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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1329094 |
異議申立番号 | 異議2017-700307 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-27 |
確定日 | 2017-06-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5998508号発明「含フッ素樹脂積層フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5998508号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5998508号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成24年2月14日(優先権主張 平成23年2月21日)を出願日として特許出願され、平成28年9月9日に特許の設定登録がされ、平成29年3月28日にその特許に対し、特許異議申立人金山愼一(以下、単に「異議申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5998508号の請求項1ないし9に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも樹脂Aを含む層および樹脂Bを含む層を含み、下記(1)および(2)を満足し、少なくとも片方の面がアセトンに対する耐性を有する含フッ素樹脂積層フィルム。 (1)樹脂Aが芳香族ポリアミドであり、アセトンに対する耐性を有する。 (2)樹脂Bが化学式(I)で示される構造単位を含む。 【化1】 【請求項2】 樹脂AがN-メチル-2-ピロリドンに少なくとも5質量%可溶である、請求項1に記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 【請求項3】 樹脂Aが化学式(II)で示される構造単位を含む、請求項1または2に記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 【化2】 R^(1):化学式(III)で示される基。 R^(2):芳香族基 【化3】 R^(3):直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の基 R^(4):直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の基 【請求項4】 樹脂Aが化学式(IV)で示される構造単位を含む、請求項1?3のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 【化4】 R^(5):直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の基 R^(6):直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の基 R^(7):芳香族基 【請求項5】 樹脂Bが化学式(V)?(VIII)で示される構造単位をすべて含む、請求項1?4のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 【化5】 【化6】 R^(8):SO_(2)、C(CF_(3))_(2)、または、O-Ph-SO_(2)-Ph-O 【化7】 R^(9):H、ClまたはF 【化8】 【請求項6】 化学式(V)で表される構造単位のモル分率をa、化学式(VI)で表される構造単位のモル分率をb、化学式(VII)で表される構造単位のモル分率をc、化学式(VIII)で表される構造単位のモル分率をdとしたとき、a、b、cおよびdが次式(3)?(5)を満足する、請求項5に記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 0<a<50 ・・・(3) 0<c<50 ・・・(4) 0.9≦(c+d)/(a+b)≦1.1 ・・・(5) 【請求項7】 下記(6)?(8)を満足する、請求項1?6のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層フィルム。 (6)400nmの光の光線透過率が60%以上である。 (7)ガラス転移温度が260℃以上である。 (8)フィルムの少なくとも1方向の100℃?200℃の平均熱膨張係数が-20ppm/℃以上20ppm/℃以下である。 【請求項8】 樹脂Aの有機溶媒溶液および樹脂Bの有機溶媒溶液を口金から押し出す工程を有する、請求項1?7のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層フィルムの製造方法。 【請求項9】 マルチマニホールド口金を用いる、請求項8に記載の含フッ素樹脂積層フィルムの製造方法。」 以下、特許第5998508号の請求項1ないし9に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。 