ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F |
---|---|
管理番号 | 1329042 |
異議申立番号 | 異議2016-700735 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-12 |
確定日 | 2017-04-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5860552号発明「プロピレンランダムコポリマー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5860552号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?13〕について訂正することを認める。 特許第5860552号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5860552号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年8月12日付け(受理日:同年8月15日)で特許異議申立人 尾田久敏(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1、2に対して特許異議の申立てがされ、同年11月8日付けで取消理由が通知され、平成29年2月6日付け(受理日:同年2月6日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年2月9日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月15日付け(受理日:同年3月16日)で特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正請求の適否 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1?3のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「c)60%から最大80%の範囲内のランダム性」と記載されているのを「c)67.0%から74.0%の範囲内のランダム性」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「c)ランダム性が65%から80%の範囲内であり、」と記載されているのを「c)ランダム性が67.0%から74.0%の範囲内であり、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「プロピレンを、エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマーと共重合させることにより、請求項1又は2に記載のプロピレンランダムコポリマーを製造する方法であって、」と記載されているのを「プロピレンを、エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマーと共重合させることにより、プロピレンランダムコポリマーを製造する方法であって、」に訂正するとともに、「工程c)の前の任意の工程で添加される、上記方法。」と記載されているのを「工程c)の前の任意の工程で添加され、 前記プロピレンランダムコポリマーが、 a)エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択される前記コモノマー b)1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量 c)60%から最大80%の範囲内のランダム性 d)2から12wt%未満のキシレン可溶性成分(XS)含量 を有し、触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマーであるか、又は、 前記プロピレンランダムコポリマーが、 a)前記コモノマーがエチレンであり、 b)コモノマー含量が2.0から4.9wt%の範囲内であり、 c)ランダム性が65%から80%の範囲内であり、 d)キシレン可溶性成分(XS)含量が3.0から11.5wt%未満であり、 触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマーである、 上記方法。」に訂正する。 また、当該請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4?13も併せて訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「60%から最大80%」を「67.0%から74.0%」とするものであり、「ランダム性」の範囲をさらに狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。