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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1329102
異議申立番号 異議2017-700126  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-10 
確定日 2017-05-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第5965564号発明「アンモニアガスセンサおよびアンモニアガスの濃度測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5965564号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5965564号の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成28年5月23日(優先権主張 平成28年4月15日)に特許出願され、同年7月8日に特許の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1?15に係る特許に対し、特許異議申立人 平林 恭子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明について
特許第5965564号の請求項1?15に係る特許に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」などという。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 特許異議申立及び証拠方法について

1 特許異議申立人の提出した証拠方法
特許異議申立人は、以下の証拠方法を提出した(以下、甲第N号証を「甲N」と呼ぶ)。

甲1:特開2003-35693号公報
甲2:特開2010-256344号公報
甲3:特開2003-185625号公報
甲4:特開2007-248351号公報
甲5:特許第4293579号公報
甲6:特許第5097239号公報
甲7:特開2015-34814号公報

2 特許異議申立理由の概要

(1)特許異議申立理由(特許法第29条第1項第3号:申立書44?45頁「(5)むすび ア」の項)
ア 請求項1について
本件特許発明1?6、8?10は、甲1-1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
本件特許発明11?15は、甲1-2発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)特許異議申立理由(特許法第29条第2項違反:申立書45?47頁「(5)むすび イ」の項)
ア 請求項1?10について
本件特許発明1?10は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明1?10は、甲1-1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証における記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

イ 請求項11?15について
本件特許発明11?15は、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明11?15は、甲1-2発明と、甲第2号証ないし甲第7号証における記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号違反:申立書41?43頁「(4)エ 記載不備の理由 (i)特許法第36条第6項第1号について」の項)

ア 本件の特許明細書には、Au存在比が1.09以下までの範囲のみが開示されており、請求項1,4,11、14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明1、4、11、14の記載は、いわゆるサポート要件を満たしていない(以下、「Au存在比」ともいう。)。

イ 本件の特許明細書には、検知電極を被覆する多孔質層である電極保護層を備えるガスセンサのみが開示されており、請求項4、14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許発明4、14の記載は、いわゆるサポート要件を満たしていない(以下、「電極保護層なし」ともいう。)。

(4)特許異議申立理由(特許法第36条第4項第1号違反:申立書43?44頁「(4)エ 記載不備の理由 (ii)特許法第36条第4項第1号について」の項)

本件特許発明1、4、11、14に「前記検知電極を構成する貴金属粒子の表面のうち前記Ptが露出している部分に対する前記Auが被覆している部分の面積比率であるAu存在比」との記載があるが、本件の特許明細書には「Ptが露出している部分」及び「Auが被覆している部分」の具体的説明は何ら記載されていない。
このため、これらを前提として数値が定められているAu存在比は、前提が不明確であるために、如何なるものを示すのか不明であり、本件特許発明1、4、11、14を認識することができない。
したがって、本件の特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、4、11、14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

第4 特許法第29条に関する取消理由についての判断
1 甲号証の記載
(1)甲1記載の事項(下線は、当審で付与した。)

本願の優先権主張日前に頒布された甲1には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸素イオン導電性固体電解質体と、該酸素イオン導電性固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを備え、該検知電極は白金を主成分とし、且つ金及びロジウムを含有し、該白金、該金及び該ロジウムの合計に対して該ロジウムは0.1?5質量%であることを特徴とする可燃性ガスセンサ。」

イ 「【0015】更に、各電極はどのように形成してもよいが、例えば、平均粒径15μm以下(好ましくは1?10μm)の貴金属粉末と、平均粒径5μm以下(好ましくは0.5?2μm)の固体電解質体を構成する主要構成成分からなる粉末とを含有するペーストを、固体電解質体の表面の所望領域に塗布し、温度1000?1500℃(より好ましくは1300?1450℃)で焼き付けることにより得ることができる。」

ウ 「【0017】本発明の可燃性ガスセンサにより測定できる可燃性ガスは検知電極に含有される白金、金及びロジウムを除く他の成分等により異なるが、例えば、アンモニア、一酸化窒素、一酸化炭素、水素及び炭化水素ガスである。炭化水素ガスとしては、炭素数1?15程度の脂肪族系炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン及びその異性体等の飽和炭化水素ガス、エチン、プロペン、ブテン、ブチン、ペンテン、ペンチン及びその異性体等の不飽和炭化水素ガス等)、脂環式炭化水素ガス(シクロペンタン及びシクロヘキサン等)、芳香族系炭化水素ガス等(ベンゼン、キシレン及びトルエン等)などを挙げることができる。」

(2)甲2記載の事項(下線は、当審で付与した。)

