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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1329081
異議申立番号 異議2017-700085  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-01 
確定日 2017-05-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5961062号発明「皮膚外用剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5961062号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5961062号は、平成24年 7月25日に特許出願され、平成28年 7月 1日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、特許異議申立人から、平成29年 2月 1日付け異議申立書によって、本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことを求める旨の特許異議申立がなされた。

2.本件発明
特許第5960162号の請求項1、2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
(A)酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、フランカルボン酸モメタゾン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酢酸ジフロラゾンから選ばれる一種のステロイド
(B)ジフェンヒドラミン塩酸塩及びグリチルリチン酸ジカリウムの生理活性成分
を含有することを特徴とする、皮膚外用剤組成物。
【請求項2】
(A)酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、フランカルボン酸モメタゾン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酢酸ジフロラゾンから選ばれる一種のステロイド
(B)1?2%(重量)ジフェンヒドラミン塩酸塩及び0.5?1%(重量)グリチルリチン酸ジカリウムの生理活性成分
を含有することを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤組成物。

3.特許異議申立理由の概要
3-1 特許異議申立人が申立てた理由の概要
(申立理由1)
本件請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(申立理由2)
本件請求項1、2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、同法第29条第1項第3号に該当する。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(申立理由3)
本件請求項1、2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

3-2 特許異議申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:DRUGS IN JAPAN(OTC DRUGS)1st Ed.,凡例を記載した頁、目次及び527頁、昭和53年1月25日 財団法人日本医薬情報センター発行
甲第2号証:鎮痒消炎薬の製造販売承認基準について、薬食発1101第1号、平成23年11月 1日、厚生労働省医薬食品局長、各都道府県知事に宛てた文書の写し
甲第3号証:特開2009-184951号公報

4.甲号証の記載事項
甲第1号証?甲第3号証には、以下の記載がある。

(1)甲第1号証
以下、甲第1号証記載の略号については凡例記載のとおり読み替えて記した。
摘示事項
(1)-1 「本書は昭和49年末から昭和52年末日までに、財団法人日本医薬情報センターが厚生省その他のルートから入手し、所蔵している一般用医薬品(配置薬を含む)約16,000品目の最新の添付文書を主な情報源として編集した。」(凡例冒頭段落)
(1)-2 「コーチメントP 丸の内製薬(株) 組成(成分・分量) 軟膏:100g中プレドニゾロン0.25g、グリチルリチンアンモニウム塩1g、塩酸ジフェンヒドラミン0.5g、カラミン10g 適応 急・慢性湿疹、小児湿疹、脂漏性湿疹、アトピー性皮膚炎、じんましん、アレルギー性皮膚炎、陰門・肛門かゆみ症、接触性皮膚炎、皮膚かゆみ症、虫さされ 用法・用量 1日1?3回患部に塗布」(527頁)

