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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1328366
審判番号 不服2016-8905  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-15 
確定日 2017-05-17 
事件の表示 特願2014-542704「透明導電膜の導電構造、透明導電膜、およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日国際公開、WO2014/063417、平成27年 1月15日国内公表、特表2015-501502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年12月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月25日、中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月12日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成27年8月4日付けで拒絶理由が通知され、平成27年10月28日に意見書が提出され、平成28年2月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年6月15日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。


第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年6月15日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1は、

「透明導電膜の導電構造であって、該導電構造は透明基板上に配置され、前記導電構造は、グリッド形状の第1の金属埋め込み層と、前記第1の金属埋め込み層上に隣接して配置されたグリッド形状の第2の金属埋め込み層とを備え、前記第1の金属埋め込み層と前記第2の金属埋め込み層とは互いに絶縁されており、
前記第1の金属埋め込み層及び/又は前記第2の金属埋め込み層のグリッド形状は、直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状であり、前記グリッド線は右方向の水平X軸に対して均一に分布した角度θを形成し、
前記透明導電膜は、第1のポリマー層と第2のポリマー層とを更に含み、
前記第1の金属埋め込み層は前記第1のポリマー層に配置され、前記第1の金属埋め込み層は3.0μmの深さと、2.2μmの幅を有するグリッド形状の凹部に配置された、銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃であるナノ銀インクからなり、
前記第2の金属埋め込み層は前記第2のポリマー層に配置され、前記第2の金属埋め込み層は3.0μmの深さと、2.2μmの幅を有するグリッド形状の凹部に配置された、銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃であるナノ銀インクからなり、前記第2の金属埋め込み層の厚さは前記第2のポリマー層の厚さより小さい、導電構造。」(下線部は補正箇所を示す。)

と補正された。

なお、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「前記透明伝導膜」と記載されているが、当該記載より前には、「透明導電膜」の記載はあっても「透明伝導膜」の記載はないこと、出願人が平成28年6月15日付け審判請求書において当該「透明伝導膜」の補正の根拠としている本願の明細書段落【0014】には、「透明導電膜」について記載されていることから、「前記透明伝導膜」は「前記透明導電膜」の誤記と認め、上記のように認定した。
さらに、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「銀インクの個体成分」と記載されているが(2箇所)、「個体」とは、一般に一つの独立した生物体の意味であり、そのまま解釈すると請求項1の技術的意味が理解できないこと、また、出願人が平成28年6月15日付け審判請求書において当該「銀インクの個体成分」の補正の根拠としている本願の明細書段落【0029】及び【0032】には、「銀インクの固体成分」について記載されていることから、「銀インクの個体成分」は「銀インクの固体成分」の誤記と認め、上記のように認定した。

2 新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「透明導電膜の導電構造」について、「前記透明導電膜は、第1のポリマー層と第2のポリマー層とを更に含み、前記第1の金属埋め込み層は前記第1のポリマー層に配置され、前記第1の金属埋め込み層は3.0μmの深さと、2.2μmの幅を有するグリッド形状の凹部に配置された、銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃であるナノ銀インクからなり、前記第2の金属埋め込み層は前記第2のポリマー層に配置され、前記第2の金属埋め込み層は3.0μmの深さと、2.2μmの幅を有するグリッド形状の凹部に配置された、銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃であるナノ銀インクからなり、前記第2の金属埋め込み層の厚さは前記第2のポリマー層の厚さより小さい」との限定を付加して特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

また、特許法第17条の2第4項(シフト補正)に違反するものでもない。

3 独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正発明
本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、上記「1 補正後の本願発明」に記載したとおりのものである。

(2)引用発明及び周知技術
ア 引用例及び引用発明
原審の拒絶理由に引用された特開2012-119163号公報(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【背景技術】
【0002】
近時、基体上にメッシュ状の線材が形成された導電シートが開発されている。この導電シートは、電極や発熱シートとして使用可能である。例えば、タッチパネル用電極、無機EL素子、有機EL素子又は太陽電池の電極のみならず、車両のデフロスタ(霜取り装置)や電磁波シールド材にも適用してもよい。
【0003】
上記した各種物品の使用者にとって、その用途の性質上、メッシュパターンの模様は、観察対象物の視認性を妨げる粒状ノイズに相当する場合がある。そこで、同一の又は異なるメッシュ形状を規則的又は不規則的に配置することで、粒状ノイズを抑止し、観察対象物の視認性を向上させるための技術が種々提案されている。
(…中略…)
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、パターンに起因するノイズ粒状感を低減することで観察対象物の視認性を大幅に向上可能であり、断裁後にも安定した通電性能を有する導電シートの製造方法、導電シート及びプログラムを提供することを目的とする。」(段落【0002】-【0013】)(下線は当審で付した。以下同様。)

(イ)「【0030】
図1は、本実施の形態に係る導電シート14を製造するための製造装置10の概略構成ブロック図である。
【0031】
製造装置10は、メッシュパターンMの模様を表す画像データImg(出力用画像データImgOutを含む。)を作成する画像処理装置12と、該画像処理装置12により作成された前記出力用画像データImgOutに基づいて製造工程下の導電シート14に光16を照射して露光する露光部18と、前記画像データImgを作成するための各種条件(メッシュパターンMや後述する構造パターンの視認情報を含む。)を画像処理装置12に入力する入力部20と、該入力部20による入力作業を補助するGUI画像や、記憶された出力用画像データImgOut等を表示する表示部22とを基本的に備える。
(…中略…)
【0036】
図1の導電シート14は、図2Aに示すように、複数の導電部50と複数の開口部52とを有している。複数の導電部50は、複数の金属細線54が互いに交叉したメッシュパターンM(メッシュ状の配線)を形成している。すなわち、1つの開口部52と、該1つの開口部52を囲む少なくとも2つの導電部50の組み合わせ形状がメッシュ形状となっている。このメッシュ形状は開口部52毎に異なっており、それぞれ不規則(すなわち非周期的)に配列されている。以下、導電部50を構成する材料を「線材」という場合がある。
【0037】
図3に示すように、導電シート14は、第1導電シート14aと第2導電シート14bとが積層して構成されている。第1導電シート14aは、第1透明基体56a(基体)と、該第1透明基体56a上に形成された複数の第1導電部50a及び複数の第1開口部52aを備える。また、第2導電シート14bは、第2透明基体56b(基体)と、該第2透明基体56b上に形成された複数の第2導電部50b及び複数の第2開口部52bを備える。第1導電シート14aと第2導電シート14bとを積層することで、複数の第1導電部50aと複数の第2導電部50bとが重畳して複数の導電部50が形成されるともに、複数の第1開口部52aと複数の第2開口部52bとが重畳して複数の開口部52が形成される。これにより、導電シート14の平面視での模様として、ランダムなメッシュパターンMが形成される。
【0038】
導電シート14は、タッチパネルの電極、電磁波シールドの他、無機EL素子、有機EL素子又は太陽電池の電極として使用可能な導電シートである。この導電シート14をタッチパネルの電極として使用する場合の概略分解斜視図を図2Bに示す。導電シート14の一面側(本図手前側)にはフィルタ部材60が、他面側(本図奥側)には保護層61がそれぞれ重畳して配置されている。フィルタ部材60は、複数の赤色フィルタ62rと、複数の緑色フィルタ62gと、複数の青色フィルタ62bと、ブラックマトリクス64(構造パターン)とを備える。以下、ブラックマトリクス64を構成する材料を「パターン材」という場合がある。
(…中略…)
【0041】
タッチ位置の検出方式としては、自己容量方式や相互容量方式を好ましく採用することができる。これらの公知の検出方法を採用することで、保護層61の上面に同時に2つの指先を接触又は近接させても、各タッチ位置を検出することが可能となる。なお、投影型静電容量方式の検出回路に関する先行技術文献として、米国特許第4,582,955号明細書、米国特許第4,686,332号明細書、米国特許第4,733,222号明細書、米国特許第5,374,787号明細書、米国特許第5,543,588号明細書、米国特許第7,030,860号明細書、米国公開特許2004/0155871号明細書等がある。」(段落【0030】-【0041】)

