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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
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管理番号 | 1329109 |
異議申立番号 | 異議2017-700201 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-28 |
確定日 | 2017-06-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5981912号発明「化粧料、及び化粧料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5981912号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第5981912号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成24年5月15日(優先権主張 平成23年5月18日)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月5日にその発明について特許権の設定登録がなされ、同年8月31日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年2月28日に岩田 博明により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第5981912号の請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」などともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形し、一定の形状を保持してなる化粧料保持体に、粉体を含有した化粧料組成物が保持されていることを特徴とする化粧料。 【請求項2】 前記化粧料組成物が、着色顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載の化粧料。 【請求項3】 前記化粧料保持体には、複数色の化粧料組成物が保持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧料。 【請求項4】 前記化粧料保持体に接着剤を塗布し、前記化粧料組成物を保持させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の化粧料。 【請求項5】 前記化粧料組成物中の前記粉体の含有量は、該化粧料組成物を加熱溶解して前記化粧料保持体に保持させる場合において0.1?50質量%とし、前記粉体を主体として揮発性の溶媒と混合して前記化粧料保持体に保持させる場合において50?100質量%とし、油剤を主体として揮発性の溶媒と混合して前記化粧料保持体に保持させる場合0.1?50質量%とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の化粧料。 【請求項6】 化粧料組成物を揮発性の溶媒と混合して化粧料スラリーを調製し、熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布であるシート状の基材を所望の立体形状に成形して一定の形状を保持して成る化粧料保持体を前記化粧料スラリーに浸漬することで保持させた後、前記揮発性の溶媒を除去することを特徴とする化粧料の製造方法。 【請求項7】 化粧料組成物を揮発性の溶媒と混合して化粧料スラリーを調製し、熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布であるシート状の基材を所望の立体形状に成形して一定の形状を保持して成る化粧料保持体に前記化粧料スラリーを吹き付けて保持させた後、前記揮発性の溶媒を除去することを特徴とする化粧料の製造方法。 【請求項8】 化粧料組成物を加熱溶解してペースト状または液状とし、熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布であるシート状の基材を所望の立体形状に成形して一定の形状を保持して成る化粧料保持体に前記ペースト状または該液状の化粧料組成物を浸漬、または吹き付けにより保持させた後、冷却固化することを特徴とする化粧料の製造方法。 【請求項9】 前記シート状の基材は、多孔性であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の化粧料の製造方法。 【請求項10】 前記シート状の基材は、熱プレスで所望の立体形状に成形されていることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の化粧料の製造方法。 【請求項11】 さらに、前記化粧料保持体に前記化粧料スラリーを吹き付けて保持させた後、前記揮発性の溶媒を除去することを特徴とする請求項6,7,9,10のいずれかに記載の化粧料の製造方法。」 