• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1328764
審判番号 不服2014-21196  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-20 
確定日 2017-06-02 
事件の表示 特願2009-529206「ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂から残留物を除去するための膜分離法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日国際公開、WO2008/036241、平成22年 2月 4日国内公表、特表2010-503762〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年9月18日を国際出願日とする出願(優先権主張 平成18年9月18日 米国)であって、平成21年3月18日に国内書面が提出され、同年5月18日に国際出願翻訳文提出書が提出され、同年5月19日に手続補正書が提出され、平成22年9月17日に手続補正書が提出され、平成24年8月21日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月28日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成26年2月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月17日付けで、同年2月28日付けの手続補正書が却下されるのと同時に拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年2月3日付けで前置報告がなされ、そして、平成28年5月31日付けで当審で拒絶理由が通知され、同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月21日に上申書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、平成28年12月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願翻訳文の明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「削減された残留物量を有するポリアミン-エピハロヒドリン樹脂の製造法であって、
(a)膜分離装置に少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物を装入し;そして
(b)前記水性組成物を前記膜分離装置の膜に通すことによって前記水性組成物を透過物と濃縮物に分離することを含み、
前記濃縮物は、等しいポリアミン-エピハロヒドリン樹脂量基準で(a)の水性組成物よりも低い残留物量を有する少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物を含み、
前記膜は150ドルトン?1000ドルトンの公称分子量カットオフを有するポリアミドナノろ過膜であり、これにより(a)の水性組成物から除去された残留物及び5重量%未満の前記少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む前記透過物が与えられ、
前記削減された残留物量を有するポリアミン-エピハロヒドリン樹脂のCPD含有量が、前記少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂12.5重量%で50ppm未満である方法。」


第3 拒絶の理由の概要

平成28年5月31日付けの当審での拒絶理由通知書に記載した理由1.(1)の概要は以下のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1

・引用文献等 2.特開2002-201267号公報(以下、「引用文献2」という。)
1.国際公開第2004/106410号(以下、「引用文献1」という。)」

(なお、同拒絶理由通知書での引用文献1の文献番号の記載に誤りがあったが、次の点からみて、請求人に文献番号が正しく伝えられているといえる。
引用文献1は、平成24年8月21日付け拒絶理由通知書、平成25年8月28日付け拒絶理由通知書でも引用されているものであり、平成28年12月1日に請求人が提出した意見書では、引用文献1が国際公開第2004/106410号であるものとして意見が主張されている。また、平成28年5月31日付け拒絶理由通知書の理由1.(1)には、引用文献1の日本語で記載されたファミリー文献「特表2006-528997号公報」の文献番号が正しく記載されている。)


第4 当審の判断

1.引用文献の記載
引用文献には以下の記載がある。
(1)引用文献2
ア 特許請求の範囲 【請求項1】
「重量平均分子量が3000以上であるポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂、重量平均分子量が30000以下であるポリアミドアミン樹脂、及び、エピクロロヒドリンの分解物を含有する水性混合液を2種の膜により処理して、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の濃厚液を製造する方法であって、下記の(1)?(3)の工程からなることを特徴とする水性ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の製造方法:
(1)分画分子量が約5000?約30000の範囲である限外濾過膜により上記水性混合液を処理して、低分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を主成分とする樹脂の濃厚液と、エピクロロヒドリンの分解物、高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン樹脂、及び、高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を含む透過液aとを得る工程、(2)工程(1)で得た透過液aをナノ濾過膜により処理して、エピクロロヒドリンの分解物を含有する透過液bと、上記の高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン樹脂及び高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とを含む濃縮液cを得る工程、(3)工程(2)で得た濃縮液cを、重量平均分子量が3000?100000の範囲であるポリアミドアミン樹脂及びエピクロロヒドリンと反応させ、重量平均分子量が3000以上であるポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂、重量平均分子量が30000以下であるポリアミドアミン樹脂、及び、エピクロロヒドリンの分解物を含有する水性混合液を得る工程。」

イ 【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、水性ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の製造方法に関し、詳しくは、2種の膜を用いて回収した比較的低分子量のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とポリアミドアミン樹脂の混合物をエピクロロヒドリンと反応させ、得られた反応液を最初の膜処理により精製・分離し、低分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を主成分とする樹脂の濃厚液(有価物)を連続的に取出す水性樹脂の製造方法に関するものである。」