(ウ)「【0068】
出力用画像データImgOutの作成方法の説明に先立って、画像データImgの評価方法について始めに説明する。本実施の形態では、人間の標準視覚応答特性を考慮した粒状ノイズ特性に基づいて評価を行う。
【0069】
図7Aは、メッシュパターンMの模様を表す画像データImgを可視化した概略説明図である。以下、この画像データImgを例に挙げて説明する。
【0070】
先ずは、図7Aに示す画像データImgに対して高速フーリエ変換(以下、FFTという。)を施す。これにより、メッシュパターンMの形状について、部分的形状ではなく、全体の傾向(空間周波数分布)として把握できる。
【0071】
図7Bは、図7Aの画像データImgに対してFFTを施して得られるスペクトルSpcの分布図である。ここで、当該分布図の横軸はX軸方向に対する空間周波数を示し、その縦軸はY軸方向に対する空間周波数を示す。また、空間周波数帯域毎の表示濃度が薄いほど強度レベル(スペクトルの値)が小さくなり、表示濃度が濃いほど強度レベルが大きくなっている。本図の例では、このスペクトルSpcの分布は、等方的であるとともに環状のピークを2個有している。
【0072】
図7Cは、図7Bに示すスペクトルSpcの分布のVIIC-VIIC線に沿った断面図である。スペクトルSpcは等方的であるので、図7Cはあらゆる角度方向に対する動径方向分布に相当する。本図から諒解されるように、低空間周波数帯域及び高空間周波数帯域での強度レベルが小さくなり、中間の空間周波数帯域のみ強度レベルが高くなるいわゆるバンドパス型の特性を有する。すなわち、図7Aに示す画像データImgは、画像工学分野の技術用語によれば、「グリーンノイズ」の特性を有する模様を表すものといえる。」(段落【0068】-【0072】)

(エ)「【0089】
先ず、初期位置選択部28は、シード点SDの初期位置を選択する(ステップS21)。
【0090】
初期位置の選択に先立って、乱数発生部26は、擬似乱数の発生アルゴリズムを用いて乱数値を発生する。ここで、擬似乱数の発生アルゴリズムとして、メルセンヌ・ツイスタ(Mersenne Twister)、SFMT(SIMD-oriented Fast Mersenne Twister)やXorshift法等の種々のアルゴリズムを用いてもよい。そして、初期位置選択部28は、乱数発生部26から供給された乱数値を用いて、シード点SDの初期位置をランダムに決定する。ここで、初期位置選択部28は、シード点SDの初期位置を画像データImg上の画素のアドレスとして選択し、シード点SDが互いに重複しない位置にそれぞれ設定する。
(…中略…)
【0096】
次いで、画像データ作成部40は、初期データとしての画像データImgInitを作成する(ステップS22)。画像データ作成部40は、記憶部24から供給されたシード点SDの個数や位置データSDd、並びに画像情報推定部38から供給された画像情報に基づいて、メッシュパターンMの模様を表す画像データImgInit(初期データ)を作成する。
【0097】
複数のシード点SDからメッシュ状の模様を決定するアルゴリズムは、種々の方法を採り得る。以下、図12A?図13Bを参照しながら詳細に説明する。
【0098】
図12Aに示すように、例えば、正方形状の二次元画像領域200内に8つの点P_(1)?P_(8)を無作為に選択したとする。
【0099】
図12Bは、ボロノイ図を用いて8つの点P_(1)?P_(8)をそれぞれ囲繞する8つの領域V_(1)?V_(8)を画定した結果を示す説明図である。なお、距離関数としてユークリッド距離を用いた。本図から諒解されるように、領域V_(i)(i=1?8)内の任意の点において、点P_(i)が最も近接する点であることを示している。
(…中略…)
【0105】
このようにして、画像データ作成部40は、画像データImgのデータ定義と、画像情報推定部38で推定された画像情報(ステップS1の説明を参照)に基づいて、メッシュパターンMの模様を表す初期の画像データImgInitを作成する(ステップS22)。画像データ作成部40は、シード点SDの初期位置(図15A参照)を基準とするボロノイ図を用いて、図15Bに示すメッシュパターンMの初期状態を決定する。なお、画像の端部については、上下方向、左右方向に繰り返し配列されるように適切な処理を行う。例えば、画像の左端(又は右端)近傍のシード点SDについては、画像の右端(又は左端)近傍のシード点SDとの間で領域Viを得るようにする。同様に、画像の上端(又は下端)近傍のシード点SDについては、画像の下端(上端)近傍のシード点SDとの間で領域Viを得るようにする。
【0106】
以下、画像データImg(画像データImgInitを含む。)は、光学濃度OD、色値L*、色値a*、色値b*の4チャンネルの各データを備える画像データであるとする。
【0107】
次いで、メッシュ模様評価部42は、評価値EVPInitを算出する(ステップS23)。なお、SA法において、評価値EVPは、対価関数(Cost Function)としての役割を担う。
【0108】
具体的には、図4に示すFFT演算部100は、画像データImgInitに対してFFTを施す。そして、畳み込み演算部102は、FFT演算部100から供給されたスペクトルSpcに対して人間の標準視覚応答特性(図8参照)を畳み込み、新たなスペクトルSpccを算出する。そして、評価値算出部104は、畳み込み演算部102から供給された新たなスペクトルSpccに基づいて評価値EVPを算出する。
【0109】
画像データImgのうち、色値L*、色値a*、色値b*の各チャンネルに対して、上述した評価値EVP(L*)、EVP(a*)、EVP(b*)をそれぞれ算出する{(2)式を参照}。そして、所定の重み係数を用いて積和演算することで、評価値EVPを得る。
(…中略…)
【0113】
次いで、記憶部24は、ステップS22で作成された画像データImgInitと、ステップS23で算出された評価値EVPInitとを一時的に記憶する(ステップS24)。あわせて、擬似温度Tに初期値nΔT(nは自然数、ΔTは正の実数である。)を代入する。
【0114】
次いで、カウンタ108は、変数Kを初期化する(ステップS25)。すなわち、Kに0を代入する。
【0115】
次いで、シード点SDの一部(第2シード点SDS)を候補点SPに置き換えた状態で、画像データImgTempを作成し、評価値EVPTempを算出した後に、シード点SDの「更新」又は「非更新」を判断する(ステップS26)。このステップS26について、図1、図4の機能ブロック図及び図16のフローチャートを参照しながら、更に詳細に説明する。
【0116】
先ず、更新候補位置決定部30は、所定の二次元画像領域200から候補点SPを抽出し、決定する(ステップS261)。更新候補位置決定部30は、例えば、乱数発生部26から供給された乱数値を用いて、シード点SDのいずれの位置とも重複しない位置を決定する。なお、候補点SPの個数は1つであっても複数であってもよい。図17Aに示す例では、現在のシード点SDが8個(点P_(1)?P_(8))に対して、候補点SPは2個(点Q_(1)と点Q_(2))である。
【0117】
次いで、シード点SDの一部と候補点SPとを無作為に交換する(ステップS262)。更新候補位置決定部30は、各候補点SPと交換(あるいは更新)される各シード点SDを無作為に対応付けておく。図17Aでは、点P_(1)と点Q_(1)とが対応付けられ、点P_(3)と点Q_(2)とが対応付けられたとする。図17Bに示すように、点P_(1)と点Q_(1)とが交換されるとともに、点P_(3)と点Q_(2)とが交換される。ここで、交換(あるいは更新)対象でない点P_(2)、点P_(4)?P_(8)を第1シード点SDNといい、交換(あるいは更新)対象である点P_(1)及び点P_(3)を第2シード点SDSという。
【0118】
次いで、画像データ作成部40は、交換された新たなシード点SD(図17B参照)を用いて、画像データImgTempを作成する(ステップS263)。このとき、ステップS22(図10参照)の場合と同一の方法を用いるので、説明を割愛する。
【0119】
次いで、メッシュ模様評価部42は、画像データImgTempに基づいて、評価値EVPTempを算出する(ステップS264)。このとき、ステップS23(図10参照)の場合と同一の方法を用いるので、説明を割愛する。
(…中略…)
【0128】
一方、シード点SDを更新する場合は、記憶部24は、現在記憶している画像データImgに対し、ステップS263(図16参照)で求めた画像データImgTempを上書き更新する(ステップS28)。また、記憶部24は、現在記憶している評価値EVPに対し、ステップS264(図16参照)で求めた評価値EVPTempを上書き更新する(ステップS28)。さらに、記憶部24は、現在記憶している第2シード点SDSの位置データSDSdに対し、ステップS261(図16参照)で求めた候補点SPの位置データSPdを上書き更新する(ステップS28)。その後、次のステップS29に進む。
【0129】
次いで、カウンタ108は、現時点でのKの値を1だけ加算する(ステップS29)。
【0130】
次いで、カウンタ108は、現時点でのKの値と予め定められたKmaxの値との大小関係を比較する(ステップS30)。Kの値の方が小さい場合はステップS26まで戻り、以下ステップS26?S30を繰り返す。なお、この最適化演算における収束性を十分確保するため、例えば、Kmax=10000と定めることができる。
(…中略…)
【0133】
一方、Tが0に等しい場合は、擬似温度管理部110は、出力用画像データ決定部116に対し、SA法によるメッシュ模様の評価が終了した旨を通知する。そして、記憶部24は、ステップS28で最後に更新された画像データImgの内容を出力用画像データImgOutに上書き更新する(ステップS33)。
【0134】
このようにして、ステップS2を終了する。なお、この出力用画像データImgOutは、その後、露光データ変換部34側に供給され、露光部18の制御信号に変換される画像データである。」(段落【0089】-【0134】)