第3 申立理由の概要 異議申立人 岩田 博明(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1?6号証(以下、「甲1」、「甲2」などという。)を提示し、次の理由(A)?(C)を主張する。 理由(A) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?11の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 理由(B) 本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲1、2又は3に記載された発明であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由(C) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 証拠方法 甲1:特開2010-241758号公報 甲2:特開2004-75555号公報 甲3:特開2006-151829号公報 甲4:国際公開第2004/058214号 甲5:特開2010-43028号公報 甲6:特表2006-520324号公報 第4 甲1?6の記載 甲1?6には、次のことが記載されている。なお、甲6は、英語で記載された甲4の対応する公表公報であり、甲4の翻訳文として提出されているので、以下、甲6のみ示し、甲4の記載は省略する。 1 甲1の記載 (1a)「【請求項1】 パルプ繊維を含む湿式不織布の一面又は両面に、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含む繊維層が積層されたシート状基材に、以下の成分(a)及び(b)を含有する化粧料を含浸して形成された身体用ウエットシート化粧料を複数枚積み重ねられてなる身体用ウエットシート化粧料の積層体。 (a)粉体 (b)水溶性溶剤 ・・・ 【請求項8】 パルプ繊維を含む湿式不織布の一面又は両面に、セルロース系繊維及び疎水性繊維を含む繊維層が積層されたシート状基材に、以下の成分(a)及び(b)を含有する化粧料を含浸した身体用ウエットシート化粧料。 (a)粉体 (b)水溶性溶剤」 (1b)「【0006】 ・・・また、本発明の目的は、清拭時の肌感触が良好で、使用時の粉体や油剤を肌へ移行させる性能に優れた身体用ウエットシート化粧料を提供することにある。」 (1c)「【0029】 本実施形態のシート状基材1は、図1に示すように、湿式不織布2の両面に、繊維層3が積層され、湿式不織布2と該繊維層3とを水流交絡させることによって一体化して形成されている。・・・このような不織布は、柔軟性が高く、ふんわり感が良好で、顔面等にパッティングしたときに心地良い。」 (1d)「【実施例】 ・・・ 【0064】 [(a)粉体である樹脂粉体Aの作成] ・・・ 【0066】 [シート状基材として用いるサンプルA(積層構造)の作成] 平均繊維幅31μmのパルプ繊維100%の湿式不織布17.0g/m^(2)の両面それぞれに、繊維径1.7dtex相当の漂白したコットン繊維(セルロース系繊維)70重量%と、繊維径2.4dtexのPET(芯)/PE(鞘)の芯鞘型複合繊維(疎水性繊維)30重量%のシート状の未結合繊維ウエブ16.5g/m^(2)をカード法により積層し、このウエブの一面側及び他面側それぞれに対して、順次高圧水流を当てることにより該ウエブを水流交絡させて一体化し、含水状態のスパンレース不織布を得、該スパンレース不織布を乾燥させ2枚をヒートシールすることにより一体の複合基材を形成し、目的とするシート状基材(サンプルA)を得た。・・・ ・・・ 【0068】 実施例1,2,3及び比較例 表1に示す成分からなる化粧料を、表1に示すように、シート状基材として用いるサンプルA又はサンプルB上に、スプレーを用いて塗布することで身体用ウエットシート化粧料(以下、化粧シートともいう)を調整した。含浸率は350%とした。このように製造した化粧シートを36枚積み重ねて化粧シートの積層体を形成し、それをアルミ蒸着シートで密封した。」 (1e)「【0076】 サンプルAに以下の成分からなる処方例Aの化粧料を300%含浸させて化粧シートを作成した。 成分 配合料(%) タルク 4.0 アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体*1) 0.3 イソプロピルメチルフェノール 0.1 ジメチコン(2cs) 10.0 86%グリセリン 8.0 ポリプロピレングリコール*2) 2.0 水酸化カリウム 0.1 香料 0.05 精製水 残余 合計 100.00 *1)ペミュレンTR-1(Lubrizol Advanced Materials社製) *2)アデカカーポール DL-30(株式会社ADEKA製)」 2 甲2の記載 (2a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、肌を拭くことによって、肌に粉体を付着せしめ、肌にさらさら感を付与し、肌のくすみ、小じわや皮溝を目立たなくするとともに、適度に光沢感(フアッション性)を有し健康的な肌色にすることのできるシート状化粧料及び利便性に優れた化粧方法に関する。」 (2b)「【0015】 上記の多孔性不織布、和紙、多孔性フィルム、連続気孔を有する発泡体シート、または編織布の細孔を有するシート面に形成された各細孔の大きさは、粉体を含む水性液体が自由に通過する程度の大きさであり、好ましくは0.1?9mm^(2)の範囲の孔の大きさであり、さらに好ましくは0.2?5mm^(2)の大きさである。シート状基材の質量は20?120g/m^(2)であることが好ましく、この様な素材を使うことによって、特にシートを広げやすく、手での把持性に優れるので好ましい。」 (2c)「【実施例】 以下、実施例及び比較例に基づき本発明を詳細に説明する。 【0019】 実施例1?7、比較例1?3 下記表1の配合成分が配合された水性液体を製造し、次いでポリエステル、レーヨン、ポリプロピレンからなる多孔性の不織布(80g/m^(2)、1.5mm×2.0mmの細孔:日本バイリーン社製)からなる連続シート状基材の片面の上から3倍量の含浸量になるように水性液体をスプレー塗布し、不織布の両側を流れ方向の中心線に向かって上方向に折り曲げて両端を近接し2枚重ねにした後、150×100mmの大きさにカットして、実施例1?6、比較例1?3のシート状化粧料を製造した。また、レーヨン70%、パルプ30%からなる80g/m^(2)の質量のプレ-ンタイプで、孔を透して光が透過する程度の細孔を有しない不織布を用いて実施例7のシート状化粧料を製造した。 ・・・ 【0022】 【表1】 」 3 甲3の記載 (3a)「【請求項1】 シート状基材と、該シート状基材に乳化組成物を付着させてなり、該乳化組成物が、シリコーン、該シリコーンの溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解パラメーターを有するシリコーン誘導体、及び膨潤性粘土鉱物を含有することを特徴とするシート状化粧料。 ・・・ 【請求項3】 乳化組成物が、更に水不溶性粉体を含有する請求項1から2のいずれかに記載のシート状化粧料。」 (3b)「【0001】 本発明は、汗、皮脂を効果的に拭き取り、べたつき感を抑え、肌により効果的なさらさら感を付与することができるシート状化粧料及びその製造方法に関する。」 (3c)「【0035】 (シート状基材) 前記シート状基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、綿(以下、コットンと言う場合がある)、パルプ、麻等の天然セルロース系繊維、パルプより得られるビスコースレーヨン、銅アンモニウムレーヨン、溶剤紡糸されたレーヨンであるリオセル、テンセル等の再生セルロース系繊維、キチン、アルギン酸繊維、コラーゲン繊維等の再生繊維などが挙げられる。バインダー繊維としては、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維など、熱収縮繊維としてはポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維、などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を混綿したものの不織布又は織布のいずれを用いても良い。 これらの基材の中から、上下層にコットン、中央層にポリオレフィン系繊維を用いて熱エンボスした不織布や、コットン100%ウェブとコットン/PE・PET芯鞘短繊維(50/50)ウェブとに対して水流交絡処理を施し、前記不織布の混綿側を合致させて熱エンボスをかけた不織布や、コットン100%ウェブとコットン/PE・PET芯鞘繊維(50/50)ウェブを層状にしてスパンレース加工を施した不織布を作製し、前記不織布の混綿側が内側になるように上下層に配置し、中央層にPP・PEサーマルボンドを配置して熱エンボスをかけた不織布などを用いてもよい。これらの不織布は、柔らかさと強度、嵩高性を満たすため、拭きごたえがあり、厚みのあるシートとなり、良好な使用感を提供できる。」 4 甲4及び甲6の記載(甲4の記載は省略、甲6の記載のみ示す。) (4a)「【0267】 (実施例64) 以下の化学的構成成分からリキッドファンデーション適用パッドを調製する。 【0268】 【表21】 ・・・この用品は、色の付いた化粧品を皮膚に適用するために使用され、抗しわ処置として使用される。」 5 甲5の記載 (5a)「【請求項1】 シート状基材上に化粧料層が設けられたシート状化粧料であって、 前記化粧料層は、光輝性顔料(A)及び化粧料層に対して0.1?10質量%の水溶性高分子(B)を含有することを特徴とするシート状化粧料。」 (5b)「【0024】 上記のようにして製造されたシート状化粧料にて、腕、足、首、顔等の人体の肌等の表面を摺動させ、ラメ感のある粉体を肌に付着させることによって、優れたファッション性を得ることができる。」 (5c)「【実施例】 【0025】 以下、実施例及び比較例を挙げ本発明を詳説するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。