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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1329036 |
審判番号 | 不服2015-22936 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-28 |
確定日 | 2017-06-27 |
事件の表示 | 特願2011-131069「磁気共鳴イメージング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日出願公開、特開2012- 30051、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年6月13日(国内優先権主張 平成22年7月2日)の出願であって、平成26年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月30日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成28年10月3日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年12月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成29年1月11日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年3月21日付けで意見書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1ないし3、7ないし10、および15に係る発明は以下の引用文献AないしDに記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得る事であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.特開2005-288025号公報 B.特開平1-303141号公報 C.特開2006-265号公報 D.特開2005-253706号公報 第3 当審拒絶理由の概要 1 当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。 本願請求項1、3ないし9、11ないし13、15に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、本願請求項2、10ないし13に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に基づいて、本願請求項15に係る発明は、以下の引用文献1ないし4及び6または引用文献1ないし6に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2005-288025号公報(拒絶査定時の引用文献A) 2.特開平9-19411号公報(当審において新たに引用した文献) 3.特開平9-262222号公報(当審において新たに引用した文献) 4.特開2009-11476号公報(当審において新たに引用した文献) 5.特開2005-253706号公報(拒絶査定時の引用文献D) 6.特開2006-265号公報(拒絶査定時の引用文献C) 2 当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。 本願請求項1、3ないし9、11ないし13に係る発明は、以下の引用文献1及び2又は1ないし6に基づいて、請求項2、10ないし13に係る発明は、以下の引用文献1、2及び7、又は1ないし7に基づいて、請求項15に係る発明は、以下の引用文献1、2及び8、1ないし6及び8、又は1ないし8に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2010-104770号公報(当審拒絶理由2において新たに引用された文献) 2.特開2005-288025号公報(拒絶査定時の引用文献A、当審拒絶理由1の引用文献1) 3.特開平9-19411号公報(当審拒絶理由1の引用文献2) 4.特開平9-262222号公報(当審拒絶理由1の引用文献3) 5.特開2009-11476号公報(当審拒絶理由1の引用文献4) 6.特開2009-261566号公報(当審拒絶理由2において新たに引用された文献) 7.特開2005-253706号公報(拒絶査定時の引用文献D、当審拒絶理由1の引用文献5) 8.特開2006-265号公報(拒絶査定時の引用文献C、当審拒絶理由通知1の引用文献6) 第4 本願発明 本願請求項1ないし15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明15」という。)