ウ 【0005】?【0006】
「即ち、本発明は、重量平均分子量が3000以上であるポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂、重量平均分子量が30000以下であるポリアミドアミン樹脂、及び、エピクロロヒドリンの分解物を含有する水性混合液を2種の膜により処理して、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の濃厚液を製造する方法であって、下記の(1)?(3)の工程からなることを特徴とする水性ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の製造方法を提供するものである。
(1)分画分子量が約5000?約30000の範囲である限外濾過膜により上記水性混合液を処理して、低分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の濃厚液と、エピクロロヒドリンの分解物、高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン樹脂、及び、高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を含む透過液aとを得る工程、(2)工程(1)で得た透過液aをナノ濾過膜により処理して、エピクロロヒドリンの分解物を含有する透過液bと、上記の高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン樹脂及び高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とを含む濃縮液cを得る工程、(3)工程(2)で得た濃縮液cを、重量平均分子量が3000?100000の範囲であるポリアミドアミン樹脂及びエピクロロヒドリンと反応させ、重量平均分子量が3000以上であるポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂、重量平均分子量が30000以下であるポリアミドアミン樹脂、及び、エピクロロヒドリンの分解物を含有する水性混合液を得る工程。以下、本発明を詳細に説明する。」

エ 【0008】
「工程(1)で得た透過液aは、工程(2)においてナノ濾過膜により処理される。このナノ濾過膜処理により、エピクロロヒドリンの分解物Cのみを含有する透過液bと、上記のポリアミドアミン樹脂B及び高分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とを含む濃縮液cとが得られる。(後略)」

オ 【0019】?【0021】
「実施例1
<膜処理I>合成例1で得た粘度が40mPa・sの樹脂水溶液417部を、分画分子量が10000であるポリエーテルスルホン製の限外濾過膜を装着したクロスフロー濾過装置を用いて加圧下(1.2MPa)、室温で精製、分離処理した。先ず250部の透過液が得られるまで、透過液の流出速度と同じ速度で水を加えながら濾過し、更に257部の透過液が流出するまで樹脂水溶液を処理し、樹脂分濃度が20.1%である有価物Aと、溶質濃度が約4.5%である507部の透過液aを得た。透過液a中には、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とポリアミドアミン樹脂の混合物(分子量500?10000)が約4.2%、エピクロロヒドリン分解物Cが約0.3%含まれていた。
<膜処理II>4.8%のp-トルエンスルホン酸ナトリウム水溶液に対する阻止率が85.4%である芳香族ポリアミド製の高分子複合膜を装着したクロスフロー形式の濾過装置を用いて、507部の透過液aを室温、加圧(2.5MPa)下に、8.19倍濃縮して、30.5%のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を含有する濃縮液c約61部と、透過液b(約0.3%の分解物Cを含有)約44部を得た。上記濃縮液c中の分解物C含有量は0.96%(分解物Cが全量濃縮された場合の計算値は2.38%)であり、反応系へ濃縮液cを循環再使用することが可能と判断された。
<膜処理III>上記<膜処理II>で得た約440部の透過液bを、更に、食塩の阻止率が99.5%である芳香族ポリアミド製の逆浸透膜を装着したクロスフロー形式の濾過装置を用いて、室温、加圧(2.5MPa)下に、14.9倍濃縮した。エピクロロヒドリン分解物Cを2.34%含む濃縮水e(28.3部)と、411.7部の透過水dを得た[COD(化学的酸素要求量)62ppm]。なお、濃縮水eは焼却処理した。」

