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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G
管理番号 1328560
審判番号 不服2015-22760  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-25 
確定日 2017-05-24 
事件の表示 特願2014-7139号「正確な車高のための位置決めの形態および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月1日出願公開、特開2014-76802号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年2月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年2月20日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2009-550898号の一部を平成26年1月17日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年1月31日 : 手続補正書の提出
平成26年10月1日付け: 拒絶理由の通知
平成27年3月9日 : 意見書、手続補正書の提出
平成27年8月26日付け: 拒絶査定
平成27年12月25日 : 審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成27年12月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項7の記載は、次のとおり補正された(下線部分は、補正箇所である。)。
「車両のためのコーナー組立体であって、前記コーナー組立体は、
上部マウント組立体と、
前記上部マウント組立体に取り付けられるダンパーと、
前記ダンパーに取り付けられるホイール組立体であって、前記ホイール組立体は、その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有するナックルを備えている、ホイール組立体と、
前記サスペンションモジュールと前記ホイール組立体との間に配置された指定された高さを設定するためのU字型のシムであって、前記U字型のシムは、前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整することによって、前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整するために前記サスペンションモジュールに取付けられており、前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されるように、前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している、U字型のシムと、
を具備するコーナー組立体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正後の請求項7に対応する、本件補正前の、平成27年3月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項12の記載は次のとおりである。
「車両のためのコーナー組立体であって、前記コーナー組立体は、
上部マウント組立体と、
前記上部マウント組立体に取り付けられるダンパーと、
前記ダンパーに取り付けられるホイール組立体と、
前記サスペンションモジュールと前記ホイール組立体との間に配置された指定された高さを設定するためのU字型のシムであって、前記U字型のシムは、前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整することによって、前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整するために前記サスペンションモジュールに取付けられている、U字型のシムと、
を具備するコーナー組立体。」

2 補正の適否
(1)新規事項
本件補正は、発明を特定するために必要な事項として新たに「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されるように、前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」との技術的事項を追加する補正を含むものである。
ここで、上記補正のうち「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持される」という点、および「前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」点については、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないし、記載された事項から自明な事項であるともいえない。
よって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

(2)独立特許要件
ア 仮に、本件補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとして、以下、本件補正について検討する。

(ア)そうすると、本件補正は、補正前の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である、「ホイール組立体」および「U字型のシム」について、前者につき、「前記ホイール組立体は、その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有するナックルを備えている、ホイール組立体と」との、また、後者につき、「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されるように、前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」との限定事項を付加する補正であって、本件補正により、補正前の請求項12に記載された発明と補正後の請求項7に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項7に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについてさらに検討する。

(イ)本件補正の「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持される」について、U字型のシムはボアに隣接してナックルの表面状に直接支持されるものである一方、サスペンションモジュールの端部部分はボア内に受け入れられているものであるから、そもそも、サスペンションモジュールの端部部分とU字型のシムとの位置関係は離間している。とすると、その両者について「干渉することなしに」との文言で離間している以外のどの様な態様を規定しようとするのか不明りょうである。

(ウ)また、本件補正の「前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」について、「直径」は円の場合、円の中心をとおる直線の一方の円周上の交点から他方の円周上の交点までの長さをいうものであることからすれば、U字型のシムの「直径」が「前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」との文言で規定しようとする具体的態様が不明りょうである(特に、「中心から離れた直径」との文言で規定しようとする態様)。

(エ) 上記(イ)、(ウ)の点より、本件補正発明は不明りょうであり、特許法第36条第6項第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

イ 仮に、本件補正の「前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」について、審判請求人の平成28年6月1日付提出の上申書での「図2には、U字型のシム76がナックル16のボアよりも外側にあるような寸法を有していることが明白に示されています。」との主張を参酌して(上記「直径」を「半径」の誤記とし)、「U字型のシムが、ナックル内のボアよりも大きな内径を有している」と解釈し、かかる関係により、「ボア内」ではなく、ナックルの表面上において、「前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持される」こと、すなわち、ナックルの表面上において、「サスペンションモジュールの端部部分とU字型のシムが接触しないで、前記U字型のシムがボアに隣接してナックルの表面状に直接支持される」ことと解釈し、本件補正発明は明りょうであるとして、さらに、検討する。