尚、実施例及び比較例に示す%とは質量%である。 【0026】 (実施例1) 以下の表1に示す成分9を55℃に加熱した80倍重量%の精製水に添加し、6、7を加え均一に溶解していることを確認後、さらにその他の残りの成分を加えホモジナイザーによって攪拌して粘度100mPa・sの原液を得た。 【0027】 【表1】 【0028】 紙パルプ100%からなる基材シートで幅300mmの白粉原紙16g/m^(2)(日本大昭和板紙社製和紙パルプ 15)上にバーコーターによって左右のローラーで上記原液を一定になるように調整し塗布し、その後、97℃のローラーヒーターにて乾燥後の総重量が20から25g/m^(2)になるよう乾燥した。得られたシート状化粧料は、乾燥減量が2.6質量%であった。得られたシート状化粧料を75×100mmの大きさに切り、皮膚上に摩擦させたところ、皮膚上に好適なラメ感を付与することができた。また、ラメ感は長時間にわたって維持された。 【0029】 (実施例2) 以下の表2に示す各成分を使用した以外は、実施例1と同様にしてシート状化粧料を得た。 【0030】 【表2】 」 第5 判断 1 理由(A)(36条6項2号)について (1)本件発明1?5について ア 本件発明1は、「化粧料」という物の発明であるところ、請求項1には、「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形し、一定の形状を保持してなる」のように、その物の構成要素(化粧料保持体)を製造する方法が記載されている。 しかしながら、本件特許明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に鑑みれば、前記製造方法の記載が、シート状の基材から所望の立体形状に成形された形状を保持してなる「化粧料保持体」ないしはこれを構成要素とする「化粧料」の構造を表していることが明らかであるから、本件発明1は明確である。 イ 請求項4の「前記化粧料保持体に接着剤を塗布し、前記化粧料組成物を保持させる」との製造方法の記載も、化粧料保持体に、接着剤、化粧料組成物の順に保持されている「化粧料」の構造を表していることが明らかであるから、本件発明4は明確である。 ウ 請求項2、3、5には、製造方法に関する記載はなく、本件発明2、3、5は明確である。 なお、申立人は、請求項5についても製造方法が記載されていると主張するが(申立書30頁(4.3.1.3))、本件発明5は、化粧料組成物中の粉体の含有量を、製造条件で場合分けして特定しているものであって、「化粧料」という物の発明において、その物の製造方法が記載されている場合には該当しない。 (2)本件発明1?11について ア 本件発明1及び6?8の「シート状の基材を所望の立体形状に成形し」における「立体形状」は、その文言から理解できるとおり、シート状から任意の立体形状に成形された形状であるといえる。 そして、本件特許明細書【0070】には、「化粧料保持体Xの形状は、立体成形されるならいずれの形状でもよく、例えば、半球、円錐、円錐台、角錐、角錐台等の立体形、花弁、果実、葉等の植物やその一部、貝殻、宝石、星型、ハート型のような形状、または目、唇、頬等、実際に化粧料を保持する部分の形状としてもよい。」と説明されているところ、この説明は上述の解釈と矛盾するところはない。 なお、申立人は、「(i)シート状の基材に熱プレス等によるエンボス加工を施し、基材の表面に凹凸を形成したもの、(ii)シート状の基材に折り加工等を施し、矩形などの所定の平面形状を有するとともに所定の厚さを有する形状に折り畳まれたもの、(iii)シート状の基材を、矩形などの所定の平面形状に形成するとともに積層して所定の厚さの立体形状としたもの」のいずれが、「立体形状」に該当するか明らかでない旨主張するが(申立書32頁19?最下行)、(i)?(iii)のいずれもが該当すると解される。 イ 本件発明1及び6?8の「一定の形状を保持してなる化粧料保持体」とは、シート状の基材を所望の立体形状に成形して得られた一定の形状が、成形後もその形状のままで維持され変化がない化粧料保持体を意味していると解される。 そして、例えば、本件特許明細書【0027】?【0028】には、「化粧料として使用しても型くずれが起こりにくく、美粧性の高い化粧料を得ることができる。」、「使用者がスポンジ、ブラシ、はけ、筆等の化粧用小道具を使用して化粧料を擦り取って使用しても、化粧料保持体の形状が維持されるので、美粧性を維持することができる。」と記載されているところ、このような記載は上述の解釈と矛盾するところはない。 ウ 上記のとおり、本件発明1及び本件発明6?8は不明確であるとはいえず、したがって、これらを引用する本件発明2?5及び本件発明9?11も不明確ではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する理由(A)には理由がない。 2 理由(B)(29条1項3号)について (1)甲1に基づく新規性 ア 甲1に記載された発明 上記(1a)の請求項8、(1d)の【0066】及び(1e)の【0076】からみて、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認める。 