第3 特許異議の申立ての概要 1.異議申立人は、証拠として国際公開第2003/058306号(以下、「甲1」という。)、特開2000-309634号公報(以下、「甲2」という。)、高分子論文集、51巻4号、251?257頁(以下、「甲3」という。)、特開2009-79210号公報(以下、「甲4」という。)、特開2010-59392号公報(以下、「甲5」という。)、国際公開第2010/083534号(以下、「甲6」という。)、特表2012-515664号公報(以下、「甲7」という。)、国際公開第2005/102681号(以下、「甲8」という。)、特開平9-11348号公報(以下、「甲9」という。)、特開平5-309785号公報(以下、「甲10」という。)、特開2005-15790号公報(以下、「甲11」という。)、国際公開第2004/039863号(以下、「甲12」という。)、特開2005-23106号公報(以下、「甲13」という。)、を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおり主張している。 2.特許法第29条第2項について (1)請求項1ないし9に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。 (2)請求項1ないし9に係る発明は、甲5に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。 第4 甲1ないし甲13の記載、甲1に記載された発明及び甲5に記載された発明 1.甲1の記載 甲1には、以下のとおりの記載がある。(下線は当審によるものを含む。) (1)「1. コアとクラッドがポリマー材料で構成されているポリマー光導波路フィルムにおいて、表面及び裏面の少なくとも一方に前記クラッドより耐溶剤性に優れたポリマー材料からなる保護層を設けたことを特徴とするポリマー光導波路フィルム。 ・・・ 3. コア及びクラッドを構成するポリマー材料が、フッ素を含むポリイミド系樹脂からなり、耐溶剤性に優れたポリマー材料が、フッ素を含まないポリイミド系樹脂からなる請求の範囲第1又は2項に記載のポリマー光導波路フィルム。」(特許請求の範囲 請求項1?3) (2)「先に述べたようにフッ素を含むポリイミド系樹脂を用いることにより、ガラスなどの無機材料を用いるものに比べて簡便なプロセスで光学特性に優れた光学装置を得ることができる。しかしながら、光導波路フィルムの製造工程でクラッド層表面に傷が発生したり、基板とフッ素を含むポリイミド系樹脂フィルムとの接着力が低いために製造工程の途中でフィルムが基板から剥離してしまうことがある。さらに、フッ素を含むポリイミド系樹脂は耐溶剤性が劣るため、洗浄工程で使用できる溶剤が極めて制限され、アセトンのような汎用溶剤を使用した場合にはクラックを生じてしまうという問題がある。 発明の開示 従って、本発明の目的は、クラッドに傷が発生することが少なく、更に耐溶剤性に優れ、アセトンのような汎用溶剤と接触してもクラックを生じることのないポリマー光導波路フィルムを提供することである。 本発明の他の目的は、ポリマー光導波路フィルムの製造工程でクラッド表面に傷が発生したり、フィルムが基板から剥離してしまうことがなく、更に洗浄工程において、アセトンのような汎用溶剤を使用してもクラックを生じることのない、ポリマー光導波路フィルムの製造方法を提供することである。」(第2頁13行目?第3頁4行目) (3)「本発明のポリマー光導波路フィルムのコア及びクラッドを構成するポリマー材料としては、ポリイミド系樹脂、特にフッ素を含むポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ゾルゲル、シリコン変性ポリマー等が挙げられ、中でもフッ素を含むポリイミド系樹脂が好ましい。 フッ素を含むポリイミド系樹脂としては、フッ素を含むポリイミド樹脂、フッ素を含むポリ(イミド・イソインドロキナゾリンジオンイミド)樹脂、フッ素を含むポリエーテルイミド樹脂、フッ素を含むポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。 本発明のポリマー光導波路フィルムにおいて、耐溶剤性保護層を構成するポリマー材料としては、フッ素を含まないポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。 上記フッ素を含むポリイミド系樹脂の前駆体溶液は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させることにより得られる。フッ素は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの両者に含まれていても良いし、いずれか一方にのみ含まれていてもよい。」(第5頁12行目?第6頁2行目) (4)「フッ素を含むジアミンとしては、・・・2,2′-ビス(トリフルオロメチル)-4,4′-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。」(第7頁5行目?