(ア)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである(なお、上記(2)イ、参照。)。

(イ)引用発明の記載事項
a 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された、実願昭54-97562号(実開昭56-16510号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付した。)。

「本考案は、車輪懸架装置と該車輪懸架装置に連結されるナツクルとの結合構造に関し、特にマツクフアーソン・ストラツト型のような独立懸架方式の懸架装置とナツクルとの結合構造に関する。」(明細書第1ページ第16-19行)
「第1図には、本考案に係る車輪懸架装置が全体に符号10で示されている。
この例では車輪懸架装置10は、独立懸架方式の前車軸駆動形式における前輪に適用されている。
車輪懸架装置10は、従来と同様なピストン・シリンダからなる緩衝器12と、該緩衝器に取り付けられた一対のスプリングシート14に両端を当接して配置されかつ緩衝器12の周囲を取り巻いて配置されるコイルスプリング16とを備える。緩衝器12のピストンロツド18はその上端部で従来よく知られた弾性支持装置20を介して車体22に連結されており、緩衝器12のシリンダ24の下端部には車輪25のためのナツクル26が設けられている。
ナツクル26は全体にコの字状を呈し、その中央部にボールベアリング28が設けられたハウジング部30を備える。前記ボールベアリング28は、自在継手32を備えかつ前記車輪25が固定される車軸34を回転可能に受け入れる。前記ハウジング部30に連らなる下方部36は、ボールジヨイント38を介して揺動アーム40に連結され、また前記ハウジング部34に連らなる上方部42は前記シリンダ24の下端部に結合されている。
第2図には、前記したシリンダ24とナツクル26の上方部42との結合構造が拡大して示されている。
前記ナツクル26の上方部42の端部には筒状部分44が形成され、該筒状部分にシリンダ24の下端部が受け入れられている。
シリンダ24の下端部近傍の外周面には、該外周面からその径方向外方にシリンダ24と一体に伸びるフランジ46が設けられている。該フランジは、シリンダ24を受け入れる前記筒状部分44の上端面を受け止めており、フランジ46と筒状部分44との間には後述するスペーサ48が配置されている。」(明細書第4ページ第8行-第6ページ第4行)
「前記スペーサ48は不要とすることができる。しかし、フランジ46と筒状部分44の上端面との間にスペーサを配置し、このスペーサの厚さ寸法あるいは枚数等を適宜選択することにより、シリンダ24に対するナツクル26の高さ位置関係を変えることができる。」(明細書第6ページ第19行-第7ページ第4行)

b 引用例1の発明
これらのことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車輪懸架装置10が、緩衝器12を備え、前記緩衝器12のピストンロツド18はその上端部で弾性支持装置20を介して車体22に連結されており、前記緩衝器12のシリンダ24の下端部には車輪25のためのナツクル26が設けられており、前記ナツクル26の上方部42の端部には筒状部分44が形成され、前記筒状部分44に前記シリンダ24の下端部が受け入れられており、前記シリンダ24の下端部近傍の外周面には、該外周面からその径方向外方に前記シリンダ24と一体に伸びるフランジ46が設けられており、該フランジ46は、前記シリンダ24を受け入れる前記筒状部分44の上端面を受け止めており、前記フランジ46と前記筒状部分44との間には、厚さ寸法あるいは枚数等を適宜選択することにより、シリンダ24に対するナツクル26の高さ位置関係を変えるスペーサ48が配置されている、
車輪懸架装置と該車輪懸架装置に連結されるナツクルとの結合構造。」