(オ)「【0136】
図18は、最適化された出力用画像データImgOutを用いて、導電シート14の模様を表すメッシュパターンM1を可視化した概略説明図である。
(…中略…)
【0139】
図6に戻って、露光部18は、メッシュパターンMの露光処理を行い(ステップS3)、その後、現像処理を行う(ステップS4)。
【0140】
作業者は、未露光の第1シート(第1導電シート14a)を所定の位置にセットする。そして、露光開始の指示操作に応じて、画像分割部32(図1参照)は、記憶部24から取得した出力用画像データImgOutを2つの画像データに分割する。ここでは、第1導電シート14aを形成するための第1画像データImgO1について、図20A及び図21を参照しながら説明する。
【0141】
図20Aは、第1画像データImgO1を可視化した概略説明図である。図21は、図20Aに示す二次元画像領域210の部分拡大図である。説明の便宜上、第1画像データImgO1を右回りに45度だけ回転させた状態で表記している。
【0142】
第1画像データImgO1が表す二次元画像領域210上には、略同サイズの第1基本格子212が交互に且つ周期的に配置された市松模様状の第1画像領域R1(ハッチングを付した領域)が形成されている。第1基本格子212は、それぞれ略正方形状(菱形状)を有している。矢印X方向に隣接する各第1基本格子212の間には、相互に接続する第1接続部214が形成されている。一方、前記第1基本格子212と、矢印Y方向に隣接する各第1基本格子212の間には、所定の幅の隙間216が形成されている。すなわち、各第1基本格子212は、矢印X方向に対してのみ相互に連結されている。これにより、第1画像データImgO1に応じた第1導電シート14aに関し、複数の第1導電部50a(図2A及び図3参照)を構成する各第1基本格子212は、矢印X方向に対してのみ相互に電気的に接続される。二次元画像領域210のうち第1画像領域R1を除外し
た残余の領域(余白の領域)は、その対応位置に第1導電部50a(同参照)が形成されない露光データに設定する。
【0143】
なお、第1基本格子212の一辺の長さは、実寸で3?10mmに相当する画素数であることが好ましい。さらに、実寸で4?6mmに相当する画素数であることが一層好ましい。
【0144】
図1に戻って、画像分割部32は、第1画像データImgO1を露光データ変換部34に供給する。露光データ変換部34は、画像分割部32から取得した第1画像データImgO1を、露光部18の出力特性に応じた露光データに変換する。そして、露光部18は、前記第1シートに向けて光16を照射することで、露光処理を行う。
【0145】
次いで、作業者は、露光済みの第1シート(第1導電シート14a)に換えて未露光の第2シート(第2導電シート14b)をセットする。そして、露光開始の指示操作に応じて、画像分割部32(図1参照)は、記憶部24から取得した出力用画像データImgOutを2つの画像データに分割する。ここでは、第2導電シート14bを形成するための第2画像データImgO2について、図20Bを参照しながら説明する。
【0146】
図20Bは、第2画像データImgO2を可視化した概略説明図である。説明の便宜上、第2画像データImgO2を右回りに45度だけ回転させた状態で表記している。
【0147】
第2画像データImgO2が表す二次元画像領域220上には、略同サイズの第2基本格子222が交互に配置された市松模様状の第2画像領域R2(ハッチングを付した領域)が形成されている。略正方形状(菱形状)の第2基本格子222は、第1基本格子212と同じ形状をそれぞれ有する。
【0148】
矢印Y方向に隣接する各第2基本格子222の間には、相互に接続する第2接続部224が形成されている。一方、矢印X方向に隣接する各第2基本格子222の間には、所定の幅の隙間226が形成されている。すなわち、各第2基本格子222は、矢印Y方向に対してのみ相互に連結されている。これにより、第2画像データImgO2に応じた第2導電シート14bに関し、複数の第2導電部50b(図2A及び図3参照)を構成する各第2基本格子222は、矢印Y方向に対してのみ相互に電気的に接続される。二次元画像領域220のうち第2画像領域R2を除外した残余の領域(余白の領域)は、その対応位置に第2導電部50b(同参照)が形成されない露光データに設定する。
【0149】
図20A及び図20Bに示すように、二次元画像領域210及び220を破線で示した矩形領域で重ね合わせた場合、第1画像領域R1及び第2画像領域R2が互い違いの配置関係になるような、換言すれば、各第1基本格子212及び各第2基本格子222が相互に重複しない位置関係下にある。
【0150】
このように、メッシュパターンMの模様を合成することにより、例えばタッチパネル用途のように、複数の導電シート14a、14bを積層する構成を採る場合であっても、ノイズ干渉(モアレ)の発生を防止できる。
【0151】
なお、接続部214(図20A参照)及び接続部224(図20B参照)の一部領域が重複しているが、その面積(二次元画像領域210、220に対する面積比)を微小にすることで、視覚的な悪影響を無くすることができる。
【0152】
図1に戻って、露光データ変換部34は、画像分割部32から取得した第2画像データImgO2を、露光部18の出力特性に応じた露光データに変換する。そして、露光部18は、前記第2シートに向けて光16を照射することで、露光処理を行う。
【0153】
続いて、第1導電シート14aや第2導電シート14bを製造する具体的方法について説明する。
【0154】
例えば、第1透明基体56a上及び第2透明基体56b上に感光性ハロゲン化銀塩を含有する乳剤層を有する感光材料を露光し、現像処理を施すことによって、露光部及び未露光部にそれぞれ金属銀部及び光透過性部を形成して第1導電部50a及び第2導電部50bを形成するようにしてもよい。なお、さらに金属銀部に物理現像及び/又はめっき処理を施すことによって金属銀部に導電性金属を担持させるようにしてもよい。
【0155】
あるいは、第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に形成された銅箔上のフォトレジスト膜を露光、現像処理してレジストパターンを形成し、レジストパターンから露出する銅箔をエッチングすることによって、第1導電部50a及び第2導電部50bを形成するようにしてもよい。
【0156】
あるいは、第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に金属微粒子を含むペーストを印刷し、ペーストに金属めっきを行うことによって、第1導電部50a及び第2導電部50bを形成するようにしてもよい。
【0157】
第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に、第1導電部50a及び第2導電部50bをスクリーン印刷版又はグラビア印刷版によって印刷形成するようにしてもよい。
【0158】
第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に、第1導電部50a及び第2導電部50bをインクジェットにより形成するようにしてもよい。」(段落【0136】-【0158】)

