこで,本発明の目的は,手入力に時間のかかるデータを編集中の電子データに挿入する際の編集効率を向上させることのできる電子データ編集装置,電子データ編集方法及びプログラムを提供することにある。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 以下,本発明の実施形態をカメラ付き携帯電話機を例にして,図面を参照しながら説明する。 【0011】 まず,本実施形態における用語の定義を行う。メール又はメールデータとは,テキストデータ等の文字主体のものを指すことはもちろんのこと,文字情報に加えて書式情報等の付加情報や文字以外の任意情報(画像情報等)を含むものも指す。これは,たとえば,携帯電話機では一般的にテキストメールが多用されているものの,一部の携帯電話機やパーソナルコンピュータでは,文字修飾や画像等の埋め込みが可能な非テキストメール(HTML形式などの電子データ)の編集や作成ができるようになっているからである。また,本実施形態における「編集」又は「編集処理」とは,すでに作成済みの電子データ(上記のメールデータ等)に加筆修正を加えることを意味する他,新規に電子データを作成することも意味する。また,「挿入データ」とは,編集対象の電子データに挿入又は合成されるデータのことをいい,たとえば,編集対象の電子データが「画像データ」である場合は,画像合成などによって挿入が可能な画像データであり,あるいは,編集対象の電子データがテキストデータ等の文章データである場合は,その文章データの指定位置に追加挿入が可能な文章データ(たとえば,テキストデータ)である。ただし,これらは説明のための一例に過ぎず,編集対象の電子データに挿入可能な形態のデータであれば,如何なるものであっても構わない。 【0012】 図1は,カメラ付き携帯電話機のブロック図である。この図において,カメラ付き携帯電話機(以下,単に「携帯電話機」という。)1は,アンテナ2を介して最寄りの携帯電話基地局(不図示)との間で音声通信またはメールを含むデータ通信を行う通信部3と,被写体を静止画撮影またはスルー画像撮影してその画像データを生成するCCDやCMOS等の撮像デバイスを含む撮像部4と,電話番号/文字入力兼用のテンキー,オンフックキー,オフフックキー,シャッタキー,カーソルキー及び各種の機能キーを含む操作部5と,発着信電話番号の表示や静止画撮影またはスルー画像撮影時の電子ファインダー,撮像画像の確認・再生表示及びメールの作成や閲覧に用いられる液晶ディスプレイ等からなる表示部6と,音声通話用マイク7及び同スピーカ8と,画像データや送受信メールデータ並びに電話帳等のその他のデータを記憶保存する記憶部9と,パーソナルコンピュータ等の外部機器10との間で画像データなどのやり取りを仲介する入出力部11と,一次電池または二次電池を含む電源部12と,与えられた画像データの中から人物の顔を抽出し,その顔の表情(笑い顔,泣き顔,怒った顔,無表情・・・・等)を判定して,その判定結果を示す感情データを発生する感情判定部13と,CPU14aやPROM14b及びRAM14c並びにI/O14dなどを含むマイクロコンピュータで構成され,以上の各部の動作を統括制御する制御部14とを有する。 【0013】 図2は,感情判定部13の概念構成図である。この図において,感情判定部13は,前記のとおり,「与えられた画像データの中から人物の顔を抽出し,その顔の表情(笑い顔,泣き顔,怒った顔,無表情・・・・等)を判定して,その判定結果を示す感情データを発生する」という機能を有している。ここで,“感情”とは,正確には人間の心理状態のことをいうが,実際上,心理状態の把握は不可能または困難であるので,ここでは,心理状態と一定の相関がある「顔の表情」を感情と定義する。つまり,「感情=顔の表情」であるとする。」 ウ 「【0016】 感情判定部13は,与えられた画像データG(この画像データGは撮像部4で撮像された静止画像またはスルー画像であってもよいし,あるいは,記憶部9に保存されている撮影済みの静止画像,若しくは外部機器10から入力された静止画像であってもよい。)