本願の優先権主張日前に頒布された甲2には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
限界電流方式により被測定ガス中のガス成分の濃度を測定するガスセンサの内部空所に設けられた、前記内部空所における酸素分圧調整用の電気化学的ポンプセルを構成するポンプ電極であって、
貴金属と酸素イオン導電性を有する酸化物とのサーメットからなり、
前記貴金属が、
触媒活性を有する第1の貴金属と、
前記第1の貴金属の酸素以外の酸化物ガスに対する触媒活性を抑制させる触媒活性抑制能を有する第2の貴金属と、
を含んでおり、
前記ポンプ電極に存在する前記第1の貴金属の粒子の表面における前記第1の貴金属に対する前記第2の貴金属の存在比が0.01以上0.3以下である、
ことを特徴とするガスセンサのポンプ電極。
・・・
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサのポンプ電極であって、
前記第1の貴金属が白金であり、前記第2の貴金属が金である、
ことを特徴とするガスセンサのポンプ電極。」

イ 「【0001】
本発明は、NOxセンサなどのガスセンサのポンプ電極、およびその形成に用いられる導電性ペーストに関する。」

(3)甲3?甲7記載の事項
甲3には「ガス検知素子及びこれを用いたガス検出装置」に関する技術事項が記載されている。
甲4には「ガスセンサ素子及びその製造方法」に関する技術事項が記載されている。
甲5には「積層型ガス検出素子およびガスセンサ」に関する技術事項が記載されている。
甲6には「ガスセンサ素子の製造方法」に関する技術事項が記載されている。
甲7には「マルチガスセンサ及びマルチガスセンサ装置」に関する技術事項が記載されている。

2 甲1記載の発明
(1)上記(1)ア?ウの記載事項を含む甲1の記載を総合すると、上記甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「酸素イオン導電性固体電解質体と、該酸素イオン導電性固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを備え、該検知電極は白金を主成分とし、且つ金及びロジウムを含有し、該白金、該金及び該ロジウムの合計に対して該ロジウムは0.1?5質量%であることを特徴とする可燃性ガスセンサであって、
各電極はどのように形成してもよいが、例えば、平均粒径15μm以下(好ましくは1?10μm)の貴金属粉末と、平均粒径5μm以下(好ましくは0.5?2μm)の固体電解質体を構成する主要構成成分からなる粉末とを含有するペーストを、固体電解質体の表面の所望領域に塗布し、温度1000?1500℃(より好ましくは1300?1450℃)で焼き付けることにより得ることができるもので、
測定できる可燃性ガスは、例えば、アンモニア、一酸化窒素、一酸化炭素、水素及び炭化水素ガスである。炭化水素ガスとしては、炭素数1?15程度の脂肪族系炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン及びその異性体等の飽和炭化水素ガス、エチン、プロペン、ブテン、ブチン、ペンテン、ペンチン及びその異性体等の不飽和炭化水素ガス等)、脂環式炭化水素ガス(シクロペンタン及びシクロヘキサン等)、芳香族系炭化水素ガス等(ベンゼン、キシレン及びトルエン等)などである
可燃性ガスセンサ。」
(以下、「甲1発明」という。)

3 本件特許発明4との対比・判断
(1)対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、甲1発明が少なくとも「被測定ガス中のアンモニアガスを検知するための混成電位型のガスセンサであって、前記検知電極を構成する貴金属粒子の表面のうち前記Ptが露出している部分に対する前記Auが被覆している部分の面積比率であるAu存在比が0.4以上である」構成を備えていない点(以下、「相違点」という。)で相違する。

(2)判断
上記「相違点」に記載された本件特許発明4の構成を、
「「被測定ガス中のアンモニアガスを検知するための混成電位型のガスセンサであって、前記検知電極を構成する貴金属粒子の表面」に、「前記Ptが露出している部分」と「前記Auが被覆している部分」を備えているもの」(以下、「Au被覆」という。)であり、
そのうち「前記Ptが露出している部分に対する前記Auが被覆している部分の面積比率であるAu存在比が0.4以上である」構成(以下、「Au存在比0.4以上の構成」という。)と2つに分けて検討する。

ア 甲2には、上記「1(2)」の記載を踏まえると、ポンプ電極に存在する第1の貴金属(白金)の粒子の表面における前記第1の貴金属(白金)に対する第2の貴金属(金)の存在比が0.01以上0.3以下であるNO_(X)センサなどのガスセンサのポンプ電極が記載されているといえるが、「Au被覆」は、記載されていない。
さらに「Au被覆」は、甲3?甲7のいずれにも記載されていないし、示唆もされていない。
そうすると、本件特許発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到するものとはいえないし、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到するものとはいえない

イ 仮に、甲2発明が「Au被覆」であったとしても、甲2発明はNO_(X)センサなどのガスセンサであるから、アンモニアガスセンサである甲1発明に、測定ガスの異なる甲2発明の構成を採用する動機付けがない。

