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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1328442
審判番号 不服2016-4670  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-31 
確定日 2017-05-18 
事件の表示 特願2012- 11482「衛生シート」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 1日出願公開、特開2013-146253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月23日の出願であって、平成27年5月15日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年7月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年3月31日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がされたものであり、さらに平成28年7月28日に上申書が提出されている。


第2 平成28年3月31日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年3月31日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正発明
平成28年3月31日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す。)。

(補正前)
「透液性能を有する上面シートと、不透液性能を有する下面シートと、前記下面シートの前記上面シート側の面に密着させて敷設されている変色層とを備える衛生シートであって、
前記変色層は、
保水材料と、吸水性樹脂材料と、染色材料とが混合されることによって形成され、
前記染色材料は、吸着率20重量%以上であり、微細孔を有する多孔質吸着剤と、前記多孔質吸着剤の前記微細孔に吸着されている水易溶性の水溶性染料を含み、
前記水溶性染料の合計量は、前記保水材料と前記吸水性樹脂材料の合計量に対して、0.03重量%乃至1.40重量%の範囲内であるとともに、
外部水分と前記水溶性染料が接触することにより、前記上面シートを通して、その発色は浸潤して視認可能となるように構成されていること、
を特徴とする衛生シート。」

(補正後)
「透液性能を有する上面シートと、不透液性能を有する下面シートと、前記下面シートの前記上面シート側の面に密着させて敷設されている変色層とを備える衛生シートであって、
前記変色層は、
保水材料と、吸水性樹脂材料と、染色材料とが混合されることによって形成され、
前記染色材料は、吸着率20重量%以上であり、微細孔を有する多孔質吸着剤と、前記多孔質吸着剤の前記微細孔に吸着されている水易溶性の水溶性染料を含み、
前記水溶性染料の合計量は、前記保水材料と前記吸水性樹脂材料の合計量に対して、0.03重量%乃至1.40重量%の範囲内であるとともに、
前記多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく、
外部水分と前記水溶性染料が接触することにより、前記上面シートを通して、その発色は浸潤して視認可能となるように構成されていること、
を特徴とする衛生シート」(以下、本件補正発明という)
以上のように、本件補正は、本件補正前の許請求の範囲の請求項1に記載された「多孔質吸着剤」について、「多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく」との限定を付加するものである。

2 補正の適否
(1) 本件補正に関する当初明細書等の記載事項
上記1に記載したとおり本件補正は「多孔質吸着剤」の量について限定を付加するものである。これに対し、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等)という。)には、以下のとおり記載されている(下線は審決で付与。)。
「【0026】なお、多孔質吸着剤は、その種類により、微細孔径及び微細孔容積が異なるため、上記染色材料が好適な配合比率となるように、多孔質吸着剤の量が定められることになる。
・・・
【0028】<製造方法> 続いて、吸液体の製造方法について説明する。
まず、溶剤に溶解させた水溶性染料(2種類以上の水溶性染料を使用する場合には、この段階で各水溶性染料を同時に溶解させる)を、微細粉末とした多孔質吸着剤に少量ずつ、滴下し、混合することにより、多孔質吸着剤に吸着させ染料材料を調合する。
水溶性染料と多孔質吸着剤の構成割合は、多孔質吸着剤の吸着率に依存して定められることになる。しかし、多孔質吸着剤の添加量を所定量より多くすると、多孔質吸着剤の粒子が表層から顕出してしまい、当該顕出した部分が表層から突起状に突出することになる。そして、袋詰時や運搬時において、吸水処理材同士が接触することにより、当該突出部が基端部から分離し、表層が破損するなどの状態が生じるため好ましくない。
【0029】ところで、多孔質吸着剤の最大吸着率はその物質により決まっているため、必要となる水溶性染料を吸着させるための多孔質吸着剤に関する最低必要量が決定されることになり、それにより定められた量の多孔質吸着剤に水溶性染料を吸着させることになる。」