(2)甲第2号証
摘示事項
(2)-1 「鎮痒消炎薬の製造販売承認基準について
一般用医薬品である鎮痒消炎薬の製造販売承認については、別紙の鎮痒消炎薬の製造販売承認基準(以下「基準」という。)により行うこととしたので、下記に留意の上、貴管内業者に対し周知徹底を図るとともに、円滑な事務処理が行われるよう特段の配慮をお願いしたい。なお、本基準は平成24年6月1日以降に製造販売承認申請される品目に対し適用されることを申し添える。」(文書表紙)
(2)-2 「鎮痒消炎薬の基準は次のとおりとする。
なお、副腎皮質ホルモン又は抗ヒスタミン薬を主体とする鎮痒消炎薬であって、この基準に適合しないものにあっては、申請者に有効性、安全性及び配合理由についての試料の提出を求め、当該試料に基づき審査する。」(別紙の2.基準)
(2)-3 同基準の(1)有効成分の種類の項には、配合できる有効成分の種類は、別表に掲げるものとすること(2(1)ア))、別表のI欄に掲げる有効成分を主体とした製剤は、同表のII欄、III欄、IV欄、V欄、VI欄、VII欄、VIII欄、IX欄、X欄、XII欄に掲げる有効成分を配合することができること(2(1)ウ))が記載されている。
別表のI欄には、副腎皮質ホルモンである、プレドニゾロン、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルなどが列挙され、II欄には、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミン塩酸塩などが、そして、IV欄には、グリチルリチン酸及びその塩類、グリチルレチン酸が列挙されている。
(2)-4 同基準の(2)有効成分の分量の項には、別表に掲げる各有効成分の最大濃度は同表に掲げる量とすること(2(2)ア))、別表のII欄・・・に掲げる各有効成分の最小濃度は、最大濃度の1/5とすること(2(2)イ))、別表のIV欄・・・に掲げる各有効成分の最小濃度は、最大濃度の1/10とすることが記載されている。
(2)-5 同基準の(3)剤形には、剤形は、軟膏剤などとすることが、(4)用法及び用量には、用法は、外皮に適用するものとすることが、(5)効能又は効果の項には、主体とする成分がI欄のものは、湿疹、皮膚炎、あせも、かぶれ、かゆみ、虫さされ、じんましんを効能又は効果とすることが記載されている。

(3)甲第3号証
摘示事項
(3)-1 「(A)エステル系ステロイド(B)酢酸トコフェロール、ビタミンA油、尿素、クロタミトン、イソプロピルメチルフェノール、アミノ安息香酸エチル、塩酸リドカイン、リドカイン、塩酸ジブカイン、ジブカイン、カンフル、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、メントール、塩化ベンゼトニウム、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸、塩酸クロルヘキシジン、アラントイン、酸化亜鉛、ユーカリ油、トウキ軟エキス、ヘパリン類似物質、シコン軟エキスから選ばれる一種又は二種以上の生理活性成分を含有することを特徴とする、皮膚外用剤組成物。」(請求項1)
(3)-2 「本発明は、皮膚外用剤及び湿疹薬に関し、特に、アトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症等の伴う、肌荒れの予防および改善に用いられるものである。」(段落0001)
