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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 H02K |
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管理番号 | 1329117 |
異議申立番号 | 異議2017-700255 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-13 |
確定日 | 2017-06-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5991099号発明「電動機及び電動パワーステアリング装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5991099号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第5991099号に係る出願は、平成24年9月10日の出願であって、平成28年8月26日に特許権の設定登録がなされた。 これに対して、特許異議申立人より平成29年3月13日に、本件請求項1に係る発明(以下、本件請求項1に係る発明を「本件発明」という。)の特許について特許異議の申立てがなされた。 2.本件発明 本件発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ロータヨークと、前記ロータヨークに複数埋め込まれるマグネットと、前記マグネットの周方向両側に設けられて磁束短絡を防止するためのフラックスバリアとを含むモータロータと、 前記ロータヨークの径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータと、を含み、 前記ロータヨークは、前記マグネットの径方向外側に突出する凸極部と、前記フラックスバリアの径方向外側で前記凸極部間を連結するブリッジ部と、を含み、 前記ステータコアは、前記ロータヨーク側に延在し、前記ロータヨーク側のティース先端を備えるティースを含み、 前記モータロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる最外径基準位置における前記凸極部の外周表面の曲率は、前記最外径基準位置が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大きく、かつ1つの前記凸極部において、前記凸極部が径方向外側に突出し始める2箇所の突出基部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角をQ1、前記ティース先端の間で隣接する周方向端部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角をSTとし、 Q1とSTとの関係は、下記式(1)を満たすことを特徴とする電動機。 0.12≦(ST/Q1)≦0.47 ・・・(1)」 3.申立て理由の概要 特許異議申立人は、本件発明に係る特許を取り消すべきものとする旨の特許異議を申立て、証拠方法として、甲第1号証(特表2008-545364号公報)、甲第2号証(特開2004-88905号公報)を提出し、本件発明は甲第1号証に記載された発明に甲第2号証記載のものを適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許を取り消すべきものと主張している。 4.甲各号証の記載 甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 a「本発明のさらに別な狙いは、モータ作動時にコギングトルクを減らすロータ、特にブラシレスモータ用ロータを提供することである。」(【0013】) b「図4及び6に表されるように、モータMは、ロータ1に適合する固定子200を備える。 ロータ1は、通常はモータMの軸と一致する回転Dの主軸を有し、及び、積層鉄心2、即ち、(「スタック技術」として知られるものによって組み立てられる)第1及び第2の壁4、5によって且つ側面6によって囲まれる結合要素3aで互いに堅く結合した多数の薄い積層3から構成される積層鉄心2を備える。」(【0017】) c「スタック因子訂正の目的は、積層鉄心2全体の間の抵抗を一定に保つためである。 4極ロータ1を説明する図1及び2に表されるように、鉄心2は、各々が磁石10を収納する4つの縦スロット9も有する。 各磁石10は、ロータ1をより簡単にバランスさせるのに規定の重量を有する。 説明されない代替的実施形態では、磁石10は、磁場を最適化又は最大化するために、各スロット9より短い又は長い。 図3に表されるように、各スロット9は、各磁石10及び成形末端部15を適合するための中央ゾーン14を有し、成形末端部15は、中央ゾーン14に対して適切に曲げられる。 