また、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0259】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「65%から80%」を「67.0%から74.0%」とするものであり、「ランダム性」の範囲をさらに狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0259】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項1又は2を引用する異議申立がされていない請求項3を、請求項1又は2を引用しないものに改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (なお、訂正事項3は、異議申立がされていない請求項3?13に係るものであるが、上記のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定の目的要件を満たすものであるから、同法同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)に係る検討は要しない。) (4)一群の請求項 本件訂正請求による訂正は、訂正後の請求項1?13についての訂正であるが、訂正前の請求項2?13は訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるので、訂正前の請求項1?13は、一群の請求項である。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求の訂正事項1?3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。 訂正後の請求項3に係る訂正事項3は、引用関係の解消を目的とするものであり、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項3について訂正が認められるときは、請求項1、2とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1、2及び請求項3?13について請求項ごとに訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 a)エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマー b)1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量 c)67.0%から74.0%の範囲内のランダム性 d)2から12wt%未満のキシレン可溶性成分(XS)含量 を有し、触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマー。 【請求項2】 a)前記コモノマーがエチレンであり、 b)コモノマー含量が2.0から4.9wt%の範囲内であり、 c)ランダム性が67.0%から74.0%の範囲内であり、 d)キシレン可溶性成分(XS)含量が3.0から11.5wt%未満であり、 触媒に由来するフタレートを含まない、請求項1に記載のプロピレンランダムコポリマー。」 第4 特許異議申立人が主張する取消理由 特許異議申立人が特許異議申立書において主張する取消理由の概要は、次のとおりである。 ・本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1、2に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ・本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1、2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1、2に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、甲第1、2号証は、次のとおりである。 ・甲第1号証:国際公開第2010/078479号(参考:特表2012-514122号公報) ・甲第2号証:特表2008-540756号公報 第5 当審が通知した取消理由 当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 「本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 記 第1 本件発明 ・・・(略)・・・ 第2 取消理由 (1)刊行物 刊行物:国際公開第2010/078479号(特許異議申立書に添付された甲第1号証) (2)刊行物の記載事項 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2010/078479号(以下、「引用文献」という。)には、次の事項(以下、「摘示ア」のようにいう。)が記載されている。なお、以下の摘示は、ファミリー文献である特表2012-514122号公報に依った。 ・・・(略)・・・ (3)引用文献に記載された発明の認定 引用文献には、摘示ア?オ、特に摘示オにおける実施例1の記載から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 ・・・(略)・・・ (4)本件発明1と引用発明との対比・判断 ・・・(略)・・・ 以上のことから、本件発明1は、引用文献に記載された発明であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (5)本件発明2と引用発明との対比・判断 ・・・(略)・・・ 以上のことから、本件発明2は、引用文献に記載された発明であるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。」 第6 当審の判断 6-1 引用文献の記載等 (1)引用文献の記載 取消理由通知において引用した引用文献(国際公開第2010/078479号)には、次の事項(以下、「摘示ア」のようにいう。)が記載されている。