第8頁23行目) (5)「本発明において、特定のポリマーがクラッドより耐溶剤性に優れたポリマーであるかどうかの判定は、アセトンにより評価する。標的ポリマー片を40℃に保持し、アセトンを一滴滴下し、10分放置後、滴下範囲のポリマー表面を顕微鏡で観察する。ポリマー表面がアセトンにより溶解または膨潤を起こしていない場合にはさらにクラックの有無を観察して、クラックが全く発生していない場合には優れていると判定し、少しでも発生している場合は優れていないと判定する。なお、アセトンにより溶解または膨潤を起こしている場合には不良品として更なるクラックの有無の判定は行わない。」(第11頁16?23行目) 2.甲1に記載された発明 甲1には、上記摘示1.(1)から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「コアとクラッドがフッ素を含むポリイミド系樹脂で構成されているポリマー光導波路フィルムにおいて、表面及び裏面の少なくとも一方に前記クラッドより耐溶剤性に優れたフッ素を含まないポリイミド系樹脂からなる保護層を設けたポリマー光導波路フィルム。」 3.甲5の記載 甲5には、以下のとおりの記載がある。(下線は当審による。) (1)「【請求項1】 フィルム面内の1方向およびこれと直交する方向について両方向共に、100℃?200℃の熱膨張係数の平均が0ppm/℃以上10ppm/℃以下である方向が少なくとも1組存在し、かつ400nmから500nmまでの全ての波長の光の光線透過率が80%以上である、ポリマー構造中に塩素原子を含有しない全芳香族ポリアミドフィルム。 ・・・ 【請求項4】 臭化リチウムを5質量%含むN-メチル-2-ピロリドン溶液に5質量%以上溶解可能である、請求項1?3のいずれかに記載の全芳香族ポリアミドフィルム。 ・・・ 【請求項6】 化学式(I)?(IV)で示される構造単位を含み、化学式(I)で表される構造単位のモル分率をa、化学式(II)で表される構造単位のモル分率をb、化学式(III)で表される構造単位のモル分率をc、化学式(IV)で表される構造単位のモル分率をdとし、a+b=50としたとき、a、b、cおよびdが次式(1)?(3)を満足する、請求項1?5のいずれかに記載の全芳香族ポリアミドフィルム。 【化1】 【化2】 R^(1):SO_(2)、C(CF_(3))_(2)、またはO-Ph-SO_(2)-Ph-O 【化3】 R^(2):HまたはF 【化4】 40≦a≦45 ・・・(1) 30≦c≦50 ・・・(2) 0.9≦(c+d)/(a+b)≦1.1 ・・・(3)」(請求項1、4、6) (2)「【0002】 芳香族ポリアミドはその高い耐熱性、機械強度から工業材料として有用なポリマーである。特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと記すことがある)に代表されるようなパラ配向性芳香核からなる芳香族ポリアミドはその剛直性から上記特性に加え強度、弾性率に優れた成形体を与えるのでその利用価値は高い。しかしながらPPTAのごときパラ配向性芳香族ポリアミドは黄色に着色しており、また溶媒に対する溶解性が低く、硫酸等極めて限定された溶媒にしか溶解しない。このためプロセス上の制約が大きく、特許文献1に記載された特殊な成形法による必要があり、その改善が求められている。」(段落【0002】) (3)「【0008】 本発明により、熱膨張係数が小さく、かつ高い透明性を有するフィルムを得ることができるため、各種表示材料や回路基板用に好適な芳香族ポリアミドフィルムを提供することが可能となる。また、ポリマー構造中に塩素原子を含まないため、他素材との密着性に優れた芳香族ポリアミドフィルムを得ることができる。」(段落【0008】) (4)「【0091】 また、上述した全芳香族ポリアミドやそのコポリマーを含む層を少なくとも1層含む積層体とすることも好ましい。この場合、全芳香族ポリアミドやそのコポリマーを含む層以外の層としては、例えば銅箔、ステンレス箔などの金属箔、ガラス、シリコン、インジウムをドープした酸化スズ(ITO)などが挙げられる。また、上述した全芳香族ポリアミドやそのコポリマーを含む成形体とすることも好ましい。この場合、成形体としてはマイクロレンズアレイ、プリズムシートなどが挙げられる。 【0092】 上述の全芳香族ポリアミドから得られるフィルム(全芳香族ポリアミドフィルム)は単層フィルムでも、積層フィルムであってもよい。また、本発明の全芳香族ポリアミドフィルムは、フレキシブルプリント基板、光電複合回路基板、光導波路基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板、表示材料基板、透明導電フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、コンデンサー、プリンターリボン、音響振動板、太陽電池、光記録媒体、磁気記録媒体のベースフィルム等種々の用途に好ましく用いられる。」(段落【0091】、【0091】) (5)「【0107】 (4)溶解性 臭化リチウム5質量%含有のN-メチル-2-ピロリドンにポリマーを5質量%溶解し、25℃で2週間放置後も流動性を保つものを溶解性「○」と評価した。」(段落【0107】) 4.