(カ)「【0170】
[第1透明基体56a、第2透明基体56b]
第1透明基体56a及び第2透明基体56bとしては、プラスチックフイルム、プラスチック板、ガラス板等を挙げることができる。
【0171】
上記プラスチックフイルム及びプラスチック板の原料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、EVA等のポリオレフィン類;ビニル系樹脂;その他、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等を用いることができる。
【0172】
第1透明基体56a及び第2透明基体56bとしては、PET(融点:258℃)、PEN(融点:269℃)、PE(融点:135℃)、PP(融点:163℃)、ポリスチレン(融点:230℃)、ポリ塩化ビニル(融点:180℃)、ポリ塩化ビニリデン(融点:212℃)やTAC(融点:290℃)等の融点が約290℃以下であるプラスチックフイルム、又はプラスチック板が好ましく、特に、光透過性や加工性等の観点から、PETが好ましい。第1導電シート14a及び第2導電シート14bのような導電シートは透明性が要求されるため、第1透明基体56a及び第2透明基体56bの透明度は高いことが好ましい。」(段落【0170】-【0172】)

(キ)「【0195】
[導電性金属部]
本実施の形態の導電性金属部の線幅(第1導電部50a及び第2導電部50bの線幅)は、下限は1μm以上、3μm以上、4μm以上、もしくは5μm以上が好ましく、上限は15μm、10μm以下、9μm以下、8μm以下が好ましい。線幅が上記下限値未満の場合には、導電性が不十分となるためタッチパネルに使用した場合に、検出感度が不十分となる。他方、上記上限値を越えると導電性金属部に起因するモアレが顕著になったり、タッチパネルに使用した際に視認性が悪くなったりする。なお、上記範囲にあることで、導電性金属部のモアレが改善され、視認性が特によくなる。また、導電性金属部は、アース接続等の目的においては、線幅は200μmより広い部分を有していてもよい。
【0196】
本実施の形態における導電性金属部は、可視光透過率の点から開口率(透過率)は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが最も好ましい。開口率とは、第1基本格子212、第1接続部214、第2基本格子222、第2接続部224等(図20A及び図20B参照)の導電部を除いた透光性部分が全体に占める割合であり、例えば、線幅15μm、ピッチ300μmの正方形の格子状の開口率は、90%である。」(段落【0195】-【0196】)

(ク)「【0199】
[第1導電シート14a及び第2導電シート14b]
本実施の形態に係る第1導電シート14a及び第2導電シート14bにおける第1透明基体56a及び第2透明基体56bの厚さは、5?350μmであることが好ましく、30?150μmであることがさらに好ましい。5?350μmの範囲であれば所望の可視光の透過率が得られ、且つ、取り扱いも容易である。
【0200】
第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に設けられる金属銀部の厚さは、第1透明基体56a及び第2透明基体56b上に塗布される銀塩含有層用塗料の塗布厚みに応じて適宜決定することができる。金属銀部の厚さは、0.001mm?0.2mmから選択可能であるが、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、0.01?9μmであることがさらに好ましく、0.05?5μmであることが最も好ましい。また、金属銀部はパターン状であることが好ましい。金属銀部は1層でもよく、2層以上の重層構成であってもよい。金属銀部がパターン状であり、且つ、2層以上の重層構成である場合、異なる波長に感光できるように、異なる感色性を付与することができる。これにより、露光波長を変えて露光すると、各層において異なるパターンを形成することができる。
【0201】
導電性金属部の厚さは、タッチパネルの用途としては、薄いほど表示パネルの視野角が広がるため好ましく、視認性の向上の点でも薄膜化が要求される。このような観点から、導電性金属部に担持された導電性金属からなる層の厚さは、9μm未満であることが好ましく、0.1μm以上5μm未満であることがより好ましく、0.1μm以上3μm未満であることがさらに好ましい。」(段落【0199】-【0201】)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

a 上記(イ)の段落【0037】には図3を参照すると、導電シート14が、透明基体と複数の導電部50から形成されることが記載されており、引用例には「導電シート14の複数の導電部50」が記載されているといえる。

b 上記(イ)の段落【0038】には図2Bを参照すると、導電シート14の一面側にフィルタ部材60を配置することが記載されており、また、上記aから導電シート14は複数の導電部50を含んでいるから、引用例には「複数の導電部50はフィルタ部材60上に配置され」ることが記載されているといえる。