ウ なお、甲2に記載されたポンプ電極のPtに対するAuの存在比は、NO_(X)センサなどのガスセンサのものであるから、図5からAu存在比0.5が看取できたとしてもアンモニアガスセンサである甲1発明のPtに対するAuの存在比とは無関係である。

エ また、甲3?甲7のいずれにも「Au被覆」は記載されていないし、示唆もされていない。
ましてや、甲3?甲7のいずれにも「Au存在比0.4以上の構成」は記載されていないし、示唆もされていない。

オ 以上より、「相違点」に記載された本件特許発明4の構成は、甲2?甲7のいずれからも当業者が容易に想到するものとはいえない。

(3)本件特許発明4の小括
以上のとおりであるから、本件特許発明4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明4は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

4 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明4を限定した発明である。
そうすると、本件特許発明4が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明4は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえないのであるから、本件特許発明5も甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明5は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明5は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

5 本件特許発明1との対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、上記「3 (1)対比」で説示した「相違点」で相違する。
そして、それに対する判断は、上記「3 (2)判断」と同様である。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明から当業者が容易に想到するものとはいえない。

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

6 本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1を限定した発明である。
そうすると、本件特許発明1が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえないのであるから、本件特許発明2、3も甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明2、3は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明2、3は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

7 本件特許発明6?10について
本件特許発明6?10は、本件特許発明1?5を、直接または間接的に限定した発明である。
そうすると、本件特許発明1?5が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明1?5は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえないのであるから、本件特許発明6?10も甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明6?10は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明6?10は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

8 本件特許発明11?13について
本件特許発明11?13は、それぞれ、本件特許発明1?3の装置の発明を方法の発明に書きかえたカテゴリーが相違するだけの発明である。
そうすると、本件特許発明1?3が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明1?3は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえないのであるから、本件特許発明11?13も甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明11?13は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明11?13は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

9 本件特許発明14?15について
本件特許発明14?15は、それぞれ、本件特許発明4?5の装置の発明を方法の発明に書きかえたカテゴリーが相違するだけの発明である。
そうすると、本件特許発明4?5が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明4?5は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえないのであるから、本件特許発明14?15も甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、本件特許発明14?15は、甲1発明と、甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるともいえない。
したがって、本件特許発明14?15は、甲1発明であるともいえないことは明らかである。

10 小括
よって、特許法第29条第1項第3号に関する特許異議申立理由によっては、本件請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、特許法第29条第2項に関する特許異議申立理由によっては、本件請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

第5 特許法第36条第6項第1号に関する特許異議申立理由についての判断

平成17年(行ケ)10042号知財高裁大合議判決(第24頁?25頁)[なお、以下、「大合議判決」という。]においては、
「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」とされている。

1 本件特許発明1、4、11、14についての「Au存在比」

ア 本件特許明細書には「【0011】 また、特許文献4に開示されているガスセンサは、検知電極の貴金属成分としてAuを採用したものであるが、検知電極の形成は、焼成後の固体電解質体にペーストを塗布した後、焼成することによる、いわゆる2次焼成にてなされている。そして、アンモニアガスの選択性を確保するべく、金属酸化物からなる選択反応層が、検知電極の上に設けられてなる。
【0012】
Auは融点が低いため、蒸気圧が高く、また、単体では固体電解質体との共焼成が行えない。それゆえ、特許文献3および特許文献4に開示された技術においては、めっきや2次焼成によってAu電極が形成されているが、これらの態様においてはいずれも、ガスセンサの使用時に、高温状態となっているセンサ素子からAuの脱離が生じる可能性があるため、長期信頼性に問題がある。
【0013】
Au電極を安定的に使用するためには、Ptと合金化することで融点を上げ、固体電解質体と共焼成することが効果的であるが、電極中のPt量が多すぎると、Ptの触媒活性によってアンモニアが燃焼してしまうという問題もある。」と当該発明の課題が記載されている。
そして「【0014】・・・ガスセンサの検知電極の金属成分を、表面におけるAu存在比を高めたPt-Au合金とすることで、検知電極を固体電解質体との共焼成を可能としつつ、アンモニアガスに対する触媒活性を不能化し、アンモニアガス濃度と相関のある混成電位を発現させることができるという知見を得た。そして、係る知見に基づけば、アンモニアガスを感度よく検知可能で、かつ耐久性の確保された混成電位型のガスセンサが実現されるものと思い至った。」と当該発明の課題を解決できると認識した内容が記載されている。

イ そうすると、請求項1,4,11、14に係る発明は検知電極の表面のAuをPt-Au合金とすることで耐久性の課題を解決しているのであるから、検知電極の貴金属の表面が全てAuの場合まで考えられることは、当業者が認識できるといえる。そして、その場合Au存在比に上限がないことを意味することは明らかである。