なお、以下の摘示は、ファミリー文献である特表2012-514122号公報に依った。 ア 「【請求項1】 プロピレン及びエチレンを、置換フェニレン芳香族ジエステルを含む触媒組成物と重合条件下で接触させる工程;並びに 約0.83?約1.0のケーニッヒB値を有するランダムプロピレン/エチレンコポリマーを形成する工程 を含む重合方法。 【請求項2】 置換フェニレン芳香族ジエステルを含むランダムプロピレン/エチレンコポリマーを含む組成物。 【請求項8】 前記組成物は、フタレートを含まない、請求項2?7のいずれかに記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1、2、8) イ 「試験方法 ^(13)C NMR特性解析(エチレン含量、ケーニッヒB値、トライアド分布、トライアド立体規則性、エチレン及びプロピレンについての数平均配列長(即ち、各々le及びlp))は、以下のように実施する: サンプルの調製 サンプルは、0.025M Cr(AcAc)_(3)を含有するテトラクロロエタン-d_(2)/オルトジクロロベンゼンの50/50混合物の約2.7gをNorell 1001-7 10mm NMR試験管内の0.20gのサンプルに加える工程によって調製する。サンプルを溶解させ、加熱ブロック及びヒートガンを使用して試験管及びその内容物を150℃へ加熱することによって均質化させる。各サンプルは、均質性を保証するために視覚的に検査する。 データ収集パラメータ データは、Bruker Dual DUL高温CryoProbeを装備したBruker 400MHz分光計を用いて収集する。データは、1データファイルに付き1280トランジェント、6secパルス繰り返し遅延、90度のフリップ角、及び120℃のサンプル温度を用いた逆ゲーテッドデカップリングを用いて収集する。全測定値は、ロックモードで非回転サンプル上で測定する。サンプルは、データ収集前に7分間熱平衡化させる。」(段落【0129】、【0130】) ウ 「キシレン可溶分(XS)は、以下の方法に従って測定する。0.4gのポリマーを20mLのキシレン中に攪拌しながら130℃で30分間溶解させる。この溶液を次に25℃へ冷却し、30分後に不溶性ポリマー画分を濾過して除去する。得られた濾液を、フローインジェクション・ポリマー分析法によって、1.0mL/minで流動するTHF移動相を用いるViscotek ViscoGEL H-100-3078カラムを使用して分析する。カラムは、45℃で作動する光散乱、粘度及び屈折率検出器を備えるViscotek Model 302 Triple Detector Arrayに接続する。機器の較正を、Viscotek PolyCAL(商標)ポリスチレン標準物質を用いて維持した。」(段落【0143】) エ 「2.プロ触媒組成物 周囲温度で、351gの混合マグネシウム/チタンハライドアルコレートを1.69kgのクロロベンゼンと4.88kgのチタン(IV)クロライドの混合物中で攪拌する。10分後、164.5gの5-tert-ブチル-3-メチル-1,2-フェニレンジベンゾエートを含有する750mLのクロロベンゼン溶液を加え、その後さらに0.46kgのクロロベンゼンを加える。この混合液を100℃で60分間攪拌し、沈殿させ、次に100℃で濾過する。この固体を3.16kgのクロロベンゼン中で70℃で15分間攪拌し、沈殿させ、次に70℃で濾過する。この固体を2.36kgのクロロベンゼン及び4.84kgのチタン(IV)クロライドの混合物中で攪拌し、10分後、416gのクロロベンゼン中の109.7gの5-tert-ブチル-3-メチル-1,2-フェニレンジベンゾエートの溶液を加え、その後さらに0.20kgのクロロベンゼンを加える。この混合物を105?110℃で30分間攪拌し、沈殿させ、次に105?110℃で濾過する。この固体を3.10kgのクロロベンゼン及び4.84kgのチタン(IV)クロライドの混合物中で105?110℃で30分間攪拌し、沈殿させ、次に105?110℃で濾過する。冷却した後、その固体を3.47kgのヘキサンを用いて45℃で2回洗浄し、次に3.47kgの2-メチルブタンを用いて周囲温度で最終洗浄した。この固体を真空に供して残留揮発性物質を除去し、次に683gの無機物と合せてスラリーを生成する。」(段落【0149】、【0150】) オ 「3.重合 重合は、気相流動床重合反応器(反応器径:14インチ)内で実施する。共触媒はトリエチルアルミニウム、外部電子供与体はジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPDMS)、n-プロピルトリメトキシシラン(NPTMS)、又はn-プロピルトリエトキシシラン(PTES)であり、活性制限剤はイソプロピルミリステート(IPM)である。特定の反応器条件及び得られたポリマー特性を、以下の表3に提供する。 【表3】 」(段落【0153】、【0154】) (2)引用文献に記載された発明の認定 引用文献には、摘示ア?オ、特に摘示オにおける実施例1の記載から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「置換フェニレン芳香族ジエステルを含む触媒組成物で重合された、エチレン含量が3.74重量%、キシレン可溶分(XS)が8.6重量%である、ランダムプロピレン/エチレンコポリマー。」 6-2 対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明における「エチレン」、「キシレン可溶分(XS)」は、それぞれ、本件発明1における「コモノマー」、「キシレン可溶性成分(XS)」に相当する。 