c 上記(イ)の段落【0036】、【0037】には図3を参照すると、複数の導電部50は、複数の第1導電部50aと複数の第2導電部50bとを備えることが記載されており、前記複数の第1導電部50a及び複数の第2導電部50bの形状については、上記(エ)の【0098】-【0099】、【0118】には図12を参照すると、無作為に選択された複数の点をボロノイ図を用いてそれぞれ囲繞する複数の多角形の領域を画定することでメッシュ形状の模様として形成すること、さらに上記(オ)の段落【0140】-【0142】、【0146】-【0149】には図20A、20B、21を参照すると、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50aと、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50bをそれぞれ相互に重複しない互い違いの位置関係で配置することが記載されている。
以上のことから、引用例には、「複数の導電部50は、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50bと、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50aとを備え、前記複数の第2導電部50bと前記複数の第1導電部50aとはそれぞれ相互に重複しない互い違いの位置関係で配置され」ることが記載されているといえる。

d 上記(イ)の段落【0037】には図3を参照すると、複数の第1導電部50aが複数の第2導電部50bと第1透明基体56aを介して配置されることが記載されており、また、上記(カ)の段落【0170】によれば、第1透明基体56aはプラスチックフィルム、プラスチック板、ガラス板等であること、すなわち絶縁体であることが記載されているから、引用例には「複数の第2導電部50bと複数の第1導電部50aとは互いに絶縁されて」いることが記載されているといえる。

e 上記(ウ)、(エ)には図12、16、17を参照すると、複数の第1導電部50a及び複数の第2導電部50bのメッシュ形状は、無作為に選択された複数の点をボロノイ図を用いてそれぞれ囲繞する複数の多角形の領域を画定し、人間の標準視覚応答特性を考慮した粒状ノイズ特性を評価しつつ、点を入れ替えながら、より粒状ノイズが少なくなるよう生成することが記載されていること、から、複数の第1導電部50a及び複数の第2導電部50bのメッシュ形状はランダムな多角形状であり、点の配置に特定の方向性がないから、これらの点を囲繞する多角形を形成する線分の方向もまたランダムになるといえる。したがって、引用例には、「複数の第1導電部50a及び複数の第2導電部50bのメッシュ形状は、直線状のメッシュ線を含むランダムな多角形状であり、前記メッシュ線は前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bそれぞれの面内においてランダムな方向に形成され」ることが記載されているといえる。

f 上記(イ)の段落【0037】によれば図3を参照すると、引用例には、導電シート14は、第2透明基体56bと第1透明基体56aとを含むことが記載されている。

g 上記(イ)の段落【0037】によれば図3を参照すると、引用例には、複数の第2導電部50bは第2透明基体56b上に配置され、複数の第1導電部50aは第1透明基体56a上に配置されることが記載されている。

以上を総合すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「導電シート14の複数の導電部50であって、該複数の導電部50はフィルタ部材60上に配置され、前記複数の導電部50は、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50bと、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50aとを備え、前記複数の第2導電部50bと前記複数の第1導電部50aとはそれぞれ相互に重複しない互い違いの位置関係で配置され、前記複数の第2導電部50bと前記複数の第1導電部50aとは互いに絶縁されており、
前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bのメッシュ形状は、直線状のメッシュ線を含むランダムな多角形状であり、前記メッシュ線は前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bそれぞれの面内においてランダムな方向に形成され、
前記導電シート14は、第2透明基体56bと第1透明基体56aとを更に含み、
前記複数の第2導電部50bは前記第2透明基体56b上に配置され、
前記複数の第1導電部50aは前記第1透明基体56a上に配置された、導電構造。」

イ 周知例及び周知技術
(ア)原審の拒絶理由に周知例として挙げられた、本願の優先日前に頒布された刊行物である中国特許出願公開第102222538号明細書(平成23年10月19日公開、以下、「周知例1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

a

(段落[0002]-[0007])

(パテントファミリー文献である特表2014-511549号公報に基づく当審訳:背景技術
[0002] 透明な導電性シートは、良好な導電率を有すると共に可視光において高い透過率を有するシートの一種である。現在、透明な導電性シートは、例えばフラットパネルディスプレイ(平面型表示装置)、太陽電池デバイス、タッチパネル及び電磁遮蔽のような分野で広く用いられており、かくして極めて広い市場空間が得られている。軽量且つ薄型の方向に向かうデバイスの急速な開発により、柔軟性の(フレキシブルな)透明な導電性シートがその薄さ、軟らかさ等の利点により研究の的になっている。
[0003] 柔軟性の透明な導電性シートは、一般に、2つの形式、即ち、パターン付け型と非パターン付け型に区分される場合がある。最も実用的な用途、例えばタッチスクリーンでは、前者は、使用前に透明な導電性膜(フィルム)をパターン付けするために露光、現像、エッチング及び洗浄プロセスを必要とする場合が多い。他方、後者は、疑いもなく、生産効率が高いこと及び複雑であり且つ容易に環境汚染を生じさせるパターン付けプロセスが省かれていることにより透明な導電性シートの主要な開発方向である。
[0004] ITO(インジウム錫酸化物)は、透明な導電性シートの市場を席巻している。パターン付けITO膜を製造する方法は、主として、スクリーン印刷、インクジェット印刷、及び半導体製造プロセスにおけるリフトオフ法を含む。しかしながら、インジウム鉱物資源の制限及びITOの貧弱な耐曲げ性に起因して、ナノメタル(nano-metal)材料を利用しているパターン付けされた透明な導電性シートは、上述の技術背景下において最適な解決手段となっている。
[0005] ナノメタル材料を利用しているパターン付けされた透明な導電性シートの製造方法は、通常、次のステップ、即ち、まず最初に、ナノ粒子サイズを有する金属材料で導電性インキを調製するステップ、及び、次に改良型印刷法を実施して導電性インキを透明な基板の柔軟性表面上に印刷するステップ、最後に導電性インキを焼結して所望の導電性網状構造を形成するステップを含む印刷法である。網状組織のネットワーク電線の幅は、人間の目の解像力の限度を超えており、網状組織電線なしの柔軟性表面は、光透過領域である。表面抵抗率(surface square resistance )及び光透過率は、電線の幅及び幾何学的形状を変えることによって或る特定の範囲内で制御可能である。優れた性能を有するパターン付けされた柔軟性の透明な導電性シートは、日本の企業である大日本印刷(Dai Nippon Printing)、富士フィルム(Fujifilm)及びグンゼ(Gunze)並びにドイツ国企業であるポリアイシー(PolyIC)により印刷法を用いて得られている。これらのうちで、ポリアイシー社により得られるシートは、15μmのグラフィックス解像力、0.4?1Ω/sqの表面抵抗率及び80%を超える光透過率を有する。
[0006] それにもかかわらず、印刷法によって製造された透明な導電性シートの導電性網状構造は、透明な基板の表面上に露出した突出構造体であり、かくして、導電性網状構造の耐引掻き性及び掻き傷(スクラッチ)防止性能は、貧弱である。加うるに、この構造体のグラフィックス解像力は、印刷技術によって制限されており、これを高めることが殆どできない。高鮮明度(ハイデフィニション)という用途の要件を満たすため、網状構造のグラフィックス解像力を一段と減少させなければならない。最後に、印刷技術の制限に起因して、固定線幅の導電性インキの量も又、増やすのが困難であり、換言すると、線幅及び導電性インキが決定されていることを前提として、導電性材料の量を増大させたりシートの導電性を向上させたりすることは困難である。

