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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1328994
審判番号 不服2016-5806  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-19 
確定日 2017-06-08 
事件の表示 特願2015-103052「位相シフトマスク」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-194758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年8月21日(優先権主張 平成25年8月21日及び平成26年3月28日)に出願した特願2014-168321号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年5月20日に新たな特許出願としたものである。
その後、平成27年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月2日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成28年1月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされた。
これに対し、平成28年4月19日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされ、当審にて平成29年1月11日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成29年3月21日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものと認められるところ、審判請求と同時になされた手続補正の請求項1における「ArFエキシマレーザ露光光が適用される」を「ArFエキシマレーザ露光光にて、ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するための、」に補正したものである請求項9に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「ArFエキシマレーザ露光光にて、ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するための、ハーフトーン型の位相シフトマスクであって、
透明基板と、前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜パターン、またはSi、N、およびOのみからなる光半透過膜パターンと、を有し、
前記光半透過膜パターンは、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?67nmの範囲内であり、
前記位相シフトマスクは、実際に解像される部分であるメインパターンと、前記メインパターンの近接に配置される実際には解像されない補助パターンとを有し、
前記補助パターンが、凸状のパターンであり、60nm以下の幅または奥行を有するものであることを特徴とする位相シフトマスク。」

3 刊行物の記載及び引用発明
(1)引用文献1
当審拒絶理由に引用した、原出願の最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2003-322955号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体等のパターン転写に用いるためのリソグラフィーマスク及びその素材となるリソグラフィーマスクブランク並びにその製造方法に関し、特に位相シフターによる光の干渉作用を利用して転写パターンの解像度を向上できるようにしたハーフトーン型の位相シフトマスクの素材となるハーフトーン型位相シフトマスクブランクに関する。」

イ 「【0003】そのような問題に対処するため、位相シフト法が用いられるようになった。位相シフト法では、微細パターンを転写するためのマスクとして位相シフトマスクが使用される。位相シフトマスクは、例えば、マスク上のパターン部分を形成する位相シフター部と、位相シフター部の存在しない非パターン部からなり、両者を透過してくる光の位相を180°ずらすことで、パターン境界部分において光の相互干渉を起こさせることにより、転写像のコントラストを向上させる。位相シフター部を通る光の位相シフト量φ(rad)は位相シフター部の複素屈折率実部nと膜厚dに依存し、下記数式(1)の関係が成り立つことが知られている。
φ=2πd(n-1)/λ …(1)
ここでλは露光光の波長である。したがって、位相を180°ずらすためには、膜厚dを
d=λ/{2(n-1)} …(2)
とすればよい。この位相シフトマスクにより、必要な解像度を得るための焦点深度の増大が達成され、露光波長を変えずに解像度の改善とプロセスの適用性を同時に向上させることが可能となる。」

