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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1328928
審判番号 不服2016-13964  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2017-06-27 
事件の表示 特願2012- 81713「レプリケーション装置、レプリケーション方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-210919、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日の出願であって、平成27年11月11日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年1月14日付けで手続補正がされ、平成28年6月16日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年9月16日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年6月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は、以下の引用文献1-6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-064178号公報
2.特開昭62-285148号公報
3.特開2007-079728号公報(周知技術を示す文献)
4.上田高徳、平手勇宇、山名早人、アクセスパターンマイニングによるOSレベルでの動的なI/O最適化、情報処理学会研究報告、情報処理学会、2008年9月14日、Vol.2008、No.88、pp.73-78(周知技術を示す文献)
5.特開平08-339341号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2004-013367号公報

第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成28年9月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナルブロックを受信するレプリケーション情報受信手段と、
前記ジャーナルブロックを、受信した順に一定数格納する格納領域を含むジャーナルボリュームと、
前記格納領域から前記ジャーナルブロックを順に読出し、読出した前記ジャーナルブロックに基づいて複製ボリュームを更新するロールフォワードを実行するロールフォワード手段とを有し、
前記格納領域は、格納済みの前記ジャーナルブロックが前記一定数を超えた場合、格納済みの前記ジャーナルブロックが、古いものから順に、新たな前記ジャーナルブロックによって上書きされる循環構造であり、
前記ジャーナルブロックはそれぞれ、前記循環構造において前記上書きが一巡した回数を示す循環回数を含んでおり、
前記ロールフォワード手段は、前記格納された前記ジャーナルブロックを読出した際、前記循環回数に基づいて最新の前記ジャーナルブロックを判別し、前記最新の前記ジャーナルブロックを以て前記ロールフォワードを停止し、
前記ジャーナルボリュームに前記ジャーナルブロックが格納される際、前記ジャーナルブロックに対する排他制御を行う排他手段をさらに有し、
前記ロールフォワード手段は、前記ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に前記排他制御を実行する前記ジャーナルブロックの数を変化させる
レプリケーション装置。
【請求項2】・・・(中略)・・・レプリケーション装置。
【請求項3】・・・(中略)・・・レプリケーション装置。
【請求項4】・・・(中略)・・・レプリケーション方法。
【請求項5】・・・(中略)・・・レプリケーション方法。
【請求項6】・・・(中略)・・・プログラム。」

本願発明2-3は、概略、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明4-5は、本願発明1-2に対応する「方法」の発明であり、本願発明6は、本願発明1に対応する「プログラム」の発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審付与。)。

ア 段落【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレージ装置及びこれを用いたストレージデータの管理方法に関し、特に、データ暗号化/復号化機能を備えたストレージ装置間におけるジャーナルを利用したストレージデータのリモートコピー技術に関する。」

イ 段落【0003】
「【0003】
また、データのバックアップ/リストアの高速化を図る技術として、「ジャーナリング」が知られている。ジャーナリングは、データの書き込み要求(命令)があると、書き込まれるデータ及びその時刻等のメタデータをジャーナル(更新ログ)として保存するものである。一般に、ジャーナルを保存するための論理ボリュームは、ジャーナルボリュームと呼ばれている。」

ウ 段落【0024】
【0024】
ストレージ装置4a及び4bの内部構成は、基本的に同じであるが、運用上、異なる役割が割り当てられる。すなわち、ストレージ装置4aは、通常の運用時に稼働する主系のストレージ装置であり、ストレージ装置4bは、障害や保守作業の発生によるストレージ装置4aの停止に備えて待機する副系のストレージ装置4bである。従って、主系ストレージ装置4a及び副系ストレージ装置4b内の一対のボリューム上のデータは、後述するリモートコピー(ミラーリング)によって、その同一性が維持される。