甲5に記載された発明 甲5には、摘示3.(1)から、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。 「化学式(I)?(IV)で示される構造単位を含み、化学式(I)で表される構造単位のモル分率をa、化学式(II)(記載は省略)で表される構造単位のモル分率をb、化学式(III)(記載は省略)で表される構造単位のモル分率をc、化学式(IV)(記載は省略)で表される構造単位のモル分率をdとし、a+b=50としたとき、a、b、cおよびdが次式(1)?(3)(記載は省略)を満足し、フィルム面内の1方向およびこれと直交する方向について両方向共に、100℃?200℃の熱膨張係数の平均が0ppm/℃以上10ppm/℃以下である方向が少なくとも1組存在し、かつ400nmから500nmまでの全ての波長の光の光線透過率が80%以上である、ポリマー構造中に塩素原子を含有しない全芳香族ポリアミドフィルム。 【化1】 」 5.甲2ないし甲4、及び、甲6ないし甲13の記載 (1)甲2には、ポリイミドにフッ素を加え、透明性を向上させて光導波路等の材料とすること、ポリマー化合物が、フッ素量が増量されるに従い耐溶剤性が低下して形成した膜や導波路がエッチング後の溶剤等で溶解したり、クラックが入るという問題があること(段落【0002】)2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル残基を有するポリイミドが、アセトンに対し耐性を有さないこと(比較例5)が記載されている。 (2)甲3には、ポリイミドにトリフルオロメチル基を導入することによって、ポリイミドの特性は大きく変化し、溶媒溶解性が増大すること、TFDB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-ビフェニル)の2つのトリフルオロメチル基のような含フッ素基が分子内で立体障害を起こし、分子鎖間のパッキングを起こしにくいコンホメーションとすることによると考えられる旨の記載がある(256頁左欄26行目?39行目)。 (3)甲4には、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル基を含む芳香族ポリアミドが記載され(請求項1)、溶解性に優れること(段落【0011】)、N-メチル-2-ピロリドンのような有機溶媒に溶解性を示すこと(段落【0028】、【0056】)が記載されている。 (4)甲6には、最上部フィルムと、装飾光沢模様を備えるインモールド装飾積層体であって、最上部フィルムは、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステルからなる群から選ばれる半晶質ポリマーであること(請求項1)、これらのポリマーは、一般的な有機溶剤に対する高い耐性を有すること(第11頁段落[0050])が記載され、実施例1では、脂環式ポリアミド(TROGAMID)(登録商標))が耐アセトン性を有することが記載されている。なお、甲7は、本願の優先権主張日後に公表された、甲6に対応する日本語の公表特許公報である。 (5)甲8には、脂肪族ポリアミドからなる(a)層、及び特定の半芳香族ポリアミドからなる(b)層を有する高温薬液及び/又はガス搬送用積層ホースが記載され(請求項1)、上記積層ホースが、耐薬品性に優れること(第3頁下から4行目?第4頁1行目)、ホースにより搬送される薬液の例示として、多種類の液体が列挙される中で、アセトンの記載がある(第36頁17行目)。 (6)甲9には、耐溶剤性に優れた離型フィルムとして、特定の芳香族ポリアミドフィルムの一面に離型層を設けた離型フィルムが記載されている(請求項1、段落【0006】)。 (7)甲10には、金属箔と特定の耐熱接着剤層と芳香族ポリアミドフィルムとを積層した積層体が記載され(請求項1)、実施例では、JIS-C-6481に準拠して測定した耐溶剤性を有することが記載されている。 (8)甲11及び甲12には、芳香族ポリアミドが記載され、両文献の実施例2、5及び14の芳香族ポリアミドは、本件特許明細書の合成例1及び2の樹脂A1及びA2と同一化合物である。 (9)甲13には、芳香族ポリアミドフィルムに関し、積層フィルムの場合には、2種類以上の製膜原液を、合流管で積層したり、口金内で積層することが記載されている(段落【0053】)。 第5 対比・判断 1.本件発明1について 1-1.本件発明1と甲1発明との対比・判断 (1)本件発明1における「樹脂Aを含む層」を以下、便宜的に「層A」といい、「樹脂Bを含む層」を「層B」という。 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フッ素を含まないポリイミド系樹脂からなる保護層」、「フッ素を含むポリイミド系樹脂で構成されているコア及びクラッド」は、本件発明1の「樹脂を含む層A」、「樹脂を含む層B」に相当し、甲1発明の前記保護層、前記コア及び前記クラッドを有する「ポリマー光導波路フィルム」は、本件発明1の前記層A及び前記層Bを含む「含フッ素樹脂積層フィルム」に、それぞれ相当する。 そして、本件発明1における「アセトンに対する耐性を有する」とは、本件明細書の段落【0013】?