(2) 本件補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において新たな技術的事項を導入するものであるか否かの検討
本件補正は上記1に記載したとおり、「多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく」するという技術的事項を導入するものである。
これに対し当初明細書等には、上記(1)で摘記したように、「染色材料が好適な配合比率となるように、多孔質吸着剤の量が定められること」(段落【0026】)及び「多孔質吸着剤の最大吸着率はその物質により決まっているため、必要となる水溶性染料を吸着させるための多孔質吸着剤に関する最低必要量が決定されることになり、それにより定められた量の多孔質吸着剤に水溶性染料を吸着させること」(段落【0028】)、加えて「多孔質吸着剤の添加量を所定量より多くすると・・・好ましくない」(段落【0027】)ことが記載されている。すなわち、「必要となる水溶性染料を吸着させるための多孔質吸着剤に関する最低必要量が決定されることになり、それにより定められた量の多孔質吸着剤に水溶性染料を吸着させること」、加えて、「多孔質吸着剤の添加量を所定量より多くすると・・・好ましくない」ことは明示的に記載されているが、「多孔質吸着剤の合計量」を「水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく」すると特定する明示的記載はない。仮に、「最低必要量が決定されることになり、それにより定められた量」とは「最低必要量」に近い値であるということまで自明としても、「最低必要量に等しく」するとの特定まで自明とはいえない。また、「最低必要量」を欠くと「水溶性染料」を必要量吸着できなくなることも考慮すると、「最低必要量に等しく」すると特定することが出願時の技術常識に照らして当業者には自明ともいえない。また、上記摘記した段落【0026】ないし【0028】を含め、当初明細書等の全ての記載を総合して見ても、「多孔質吸着剤の合計量」を「最低必要量に等しく」すると特定する記載も示唆もされていない。
従って、本件補正は、当業者により当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3) まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3 本件補正発明の独立特許要件についての予備的検討
上記2で検討した「前記多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく」と限定する本件補正について、当初明細書等の記載から自明な事項であり新たな技術的事項を導入するものではないと仮定して、念のため、その他の要件について検討しておく。
すると、本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「多孔質吸着剤」について、上記のとおり「前記多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等しく」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、(上記2で検討した点以外)特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)は、上記1の(補正後)に記載したとおりのものである。

(2) 引用例の記載事項
ア 引用例1
引用例1として原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である登録実用新案第3044091号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「【請求項1】吸水体を不透液性のバックシートと透液性の表シートとにより包覆して成るペット用シーツであって、該吸水体に予め抗菌剤を染み込ませた吸着剤を含有させたことを特徴とするペット用シーツ。
【請求項2】前記抗菌剤は、塩基性染料であるメチレンブルーによるものとした請求項1記載のペット用シーツ。
【請求項3】前記吸着剤は、多孔性粉末であるシリカゲルによるものとした請求項1または請求項2記載のペット用シーツ。
【請求項4】前記吸水体は、パルプ、ポリマー等の混合体から成るものとした請求項1乃至請求項3のいずれか記載のペット用シーツ。」

(イ)「【0002】【従来の技術】従来、この種のペット用シーツとしては、吸水紙を不織布と防水シートとにより挟んで固着したものや、内部に吸水性樹脂を封入したものに対し、糞尿の悪臭除去のための活性炭等を内包させたもの等がある。
【0003】【考案が解決しようとする課題】しかしながら従来のペット用シーツでは、活性炭は水分により消臭効果が大幅に低下するため、排尿、排便等の排泄物の処理と同時にこれらによる悪臭を完全に防止することが難しく、また製造工程が複雑で且つ所望の形状に加工することもできない等の問題点を有していた。また、従来のペット用シーツではほとんど抗菌効果がないため種々の菌類が繁殖し易く、さらに視覚的にも不快感と不潔感を呈するものであった。
【0004】そこで本考案は、叙上のような従来存した問題点に鑑み案出されたもので、小動物ペットによる糞尿排泄物の水分を能率良く吸収させると共に、悪臭を略完全に除去させ、同時に抗菌効果を発揮させるものとし、さらに視覚的に清潔感を呈するようなペット用シーツを提供することを目的としたものである。
【0005】【課題を解決するための手段】このため、本考案にあっては、吸水体3を不透液性のバックシートと透液性の表シートとにより包覆して成るペット用シーツであって、該吸水体3に予め抗菌剤9を染み込ませた吸着剤4を含有させたことで、上述した課題を解決した。
また、前記抗菌剤9は、塩基性染料であるメチレンブルーとしたことで、同じく、上述した課題を解決した。
さらに、前記吸着剤4は、多孔性粉末であるシリカゲルとしたことで、同じく、上述した課題を解決した。
加えて、前記吸水体3は、パルプ、ポリマー等の混合体から成ることで、同じく、上述した課題を解決した。
【0006】すなわち、本考案に係るペット用シーツにあっては、パルプ、ポリマー等の混合体から成る吸水体3と共に含有させた吸着剤4である例えばシリカゲルにより小動物ペットの糞尿排泄物の水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませたメチレンブルーにより抗菌剤9分子を放出発散させる。また、白地のシート部材1に対しメチレンブルーを染み込ませたシリカゲルの青色の粒子が配されるため、従来に比して視覚的に清潔感を与える効果を発揮させる。
【0007】【考案の実施の形態】・・・該シーツ部材1は、図1に示すように、例えば澱粉にアクリル酸をグラフト重合させたものやアクリル酸重合体等の粉末状のポリマーと、吸収した排尿水分を拡散させる働きを有する粉砕パルプとの混合体から成る吸水体3と、比表面積の大きな高い吸着能を有する多孔質性の例えばシリカゲル等による吸着剤4とを包含紙2上に予め混合させてから散布させるか、または別々に散布させるかしてから、その上にティシュペーパー等の吸水紙5を載置させた後、エンボスロールにて熱圧着加工されて一体化させることにより吸水・吸着部材6を形成し、これを適当な大きさに切断させた後に合成樹脂繊維、レーヨン繊維、パルプ等の不織布による透液吸水性のある白地の表シート7と、高密度ポリエチレン等から成る不透液性の白地のバックシート8とにより包覆させてから熱シール等にて固着させて構成される。」