エ 段落【0058】-【0061】
「【0058】
図5は、本発明の一実施形態に係るストレージ装置4におけるジャーナルボリュームに対する更新ログ先頭ポインタ及び更新ログ末尾ポインタの関係を説明する図である。
【0059】
すなわち、同図(A)に示すように、更新ログ先頭ポインタは、ジャーナルボリュームに格納された更新ログのうち、未転送更新ログが格納された記憶領域の先頭アドレスを示す。また、更新ログ末尾ポインタは、ジャーナルボリュームに格納された更新ログのうち、未転送更新ログが格納された記憶領域の末尾アドレスの次のアドレスを示す。
【0060】
また、ジャーナルボリュームに未転送ログがない場合は、同図(B)に示すように、更新ログ先頭ポインタ及び更新ログ末尾ポインタのそれぞれが示すアドレスは一致する。従って、更新ログ先頭ポインタと更新ログ末尾ポインタとを比較することによって、ジャーナルボリューム上に未転送ログが存在するか否かを判断することができる。
【0061】
更新ログは、書き込み要求があるごとに作成され、ジャーナルボリュームの先頭記憶領域から、更新ログ末尾ポインタに従って、順番に格納される。更新ログ末尾ポインタがジャーナルボリュームの記憶領域の最終アドレスまで到達した場合、更新ログ末尾ポインタは、再び、記憶領域の先頭アドレスに戻る。」


オ 段落【0114】-【0118】
「【0114】
図14は、本発明の一実施形態に係るストレージシステムにおけるリモートコピーを説明するためのフローチャートである。具体的には、同図は、ストレージ装置4bがストレージ装置4aにリモートコピー要求を送出した場合のストレージ装置4bにおける動作を説明している。
【0115】
すなわち、同図に示すように、ストレージ装置4bのコントローラ42(これを「コントローラ42b」と呼ぶことにする。)は、更新ログ読み出しコマンドをストレージ装置4aに送信する(STEP1401)。コントローラ42aは、ストレージ装置4aから送信される更新ログ読み出しコマンドに対する応答を受信し(STEP1402)、当該応答が更新ログであるか否かを判断する(STEP1403)。
【0116】
コントローラ42bは、当該応答が更新ログでない、すなわち、当該応答が未転送更新ログがない旨である、と判断する場合(STEP1403のNo)、そのまま処理を終了する。これに対して、当該応答が更新ログである場合(STEP1403のYes)、コントローラ42bは、ジャーナルボリューム管理テーブルT200を参照し、当該応答に含まれるグループ識別子で特定される対応するエントリの格納先ジャーナルボリューム欄T201からボリューム識別子を、更新ログ末尾ポインタ欄T203から更新ログ末尾ポインタをそれぞれ取得する(STEP1404)。つまり、コントローラ42bは、転送されてきた更新ログを格納すべき、ジャーナルボリューム及び当該ジャーナルボリュームにおける領域の先頭アドレスを特定する。次に、コントローラ42bは、暗号管理テーブルT300を参照し、作成された更新ログを格納すべきジャーナルボリュームの暗号化状態が「ON」であるか否かを判断する(STEP1405)。

・・・(中略)・・・

【0118】
コントローラ42bは、当該更新ログを格納すべきジャーナルボリュームの暗号化状態が「ON」でないと判断する場合(STEP1405のNo)、当該更新ログを、そのままの形で(暗号化せずに)、当該ジャーナルボリュームに格納し(STEP1408)、ジャーナルボリューム管理テーブルT200の対応するエントリにおける更新ログ末尾ポインタ欄T203を更新する(STEP1409)。」