【0018】の記載からみて、 (a)水平な台に置いたとき、試験板の最も低い位置と高い位置の差が3mm以上である。 (b)試験板がロール状に巻いた状態になり、1周以上のロールを形成する。 (c)試験後のヘイズが試験前のヘイズより1%以上大きい。 のいずれにも該当しないことである一方、甲1発明における耐溶剤性に優れているか否かは、アセトンにより評価を行い、アセトンを一滴滴下し、10分放置後、滴下範囲のポリマー表面がアセトンにより溶解または膨潤を起こしていない場合にはさらにクラックの有無を観察して、クラックが全く発生していない場合には優れていると判定し、少しでも発生している場合は優れていないと判定するものである(上記摘示第4 1.(5))。 本件発明1の上記基準は、試験板の3mmの高低差やロールの形成、1%未満のヘイズの上昇を許容している一方、甲1発明の上記基準は、アセトンの溶解または膨潤、クラックの発生を許容しておらず、甲1発明の方がより厳しい基準であると考えられることから、甲1発明において「耐溶剤性に優れている」といえれば、本件発明1における「アセトンに対する耐性を有する」ということができると認められ、甲1発明の「クラッドより耐溶剤性に優れたフッ素を含まないポリイミド系樹脂からなる保護層」は、本件発明1の「アセトンに対する耐性を有する、樹脂を含む層A」に相当する。 (2)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「層Aおよび層Bを含み、下記(1)を満足し、少なくとも片方の面がアセトンに対する耐性を有する含フッ素樹脂積層フィルム。 (1)層Aに含まれる樹脂がアセトンに対する耐性を有する。」 の点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。 [相違点1] 本件発明1の層Aに含まれる樹脂Aが、芳香族ポリアミドと特定されているのに対し、甲1発明では、保護層がフッ素を含まないポリイミド系樹脂からなると特定されている点。 [相違点2] 本件発明1の層Bに含まれる樹脂Bが、化学式(I)で示される構造単位を含むと特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。 (3)相違点1について 確かに、甲1の上記摘示第4 1.(3)には、「本発明のポリマー光導波路フィルムにおいて、耐溶剤性保護層を構成するポリマー材料は、フッ素を含まないポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。」と記載されており、「等」との用語から、耐溶剤性保護層を構成する樹脂は、フッ素を含まないポリイミド系樹脂に限定されるものではないものの、甲1の上記摘示第4 1.(2)において、従来技術の課題として、アセトンのような汎用溶剤に対する耐溶剤性が問題になっていたことや、上記摘示第4 1.(5)における耐溶剤性試験として、アセトンに対する耐溶剤性をその指標としている点からみれば、甲1における耐溶剤性保護層を構成する樹脂としては、少なくともアセトンに対する耐溶剤性を有することが求められているものと理解できる。 その一方で、甲6、甲8ないし甲10のいずれも、芳香族ポリアミドが一般的に耐溶剤性に優れている旨の記載は一部に存在するものの、芳香族ポリアミドが、アセトンに対して本件発明で特定されるレベルの優れた耐性を具体的に示す記載は見出せない。 すなわち、甲6において、具体的に耐アセトン性を有することが示されているのは、芳香族ポリアミドではなく脂環式ポリアミドであるし、甲8には、耐薬品性を示すとされる薬液の例示として、多種類の液体が列挙される中で、アセトンの記載があるにすぎないから、これらの記載を根拠として、芳香族ポリアミドがアセトンに対する耐溶剤性を有することを具体的に示すものと認めることはできない。また、甲9及び甲10にも、芳香族ポリアミドが本件発明1におけるアセトンに対する耐溶剤性を有することを示す記載はない。 そして、ポリマー及び溶剤の組み合わせによって、そのポリマーが有する溶媒への耐性は様々に異なってくることが技術常識であることから、上記刊行物の記載から直ちに、芳香族ポリアミドが、本件発明で特定されるようなアセトンに対する耐性を持つことが周知技術であったと認めることはできない。 また、甲1発明は、光導波路に関する技術分野に属するのに対し、甲6はインモールド装飾積層体、甲8は搬送用の積層ホース、甲9は離型フィルム、甲10は耐熱性積層体に関する技術分野の刊行物であって、その技術分野はそれぞれ大きく相違するものである。 したがって、甲1発明において、保護層において用いられるフッ素を含まないポリイミド系樹脂を、芳香族ポリアミドがアセトンに対する耐溶剤性を示すことが具体的に記載されておらず、かつ、技術分野が甲1発明とは大きく異なる、甲6、甲8ないし甲10に記載の芳香族ポリアミドに代えることについて、その動機付けを見出すことができず、この点はたとえ当業者であっても容易とはいえない。 また、上記以外の刊行物である甲2ないし甲5、甲11ないし甲13は、芳香族ポリアミドがアセトンに対する耐溶剤性を示すことを開示するものではないから、これらの刊行物の記載を参酌したとしても、相違点1についての上記の判断は変わらない。 