(3)-3 「食生活の欧米化、生活環境の変化、高齢化及びストレスの増大等に伴い、さまざまな皮膚疾患、特にアトピー性皮膚炎、敏感肌、乾燥性皮膚症になる人が増加の一途を辿っている。これらの疾患には強いそう痒や肌荒れが伴い、その治療には、クロタミトンや抗ヒスタミン剤等の鎮痒成分を有効成分とする外皮用薬が広く用いられている。」(段落0002)
(3)-4 「しかしながら、クロタミトンや抗ヒスタミン剤等の鎮痒成分を有効成分とする外皮用薬による効果は、強いそう痒や肌荒れの改善に対しては充分なものではなかった。即ち、クロタミトンや抗ヒスタミン剤が配合された外皮用薬では、痒みを抑える効果はある程度期待できるが、その作用発現時間が遅く、またその作用時間も短いため、頻回の塗布が必要であると共に、肌荒れの改善が乏しいという問題を有していた。」(段落0003)
(3)-5 「また、主に保湿剤等を配合した医薬部外品、化粧品では皮脂量や水分がすくないことに起因する肌荒れにはある程度有効であるが、皮脂量が多く落屑が認められるような肌荒れに対してはほとんど効果がなく、広範囲のタイプの肌荒れの改善に充分な効果を期待することができないという問題を有していた。」(段落0004)
(3)-6 「本発明によれば、(A)と(B)を併用したことにより、アトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症に伴う荒れ肌を改善することができる。」(段落0009)
(3)-7 「・・・本発明の皮膚外用剤において、(A)成分であるエステル系ステロイドとしては、「酪酸クロベタゾン・・・吉草酸酢酸プレドニゾロン、・・・吉草酸ベタメタゾン・・・などが挙げられる。・・・」(段落0010)」
(3)-8 「表1?4に示す処方について、70℃に加熱した酪酸クロベタゾン(A)と油溶性の(B)成分を含有する油相成分を、同じく70℃に加熱した水溶性の(B)成分を含有する水相成分に加えて乳化してクリームを作成し、以下の試験を行った。なお、表中の配合量の単位は、全て質量%である。
<アトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症に伴う肌荒れ改善試験>
アトピーモデル動物を用いて、肌荒れ改善効果を評価した。アトピーモデル動物には、広く研究に用いられるNC/Ngaマウスを用いた。市販の雄性NC/Ngaマウス(日本クレア株式会社)を6週齢で購入し、温度23±1℃、湿度60±10%、明暗サイクルを(7:00?19:00(明)→19:00?7:00(暗))としたSPF(Specific Patbogen Free:無菌特殊環境)下で、通常の餌(日本農産工業株式会社製、商品名「CE2」)と水を自由摂取させて、剃毛背部皮膚に1mg/mLの抽出ダニ抗原(株式会社エル・エス・エル製)の外用を週2回、計4週間行って皮膚症状を誘導し、実験に供した。
上記皮膚荒れ肌症状を発症させたマウスを検体とし、発症部位の一部に実施例1?28および比較例1?2の各サンプル(皮膚外用組成物)0.2mLを、絵筆を用いて塗布し、1日2回、3日間連続塗布した後、塗布部位の荒れ肌の回復状態を、非塗布部位と比較して判定した。
その結果、(A)酪酸クロベタゾン及び(B)の薬物を含有する本発明の組成物(実施例1?28)は、(A)のみを配合した比較例2、(B)のみを配合した比較例1と比較し、良好な結果が得られた。」(段落0015)
(3)-9 表1?表4は以下のとおりである。