の中から人物(ヒト)の顔を抽出する顔抽出部15と,顔抽出ありを判定する第一判定部16と,顔抽出ありを判定した場合に,抽出された顔の表情を識別(たとえば,笑顔,泣き顔,怒った顔・・・・等)して各表情ごとの確度値(その表情の「確からしさ」を示す値)を設定する表情識別部17と,表情識別部17における各表情ごとの確度値のうち最大の確度値を持つものを判定する第二判定部18と,この第二判定部18の判定結果に対応した選択信号を出力する選択部19と,この選択信号に従って複数の感情データの中から一つの感情データ取り出して出力する感情データ出力部20とを有する。」 エ 「【0024】 図3は,メール作成及び送信処理のフローを示す図である。このフローは,制御部14のPROM14bに予め格納されている制御プログラムの一部であり,ユーザイベント(ユーザによるメール作成や送信の操作イベント)に応答して制御部14のRAM14cに読み出され,制御部14のCPU14aによって実行されるものである。 【0025】 このフローは,フロー開始直後に実行されるテキスト編集ブロックB1と,その後に続けて実行される感情マーク挿入ブロックB2とに大別することができる。まず,テキスト 編集ブロックB1では,メール件名用のテキストデータが入力されたか否かを判定し(ステップS1),入力されていれば,メール件名の指定位置(カーソル位置)に,そのテキストデータを挿入する(ステップS2)。次いで,メール本文用のテキストデータが入力されたか否かを判定し(ステップS3),入力されていれば,メール本文の指定位置(カーソル位置)に,そのテキストデータを挿入する(ステップS4)。 【0026】 次に,感情マーク挿入ブロックB2では,まず,メール添付用の画像データの有無を判定する(ステップS5)。ここで,メール添付用の画像データは,メール作成中に撮像部4で撮像した自分自身の顔写真(静止画像)であることを典型とするが,これ以外のもの,たとえば,記憶部9に記憶されている過去に撮影された顔写真であってもよい。要は,感情を抽出するための適当な顔写真であればよい。また,他の人物の顔写真であってもよい。 【0027】 メール添付用の画像データなしの場合は,この感情マーク挿入ブロックB2から抜けてメール作成完了(ユーザによるメール編集の完了操作)を判定し(ステップS13),完了していなければ,再びテキスト編集ブロックB1を実行し,完了していれば,メールを送信(ステップS14)した後,フローを終了する。 【0028】 一方,メール添付用の画像データありの場合は,その画像データを感情判定部13に送り,この感情判定部13によって顔を検出し(ステップS6),顔が検出されなかった場合(ステップS7のNO)は,感情マーク挿入ブロックB2から抜けてメール作成完了(ユーザによるメール編集の完了操作)を判定し(ステップS13),完了していなければ,再びテキスト編集ブロックB1を実行し,完了していれば,メールを送信(ステップS14)した後,フローを終了する。 【0029】 他方,顔が検出された場合(ステップS7のYES)は,顔の表情を認識して感情を判定し(ステップS8),次いで,感情マークの自動合成モードが選択されているか否かを判定する(ステップS9)。感情マークの自動合成モードとは,予めユーザによって選択されるモードであって,このモードが選択されている場合に,メールに添付する画像データへの感情マークの自動合成を許容するというモードである。 【0030】 感情マークの自動合成モードが選択されている場合,判定された感情に対応する感情マークを生成して添付画像内の指定位置に合成し(ステップS10),次いで,感情文字の自動挿入モードが選択されているか否かを判定する(ステップS11)。感情文字の自動挿入モードとは,予めユーザによって選択されるモードであって,このモードが選択されている場合に,メール件名やメール本文中への感情文字の自動挿入を許容するというモードである。 【0031】 感情文字の自動挿入モードが選択されている場合,判定された感情に対応する絵文字を生成してメールの件名または本文の指定位置(カーソル位置)に合成する(ステップS12)。なお,感情マークの自動合成モードが選択されていない場合はステップS10をパスし,また,感情文字の自動挿入モードが選択されていない場合はステップS12をパスする。 【0032】 図4は,感情マークの自動合成モードと感情文字の自動挿入モードとを示す概念図である。