は、平成28年12月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1および2は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 傾斜磁場を撮像空間に発生させる、アクティブシールドを用いた多層構造の傾斜磁場コイルユニットと、 前記傾斜磁場コイルユニットの温度を異なるタイミングで少なくとも2回計測する温度計測部と、 前記傾斜磁場コイルユニットが有する鉄シムの透磁率の変化に伴う中心周波数の変化を追従すべく、計測された前記傾斜磁場コイルユニットの温度変化に応じて、RFパルスの中心周波数を補正するパルス設定部と、 前記パルス設定部が補正した前記RFパルスを送信し、磁気共鳴信号を前記撮像空間内の被検体から受信し、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の画像データを生成する撮像部と、を備え、 前記撮像部は、ダイナミック撮像を行うように構成され、 前記温度計測部は、前記ダイナミック撮像における各々の時相の間に前記傾斜磁場コイルユニットの温度を検出するように構成され、 前記パルス設定部は、前記ダイナミック撮像における各々の時相の間に、RFパルスの中心周波数を補正する ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。」 「【請求項2】 傾斜磁場を撮像空間に発生させる、アクティブシールドを用いた多層構造の傾斜磁場コイルユニットと、 前記傾斜磁場コイルユニットの温度を異なるタイミングで少なくとも2回計測する温度計測部と、 前記傾斜磁場コイルユニットが有する鉄シムの透磁率の変化に伴う中心周波数の変化を追従すべく、計測された前記傾斜磁場コイルユニットの温度変化に応じて、RFパルスの中心周波数を補正するパルス設定部と、 前記パルス設定部が補正した前記RFパルスを送信し、磁気共鳴信号を前記撮像空間内の被検体から受信し、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の画像データを生成する撮像部と、を備え、 前記撮像部は、拡散強調イメージングとして、1セット毎に拡散傾斜磁場パルスの方向性を変えて順次撮像を行うように構成され、 前記温度計測部は、各々のセット同士の間に前記傾斜磁場コイルユニットの温度を検出するように構成され、 前記パルス設定部は、前記拡散強調イメージングにおける各々のセットの間に、RFパルスの中心周波数を補正する ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 当審拒絶理由2に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審による)。 「【請求項1】 静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、 前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、 前記冷却装置を制御する制御部とを備え、 前記傾斜磁場コイルは、 前記傾斜磁場を発生させるメインコイルと、 前記メインコイルの外側に漏洩する磁場をキャンセルするシールドコイルとを有し、 前記制御部は、前記被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータから算出され、前記メインコイルおよび前記シールドコイルに供給される電流のパワーデューティに基づいて前記冷却装置を制御する、 磁気共鳴イメージング装置。」 「【背景技術】 ・・・ 【0004】 ここで、上記した傾斜磁場コイルには、撮像領域内の静磁場不均一を補正するための鉄シムが設けられる場合があるが、この鉄シムは、傾斜磁場コイルの温度が変動すると、その影響で透磁率が変化する。そして、鉄シムの透磁率が変化すると、撮像領域内の静磁場均一度に変化が生じ、特に、磁気共鳴の中心周波数(f0)の変化が顕著に生じる。 【0005】 中心周波数(f0)の変動は、脂肪抑止の妨げや、画像にアーティファクトを生じさせる原因となることが知られている。したがって、安定した画質の画像を得るためには、鉄シムの温度の変動を抑えることが重要となる。そこで、通常、MRI装置では、図8に示すように、温度センサーなどを用いて傾斜磁場コイル20の温度Tを検出し、検出した温度Tの変化に応じて冷却装置400をフィードバック制御することによって、傾斜磁場コイルの温度の変動を抑えている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、フィードバック制御による冷却では、制御に遅れが生じるため、鉄シム温度の変動幅が大きくなり、中心周波数(f0)の変動が大きくなってしまう。このため、制御の遅れに起因する鉄シム温度の変動幅を低減する技術が求められている。 【0008】 この発明は、上述した従来技術による課題を解消するためになされたものであり、冷却制御の遅れに起因する鉄シム温度の変動幅を少なくし、中心周波数(f0)の変動を低減することができる磁気共鳴イメージング装置および傾斜磁場コイル冷却制御方法を提供することを目的とする。 ・・・ 【実施例1】 【0015】 まず、本実施例1に係る冷却装置の制御方法について説明する。図1は、本実施例1に係る冷却装置の制御方法を説明するための説明図である。同図に示すように、この冷却装置200は、フィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を行う。ここで、フィードフォワード制御とは、フィードバックループがなく、所定の制御プランに従って行う制御のことである。このフィードフォワード制御では、パルスシーケンスの実行前に冷却装置の冷却動作を開始する。 ・・・ 【0027】 送信部60は、シーケンス制御装置80からの指示に基づいて、RFコイル30にRFパルスを送信する装置である。受信部70は、RFコイル30によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンス制御装置80に対して送信する。 ・・・ 【0029】 計算機システム90は、MRI装置100全体を制御する装置であり、操作者から各種入力を受け付ける入力部や、操作者から入力される撮像条件に基づいてシーケンス制御装置80にスキャンを実行させるシーケンス制御部、シーケンス制御装置80から送信された生データに基づいて画像を再構成する画像再構成部、再構成された画像などを記憶する記憶部、再構成された画像など各種情報を表示する表示部、操作者からの指示に基づいて各機能部の動作を制御する主制御部などを有する。 ・・・ 【0038】 パワーデューティと撮影時間から、パルスシーケンスにより傾斜磁場コイル20に発生する発熱量を予測することができる。そこで、フィードフォワード制御部211は、パワーデューティおよび撮影時間から傾斜磁場コイル20に発生する発熱量を予測し、予測した発熱量と現在の傾斜磁場コイル20の温度から傾斜磁場コイル20の温度の最大値を予測する。そして、傾斜磁場コイル20の温度の最大値が所定の上限値以上になると予測される場合には、プレスキャン開始時あるいはプレスキャン開始の所定時間前に傾斜磁場コイル20に通水するように制御する。 ・・・ 【0041】 フィードバック制御部212は、温度センサーを用いて傾斜磁場コイル20の温度を検出し、検出した温度の変化に応じて、傾斜磁場コイル20の冷却管に流入される冷却水の温度の変更量を決定する。 ・・・ 【実施例2】 【0048】 ところで、上記実施例1では、中心周波数(f0)を変動させないように、傾斜磁場コイル20の温度に基づいて冷却装置を制御する場合について説明した。しかしながら、中心周波数(f0)の値に直接基づいて冷却装置を制御するようにすることもできる。そこで、本実施例2では、中心周波数(f0)に基づいて冷却装置を制御する場合について説明する。 ・・・ 【0061】 また、上記実施例2では、中心周波数(f0)の値に基づいて冷却装置を制御する場合について説明したが、例えば、MRI装置による撮像では、1回の検査で複数のパルスシーケンスが続けて実行される場合もある。ここで、通常、パルスシーケンスの種類によって、傾斜磁場コイルが発生させる傾斜磁場の強さや形状は異なる。そのため、傾斜磁場コイルの発熱量もパルスシーケンスの種類によって変化する。このことから、複数のパルスシーケンスが続けて実行される場合には、個々のパルスシーケンスが実行されるごとに、中心周波数(f0)が変動することもある。 【0062】 そこで、例えば、MRI装置100が、被検体の撮像に用いられる複数のパルスシーケンスを設定し、設定した複数のパルスシーケンスそれぞれを実行する前に、中心周波数(f0)の変動量を取得し、取得した中心周波数(f0)の変動量に基づいて冷却装置200を制御するようにしてもよい。」 したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 なお、引用発明1の認定の根拠となった対応する段落番号等を附記した。 「静磁場内に置かれた被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、前記傾斜磁場コイルを冷却する冷却装置と、前記冷却装置を制御する制御部とを備え(【請求項1】)、 前記傾斜磁場コイルは、前記傾斜磁場を発生させるメインコイルと、前記メインコイルの外側に漏洩する磁場をキャンセルするシールドコイルとを有し、撮像領域内の静磁場不均一を補正するための鉄シムがさらに設けられ(【請求項1】、【0004】)、 前記冷却装置は、前記鉄シム温度の変動幅を少なくし、前記傾斜磁場コイルの温度が変動することにより前記鉄シムの透磁率が変化するときの磁気共鳴の中心周波数の変動を低減するものであり(【0004】、【0005】、【0007】、【0008】)、 