以上のとおりであるから、相違点1は想到容易とはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1及び2において相違するものであり、これらの相違点のうち少なくとも相違点1は想到容易とはいえないのであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲13に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 1-2.本件発明1と甲5発明との対比・判断 (1)本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「化学式(I)?(IV)で示される構造単位を含む層」、「化学式(I)?(IV)で示される構造単位を含む層を含む全芳香族ポリアミドフィルム」は、それぞれ、本件発明1の「樹脂Bを含む層」、「含フッ素樹脂フィルム」に相当する。 (2)そうすると、本件発明1と甲5発明とは、 「樹脂Bを含む層を含み、下記(2)を満足する含フッ素樹脂積層フィルム。 (2)樹脂Bが化学式(I)で示される構造単位を含む。 【化1】 」 の点で一致し、以下の相違点3で相違する。 [相違点3] 本件発明1のフィルムは、少なくとも樹脂Aを含む層を含み、樹脂Aが芳香族ポリアミドであり、アセトンに対する耐性を有する、少なくとも片方の面がアセトンに対する耐性を有する含フッ素樹脂積層フィルムであるのに対し、甲5発明では、その点が特定されていない点。 (3)相違点3について 甲5には、フィルムを積層フィルムとすることは記載されている(段落【0091】、【0092】)。 しかしながら、上記1-1.(3)で検討したのと同様の理由で、甲1ないし甲4、甲6ないし甲13は、芳香族ポリアミドが本件発明1で特定されるアセトンに対する耐性を示し、アセトンに対する耐性を有する芳香族ポリアミド層を設けることが周知技術であったことを開示するものとは認められないから、甲5発明に、甲1ないし甲4、甲6ないし甲13に記載の事項を適用したとしても、上記相違点3に係る構成に想到することはできない。 なお、仮に、芳香族ポリアミドが一般にアセトンに対する耐溶剤性を示すことが周知であったとしても、甲5には、甲5発明に係る化学式(I)?(VI)で示される構造単位を含む芳香族ポリアミドフィルムが、アセトンに対する耐溶剤性が悪いという課題がある旨の記載や示唆はないし、また、そのような課題が、本願出願時において自明の課題であったことを示す証拠もみあたらない。 この点につき、異議申立人は、異議申立書の20頁7行目?9行目において、異議申立書11頁16行目?12頁下から2行目の甲1ないし甲5に関する記載を引用し、2,2’-ジトリフルオロメチル-ビフェニル残基等を有する含フッ素樹脂にアセトン等の有機溶媒に対する耐性がない問題があることは、本件特許の出願前に周知であったと主張する。 しかしながら、異議申立人が指摘する甲1ないし甲5の記載は、いずれも2,2’-ジトリフルオロメチル-ビフェニルを有する芳香族ポリアミドが、アセトンに対する耐性がないという問題があることを直接的に示すものではなく、上記異議申立人の主張は採用の限りでない。 そうすると、甲5発明に係るフィルムに、アセトンに対する耐性を有する芳香族ポリアミドを含む層を積層する動機付けを見出すことができず、この点はたとえ当業者であっても容易とはいえない。 以上のとおりであるから、相違点3は想到容易とはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1は甲5発明と相違点3において相違するものであり、相違点3は想到容易とはいえないのであるから、本件発明1は、甲5発明を主たる引用発明として、甲1ないし甲4、甲6ないし甲13に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本件発明2ないし9について 本件発明2ないし9は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明を主たる引用発明として、甲2ないし甲13に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、また、甲5に記載された発明を主たる引用発明として、甲1ないし甲4、甲6ないし甲13に記載された事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-05-25 |
出願番号 | 特願2012-29103(P2012-29103) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大村 博一 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
堀 洋樹 渕野 留香 |
登録日 | 2016-09-09 |
登録番号 | 特許第5998508号(P5998508) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 含フッ素樹脂積層フィルムおよびその製造方法 |