5.当審の判断
5-1 申立理由1について
(1)請求項1に係る発明について
甲第1号証には、摘示事項(1)-1、(1)-2からみて、「100g中プレドニゾロン0.25g、グリチルリチンアンモニウム塩1g、塩酸ジフェンヒドラミン0.5g、カラミン10gの組成を有する、湿疹、アトピー性皮膚炎、じんましん、かゆみ症に適応する、患部に塗布する軟膏剤であるコーチメントP(商品名)」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

請求項1に係る発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1のプレドニゾロンと、請求項1に係る発明の(A)酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、フランカルボン酸モメタゾン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酢酸ジフロラゾンから選ばれる一種のステロイドはともに、ステロイド化合物である点で一致する。また、引用発明1のグリチルリチンアンモニウム、請求項1に係る発明のグリチルリチン酸ジカリウムはともに、グリチルリチン酸塩である。
また、請求項1に係る発明は、上記以外の成分の配合を除外していないので、引用発明1が、さらに、カラミンを含む点は、相違点たりえない。

よって、両者は、「ステロイド化合物とジフェンヒドラミン塩酸塩とグリチルリチン酸塩を含む、皮膚外用剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
ステロイド化合物について、請求項1に係る発明では、(A)酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、フランカルボン酸モメタゾン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酢酸ジフロラゾンから選ばれる一種のステロイドであるのに対し、引用発明1では、プレドニゾロンである点