前記制御部は、前記被検体の撮像に用いられるパルスシーケンスの撮像パラメータから算出され、前記メインコイルおよび前記シールドコイルに供給される電流のパワーデューティおよび撮影時間から前記傾斜磁場コイルに発生する発熱量を予測し、予測した発熱量と現在の前記傾斜磁場コイルの温度から前記傾斜磁場コイルの温度の最大値を予測して前記冷却装置を制御するフィードフォワード制御部と(【請求項1】、【0038】)、温度センサーを用いて傾斜磁場コイルの温度を検出し、検出した温度の変化に応じて、前記冷却装置を制御するフィードバック制御部とを有するものであり(【0041】)、 RFパルスを被検体に照射し、被検体から放出される磁気共鳴信号を受信するRFコイルと、前記磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データに基づいて画像を再構成する画像再構成部とをさらに備え(【0025】、【0027】、【0029】)、 1回の検査で複数のパルスシーケンスが続けて実行される(【0061】)、 磁気共鳴イメージング装置。」 2 引用文献2について 当審拒絶理由2に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審による)。 「【0017】 温度計測用センサ16は、本磁気共鳴イメージング装置10が有する強磁性体であって、温度変化から静磁場の乱れを誘発するもの(例えば、鉄シム等)の温度変化、又は当該強磁性体の近傍の温度変化(例えば、鉄シム周辺、静磁場磁石11が格納される真空領域の温度変化等)を検出する温度センサである。 ・・・ 【0022】 静磁場変動修正器21は、温度計測用センサ16によって計測された温度に関するデータ(温度データ)に基づいて、温度変化の微分項、温度変化の積分項、温度変化の比例項から、当該温度計測時における(核磁気)共鳴周波数の変動(シフト量)を計算する。また、静磁場変動修正器21は、得られた温度変化の微分項、積分項、比例項と共鳴周波数変動とから、後述する手法に従って、基準クロックの周波数変動を推定する。さらに、静磁場変動修正器21は、推定された周波数変動から、デジタル発信器22の、動作サイクル毎の単位時間当たりの位相増加量を計算する。 ・・・ 【0035】 アナログ信号に変換された信号は、基準クロック発生回路226で逓倍等された後、送信部18、受信部19、制御部202の基準クロックとして使用される。送信部18は、周波数変動分が修正された基準クロックを用いて送信出力を生成し、送信コイル14にNMR信号励起用の信号を出力する。受信部19は、周波数変動分が修正された基準クロックを用いて検波用信号を生成し、受信部19を通して検出されたNMR信号を検波する。制御部202は、周波数変動分が修正された基準クロックを用いて送信部18、受信部19、傾斜磁場コイル駆動装置17を制御する。 ・・・ 【0059】 (撮影動作と基準クロック修正処理との関係) 基準クロック修正処理は、一連の撮影動作と並行して、クロック修正システムにより独立に実行される。従って、このクロック修正処理は、温度計測用センサ16によって温度変化が計測される度に、図6に示した撮影動作がいずれのステージにあるかに関わらず、任意のタイミングで実行される。その結果、クロック修正処理により基準クロックが修正された場合には、修正以後の撮影動作に関する全てのイベントは、修正後の基準クロックに従って制御される。 ・・・ 【0065】 以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。 ・・・ 【0067】 また、基準クロック修正処理は、一連の撮影動作と並行して、クロック修正システムにより独立に実行される。そのため、撮影シーケンスに制約を与える必要がなく、また、修正処理の開始タイミングに特別な配慮をする必要もない。従って、本基準クロック修正処理を容易にシステムに組み込むことができ、これにより静磁場不均一性の乱れの影響を受けないMR画像を効率的に撮影することができる。」 したがって、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 なお、引用発明2の認定の根拠となった対応する段落番号等を附記した。 「磁気共鳴イメージング装置10が有する強磁性体であって、温度変化から静磁場の乱れを誘発するもの(例えば、鉄シム等)の温度変化を検出する温度センサである温度計測用センサ16と(【0017】)、 温度計測用センサ16によって計測された温度に関するデータ(温度データ)に基づいて、基準クロックの周波数変動を推定し(【0022】)、 周波数変動分が修正された基準クロックを用いて送信出力を生成し、送信コイル14にNMR信号励起用の信号を出力する送信部18と、周波数変動分が修正された基準クロックを用いて検波用信号を生成し、検出されたNMR信号を検波する受信部19とを有し(【0035】段落)、 基準クロック修正処理は、一連の撮影動作と並行して、クロック修正システムにより独立に実行され、このクロック修正処理は、温度計測用センサ16によって温度変化が計測される度に、撮影動作がいずれのステージにあるかに関わらず、任意のタイミングで実行される(【0059】)、 磁気共鳴イメージング装置。」 