ウ したがって、本件の特許明細書に、Au存在比が1.09以下の範囲のみが開示されているとしても、請求項1,4,11、14に係る発明がサポート要件を満たしていないとまではいえない。

2 本件特許発明4、14についての「電極保護層なし」

ア 上記「1 イ」に説示したように、請求項4、14に係る発明は検知電極の表面のAuをPt-Au合金とすることで耐久性の課題を解決しているのであるから、上記耐久性の課題の解決には、「検知電極を被覆する多孔質層である電極保護層」の存否は関係しないことは明らかである。
さらに、「電極保護層」が発明特定事項にないとしても、「電極保護層」があるものを排除するものではない。

イ したがって、本件の特許明細書に、検知電極を被覆する多孔質層である電極保護層を備えるガスセンサのみが開示されているとしても、「電極保護層」が発明特定事項にない、請求項4、14に係る発明がサポート要件を満たしていないとまではいえない。

3 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許法第36条第6項第1号に関する特許異議申立理由によっては、本件請求項1、4、11、14係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

第6 特許法第36条第4項第1号に関する特許異議申立理由についての判断

ア 本件の特許明細書には、「【0127】<センサ素子の製造プロセス>
次に、図1ないし図3に例示するような層構造を有する場合を例として、センサ素子101Aないし101Cを製造するプロセスについて説明する。」として、本件特許発明のセンサ素子の製造プロセスが開示されている。

イ その中で「【0136】<検知電極形成用の導電性ペースト>
次に、検知電極10の形成に用いる導電性ペーストについて説明する。検知電極形成用の導電性ペーストは、Auの出発原料としてAuイオン含有液体を用い、該Auイオン含有液体を、Pt粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって作製する。」、「【0142】<導電性ペースト作製の別態様>
検知電極形成用の導電性ペーストを作製するにあたっては、上述のようにAu液体混合によって作製する代わりに、Ptの粉末にAuをコーティングしたコーティング粉末を出発原料として作製するようにしてもよい。」と記載されている。
そうすると、検知電極形成用の導電性ペーストはPtの粉末がAuに被覆された状態であると推察できる。

ウ さらに、「【0138】・・・上述した作製プロセスを経て得られたセンサ素子101Aないし101Cに形成されてなる検知電極10においては、Auは主として単体あるいはPtとの合金の状態で存在することになる。」と記載されている。

エ また、「【0139】図14は、Au液体混合にて検知電極形成用の導電性ペーストを作製する場合の、出発原料における全貴金属元素の重量(PtとAuの重量の総和)に対するAuの重量比率(以下、Au添加率と称する)」
・・・
【0140】図14からは、Au存在比がAu添加率に対して単調に増加する傾向があること、および、Au添加率を3wt%以上とした場合にAu存在比が0.4以上となる検知電極10が作製できることがわかる。」と記載されている。
そうすると、Pt粉末とAu粉末の単なる混合の場合より遙かに高いAu存在比となっていることがわかる。

オ 以上より、<センサ素子の製造プロセス>が明確に記載されており、検知電極10においては、Auは主として単体あるいはPtとの合金状態ではあるが、PtがAuに被覆された状態に近いものと推察できる。

カ さらに、「【0051】なお、本明細書において、Au存在比とは、検知電極10を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。本明細書においては、貴金属粒子の表面に対しAES(オージェ電子分光法)分析を行うことでより得られるオージェスペクトルにおけるAuとPtとについての検出値を用い、
Au存在比=Au検出値/Pt検出値・・・(1)
なる式にてAu存在比を算出する。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
【0052】
なお、Au存在比は、貴金属粒子の表面に対しXPS(X線光電子分光法)分析を行うことにより得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いて算出することも可能である。係る手法に得られるAu存在比の値と、AES分析の結果に基づいて算出されるAu存在比の値とは、実質的に同じとみなせる。」と「Au存在比」の測定方法も記載されている。

キ 以上より、当業者は本件特許発明1、4、11、14の「前記検知電極を構成する貴金属粒子の表面のうち前記Ptが露出している部分に対する前記Auが被覆している部分の面積比率であるAu存在比」との記載を理解できないとはいえないし、発明の詳細な説明は、本件特許発明1、4、11、14について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものとはいえない。

ク よって、特許異議申立書に記載された特許法第36条第6項第1号に関する特許異議申立理由によっては、本件請求項1、4、11、14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

第7 むすび
したがって、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠方法によっては、本件請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-19 
出願番号 特願2016-102130(P2016-102130)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G01N)
P 1 651・ 537- Y (G01N)
P 1 651・ 536- Y (G01N)
P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5965564号(P5965564)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 アンモニアガスセンサおよびアンモニアガスの濃度測定方法  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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