相違点2
グリチルリチン酸塩について、請求項1に係る発明では、グリチルリチン酸ジカリウムであるのに対し、引用発明1では、グリチルリチンアンモニウム塩である点

(ア)相違点1について
甲第1号証は、昭和49年末から昭和52年末日までに入手した添付文書を編集したものであり(摘示事項(1)-1)、コーチメントP(商品名)は、甲第1号証の外皮用薬の鎮痛・鎮痒・収れん・消炎剤の項に記載されているから、該用途に有効な医薬品として甲第1号証の発行当時市販されていた医薬品と認められる。そして、該医薬品について、改善すべき課題や克服すべき問題があったことは甲第1号証に記載されていないし、また、本願出願時に、上記課題や問題が存在していたとの技術常識があったことを示す証拠も見当たらないから、引用発明1について、その組成を変更すべきとの動機付けがあったと認めることはできない。
仮に、鎮痒消炎薬について、常に改善が検討されるものである、との技術常識が存在していたとしても、市販薬である甲第1号証記載のコーチメントP(商品名)に含まれている4成分のうちのいずれかの成分を置き換えるべきであるとか、あるいは、如何なる成分に置き換えるべきかについて、甲第1号証には記載も示唆もないから、当業者といえども、引用発明1のいずれの成分を置き換えるかについて甲第1号証の記載からなんらかの着想を得られるものと認めることはできない。
また、甲第2号証は、鎮痒消炎薬の製造販売承認基準について、とタイトルに記載があるように(摘示事項(2)-1)、鎮痒消炎薬の製造販売承認基準を示したものであり、該基準は、摘示事項(2)-1、(2)-2の記載から、副腎皮質ホルモン又は抗ヒスタミン薬を主体とする鎮痒消炎薬について該製造販売承認申請を行う品目が、別紙 基準に記載されている有効成分の種類・分量、剤形、用法及び用量、及び効能又は効果の基準に適合する場合には、申請者にさらなる有効性、安全性及び配合理由についての資料の提出を求めることなく審査されるというものであり、別紙 鎮痒消炎薬の製造販売承認基準の別表の各欄に記載されている成分が、互いに同様の性質や作用・効果を有し、鎮痒消炎剤成分として置き換え可能であることを意味するものではない。
よって、甲第1号証に接した当業者が、さらに、甲第2号証の記載事項(摘示事項(2)-2?(2)-5)に接したとしても、引用発明1におけるプレドニゾロンを、同刊行物のI欄に記載されている有効成分であるプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルに置き換えることを上記当業者が着想すると認めることはできない。
特許異議申立人は、甲第2号証の別表I欄に、プレドニゾロンとともにプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルが記載されているから、甲第1号証記載の一般用医薬品コーチメントP(商品名)のプレドニゾロンに換えて吉草酸酢酸プレドニゾロンを採用することは当業者が容易に想到しえたと主張しているが、上記のとおり、甲第2号証の記載事項は、皮膚外用剤の組成を変更することについて技術的な知見を記載するものでも、また示唆を与えるものでもないから、かかる主張は理由がない。
また、甲第3号証には、従来、アトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症などの治療に用いられていたクロタミトンや抗ヒスタミン等の鎮痒成分や保湿剤等を配合した外皮用薬は、肌荒れの改善効果が乏しいとの問題意識の下、請求項1記載の(A)成分と(B)成分とを併用したことにより、アトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症に伴う荒れ肌を改善できたことが記載されている(摘示事項(3)-2、(3)-6)。甲第3号証記載の皮膚外用剤組成物を構成する(A)成分は、エステル系ステロイドである。一方、甲第1号証記載の一般用医薬品コーチメントP(商品名)の成分であるプレドニゾロンはエステル系ステロイドではない。そして、甲第3号証には、エステル系ステロイド以外のステロイド化合物を、(A)成分のエステル系ステロイドと同様に皮膚外用剤組成物を構成する成分として使用し得ることは記載も示唆もされていないから、当業者が引用発明1の改善を検討したとしても、エステル系ステロイドを配合する皮膚外用剤組成物である甲第3号証の記載事項を参酌し、エステル系ステロイドではない引用発明1のプレドニゾロンをエステル系ステロイドに置き換えることを格別の創意工夫を要することなくなし得たと認めることはできない。
特許異議申立人は、甲第3号証には、塩酸ジフェンヒドラミンやグリチルリチン酸ジカリウムなどの生理活性成分と併用するステロイドとして、酪酸クロベタゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、吉草酸ベタメタゾンが記載されているから、甲第1号証記載の一般用医薬品コーチメントP(商品名)のプレドニゾロンに換えて上記甲第3号証記載の成分を採用することは当業者が容易に想到しえたと主張している。
しかし、プレドニゾロンはエステル化ステロイドではなく、甲第3号証の記載をみても、引用発明1のプレドニゾロンを甲第3号証記載のエステル系ステロイドに置き換え可能であると認められないことは上記説示のとおりであるから、かかる主張には理由がない。