発明の開示
[0007] 先行技術の欠点を解決するため、本発明は、パターン付けされた柔軟性の透明な導電性シート及び導電性網状構造を透明なポリマーの層のトレンチ中に埋め込み、導電性シートの耐引掻き性を向上させ、固定線幅中の導電性シートの体積を増大させ、かくして導電性シートの導電性を一段と向上させるように柔軟性の透明な導電性シートを製造する方法を提供する。)

b

(段落[0028]-[0035])

(当審訳:[0028] 実施例1:基本ユニットとして正六角形トレンチを用いたトレンチ組み合わせによって透明な導電性シートを製造する。
[0029] 図示の実施形態では、図2及び図3を参照すると、パターン付けされた透明な導電性シートは、柔軟性の透明な基板11、基板11に一体に結合された透明なインプリントグルー12の層及び透明なインプリントグルー12のトレンチの底部に均一に充填された導電性膜13を有する。
[0030] 柔軟性の透明な基板11は、厚さ100μmのPETである。透明なインプリントグルー12は、厚さ5μmの無溶剤のUV硬化性アクリル樹脂である。透明なインプリントグルー12の表面上に構成されたトレンチ網状構造は、六角形アレイを形成している。六角形アレイの六角形外接円の半径rは、5μmに等しく、トレンチ幅dは、500nm?10μm、好ましくは1μmであり、深さhは、2μmであり、側壁の角度は、約82°である。焼結された導電性膜13は、透明なインプリントグルー12の底部内に均一に充填されて相互連結された銀である。銀膜の厚さは、約300nmである。銀膜で満たされたトレンチ網状構造は、導電性網状構造を形成し、トレンチの外部の領域は、非導電性光透過領域である。トレンチの外部の全面積と透明な導電性シートの全面積の比cは、82.6%である。可視光における透明な導電性シートの光透過率は、72%であり、表面抵抗率は、2Ω/sqである。
[0031] 図4を参照すると、パターン付けされた柔軟性の透明な導電性シートを製造する方法は、特に、以下のステップを有する。
[0032] I.導電性網状組織、即ちトレンチ網状組織の二次元パターンを要望に従って設計し、所望のトレンチ深さを定める。図3に示されているように、設計プロセスでは、特に、(1)光透過率が90%を超えるPETを選択し、この実施形態では、PETは、可視光においてa=90%の光透過率及び100μmの厚さを有し、透明なインプリントグルー12は、粘度が100cPの無溶剤UV硬化性アクリル樹脂であり、導電性インキは、粒子サイズが2?10nm、固形分が約41%、粘度が53cP、表面張力が30ダイン/cmのナノ銀導電性インキであり、(2)厚さ5μmのUVインプリントグルー12がPET11の表面上に塗布され、可視光における透明な複合基板の光透過率は、a=90%として定められ、(3)t>72%(tは、絶対透過率を表す)の透明な導電性シートの透過率及びa×b>tの設計仕様に従って、b>80%を得、良好な等方性抵抗を備えた六角形ハニカムトレンチ網状構造を選択し、bを前提として、トレンチ幅d=1μmをダイ処理性能と組み合わせて定め、(4)銀インキの固形分は、約32%であり、焼結温度は、140℃であり、焼結時間は、5分であり、抵抗率の測定値は、2.5μΩ・cmである。透明な導電性シートの表面抵抗率は、10Ω/sq未満であることが要求される。上述の条件下において、試験トレンチ深さhが2μmに等しい場合、結果として生じる表面抵抗率は、8Ω/sqであり、これは、設計要件を満たしている。
[0033] II.DMDを利用したレーザ直接書込プレートセッタ(platesetter)を用いて、トレンチ網状構造を扁平なガラスの表面上に塗布されたフォトレジスト層中に構成し、次に、マイクロエレクトロフォーミング技術を用いてトレンチ網状構造と相補する微細構造を有するNi膜ダイを製造し、このダイをローラの表面上に塗布してローラダイを形成する。
[0034] III.ロールツーロールUVインプリンティング技術を用いて、設計済みのトレンチ網状構造をPET11の表面の透明なインプリントグルー12上に形成する。透明なインプリントグルー12の硬化波長は、365nmであり、累積照射エネルギーが360?500mj/cm^(2)に達すると、グルーが硬化する。
[0035] IV.スクラッチ法を用いて導電性銀インキをトレンチ網状構造内に充填する。具体的に説明すると、このスクラッチ法は、次のステップ、即ち、(1)厚さ5μmの銀インキを透明なインプリントグルー12の表面上に塗布するステップ、(2)トレンチの外側に位置した銀インキを鋼スクレーパで掻き取るステップ、(3)赤外線補助熱風オーブンを用いて銀インキを焼結し、導電性インキ網状構造を形成するステップを含み、焼結温度は、140℃であり、焼結時間は、5分である。)


(イ)原審の拒絶理由に周知例として挙げられた、原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である中国特許出願公開第102063951号明細書(平成23年5月18日公開、以下、「周知例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

a

(段落[0001]-[0002])

(当審訳:技術分野
[0001] 本発明は透明導電膜及びその製造方法に関し、特に埋め込み式の透明導電膜及びその製造方法である。

背景技術
[0002] 透明導電膜はタッチコントロール液晶パネル、有機発光ダイオード(OLED)及び電磁シールドなどの分野に広く用いられている。現在、比較的一般的な透明導電膜は、ITO膜と金属膜の2種類があり、前者は透明なガラスまたはプラスチック基板表面に、インジウム-スズ酸化物膜(ITO)などの透明導電性材料を蒸着あるいはスパッタリングによって形成するものであり、後者は透明なガラスまたはプラスチック基板表面に、金属メッキあるいは蒸着によって、全表面に金属薄膜を形成し、その後フォトエッチングすることによって、微細な金属メッシュを形成するものである。)

b

(段落[0035])

(当審訳:[0035] 図1、図2をともに参照すると、図1は本発明の透明導電膜概略図であり、図2は図1中透明基板の概略図である。図示するように、この透明導電膜100は透明基板110と導電性金属120を含む。透明基板110は導電領域111と透光性領域112を含み、導電領域111は互いに連通する網状の凹溝とし、導電性金属120を導電領域111中に埋め込み、透光性領域112を網状の凹溝で囲まれたグリッドとする。この導電性金属120は、銀ペーストを焼結した銀粒子の線でもよく、または、その他例えば銅、白銅、アルミ等の金属の電鋳あるいはスパッタによる堆積によってこの導電領域111に形成する導電線でもよい。次に透明導電膜100の透光性と導電性についてそれぞれ分析する。)

c

(段落[0050]-[0055])