引用発明において、置換フェニレン芳香族ジエステルを含む触媒組成物は、フタレートを含まないから(摘示エ、オ)、引用発明におけるコポリマーは、本件発明1にいう「触媒に由来するフタレートを含まない」ものである。 そうすると、両者は、 「a)エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマー b)1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量 d)2から12wt%未満のキシレン可溶性成分(XS)含量 を有し、触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマー。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点> 本件発明1においては、「c)67.0%から74.0%の範囲内のランダム性」を有すると特定されているのに対して、引用発明においては、「エチレン含量が3.74重量%」であることは特定されているが、ランダム性について明示がない点。 上記相違点について検討する。 引用発明においては、エチレン含量は3.74重量%であり、そのエチレン含量のモル%を求めると、プロピレン含量は100-3.74より96.26重量%であり、エチレンの分子量は28、プロピレンの分子量は42であるから、3.74÷28=0.134、及び96.26÷42=2.29の値を用いて、0.134÷(0.134+2.29)×100より約5.5モル%となる。また、引用発明において、PEPのトライアド分布の割合は0.0423である(摘示オ)。ここで、本件発明1にいうランダム性は、ランダムプロピレンエチレンコポリマーの場合、「ランダムエチレン(-P-E-P-)含量/全エチレン含量×100%」で表されると解される(本件特許明細書の【0005】)。そうすると、引用発明においては、エチレン含量が約5.5モル%であり、PEPのトライアド分布の割合が4.23%であるから、ランダム性は約77%であると認められる。当該約77%のランダム性は、本件発明1における「67.0%から74.0%の範囲内のランダム性」という数値範囲を満たさない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。 以上のことから、本件発明1は、引用発明、すなわち引用文献に記載された発明であるとはいえない。 なお、特許異議申立人は、平成29年3月15日付け(受理日:同年3月16日)意見書の3.(2)の「(ウ)訂正によっても取消理由が解消していない理由」において、「実施例の具体的なケーニッヒB値とランダム性の数値とから導かれた式及びその式に基いた記載したグラフからはケーニッヒB値とランダム性とが直線的な関係にあることが理解できると共に、ケーニッヒB値の0.83と1.0とはランダム性としてはそれぞれ約68%と約88%に相当することがわかります。引用文献は、上記特許請求の範囲においては、ランダム性に関して、ケーニッヒB値を用いることでケーニッヒB値が約0.83?約1.0であるランダムプロピレン/エチレンコポリマーとして記載しているものですが、引用文献におけるこうした記載は、同時に、ランダム性としては約68%から約88%であるランダムプロピレン/エチレンコポリマーを開示していることに他なりません。」と主張している。 しかしながら、ケーニッヒB値に関して、引用文献には「1はコモノマー単位の完全にランダムな分布を指す。」と記載されている(【0090】)ように、ケーニッヒB値の1は完全なランダム分布、すなわち約100%のランダム性に相当すると解される。当該約100%のランダム性は、上記主張におけるケーニッヒB値とランダム性との「直線的な関係」から外れるものであることから、ケーニッヒB値とランダム性とはそのような直線的な関係にあるとはいえない。 そうすると、特許異議申立人が主張するように、「ケーニッヒB値の0.83と1.0とはランダム性としてはそれぞれ約68%と約88%に相当することがわかります。」とはいえず、「引用文献におけるこうした記載は、同時に、ランダム性としては約68%から約88%であるランダムプロピレン/エチレンコポリマーを開示していることに他なりません。」ともいえないことから、上記主張は採用できない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、引用文献に記載された発明であるとはいえない。 6-3 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1、2に係る発明は甲第2号証である特表2008-540756号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する旨を主張しているが、特表2008-540756号公報には、訂正後の請求項1、2に係る発明の発明特定事項であるプロピレン/エチレンコポリマーのランダム性の数値について何ら記載も示唆もなく、かかる主張は理由がない。 さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、コモノマーとしてのエチレンの含量が1.5wt%である場合にはランダム性は80%を超える蓋然性が高いと推測される(本件特許の【図2】)ところ、コモノマーとしてのエチレンの含量が1.5wt%である場合にランダム性を80%以下とすることについて、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、また、発明の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明において、特許請求の範囲の記載が、「1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量」及び「60%から最大80%の範囲内のランダム性」であることについて、同様に訂正前の請求項2に係る発明において「コモノマー含量が2.0から4.9wt%の範囲内」及び「ランダム性が65%から80%の範囲内」であることについて、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。 しかしながら、訂正後の請求項1に係る発明は、「1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量」と「67.0%から74.0%の範囲内のランダム性」の両方が満たされる範囲のものを規定しており、コモノマーとしてのエチレンの含量が1.5wt%である場合にランダム性が74.0%を超えるものは、訂正後の請求項1に係る発明が規定しない範囲外のものであり、上記両方が満たされる範囲のものを規定する訂正後の請求項1に係る発明について、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。訂正後の請求項2に係る発明についても、同様である。してみると、上記主張は理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 a)エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマー b)1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量 c)67.0%から74.0%の範囲内のランダム性 d)2から12wt%未満のキシレン可溶性成分(XS)含量 を有し、触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマー。 【請求項2】 a)前記コモノマーがエチレンであり、 b)コモノマー含量が2.0から4.9wt%の範囲内であり、 c)ランダム性が67.0%から74.0%の範囲内であり、 d)キシレン可溶性成分(XS)含量が3.0から11.5wt%未満であり、 触媒に由来するフタレートを含まない、請求項1に記載のプロピレンランダムコポリマー。 【請求項3】 共触媒及び固体粒子形態のオレフィン重合触媒成分を含む触媒系を使用して、プロピレンを、エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択されるコモノマーと共重合させることにより、プロピレンランダムコポリマーを製造する方法であって、前記オレフィン重合触媒成分が、 a)少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)の有機液体反応媒体中の溶液を調製する工程であって、前記少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)が、少なくとも1種のマグネシウム化合物の少なくとも一価アルコール(A)との反応生成物である、上記工程、 b)前記溶液を少なくとも1種の第4族遷移金属化合物に添加する工程、及び c)前記固体触媒成分粒子を製造する工程 により製造され、 a)式(I)のベンゾエート 【化1】 (Rは、直鎖状又は分枝状C_(1)?C_(12)アルキル基であり、 R’は、直鎖状若しくは分枝状C_(2)?C_(10)アルキル基であり、前記アルキル基は、O、N又はSから選択される1又は2以上のヘテロ原子をアルキル鎖中に含むことができ、又は=O、ハロゲン、又は置換されていてもよいC_(6)?C_(14)アリールから選択される1又は2以上の置換基により置換されることができる。)、 b)式(II)のアルキレングリコールジベンゾエート 【化2】 (nは1又は2であり、n=1である場合にはR=CH_(3)であり、n=2である場合にはR=Hである。)、 c)式(III)のマレエート 【化3】 (R_(1)及びR_(2)は、同じであるか又は異なり、直鎖状又は分枝状C_(1)?C_(12)アルキル基であり、 Rは、分枝状若しくは環状C_(3)?C_(8)アルキルである。)、 d)式(IV)の1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジアルキルエステル 【化4】 (R_(1)及びR_(2)は同一であるか又は異なることができ、直鎖状又は分枝状C_(5)?C_(20)アルキルであることができる。)、及び e)1,8-ビス(2-エチルヘキシルオキシ)ナフタレン、3,3-ビス(エトキシメチル)-2-メチルドデカン及び3,3-ビス(エトキシメチル)-2,6-ジメチルヘプタンからなる群より選択される1,3-ジエーテル、 から選択される内部電子供与体が、工程c)の前の任意の工程で添加され、 前記プロピレンランダムコポリマーが、 a)エチレン、C_(4)?C_(20)αオレフィン、及びそれらの任意の組合せから選択される前記コモノマー b)1.5から最大5.0wt%の範囲内のコモノマー含量 c)60%から最大80%の範囲内のランダム性 d)2から12wt%未満のキシレン可溶性成分(XS)含量 を有し、触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマーであるか、又は、 前記プロピレンランダムコポリマーが、 a)前記コモノマーがエチレンであり、 b)コモノマー含量が2.0から4.9wt%の範囲内であり、 c)ランダム性が65%から80%の範囲内であり、 d)キシレン可溶性成分(XS)含量が3.0から11.5wt%未満であり、 触媒に由来するフタレートを含まない、プロピレンランダムコポリマーである、 上記方法。 