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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12M
管理番号 1328858
審判番号 不服2014-9939  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-28 
確定日 2017-06-07 
事件の表示 特願2011-536536「ヒト多能性幹細胞由来膵臓細胞のカプセル化」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日国際公開、WO2010/057039、平成24年 4月12日国内公表、特表2012-508584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年11月13日(パリ条約による優先権主張 2008年11月14日 米国、2008年12月9日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年5月28日に拒絶査定不服審判請求がなされ、平成28年5月12日付け当審拒絶理由通知に応答して平成28年11月14日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年11月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
生細胞をカプセル化するための少なくとも1つのチャンバーを含む、哺乳動物宿主中に植え込むための細胞カプセル化用アセンブリ(cell encapsulating assembly)であって、前記カプセル化用アセンブリをそれにより形成するところの前記アセンブリの周辺端部の第一の接着部、および、前記チャンバー内に存在する第二の接着部、並びに、ヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞、を含み、前記アセンブリは、インスリンが通過可能となるような細孔サイズを有する半透膜を含む、アセンブリ。」(以下、「本願発明」という。)

3 引用文献の記載事項
当審が通知した拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるNature Biotechnology, vol.26, pp.443-452(April 2008)(以下、「引用文献」という。)は、「ヒト胚性幹細胞に由来する膵内胚葉はin vivoでグルコース応答性インスリン分泌を生成する」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(翻訳は当審による。)
(1) 「ヒトβ細胞の再生可能な供給がなされれば、糖尿病の細胞治療が大いに発展するであろう。今回、我々は、ヒト胚性幹(hES)細胞に由来する膵内胚葉がマウスに移植後、効率的にグルコース応答性内分泌細胞を生成することを報告する。
移植を受けたマウスにグルコース刺激を与えると、3000程度のヒト膵島を移植されたマウスと同水準の血清中ヒトインスリン及びCペプチドが検出された。さらに、移植後に生じたインスリン発現細胞は、重要なβ細胞転写因子、プロインスリンの適切なプロセシング、及び成熟した内分泌顆粒のような機能的β細胞の多くの特徴を呈する。最後に、治療上の有効性試験において、hES細胞由来膵内胚葉はストレプトゾトシン誘発性高血糖症に対する保護を示した。総合すると、これらのデータはhES細胞はグルコース応答性インスリン分泌細胞を生成する能力があることの決定的な証拠を与えるものである。」(第443頁要約)
(2) 「我々は、この4ステージプロトコール(12日目)により作成された細胞を移植することに決めた。それは、その転写因子プロファイルが胎児においてコミットした膵内胚葉に非常に近似しているからである。このステージの細胞はPDX1、FOXA2、HNF6及びNKX6-1を共発現する点で特徴付けられ、膵内胚葉又は膵上皮と呼ばれるであろう(図1)。12日目の細胞塊は主にPDX1+FOXA2+HNF6+内胚葉細胞からなり(図1b及び補充図1)、細胞の多くはNKX6-1も発現している(図1d)。・・・12日目においてはインスリンやグルカゴンを発現する内分泌細胞の数は相対的に少なく、ホルモン陽性細胞の多くは以前示したようにグルカゴンとインスリンの両方、又はインスリンとソマトスタチンを発現する(図1e)。」(第443頁右欄下から第3行?444頁左欄第14行)
(3) 「移植された膵内胚葉はin vivoにおいて機能的な内分泌細胞を生成する。
In vitroで産生したhES細胞由来膵内胚葉がin vivoで機能的な内分泌細胞を生成できるかどうかを検証するため、ステージ4の細胞を免疫不全マウスに移植した。典型的には、合計?0.5-1×10^(7)の細胞塊がゲルフォーム・スポンジに保持され、マトリゲルで上塗りされ、そのような構造物が重症複合型免疫不全(SCID)ベージュ(Bg)マウスの雄の2つの精巣上体脂肪パッドに移植された。
移植後30日から60日の間、グルコース刺激期間にマウスから採取した血清中のヒトCペプチドレベルを分析することにより、グルコース刺激インスリン分泌を検証した。・・・典型的には、移植後30日までの初期には、グルコース投与に対して非常に低い血清中ヒトCペプチドレベル(<100pM)しか検出されなかった(表1、図2a及び補充表1)。次の2ヶ月の間、多くのマウスにおいて絶食又はインスリン刺激が血清のヒトCペプチドレベルを速やかに、場合によっては2週間のうちに2?10倍まで増加させた(表1)。移植から長期間の後(>150日)、絶食によるレベルは安定したものの、グルコース刺激による血清のヒトCペプチドレベルは何匹かのマウスにおいて増加を続けた(補充表1、特に2番、5番及び7番のマウス)。これらのデータを総合すると、インスリン分泌は絶食誘発性高血糖症及びグルコース投与の両方に応答性であった。」(第444頁第1?28行)
(4) 「図1a

