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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1328491
審判番号 不服2016-5448  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-13 
確定日 2017-06-12 
事件の表示 特願2012- 41050「紫外線放射用フラッシュランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-178893、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月28日の出願であって、平成27年7月13日付け(同年同月21日発送)で拒絶理由が通知され、同年9月1日付けで意見書が提出されたが、平成28年2月9日付け(同年同月22日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対して、同年4月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審より平成28年11月25日付け(同年同月28日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)を通知したところ、平成29年1月18日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正(以下「補正1」という。)がなされ、当審より同年3月10日付け(同年同月13日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)を通知したところ、同年4月19日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正(以下、「補正2」という。)がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年2月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知の技術事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1.特開2005-216647号公報
引用文献2.実願昭49-098005号(実開昭51-25881号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2000-106146号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2002-93375号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
1 当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。
(1)(明確性)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 本願請求項1に係る発明は、「紫外線放射用フラッシュランプ」という「物」の発明である。
ところで、請求項1には、「前記円筒状透光性セラミック発光管(11)の内部断面積をD、発光時のピーク電流をIpとするとき、(Ip/D)が25A/mm^(2)ないし35A/mm^(2)となる」と記載されている。
ここで、「発光時のピーク電流」(Ip)とは、発光時に「紫外線放射用フラッシュランプ」に流れる電流であって、「紫外線放射用フラッシュランプ」自体の構成とはいえない。(どの程度の電流を流してランプを使用するかは特定できても、ランプ自体の構成を特定するものではない。)
してみると、請求項1に記載された「(Ip/D)が25A/mm^(2)ないし35A/mm^(2)となる」との構成は、「紫外線放射用フラッシュランプ」の「物」の発明の構成として何を特定しているのか不明である。
したがって、請求項1に係る発明は、明確でない。

イ 請求項1に記載された「発光時のピーク電流」(Ip)の定義が不明である。(例えば、一般に用いられるランプの「定格電流」との違いが不明である。)
したがって、請求項1に係る発明は、明確でない。

(2)(サポート要件)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

特許請求の範囲の請求項1には、「前記焼結電極(12,22)における電子放射性物質の重量比を5%ないし15%にした」と記載され、「電子放射性物質」を特定することなく「重量比を5%ないし15%」が適正な範囲としている。
一方、発明の詳細な説明には、実施例1?3及び比較例1?4の「電子放射性物質」として同一の物質を用いたことは記載されているものの、何の物質を用いたかは記載されていない。
ところで、電極に含まれる「電子放射性物質」の種類や量によって発光特性が変化することは、ランプにおける技術常識であって、ある一つの物質で適正な含有量(重量比)の範囲が求められたとしても、他の任意の「電子放射性物質」でも同じ重量比の範囲が適正であるということはできないから、「電子放射性物質」を特定していない請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。
(1)(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願の発明の詳細な説明に記載された、発明が解決しようとする課題は、「始動エラーや自己放電を防止しつつ、その照度維持率を高め得る紫外線放射用フラッシュランプを提供すること」(段落【0005】?【0009】参照)である。
また、電子放射性物質の重量比を違えた実施例、比較例の比較試験及び結果(段落【0029】?【0049】)と、実施例2においてIpを違えた比較試験及び結果(段落【0050】?【0054】)との記載から、課題を解決するもの(○)としないもの(×)を整理すると、以下のとおりとなる。
--------------------------------
電子放射性物質 不明
発光管11の内径d 4mm (内部断面積D 12.56mm^(2))

Ip/D
(A/mm^(2))
50 ×
45 ×
40 ×
35 ○
30 ○ ○ ○ × × × × ×
25 ○
20 ×
15 ×
10 ×
5
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
電子放射性物質の重量比(%)
--------------------------------