知られるように、これらの末端部15は、空であり、特に、スロット9に収納された各磁石10によって生成される磁束漏れの囲い込みを防ぐために使用される。」(【0020】-【0021】) d「鉄心2の側面6は、互いに接続される多数の円弧11によって規定され、より詳細には、4極ロータ1の場合は、各積層3の側面は、半径R3の4つの弧11によって規定される。 記載の簡素化のために、1つの積層3でより詳細に検討すると、弧11の頂点12は、軸Dから等しい距離R1に配置され、主軸Dに実質的に垂直な軸D1に沿って配置され、それぞれの縦スロット9の中心線を通過する。 基本的には、各弧11は、それぞれのスロット9に配置され、そして、隣接弧11は、直線部分13によって接続される。 1つの積層3(及び、結果的に、鉄心2)は、丸い角を有する多角形の形状を有する。 弧11の中心は、軸Dから均等な距離R2にある。 特に図2で説明されるように、弧11の中心は、より詳細に後述される空隙を通して磁束分散を最適化するために、縦穴7の境界24の内部に実質的に配置される。 例示及び発明の範囲を限定しない方法で、好ましい実施形態における4極ロータ内の各弧11は、主軸Dを参照して計測される約55°?65°の間の角度Hに範囲を定める。より詳細には、好ましい実施形態における弧11によって範囲を定められる角度Hは、約60°である。 図5に説明されるように、ロータ1の鉄心2は、実質的にT形状部及びゾーン25の一続きを有する。 ゾーン25は、上記接続部分13及び近接スロット9の末端部15によって囲まれる。 各ゾーン25は、軸D1に沿った半径方向に実質的に延びる幅Sの脚部26、及び、2つの連続した弧11を結合し、且つ、脚部26と実質的に垂直な方向に延びる幅S1のブリッジ27を有する。」(【0023】-【0026】) 上記記載及び図面を参照すると、磁石の周方向両側に設けられて磁束漏れの囲い込みを防ぐ成形末端部が設けられている。 ブラシレスモータを駆動するには、ステータコアを励磁させる励磁コイルが必要であるから、上記記載及び図面を参照すると、ロータヨークの径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータが実質的に示されている。 上記記載及び図面を参照すると、成形末端部の径方向外側で弧間を連結するブリッジが設けられている。 上記記載及び図面を参照すると、ステータコアは積層鉄心側に延在し、前記積層鉄心側のティース先端を備えるティースを有している。 上記記載及び図面を参照すると、ロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる弧の頂点における前記弧の外周表面の曲率は、前記弧の頂点が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大きい。 上記記載事項からみて、甲第1号証には、 「積層鉄心と、前記積層鉄心に4つ収納される磁石と、前記磁石の周方向両側に設けられて磁束漏れの囲い込みを防ぐ成形末端部とを含むロータと、 前記積層鉄心の径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータと、を含み、 前記積層鉄心は、それぞれ磁石を収納するスロットに配置される4つの弧と、前記成形末端部の径方向外側で弧間を連結するブリッジを含み、 前記ステータコアは、前記積層鉄心側に延在し、前記積層鉄心側のティース先端を備えるティースを含み、 前記ロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる弧の頂点における前記弧の外周表面の曲率は、前記弧の頂点が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大きいモータ。」 との発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア「実施の形態3. 次に、この発明の実施の形態3について説明する。この実施の形態は、実施の形態2をベースとして小型化、低トルク脈動が達成できるモータの固定子鉄心形状を提案するものである。実施の形態2ではティースの磁束密度を1.5T以下にすれば、低トルク脈動を達成できることが分かった。ここでは、ティースの幅と磁極間の幅、空隙長からティースの磁束密度の目安となるパラメータXを定義し、Xによるトルク脈動の大きさについて検討する。 図12にモータの概略構成を断面図で示す。この図において、10は固定子鉄心、10Aはそのコアバック、10Bは同じくティース、11はティース10Bに巻装された電機子巻線、12は回転子シャフト、13は回転子シャフトの周面に装着された複数個の永久磁石で、リング状に形成されている。また、Wtはティースの幅[m]、△は固定子鉄心と回転子との間の空隙長[m]、hmは永久磁石の径方向の厚み[m]、Wmは磁極間の間隔[m]である。」