ウ 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のリソグラフィーマスクブランクの製造方法においては、Siターゲットの比抵抗を0.1Ω・cm以下にする事で、パーティクル発生の原因となるアーク放電の抑制や、成膜速度向上といった効果が得られるというものである。DC放電可能なSiターゲットの比抵抗は5Ω・cm以下であるが、酸素、アーク放電の発生回数を測定した結果、Siターゲットの比抵抗を0.1Ω・cm以下にするとアーク放電発生回数が減少することがわかった。また、Siターゲットの比抵抗が小さくなるほど、同じDC投入電力における成膜速度が大きくなった。Siターゲットに投入できる電力は冷却性能やバッキングプレートの強度、ボンディング材(通常はIn)の融点により制限されるため、Siターゲットの比抵抗を下げることは、生産性の向上において有効である。Siターゲットに、導電性を付与するには、SiターゲットにB、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素を含有することにより可能となり、ドープされる元素の濃度を調整することにより所望の比抵抗を有する導電性を付与することができる。Siターゲットの比抵抗とドープする原子の濃度には、おおむね式1、式2のような関係がある。
ρN=5×10^(15)/原子濃度 (式1)
式1において、ρN:N型のドープ物質(P,As,Sb)をドープする場合のシリコンターゲットの比抵抗、原子濃度:1ccのSiに含まれるドープ物質の原子数、である。
ρP=1.3×10^(16)/原子濃度 (式2)
式2において、ρP:P型のドープ物質(B)をドープする場合のシリコンターゲットの比抵抗、原子濃度=1ccのSiに含まれるドープ物質の原子数である。なお、スパッタされるSiターゲットは多結晶であっても単結晶であってもかまわない。また、本発明において用いられるスパッタリングガスとしては、Ar、Xe等の不活性ガスを用いることができる。本発明において、シリコンを含有する薄膜は、例えばフォトマスクブランクにおける遮光膜、反射防止膜、位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜等、EUV(Extreme Ultra Violet)マスクブランク上の薄膜等、リソグラフィーマスクブランクにおけるあらゆる薄膜を指すものである。そして、このリソグラフィーマスクブランクにおける所望の薄膜を所望のパターンにパターニングすることによってリソグラフィーマスクを得ることができる。・・・
【0011】特に、近年における露光波長の短波長化(特に、特に140nm?200nmの露光波長領域)に対応し、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおける光半透過膜として、SiO_(X)N_(Y)単層膜、又はSiO_(X)N_(Y)膜と、該SiO_(X)N_(Y)膜と基板との間のエッチングストッパー膜との2層構造からなるものが本発明者により提案されており(特願2001-261025)、このSiO_(X)N_(Y)の形成において、本発明を用いることができる。この場合のSiO_(X)N_(Y)膜としては、複素屈折率実部nについてはn≧1.7の範囲に、そして複素屈折率虚部kについてはk≦0.450の範囲に調整、制御することが好ましい。そうすることで、露光光の単波長化に伴なうハーフトーン型位相シフトマスクとしての光学特性を満たすのに有利である。なお、F_(2)エキシマレーザ用では、k≦0.40の範囲が好ましく、0.07≦k≦0.35の範囲がさらに好ましい。ArFエキシマレーザ用では、0.10≦k≦0.45の範囲が好ましい。また、F_(2)エキシマレーザ用では、n≧2.0の範囲が好ましく、n≧2.2の範囲がさらに好ましい。ArFエキシマレーザ用では、n≧2.0の範囲が好ましく、n≧2.5の範囲がさらに好ましい。上記光学特性を得るため、前記構成元素の組成範囲を、珪素については35?45原子%、酸素については1?60原子%、窒素については5?60原子%とすることが好ましい。すなわち、珪素が45%より多い、あるいは窒素が60%より多いと、膜の光透過率が不十分となり、逆に窒素が5%未満、あるいは酸素が60%を超えると、膜の光透過率が高すぎるため、ハーフトーン型位相シフター膜としての機能が失われる。また珪素が35%未満、あるいは窒素が60%を上回ると膜の構造が物理的、化学的に非常に不安定となる。なお、上記と同様の観点から、F_(2)エキシマレーザ用では、前記構成元素の組成範囲を、珪素については35?40原子%、酸素については25?60原子%、窒素については5?35原子%とすることが好ましい。同様にArFエキシマレーザ用では、前記構成元素の組成範囲を、珪素については38?45原子%、酸素については1?40原子%、窒素については30?60原子%とすることが好ましい。尚、上記組成の他に、微量の不純物(金属、炭素、フッ素等)を含んでも良い。・・・
【0013】また、上記したハーフトーン型位相シフトマスクブランクの例において、考えられるエッチングストッパーとしては、クロム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム等の一種又は二種以上の合金からなる金属膜、又はこれらの金属又は合金の酸化物、窒化物、酸窒化物、シリサイド等を用いたものが好ましい。このようなハーフトーン型位相シフトマスクを用いる際の露光光としては、特に140nm?200nmの露光波長領域、具体的には、F_(2)エキシマレーザの波長である157nm付近、及びArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いることができる。ハーフトーン位相シフター部を高透過率に設定(透過率8?30%)した高透過率品も作製することができる。尚、ハーフトーン位相シフター膜の位相シフト量は、理想的には180°であるが、実用上は180°±5°の範囲に入ればよい。また、透過率は、露光光の透過率は、3?20%、好ましくは6?20%、露光光反射率は30%以下、好ましくは20%以下とすることがパターン転写上好ましい。また、検査光透過率は40%以下とすることがマスクの透過光と用いた欠陥検査を行う上で好ましく、検査光透過率を60%以下及び検査光反射率を12%以上とすることにより、マスクの透過光と反射光を用いた欠陥検査を行う上で好ましい。また、本発明における透明基板としては、合成石英基板等を用いることができ、特にF_(2)エキシマレーザを露光光として用いる場合は、Fドープ合成石英基板、フッ化カルシウム基板等を用いることができる。
【0014】
【実施例】以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)本実施例では、図1の様なDCスパッタリング装置を用い、薄膜形成を行った。スパッタリングカソード1にはSiターゲットを装着した。Siターゲットには導電性を持たすため、微量のボロンをドープした。ターゲットの電気抵抗は7×10^(-4)Ω・cmであり、ボロン濃度約2×10^(20)(atms/cc)に相当する。次に、真空チャンバー内を2×10^(-5)Pa以下まで排気した後、基板ホルダーに石英基板を装着する。ArとN_(2)とO_(2)の混合ガス(Ar:N_(2):O_(2)=20:28.7:1.3)を導入し、圧力を0.13Paとした。ガス導入後にSiターゲット上のシャッターを開け、Siターゲットに負電圧を印加し、電力0.35kWにて基板上にSiON膜を作製した。」

