• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1328920
審判番号 不服2015-22710  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-25 
確定日 2017-06-09 
事件の表示 特願2010-221321「粉体原料供給装置及び熱可塑性樹脂組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月19日出願公開、特開2012- 76275〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯

本願は、平成22年9月30日の特許出願であって、平成26年5月19日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正書が提出され、平成27年2月20日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月27日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正書が提出されたが、同年9月29日付けで平成27年4月27日付け手続補正書でした補正について補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(発送日:平成27年10月6日)がされ、これに対して、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、平成28年1月26日付けで同法第164条第3項所定の報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]

平成27年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 平成27年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容

本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項を含むものであるところ、本件補正前の特許請求の範囲と本件補正後の特許請求の範囲を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(平成26年7月24日付けの手続補正によるもの)

「 【請求項1】
粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であることを特徴とする粉体原料供給装置。
【請求項2】
ホッパ壁面の水平に対する角βが35?75°であることを特徴とする請求項1記載の粉体原料供給装置。
【請求項3】
ホッパ1壁面の外側にバイブレータを具備する請求項1又は2記載の粉体原料供給装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれかの粉体原料供給装置を具備した溶融混練装置。
【請求項5】
請求項4記載の溶融混練装置を用いて熱可塑性樹脂組成物を製造する方法。」

・ 本件補正後

「 【請求項1】
平均粒子径が10μm以上1mm以下の粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であることを特徴とする粉体原料供給装置。
【請求項2】
ホッパ壁面の水平に対する角βが35?75°であることを特徴とする請求項1記載の粉体原料供給装置。
【請求項3】
ホッパ1壁面の外側にバイブレータを具備する請求項1又は2記載の粉体原料供給装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれかの粉体原料供給装置を具備した溶融混練装置。
【請求項5】
請求項4記載の溶融混練装置を用いて熱可塑性樹脂組成物を製造する方法。」

2 本件補正の目的

本件補正は、請求項1の記載に係る発明を特定するために必要な事項である「粉体原料」について、補正前において特に何も特定していなかったものを「平均粒子径が10μm以上1mm以下の」と特定するものである。
当該補正事項については、補正前の「粉体原料」という発明特定事項を限定するものであって、本件補正の前後で、請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5の記載に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。

よって、本件補正の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5についてする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。

なお、本件補正の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5についてする補正は、いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから、本件補正後の請求項1及び2に記載された発明(以下、「本願補正発明1」及び「本件補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正の請求項1及び2についてする補正が特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ、以下説示のとおり、本件補正の請求項1及び2についてする補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち、本願補正発明1及び2は、本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(なお、引用文献1及び3は、原査定の理由で引用された引用文献1及び3と同じである。)

・ 引用文献1: 米国特許出願公開第2006/0255498号明細書
・ 引用文献3: 特開平8-244026号公報

4 本願補正発明1及び2

本願補正発明1及び2は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願補正発明1及び2を、請求項1を引用しない形式で表記すると以下のとおりのものと認める。

本願補正発明1
「平均粒子径が10μm以上1mm以下の粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であることを特徴とする粉体原料供給装置。」

本願補正発明2
「平均粒子径が10μm以上1mm以下の粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であり、ホッパ壁面の水平に対する角βが35?75°であることを特徴とする粉体原料供給装置。」

5 本願補正発明1及び2が特許を受けることができない理由

(1) 引用発明

ア 本願の出願前に外国において頒布されたことが明らかな刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、和訳については、当審が作成したものであり、下線については当審において付与した。)

(ア) 「The present invention relates to a production process which is excellent in productivity, stably supplies PPE powder, is well-balanced in physical properties of thermal deformation temperature and MFR, is suppressed in generation of foreign substances and is capable of improving impact resistance. The present invention also relates to a PPE resin composition prepared by the process. 」(段落[0002])
(本発明は、生産性に優れ、安定的にPPE粉体を供給し、熱変形温度とMFRの物性バランスを備えると共に、異物の発生を抑制し、耐衝撃性を向上させることのできる製造方法に関する。また、本発明は、当該製造方法により製造されたPPE樹脂組成物に関する。)

