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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B24D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B24D
管理番号 1329115
異議申立番号 異議2016-701094  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-24 
確定日 2017-06-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5921790号発明「研磨フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5921790号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5921790号の請求項1-4に係る特許についての出願は、平成28年4月22日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人田岡直美(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1-4に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成29年2月27日付けで取消理由が通知され、平成29年4月13日に特許権者から意見書が提出されたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、特許第5921790号の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
基材と、その表面側に積層される研磨層とを有する研磨フィルムであって、
上記研磨層が、樹脂バインダー及びこの樹脂バインダー中に分散される研磨粒子を有し、
上記研磨粒子全体に対する一次粒子径70nm以上の研磨粒子の含有量が10質量%以上50質量%以下であり、
上記研磨層における上記研磨粒子の含有量が84質量%以上92質量%以下であり、
上記研磨層の押し込み硬さが370N/mm^(2)以下であることを特徴とする研磨フィルム。
【請求項2】
上記研磨粒子が、シリカ粒子である請求項1に記載の研磨フィルム。
【請求項3】
上記研磨層の平均厚さが4μm以上15μm以下である請求項1に記載の研磨フィルム。
【請求項4】
上記樹脂バインダーが、ガラス転移温度20℃以下のエラストマーを含有し、
上記樹脂バインダーに対する上記エラストマーの含有量が20質量%以上である請求項1に記載の研磨フィルム。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし4に係る特許に対して、平成29年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

4 甲各号証の記載
異議申立書に添付された甲第1号証ないし甲第8号証は次のとおりである。
甲第1号証:特開2010-274348号公報
甲第2号証:市販の研磨フィルム(TOPX S030及びTOPX S035)のウェブカタログ、バンドー化学株式会社ウェブ、製品情報>オプトエレクトロニクス関連製品>精密研磨材TOPX、TOPX S030及びTOPX S035、http://www.bando.co.jp/product/optoelectronics/polish_01.html
甲第3号証:メカニカル・テック社ウェブ、ニュース「バンドー化学、光通信コネクタの仕上げ研磨用精密研磨フィルム」、http://surface.mechanical-tech.jp/node/1166
甲第4号証:NTTアドバンステクノロジ株式会社(NTT AT社)ウェブ、光コネクタ製造>光コネクタ研磨機・研磨フィルム>長寿命研磨フィルムADSシリーズ、ADS-SKY、http://keytech.ntt-at.cp.jp/optic1/prd_0039.html
甲第5号証:月刊ビジネスコミュニケーション、2011年5月号のびじねす玉手箱、http://www.bcm.co.jp/site/2011/05/tamatebako/ntt-at/1105-ntt-at.html
甲第6号証:実験成績証明書(甲第2号証及び甲第4号証の研磨フィルムを含む市販の研磨フィルムのISO-14577-1準拠した方法による押し込み硬さの測定結果)
甲第7号証:フィッシャー・インストルメンツ社製のPICODENTOR HM500について紹介するウェブ、http://www.helmut-fischer.com/jp/jp/nanoindentation/picodentor-hm500/
甲第8号証:新潟県工業技術総合研究所が平成25年11月17日に行った機器利用促進セミナーの座学「薄膜硬度計の紹介と使い方」にて用いた配布資料、http://www.iri.pref.niigata.jp/pdf/news/25new97_r3.pdf

そして、上記甲各号証には次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証
甲第1号証には、研磨フィルムが記載されているが、研磨層の押し込み硬さについての言及はない。
(2)甲第2、3及び6号証
甲第2号証には市販の研磨フィルム(TOPX S030及びTOPX S035)のウェブカタログが示され、甲第3号証にはTOPX S035が本件出願前に公知であったことを示すニュースが示され、甲第6号証には、TOPX S030及びTOPX S035の研磨フィルムの押し込み硬さの測定結果が示されている。
(3)甲第4、5及び6号証
甲第4号証には市販の研磨フィルム(ADS-SKY)のウェブカタログが示され、甲第5号証にはADS-SKYが本件出願前に公知であったことを示すニュースが示され、甲第6号証には、ADS-SKYの研磨フィルムの押し込み硬さの測定結果が示されている。
(4)甲第7及び8号証
甲第7号証には、フィッシャー・インストルメンツ社製のPICODENTOR HM500が、ISO-14577-1準拠の測定方法に適用される装置であることが示されている。また、甲第8号証にはPICODENTOR HM500の使い方に関する説明がなされている。