(2)引用文献1(訳文は、そのファミリー文献である特表2006-528997号公報によるものである。)
ア [0006]
「Polyamine-epihalohydrin resins, such as polyaminopolyamide-epihalohydrin resins often contain large quantities of epihalohydrin hydrolysis products. For example, commercial polyaminopolyamide-epichlorohydrin resins typically contain 0.5-10 wt% (dry basis) of the epichlorohydrin (epi) by-products, 1,3-dichloropropanol (1,3-DCP), 2,3-dichloropropanol (2,3-DCP) and 3-chloropropanediol (CPD). Epi by-products are also known as epi residuals. Production of such resins with reduced levels of epi by-products has been the subject of much investigation. Environmental pressures to produce resins with lower levels of adsorbable organic halogen (AOX) species have been increasing. "AOX" refers to the adsorbable organic halogen content of the resin, which can be determined by means of adsorption onto carbon. AOX includes epichlorohydrin (epi) and epi by-products (1,3-dichloropropanol, 2,3-dichloropropanol and 3-chloropropanediol) as well as organic halogen bound to the polymer backbone.」(訳:ポリアミノポリアミド-エピハロヒドリン樹脂のようなポリアミン-エピハロヒドリン樹脂は、多量のエピハロヒドリン加水分解産物を含むことが多い。例えば、市販のポリアミノポリアミド-エピクロロヒドリン樹脂は通常、0.5?10重量%(乾燥基準)のエピクロロヒドリン(epi)副産物、1,3-ジクロロプロパノール(1,3-DCP)、2,3-ジクロロプロパノール(2,3-DCP)、および、3-クロロプロパンジオール(CPD)を含む。また、epi副産物は、epi残留物としても知られている。このような樹脂のepi副産物量を減少させた製造が、多くの調査の主題であった。吸着性有機ハロゲン(AOX)種の量がより低い樹脂を製造しようとする環境的な圧力が高まっている。「AOX」は、樹脂の吸着性有機ハロゲン成分を意味し、これは、炭素への吸着によって決定することができる。AOXとしては、エピクロロヒドリン(epi)、および、epi副産物(1,3-ジクロロプロパノール、2,3-ジクロロプロパノール、および、3-クロロプロパンジオール)が挙げられ、同様に、ポリマー主鎖に結合した有機ハロゲンも挙げられる。)

イ [0024]
「CPD that is formed in polyamine-epihalohydrin resins, after storage, is due to CPD-forming species that are associated with the oligomeric and/or polymeric component of the resin. Polyamine-epihalohydrin resins can be treated during and/or subsequent to production in such a manner so as to prevent the formation of, inhibit and/or remove elements associated with the polyamine-epihalohydrin resin which form CPD upon storage. The preferred polyamine-epihalohydrin resin treated by the present invention is a polyaminopolyamide-epihalohydrin resin. Some treatments to remove or reduce CPD- forming species of the resins include; acid treatment, base treatment, low acid end groups in the prepolymer, and enzyme treatment.」(訳:貯蔵後にポリアミン-エピハロヒドリン樹脂中で形成されるCPDは、樹脂のオリゴマーおよび/またはポリマー成分と会合したCPDを形成する種によるものである。ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂は、製造の最中に、および/または、その後に、貯蔵の際にCPDを形成する、ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂と会合する要素の形成を予防する、阻害する、および/または除去するような様式で処理することができる。本発明によって処理される好ましいポリアミン-エピハロヒドリン樹脂は、ポリアミノポリアミド-エピハロヒドリン樹脂である。樹脂のCPDを形成する種を除去または減少させる処理のいくつかとしては、酸処理、塩基処理、プレポリマー中の少ない酸の末端基、および、酵素処理が挙げられる。)

2.引用発明
1.(1)オの<膜処理II>に着目すると、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。

「4.8%のp-トルエンスルホン酸ナトリウム水溶液に対する阻止率が85.4%である芳香族ポリアミド製の高分子複合膜を装着したクロスフロー形式の濾過装置を用いて、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂とポリアミドアミン樹脂の混合物(分子量500?10000)が約4.2%、エピクロロヒドリン分解物Cが約0.3%含まれている透過液aを室温、加圧(2.5MPa)下に、8.19倍濃縮して、30.5%のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を含有する濃縮液c約61部と、透過液b(約0.3%の分解物Cを含有)約44部を得る方法。」(以下、「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明との対比
引用発明のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂は、本願明細書【0008】の「ポリアミノポリアミド-エピハロヒドリン(PAE)樹脂などのポリアミン-エピハロヒドリン樹脂」の記載によれば、本願発明の「ポリアミン-エピクロロヒドリン樹脂」に相違ないものである。また、引用発明の「透過液a」は、上記の1.(1)オの<膜処理I>によれば水溶液であるから、引用発明の「透過液a」は、本願発明の「少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物」に相当する。
引用発明の「芳香族ポリアミド製の高分子複合膜」は、上記の1.(1)エによればナノ濾過膜であるから、本願発明の「ポリアミドナノろ過膜」に相当し、引用発明の当該膜を「装着したクロスフロー形式の濾過装置」は本願発明の「膜分離装置」に相当する。
上記の1.(1)エ及びオによれば、引用発明のナノ濾過膜は、透過液aの「エピクロロヒドリンの分解物C」のみを透過させ、「ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂」を透過させないものであると認められるから、引用発明の「エピクロロヒドリン分解物C」が本願発明の「残留物」である限りにおいて、引用発明でも「濃縮物は、等しいポリアミン-エピハロヒドリン樹脂量基準で(a)の水性組成物よりも低い残留物量を有する」といえるし、引用発明の「透過液b」は本願発明の「除去された残留物及び5重量%未満の前記少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む前記透過物」に相当する。
そして、引用発明の「ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を含有する濃縮液c約61部と、透過液b(約0.3%の分解物Cを含有)約44部を得る方法」とは、「ポリアミン-エピクロロヒドリン樹脂」の濃縮液を得ていることに着目すれば、「ポリアミン-エピクロロヒドリン樹脂の製造法」に他ならないものである。
そうしてみると、本願発明と引用発明とには、以下の一致点、相違点があるものである。