3 引用文献3ないし8について (1)当審拒絶理由2に引用された引用文献3には、その【請求項1】、【0008】、【0016】段落、図1ないし2の記載からみて、「傾斜磁場コイルの保護や被検者の不快感をなくす等の温度管理のために用いる温度測定器を備える磁気共鳴イメージング装置において、温度測定器が放射するノイズが画像に悪影響を与えたり、高周波磁界発生時に、センサが検出する温度に狂いが生じるとの課題を解決するため、温度測定器に接続されたリレー10にスキャン信号を供給することで、スキャン時には温度測定器に通電しない」という技術的事項が記載されている。 (2)当審拒絶理由2に引用された引用文献4にも、その【請求項1】、【0006】ないし【0008】、【0014】ないし【0016】段落及び図1ないし2の記載からみて、上記引用文献3と同様の技術的事項が記載されている。 (3)当審拒絶理由2に引用された引用文献5には、その【0051】段落および図1の記載からみて、「撮像中に温度測定によってノイズが乗らないように、シーケンスの合間に温度計測を行い、そのデータを使用して、温度予測パラメータを更新する」という技術的事項が記載されている。 (4)当審拒絶理由2に引用された引用文献6には、その【0062】ないし【0070】段落及び図10の記載からみて、「撮影パルスシーケンスを実行しながら、傾斜磁場コイルGCの温度測定とシム電流の補正とを行なう」という技術的事項が記載されている。 (5)当審拒絶理由2に引用された引用文献7には、その【0003】ないし【0004】段落の記載からみて、磁気共鳴イメージング装置において、「拡散強調イメージング」を行なうという技術的事項が記載されている。 (6)当審拒絶理由2に引用された引用文献8には、その【0004】段落の記載からみて、磁気共鳴イメージング装置において、「ダイナミック撮影では、さらに脂肪抑制する目的で、脂肪抑制パルスが併用される」という技術的事項が記載されている。 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。 (一致点) 「傾斜磁場を撮像空間に発生させる、アクティブシールドを用いた多層構造の傾斜磁場コイルユニットと、 前記傾斜磁場コイルユニットの温度を異なるタイミングで少なくとも2回計測する温度計測部と、 前記傾斜磁場コイルユニットが有する鉄シムの透磁率の変化に伴う中心周波数の変化を追従すべく、計測された前記傾斜磁場コイルユニットの温度変化に応じて、補正する制御部と、 前記パルス設定部がRFパルスを送信し、磁気共鳴信号を前記撮像空間内の被検体から受信し、前記磁気共鳴信号に基づいて前記被検体の画像データを生成する撮像部と、を備え、 前記温度計測部は、前記傾斜磁場コイルユニットの温度を検出するように構成される、 磁気共鳴イメージング装置。」 (相違点) <相違点1> 本願発明1においては、「前記傾斜磁場コイルユニットが有する鉄シムの透磁率の変化に伴う中心周波数の変化を追従すべく、計測された前記傾斜磁場コイルユニットの温度変化に応じて、RFパルスの中心周波数を補正するパルス設定部」を有するのに対し、 引用発明1においては、「前記鉄シム温度の変動幅を少なくし、前記傾斜磁場コイルの温度が変動することにより前記鉄シムの透磁率が変化するときの磁気共鳴の中心周波数の変動を低減する」「冷却装置」を有する点。 <相違点2> 本願発明1においては、「前記温度計測部は、前記ダイナミック撮像における各々の時相の間に前記傾斜磁場コイルユニットの温度を検出するように構成され、前記パルス設定部は、前記ダイナミック撮像における各々の時相の間に、RFパルスの中心周波数を補正する」のに対し、 引用発明1においては、そのような構成を有しない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。 引用発明2における「クロック修正システム」は、本願発明1における「温度計測部」及び「パルス設定部」に相当する。 ここで、引用発明1に対して引用発明2の「クロック修正システム」を適用した構成(「引用発明1+2」という)を想定する。 上記引用発明1+2において、「クロック修正システム」を実行するタイミングについて検討すると、上記引用文献3ないし6の記載から、磁気共鳴イメージング装置において温度計測は非撮像期間に行うことが当業者に周知の技術的事項であったとしても、「一連の撮影動作と並行して」「独立に実行され」る引用発明2の「クロック修正システム」を引用発明1に適用した上記引用発明1+2において、撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させることに、動機がない。 さらに、引用発明2における「クロック修正システム」は、「一連の撮影動作と並行して」「独立に実行され」ることによって、「撮影シーケンスに制約を与える必要がなく、また、修正処理の開始タイミングに特別な配慮をする必要もない」との作用効果を得ることができるものである(【0067】段落)。 