以上のとおり、電子放射性物質の重量比が請求項1に記載された「5%ないし15%」であったとしても課題を解決しないもの(×)はあるから、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
また、段落【0006】の「放電時のイオン衝突によるスパッタで電子放射性物質が電極から放出されることによってその焼結電極が損耗し、焼結電極に含まれるタングステン及び電子放射性物質が、周囲の発光管の内壁に付着してその発光管を黒化又は白濁させる」(下線は当審で付与した。)との記載からすると、電子放射性物質の量と電子放射性物質の付着する内壁の面積とは発光管を黒化又は白濁させることに関係があるといえるから、電子放射性物質の適切な範囲の重量比は、内壁の面積を規定する発光管11の内径dによって変化し得るものといえる。
そして、発明の詳細な説明に記載された実施例、比較例は、いずれも発光管11の内径dを4mmとするものであるところ、内径dが4mmではない発光管における電子放射性物質の重量比の適切な範囲は、内径dが4mmの場合とは異なるものになるといえる。また、発明の詳細な説明には、内径dが4mmではない発光管の場合に電子放射性物質の重量比の適切な範囲についての記載はない。してみると、請求項1に記載された「発光管(11)の内径(d)が8mm以下」の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A:特開2005-71927号公報

第4 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、補正2により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明は以下のとおりの発明である。

「タングステン粉末と電子放射性物質を圧縮成型して高温にて焼成して成る焼結電極(12,22)が円筒状透光性セラミック発光管(11)の両端部の少なくとも陰極側又は双方に設けられ、前記円筒状透光性セラミック発光管(11)に発光ガスとしてキセノンが封入され、前記円筒状透光性セラミック発光管(11)の内部断面積をD、発光時のピーク電流をIpとするとき、(Ip/D)が30A/mm^(2)となるようピーク電流を供給して用いる紫外線放射用フラッシュランプであって、
前記円筒状透光性セラミック発光管(11)の内径(d)が4mmであり、
前記電子放射性物質がバリウムの酸化物又はカルシウムの酸化物又はバリウムとカルシウムの酸化物であり、
前記焼結電極(12,22)における前記電子放射性物質の重量比を5%ないし15%にした
ことを特徴とする紫外線放射用フラッシュランプ。」

第5 引用文献、引用発明
1 引用文献Aについて
(1)当審拒絶理由2に引用された引用文献Aには、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。
「【0012】
図1、図2は、本発明に係る放電灯用電極を使用した放電灯であるフラッシュランプの概略図であり、図1がその横断面図、図2が縦断面図である。このフラッシュランプ10は、円筒状のガラス容器1中に、陰極2と陽極3とがステム導入ピン6により対向して配置されている。そして、放電を開始させるためのトリガプローブと呼ばれる電極4、5が陰極2と陽極3のそれぞれの対向面前方に配置されている。そして、各電極2?5は、ガラス容器1外に引き出された外部端子71?74により外部回路に接続されている。ガラス容器1中には、キセノンガスが封入されている。
【0013】
図3は、この陰極2の拡大図である。陽極3に対向する側が円錐形で、反対側が円筒形である砲弾形(尖頭形)の形状を有している。陰極2は、例えば、全長が3?5mm、直径が2mmであって、先端の円錐部の長さが1mmである。
【0014】
この陰極2は、以下のような金属射出成形(Metal Injection Molding=MIM)法によって製造される。図4は、陰極2の製造プロセスを説明するフローチャートである。まず、所定の空間を有する金型を用意する(ステップS1)。この空間は、製造対象である陰極2を所定比率で拡大した形状を有する。一方で、平均粒径が2μm?8μmのタングステン粉末と、アルミン酸バリウム、または、酸化スカンジウムとアルカリ土類金属の炭酸塩の混合物からなる易電子放射物質と、パラフィンワックスにポリプロピレン等の樹脂を添加した熱可塑性ポリマー材料からなるバインダーを混練して、直径数mm程度の顆粒状にして原料とする(ステップS2=原料生成工程)。ここで、タングステン粉末と易電子放射物質との比率は、易電子放射物質が20重量%未満であり、これに流動化を可能とする所定量のバインダーが添加される。
【0015】
次に、こうして作成した原料を100℃?200℃程度に加熱して流動状態とし、ステップS1で用意した金型の空間内に射出成形する(ステップS3=射出成形工程)。射出成形された原料が金型内で固化したら、固化した成形品を金型から取り出す(ステップS4)。そして、不活性ガス中で成形品を所定の温度プロファイルで加熱後、冷却することにより、バインダー成分を蒸発させて除去する脱脂を行う(ステップS5=脱脂工程)。
脱脂した成形品を、さらに真空中で1400?1500℃に加熱することによりタングステン粉末を結合させる焼結を行う(ステップS6=焼結工程)。これにより、有孔焼結電極である陰極2が得られる。」
「【0020】
易電子放射物質としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、トリウム等の元素周期律表IIIa族の酸化物、アルカリ土類金属であるカルシウム、バリウム、ストロンチウム等の炭酸塩の単体あるいは混合物を用いることができる。」