(イ) 「Concerning the removal of gas from an extruder supply hopper, background arts of dividing the space into a material supplying part and a gas separating part is disclosed in Patent Documents 2 and 3. In these documents it is disclosed that, since gas accompanying the material supplied to the barrel of an extruder flows back from the barrel to the extruder supply hopper, the flown-back gas and supplying material are separated so that a conveying ability is enhanced. However, since PPE powder as addressed in the present invention suffers from a large amount of accompanying gas, there has been a demand for a technique of separating gas before supplying to an extruder barrel and, in addition, removing gas after the PPE powder is melt-kneaded. 」(段落[0032])
(押出機の供給ホッパからのガスの除去に関しては、その空間を、材料供給部とガス分離部とに分ける従来技術が特許文献2及び3に開示されている。これらの文献では、押出機のバレルに供給される材料に付随するガスが、そのバレルから押出機の供給ホッパに逆流するので、その逆流ガスと供給材料とを分離することにより搬送能力を向上させることが開示されている。しかしながら、この発明において取り上げられているように、PPE粉体は大量に付随するガスが悩みであるので、押出機のバレルに供給される前におけるガスの分離技術と、加えて、PPE粉体が溶融混練された後におけるガスの除去技術が必要とされている。)

(ウ) 「 An extruder supply hopper for supplying a powder-containing mixture, having a vent pipe and a powder supplying pipe, each having a terminal orifice located in an opening of the extruder supply hopper having a wall angle of 60 to 85°」(段落[0048])
(粉体含有混合物の供給のための押出機の供給ホッパが、排気管と粉体供給管とを有し、その各々は、押出機の供給ホッパの開口部に位置する末端オリフィス部を有し、当該供給ホッパは、60?85°の壁角度を有する。)

(エ) 「4:Loss-in-weight feeder
・・・
8 : Vent pipe
9 : Extruder supply hopper
・・・
25 ; PPE powder supplying pipe 」(段落[0059]?[0084])
(4:ロスインウエイトフィーダー ・・・8:排気管 9:押出機の供給ホッパ ・・・25:PPE粉体供給管)

(オ) 「The extruder supply hopper 9 of the present invention will be illustrated. The extruder supply hopper used in the present invention is a hopper which supplies materials (such as powder and pellets) being necessary to be melt-kneaded from a gear box side (the most upper stream side) of an extruder to an extruder when a resin composition is prepared by melt-kneading using an extruder. As shown in FIGS. 2 and 3 , on the upper part of the supplying hopper 9 , a PPE powder supplying pipe is placed on a gear box side from a loss-in-weight feeder 4 and a vent pipe for degassing is placed on a down stream side thereof (die side) and, on further down stream side thereof (die side), a supplying pipe for thermoplastic resin other than PPE is placed. The angle of the PPE powder supplying pipe is 60 to 90° and, preferably, 70 to 85°. When the angle of the PPE powder supplying pipe is more than 60° or more, PPE powder is hardly retained in the pipe. The length of the PPE powder supplying pipe is not more than 10 m and, preferably, not more than 2 m. More preferably, as shown in FIG. 3 , it is acceptable that the screw of a loss-in-weight feeder 4 contacts to the wall of the gear box side of an extruder supply hopper whereby PFE powder is directly supplied. The supplying pipe for a thermoplastic resin other than PPE may be at the lower part of the hopper. Inclination angle of the hopper wall is 60 to 85°and, preferably, 65 to 80°. When the angle of the hopper is 60° or more, PPE powder is hardly retained on the wall when it is 85° or less, poor supplying to an extruder screw caused by a decrease in apparent density due to non-flowing of PPE powder on the wall hardly takes place. The shape of the hopper may be any of reversed conical and angular. In the case of an angular shape, powder is supplied from an upper stream side (gear box side) of an extruder supply opening to an extruder when powder is supplied to the side of gear box. In the case of a reversed conical shape, it is preferred that a guide board is placed on the wall so that PPE powder discharged from an outlet of supplying pipe to an upper stream side of an extruder supply opening and/or a side of barrel in the direction of rotation of a screw. When the order of installed positions of the PPE powder supplying pipe and of vent pipe is reversed, the bulk density of the PPE powder becomes small and, in addition, the PPE powder is supplied to down stream from the center of the extruder supply opening whereby supply of the PPE powder to the screw lowers. It is a characteristic that, in the hopper, there is no partition for making a PPE supplying zone and a degassing chamber. When a partition is formed, degassing becomes rather poor whereby changes in the supply amount take place or, due to a poor degassing, the supply of PPE powder to an extruder screw becomes bad.」(段落[0096])
(本発明の押出機の供給ホッパ9について説明する。本発明で使用される押出機の供給ホッパは、押出機を用いた溶融混練により樹脂組成物を準備するに際し、溶融混練に必要な(粉体やペレットのような)原料を押出機のギアボックス側(最上流側)から押出機へ供給するホッパである。図2及び3に示されているように、供給ホッパ9の上部に、ロスインウエイトフィーダー4からギアボックス側にPPE粉体供給管が、その下流側(ダイ側)にガス抜き用の排気管が、そのさらに下流側(ダイ側)にはPPE以外の熱可塑性樹脂の供給管が、それぞれ位置している。PPE粉体供給管の角度は60?90°であり、好ましくは、70?85°である。PPE粉体供給管の角度が60°あるいはそれ以上である場合には、PPE粉体は、ほとんど供給管内に保持されない。・・・PPE以外の熱可塑性樹脂の供給管は、ホッパの下部にあってもよい。ホッパ壁の傾斜角は60?85°であって、好ましくは65?80°である。ホッパ壁の角度が60°あるいはそれ以上の場合には、PPE粉体はほとんど壁に保持されない。・・・)