(ウ)対比
引用発明の「車輪懸架装置10」が車両のための構造であることは明らかであり、引用発明の「緩衝器12」は、機能的にみて本件補正発明の「ダンパー」、あるいは、「サスペンションモジュール」に相当する。
引用発明の「弾性支持装置20」は、緩衝器12のピストンロツド18上端部を車体22に連結するものであるから、本件補正発明の「上部マウント組立体」に相当し、そして、引用発明の「緩衝器12」は「弾性支持装置20」に取り付けられているといえる。よって、引用発明の「前記緩衝器12のピストンロツド18はその上端部で弾性支持装置20を介して車体22に連結されて」いることは、本件補正発明の「上部マウント組立体と、前記上部マウント組立体に取り付けられるダンパー」「を具備する」に相当する。
引用発明の「ナツクル26」は「車輪25のため」の構成であり、また「ナツクル26」は「緩衝器12のシリンダ24の下端部に」設けられているから、技術的にみて「ナツクル26」と「車輪25」の両者で、本件補正発明の「ホイール組立体」に相当するから、引用発明の「緩衝器12のシリンダ24の下端部には車輪25のためのナツクル26が設けられて」いることは、本件補正発明の「ホイール組立体」「を具備する」ことに相当する。また、引用発明の「ナツクル26の上方部42の端部には筒状部分44が形成され、前記筒状部分44に前記シリンダ24の下端部が受け入れられて」ているから、引用発明は、本件補正発明の「その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有する」に相当する構成を備える。結局、引用発明の「緩衝器12のシリンダ24の下端部には車輪25のためのナツクル26が設けられており、前記ナツクル26の上方部42の端部には筒状部分44が形成され、前記筒状部分に前記シリンダ24の下端部が受け入れられて」ていることは、本件補正発明の「前記ダンパーに取り付けられるホイール組立体であって、前記ホイール組立体は、その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有するナックルを備えている、ホイール組立体と」「を具備する」ことに相当する。
引用発明の「スペーサ48」は、「前記フランジ46と前記筒状部分44との間に」「配置されている」から、本件補正発明の「サスペンションモジュールとホイール組立体との間に配置された」「U字型のシム」との対比において、「サスペンションモジュールとホイール組立体との間に配置された」「間隔調整部材」である限度で相当するとともに、本件補正発明の「U字型シム」が「サスペンションモジュールに取付けられて」いることとの対比において、「間隔調整部材」が「サスペンションモジュールに取付けられて」いるという限度で相当する。また、引用発明の「シリンダ24に対するナックル26の高さ位置関係を変える」ことは、これにより車両の「指定された高さを設定する」こととなるといえる。そして、引用発明の「スペーサ48」の「厚さ寸法あるいは枚数等を適宜選択すること」ことは、機能的に、本件補正発明の「前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整する」ことに相当する。また、引用発明の「スペーサ48」の「厚さ寸法あるいは枚数等を適宜選択すること」ことにより、本件補正発明の「前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整」するに相当する作用をなすものといえる。さらに、上記のように引用発明の「スペーサ48」は「前記フランジ46と前記筒状部分44との間に」「配置されている」ものであり、他にフランジ46と筒状部分との間に介在する部材はないことから、「スペーサ48」が「筒状部分44」に隣接して「筒状部分44」上に直接支持されているといえる。ここで、引用発明の「筒状部分44」は「前記ナツクル26の上方部42の端部に」「形成され」たものであるから、引用発明の「筒状部分44の上端面」は本件補正発明の「ナックルの表面上」に相当するといえいる。結局、引用発明の「前記シリンダ24の下端部近傍の外周面には、該外周面からその径方向外方に前記シリンダ24と一体に伸びるフランジ46が設けられており、該フランジ46は、前記シリンダ24を受け入れる前記筒状部分44の上端面を受け止めており、前記フランジ46と前記筒状部分44との間には、厚さ寸法あるいは枚数等を適宜選択することにより、シリンダ24に対するナツクル26の高さ位置関係を変えるスペーサ48が配置されている」は、本件補正発明の「前記サスペンションモジュールと前記ホイール組立体との間に配置された指定された高さを設定するためのU字型のシムであって、前記U字型のシムは、前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整することによって、前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整するために前記サスペンションモジュールに取付けられており、前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されるように、前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」こととの対比において、「前記サスペンションモジュールと前記ホイール組立体との間に配置された指定された高さを設定するための間隔調整部材であって、前記間隔調整部材は、前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整することによって、前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整するために前記サスペンションモジュールに取付けられており、前記間隔調整部材が前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されている」ことの限度で相当する。
引用発明の「車輪懸架装置と該車輪懸架装置に連結されるナツクルとの結合構造」が、本件補正発明の「車両のためのコーナー組立体」に相当することは当業者には明らかである。