したがって、相違点1について格別の創意工夫を要することなくなし得たこととはいえないから、さらに相違点2についてその容易想到性を論ずる余地はないが、念のため、以下、相違点2について検討する。

(イ)相違点2について
(ア)で検討したとおり、甲第2号証の記載事項は、製造販売承認申請を行う品目が、別紙 基準に記載されている有効成分の種類・分量、剤形、用法及び用量、及び効能又は効果の基準に適合する場合には、申請者にさらなる有効性、安全性及び配合理由についての資料の提出を求めることなく審査されるというものにすぎないから、その別表IV欄にグリチルリチン酸の塩が、同I欄にプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルが記載されているからといって、I欄に記載のプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルとIV欄記載のグリチルリチン酸塩を組合わせて用いることが教示、示唆されていると認めることはできない。
また、甲第3号証には、(A)エステル系ステロイド、と併用する(B)生理活性成分の一例として、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムなどのグリチルリチン酸塩が記載されているが、エステル系ステロイドとは異なるものである引用発明1のプレドニゾロンと(B)の生理活性成分を併用することについては記載も示唆もない。
しかも、甲第3号証には、(B)成分として、グリチルリチン酸塩以外に種々の生理活性成分が列挙されており(摘示事項(3)-1)、それら各成分について、(A)成分と組合わせるに際して選択の目安となるような記載や示唆はないし、また、(B)成分同士の組合わせについてもなんら選択の目安となるような記載も示唆もない。
そして、具体的な組成物についてみても、表1?4に、実施例1?28として、(A)酪酸クロベタゾンと種々の(B)成分とを組み合わせた組成物が記載されており(摘示事項(3)-9)、たとえば、(B)成分にグリチルレチン酸を含有する組成物として、グリチルリチン酸ジカリウム、酢酸トコフェロール、及び尿素を含有する例(実施例1)、グリチルリチン酸ジカリウム、ユーカリ油、酢酸トコフェロール、及びビタミンA油を含有する例(実施例5)、グリチルリチン酸ジカリウム、及びアミノ安息香酸エチルを含有する例(実施例13)、グリチルリチン酸ジカリウム、及びリドカインを含有する例(実施例15)、グリチルリチン酸ジカリウム、酸化亜鉛、及び酢酸トコフェロールを含有する例(実施例19)が、また、塩酸ジフェンヒドラミンを含有する組成物として、塩酸ジフェンヒドラミン、カンフル、メントール、及びサリチル酸メチルを含有する例(実施例16)、塩酸ジフェンヒドラミン、及び塩酸ジブカインを含有する例(実施例17)、グリチルレチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、及び酢酸トコフェロールを含有する例(実施例22)、グリチルレチン酸、クロタミトン、イソプロピルメチルフェノール、アラントイン、及び塩酸ジフェンヒドラミンを含有する例(実施例23)、トウキ軟エキス、クロタミン、イソプロピルメチルフェノール、塩酸ジフェンヒドラミン、カンフル、及びメントールを含有する例(実施例24)、グリチルレチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、酢酸トコフェロール、尿素、及び塩酸リドカインを含有する例(実施例26)が記載されている。そして、上記した実施例1?28のクリーム剤組成物は、抽出ダニ抗原により皮膚肌荒れを発症させたマウスの肌荒れ回復試験において、(B)成分として、グリチルリチン酸ジカリウム、塩酸ジフェンヒドラミンを含有しているか否かにかかわらず、いずれも、(A)成分として酪酸クロベタゾンのみを配合した比較例2、又は、(B)成分(当審注:グリチルリチン酸ジカリウム、酢酸トコフェロール、及び尿素)のみを配合した比較例1と比較して、良好な結果が得られたことが記載されている。
しかし、実施例には、グリチルリチン酸ジカリウムと塩酸ジフェンヒドラミンをともに含有する組成物は記載されていないし、また、先に挙げたグリチルリチン酸ジカリウム、もしくは塩酸ジフェンヒドラミンを含有する組成物も、各々、(B)成分として列挙されている他の成分をさらに含むものであるから、(B)成分のうちのいずれかの成分が(A)成分との組合わせにおいて特に良好な結果をもたらすとか、(B)成分のうちの特定の2成分の組合せが特に良好な結果をもたらすといったことが、甲第3号証に記載されている、あるいは示唆されているとはいえない。
そうすると、当業者といえども、(B)成分として列挙されている多数の成分から、グリチルリチン酸ジカリウムに、さらには、グリチルリチン酸ジカリウムと塩酸ジフェンヒドラミンとの組合わせに着目できるとはいえないから、引用発明1のグリチルリチンアンモニウム塩に代えて、あるいはグリチルリチンアンモニウム塩とともに、甲第3号証に記載された事項に基いて、グリチルリチン酸ジカリウムを採用することは当業者が格別の創意工夫を要することなくなし得たものとはいえない。