(カ) 「The static bulk density of the PPE powder of the present invention is 400 to 700 kg/m^(3). When it is less than 400 kg/m^(3), liquefaction of the powder is apt to take place while, when it is more than 700 kg/m^(3), PPE becomes too hard, melting becomes difficult and generation of non-melted substance is apt to take place. The average particle size is preferred to be 30 to 600 μm. When it is less than 30 μm, liquefaction of the powder is apt to take place while, when it is more than 600 μm, generation of non-melted substance is apt to take place. The average particle size of the PPE powder of the present invention is a value which is measured by a Coulter counter measuring machine, a laser diffraction particle size meter, etc. 」(段落[0119])
(この発明におけるPPE粉体の静かさ密度は、・・・平均粒子径は30?600μmのものが好ましい。)

(キ) 「

」(FIG.2)

イ 上記アでの摘記、特に(ア)?(オ)及び(キ)の記載から、引用文献1には、

「原料を押出機に供給する原料供給装置であって、供給ホッパとロスインウエイトフィーダーから供給されるPPE粉体の供給管と、ガス抜き用の排気管と、PPE以外の熱可塑性樹脂の供給管とを有し、
当該供給ホッパの壁の傾斜角が60?85°であって、
当該PPE粉体供給管の角度が60?90°である、
原料供給装置。」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

(2) 引用文献3に記載の事項

ア 本願の出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】微粉材料を供給する供給管が、材料供給口に設けられたフィードホッパ内に延在せしめて設けられるとともに、その開口端が材料供給口の近傍の二軸スクリュ間に位置せしめて設けられてなることを特徴とする二軸混練機。」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ) 「【発明が解決しようとする課題】ところで、上記二軸混練機における材料の供給において、例えば原料樹脂に加えて微粉タルクなど粒径の細かい微粉材料(粒径10μm以下)を高比率で定量供給装置28から二軸混練機本体25へ供給する場合、原料樹脂や微粉材料は、図示省略されるヒータにより加熱されながら混練、溶融されるので、その際に発生するガス、水蒸気等が材料供給口21よりフィードホッパ26内に吹き上がるため、比重の軽い細かい微粉材料がフィードホッパ26内で舞い上がり、微粉材料の供給が阻害され混練後の樹脂材料の生産量の低下を招いている。特に最近は、原料樹脂と微粉材料の配合割合が4:6,3:7,2:8などと、微粉材料の配合割合が多くなるグレードも多くなってきており、微粉材料の配合割合の多いもの程、供給不良による生産量の低下が著しい傾向にある。なお、周知のことではあるが、材料供給口21からのガス抜きは必要であって、ガスが抜けなくなるとシリンダ22内の内圧が高くなり全ての材料の供給を阻害する結果となる。
本発明は、上記の問題点を改善するためになしたものであって、その目的は、材料供給口からのガス等は抜きながらフィードホッパ内で微粉材料を舞い上がらせることなく、所望の配合割合の微粉材料を供給し得る二軸混練機を提供するものである。」(段落【0003】【0004】)