(1)一致点
「削減された残留物量を有するポリアミン-エピハロヒドリン樹脂の製造法であって、
(a)膜分離装置に少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物を装入し;そして
(b)前記水性組成物を前記膜分離装置の膜に通すことによって前記水性組成物を透過物と濃縮物に分離することを含み、
前記濃縮物は、等しいポリアミン-エピハロヒドリン樹脂量基準で(a)の水性組成物よりも低い残留物量を有する少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む水性組成物を含み、
前記膜はポリアミドナノろ過膜であり、これにより(a)の水性組成物から除去された残留物及び5重量%未満の前記少なくとも一種のポリアミン-エピハロヒドリン樹脂を含む前記透過物が与えられる方法。」である点。

(2)相違点
ア ポリアミドナノろ過膜に関し、本願発明では「150ドルトン?1000ドルトンの公称分子量カットオフを有する」ものに限定しているのに対して、引用発明ではそのような限定がない点。
イ 残留物量に関し、本願発明ではCPD含有量が「ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂12.5重量%で50ppm未満である」と特定しているのに対して、引用発明ではそのようには特定されていない点。

4.検討
(1)上記3.(2)アについて、目的に応じて最適なナノろ過膜を選択することは当業者が普通に行うことに過ぎないし、「150ドルトン?1000ドルトン」という範囲はナノ分離膜のカットオフの範囲として特殊な範囲とも認められない(たとえば、「平成17年度 標準技術集 水処理技術(www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mizushori/mokuji.htm)」の「1-6-5-3 ナノろ過膜」参照)から、ナノろ過膜として「150ドルトン?1000ドルトンの公称分子量カットオフを有する」との限定を置いたことに格別の創意を要するものとすることができない。また、そのような限定をすることによって当業者に予想外の格別顕著な効果を奏するものとも認めることができない。

(2)上記3.(2)イについて、引用文献1によれば、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂中の「エピクロロヒドリンの分解物」は、CPDを含み(1.(2)ア)、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂から除去すべきものとして認識されていた(1.(2)ア及びイ)ことが認められる。そして、引用文献2は、「低分子量域の樹脂が除去されたポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂を主成分とする樹脂の濃厚液(有価物)」(1.(1)イ)を得ることを目的としているのであるから、引用発明の「濃縮液c」中のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の純度を高めることは当業者にとって当然に想起される課題であって、「エピクロロヒドリンの分解物」の更なる除去を行うことは当業者が普通に検討することであるといえる。そして、その際に、除去の目安を決めることも当業者が普通に行うことに過ぎず、残留物中のCPDに着目した上で、その含有量が「ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂の活性成分12.5%で50ppmである」との目標を設定したことに格別の創意を要するものとすることができない。また、ろ過のサイクルを繰り返すことによってろ過されない物質の濃度を上げることは普通に行われることに過ぎず、引用発明の「濃縮物c」をナノろ過膜で複数回ろ過して、濃縮物中のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂の割合が増加した結果として、ポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂量基準で「エピクロロヒドリンの分解物」の量が少なくなる、すなわち、濃縮物中のポリアミドアミン-エピクロロヒドリン樹脂に対するCPDの量が少なくなることは、当然奏する効果に過ぎないものである。そうしてみると、「ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂の活性成分12.5%で50ppmである」が実際に達成されたことを持って、当業者に予想外の格別顕著な効果であるとすることができない。


第5.結び

以上のとおりであり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、すなわち引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-04 
審決日 2017-01-17 
出願番号 特願2009-529206(P2009-529206)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
守安 智
発明の名称 ポリアミン-エピハロヒドリン樹脂から残留物を除去するための膜分離法  
代理人 山本 修  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 小林 泰  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 実広 信哉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