(2)引用発明
引用文献Aには、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、参考のため括弧内に引用した段落番号を付記する。
「(【0012】)円筒状のガラス容器1中に、陰極2と陽極3とがステム導入ピン6により対向して配置され、ガラス容器1中には、キセノンガスが封入されたフラッシュランプであって、
(【0014】)陰極2は、タングステン粉末と、易電子放射物質と、バインダーを混練し原料とし、ここで、タングステン粉末と易電子放射物質との比率は、易電子放射物質が20重量%未満であり、
(【0015】)射出成形工程、脱脂工程及び真空中で1400?1500℃に加熱する焼結工程により得たものであり、
(【0020】)易電子放射物質としては、カルシウム、バリウム等の炭酸塩の単体あるいは混合物を用いたものである
(【0012】)フラッシュランプ。」

第6 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「タングステン粉末」、「易電子放射物質」は、それぞれ本願発明の「タングステン粉末」、「電子放射性物質」に相当する。

引用発明において、「陰極2は、タングステン粉末と、易電子放射物質と、バインダーを混練し原料とし、ここで、タングステン粉末と易電子放射物質との比率は、易電子放射物質が20重量%未満であり、射出成形工程、脱脂工程及び真空中で1400?1500℃に加熱する焼結工程により得たものであ」るから、引用発明の「陰極2」と本願発明の「タングステン粉末と電子放射性物質を圧縮成型して高温にて焼成して成る焼結電極」とは、「タングステン粉末と電子放射性物質を成型して高温にて焼成して成る焼結電極」の点で共通する。

引用発明の「円筒状のガラス容器1」と本願発明の「円筒状透光性セラミック発光管(11)」とは、「円筒状透光性発光管」の点で共通する。

引用発明において、「円筒状のガラス容器1中に、陰極2と陽極3とがステム導入ピン6により対向して配置され」ていることと、本願発明の「焼結電極(12,22)が円筒状透光性セラミック発光管(11)の両端部の少なくとも陰極側又は双方に設けられ」ていることとは、「焼結電極が円筒状透光性発光管の両端部の少なくとも陰極側又は双方に設けられ」ている点で共通する。

引用発明の「キセノンガスが封入されたフラッシュランプ」と、本願発明の「発光ガスとしてキセノンが封入され、前記円筒状透光性セラミック発光管(11)の内部断面積をD、発光時のピーク電流をIpとするとき、(Ip/D)が30A/mm^(2)となるようピーク電流を供給して用いる紫外線放射用フラッシュランプ」とは、「発光ガスとしてキセノンが封入されたフラッシュランプ」の点で共通する。

(1)一致点
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「タングステン粉末と電子放射性物質を成型して高温にて焼成して成る焼結電極が円筒状透光性発光管の両端部の少なくとも陰極側又は双方に設けられ、前記円筒状透光性発光管に発光ガスとしてキセノンが封入されたフラッシュランプ。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。

(2)相違点1
円筒状透光性発光管について、本願発明は、「セラミック」からなり、「内径(d)が4mm」であるのに対し、引用発明は、「ガラス」からなり、内径が不明である点。

(3)相違点2
フラッシュランプについて、本願発明は、「前記円筒状透光性セラミック発光管(11)の内部断面積をD、発光時のピーク電流をIpとするとき、(Ip/D)が30A/mm^(2)となるようピーク電流を供給して用いる紫外線放射用」であるのに対し、引用発明は、ピーク電流及び用途の特定がされていない点。