カ 段落【0119】-【0124】
「【0119】
図15及び図16は、本発明の一実施形態に係るストレージシステムにおけるリモートコピー処理を説明するためのフローチャートである。具体的には、同図は、ストレージ装置4bが、ストレージ装置4aから受信した更新ログに基づいて、データボリュームの複製を作成する処理(リストア処理)を説明する。
【0120】
コントローラ42bは、ジャーナルボリューム管理テーブルT200を参照し、更新ログ読み出し元ジャーナルボリューム欄T204に登録されたボリューム識別子及び更新ログ先頭ポインタ欄T205に登録された更新ログ先頭ポインタを抽出し(STEP1501)、抽出したボリューム識別子及び更新ログ先頭ポインタで示される領域から更新ログを読み出す(STEP1502)。
【0121】
コントローラ42bは、次に、暗号管理テーブルT300を参照し、当該読み出し元ジャーナルボリュームの暗号状態が「ON」であるか否かを判断する(STEP1503)。コントローラ42bは、当該読み出し元ジャーナルボリュームの暗号化状態が「ON」であると判断する場合(STEP1503のYes)、暗号管理テーブルT300を参照し、当該読み出し元ジャーナルボリュームに割り当てられている暗号鍵を取得する(STEP1504)。続いて、コントローラ42bは、取得した暗号鍵を使用して、所定の復号アルゴリズムに従って、読み出した更新ログを復号化し(STEP1505)、復号化した更新ログからデータ(元の書き込みデータ)を取得する(STEP1506)。当該読み出し元ジャーナルボリュームの暗号化状態が「ON」でないと判断する場合(STEP1503のNo)、コントローラ42bは、読み出した更新ログから、直接、書き込みデータを取得する(STEP1506)。
【0122】
コントローラ42bは、更新ログに含まれるメタデータに基づいて、ペア管理テーブルT100の対応するエントリにおける複製先データボリューム識別子欄T102に登録されたボリューム識別子を抽出し、さらに、暗号管理テーブルT300を参照し、当該ボリューム識別子で特定される複製先データボリュームの暗号化状態が「ON」であるか否かを判断する(STEP1507)。
【0123】
複製先データボリュームの暗号化状態が「ON」であると判断される場合(STEP1507のYes)、コントローラ42bは、暗号管理テーブルT300から当該データボリュームに対する暗号鍵を取得する(STEP1508)。続いて、コントローラ42bは、取得した暗号鍵を使用して、所定の暗号化アルゴリズムに従って、当該書き込みコマンドに従うデータを暗号化し(STEP1509)、暗号化したデータを当該データボリュームに格納する(STEP1510)。これに対して、複製先データボリュームが暗号化されていないと判断される場合(STEP1507のNo)、コントローラ42bは、当該書き込みコマンドに従うデータを、そのままの形で(暗号化せずに)、当該データボリュームに格納する(STEP1510)。
【0124】
次に、コントローラ42bは、格納した更新ログのデータサイズに従って、ジャーナルボリューム管理テーブルT200の対応するエントリにおける更新ログ先頭ポインタ欄T205の更新ログ先頭ポインタを更新する(図16のSTEP1601)。コントローラ42bは、さらに、暗号鍵更新管理テーブルT400を参照し、当該ジャーナルボリュームの暗号鍵更新状態が「ON」であるか否かを判断する(STEP1602)。」

そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

なお、引用文献1の上記「エ」(段落【0058】-【0061】)の摘記箇所は、「主系のストレージ装置4a」、「副系のストレージ装置4b」何れかであるかを特定しない、「ストレージ装置4における」更新ログ先頭ポインタ及び更新ログ末尾ポインタの関係の説明である。しかし、「ストレージ装置4a及び4bの内部構成は、基本的に同じである」から、これを「副系のストレージ装置4b」におけるポインタ処理の記載とみなして、引用発明を認定した。

「ストレージ装置間におけるジャーナルを利用したストレージデータのリモートコピー技術において、
ここで、ジャーナリングは、データの書き込み要求(命令)があると、書き込まれるデータ及びその時刻等のメタデータをジャーナル(更新ログ)として保存するものであり、
ストレージ装置4a及び4bの内部構成は、基本的に同じであるが、運用上、異なる役割が割り当てられ、すなわち、ストレージ装置4aは、通常の運用時に稼働する主系のストレージ装置であり、ストレージ装置4bは、障害や保守作業の発生によるストレージ装置4aの停止に備えて待機する副系のストレージ装置4bであり、主系ストレージ装置4a及び副系ストレージ装置4b内の一対のボリューム上のデータは、リモートコピー(ミラーリング)によって、その同一性が維持され、