(【0026】) イ「そこで、モータ体格によらず、スロット開口部10Cの幅による漏れ磁束の発生度合いを示すパラメータとしてa/Wを定義する。ここで、aは図19に示すように、スロット開口部10Cの幅[m]、Wはスロットのピッチ[m]で、 (固定子内径(直径))×(円周率)/スロット数 で定義するものとする。図19は、インナーロータ型のモータの例を示すものであるが、アウタロータ型の場合には、 (固定子外径(直径))×(円周率)/スロット数 としてWを定義する。なお、補助溝が設けられている場合には、スロット数に補助溝は数えないものとする。 このパラメータa/Wを変化させたときのコギングトルクとトルク脈動を定格トルクに対する割合で示したものを図20に示す。この図において、E1は弱め磁束制御なしの場合のトルク脈動率、E2は弱め磁束制御ありの場合のトルク脈動率、Fはコギングトルクを示す。まず、コギングトルクについて説明する。 上述したように、スロット開口部10Cの幅が小さい、すなわちa/Wが小さいときには、固定子のパーミアンスの脈動成分が小さくなるためコギングトルクが小さくなる。また、個々の磁極の形状、寸法、磁気特性がばらついた場合にはコギングトルクは大きくなるが、スロット開口幅が小さいほどばらつきの影響は小さくなる。電動パワーステアリング装置用モータでは良好な操舵フィーリングを得るために、代表的なギヤ比から換算すれば、微操舵時に関係するコギングトルクを定格トルクの0.5%以下にする必要があるが、これを満足するためには図20から、a/W<0.13にすればよいことが分かる。一方、トルク脈動については、すでに述べた通りスロット開口幅が小さいほど漏れ磁束が多くなり、固定子鉄心の磁気飽和が発生しトルク脈動が増加してしまう。 図20の破線のE1が弱め磁束制御のない場合で、実線のE2が弱め磁束制御を行なった場合である。いずれも、a/Wが小さいほどトルク脈動が大きくなっている。さらに、弱め磁束制御を行なうとトルク脈動が低減されていることも分かる。電動パワーステアリング装置用モータのトルク脈動率は2%以下がよいとされているため、良好な操舵フィーリングを得るためには、0.03<a/Wでなければならないことが分かる。弱め磁束制御によってトルク脈動が低減される上、スロット開口幅が小さくてもトルク脈動が低減されるので、コギングトルクも小さくできる。 以上から、 0.03<a/W<0.13 なる関係があるときに弱め磁束制御を適用すれば、低トルク脈動と低コギングトルクの両立を実現することができる。特に電動パワーステアリング装置用モータに適用すれば、良好な操舵フィーリングを得ることができる。」(【0035】-【0037】) 5.対比 そこで、本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「モータ」は、本件発明の「電動機」に相当する。 甲1発明の「積層鉄心と、前記積層鉄心に4つ収納される磁石と、前記磁石の周方向両側に設けられて磁束漏れの囲い込みを防ぐ成形末端部とを含むロータ」は、本件発明の「ロータヨークと、前記ロータヨークに複数埋め込まれるマグネットと、前記マグネットの周方向両側に設けられて磁束短絡を防止するためのフラックスバリアとを含むモータロータ」に相当する。 甲1発明の「前記積層鉄心の径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータ」は、本件発明の「前記ロータヨークの径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータ」に相当する。 甲1発明の「前記積層鉄心は、それぞれ磁石を収納するスロットに配置される4つの弧と、前記成形末端部の径方向外側で弧間を連結するブリッジを含み」は、本件発明の「前記ロータヨークは、前記マグネットの径方向外側に突出する凸極部と、前記フラックスバリアの径方向外側で前記凸極部間を連結するブリッジ部と、を含み」に相当する。 甲1発明の「前記ステータコアは、前記積層鉄心側に延在し、前記積層鉄心側のティース先端を備えるティースを含み」は、本件発明の「前記ステータコアは、前記ロータヨーク側に延在し、前記ロータヨーク側のティース先端を備えるティースを含み」に相当する。 甲1発明の「前記ロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる弧の頂点における前記弧の外周表面の曲率は、前記弧の頂点が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大き」いは、本件発明の「前記モータロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる最外径基準位置における前記凸極部の外周表面の曲率は、前記最外径基準位置が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大き」くに相当する。 