エ 「【0019】尚、上記実施例では、SiO_(X)N_(Y)膜の形成のみを説明したが、例えば、金属等の薄膜上にSiO_(X)N_(Y)膜を形成することによって2層構造の光半透過膜を有するハーフトーン位相シフトマスクブランクを製造することができることは言うまでもない。また、SiO_(X)N_(Y)膜に関らず、例えば、シリコン薄膜、又はSiの酸化膜、窒化膜、酸窒化膜であっても、同様の効果が得られる。さらに、Siの酸化膜、窒化膜、酸窒化膜を反射防止膜として遮光膜上に形成したマスクブランクの欠陥を減少させ、生産性を向上させることもできる。」

オ 上記「ウ」「段落【0014】」には、DCスパッタリング装置を用い、石英基板上にSiON膜を作製して薄膜形成を行う点が記載されているから、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおいて、合成石英基板上に光半透過膜が形成される点が記載されているといえる。
また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおいて、上記「ウ」「段落【0011】」の光半透過膜が、上記「イ」「段落【0003】」の位相シフター部、上記「ウ」「段落【0013】」のハーフトーン位相シフター部であることは、自明のことである。
さらに、上記「イ」「段落【0003】」の式「d=λ/{2(n-1)}…(2)」に、上記「ウ」「段落【0013】」のArFエキシマレーザの波長である193nmと、上記「ウ」「段落【0011】」のArFエキシマレーザ用の複素屈折率実部nであるn=2.5を代入すると、光透過膜の膜厚d=64.3nmが求められる。
そして、上記「ウ」「段落【0011】」のArFエキシマレーザ用の複素屈折率実部nは、n≧2.5の範囲がさらに好ましいのであるから、光透過膜の膜厚dは64.3nm以下であるといえる。

カ 上記アないしオより、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いるハーフトーン型の位相シフトマスクであって、
合成石英基板と、前記合成石英基板上に形成され、SiO_(X)N_(Y)膜からなる光半透過膜と、を備え、
前記光半透過膜は、ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率虚部kについては、0.10≦k≦0.45の範囲が好ましく、ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率実部nについては、n≧2.0の範囲が好ましく、ArFエキシマレーザの波長で透過率8?30%であり、膜厚が64.3nm以下である、ハーフトーン型位相シフトマスク。」