更新ログ先頭ポインタは、ジャーナルボリュームに格納された更新ログのうち、未転送更新ログが格納された記憶領域の先頭アドレスを示し、
更新ログ末尾ポインタは、ジャーナルボリュームに格納された更新ログのうち、未転送更新ログが格納された記憶領域の末尾アドレスの次のアドレスを示し、
ジャーナルボリュームに未転送ログがない場合は、更新ログ先頭ポインタ及び更新ログ末尾ポインタのそれぞれが示すアドレスは一致するのでこれに従って、更新ログ先頭ポインタと更新ログ末尾ポインタとを比較することによって、ジャーナルボリューム上に未転送ログが存在するか否かを判断することができ、
更新ログは、書き込み要求があるごとに作成され、ジャーナルボリュームの先頭記憶領域から、更新ログ末尾ポインタに従って、順番に格納され、更新ログ末尾ポインタがジャーナルボリュームの記憶領域の最終アドレスまで到達した場合、更新ログ末尾ポインタは、再び、記憶領域の先頭アドレスに戻り、

ストレージ装置4bがストレージ装置4aにリモートコピー要求を送出した場合、
ストレージ装置4bのコントローラ42bは、ストレージ装置4aから送信される更新ログ読み出しコマンドに対する応答を受信し(STEP1402)、
当該応答が更新ログである場合(STEP1403のYes)、コントローラ42bは、転送されてきた更新ログを格納すべき、ジャーナルボリューム及び当該ジャーナルボリュームにおける領域の先頭アドレスを特定し、
当該更新ログを、そのままの形で(暗号化せずに)、当該ジャーナルボリュームに格納し(STEP1408)、
ジャーナルボリューム管理テーブルT200の対応するエントリにおける更新ログ末尾ポインタ欄T203を更新する(STEP1409)ものであり、

ストレージ装置4bが、ストレージ装置4aから受信した更新ログに基づいて、データボリュームの複製を作成する処理(リストア処理)において、
コントローラ42bは、ジャーナルボリューム管理テーブルT200を参照し、更新ログ読み出し元ジャーナルボリューム欄T204に登録されたボリューム識別子及び更新ログ先頭ポインタ欄T205に登録された更新ログ先頭ポインタを抽出し(STEP1501)、
抽出したボリューム識別子及び更新ログ先頭ポインタで示される領域から更新ログを読み出し(STEP1502)、
コントローラ42bは、読み出した更新ログから、直接、書き込みデータを取得し(STEP1506)、
コントローラ42bは、更新ログに含まれるメタデータに基づいて、ペア管理テーブルT100の対応するエントリにおける複製先データボリューム識別子欄T102に登録されたボリューム識別子を抽出し、
コントローラ42bは、当該書き込みコマンドに従うデータを、そのままの形で(暗号化せずに)、当該データボリュームに格納し(STEP1510)、
コントローラ42bは、格納した更新ログのデータサイズに従って、ジャーナルボリューム管理テーブルT200の対応するエントリにおける更新ログ先頭ポインタ欄T205の更新ログ先頭ポインタを更新する(図16のSTEP1601)、
副系のストレージ装置4b。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の1頁右下欄6-8行、2頁左上欄11行-右上欄3行、2頁左下欄4-7行、3頁左上欄最下行-左下欄3行、4頁左上欄3-9行、第3図の記載からみて、当該引用文献2には、端末入出力メッセージを格納するファイルにおけるメッセージログの管理方法として、ファイルの先頭からレコードを書き込み循環して格納し、レコードが何回書き変えられて使用されているかを表す「書き込み回数」を利用して、「書き込み回数」が変化する前の位置のレコードを最新のレコードであると判定するという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3、4について
原査定の拒絶の理由において「周知技術を示す文献」として引用された、上記引用文献3(段落【0069】、図5の記載を参照。)、上記引用文献4(75頁「3.1.アクセスログの記録構造」、図3の記載を参照。)から、「リングバッファ」において、読み出しと書き込みの衝突に対処するために「排他制御」を行うことは周知技術であるといえる。