(ウ)「【0010】次に、本考案の使用の一例を説明するに、例えば飼育ケージ内や排泄用トイレ内さらには家屋内の床面上等の犬や猫等のペット動物が排尿や排便を行なう場所にシーツ部材1が敷設される。このシーツ部材1の上でペット動物が排泄を行なうと、糞尿に含まれる液体成分が吸水体3に吸収され、吸水体3と共に含有させた吸着剤4であるシリカゲルにより小動物の糞尿排泄物の水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませてあるメチレンブルーが水分と反応して抗菌剤分子を周囲に放出発散させ抗菌効果を発生させる。このとき、白地の表シート7、バックシート8に対しメチレンブルーを染み込ませたシリカゲルの青い粒子によりシーツ部材1の吸着箇所全体が青色に変色されるため、視覚的に清潔感を呈するものとなる。」

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の摘記事項からみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「吸水体3を不透液性の白地のバックシート8と透液性の白地の表シート7とにより包覆して成るペット用シーツであって、
吸水体3に予め抗菌剤9を染み込ませた吸着剤4を含有させ、
抗菌剤9は、メチレンブルーによるもので、
予め抗菌剤9を染み込ませた吸着剤4は、多孔質性のシリカゲルによるもので、
吸水体3は、粉末状のポリマーと、粉砕パルプとの混合体から成り、
ペット動物が排泄を行なうと、糞尿に含まれる液体成分が吸水体3に吸収され、吸水体3と共に含有させたシリカゲルにより小動物の糞尿排泄物の水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませたメチレンブルーにより抗菌剤9分子を放出発散させ、このとき、白地の表シート7、バックシート8に対しメチレンブルーを染み込ませたシリカゲルの青い粒子によりシーツ部材1の吸着箇所全体が青色に変色されて視覚的に清潔感を呈する、
ペット用シーツ。」

イ 引用例2
引用例2として原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2011-147382号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【技術分野】【0001】本発明は、人又は動物の排泄物などの液体を吸収するための粒状の吸水処理材(以下、単に「吸水処理材」という)及びその製造方法に関する。」

(イ) 「【0029】多孔質吸着剤は、微細孔(微細空隙)を多く含み、表面積が大きく、吸着率が25重量%以上である吸着剤を用いることが必要であり、シリカゲル(いわゆる、A型シリカゲル及びB型シリカゲル)(二酸化珪素)、ゼオライト(アルミノ珪酸塩)等の公知の物質を用いることができる。特に、B型シリカゲルは、平均吸着表面積約450(m^(2)/g)、平均微細孔径約60Å、微細孔容積約0.75(ml/g))と、A型シリカゲル(A型シリカゲルは平均吸着表面積約700(m^(2)/g)、平均微細孔径約24Å、微細孔容積約0.46(ml/g))と比較して、微細孔径及び微細孔容積が大きいため、溶解させた水溶性染料を吸着させる場合には高い吸着性能を発揮することになり、非常に好適である。」