図1 hES細胞から膵内胚葉への分化。(a)ES細胞から中内胚葉(ME)を経由して、胚体内胚葉(DE)、原始腸管(PG)、後前腸(PF)及び最終的に膵内胚葉(PE)に至るまでの概要。適用する因子及び培地を下に記載した。」
(5) 「表1


(6) 「ここに記載したマウスの大半は上述のとおり精巣上体脂肪パッドに移植されたものであるが、他の移植についても評価した。それらには、異なる移植位置(腎被膜、皮下)、細胞数(5×10^(6)-2×10^(7))、マウスの系統(SCID-Bg90匹、ヌード15匹)及びマトリゲルとゲルフォームの両方あり、なし、片方のみの場合が含まれる。グルコース刺激で血清のヒトCペプチドレベル>200pMが検出されることで定義される移植成功は、マトリゲルやゲルフォームの存在により影響を受けたとは認められなかった。」(第445頁左欄第16?24行)
(7) 「実験されたすべての結果により、hES細胞由来内分泌細胞は、機能的にヒト成人膵島に非常に類似しており、hES細胞が糖尿病の細胞置換治療において膵島の再生可能な供給源を提供するものであろうことの強い証拠を与える。」(第450頁左欄下から第4?1行)

4 引用発明
上記3(2)及び(3)からみて、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「PDX1+FOXA2+HNF6+で特徴付けられる膵内胚葉又は膵上皮細胞をゲルフォーム・スポンジに保持させ、マトリゲルで上塗りした、哺乳動物宿主中に植え込むための移植片。」(以下、「引用発明」という。)

5 対比
引用発明の「PDX1+FOXA2+HNF6+で特徴付けられる膵内胚葉又は膵上皮細胞」は、本願発明の「PDX1陽性膵前駆細胞」に該当することを考慮して本願発明と引用発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
一致点: PDX1陽性膵前駆細胞を含む、哺乳動物宿主中に植え込むための移植片。
相違点: 本願発明では、少なくとも1つのチャンバーを含み、アセンブリを形成する周辺端部の第一の接着部及びチャンバー内に存在する第二の接着部を含み、インスリンが通過可能となるような細孔サイズを有する半透膜を含む細胞カプセル化用アセンブリ(cell encapsulating assembly)に細胞が含まれるのに対して、引用発明では、細胞はゲルフォーム・スポンジに保持され、マトリゲルで上塗りされている点。