(a)に示すように,感情マークの自動合成モードでは,対象となる画像データ21(メールに添付する画像データ)の所定位置(たとえば,点線で示すコーナ部分のいずれか)に感情マーク22を合成する。また,(b)に示すように,感情文字の自動挿入モードでは,メール23の件名または本文の指定位置(カーソル位置)に顔文字(または顔絵文字)24,25を挿入する。 【0033】 このように,本実施形態によれば,メール作成中に撮像部4を用いて自分の顔を静止画撮影するだけで,そのときの自分の感情に対応した顔文字(または顔絵文字)24,25をメール23の件名や本文に自動挿入することができる。」 オ 以上のア?エの記載によれば,引用例2には以下の事項を含む発明(以下「引用例2発明」という。)が開示されていると認められる。 「メール作成機能付き携帯端末であって, 前記携帯端末は,カメラ付き携帯電話機であり, メールを含むデータ通信を行う通信部と, 被写体を静止画撮影またはスルー画像撮影してその画像データを生成するCCDやCMOS等の撮像デバイスを含む撮像部と, 電話番号/文字入力兼用のテンキー,オンフックキー,オフフックキー,シャッタキー,カーソルキー及び各種の機能キーを含む操作部と, 撮像画像の確認・再生表示及びメールの作成や閲覧に用いられる液晶ディスプレイ等からなる表示部と, 与えられた画像データの中から人物の顔を抽出し,その顔の表情(笑い顔,泣き顔,怒った顔,無表情・・・・等)を判定して,その判定結果を示す感情データを発生する感情判定部と, を有しており, 前記与えられた画像データは撮像部で撮像された静止画像またはスルー画像であってもよく, メール作成中に撮像部を用いて自分の顔を静止画撮影するだけで,そのときの自分の感情に対応した顔文字(または顔絵文字)をメールの件名や本文に自動挿入することができる メール作成機能付き携帯端末。」 2.対比 (1)そこで,本願発明と引用例1発明とを対比する。 ア 引用例1発明は,「電子メール」のような「テキストメッセージを送受信」できる「携帯電話機」の分野に属し,「テキストメッセージの書き手が自分の感情等をテイストとしてメッセージに反映させることができる」よう,「テイスト別の予測変換辞書の選択により,予測変換時には当該テイストに合致した語句が選択候補表示欄23に表示されやすくなる」(段落0051)という課題を有している。 一方,本願発明は,「メール作成等の文字入力」(段落0015)「を行う入力支援装置」(段落0001)「として用いられる携帯電話装置」(段落0014)の技術分野に属し,「使用者の状況応じて,未確定文字列や確定入力文字列に対応して提示する候補文字列を変更し,使用者が望む候補文字列をより少ないキー操作により選択可能な入力支援装置(中略)を提供すること」(段落0007)を課題としており,「使用者の状況」を使用者の表情「笑い」「怒り」などで判定している(段落0017-0018)。 ここで,引用例1発明の技術分野および課題における「携帯電話機」,「電子メール」,「テキストメッセージの書き手」は,それぞれ,本願発明の技術分野および課題における「携帯電話装置」,「メール」,「使用者」に相当している。 また,引用例1発明の技術分野および課題における「テキストメッセージの書き手」の「感情」と,本願発明の技術分野および課題における使用者の表情「笑い」「怒り」などで判定される「使用者の状況」とは,「使用者の感情」である点で共通しており,互い対応しているといえる。 さらに,引用例1発明の課題における「感情等」の「テイストに合致した語句が選択候補表示欄に表示されやすくなる」と,本願発明の課題における「使用者の状況応じて,未確定文字列や確定入力文字列に対応して提示する候補文字列を変更し,使用者が望む候補文字列をより少ないキー操作により選択可能」とは,使用者の感情に応じて,使用者が望む候補文字列をより少ないキー操作により選択可能とする点で共通しており,互い対応しているといえる。 したがって,引用例1発明と本願発明とは,メール作成等の文字入力を行う携帯電話装置という技術分野で共通し,さらに,使用者の感情に応じて,使用者が望む候補文字列をより少ないキー操作により選択可能とするという課題で共通しているといえる。 