(ウ) 「【0039】・・・水溶性染料と多孔質吸着剤の構成割合は、多孔質吸着剤の吸着率と水溶性染料の希釈倍率に依存することになる。しかし、多孔質吸着剤の添加量を所定量より多くすると、多孔質吸着剤の粒子が被覆層部の表層から顕出してしまい、当該顕出した部分が表層から突起状に突出することになる。そして、袋詰時や運搬時において、吸水処理材同士が接触することにより、当該突出部が基端部から分離し、表層部が破損するなどの状態が生じるため好ましくない。
【0040】・・・なお、多孔質吸着剤の吸着率はその物質により決まっていることから、使用後に発色させるのに必要となる水溶性染料を吸着させるための、多孔質吸着剤の最低必要量が理論的に決定されることになる・・・。」

(エ) 「【0054】<観察結果> まず、上記の各サンプルに関し、水溶性染料の吸着率を測定したところ、B型シリカゲル49.5%、A型シリカゲル26.0%、ゼオライト26.0%、活性炭5.5%、酸化チタン5.5%、炭酸カルシウム4.5%となった。
ところで、被覆層部の全質量に対する水溶性染料の配合量は、B型シリカゲル0.014%、A型シリカゲル0.0070%、ゼオライト0.0070%、活性炭0.0015%、酸化チタン0.0015%、炭酸カルシウム0.0012%となった(この場合、染色材料10gであり、吸着率から水溶性染料の配合量が定まる)。
・・・
【0056】上記の各サンプルに関し、それぞれ使用前後で被覆層部の発色の程度を目視により観察した。その結果、25%以上の吸着率を呈した各サンプルは、多孔質吸着剤(B型シリカゲル、A型シリカゲル、ゼオライト)を使用したものであり、使用前において被覆層部の発色が視認されず、使用後には、被覆層部が青色に発色し、明瞭に染色されるという良好な結果となった。
一方、25%未満の吸着率を呈したる各サンプル(活性炭、酸化チタン、炭酸カルシウム)では、使用前後において被覆層部の発色が視認されず、良好な結果が得られなかった。
【0057】この結果によれば、吸着率が高い多孔質吸着剤を使用したサンプルほど、多量の水溶性染料を保持させることが可能となることが明らかになり、また、粒状芯部等から滲出する水分を遮断し、水溶性染料が水分と反応することにより、使用前において、発色を防止することができることが確認された。」

(オ) 「【0064】3.被覆層部の配合比の異なるサンプルによる発色試験
本試験では、上記「2.製造方法の異なるサンプルによる発色試験」と同様の構成材料を使用し、本発明の製造方法を用いて、基材と染色材料(被覆材料)の構成比の異なる合計108パターンのサンプル群を製造した(基材が、98.91重量%乃至99.98重量%、染色材料が1.09重量%乃至0.02重量%の範囲内となるように、0.01重量部ずつ変化させることにより各サンプルを製造した)。
【0065】<観察結果> 上記の各サンプルに関し、それぞれ使用前後で被覆層部の発色の程度を目視により観察した。その結果、被覆材料を99.00重量%乃至99.93重量%、染色材料を1.00重量%乃至0.070重量%とした各サンプルに関しては、使用前において被覆層部の発色が視認されず、使用後には、被覆層部が、食用青色1号と食用黄色4号の混合色である緑色となるように明確に染色されるという良好な結果となった(特に、基材を、99.60重量%乃至99.85重量%、染色材料を、0.40重量%乃至0.15重量%とした各サンプルは、特に良好な結果であった)。
一方、被覆材料を99.94重量%乃至99.98重量%、染色材料を0.06重量%乃至0.02重量%とした各サンプルに関しては、使用前及び使用後において、明確な染色が確認されず、良好な結果が得られなかった。
また、被覆材料を98.91重量%乃至98.99重量%、染色材料を1.09重量%乃至1.01重量%とした各サンプルに関しては、使用前において、食用青色1号と食用黄色4号の混合色である緑色となるように明確に染色されてしまい、良好な結果が得られなかった。
【0066】4.水溶性染料量の異なるサンプルによる発色試験
本試験では、上記「2.製造方法の異なるサンプルによる発色試験」と同様の構成材料を使用し、本発明の製造方法を用いて、被覆材料1000gに対する水溶性染料の添加量を0.07g乃至0.20g(但し、配合比率は、食用青色1号と食用黄色4号の重量比は、2対1)の範囲で、0.01重量部ずつ変化させることにより製造された、配合比率の異なる合計14パターンのサンプル群を使用し、発色の状況を確認した。
【0067】<観察結果> 上記の各サンプルに関し、それぞれ使用前後で被覆層部の発色の程度を目視により観察した。その結果、被覆材料1000gに対する水溶性染料の添加量を0.10g乃至0.17gとした各サンプルに関しては、使用前において被覆層部の発色が視認されず、使用後には、被覆層部が、食用青色1号と食用黄色4号の混合色である緑色となるように明確に染色されるという良好な結果(添加量を0.13g乃至0.15gとした各サンプルは、特に良好であった)。
一方、被覆材料1000gに対する水溶性染料の添加量を0.07g乃至0.09gとした各サンプルに関しては、使用前及び使用後において、明確な染色が確認されず、良好な結果が得られなかった。
また、被覆材料1000gに対する水溶性染料の添加量を0.18g乃至0.20gとした各サンプルに関しては、使用前において、食用青色1号と食用黄色4号の混合色である緑色となるように明確に染色されてしまい、良好な結果が得られなかった。」