以上のとおり、相違点2についても当業者が格別の創意工夫を要することなくなし得たものと認めることはできない。

(ウ)効果について
本件明細書には、皮膚の蒼白化は、ステロイド薬物の移行量に応じた強度で起こること(段落0013)、また、パッチテストによる皮膚蒼白化試験により、ステロイドの血管収縮作用による皮膚の蒼白化反応の強度を指標にして、各試料のステロイドの経皮吸収性の比較を行い、本件請求項1の(A)成分と(B)成分とを含有する皮膚外用剤組成物が適用された場合に、(A)成分単独の場合に比べて蒼白度が増強したとの試験結果が記載されている(段落0026?0029、表2)。
そして、上記試験結果は、ステロイド以外の成分、すなわちジフェンヒドラミン塩酸塩及びグリチルリチン酸ジカリウムが血管収縮作用を有しないことを考慮すると当業者が予測し得ないものであり、また、本件請求項1に列挙されている(A)ステロイド成分を含有するすべての皮膚外用組成物について記載されているから、請求項1に包含されるすべての発明について示されたものである、といえる。
本件明細書には、さらに、(A)成分と(B)成分を含有したことにより、(A)成分のステロイドの経皮吸収性が向上した皮膚外用剤組成物を提供することができるという利点を有する、との記載がある(段落0008)。
以上の本件明細書の記載によれば、本件明細書には、本件請求項1に係る発明は、そのすべての範囲について、ステロイドの経皮吸収性が向上するとの効果を達成できることが記載されているに等しいといえる。
一方、甲第1号証には、引用発明1が、湿疹、アトピー性皮膚炎、じんましん、かゆみ症に適応できることが、甲第2号証には、同号証記載の基準に適合した承認申請薬剤は鎮痒消炎効果を有することが、そして、甲第3号証には、同号証記載の皮膚外用剤がアトピー性皮膚炎、敏感肌及び乾燥性皮膚症に伴う肌荒れを改善することができることが、それぞれ記載されている。しかし、(A)成分と(B)成分を含有したことにより、(A)成分のステロイドの経皮吸収性が向上した皮膚外用剤組成物を提供することができるという本件明細書記載の本件請求項1に係る発明の効果は、上記いずれの証拠にも記載されていないから、当該効果は当業者が予測可能なものではない。
特許異議申立人は、本件明細書記載の上記試験は、蒼白強度を指標として皮膚炎等に対する臨床効果が向上することを間接的に示そうとするものであり、ステロイドにジフェンヒドラミン塩酸塩及びグリチルリチン酸ジカリウムを含有した組成物が、ステロイドのみを用いた場合よりも皮膚炎に対して優れた効果を示すことは甲第3号証に教示、示唆されており、本件請求項1に係る発明の効果は、2成分系クリームと比較して優れた効果が確認されている一部の特定の組合せを除き、当業者にとって予測し得たことであると主張している。
しかし、本件明細書には、上記説示のとおり、本件請求項1に係る発明は、そのすべての範囲にわたり、(A)成分のステロイドの経皮吸収性が向上した皮膚外用剤組成物を提供することができるとの効果を奏することが明らかにされており、また、その効果は、2成分系クリームとその効果を比較するまでもなく当業者が予測し得ないものである。
これに対し、甲第3号証は、同号証記載の皮膚外用剤がアトピー性皮膚炎などの症状に伴う肌荒れを改善できることを教示するにとどまり、(A)ステロイドに(B)ジフェンヒドラミン塩酸塩及びグリチルリチン酸ジカリウムを含有した場合に、ステロイドの経皮吸収性が向上することができるという本件明細書記載の本件請求項1に係る発明の効果までをも教示するものではない。
したがって、請求項1に係る発明は、上記説示した理由により、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用しさらに限定した発明であるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5-2 申立理由2について
(1)請求項1に係る発明について
甲第3号証には、摘示事項(3)-1の記載からみて、「(A)エステル系ステロイド(B)酢酸トコフェロール、ビタミンA油、尿素、クロタミトン、イソプロピルメチルフェノール、アミノ安息香酸エチル、塩酸リドカイン、リドカイン、塩酸ジブカイン、ジブカイン、カンフル、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、メントール、塩化ベンゼトニウム、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸、塩酸クロルヘキシジン、アラントイン、酸化亜鉛、ユーカリ油、トウキ軟エキス、ヘパリン類似物質、シコン軟エキスから選ばれる一種又は二種以上の生理活性成分を含有する、皮膚外用剤組成物。」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。
当該組成物について、(A)成分として段落0010に例示されているエステル系ステロイドの中から、酪酸クロベタゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、吉草酸ベタメタゾンを選択するとともに、(B)成分として請求項1に記載されている種々の生理活性成分の中から、塩酸ジフェンヒドラミンとグリチルリチン酸ジカリウムとを選択する皮膚外用剤組成物(以下、「特定の組成物」という。)は、本件請求項1に係る組成物に一応相当する。
しかし、前記5-1(1)(イ)で説示したとおり、甲第3号証には、(B)成分として、塩酸ジフェンヒドラミンとグリチルリチン酸ジカリウムとを組み合わせた組成物について具体的に記載はないし、列挙された種々の(B)成分のうち、特に、塩酸ジフェンヒドラミンとグリチルリチン酸ジカリウムとの組合わせに着目し、該組合わせからなる(B)成分を(A)成分と共に含有する皮膚外用剤組成物を調製すべきことを示唆する記載はない。
そして、該特定の組成物が、甲第3号証の記載事項から当業者が予測し得ない顕著な作用、効果を奏するものであることが明らかにされているといえることは、前記5-1(1)(ウ)で説示したとおりである。
したがって、該特定の組成物が、実質的に記載されていたとはいえないので、本件請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用しさらに限定した発明であるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明であるとはいえない。

5-3 申立理由3について
(1)請求項1に係る発明について
甲第3号証には、前記5-2(1)で説示したとおり、引用発明3が記載されていると認める。

請求項1に係る発明と引用発明3とを対比すると、両者は、「(A)ステロイド化合物と(B)生理活性成分を含有することを特徴とする、皮膚外用剤組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3
ステロイド化合物について、請求項1に係る発明では、(A)酪酸クロベタゾン、プロピオン酸アルクロメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、吉草酸酢酸プレドニゾロン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、フランカルボン酸モメタゾン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酢酸ジフロラゾンから選ばれる一種のステロイドであるのに対し、引用発明3では、エステル系ステロイドである点

