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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1329504
審判番号 不服2016-8248  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-03 
確定日 2017-07-04 
事件の表示 特願2011-245286「偏光性積層フィルムおよび積層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-101241、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年11月9日の出願であって、平成27年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書が提出されたが、平成28年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、平成29年5月16日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10(以下「補正後の請求項1ないし10」ともいう。)に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1及び7に係る発明は、それぞれ次のとおりである(以下、補正後の請求項1ないし10に係る発明を「本願発明1」ないし「本願発明10」ともいう。)。
なお、請求項2ないし6は、いずれも請求項1の記載を引用して記載された請求項であり、また、請求項8ないし10は、いずれも請求項7の記載を引用して記載された請求項である。

「 【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される偏光子層とを備える偏光性積層フィルムであって、
前記基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からなり、
前記基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含み、
前記樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、前記樹脂層Bは面内において実質的に無配向である偏光性積層フィルム。」

「 【請求項7】
基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層とを備える積層フィルムであって、
前記基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からなり、
前記基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含み、
前記樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、前記樹脂層Bは面内において実質的に無配向である積層フィルム。」

第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、概ね、本件出願の請求項1ないし12(原査定時)に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本件出願の請求項1ないし12(同)に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、原査定時の請求項1及び2が補正後の請求項1及び2に、原査定時の請求項4ないし9が補正後の請求項3ないし8に、原査定時の請求項11及び12が補正後の請求項9及び10に、それぞれ対応している。



引用文献1.特開2007-185882号公報
引用文献3.特開2000-338329号公報

第4 原査定の理由についての当審の判断
1 刊行物に記載された事項
(1)引用例1に記載された発明
本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、原査定において引用文献1として引用された特開2007-185882号公報(以下「引用例1」という。)の段落【0064】、【0240】、【0241】、図7及び図8には、「実験3」又は「実験4」で作成した未延伸のセルロースアシレートフィルムとして、次の発明が記載されていると認められる。
「ギヤポンプから送り出したセルロースアシレートの溶融ポリマーを異物除去のために4μmの焼結フィルターを経由した後、共押出しによりA層、B層及びC層の3層とし、総厚みが80μmになるように、かつ、A層:B層:C層の層比が1:7:1又は1:5:1になるようにセルロースアシレートフィルムとして製膜し、ダイから吐出された3層のシートを一対のローラ26、28で冷却固化して作成した未延伸のセルロースアシレートフィルムであって(【0240】、【0241】、図8)、
前記A層及びC層は、ガラス転移温度Tgが125℃であるセルロースアシレート樹脂Iからなり、前記B層は、Tgが101℃であるセルロースアシレート樹脂V又はセルロースアシレート樹脂VIからなり(図7)、
前記ローラ26は弾性ローラであって、そのローラ温度が123℃であり、前記ローラ28は冷却ローラであって、そのローラ温度が123℃であり(【0064】、図8)、
内層(B層)として外層(A層及びC層)のセルロースアシレート樹脂IよりもTgが12℃又は24℃低いセルロースアシレート樹脂V又はセルロースアシレート樹脂VIを用いることで、前記弾性ローラ26と冷却ローラ28による押圧力を冷却固化した外層のセルロースアシレート樹脂Iではなく液体状態のセルロースアシレート樹脂V又はセルロースアシレート樹脂VIで受けることができるため、フィルムの残留歪みが抑制されレターデーションの小さな(Re=0.5又は0.4(nm)、Rth=3.2又は1.5(nm))光学フィルムに適した、実験3又は実験4のセルロースアシレートフィルム。」
さらに、引用例1の段落【0244】ないし【0249】には、前記「実験3」又は「実験4」の未延伸セルロースアシレートフィルムを用いて作成した「偏光板A」及び「偏光板B」として、次の発明が記載されていると認められる。
「前記実験3又は実験4の未延伸セルロースアシレートフィルムの表面を鹸化処理し(【0244】ないし【0248】)、特開2001-141926号公報の実施例1に従って偏光層を作成し(【0248】)、
得られた偏光層を下記層構成となるようにPVA3%水溶液を接着剤として貼り合わせて作成した偏光板A及び偏光板B(【0248】)。
偏光板A:未延伸フィルム/偏光層/フジタック(冨士写真フィルム製TD80、表面鹸化処理済)
偏光板B:未延伸フィルム/偏光層/未延伸フィルム(【0249】)」(以下「引用発明1」という。)