(3) 対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ペット用シーツ」は補正発明の「衛生シート」に相当する。

イ 引用発明の「透液性の白地の表シート7」、「不透液性の白地のバックシート8」は、それぞれ補正発明の「透液性能を有する上面シート」、「不透液性能を有する下面シート」に相当する。

ウ 引用発明の「粉砕パルプ」、「粉末状のポリマー」は、それぞれ補正発明の「保水材料」、「吸水性樹脂材料」に相当する。

エ 引用発明の「多孔質性のシリカゲル」である「吸着剤4」は、補正発明の「微細孔を有する多孔質吸着剤」に相当する。
また、メチレンブルーは水溶性の染料なので、引用発明の「メチレンブルーによる」「抗菌剤9」は水溶性の染料よりなる。
よって、引用発明の「多孔質性のシリカゲルによる」「吸着剤4」に「予め」「染み込ませた」「メチレンブルーによる」「抗菌剤9」は、補正発明の「多孔質吸着剤の前記微細孔に吸着されている水易溶性の水溶性染料」に相当する。

オ 引用発明の「粉末状のポリマーと、粉砕パルプとの混合体から成り」、かつ「予め抗菌剤9を染み込ませた吸着剤4を含有」する「吸水体3」は、引用発明の「保水材料と、吸水性樹脂材料と、染色材料とが混合されることによって形成され」る「変色層」に相当する。

カ 引用発明において「吸水体3」は、「不透液性の白地のバックシート8と透液性の白地の表シート7とにより包覆」されるので、「バックシート8」に対してその「表シート7」側の面に接することになる。よって、引用発明の「吸水体3を不透液性の白地のバックシート8と透液性の白地の表シート7とにより包覆」することは、補正発明の「変色層」が「前記下面シートの前記上面シート側の面に密着させて敷設されている」ことに相当する。

キ 引用発明の「ペット動物が排泄を行なうと、糞尿に含まれる液体成分が吸水体3に吸収され、吸水体3と共に含有させた吸着剤4であるシリカゲルにより小動物の糞尿排泄物の水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませたメチレンブルーにより抗菌剤9分子を放出発散させ、このとき、白地の表シート7、バックシート8に対しメチレンブルーを染み込ませたシリカゲルの青い粒子によりシーツ部材1の吸着箇所全体が青色に変色されて視覚的に清潔感を呈する」ことは、補正発明の「外部水分と前記水溶性染料が接触することにより、前記上面シートを通して、その発色は浸潤して視認可能となるように構成されていること」に相当する。

上記アないしキより、補正発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「透液性能を有する上面シートと、不透液性能を有する下面シートと、前記下面シートの前記上面シート側の面に密着させて敷設されている変色層とを備える衛生シートであって、
前記変色層は、
保水材料と、吸水性樹脂材料と、染色材料とが混合されることによって形成され、
前記染色材料は、微細孔を有する多孔質吸着剤と、前記多孔質吸着剤の前記微細孔に吸着されている水易溶性の水溶性染料を含み、
外部水分と前記水溶性染料が接触することにより、前記上面シートを通して、その発色は浸潤して視認可能となるように構成されている、
衛生シート。」