6 判断
上記相違点について検討するに、本願優先日当時、糖尿病の治療で患者にインスリン分泌細胞を移植するにあたって、拒絶反応を防ぐために、インスリンや細胞の生存に必要な酸素、アミノ酸、糖などは透過させるが、宿主の免疫応答に関わる細胞や抗体は透過させない半透膜、いわゆる免疫隔離膜からなる容器に封入して移植することが周知であった(例えば、人工臓器31巻3号96?99頁(2002年)、人工臓器32巻1号37?45頁(2003年))。引用文献1は糖尿病患者のための移植治療を念頭においているものの(上記3(1)、(7))、実際に行った実験では移植対象が免疫不全マウスであるため(上記3(1)、(3))拒絶反応を考慮する必要がないが、患者の治療に適用する際には拒絶反応を防ぐために上記周知の半透膜からなる容器に封入する必要があることは当業者が容易に推考しうる程度のことである。そして、その際、容器として、少なくとも1つのチャンバーを含み、アセンブリを形成する周辺端部の第一の接着部及びチャンバー内に存在する第二の接着部を含む周知の形状のもの(例えば、国際公開第1993/21902号の図4(a)、(b)、特表平8-504615号公報の図1、特表平6-502080号公報の図8を参照のこと。)を採用することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
次に、本願発明の効果について検討するに、引用文献1に、PDX1陽性膵臓前駆細胞をゲルフォーム・スポンジに担持させてマトリゲルで上塗りして移植しても、マトリゲルの上塗りをせずに移植しても、インスリン分泌の効果に変化がなかったことが記載されていること(上記3(6))、及びそれまでに知られていた各種成長因子(各種細胞の分化、成熟に関与する因子。例えば、上記3(4)に記載されたActA、Wnt、KGF、Cyc、Nogなど)はいずれも免疫担当細胞や抗体ほど高分子量ではなく、上記周知の半透膜を通過できると考えられる程度の大きさのペプチドであることに照らすと、PDX1陽性膵臓前駆細胞を上記周知の半透膜からなる容器に封入して移植しても、ゲルフォーム・スポンジに保持してマトリゲルで上塗りして移植した場合と同様に、体内環境において成熟してインスリンを分泌したことは、当業者が予測し得ないほど顕著な効果であるとはいえない。
また、念のためインスリン分泌の程度等について顕著性が認められるか否かを検討すると、実施例1?3には、hES細胞由来PDX1陽性膵臓前駆細胞を「TheraCyte社製細胞カプセル化デバイス」に封入して重症複合型免疫不全ベージュマウスの精巣上体脂肪パッド又は皮下に移植した9週以降にグルコース応答性インスリン分泌が観察されたことが記載されている。一方、引用文献1にも、PDX1陽性膵臓前駆細胞を免疫不全マウスに移植後約2ヶ月程度経過するとグルコース応答性インスリン分泌が観察されたことが記載されている(上記3(3)、(5))。本願の実施例1?3と引用文献1の実験は、用いたマウス系統や移植位置の点では共通しているものの、移植した細胞数が異なり(本願実施例では約1.5×10^(6)個、引用文献1の実験では0.5?1×10^(7))、インスリン分泌効果を示すヒトCペプチド血清レベルの数値を直接比較することはできないが、少なくとも、実施例1?3の結果が引用文献1の結果と比較して格別顕著であると認めるに足りるデータを見出すことはできない。
そして、実施例で用いられた細胞カプセル化用アセンブリがいずれも「TheraCyte社製細胞カプセル化デバイス」(段落【0119】)であることに鑑みれば、本願発明は、引用発明に本願優先日当時市販されていた一般的な医療用細胞カプセル化用アセンブリを組み合わせることによって、引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術水準から予測し得る程度の効果が得られたものにすぎないというべきである。まして、「TheraCyte社製細胞カプセル化デバイス」以外のさまざまな細胞カプセル化用アセンブリ、特に「インスリンが通過可能となるような細孔サイズを有する」という条件さえ満たせばどのような材質、細孔サイズでもよい「半透膜」を有する細胞カプセル化用アセンブリを用いる場合を包含する本願発明が、その全域にわたって格別顕著な効果を有するとは到底認めることができない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-20 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2011-536536(P2011-536536)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 山本 匡子
長井 啓子
発明の名称 ヒト多能性幹細胞由来膵臓細胞のカプセル化  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 川口 嘉之  
代理人 丹羽 武司  
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