(2)引用例2に記載された事項
本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、原査定において引用文献3として引用された特開2000-338329号公報(以下「引用例2」という。)の段落【0043】ないし【0050】、【0069】等には、偏光子層の厚みを10μm以下とすることや、偏光子層と保護フィルムを積層後に延伸して偏光子層の吸収軸と保護フィルムの配向軸とを平行にすることが記載されていると認められる(以下「引用例2の記載事項」という。)

2 対比
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「『未延伸セルロースアシレートフィルム』、『未延伸フィルム』」、「偏光層」、「『A層』、『B層』、『C層』、『内層』、『外層』」及び「『偏光板A』、『偏光板B』」は、本願発明1の「基材フィルム」、「偏光子層」、「樹脂層」及び「偏光性積層フィルム」に相当する。

イ 引用発明1の「未延伸セルロースアシレートフィルム」は、「A層」、「B層」及び「C層」の3層構造であり、「内層(B層)」として「外層(A層及びC層)」のセルロースアシレート樹脂IよりもTgが12℃又は24℃低いセルロースアシレート樹脂V又はセルロースアシレート樹脂VIを用いるのであるから、引用発明1の「内層」又は「B層」が、本願発明1の「2種以上の樹脂層のうち最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層」「B」に相当し、引用発明1の「外層」又は「A層及びC層」が、本願発明1の「2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層」「A」に相当する。
また、引用発明1の「未延伸のセルロースアシレートフィルム」(本願発明1の「基材フィルム」に相当。以下、「」中に引用発明1の構成を記し、かつ、当該「」の後に()を付したときは、当該()中に引用発明1の構成に対応する本願発明1の構成を記す。)は、「A層」(樹脂層)、「B層」(樹脂層)及び「C層」(樹脂層)の3層構造であり、前記「B層」(2種以上の樹脂層のうち最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層B)を内層とし、前記「A層及びC層」(2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層A)を外層とするものであるから、引用発明1は、本願発明1の「基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からな」るという構成及び「基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含」むという構成を共に充足する。

ウ 引用発明1の「偏光板A」は、「未延伸フィルム」(基材フィルム)/「偏光層」(偏光子層)/フジタックという層構成であり、また、「偏光板B」は、「未延伸フィルム」(基材フィルム)/「偏光層」(偏光子層)/「未延伸フィルム」(基材フィルム)という層構成であるから、引用発明1の「偏光板A」及び「偏光板B」は、本願発明1の「偏光性積層フィルム」と、「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される偏光子層とを備える」点で一致する。

エ 上記アないしウからみて、本願発明1と引用発明1とは、
「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される偏光子層とを備える偏光性積層フィルムであって、
前記基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からなり、
前記基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含む、
偏光性積層フィルム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明1では、「前記樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、前記樹脂層Bは面内において実質的に無配向である」のに対し、
引用発明1では、A層及びC層(本願発明1の「樹脂層A」に相当。)及びB層(本願発明1の「樹脂層B」に相当。)が配向であるか無配向であるかは特定されていない点。

(2)本願発明7と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「『未延伸セルロースアシレートフィルム』、『未延伸フィルム』」、「『A層』、『B層』、『C層』、『内層』、『外層』」及び「『偏光板A』、『偏光板B』」は、本願発明7の「基材フィルム」、「樹脂層」及び「積層フィルム」に相当する。

イ 上記(1)イと同様に、引用発明1は、本願発明7の「基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からな」るという構成及び「基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含」むという構成を共に充足する。