(ウ) 「【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る二軸混練機であれば、材料供給口からガス等を抜きながらフィードホッパ内で微粉材料を舞い上がらせることなく、所望の配合割合の微粉材料を供給することができ、混練による生産性を向上させることができる。また、二軸混練機の安定した操業ができる。」(段落【0015】)

(3) 本願補正発明1との対比・判断

ア 本願補正発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の原料である「PPE粉体」は、本願補正発明1の「粉体原料」に相当する。
引用発明の「押出機」は、本願補正発明1の「溶融混練装置」に相当する。
引用発明の「傾斜壁」を備えた「供給ホッパ」は、本願補正発明1の「混練する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ」に相当する。
引用発明の「ロスインウエイトフィーダー」、「PPE粉体供給管」、「排気管」は、それぞれ、本願補正発明1の「原料供給機」、「シュータ」、「原料と共に流入したエアを系外にに排出する排気口」に相当する。
引用発明の「PPE粉体供給管の角度が60?90°である」とは、上記(1)ア(キ)において、「WALL ANGLE」が水平面からの角度であること、及び、PPE粉体供給管である25が、ほぼ垂直に記載されていることからみて、水平面からの角度が60?90°であると理解される。そうすると、PPE粉体供給管(シュータ)と鉛直方向に延びる垂線と成す角αに換算すると、引用発明におけるαは、0?30°の範囲となる。
そして、引用発明の「原料供給装置」は、PPE粉体を供給していることから、本願補正発明1における「粉体原料供給装置」といえる。

これらを総合すると、本願補正発明1と引用発明との一致点、相違点(相違点1ないし3)は、それぞれ次のとおりのものと認めることができる。

・ 一致点

「粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備する、粉体原料供給装置。」

・ 相違点1

粉体原料に関して、本願補正発明1は「平均粒子径が10μm以上1mm以下」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点2

本願補正発明1は「シュータの最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパの接する点までの距離が0?150mm」(以下、「距離条件」という。)と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点。

・ 相違点3

本願補正発明1は「シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°である」と特定するのに対し、引用発明は、αが0?30°である点。

イ 相違点についての判断

・相違点1について

引用発明の「PPE粉体」は、引用文献1の段落【0119】に平均粒子径が30?600μmが好ましい(上記(1)(カ))と記載されており、かかる数値範囲は、本願補正発明1の数値範囲と重複一致しているから、相違点1は、実質的な相違点でない。仮に、相違点であったとしても、求める組成物の種類に応じて、好ましい数値範囲の平均粒子径の原料粉体を利用することは当業者が適宜行い得たことである。

・相違点2について

粉体の供給管をホッパ内の低い位置まで延設することで粉体の舞い上がりが抑制されることは当業者において周知(要すれば、上記(2)の引用文献3の記載参照のこと)であるから、引用発明のPPEの供給管(シュータ)についても、粉体の舞い上がりを抑制するために、供給管を延長して、ホッパに近接するようにし、それを距離条件として整理することは、当業者において想到容易である。そして、その数値範囲を0?150mmとすることは当業者において適宜なし得る設計的事項である。

・相違点3について

引用発明のαが0?30°であることは、本願補正発明1の数値範囲とαが20?30°において重複一致している(例えば、本願の実施例3においては、α=20°となっており、これらの値は引用発明と重複一致している。)から、相違点3は実質的な相違点でない。

ウ 効果について

粉体の供給管とホッパとの間の距離を短くすることで、粉体がより舞い上がりにくくなることは、当業者において当然に予測し得ることであるから、上記相違点に係る本願補正発明1の「粉体原料がホッパ内部で舞上りにくくなり原料の同伴エアと共に排気口から粉体原料が飛散することを抑制することができる。また、原料排出が低減されることで、マテリアルバランスが崩れなくなるため、本発明で得た熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の寸法安定性の向上が期待できる。」(本願明細書の段落【0007】)との効果は、当業者が予測し得たといえ、格別な効果が奏されるとは認められない。