(当審訳:[0050] 図5を再び参照すると、図5は本発明の透明導電膜の製造フロー図である。図示するように、この方法は主に三つの大プロセスを含む:まずインプリントプロセスであり、一方の表面にはメッシュパターンを有する金属パンチがあり、透明基板面に圧力を加えるのと同時に、加熱または紫外固化などの手段を用いて、パンチ表面のパターンを透明基板上へ転写し、凹溝のメッシュパターンを形成する。そのうちのこのメッシュパターンの辺の線は凹溝であり、この凹溝のメッシュの面積との面積比は5%より小さい。
[0051] 次に金属化プロセスについて、このプロセスの目的は導電領域の凹溝に導電性金属を埋め込んで、凹溝からあふれ出させることにある。具体的に、この金属化プロセスは以下の方法で行うことができる:
[0052] 第1種類の方法はウェットコーティングプロセスとすることができる。この方法は以下を含む:
[0053] 連続式塗布方法を用いて、透明基板面に疎水性溶媒を混ぜたナノ銀ペーストを塗布して、このナノ銀ペースト中の銀粒子の直径は50nm-70nm程度に、その疎水性溶媒の比重は10%-20%間とする;
[0054] セルフレベリング効果によって、銀ペーストは凹溝中に自動的に堆積されて、あるいは透明基板の表面に10%の疎水性層を塗布することができて、この疎水性層の厚み制御は200nm以内に制御して凹溝の深さよりずっと小さくし、その後、銀ペースト自身に含まれる疎水剤成分と連携して、銀粒子が凹溝へ集まるのを加速して、連続式に塗布後、凹溝中に銀粒子が充満することを確実にする;
[0055] 加熱焼成は、銀ペーストを凝結させ、最終的に凹溝の中に金属ワイヤグリッドを形成する。)

したがって、上記周知例1及び周知例2の上記記載から、「透明導電膜の導電構造における金属線の形成のため、基板に形成した溝にナノ銀インクを導入すること」は、周知の技術(以下、「周知技術」という。)ということができる。

(3)対比・判断

補正発明と引用発明とを対比する。

ア 上記引用例の段落【0037】、【0038】及び図2B、3によれば、導電シート14はタッチパネルの電極として使用可能で、透明基体を含むものであって、全体として透明なものであることが明らかであるから、引用発明の「導電シート14」は補正発明の「透明導電膜」に相当する。

イ 引用発明の「複数の導電部50」は補正発明の「導電構造」に相当する。

ウ 引用発明の「フィルタ部材60」は、補正発明の「透明基板」と、「板状の部材」である点で共通する。

エ 引用発明の「交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50b」は、市松模様状に配置された第2基本格子222が複数連なって構成されているから、全体として第2基本格子222に形成される細かなメッシュと残余の部分に形成される大きなメッシュの組合せから構成された「メッシュ形状の金属層」といえ、他方、補正発明の「グリッド形状の第1の金属埋め込み層」は「グリッド形状の金属層」である。
そして、引用発明のボロノイ図によって画定した線分で構成された「メッシュ形状」と補正発明の「グリッド形状」とは、表現上差異があるものの、いずれも複数の線分が集まって形成された網目形状を意味しており、実質的に同義であるから、引用発明の「交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50b」と補正発明の「グリッド形状の第1の金属埋め込み層」とは、「グリッド形状の第1の金属層」である点で共通する。

オ 上記エと同様に、引用発明の「交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50a」は、補正発明の「グリッド形状の第2の金属埋め込み層」と、「グリッド形状の第2の金属層」である点で共通する。

カ さらに、上記エ及びオに記載のとおり、「交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50b」及び「交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50a」をそれぞれ全体として「メッシュ形状の金属層」と捉えると、後者は前者の上に配置されているといえる。

キ したがって、引用発明の「導電シート14の複数の導電部50であって、該複数の導電部50はフィルタ部材60上に配置され、前記複数の導電部50は、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第2基本格子222内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第2導電部50bと、交互かつ周期的に市松模様状に配置された第1基本格子212内にメッシュ形状の模様をなして形成された複数の第1導電部50aとを備え、前記複数の第2導電部50bと前記複数の第1導電部50aとはそれぞれ相互に重複しない互い違いの位置関係で配置され、前記複数の第2導電部50bと前記複数の第1導電部50aとは互いに絶縁されて」いることは、補正発明の「透明導電膜の導電構造であって、該導電構造は透明基板上に配置され、前記導電構造は、グリッド形状の第1の金属埋め込み層と、前記第1の金属埋め込み層上に隣接して配置されたグリッド形状の第2の金属埋め込み層とを備え、前記第1の金属埋め込み層と前記第2の金属埋め込み層とは互いに絶縁されて」いることと、「透明導電膜の導電構造であって、該導電構造は板状の部材上に配置され、前記導電構造は、グリッド形状の第1の金属層と、前記第1の金属層上に配置されたグリッド形状の第2の金属層とを備え、前記第1の金属層と前記第2の金属層とは互いに絶縁されて」いる点で共通するといえる。

ク 引用発明の「直線状のメッシュ線を含むランダムな多角形状」と補正発明の「直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状」とは、「ランダム」、「不規則」という表現上の相違があるだけで、実質的に相当関係にある。

ケ したがって、引用発明の「前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bのメッシュ形状は、直線状のメッシュ線を含むランダムな多角形状であ」ることは、補正発明の「前記第1の金属埋め込み層及び/又は前記第2の金属埋め込み層のグリッド形状は、直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状であ」ることと、「前記第1の金属層及び/又は前記第2の金属層のグリッド形状は、直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状であ」る点で共通する。

コ 上記引用例の段落【0170】-【0171】には、第1透明基体56a及び第2透明基体56bの材料として、ポリマーの一種であるプラスチックとすることが記載されているから、引用発明の「第2透明基体56b」、「第1透明基体56a」はそれぞれ補正発明の「第1のポリマー層」、「第2のポリマー層」に相当する。

サ したがって、引用発明の「前記導電シート14は、第2透明基体56bと第1透明基体56aとを更に含」むことは、補正発明の「前記透明導電膜は、第1のポリマー層と第2のポリマー層とを更に含む」ことに相当する。

シ さらに引用発明の「前記複数の第2導電部50bは前記第2透明基体56b上に配置されること」、「前記複数の第1導電部50aは前記第1透明基体56a上に配置され」ることは、それぞれ補正発明の「前記第1の金属埋め込み層は前記第1のポリマー層に配置される」こと、「前記第2の金属埋め込み層は前記第2のポリマー層に配置され」ることと、それぞれ「前記第1の金属層は前記第1のポリマー層に配置され」る点、「前記第2の金属層は前記第2のポリマー層に配置され」る点で共通する。

以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「透明導電膜の導電構造であって、該導電構造は板状の部材上に配置され、前記導電構造は、グリッド形状の第1の金属層と、前記第1の金属層上に隣接して配置されたグリッド形状の第2の金属層とを備え、前記第1の金属層と前記第2の金属層とは互いに絶縁されており、
前記第1の金属層及び/又は前記第2の金属層のグリッド形状は、直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状であり、
前記透明導電膜は、第1のポリマー層と第2のポリマー層とを更に含み、
前記第1の金属層は前記第1のポリマー層に配置され、
前記第2の金属層は前記第2のポリマー層に配置された、導電構造。」

(相違点1)
一致点の「板状の部材」に関し、補正発明は「透明基板」であるのに対し、引用発明は「フィルタ部材60」である点。

(相違点2)
補正発明の導電構造は、「第1の金属埋め込み層上に隣接して配置されたグリッド形状の第2の金属埋め込み層」を備えているのに対して、引用発明の複数の導電部50は、複数の第2導電部50b上に複数の第1導電部50aが「隣接して配置され」ているか否かが、特定されていない点。