ウ 引用発明1の「未延伸フィルム」(本願発明7の「基材フィルム」に相当。)の一方の面には偏光層が積層されるところ、当該偏光層は、特開2001-141926号公報の実施例1に従って偏光層を作成したものである。ここで、特開2001-141926号公報には、実施例1として、「厚さ75μmの長尺ポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製、9X75RS)をガイドロールにて連続搬送し、30℃の水浴中に浸漬させて1.5倍に膨潤させ、かつ延伸処理して2倍の延伸倍率とした後、ヨウ素とヨウ化カリウム配合の染色浴(30℃)に浸漬して染色処理すると共に延伸処理して3倍の延伸倍率とし、ついでそれをホウ酸とヨウ化カリウムを添加した酸性浴(60℃)中で架橋処理すると共に延伸処理して6.5倍の延伸倍率とし、50℃で5分間乾燥させて偏光フィルムを得」ることが記載されている(段落【0026】参照。)。
そうすると、引用発明1の偏光層は、本願発明7の「延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層」に相当するといえ、引用発明1の「偏光板A」及び「偏光板B」は、本願発明7の「基材フィルムと、基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層を備える」という構成を充足する。

エ 上記アないしウからみて本願発明7と引用発明1とは、
「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層とを備える積層フィルムであって、
前記基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種以上の樹脂層の積層構造からなり、
前記基材フィルムは、前記2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含む、
積層フィルム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点2:
本願発明7では、「前記樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、前記樹脂層Bは面内において実質的に無配向である」のに対し、
引用発明1では、A層及びC層(本願発明7の「樹脂層A」に相当。)及びB層(本願発明7の「樹脂層B」に相当。)が配向であるか無配向であるかは特定されていない点。

3 判断
(1)相違点について
ア 相違点1と相違点2は実質的に同じ内容であるので、まとめて検討する。
イ 引用例1には、A層及びC層(本願発明の「樹脂層A」に相当。)及びB層(本願発明の「樹脂層B」に相当。)が配向であるか無配向であるかについて明記はない。
しかしながら、引用例1の段落【0139】には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「Tg(フィルムのTg即ちセルロースアシレートと添加物の混合体のTgを指す)は95℃以上145℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以上140℃以下、さらに好ましくは105℃以上135℃以下である。・・・(中略)・・・
(8)延伸
上記の方法で製膜したフィルムを延伸しても良い。これによりRe,Rthを制御できる。延伸はTg(℃)以上(Tg+50)℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+3)℃以上(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg+5)℃以上(Tg+20)℃以下である。・・・(以下略)・・・」
ウ 引用例1の段落【0139】の記載に接した当業者が、引用発明1の偏光板A又は偏光板Bにおける未延伸フィルムを延伸してもよいことに想到することは容易であったと認められる。
しかしながら、その場合の延伸温度は、「Tg(℃)以上(Tg+50)℃で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+3)℃以上(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg+5)℃以上(Tg+20)℃以下」とされているものの、引用発明1のように延伸対象のフィルムが複層フィルムである場合、上記Tgが、各層のTgを指すのか、あるいは複層全体のTg(例えば、各層のTgを体積比で平均化した値)を指すのかは不明である。
そうすると、引用例1の記載に接した当業者が、複層フィルムである引用発明1の実験3又は実験4に係るセルロースアシレートフィルムを延伸しようとする際に、上記段落【0139】の記載を参照したとしても、延伸温度を具体的に何度に設定するかを決めることは容易ではない。
さらに、(Tg+50)℃以下、(Tg+3)℃以上(Tg+30)℃以下、あるいは(Tg+5)℃以上(Tg+20)℃以下の範囲の中でありさえすればどのような延伸温度に設定したとしても、A層及びC層が面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、B層が面内において実質的に無配向であるという特性が実現できるわけではないところ、仮に、当業者が、上記範囲の中から任意の延伸温度を選択することが容易であったとしても、さらに、上記範囲の中から特定の延伸温度を選択することによって上記特性を実現し、それによって偏光板のリワーク性の改善という効果を得ることまでが容易であったとはいえない。なぜなら、そもそも、引用例1には、A層及びC層とB層とで配向状態を異ならせるということについて記載や示唆はまったくないのであり、引用例1は、A層及びC層とB層とで配向状態が異なるものとなるように、実験3又は実験4に係るセルロースアシレートフィルムを特定の延伸温度で延伸してみようとする動機付けを、当業者に何ら与えるものではないからである。
エ また、引用例2の記載事項も、引用発明1において、A層及びC層とB層とで配向状態を異ならせるということについて何ら示唆を与えるものではない。
オ 上記アないしエのとおりであるから、引用発明1において、A層及びC層が面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、B層が面内において実質的に無配向であるようになすこと、すなわち、相違点1又は2に係る本願発明1又は7の構成となすことは、少なくとも引用例1及び3の記載に基づいては、当業者が容易に想到できたことであるとはいえない。