4.引用文献5について
原査定の拒絶の理由において「周知技術を示す文献」として引用された、上記引用文献5(要約、【請求項1】、段落【0001】、【0011】-【0015】、【0022】-【0025】の記載を参照。)から、主記憶が、例えば4KB、16KBのように、異なるサイズのページから構成されている場合に、外部記憶装置とのデータ入出力にバッファ領域を割り当てる際、例えば「ディスクアレイ装置111」のように、データ転送速度が大きいディスク記憶装置から要求されたバッファには、相対的に大きなサイズ(例えば16KB)のページを優先して使用し、例えば「ディスク記憶装置20」のように、データ転送速度が小さなディスク記憶装置から要求されたバッファには、より小さなサイズ(例えば4KB)のページを優先して使用することが公知であるといえる。

5.引用文献6について
原査定の拒絶の理由において、補正前の請求項5(補正後の請求項3)に対してのみ引用された上記引用文献6には、要約、段落【0023】の記載を参照すると、データ記憶サブシステム間のリモートコピーにおいて、コピー元からの送信順序が保証されず任意であっても、リモート側で一旦受信し格納した上で、対応する情報がそろったところから、リモート側の更新処理を行う技術思想が記載されているといえる。

第5 対比・判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「ジャーナル(更新ログ)」とは、(主系ストレージ装置4aへの)「データの書き込み要求(命令)があると、書き込まれるデータ及びその時刻等のメタデータをジャーナル(更新ログ)として保存するもの」であって、引用発明の「ストレージ装置間におけるジャーナルを利用したストレージデータのリモートコピー技術において」、「主系ストレージ装置4a及び副系ストレージ装置4b内の一対のボリューム上のデータは、リモートコピー(ミラーリング)によって、その同一性が維持され」ているから、引用発明の「ジャーナル(更新ログ)」は、本願発明1の「複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナルブロック」と、「複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナル情報」である点で共通するといえる。
よって、「ストレージ装置4aから送信される更新ログ読み出しコマンドに対する応答を受信し(STEP1402)、当該応答が更新ログである場合(STEP1403のYes)、コントローラ42bは、転送されてきた更新ログを格納」する、引用発明の「コントローラ42b」は、本願発明1の「複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナルブロックを受信するレプリケーション情報受信手段」と、「複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナル情報を受信するレプリケーション情報受信手段」である点で共通するといえる。

イ 引用発明の「副系のストレージ装置4b」内の「ジャーナルボリューム」は、「更新ログは、書き込み要求があるごとに作成され、ジャーナルボリュームの先頭記憶領域から、更新ログ末尾ポインタに従って、順番に格納され」るものであるから、本願発明1の「前記ジャーナルブロックを、受信した順に一定数格納する格納領域を含むジャーナルボリューム」と、「前記ジャーナル情報を、受信した順に一定数格納する格納領域を含むジャーナルボリューム」である点で共通するといえる。