(4) 本願補正発明2との対比・判断

ア 本願補正発明2と引用発明を対比する。

上記(3)アのとおりである。そして、引用発明の「供給ホッパの壁の傾斜角が60?85°」とは、上記(1)ア(キ)及び技術常識からみて、本願補正発明2における、ホッパ壁面の水平に対する角βに換算すると、引用発明におけるβは、60?85°の範囲となる。
これらを総合すると、本願補正発明2と引用発明とは、上記(3)アの一致点で一致し、相違点1及び2に加えて、下記の相違点4で相違している。

・ 相違点4

本願補正発明2は「シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であり、ホッパ壁面の水平に対する角βが35?75°である」(以下、「角度条件」という。)と特定するのに対し、引用発明は、αが0?30°であり、βが60?85°である点。

イ 相違点についての判断

相違点1及び2については、上記(3)イでの検討のとおりである。

・相違点4について

引用発明のαが0?30°であり、βが60?85°であることは、本願補正発明2の数値範囲とαが20?30°であり、βが60?75°において重複一致している(例えば、本願の実施例3においては、β=60°、α=20°となっており、これらの値は引用発明と重複一致している。)から、相違点4は実質的な相違点でない。
仮に、相違点であったとしても、好ましい数値範囲内で、角度条件を適宜調整することは当業者が適宜行い得たことである。

ウ 効果について検討する。
粉体の供給管とホッパとの間の距離を短くすることで、また、粉体の供給管とホッパの傾斜面とがなす角を小さくすることで、粉体がより舞い上がりにくくなることは、当業者において当然に予測し得ることであるから、上記相違点に係る本願補正発明2の「粉体原料がホッパ内部で舞上りにくくなり原料の同伴エアと共に排気口から粉体原料が飛散することを抑制することができる。また、原料排出が低減されることで、マテリアルバランスが崩れなくなるため、本発明で得た熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の寸法安定性の向上が期待できる。」(本願明細書の段落【0007】)との効果は、当業者が予測し得たといえ、格別な効果が奏されるとは認められない。

(5) 小括

よって、本願補正発明1及び2は、引用発明及び引用文献3に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ

以上のとおり、本願補正発明1及び2は特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、前記第2_補正の却下の決定の[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成26年7月24日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願発明1及び2を、請求項2を請求項1を引用しない形式で表記すると以下のとおりのものと認める。

本願発明1
「粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であることを特徴とする粉体原料供給装置。」

本願発明2
「粉体原料を溶融混練装置に供給する装置であって混錬する粉体原料を溶融混練装置の原料供給口に誘導するための傾斜を有するホッパ1と原料供給機から投入される原料をホッパに誘導するシュータ2と原料と共に流入したエアを系外に排出する排気口3を具備し、かつ、シュータ2の最下端から鉛直方向に伸びる垂線とホッパ1の接する点までの距離が0?150mm、シュータ2と鉛直方向に伸びる垂線と成す角αが20?35°であり、ホッパ壁面の水平に対する角βが35?75°であることを特徴とする粉体原料供給装置。」

2 原査定の理由

原査定の理由は、要するに、本願発明1及び2は、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献3に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用発明

引用発明は、上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断

本願発明1及び2は、本願補正発明1及び2との比較において、本願補正発明1及び2の「平均粒子径が10μm以上1mm以下の粉体原料」を、その平均粒子径の特定をしない「粉体原料」と特定するものである(上記第2_1参照)。すなわち、本願補正発明1は、本願発明1の構成を包含するものであり、本願補正発明2は、本願発明2の構成を包含するものであるといえる。

そして、本願発明1の特定事項をすべて含む本願補正発明1及び本願発明2の特定事項をすべて含む本願補正発明2が、上述のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明1及び2も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明1及び2は、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断される。

そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2017-03-23 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-10 
出願番号 特願2010-221321(P2010-221321)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟野 正明阿川 寛樹  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
藤原 浩子
発明の名称 粉体原料供給装置及び熱可塑性樹脂組成物の製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