(2)小括
上記(1)からみて、本願発明1及び7は、いずれも、引用発明1、引用例1の記載事項及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件出願の請求項2ないし6に係る発明及び請求項8ないし10に係る発明について
上記第2で述べたとおり、請求項2ないし6は、いずれも請求項1の記載を引用して記載された請求項であり、また、請求項8ないし10は、いずれも請求項7の記載を引用して記載された請求項であり、当該請求項2ないし6に係る発明及び請求項8ないし10に係る発明は、それぞれ、本願発明1又は7をさらに限定したものであるので、本願発明1及び7と同様に、当業者が引用発明1、引用例1の記載事項及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)原査定についてのまとめ
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、補正後の請求項1ないし10に係る発明について、原査定の理由は成り立たない。

第5 当審の拒絶理由の概要
当審が平成29年1月23日付けで通知した拒絶理由は、概ね、次のとおりである。

本件出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:特開2008-46495号公報

第6 当審の拒絶理由についての当審の判断
1 刊行物に記載された事項
(1)引用例3に記載された発明
本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、当審の拒絶理由において引用された特開2008-46495号公報(以下「引用例3」という。)の段落【0061】ないし【0069】には、実施例1として、次の発明が記載されていると認められる。
「ガラス転移温度105℃のメタクリル酸エステル重合体組成物Aと、ポリスチレン樹脂(スチレン-無水マレイン酸共重合体、ガラス転移温度130℃)とを、温度280℃で、共押出成形することにより、アクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)の3層構造で、250μmの複層フィルム(A)を得、
前記複層フィルム(A)を、延伸温度128℃、延伸倍率1.4倍、延伸速度10m/分で、テンター一軸延伸し、位相差フィルム(A)を得、
前記複層フィルム(A)を第1基材として用い、この第1基材の片面をコロナ放電処理した後、ポリビニルアルコール10部および水371部からなる配向膜塗布液を、前記第1基材のコロナ放電処理面に、バーコーターにて塗布、乾燥し、厚さ0.1μmの配向膜を形成し、次いで、前記第1基材の長手方向に対し、平行方向に連続的に配向膜表面をラビング処理し、
重合性液晶化合物(複屈折Δnが0.23である棒状液晶性化合物)81.5部、光重合開始剤(アデカ社製、商品名「オプトマーN1919」)3.1部、界面活性剤(セイミケミカル社製、商品名「KH-40」)0.1部、カイラル剤(BASF社製、商品名「LC576」)18.5部、およびメチルエチルケトン240.8部とを配合してコレステリック液晶層塗布液を得、この塗布液を、前記配向膜上にバーコーターを用いて塗布し、乾燥、および加熱(配向熟成)し、さらに紫外線を照射して、厚さ5.0μmのコレステリック液晶重合層、すなわちコレステリック規則性を有する樹脂層(C)を形成し、偏光分離シート(D)を得、
前記偏光分離シート(D)のコレステリック規則性を有する樹脂層(C)の上に、エチレン-酢酸ビニル共重合体をベースポリマーとした接着層(E)を、厚さ20μmとなるように、バーコーターにより塗布・乾燥し、第2基材として位相差フィルム(A)を用い、これと、前記接着層(E)を塗布した偏光分離シート(D)とを、ラミネーターを用いて、80℃、2kgf/50mmの加圧力にて、貼り合わせて作製した、
偏光分離シート(D)(コレステリック規則性を有する樹脂層(C)が接着層に面している)/接着層(E)/位相差フィルム(A)の構成の光学積層フィルム(輝度向上フィルム)1。」(以下「引用発明2」という。)