イ 引用例1発明において,「入力文字に該当する語句群が選択候補として選択候補表示欄にリスト表示され,この選択候補の語句群は,複数の辞書の検索結果として抽出されたものであ」り,この「複数の辞書」は「予め定められた複数のテイストに対応した複数の予測変換辞書」であって,「辞書データ等はROMおよび/またはRAMに格納されており,」「各種テイスト」には,「怒りモード,ハッピーモード」等の感情に対応するものが含まれている。 ここで,引用例1発明の「入力文字」,「選択候補の語句群」,「ROMおよび/またはRAM」は,それぞれ,本願発明の「入力文字列」,「候補文字列のリスト」,「記憶部」に相当している。 そして,「表情」は,「感情」が表に現れたものであり,引用例1発明の「テイスト」と,本願発明の「表情」とは,感情に対応するものである点で共通しており,引用例1発明の「複数のテイストに対応した複数の予測変換辞書」が「格納された」「ROMおよび/またはRAM」と,本願発明の「表情毎に記憶」された「変換候補テーブルを表情毎に記憶する記憶部」とは,変換候補群を感情に対応して記憶する記憶手段である点で共通しているといえる。 したがって,引用例1発明と,本願発明とは,入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補群を感情に対応して記憶する記憶手段を備えている点で共通しているといえる。 しかし,本願発明では,変換候補群を変換候補テーブルとして記憶しているのに対し,引用例1発明では,変換候補群をどのような格納形態で記憶しているのか不明である点で相違している。 ウ 引用例1発明では,「テイスト選択画面では,メニュー形式で,怒りモード,ハッピーモード等の各種テイストを選択できるようになっており,これによって,使用されるオプションの予測変換辞書も変わり,テイスト別の予測変換辞書の選択により,予測変換時には当該テイストに合致した語句が選択候補表示欄に表示されやすくなる」。 ここで,引用例1発明の「選択」された「各種テイスト」によって「複数の予測変換辞書のうちの一つを選択」することと,本願発明の「記憶部から」「表情の判定結果に対応した」「変換候補テーブルを選択」することとは,感情に対応した変換候補群を選択する手段を備えている点で共通しているといえる。 しかし,本願発明では,変換候補群を選択する際に,判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補群を選択しているのに対し,引用例1発明では,感情を選択させることで対応する変換候補群を選択している点で相違している。 エ 引用例1発明は,「入力文字に該当する語句群が選択候補として選択候補表示欄23にリスト表示され,この選択候補の語句群は,複数の辞書の検索結果として抽出されたものであり,」複数の辞書は「複数のテイストに対応した複数の予測変換辞書」であり,「ユーザの指示に従って,これらの複数の予測変換辞書のうちの一つを選択」している。 ここで,引用例1発明の「入力文字」,「選択候補の語句群」,「抽出」,「リスト表示」は,それぞれ,本願発明の「入力文字列」,「候補文字列のリスト」,「取得」,「表示」に相当している。 そして,引用例1発明の「選択」された「予測変換辞書」と,本願発明の「選択した前記変換候補テーブル」とは,選択された変換候補群である点で共通しているといえる。 したがって,引用例1発明と,本願発明とは,選択された変換候補群から入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる手段を備えている点で共通しているといえる。 オ 引用例1発明は,「ユーザによるテイストの選択に応じて選択され,テイスト別の予測変換辞書の選択により,予測変換時には当該テイストに合致した語句が選択候補表示欄に表示されやすくなる」。 ここで,予測変換辞書は,一般に,入力済みの文字列を単に仮名漢字変換等したものではなく,今後入力される可能性のある文字列を予測して変換候補として出力するための変換辞書である。 よって,引用例1発明も,入力済みの文字列に基づいて,今後入力される可能性のある文字列を予測して変換候補として出力することにより,文字入力を支援しているといえる。 したがって,引用例1発明の端末装置も,本願発明と同様に,文字入力を支援している入力支援装置であるといえる。 (2)一致点,相違点 上記(1)ア?オによると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。 [一致点] 「入力文字列に対応した候補文字列のリストを表す変換候補群を感情に対応して記憶する記憶手段と, 感情に対応した変換候補群を選択する手段と, 選択された変換候補群から入力文字列に対応した候補文字列のリストを取得して表示させる手段と, を備える入力支援装置。」 [相違点1] 本願発明では,変換候補群を変換候補テーブルとして記憶しているのに対し,引用例1発明では,変換候補群をどのような格納形態で記憶しているのか不明である点。 [相違点2] 本願発明では,使用者の表情を判定する判定部を備えているのに対し,引用例1発明では,このような構成を備えていない点。 [相違点3] 本願発明では,変換候補群を選択する際に,判定部による表情の判定結果に対応した前記変換候補群を選択しているのに対し,引用例1発明では,感情に対応するテイストを選択させることで対応する変換候補群を選択している点。 3.判断 [相違点1について] 携帯電話装置における文字入力の技術分野において,予測変換辞書で変換候補群をテーブル形態で格納することは,本願出願前に周知の技術にすぎない。 したがって,引用例1発明においても,変換候補群を格納する際に,当該周知技術を採用して,本願発明と同様に,変換候補テーブルの形態で格納するよう構成することは,本願の出願日前に当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2および3について] 引用例2発明は,引用例1発明と同じ,携帯電話機等のメール作成機能付き携帯端末の技術分野に属し,感情を反映させたテキストを作成するという共通の課題を有している。 そして,引用例2発明は,「カメラ付き携帯電話機であり,」「被写体を静止画撮影またはスルー画像撮影してその画像データを生成するCCDやCMOS等の撮像デバイスを含む撮像部と,」「与えられた画像データの中から人物の顔を抽出し,その顔の表情(笑い顔,泣き顔,怒った顔,無表情・・・・等)を判定して,その判定結果を示す感情データを発生する感情判定部と,を有しており,前記与えられた画像データは撮像部で撮像された静止画像またはスルー画像であってもよく,メール作成中に撮像部を用いて自分の顔を静止画撮影するだけで,そのときの自分の感情に対応した顔文字(または顔絵文字)をメールの件名や本文に自動挿入することができる」携帯端末である。 また,操作の手間を省くために手動で行っていた操作を自動化することは周知の課題である。 したがって,引用例1発明において,当該周知の課題を解決するために,変換候補群を選択する際に,感情に応じたテイストを選択させて感情に対応した変換候補群を選択する構成に代えて,引用例2発明に開示された,自分の顔を静止画撮影し,撮影された顔の表情を判定して,その判定結果を示す感情データを発生する感情判定部を備える構成を採用して,本願発明と同様に,使用者の表情を判定する判定部を備え,記憶部から前記判定部による表情の判定結果に対応して変換候補群を選択する構成とすることは,本願の出願日前に当業者が容易に想到し得たものである。 また,本願発明の効果についてみても,上記構成の採用に伴って,当然に予測される程度のものに過ぎず,格別顕著なものがあるとは認められない。 したがって,本願発明は,引用例1および引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例1および引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-19 |
結審通知日 | 2016-12-20 |
審決日 | 2017-01-05 |
出願番号 | 特願2014-117530(P2014-117530) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 成瀬 博之 |
特許庁審判長 |
手島 聖治 |
特許庁審判官 |
星野 昌幸 野崎 大進 |
発明の名称 | 入力支援装置、入力支援方法、及び、プログラム |
代理人 | 丸山 隆夫 |