(相違点3)
補正発明においては「グリッド線は右方向の水平X軸に対して均一に分布した角度θを形成」するのに対し、引用発明においては「メッシュ線は前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bそれぞれの面内においてランダムな方向に形成され」る点。

(相違点4)
一致点の「グリッド形状の第1の金属層」及び「グリッド形状の第2の金属層」に関し、補正発明は「第1のポリマー層」及び「第2のポリマー層」におけるグリッド形状の凹部に埋め込み層として配置されるのに対し、引用発明の「複数の第1導電部50a」及び「複数の第2導電部50b」は、それぞれ「第1透明基体56a上」及び「第2透明基体56b上」に配置される点。

(相違点5)
補正発明の「第1の金属埋め込み層」及び「第2の金属埋め込み層」は、「3.0μmの深さと、2.2μmの幅を有するグリッド形状の凹部に配置された、銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃であるナノ銀インクからな」るのに対し、引用発明においては、係る事項について特定されていない点。

(相違点6)
補正発明は「第2の金属埋め込み層の厚さは前記第2のポリマー層の厚さより小さい」のに対し、引用発明においては、係る事項について特定されていない点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。

(相違点1)について
一般にタッチパネルに用いられる、ディスプレイからの光を透過するカラーフィルタが透明なガラス基板を含むことは、広く知られるところであるから、引用発明の「フィルタ部材60」は当然に「透明基板」を含むといえる。
してみれば、補正発明、引用発明のいずれにおいても導電構造が透明基板上に配置される点で差異はなく、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2)について
補正発明における「隣接して配置された」の技術的意味は、本願明細書の段落【0024】の「導電構造における第1の金属埋め込み層は、図に示されるように基板上に直接的に作られ、透明導電膜は、透明基板10と基板上に配置される透明なポリマー層20とを含む。導電構造は、基板1に配置されるグリッド形状の第1の金属埋め込み層11と、透明なポリマー層20に配置されるグリッド形状の第2の金属埋め込み層21とを含む。第1の金属埋め込み層11と第2の金属埋め込み層21とを互いに確実に絶縁させるために、第2の金属埋め込み層21の厚さはポリマー層20の厚さよりも小さくされ、これによって第1の金属埋め込み層11と第2の金属埋め込み層21との間にポリマー層20の一部が配置され、絶縁効果が実現される。」との実施例の記載と図1とを参酌すれば、一般的な「隣接」の意味、すなわち、近くで隣り合っている程度の意味であって、直接接しないがある程度近くにという状態も含まれるものと理解される。
してみれば、引用発明においても、複数の第1導電部50aは複数の第2導電部50bと第1透明基体56aを介してある程度近く、引用例の段落【0199】を参酌すれば第1透明基体56aの厚さである5?350μmよりも近くに配置されているから、相違点2は実質的な相違点ではない。

なお、平成26年6月11日付け意見書の「(ii)出願人の意見」の「(イ)」を参酌すれば、第2の金属埋め込み層が第1の金属埋め込み層と「接着層」を介さないで配置されることを意味している。
他方、引用発明においても、複数の第1導電部50aは複数の第2導電部50bと接着層を介さないで配置されている。
してみれば、「隣接」の意を当該意見書のように理解したとしても、相違点2は実質的な相違点とはならない。

(相違点3)について
補正発明において「グリッド線は右方向の水平X軸に対して均一に分布した角度θを形成」することは、本願明細書の段落【0025】を参酌すれば、「ランダムなグリッドの各々のθを統計して、5°のステップ角度での角度区間の各々に入るグリッド線の確率パイについての統計を収集し、0°?180°内の36の角度区間におけるp1、p2、…p36を得て、パイの標準偏差が算術平均の20%未満であること」を意味している。
一方、引用発明において「メッシュ線は前記複数の第1導電部50a及び前記複数の第2導電部50bそれぞれの面内においてランダムな方向に形成され」る。
しかるに、補正発明、引用発明ともに、程度の差こそあれ、グリッド線あるいはメッシュ線をランダムな方向に形成する点で差異がなく、相違点3は実質的な相違点とはならない。仮にこの点で相違するとしても、当業者が適宜選択すべき設計事項に過ぎない。

(相違点4乃至6)について
上記「(2)引用発明及び周知技術」の「イ 周知例及び周知技術」のとおり、「透明導電膜の導電構造における金属線の形成のため、基板に形成した溝にナノ銀インクを導入すること」は、周知技術である。
そして、引用例の「複数の第1導電部50a」及び「複数の第2導電部50b」は透明基体上に形成されること、周知例1の段落[0006]、[0007]に記載されるように、基板上に形成した導電性網状構造の諸課題を解決するために、基板に溝を形成し、当該溝にナノ銀インクを導入することが記載されていることに鑑みれば、上記周知技術に接した当業者であれば、引用発明における「複数の第1導電部50a」及び「複数の第2導電部50b」を、それぞれ「第1透明基体56a上」及び「第2透明基体56b上」に配置する構成に代えて、基板に形成した溝にナノ銀インクを導入することは、容易に想到し得ることである。
また、この際の溝の深さ、ナノ銀インクの固体成分比率、焼結温度等は当業者が必要に応じて適宜選択すべき事項であって、周知例1の段落[0032]にも、溝の幅を1μmとすること、銀インクの固形分を約32%、焼結温度を140℃とすることが記載されていることに鑑みれば、補正発明のように金属埋め込み層を「3.0μmの深さと、2.2μmの幅」のものとし、ナノ銀インクを「銀インクの固体成分が35%であり、焼結温度が150℃である」ものとすることは、格別の限定ということはできない。
さらに、引用発明における「複数の第1導電部50a」及び「複数の第2導電部50b」を、それぞれ「第1透明基体56a上」及び「第2透明基体56b上」に配置する構成に代えて、基板に形成した溝にナノ銀インクを導入するに当たり、溝の深さ、すなわち金属埋め込み層の厚さを「第1透明基体56aの厚さより小さくすること」は、第1透明基体56aを溝が貫通しないようにするために当然に当業者が配慮すべき事項である。

(5)まとめ
以上のとおり、補正発明は、引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年6月15日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年6月11日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「透明導電膜の導電構造であって、該導電構造は透明基板上に配置され、前記導電構造は、グリッド形状の第1の金属埋め込み層と、前記第1の金属埋め込み層上に隣接して配置されたグリッド形状の第2の金属埋め込み層とを備え、前記第1の金属埋め込み層と前記第2の金属埋め込み層とは互いに絶縁されており、
前記第1の金属埋め込み層及び/又は前記第2の金属埋め込み層のグリッド形状は、直線状のグリッド線を含む不規則な多角形状であり、前記グリッド線は右方向の水平X軸に対して均一に分布した角度θを形成する、導電構造。」

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-13 
結審通知日 2016-12-20 
審決日 2017-01-05 
出願番号 特願2014-542704(P2014-542704)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 慎一円子 英紀酒井 優一  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 稲葉 和生
土谷 慎吾
発明の名称 透明導電膜の導電構造、透明導電膜、およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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