2 対比
(1)本願発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「コレステリック規則性を有する樹脂層(C)」は、偏光分離機能を有する層であるから、本願発明1の「偏光子層」に相当する。また、引用発明2の「『第2基材』として用いる『位相差フィルム(A)』」は、本願発明1の「基材フィルム」に相当し、そうすると、引用発明2の「偏光分離シート(D)(コレステリック規則性を有する樹脂層(C)が接着層(E)に面している)/接着層(E)/位相差フィルム(A)の構成の光学積層フィルム(輝度向上フィルム)1」は、本願発明1の「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される偏光子層とを備える偏光性積層フィルム」に相当する。
また、引用発明2の「位相差フィルム(A)」は、アクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)の3層構造の複層フィルム(A)を一軸延伸して得られたものであり、前記アクリル系樹脂のガラス転移温度が105℃で、前記スチレン系樹脂のガラス転移温度が130℃であるから、前記「アクリル系樹脂」及び「スチレン系樹脂」は、それぞれ、本願発明1の「2種類以上の樹脂のうち最も低い相転移温度を示す樹脂」及び「2種類以上の樹脂のうち最も高い相転移温度を示す樹脂」に相当するとともに、引用発明の「アクリル系樹脂層(b)」及び「スチレン系樹脂層(a)」は、本願発明の「『2種類以上の樹脂層のうち』『最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層』『B』」及び「『2種類以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層』『A』」に相当する。
そうすると、引用発明2の「位相差フィルム(A)」(本願発明1の「基材フィルム」に相当。以下、「」内に引用発明2の構成を記し、かつ、当該「」の後に()を付したときは、当該()中に引用発明2の構成に相当する本願発明1の構成を記す。)は、「互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種類以上の樹脂層の積層構造からな」るという本願発明1の構成を充足する。

イ さらに、前記3層構造の複層フィルム(A)を一軸延伸する際の延伸温度が128℃であるから、一軸延伸時、ガラス転移温度が105℃である「アクリル系樹脂層(b)」(樹脂層B)は溶融状態となるため配向を生じない一方、ガラス転移温度が130℃である「スチレン系樹脂層(a)」(樹脂層A)は配向を生じるものと認められる。
そうすると、引用発明2の「位相差フィルム(A)」(基材フィルム)は、本願発明1の「2種類以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、樹脂層Bは面内において実質的に無配向である」という本願発明1の構成を充足する。

ウ 引用発明2は、「アクリル系樹脂層(b)」(2種類以上の樹脂層のうち最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層B)/「スチレン系樹脂層(a)」(2種類以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層A)/「アクリル系樹脂層(b)」(2種類以上の樹脂層のうち最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層B)の3層構造であるから、2種類以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、B/A/Bの順で含むものである。

エ 上記アないしウからみて、本願発明1と引用発明2とは、
「基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される偏光子層とを備える偏光性積層フィルムであって、
前記基材フィルムは、互いに異なる相転移温度(ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する)を示す樹脂から構成される2種類以上の樹脂層の積層構造からなり、
前記基材フィルムは、2種類以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、
前記樹脂層Aは面内のいずれかの方向に配向しており、かつ、前記樹脂層Bは面内において実質的に無配向である偏光性積層フィルム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点3:
前記「樹脂層A」及び「樹脂層B」を、
本願発明1は、「A/B/Aの順で含む」のに対し、
引用発明2は、B/A/Bの順で含む点。

(2)本願発明7と引用発明2とを対比する。
ア 本願発明7も、本願発明1と同様に、「基材フィルムは、2種以上の樹脂層のうち最も高い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をA、最も低い相転移温度を示す樹脂から構成される樹脂層をBとするとき、これらを、A/B/Aの順で含」むという構成を備える。
そうすると、本願発明7と引用発明2とは、実質的に相違点3と同じ内容の、次の点において相違する。

相違点4:
前記「樹脂層A」及び「樹脂層B」を、
本願発明7は、「A/B/Aの順で含む」のに対し、
引用発明2は、B/A/Bの順で含む点。

イ さらに、本願発明7は、「基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層」を備えるところ、引用発明2は、本願発明7の「基材フィルム」に相当すると認められる「位相差フィルム(A)」に、接着層(E)を塗布した偏光分離シート(D)を貼り合わせているが、当該偏光分離シート(D)における偏光子に当たる層は、コレステリック規則性を有する樹脂層(C)である。
そうすると、本願発明7と引用発明2とは、さらに、次の点においても相違する。

相違点5:
「基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される」層が、
本願発明7では、「延伸されたポリビニルアルコール系樹脂層」であるのに対し、
引用発明2では、コレステリック規則性を有する樹脂層(C)である点。