「パルプ繊維を含む湿式不織布の一面又は両面に、セルロース系繊維及び疎水性繊維(PET(芯)/PE(鞘)の芯鞘型複合繊維)を含む未結合繊維ウエブを積層し、一体化して得られた不織布の2枚をヒートシールすることにより一体に形成されたシート状基材に、以下の成分(a)及び(b)を含有する化粧料を含浸した身体用ウエットシート化粧料。 (a)粉体 (b)水溶性溶剤」 イ 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「パルプ繊維」及び「疎水性繊維(PET(芯)/PE(鞘)の芯鞘型複合繊維)」を含む「不織布の2枚をヒートシールすることにより一体に形成されたシート状基材」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形し」た「化粧料保持体」に相当し、甲1発明の「(a)粉体」を「含有する化粧料を含浸した身体用ウエットシート化粧料」は、本件発明1の「粉体を含有した化粧料組成物が保持されている化粧料」に相当する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形してなる化粧料保持体に、粉体を含有した化粧料組成物が保持されていることを特徴とする化粧料。」である点。 相違点: 「化粧料保持体」が、本件発明1では、「一定の形状を保持してなる」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのように特定されていない点。 ウ 判断 上記1(2)イで検討したとおり、本件発明1の「一定の形状を保持してなる化粧料保持体」とは、シート状の基材を所望の立体形状に成形して得られた一定の形状が、成形後もその形状のままで維持され変化がない化粧料保持体を意味していると解される。そして、その化粧料保持体に化粧料組成物が保持されている化粧料も、全体として成形後の使用時にも形状が維持され変化がないものといえる。 それに対し、甲1発明は、「身体用ウエットシート化粧料」であって、上記(1b)のとおり、「清拭時の肌感触が良好で、使用時の粉体や油剤を肌へ移行させる性能に優れた身体用ウエットシート化粧料」である。そして、上記(1c)に、「このような不織布は、柔軟性が高く、ふんわり感が良好で、顔面等にパッティングしたときに心地良い」と記載されているとおり、使用時には、肌に接触した際に感触が良好となるよう柔らかであり、形状が変化するものといえる。 そして、甲1には、甲1発明の「身体用ウエットシート化粧料」が、成形後の使用時にも形状の変化がない「一定の形状を保持してなる」ものと理解できるところはない。 エ まとめ よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。 そして、本件発明1を引用してさらに特定する本件発明2も、甲1に記載された発明ということはできない。 オ 申立人は、甲1には、さらに上記(1a)の【請求項1】及び(1d)の【0066】及び【0068】からみて、甲1発明の「身体用ウエットシート化粧料」を36枚積み重ねてアルミ蒸着シートで密封したものの発明が記載されており、アルミ蒸着シートで密封されているから、成形後、使用前までは一定の形状を保持しているといえ、本件発明1と同一である旨も主張している(申立書34?36頁(4.4.1)理由2-1)。 しかしながら、既に検討したとおり、本件発明1の「一定の形状を保持してなる」とは、成形後の使用時にも一定の形状を保持していることを意味するものであるから、上記主張は理由がない。 (2)甲2に基づく新規性 ア 甲2に記載された発明 上記(2c)の実施例1からみて、甲2には、次の甲2発明が記載されていると認める。 「ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレンからなる多孔性の不織布からなる連続シート状基材に水性液体を塗布し、不織布の両側を流れ方向の中心線に向かって上方向に折り曲げて両端を近接し2枚重ねにした後、150×100mmの大きさにカットした形状のシート状化粧料であって、水性液体がポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレー卜積層末、ベンガラ被覆雲母チタン及び無水ケイ酸を含有するシート状化粧料。」 イ 対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレンからなる多孔性の不織布」を「折り曲げて両端を近接し2枚重ねにした後、150×100mmの大きさにカットした形状」のものは、本件発明1の「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形」した「化粧料保持体」に相当し、甲2発明の「水性液体を塗布」したものであって、「水性液体がポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレー卜積層末、ベンガラ被覆雲母チタン及び無水ケイ酸を含有するシート状化粧料」は、本件発明1の「粉体を含有した化粧料組成物が保持されている化粧料」に相当する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形してなる化粧料保持体に、粉体を含有した化粧料組成物が保持されていることを特徴とする化粧料。」