以上のとおりであるから、本件補正発明と引用発明との一致点、および、相違点は次のとおりである。
【一致点】
「車両のためのコーナー組立体であって、前記コーナー組立体は、
上部マウント組立体と、
前記上部マウント組立体に取り付けられるダンパーと、
前記ダンパーに取り付けられるホイール組立体であって、前記ホイール組立体は、その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有するナックルを備えている、ホイール組立体と、
前記サスペンションモジュールと前記ホイール組立体との間に配置された指定された高さを設定するための間隔調整部材であって、前記間隔調整部材は、前記ダンパーと、前記ホイール組立体との間の寸法を調整することによって、前記指定された高さまで前記サスペンションモジュールの測定された長さを調整するために前記サスペンションモジュールに取付けられており、前記間隔調整部材が前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されている間隔調整部材と、
を具備するコーナー組立体。」

【相違点1】
「間隔調整部材」に関し、本件補正発明は、その形状が「U字型のシム」であって、その内径が「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに」「ナックルの表面上に直接支持されるように」「前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」ものであるのに対し、引用発明では「スペーサ48」であって、その形状、内径の大きさについては言及されていない点。

なお、上記(2)イに説示のとおり、本件補正発明の「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持される」を、「サスペンションモジュールの端部部分とU字型のシムが接触しないで、前記U字型のシムがボアに隣接してナックルの表面状に直接支持される」ものと解釈し、また、「前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」を、「U字型のシムが、ナックル内のボアよりも大きな内径を有している」ものと解釈し、上記、一致点、および、相違点を認定した。

(エ)判断
a 相違点についての検討
間隔調整部材として、U字型のシム(スペーサ)は周知・慣用なものとして採用されている(例、特開2001-169843号公報の段落【0014】、【0015】、及び、特開2006-28993号公報の段落【0006】、参照。)。このようなU字型のシム(スペーサ)を採用する理由は、U字型のシム(スペーサ)の着脱を容易にするという要請に基づくものいうことができるところ、かかる着脱を容易にするという要請は、引用発明の間隔調整部材であるスペーサ48にも該当するといえるから、引用発明における間隔調整部材であるスペーサ48として上記周知・慣用のU字型のシム(スペーサ)を採用することは当業者であれば容易に想到し得たものである。そして、中心部に軸部材を通す孔のある間隔調整部材の場合、その孔の径は、間隔調整部材の着脱を容易にするという観点から、軸部材に対して「すきま」をもっているのが技術常識である。そうだとすれば、引用発明における間隔調整部材としてU字型のシムを用いた場合、その内径は、緩衝器12のシリンダ27の下端部とU字型のシムが接触しない寸法、すなわち、「U字型のシムが、ナックル内のボアよりも大きな内径を有している」とすることが通常であり、このような寸法の場合、「サスペンションモジュールの端部部分とU字型のシムが接触しないで、前記U字型のシムがボアに隣接してナックルの表面状に直接支持される」こととなる。
よって、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、引用発明及び上記周知・慣用の技術に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。

b そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知・慣用の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

c したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)以上のとおりであるから、本件補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年12月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-17に係る発明は、平成27年3月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の1-17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項12に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用発明の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例、その記載事項及び発明は、前記第2[理由]2(2)イ(イ)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2(2)で検討した本件補正発明から、発明を特定するために必要な事項である、「ホイール組立体」および「U字型のシム」について、前者につき、「前記ホイール組立体は、その中に前記サスペンションモジュールの端部部分を受け入れるためのボアを有するナックルを備えている、ホイール組立体と」との、後者につき、「前記ボア内で前記サスペンションモジュールの前記端部部分の位置付けと干渉することなしに、前記U字型のシムが前記ボアに隣接して前記ナックルの表面上に直接支持されるように、前記U字型のシムは、前記ナックル内の前記ボアよりも大きな中心から離れた直径を有している」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(2)イ(ウ)、(エ)に記載したとおり、引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-13 
結審通知日 2016-12-20 
審決日 2017-01-06 
出願番号 特願2014-7139(P2014-7139)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B60G)
P 1 8・ 575- Z (B60G)
P 1 8・ 121- Z (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
島田 信一
発明の名称 正確な車高のための位置決めの形態および方法  
代理人 堀内 美保子  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 佐藤 立志  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 砂川 克  

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