相違点4
生理活性成分について、請求項1に係る発明では、ジフェンヒドラミン塩酸塩及びグリチルリチン酸ジカリウムを含有するのに対し、引用発明3では、酢酸トコフェロール、ビタミンA油、尿素、クロタミトン、イソプロピルメチルフェノール、アミノ安息香酸エチル、塩酸リドカイン、リドカイン、塩酸ジブカイン、ジブカイン、カンフル、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、メントール、塩化ベンゼトニウム、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸、塩酸クロルヘキシジン、アラントイン、酸化亜鉛、ユーカリ油、トウキ軟エキス、ヘパリン類似物質、シコン軟エキスから選ばれる一種又は二種以上の成分である点

(ア)相違点3について
甲第3号証には、(A)エステル系ステロイドとして、段落0010に、たとえば、酪酸クロベタゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、吉草酸プレドニゾロンなどが記載されており、該化合物を、(A)成分として選択することは当業者が容易になしうるところと認める。

(イ)相違点4について
甲第3号証には、(A)成分と組合わせる(B)成分として、種々の化合物が挙げられている(摘示事項(3)-1)。しかし、甲第3号証に記載された組成物例をみても、前記5-1(1)(ア)において説示したとおり、(B)成分として、ジフェンヒドラミン塩酸塩を含む組成物が実施例16、17、22,23,24、26に、また、グリチルリチン酸ジカリウムを含む組成物が実施例1、5、13、15、19に記載されているが、(B)成分としてジフェンヒドラミン塩酸塩とグリチルリチン酸ジカリウムとを併用した組成物については甲第3号証に記載も示唆もない。
そして、甲第2号証に記載された事項は、前記5-1(1)(ア)において説示したとおり、皮膚外用剤の組成を変更することについて技術的な知見を記載するものでも、また示唆を与えるものでもないから、当業者が、甲第2号証をあわせみたとしても、ジフェンヒドラミン塩酸塩とグリチルリチン酸ジカリウムの併用を格別の創意工夫を要することなくなし得たこととはいえない。
特許異議申立人は、甲第2号証の承認基準に適合する成分組成であれば、有効性、安全性を有する或いはその蓋然性が高いと当業者は理解することができるから、甲第3号証の請求項1に記載された発明のうち、甲第2号証の記載に照らして十分な有効性及び安全性を有すると理解できる組合わせである、ジフェンヒドラミン塩酸塩とグリチルリチン酸ジカリウムとを用いることについて、阻害要因は存在しないし、当業者にとって格別困難であったとは認められないと主張しているが、前記5-1(1)(イ)において説示したように、甲第2号証は、そこに記載の成分同士を組合わせて用いることを教示、示唆するものではないから、かかる主張は理由がない。

(ウ)効果について
本件明細書記載の蒼白化反応の強度についての試験結果から、本件の請求項1に係る発明は、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものであることが明らかにされているといえることは、前記5-1(1)(ウ)においてすでに説示したとおりである。
特許異議申立人は、本件請求項1に係る発明の効果は、甲第3号証に教示、示唆されており、2成分系クリームと比較して優れた効果が確認されている一部の特定の組合せを除き、当業者にとって予測し得たことであると主張しているが、上記5-1(1)(ウ)に記載したのと同様の理由により、併用による効果は当業者の予測し得たものとはいえず、また、請求項1に係る発明のすべての範囲について確認することができるから、かかる主張は理由がない。

したがって、請求項1に係る発明は、上記説示した理由により、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用しさらに限定したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載された事項に基いて
当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-18 
出願番号 特願2012-164456(P2012-164456)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A61K)
P 1 652・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新熊 忠信山村 祥子  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 山本 吾一
穴吹 智子
登録日 2016-07-01 
登録番号 特許第5961062号(P5961062)
権利者 岩城製薬株式会社
発明の名称 皮膚外用剤組成物  
代理人 結田 純次  

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