である点。 相違点: 「化粧料保持体」が、本件発明1では、「一定の形状を保持してなる」と特定されているのに対し、甲2発明ではそのように特定されていない点。 ウ 判断 上記(1)で検討したとおり、本件発明1の「一定の形状を保持してなる化粧料保持体」とは、シート状の基材を所望の立体形状に成形して得られた一定の形状が、成形後もその形状のままで維持され変化がない化粧料保持体を意味していると解され、その化粧料保持体に化粧料組成物が保持されている化粧料も、全体として成形後の使用時にも形状の変化がないものといえる。 一方、甲2発明の「シート状化粧料」は、上記(2a)のとおり、「肌を拭くことによって、肌に粉体を付着せしめ、肌にさらさら感を付与し、肌のくすみ、小じわや皮溝を目立たなくするとともに、適度に光沢感(フアッション性)を有し健康的な肌色にすることのできるシート状化粧料」に関するものであって、肌を拭くようにして使用するものである。そして、上記(2b)には、「この様な素材を使うことによって、特にシートを広げやすく、手での把持性に優れるので好ましい」と記載されているとおり、使用時には、形状が変化するものである。 そして、甲2には、甲2発明の「シート状化粧料」が、成形後の使用時にも形状の変化がない「一定の形状を保持してなる」ものと理解できるところはない。 エ まとめ よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ということはできない。 そして、本件発明1を引用してさらに特定する本件発明2も、甲2に記載された発明ということはできない。 (3)甲3に基づく新規性 ア 甲3に記載された発明 上記(3a)の請求項1、3及び上記(3c)の【0035】からみて、甲3には、次の甲3発明が記載されていると認める。 「綿、パルプ、麻等の天然セルロース系繊維、パルプより得られるビスコースレーヨン、銅アンモニウムレーヨン、溶剤紡糸されたレーヨンであるリオセル、テンセル等の再生セルロース系繊維、キチン、アルギン酸繊維、コラーゲン繊維等の再生繊維、及びバインダー繊維としてのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維など、熱収縮繊維としてのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維などを1種単独又は2種以上を混綿したものからなり、熱エンボスをかけた不織布を用いても良いシート状基材であって、該シート状基材に乳化組成物を付着させてなり、該乳化組成物が、シリコーン、該シリコーンの溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解パラメーターを有するシリコーン誘導体、及び膨潤性粘土鉱物、水不溶性粉体を含有することを特徴とするシート状化粧料。」 イ 対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「綿、パルプ、麻等の天然セルロース系繊維、パルプより得られるビスコースレーヨン、銅アンモニウムレーヨン、溶剤紡糸されたレーヨンであるリオセル、テンセル等の再生セルロース系繊維、キチン、アルギン酸繊維、コラーゲン繊維等の再生繊維、及びバインダー繊維としてのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維など、熱収縮繊維としてのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維などを1種単独又は2種以上を混綿したものからなり、熱エンボスをかけた不織布を用いても良いシート状基材」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形」した「化粧料保持体」に相当し、甲3発明の「乳化組成物を付着」したものであって、「乳化組成物」が、「膨潤性粘土鉱物、水不溶性粉体を含有することを特徴とするシート状化粧料」は、本件発明1の「粉体を含有した化粧料組成物が保持されている化粧料」に相当する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点を有する。 一致点: 「熱可塑性樹脂繊維及びパルプを含有する不織布からなるシート状の基材を所望の立体形状に成形してなる化粧料保持体に、粉体を含有した化粧料組成物が保持されていることを特徴とする化粧料。」である点。 相違点: 「化粧料保持体」が、本件発明1では、「一定の形状を保持してなる」と特定されているのに対し、甲3発明ではそのように特定されていない点。 