(4)相違点3
電子放射性物質の重量比について、本願発明は、「5%ないし15%」であるのに対し、引用発明は、「20重量%未満」である点。

(5)相違点4
電子放射性物質について、本願発明は、「バリウムの酸化物又はカルシウムの酸化物又はバリウムとカルシウムの酸化物」であるのに対し、引用発明は、「カルシウム、バリウム等の炭酸塩の単体あるいは混合物」である点。

(6)相違点5
タングステン粉末と電子放射性物質の成型が、本願発明は、「圧縮成型」であるのに対し、引用発明は、「射出成形」である点。

第7 判断
本願明細書には、発明が解決しようとする課題が下記のように記載されている。なお、下線は、当審で付与したものである。
「【0005】
一方、近年では、患者が在宅で用いる機器に、このような紫外線放射用フラッシュランプを備えることが行われるようになってきた。例えば、カテーテルチューブ等の医療器具を家庭において殺菌又は滅菌するための医療用機器にあっては、このような紫外線放射用フラッシュランプが用いられる。けれども、家庭において用いられることから、その取り扱いにおける安全及び安心を担保するために、小型で機械的強度が高いことが好ましい。そこで、このようなフラッシュランプには、衝撃に強い透光性セラミックから成る発光管を用いることが考えられる。即ち、タングステン粉末と電子放射性物質を圧縮成型して高温にて焼成して成る焼結電極を透光性セラミック発光管の少なくとも陰極側に設け、この発光管に発光ガスとしてキセノンを封入することが考えられる。
【0006】
しかし、このような小型のランプにおいて、従来と同様に電極を構成する焼結体に電子放射性物質を20?30重量%含ませると、このランプの繰り返されるフラッシュ点灯により、その焼結体から成る焼結電極の温度が上昇することで電子放射性物質の蒸発が起こり、また放電時のイオン衝突によるスパッタで電子放射性物質が電極から放出されることによってその焼結電極が損耗し、焼結電極に含まれるタングステン及び電子放射性物質が、周囲の発光管の内壁に付着してその発光管を黒化又は白濁させる不具合があった。そして、このような発光管の黒化及び白濁は、ランプにおける殺菌線照度を低下させ、将来のいずれかの時点において十分な殺菌効果が得られない不具合を生じさせた。
【0007】
特に、始動性能を重視して、電子放射性物質の重量比を高くすると、焼結体から成る焼結電極の機械的強度が弱くなり、その電極における熱容量が低下して電子放射性物質の蒸発やスパッタ現象によってその焼結電極の損耗が進むと、それら物質の蒸発及び飛散により発光管内部に封入されたキセノンの純度が低下し、そのことで始動性が低下する不具合も生じさせる。更には、トリガー電圧を印加する以前に電極間に放電が開始する、いわゆる自己放電が発生する場合もある。このような自己放電では、定格の値まで充電が完了していないため、エネルギー不足の状態でフラッシュ点灯させることになるという問題を生じさせる。
【0008】
一方、焼結電極に含まれる電子放射性物質の蒸発量を軽減するために電子放射性物質の重量比を過度に下げ過ぎると、正常な電子放射が行えず、始動性能が低下して、トリガー電圧を印加してもランプが点灯しない始動エラーが発生する。このため、この小型のフラッシュランプに用いられる焼結電極にあっては、そこに含ませる電子放射性物質の重量比を最適な値にして、紫外線放射用フラッシュランプにおける始動エラーや自己放電を防止しつつ、その照度維持率を高める必要がある。
【0009】
本発明の目的は、始動エラーや自己放電を防止しつつ、その照度維持率を高め得る紫外線放射用フラッシュランプを提供することにある。」

してみると、本願発明は、「タングステン粉末と電子放射性物質を圧縮成型して高温にて焼成して成る焼結電極を透光性セラミック発光管の少なくとも陰極側に設け、この発光管に発光ガスとしてキセノンを封入」した「小型のランプにおいて、」「始動エラーや自己放電を防止しつつ、その照度維持率を高め得る紫外線放射用フラッシュランプを提供する」という課題を解決するために、(Ip/D)及び電子放射性物質の重量比について、特定したものである。
つまり、本願発明は、「セラミック」からなり、小型である「内径(d)が4mm」のサイズの発光管であるとする相違点1の構成、「(Ip/D)が30A/mm^(2)となるようピーク電流を供給して用いる紫外線放射用」であるとする相違点2の構成、電子放射性物質の重量比が「5%ないし15%」であるとする相違点3の構成を同時に満たすことに意義がある発明であるから、以下、相違点1、2及び3について併せて検討する。