他方、補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。
[相違点1]
補正発明では「多孔質吸着剤」が「吸着率20重量%以上」であるのに対して、引用発明はその限定がない点。

[相違点2]
補正発明では「前記水溶性染料の合計量は、前記保水材料と前記吸水性樹脂材料の合計量に対して、0.03重量%乃至1.40重量%の範囲内」であるのに対して、引用発明はその限定がない点。

[相違点3]
補正発明では「前記多孔質吸着剤の合計量は、前記水溶性染料を吸着させるための当該多孔質吸着剤の最低必要量に等し」いのに対して、引用発明はその限定がない点。

(4) 判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
上記(2)イ(ウ)、(エ)に摘記したとおり、引用例2に「多孔質吸着剤の吸着率はその物質により決まって」おり、そして(多孔質の吸着剤である)シリカゲルは「25%以上の吸着率」、より具体的には「B型シリカゲル49.5%、A型シリカゲル26.0%」(これら「%」は重量%を示すと考えられる。)と記載されているように、吸着率20重量%以上の多孔質吸着剤は公知の材料であるから、引用発明の「吸着剤4」のシリカゲルを「吸着率20重量%以上」とすることに格別の困難性はない。

イ 相違点2について
まず、課題解決のための数値範囲の最適化又は好適化は当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性はないとされている。
そこで、相違点2に係る補正発明の発明特定事項「前記水溶性染料の合計量は、前記保水材料と前記吸水性樹脂材料の合計量に対して、0.03重量%乃至1.40重量%の範囲内」の技術的意義について検討する。
発明の詳細な説明では、「【0025】 また、染色材料は、複数種類の水溶性染料1重量部に対して、保水材料と吸収性樹脂材料多孔質吸着剤0.0003重量部(0.03重量%)乃至0.014重量部(1.40重量%)・・・の範囲内の配合比率であることが好ましいものである。
【0027】 また、吸水体における水溶性染料の添加量は、少なすぎると使用後に発色しないことになり、多すぎると、使用前に発色してしまうことになる。そのため、発明者は、使用前における水溶性染料と空気中等における水分による発色を防止するために、鋭意実験を重ねることにより、上記の好適な添加量を見出したものである。」と説明されている。
これに対し、上記(2)イ(オ)に摘記したように、引用例2には、水溶性染料の添加量が少なすぎると発色せず、多すぎると使用前に発色してしまうという同様の課題が記載されており、またこの課題は、引用例2のように「粒状」であっても引用発明のように「シーツ」状であっても共通して成り立つ課題であることは当業者には明らかである。よって、水溶性染料の添加量を最適化することは、当業者の通常の創作力の範囲の発揮に過ぎない。
また、相違点2に係る補正発明の数値範囲の臨界的意義について検討すると、この上限・下限値は、発明の詳細な説明で
「【実施例】【0046】 本発明の性能を調べるために、下記製造方法で吸液シートのサンプルを作成し、発色試験を行った。
【0047】<構成材料>・・・
【0048】 表面シートはポリプロピレンを主原料とする不織布シート、裏面シートはポリエチレンを主原料とするフィルムシート、保持シートはバージンパルプシートから形成されている。
【0049】 変色層を構成する吸液体は、紙おむつ由来の再生パルプ及びポリエチレン類(保水材料)45gと、カルボキシルメチルセルロース5g(吸水性樹脂材料)と、水溶性染料とから形成されている。
水溶性染料は、青色1号及び黄色1号(ダイワ化成株式会社製)を同量ずつ使用し、緑色を発色するように形成した。
また、多孔質吸着剤として、シリカゲル(B型)の微粉末(ハイモ株式会社製)を使用した。
【0050】<サンプル> 上記水溶性染料の配合割合の範囲内で、水溶性染料を、再生パルプ及びポリエチレン類とカルボキシルメチルセルロースの合計量(以下、「再生パルプ類等合計量」という。)50gに対して、0.020重量%、0.025重量%、0.030重量%、0.040重量%、0.10重量?1.40重量%・・・、1.45重量%、1.50重量%の範囲内となるように変化させ、吸液体(変色層)の配合比率の異なる合計20のサンプルを作成した。
【0051】<観察結果> 上記の各サンプルに関し、それぞれ使用前後で吸液シートの発色の程度を目視により観察した。その結果、・・・0.03重量%乃至1.40重量%とした各サンプルに関しては、使用前において吸液シートの発色が視認されなかった。そして、pHが6.8となるように調整した適量の生理食塩水(塩化ナトリウム濃度0.9重量%)を滴下したところ・・・良好な結果となった。その中でも、・・・0.50重量%及1.0重量%としたサンプルは、特に良好な結果を呈した。
【0052】 一方、・・・0.025重量%以下とした各サンプルに関しては、・・・、良好な結果が得られなかった。
また、・・・1.45重量%以上とした各サンプルに関しては、・・・、良好な結果が得られなかった。
【0053】 上記の結果によれば、吸液体(変色層)における水溶性染料の添加量は、再生パルプ類等合計量(保水材料と吸水性樹脂材料の合計量)に対して、0.03重量%乃至1.40重量%の範囲内であることが必要となることが明らかになった。」
と記載されているように、上記特定の「サンプル」で得られた値である。
しかし、このような値は、シートを構成する各シートの作りや、染料等の種類・材質によって影響されるものであることは明らかであるから、一般化できるものではなく、臨界的意義を有するものとは認められない。
したがって、相違点2に係る構成の変更は、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 相違点3について
(ア) 引用例2に記載の事項
上記(2)イ(ウ)に摘記したとおり、引用例2には、「多孔質吸着剤の吸着率はその物質により決まっていることから、使用後に発色させるのに必要となる水溶性染料を吸着させるための、多孔質吸着剤の最低必要量が理論的に決定されることになる」ことが記載されている。
課題解決のための数値範囲の最適化又は好適化は当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、上記記載より、引用発明におけるシリカゲル(多孔質吸着剤)について、必要となる水溶性染料(メチレンブルー)を吸着させるための最低必要量を最適な値と設定することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。