3 判断
(1)相違点について
ア 相違点3と相違点4は実質的に同じ内容であるので、まとめて検討する。
イ 引用例3の段落【0027】ないし【0031】の記載、特に段落【0027】及び【0028】の「本発明においては、光学積層フィルムを構成する第1基材及び第2基材は、・・・(中略)・・・単層構成でも2層以上の複数層構成でもよい。中でも、第1基材、第2基材の少なくとも一方がスチレン樹脂層と他の熱可塑性樹脂層を含む基材であることが好ましく、他の熱可塑性樹脂層が脂環式構造を有する樹脂層又はアクリル樹脂層であることがより好ましく、アクリル樹脂層であることが特に好ましい。前記基材が、スチレン樹脂層及び他の熱可塑性樹脂層を含む基材であることにより、光学積層フィルムに求められる高い透明性をスチレン樹脂層により、基材として求められる剛性(例えば、取り扱い性)を他の熱可塑性樹脂層により付与することができる。さらに他の熱可塑性樹脂層が、アクリル樹脂層であることにより、他の熱可塑性樹脂層にも高い透明性を付与することができる。基材にスチレン樹脂層を含む場合には、他の熱可塑性樹脂層を補強層として設けるのが好ましい。スチレン樹脂層及び他の熱可塑性樹脂層を含む場合は、スチレン樹脂層/他の熱可塑性樹脂層の2層構成、又は他の熱可塑性樹脂層/スチレン樹脂層/他の熱可塑性樹脂層の3層構成にするのが好ましい。・・・(以下略)・・・」との記載からみて、第1又は第2基材を複数層構成にする場合は、他の熱可塑性樹脂層/スチレン樹脂層/他の熱可塑性樹脂層の3層構成にするのが好ましく、他の熱可塑性樹脂層がアクリル樹脂層であることが特に好ましいとされている。
上記記載に接した当業者であれば、当該3層構成が好ましい理由として、スチレン樹脂層により光学積層フィルムに求められる高い透明性を基材に付与することができるが、基材にスチレン樹脂層を含む場合には、補強層として他の熱可塑性樹脂層を設けることが必要となるので、その場合、基材に剛性を付与することができ、さらに、高い透明性をも有するアクリル樹脂層でスチレン樹脂層を挟持した上記3層構成が特に好ましい旨を理解することができる。
ウ 一方で、引用例3には、第1又は第2基材を3層構成にする場合に、スチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)の3層構成にすることについては、記載も示唆もない。
エ そうすると、引用発明2において、第2基材としての位相差フィルム(A)をアクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)の3層構造としているのは、上記イに示した理由によると解するのが妥当であり、引用発明2の第2基材は、上記3層構成であることにより、透明性と共に剛性を備えているから、当業者が引用例3の記載に接したときに、上記引用発明2の第2基材である位相差フィルム(A)の3層構造を、例えば、スチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)に、変更しようとする動機付けが生じる余地はないというべきである。
オ 上記アないしエのとおりであるから、引用発明2において、第2基材をスチレン系樹脂層(a)/アクリル系樹脂層(b)/スチレン系樹脂層(a)の3層構造となすこと、すなわち、相違点3又は4に係る本願発明1又は7の構成となすことは、少なくとも引用例3の記載に基づいては、当業者が容易に想到できたことであるとはいえない。

(2)小括
上記(1)からみて、相違点5について検討するまでもなく、本願発明1及び7は、いずれも、引用発明2及び引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件出願の請求項2ないし6に係る発明及び請求項8ないし10に係る発明について
上記第2で述べたとおり、請求項2ないし6は、いずれも請求項1の記載を引用して記載された請求項であり、また、請求項8ないし10は、いずれも請求項7の記載を引用して記載された請求項であり、当該請求項2ないし6に係る発明及び請求項8ないし10に係る発明は、それぞれ、本願発明1又は7をさらに限定したものであるので、本願発明1及び7と同様に、当業者が引用発明2及び引用例3の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)当審の拒絶理由についてのまとめ
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、当審の拒絶の理由は、解消している。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明1、引用例1の記載事項及び引用例2の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2011-245286(P2011-245286)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 鉄 豊郎
西村 仁志
発明の名称 偏光性積層フィルムおよび積層フィルム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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