【請求項4】 アルコキシ化合物(Ax)が、 少なくとも1種のマグネシウム化合物と一価アルコール(A)との反応生成物、又は、 少なくとも1種のマグネシウム化合物と、一価アルコール(A)とヒドロキシ基に加えてヒドロキシ基とは異なる少なくとも1つのさらなる酸素含有基を有するさらなるアルコール(B)の混合物、との反応生成物 である、請求項3に記載の方法。 【請求項5】 前記少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)に加えて、 少なくとも1種のアルコキシ化合物(Bx)であって、少なくとも1種のマグネシウム化合物と、ヒドロキシ基に加えてヒドロキシ基とは異なる少なくとも1つのさらなる酸素含有基を有するアルコール(B)、との反応生成物である、上記少なくとも1種のアルコキシ化合物(Bx) が使用される、請求項3に記載の方法。 【請求項6】 一価アルコール(A)が、式ROHの一価アルコール(式中、Rは、直鎖状又は分枝状C_(1)?C_(20)アルキルである。)である、請求項3から5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 アルコール(B)中の前記1つのさらなる酸素含有基がエーテル基である、請求項4又は6のいずれかに記載の方法。 【請求項8】 アルコール(B)がC_(2)?C_(4)グリコールモノエーテルであり、エーテル基が2から18個の炭素原子を有する、請求項4又は7のいずれかに記載の方法。 【請求項9】 前記第4族遷移金属がTiである、請求項3から8のいずれかに記載の方法。 【請求項10】 固体粒子形態のオレフィン重合触媒成分の製造が、 (a1)少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)と請求項3に記載の電子供与体、又は対応するその前駆体の、有機液体反応媒体(OM1)中の溶液(S1)を調製する工程であって、前記少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)が、少なくとも1種のマグネシウム化合物の少なくとも一価アルコール(A)との反応生成物である、上記工程、 (b1)前記溶液(S1)を少なくとも1種の第4族遷移金属化合物(CT)と合わせる工程、及び (c1)固体粒子形態の前記触媒成分を沈澱させる工程、及び (d1)オレフィン重合触媒成分の凝固した粒子を回収する工程 を有する、請求項3から9のいずれかに記載の方法。 【請求項11】 工程(b1)における少なくとも1種の第4族遷移金属化合物(CT)への溶液(S1)の添加が、50から110℃の温度範囲内で行われ、この温度で、前記少なくとも1種の第4族遷移金属化合物(CT)が液体形態であり、前記固体触媒成分の沈澱をもたらし、界面活性剤が工程(a1)又は工程(b1)において添加され得る、請求項10に記載の方法。 【請求項12】 溶液(S1)を、液体形態の少なくとも1種の第4族遷移金属化合物(CT)と-20℃から30℃の温度で混合し、続いて温度を50から110℃の温度範囲までゆっくりと上げることにより固体触媒成分を沈澱させ、温度上昇の速度が毎分0.1℃から30℃の範囲内であり、界面活性剤が、工程(b1)の前に溶液(S1)に添加される、請求項10に記載の方法。 【請求項13】 固体粒子形態の触媒成分の製造が、 (a2)少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)と式(I)の電子供与体又はその前駆体の有機液体反応媒体中の溶液を調製する工程であって、前記少なくとも1種のアルコキシ化合物(Ax)が、少なくとも1種のマグネシウム化合物の少なくとも一価アルコール(A)との反応生成物である、上記工程、 (b2)前記アルコキシ化合物(Ax)の前記溶液を、少なくとも1種の第4族遷移金属化合物に添加して、分散相が液滴の形態であり、前記分散相が、50mol%を超えるマグネシウムを前記アルコキシ化合物(Ax)中に含有するエマルジョンを生成させる工程、 (c2)前記エマルジョンを撹拌して、前記分散相の液滴を2から500μmの前記所定の平均径範囲内に維持する工程、 (d2)分散相の前記液滴を凝固させる工程、 (e2)オレフィン重合触媒成分の凝固した粒子を回収する工程 を有する、請求項3から9のいずれかに記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-04-10 |
出願番号 | 特願2014-549425(P2014-549425) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(C08F)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井上 政志 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
西山 義之 橋本 栄和 |
登録日 | 2015-12-25 |
登録番号 | 特許第5860552号(P5860552) |
権利者 | ボレアリス・アクチェンゲゼルシャフト |
発明の名称 | プロピレンランダムコポリマー |
代理人 | 的場 基憲 |
代理人 | 的場 基憲 |