ウ 引用発明の「ストレージ装置4bが、ストレージ装置4aから受信した更新ログに基づいて、データボリュームの複製を作成する処理(リストア処理)」は、本願発明1の「ロールフォワード」処理に相当する。
よって、「抽出したボリューム識別子及び更新ログ先頭ポインタで示される領域から更新ログを読み出し(STEP1502)、コントローラ42bは、読み出した更新ログから、直接、書き込みデータを取得し(STEP1506)、・・・(中略)・・・コントローラ42bは、当該書き込みコマンドに従うデータを、そのままの形で(暗号化せずに)、当該データボリュームに格納し(STEP1510)」ている、引用発明の「コントローラ42b」は、本願発明1の「前記格納領域から前記ジャーナルブロックを順に読出し、読出した前記ジャーナルブロックに基づいて複製ボリュームを更新するロールフォワードを実行するロールフォワード手段」にも、「前記格納領域から前記ジャーナル情報を順に読出し、読出した前記ジャーナル情報に基づいて複製ボリュームを更新するロールフォワードを実行するロールフォワード手段」である点で共通するといえる。

エ 引用発明において「更新ログは、書き込み要求があるごとに作成され、ジャーナルボリュームの先頭記憶領域から、更新ログ末尾ポインタに従って、順番に格納され、更新ログ末尾ポインタがジャーナルボリュームの記憶領域の最終アドレスまで到達した場合、更新ログ末尾ポインタは、再び、記憶領域の先頭アドレスに戻」ることは、本願発明1の「前記格納領域は、格納済みの前記ジャーナルブロックが前記一定数を超えた場合、格納済みの前記ジャーナルブロックが、古いものから順に、新たな前記ジャーナルブロックによって上書きされる循環構造であ」ることと、「前記格納領域は、格納済みの前記ジャーナル情報が前記一定数を超えた場合、格納済みの前記ジャーナル情報が、古いものから順に、新たな前記ジャーナル情報によって上書きされる循環構造であ」る点で共通するといえる。

オ 引用発明の「更新ログ先頭ポインタで示される領域」からの更新ログの読み出し(STEP1502)において、「更新ログ先頭ポインタで示される領域」からの更新ログの読み出しをどこで停止するかは特定がなされていない。しかし、「ジャーナルボリュームに未転送ログがない場合は、更新ログ先頭ポインタ及び更新ログ末尾ポインタのそれぞれが示すアドレスは一致するのでこれに従って、更新ログ先頭ポインタと更新ログ末尾ポインタとを比較することによって、ジャーナルボリューム上に未転送ログが存在するか否かを判断」して、更新ログの読み出しを停止すべきこと、すなわち、未転送の更新ログがなくなったら読み出しを停止すべきことは当業者に明らかであって、さらに、更新ログの読み出しを停止すれば、その結果、データボリュームの複製も停止されることが明らかであるから、引用発明の「更新ログ先頭ポインタで示される領域」からの更新ログの読み出し(STEP1502)は、本願発明1の「前記ロールフォワード手段は、前記格納された前記ジャーナルブロックを読出した際、前記循環回数に基づいて最新の前記ジャーナルブロックを判別し、前記最新の前記ジャーナルブロックを以て前記ロールフォワードを停止し」ていることと、「前記ロールフォワード手段は、前記格納された前記ジャーナル情報を読出した際、最新の前記ジャーナル情報を判別し、前記最新の前記ジャーナル情報を以て前記ロールフォワードを停止し」ていることで共通する構成を備えているといえる。

カ 引用発明の「副系のストレージ装置4b」は、本願発明1の「レプリケーション装置」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりであるといえる。

[一致点]
「複製元ボリュームの更新情報を含むジャーナル情報を受信するレプリケーション情報受信手段と、
前記ジャーナル情報を、受信した順に一定数格納する格納領域を含むジャーナルボリュームと、
前記格納領域から前記ジャーナル情報を順に読出し、読出した前記ジャーナル情報に基づいて複製ボリュームを更新するロールフォワードを実行するロールフォワード手段とを有し、
前記格納領域は、格納済みの前記ジャーナル情報が前記一定数を超えた場合、格納済みの前記ジャーナル情報が、古いものから順に、新たな前記ジャーナル情報によって上書きされる循環構造であり、
前記ロールフォワード手段は、前記格納された前記ジャーナル情報を読出した際、最新の前記ジャーナル情報を判別し、前記最新の前記ジャーナル情報を以て前記ロールフォワードを停止する、
レプリケーション装置。」