(2)同じく、当審拒絶理由に引用した、原出願の最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2008-256781号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0033】
なお、領域3及び領域4に形成された補助パターンは解像限界以下の寸法であって、透過率の調整には寄与するが、それ自身のパターンはレジストに形成されない。
(実施例2)
本実施例はハーフトーン位相シフト遮光体と周辺領域の透過率制御によるパターン形成に関する。
【0034】
図2Aは、本実施例のマスク(レチクル)の要部の平面図である。透明な基板15の上の領域11には主パターンとなる遮光体が配置されている。領域11の周辺に透過率が最も高い領域12が配置されている。領域12の外側に透過率が低い領域13が配置されている。この領域13の幅は、従来の棒状パターンの幅に比べて広い。更に領域13の外側に、領域12の透過率よりも低い透過率であって且つ領域13の透過率よりも高い中間的透過率を持つ領域14が配置されている。
【0035】
領域11の透過率は3%から15%程度の中から選ぶことが可能で、形成するパターンを考慮して適当な条件のものを使用する。また、領域11を透過する光の位相は領域12を通過する光の位相とほぼ半波長の差を持つように設定されている。
【0036】
図2Aに示すA-B線での断面図を図2Bに示す。基板15の領域11には遮光体からなる主パターン16が形成され、領域13及び領域14には補助パターン17が形成されている。なお、領域11の周辺の領域12には遮光体が配置されていない。領域12の外側の領域13は、解像しないが光の透過率を低減する微細なパターンよりなる。領域13のさらに外側の領域14は、実質的な透過率が領域2と領域13の中間値になるように微細なパターンが適度な大きさ、適度な間隔にて配置されている。
【0037】
図2Aのパターンを通過した光は図2Cに示す光透過率分布を有することとなる。すわなち、各領域11ないし14の透過率の関係は
領域12>領域14>領域13>領域11
となっている。
【0038】
なお、光の位相は、領域11と領域13とは第一の位相であり、領域12と領域14とは第一の位相と第二の位相とは実質的に半波長の位相差を有する第二の位相である。この場合の光強度分布は図2Dに示すようなものとなる。現像閾値の光強度は、50%程度になる適度な条件に設定されている。
【0039】
領域11と領域12の境界部では異なる位相の光が互いに振幅を弱め合うように働くため、形成されるパターンのエッジがシャープになる。また、領域13と領域14が透過光を弱めるので領域11に回り込む光の強度が小さくなる。これらの効果により領域11のパターン細りがより小さくなるように抑制される。
【0040】
本実施例の場合、図2D中に示すように光強度が50%程度になる適度な条件を設定することにより、密集パターンと孤立パターンの寸法差を抑制し、DOF(焦点深度)を大きくでき、適正露光条件範囲を広くすることができる。」

イ 図2A及びBは次のものである。


(3)同じく、当審拒絶理由に引用した、原出願の最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2002-323746号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0017】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)本発明の実施の形態1による位相シフトマスク、及びそれを用いたホールパターン形成方法について、図1から図5を用いて説明する。図1(a)は、本発明の実施の形態1による位相マスクの一例を示す上面図であり、図1(b)は、現像後のレジストパターンの上面図である。
【0018】図1(a)において、10は位相シフトマスク、11、11a、11bはホールパターンを形成するための透過率20%のマスク遮光部(本体パターン)、12は本体パターンの近傍に、解像しない寸法で形成した透過率20%のマスク遮光部(補助パターン)であり、遮光部と開口部の透過光の位相はおおよそ180度ずれている。また、図1(b)において、13はネガレジスト、14、14a、14bは露光、現像によってレジストが消失したホールパターンを示している。」

イ 図1は次のものである。


4 対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ArFエキシマレーザ」、「ハーフトーン型位相シフトマスク」、「合成石英基板」、「複素屈折率虚部k」及び「複素屈折率実部n」は、本願発明の「ArFエキシマレーザ露光光」、「ハーフトーン型の位相シフトマスク」、「透明基板」、「消衰係数」及び「屈折率」に、それぞれ相当する。

(イ)引用発明の「前記合成石英基板上に形成され、SiO_(X)N_(Y)膜からなる光半透過膜」は、本願発明の「前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜パターン、またはSi、N、およびOのみからなる光半透過膜パターン」と、「前記透明基板上に形成され、Si、N、およびOのみからなる光半透過膜パターン」の点で一致する。

(ウ)引用発明の「ArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いるハーフトーン型の位相シフトマスク」は、本願発明の「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスク」に相当する。

(エ)引用発明の「複素屈折率虚部k」は、「ArFエキシマレーザ用では」、「0.10≦k≦0.45の範囲が好まし」いことは、本願発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数」が、「0.2?0.45の範囲内であ」ることに相当する。