(イ) 請求人の主張について
引用発明に関して、請求人は、審判請求書、また平成28年7月28日付け上申書にて、概ね、引用発明においてシリカゲルに水分を吸着させるのは、メチレンブルーを水分と反応させるためだけでなく、「小動物ペットによる糞尿排泄物の水分を能率良く吸収させると共に、悪臭を略完全に除去させ」るという課題解決のためでもあり、シリカゲルはメチレンブルー(抗菌剤)吸着後も充分な吸着余力を残している必要があり、したがって、シリカゲル合計量をメチレンブルー吸着のための最低必要量に等しくすることは容易でない旨を主張している。
この主張について検討する。
まず、引用例1には、シリカゲルは吸着余力を有していなければならない旨の記載はない。これについて上記主張では、段落0006や段落0010記載のとおり、引用発明においてシリカゲルは、水分を吸着する役割を担ってる旨を述べている。そこで当該段落の記載をみると、上記(2)ア(イ)、(ウ)に摘記したとおり、「・・・水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませたメチレンブルーにより抗菌剤9分子を放出発散させる・・・」(段落0006)、「・・・水分を吸着させると同時に、予めシリカゲルに染み込ませてあるメチレンブルーが水分と反応して抗菌剤分子を周囲に放出発散させ・・・」(段落0010)というものであり、シリカゲルに水分を吸着させると同時に予めシリカゲルに染み込ませてあるメチレンブルーが水分と反応して抗菌剤分子を周囲に放出発散させるという機序は記載されているが、それ以上の、シリカゲルは吸着余力を有していなければならない旨の記載はない。
そして、引用発明は「パルプ、ポリマー等の混合体」から成る「吸水体3」を備えるものであって、引用発明の機序という点から見ても、シリカゲルが吸着余力を有しないと引用発明の機序が成り立たず課題を解決できない旨の記載は引用例1にはない。
このように、引用例1には上記主張の根拠となる記載がなく、言い換えれば引用例2に記載された技術を適用することの阻害要因はない。
よって、上記主張は採用できない。

エ そして、以上の相違点を総合的に勘案しても、補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ まとめ
したがって、補正発明は、当業者が引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記2及び3のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているか、または、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成27年7月16日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1の(補正前)に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1、2及びその記載事項は、前記第2の3(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の3で検討した補正発明から、「多孔質吸着剤」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、前記第2の3(3)、(4)に記載したとおり、当業者が引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が本願出願日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-24 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-03-31 
出願番号 特願2012-11482(P2012-11482)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01K)
P 1 8・ 561- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 前川 慎喜
住田 秀弘
発明の名称 衛生シート  
代理人 大坂 憲正  
代理人 西村 公芳  
代理人 松田 純一  

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