[相違点1]
ロールフォワード処理について、本願発明1は、「前記ジャーナルブロックはそれぞれ、前記循環構造において前記上書きが一巡した回数を示す循環回数を含んでおり」、前記ロールフォワード手段は、前記格納された前記ジャーナルブロックを読出した際、「前記循環回数に基づいて」最新の前記ジャーナルブロックを判別し、前記最新の前記ジャーナルブロックを以て前記ロールフォワードを停止しているのに対して、引用発明は、要するに、次に読み出すべき位置を示す「更新ログ先頭ポインタ」が、「更新ログ末尾ポインタ」を追い越さないように、2つのポインタに基づいて読み出しを制御するというものであって、「巡回回数」に基づくロールフォワード処理はしていない点。

[相違点2]
排他制御について、本願発明1では、「前記ジャーナルボリュームに前記ジャーナルブロックが格納される際、前記ジャーナルブロックに対する排他制御を行う排他手段をさらに有し」ているのに対して、引用発明の「コントローラ42b」は、ジャーナル情報が格納される際に排他制御を行う「排他手段」を有していない点。

[相違点3]
排他制御を実行するジャーナルブロックの数について、本願発明1では、「前記ロールフォワード手段は、前記ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に前記排他制御を実行する前記ジャーナルブロックの数を変化させる」のに対して、引用発明の「コントローラ42b」は、「ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に排他制御を実行するジャーナルブロックの数を変化させる」構成を有していない点。

[相違点4]
ジャーナル情報の受信や格納、読出しについて、本願発明1では、「ジャーナルブロック」を単位として行うのに対して、引用発明では、「ジャーナル(更新ログ)」単位で行うものであって、「ジャーナルブロック」を単位として行う構成を有していない点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。
相違点3に係る本願発明1のうちの「排他制御を実行する」という構成については、上記「第4」3.の引用文献3,4に記載されているとおり、読み出しと書き込みの衝突に対処するために「排他制御」を行う点は周知技術であったといえる。
また、相違点3に係る本願発明1の「ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に排他制御を実行するジャーナルブロックの数を変化させる」構成に関連して、上記「第4」4.の引用文献5に記載されているとおり、主記憶が、異なるサイズのページから構成されている場合に、データ転送速度の大小に応じて、バッファの「ページのサイズ」を変化させる点は公知技術であったといえる。
しかしながら、読み出しと書き込みの「排他制御」を行う点が周知技術であって、さらに、データ転送速度の大小に応じて、バッファの「ページのサイズ」を変化する公知技術も仮に周知であったとしても、上記相違点3に係る「ロールフォワード手段は、ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に排他制御を実行する前記ジャーナルブロックの数を変化させる」ことについては、いずれの引用文献にも記載も示唆もなく、周知技術であるとも認められない。
したがって、上記相違点1-2、4について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2、5-6に記載された技術的事項及び上記引用文献3-4記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-3も、本願発明1の「前記ロールフォワード手段は、前記ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に前記排他制御を実行する前記ジャーナルブロックの数を変化させる」と同一の構成を備えるものである。
また、本願発明4-6も、「前記ロールフォワードステップにおいては、前記ジャーナルブロックの受信速度に応じ、一度に前記排他制御を実行する前記ジャーナルブロックの数を変化させる」という、上記構成と実質的に同一の構成を備えるものである。
よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-6も、当業者であっても、引用発明、引用文献2、5-6に記載された技術的事項及び上記引用文献3-4記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-6は、当業者が引用発明、引用文献2、5-6に記載された技術的事項及び上記引用文献3-4記載の周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-12 
出願番号 特願2012-81713(P2012-81713)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 哲雄漆原 孝治  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 稲葉 和生
土谷 慎吾
発明の名称 レプリケーション装置、レプリケーション方法及びプログラム  
代理人 家入 健  

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