(オ)引用発明の「複素屈折率実部n」は、「ArFエキシマレーザ用では」、「n≧2.0の範囲が好まし」いことは、本願発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率」が、「2.3?2.7の範囲内であ」ることに相当する。(本願発明の上記「2.3?2.7」の上限値及び下限値に臨界的意義が認められないことから、相当関係にあると認定した。)

(カ)引用発明の「透過率」は、「ArFエキシマレーザの波長で」「8?30%であ」ることは、本願発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率」が、「15%?30%の範囲内であ」ることに相当する。

(キ)引用発明の「膜厚」は「64.3nm以下である」ことは、本願発明の「膜厚」が、「57nm?67nmの範囲内であること」に相当する。
(本願発明の上記「57nm?67nm」の上限値及び下限値に臨界的意義が認められないことから、相当関係にあると認定した。)

イ 一致点・相違点
上記アによれば、本願発明と引用発明とは、
「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスクであって、
透明基板と、前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜パターン、またはSi、N、およびOのみからなる光半透過膜パターンと、を有し、
前記光半透過膜パターンは、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?67nmの範囲内である位相シフトマスク。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。

<相違点1>「位相シフトマスク」が、本願発明では「実際に解像される部分であるメインパターンと、前記メインパターンの近接に配置される実際には解像されない補助パターンとを有し、前記補助パターンが、凸状のパターンであり、60nm以下の幅または奥行を有するものである」のに対して、引用発明の「位相シフトマスク」は、このように特定されない点。

<相違点2>「位相シフトマスク」が、本願発明では、ArFエキシマレーザ露光光にて、「ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するための」ものと特定されるのに対して、引用発明の「位相シフトマスク」は、このように特定されない点。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
メインパターンの近傍にメインパターンと同様の透過率等の特性を有する、凸状の非解像補助パターンを設けることは、引用文献2及び3に記載されるように周知の技術事項である(上記「2」「(2)」及び「(3)」参照)。
そして、前記非解像補助パターンの幅又は奥行の値を、使用するArFエキシマレーザ露光光の波長等に基づいて、非解像パターンとなる範囲として、適宜の値(上限値)以下と定めることは当業者が適宜設計し得ることである。
そうすると、前記非解像補助パターンの幅又は奥行の上限の値を60nmに設定することは、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記相違点2について検討する。
本願発明は「位相シフトマスク」という物の発明であるところ、相違点2は、「位相シフトマスク」が、「ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するための」という、用途を特定するものであって、「位相シフトマスク」自体の構成は、「透明基板と、前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜パターン、またはSi、N、およびOのみからなる光半透過膜パターンと、を有し、前記光半透過膜パターンは、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?67nmの範囲内であり、前記位相シフトマスクは、実際に解像される部分であるメインパターンと、前記メインパターンの近接に配置される実際には解像されない補助パターンとを有し、前記補助パターンが、凸状のパターンであり、60nm以下の幅または奥行を有するものである」と特定されるにとどまる。
したがって、本願発明の「位相シフトマスク」は、ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ポジティブトーン現像により露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するためのものであるのか、ネガ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するためのものであるのか、あるいは、「ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光して、ネガティブトーン現像により未露光部分を溶解除去することによって、レジストパターンを形成するための」ものであるのかという用途によって、物の発明としての「位相シフトマスク」の構成自体に格別の差異はない。
引用発明は、ポジ型レジスト組成物であるのか、ネガ型レジスト組成物であるのか、及び、ポジティブトーン現像であるのか、ネガティブトーン現像であるのか、についての特定はないところ、当業者の技術常識から、ポジ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光してポジティブトーン現像する、ないしは、ネガ型レジスト組成物から構成されるレジスト膜を露光してネガティブトーン現像するものであると解釈するのが相当である。
しかし、上記のとおり、用途による差異はないのであるから、「位相シフトマスク」という物の発明である本願発明と引用発明の相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-05 
結審通知日 2017-04-11 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2015-103052(P2015-103052)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤尾 隼人関口 英樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
発明の名称 位相シフトマスク  
代理人 山下 昭彦  

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