ウ 判断 上記(1)で検討したとおり、本件発明1の「一定の形状を保持してなる化粧料保持体」とは、シート状の基材を所望の立体形状に成形して得られた一定の形状が、成形後もその形状のままで維持され変化がない化粧料保持体を意味していると解され、その化粧料保持体に化粧料組成物が保持されている化粧料も、全体として成形後の使用時にも形状の変化がないものといえる。 一方、甲3発明の「シート状化粧料」は、上記(3b)のとおり、「汗、皮脂を効果的に拭き取り、べたつき感を抑え、肌により効果的なさらさら感を付与することができるシート状化粧料」に関するものであって、肌を拭くために使用するものである。そして、上記(3c)には、「柔らかさと強度、嵩高性を満たすため、拭きごたえがあり、厚みのあるシートとなり、良好な使用感を提供できる」と記載されているとおり、使用時には、形状が変化するものである。 そして、甲3には、甲3発明の「シート上化粧料」が、成形後の使用時にも形状の変化がない「一定の形状を保持してなる」ものと理解できるところはない。 エ まとめ よって、本件発明1は、甲3に記載された発明ということはできない。 そして、本件発明1を引用してさらに特定する本件発明2も、甲3に記載された発明ということはできない。 (4)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する理由(B)には理由がない。 3 理由(C)(29条2項)について (1)甲1、2又は3に基づく進歩性 ア 上記2で検討したとおり、甲1?3に記載されている「甲1発明」、「甲2発明」及び「甲3発明」は、いずれも肌を拭くようにして使用する化粧料である。そして、そのために、適度な柔らかさを有するものであることも記載されている。 そうすると、これら甲1?3に記載されている各発明の化粧料において、上記2で検討した相違点に係る「一定の形状を保持してなる」もの、すなわち、使用時も形状が変更しないものとすることを、当業者が容易になし得るということはできない。 イ 甲4及びその翻訳文に相当する甲6には、上記(4a)に示す実施例64に、リキッドファンデーション適用パッドとして、複数色の着色顔料を含有した化粧料組成物が保持されているシート状基材が記載されている。 しかしながら、甲4のパッドは、上記(4a)にもあるとおり肌を拭くようにして使用するものであり、したがって、甲4の記載を考慮しても、甲1?3に記載された発明における各発明の化粧料において、上記相違点に係る構成を採用する動機付けとなるところはない。 甲5には、上記(5a)の請求項1及び(5c)の実施例1?2からみて、光輝性顔料や着色顔料を含有する化粧料が保持されているシート状化粧料が記載されている。 しかしながら、上記(5b)に、「腕、足、首、顔等の人体の肌等の表面を摺動させ、ラメ感のある粉体を肌に付着させることによって、優れたファッション性を得ることができる」と記載されているとおり、甲5のシート状化粧料も肌を拭くようにして使用するものであるから、甲5の記載を考慮しても、甲1?3に記載された発明における各発明の化粧料において、上記相違点に係る構成を採用する動機付けとなるところはない。 ウ そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を採用することにより、本件特許明細書【0027】?【0028】に記載の、「化粧料として使用しても型くずれが起こりにくく、美粧性の高い化粧料を得ることができる。」、「立体成形された化粧料保持体に化粧料組成物が保持されるので、装飾性が高く、美粧性を有する化粧料を得ることができる。また、使用者がスポンジ、ブラシ、はけ、筆等の化粧用小道具を使用して化粧料を擦り取って使用しても、化粧料保持体の形状が維持されるので、美粧性を維持することができる。」という効果を奏するものである。 エ まとめ よって、本件発明1は、甲1、2又は3発明及び甲4?6に記載された周知の事項に基づき、当業者が容易になし得たものということはできない。 そして、本件発明1を引用してさらに特定する本件発明2及び3も、甲1、2又は3発明及び甲4?6に記載された周知の事項に基づき、当業者が容易になし得たものということはできない。 (2)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する理由(C)には理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-05-25 |
出願番号 | 特願2013-515165(P2013-515165) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K) P 1 651・ 121- Y (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石川 麻紀子 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
関 美祝 渡戸 正義 |
登録日 | 2016-08-05 |
登録番号 | 特許第5981912号(P5981912) |
権利者 | 株式会社コーセー 日本製紙パピリア株式会社 |
発明の名称 | 化粧料、及び化粧料の製造方法 |
代理人 | 長門 侃二 |
代理人 | 長門 侃二 |