したがって、上記引用発明1+2において、「クロック修正システム」を撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させると、修正処理の開始タイミングに配慮が必要となり、引用発明2が本来有していた効果を奏しなくなるから、引用発明1+2において「クロック修正システム」を撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させることには、阻害要因がある。 してみると、引用発明1+2において、相違点2に記した本願発明1のごとく構成することは、当業者といえども困難である。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。 2 本願発明2について (1)対比 本願発明2と引用発明1との間には、少なくとも、上記相違点2と類似する以下の相違点2’がある。 <相違点2’> 本願発明2においては、「前記温度計測部は、各々のセット同士の間に前記傾斜磁場コイルユニットの温度を検出するように構成され、前記パルス設定部は、前記拡散強調イメージングにおける各々のセットの間に、RFパルスの中心周波数を補正する」のに対し、 引用発明1においては、そのような構成を有しない点。 (2)相違点についての判断 引用文献7は、拡散強調イメージングに関する技術的事項を開示する文献であり、温度計測部やパルス設定部の動作タイミングに関する記載も示唆もない。 そして、上記「第6 1(2)」で説示したとおり、引用発明1+2において、「クロック修正システム」を、撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させて行なうことは、動機がなく、さらに、引用発明2が本来有していた効果を阻害するものでもある。 したがって、引用発明1+2において、相違点2’に記した本願発明2のごとく構成することは、当業者といえども困難である。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明2は、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3ないし7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。 3 本願発明3ないし15について 引用文献8は、脂肪抑制プレパルスに関する技術的事項を開示する文献であり、温度計測部やパルス設定部の動作タイミングに関する記載も示唆もない。 本願発明3ないし15も、相違点2に記した本願発明1の構成又は相違点2’に記した本願発明2の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1又は2と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3ないし8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定についての判断 原査定における引用文献Aは、当審拒絶理由2における引用文献2である。 そして、上記「第6 1(2)」及び「第6 2(2)」で説示したとおり、引用発明2すなわち原査定における引用文献A記載の発明における「クロック修正システム」を、撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させることには動機がみいだせず、さらに、当該引用発明2が本来有している効果を阻害するものでもあるため、本願発明1ないし15は、当業者であっても、原査定における引用文献AないしDに基づいて容易に発明できたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第8 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由1について 当審拒絶理由1における引用文献1は、当審拒絶理由2における引用文献2である。 そして、上記「第6 1(2)」及び「第6 2(2)」で説示したとおり、引用発明2すなわち当審拒絶理由1における引用文献1記載の発明における「クロック修正システム」を、撮影動作における何らかの特定のタイミングと同期させることには動機がみいだせず、さらに、当該引用発明2が本来有している効果を阻害するものでもあるため、本願発明1ないし15は、当業者であっても、当審拒絶理由1における引用文献1ないし6に基づいて容易に発明できたものではない。 第9 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-06-13 |
出願番号 | 特願2011-131069(P2011-131069) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 宮澤 浩、姫島 あや乃、伊藤 幸仙 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 松岡 智也 |
発明の名称 | 磁気共鳴イメージング装置 |
代理人 | 特許業務法人東京国際特許事務所 |