5 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
特許法第36条第6項第2号に関して、「押し込み硬さ」をどのように特定できるのか不明である旨通知した。
これに対し、特許権者の意見書の第3頁下から2行-第4頁第1行には「現実には例えば測定装置には測定誤差が必ず存在しますので、このような誤差を相殺する目的で、実際には特許出願人は10点測定を行いその平均値を用いています。」と記載されている。
一般に、測定を行う際に、ばらつきや誤差を低減するために、複数回の測定を行い平均を求めることは常套手段であり、本件特許においても通常想到し得ない測定方法を用いていないことが確認された。
甲第8号証のスライド15に、複数の点を連続測定することが示され、スライド10に、平均値が計算されていることからも、「押し込み硬さ」は、複数回測定をして平均値を求めるという、わざわざ記載するまでもない通常の測定方法によって特定することは明らかである。
したがって、「押し込み硬さ」が特定できないということはできない。

よって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 甲第6号証について
甲第6号証の実験成績証明書については、「2016年10月から11月にかけて」と記載されているのみであり、測定日時が具体的に特定されていない。また、測定器についても、具体的な型番等が示されておらず、測定した装置を特定することもできない。さらに、異議申立人単独での測定で、第3者の立ち会いもないので、測定の客観性についても十分に立証されているとは言えない。
してみると、甲第6号証の実験成績証明書をもって、本件特許発明の特許要件を検討するための根拠として採用するには不十分である。
しかしながら、一応記載内容について検討する。
甲第6号証の1/3頁下から8から7行に「ISO-14577-1には押し込み深さに関しては測定対象(研磨層)の10分の1との記載があるのみなので、その記載に従った。」と記載されている。
そうすると、押し込み深さが、測定対象の10分の1であるか否かも重要な事項と考えられるが、表1及び表2において、押し込み深さがいくつであったのかは特定されていない。
甲第6号証の3/3頁第3-4行に「なお、荷重を5.0mNとすると、押し込み深さが0.8μm前後になり研磨層の厚みである5μmの10分の1よりも大きくなった。」と記載されているが、他の荷重の時の押し込み深さは記載されていない。
してみると、甲第6号証には、「測定対象(研磨層)の10分の1との記載」に従った測定結果が示されているのかどうか不明である。
そして、甲第6号証の2/3頁の表1に着目すると、「押し込み硬さ」は複数回の測定の平均を求めるのが技術常識であるから、最大値、最小値自体に意味は無く、平均値を求めていない理由も不明であるが、合議体にて平均値を計算すると、試料1は610、試料2は720、試料3は634となる。
したがって、表2も参照したとしても、甲第6号証からは、押し込み硬さが370N/mm^(2)以下の研磨フィルムが存在していたことを認めることはできない。

イ 特許法第29条第2項について
上記アのとおり、甲第6号証からは、本件出願前に「研磨層の押し込み硬さが370N/mm^(2)以下である」研磨フィルムが存在していたことを認めることはできない。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

ウ 特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書の段落【0024】には、次の記載がされている。
「上記研磨層20の押し込み硬さの上限としては、370N/mm^(2)であり、350N/mm^(2)がより好ましい。また、上記研磨層20の押し込み硬さの下限としては、250N/mm^(2)が好ましく、280N/mm^(2)がより好ましい。上記研磨層20の押し込み硬さが上記上限を超える場合、研磨時に光ファイバが選択的に研磨され、フェルールに対して光ファイバの引き込みが発生するおそれがある。一方、上記研磨層20の押し込み硬さが上記下限未満である場合、当該研磨フィルムの研削力が不足するおそれがある。」
この「上記研磨層20の押し込み硬さが上記上限を超える場合、研磨時に光ファイバが選択的に研磨され、フェルールに対して光ファイバの引き込みが発生するおそれがある。」からすると、「光ファイバの引き込み」の観点では、上限値が定められていればよいことが理解できるのであるから、下限値を特定していないことが、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているということはできない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものとはいえない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-05 
出願番号 特願2015-556320(P2015-556320)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B24D)
P 1 651・ 537- Y (B24D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 真  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 平岩 正一
刈間 宏信
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5921790号(P5921790)
権利者 バンドー化学株式会社
発明の名称 研磨フィルム  
代理人 天野 一規  

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