引用発明において、「タングステン粉末と易電子放射物質との比率は、易電子放射物質が20重量%未満であ」るが、「真空中で1400?1500℃に加熱する焼結工程」によりCO_(2)分が離脱することを考慮すると、焼結工程後の易電子放射物質の重量%は、以下のようになる。

例えば、易電子放射物質として炭酸カルシウム(CaCO_(3))が20重量%である場合、焼結工程後は酸化カルシウム(CaO)が残留し、20重量%のうちの56%(=56.08/100.09)になる。
タングステンと酸化カルシウムを合計したもののうちの酸化カルシウムの割合は、
酸化カルシウム(20重量%×56%)/{タングステン(80重量%)+酸化カルシウム(20重量%×56%)}=12.3重量% となる。
よって、易電子放射物質として炭酸カルシウム(CaCO_(3))が20重量%未満であることは、焼結工程後は易電子放射物質として酸化カルシウム(CaO)が12.3重量%未満であることを意味し、相違点3に係る電子放射性物質の重量比である「5%ないし15%」の範囲内である。
しかしながら、引用発明について、相違点1及び2について特定するものではなく、相違点1、2及び3を同時に満たすよう構成することは、当業者が容易に想到することができるとまではいえない。
したがって、相違点4及5について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第8 当審拒絶理由について
1 特許法第29条第2項について
上記第7で検討したとおり、補正2で補正された本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから、当審拒絶理由2で通知した特許法第29条第2項についての拒絶理由は、解消した。

2 特許法第36条第1項及び2項について
当審拒絶理由1で特許法第36条第1項及び2項についての拒絶理由を、当審拒絶理由2で特許法第36条第1項についての拒絶理由を通知しているが、補正2により補正された結果、当審拒絶理由1及び2で通知した特許法第36条第1項及び2項についての拒絶理由は解消した。

第9 原査定についての判断
原査定の拒絶理由で引用された引用文献1(特に、[0025]-[0031],図1-図3を参照。)には、放電容器の内部にキセノンが封入された、紫外線を放射するフラッシュランプであって、放電容器の内側には透光性のセラミックからなるパイプが配置され、放電容器の小径部の内径が3.5mmとなっており、小径部における電流密度を2110A/cm^(2)以上とすることにより放射強度を向上させた、フラッシュランプの発明が記載され、また、[0026]には、放電容器全体をセラミックで形成することが示唆されている。
原査定の拒絶理由で引用された引用文献2(特に、5頁6行-6頁15行を参照。)には、閃光放電灯の電極として、タングステン等の耐熱性金属に電子放射物質を含有させた焼結電極を用いること、及び、含有させる電子放射物質の量を、電極の電子放射性、及び、管壁の黒化現象の抑制の観点から好適化することが記載されている。
また、原査定の拒絶理由で引用された引用文献3(特に、[0026]-[0027]を参照。)及び引用文献4(特に、[0058]を参照。)には、ランプのちらつき防止や管壁の黒化減少の抑制の観点から、点灯時の電流密度を一定の値以下に設定することが記載されている。
しかしながら、「セラミック」からなり、小型である「内径(d)が4mm」のサイズの発光管であるとする構成、「(Ip/D)が30A/mm^(2)となるようピーク電流を供給して用いる紫外線放射用」であるとする構成、電子放射性物質の重量比が「5%ないし15%」であるとする構成を同時に満たすことは、引用文献1?4には記載されておらず、本願出願日前において公知又は周知の技術事項であるともいえない。
よって、本願発明は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとまではいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第10 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-26 
出願番号 特願2012-41050(P2012-41050)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01J)
P 1 8・ 537- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野 健二  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
森 竜介
発明の名称 紫外線放射用フラッシュランプ  
代理人 早川 利明  

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