したがって、両者は、 「ロータヨークと、前記ロータヨークに複数埋め込まれるマグネットと、前記マグネットの周方向両側に設けられて磁束短絡を防止するためのフラックスバリアとを含むモータロータと、 前記ロータヨークの径方向外側に、環状に配置されるステータコア及び前記ステータコアを励磁させる励磁コイルを含むモータステータと、を含み、 前記ロータヨークは、前記マグネットの径方向外側に突出する凸極部と、前記フラックスバリアの径方向外側で前記凸極部間を連結するブリッジ部と、を含み、 前記ステータコアは、前記ロータヨーク側に延在し、前記ロータヨーク側のティース先端を備えるティースを含み、 前記モータロータの回転中心と直交する平面において、前記回転中心からの距離が最大値となる最外径基準位置における前記凸極部の外周表面の曲率は、前記最外径基準位置が前記回転中心を中心として回転して描く曲率よりも大きい電動機。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 本件発明は、1つの凸極部において、前記凸極部が径方向外側に突出し始める2箇所の突出基部と回転中心とを結ぶ線同士のなす角をQ1、ティース先端の間で隣接する周方向端部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角をSTとしたとき、Q1とSTとの関係は、0.12≦(ST/Q1)≦0.47であるのに対し、甲1発明は、この様な特定がない点。 6.判断 本件発明は、凸極部が径方向外側に突出し始める2箇所の突出基部を有しており、凸極部の基点は2箇所の突出基部である。しかし、甲第1号証記載のものは、弧間は直線部分によって接続されることにより、丸い角を有する多角形の形状を有しているから、直線部分全てが径方向外側に突出する凸極部の基点となり、径方向外側に凸極部が突出し始める突出基部は存在しないこととなる。 更に、甲第1号証には、ティース先端の間で隣接する周方向端部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角STがどの程度であるか記載も示唆もない。 更に、甲第2号証には、スロット開口部の幅aとスロットのピッチWの比を定義する記載があるだけであって、ST/Q1については記載も示唆もない。 そうであれば、甲第1号証、甲第2号証には、「1つの凸極部において、前記凸極部が径方向外側に突出し始める2箇所の突出基部と回転中心とを結ぶ線同士のなす角をQ1、ティース先端の間で隣接する周方向端部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角をSTとしたとき、Q1とSTとの関係は、0.12≦(ST/Q1)≦0.47である」ことが記載も示唆もされておらず、甲1発明を上記相違点のようにすることは、当業者が容易に考えられたものとすることはできない。 なお、特許異議申立人は、甲第1号証第4図には、「1つの凸極部において、前記凸極部が径方向外側に突出し始める2箇所の突出基部と回転中心とを結ぶ線同士のなす角をQ1、ティース先端の間で隣接する周方向端部と前記回転中心とを結ぶ線同士のなす角をSTとしたとき、Q1とSTとの関係は、0.12≦(ST/Q1)≦0.47である」ことが記載されている旨主張するが、上述のように甲第1号証には突出基部が存在せず、又、STを図面から読み取っているが、願書に添付された図面は設計図ではなく、特許を受けようとする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり、同図上に当業者に理解され得る程度に技術内容が明示されていれば足り、これによって当該部分の角度や寸法等が特定されるものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 したがって、本件発明は、甲1発明に甲第2号証記載のものを適用することにより当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。 7.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-06-06 |
出願番号 | 特願2012-198981(P2012-198981) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H02K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小林 紀和 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 堀川 一郎 |
登録日 | 2016-08-26 |
登録番号 | 特許第5991099号(P5991099) |
権利者 | 日本精工株式会社 |
発明の名称 | 電動機及び電動パワーステアリング装置 |
代理人 | 酒井 宏明 |