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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01T
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01T
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1329508
審判番号 不服2016-14089  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-21 
確定日 2017-07-04 
事件の表示 特願2011-244055「放射線写真撮影装置用の堅牢化された密閉容器」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月31日出願公開、特開2012-103248、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月8日(パリ条約による優先権主張 2010年11月11日 米国)の出願(特願2011-244055号)であって、平成27年9月17日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、平成28年5月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年3月27日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年5月10日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成29年5月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明である。
「【請求項1】
可搬型X線検出器用の筐体を構成するための筐体構成要素であって、
ポリマーを含む第一の層と、
該第一の層に対して上記筐体の内側となる面に形成され、電磁遮蔽を提供する第二の層と、
前記第一の層と前記第二の層の間に形成される第三の層であって、前記第一及び第二の層に破損が生じた場合にも前記第一の層に付着して前記第一の層の構造的一体性を保つ金属メッシュ構造からなる第三の層と、
を備えた可搬型X線検出器用の筐体構成要素。」

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2008-304460号公報)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「2 引用文献1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)
a「【0001】
本発明は、一般的に云えば、撮像装置に関するものであり、より具体的には、可搬型ディジタルX線検出器の電磁干渉(EMI)遮蔽に関するものである。」
b「【0020】
次に図3について説明すると、可搬型フラットパネル・ディジタルX線検出器24の一実施形態の断面図を示している。前にも述べたように、内部部品(例えば、サブシステム40)は、放射線撮影(例えば、ディジタルX線)、コンピュータ支援断層撮影、マンモグラフィなどのような、種々の撮像用部品を含むことができる。図示の検出器サブシステム40は、撮像パネル42、電子装置支持構造体44及び関連電子装置46を含む。閉鎖容器30の内部に検出器サブシステム40を物理的に支持するために、追加の内部支持体47を設けることができる。」
c「【0026】
本発明による或る特定の実施形態では、ハウジング30は、非導電性母材と該非導電性母材の中に配置された複数の導電性要素とを持つ材料組成物で実質的に形成される。材料組成物は、配合プラスチック、複合材料、又はそれらの組合せであってよい。一実施形態では、ハウジング30は、ポリカーボネート樹脂の基材と、ステンレス鋼繊維、炭素粉末、炭素繊維、又はそれらの組合せより成る添加材とを持つ配合プラスチックで実質的に形成することができる。他の実施形態では、ハウジング30は、エポキシ母材と、黒鉛、炭素繊維、又はそれらの組合せとを持つ複合材料で実質的に形成することができる。ハウジング30は、撮像パネル42及び関連電子装置46を保護し且つそれらの電子的遮蔽(例えば、EMI遮蔽)を行う軽量でしかも硬い組立体を提供する。(完全に金属又は金属合金による従来の構成とは対照的に)非金属材料とX線検出器24の追加の部品又は構造に使用される最適化した材料との組合せによるハウジング30の構成は、重量及びコストを軽減すると共に、機械的スチフネス、エネルギ吸収能力、頑丈さ及び清浄の容易さを提供する。
【0027】
閉鎖容器30を構成するために使用される配合プラスチックは、基材の樹脂と添加材又は充填材とを含むことができる。基材の樹脂は、ポリカーボネートのような、熱硬化性又は熱可塑性であってよい。配合プラスチックは薄くて軽量の閉鎖容器30を形成するために射出成形することができる。或る特定の実施形態では、射出成形された閉鎖容器30の表面は主に樹脂材料であり、従って、非常に非導電性である。添加材は、ステンレス鋼繊維、炭素粉末、 炭素繊維、或いは非導電性プラスチック樹脂の有利な物理的特性を維持しながら導電性の能力を与えるために基材の樹脂に加えることのできる任意の導電性添加材又は充填材であってよい。
【0028】
閉鎖容器30を構成するために使用される複合材料は、補強材料を持つ母材の組合せであってよい。エポキシの様な母材が補強材料を取り囲み且つ支持する。有機又は無機繊維又は粒子のような補強材料が、複合材より成るの母材によって結合される。繊維の補強のために、個別の繊維の方向は複合材の剛性及び強度を制御するように配向することができる。更に、複合材は数個の個別の層で形成することができ、補強層の配向又は整列を複合材の厚さにわたって変化させる。複合材の層は異なる形態(粒子、繊維、布、薄い箔など)で複数の材料を使用することが可能である。一実施形態では、閉鎖容器30用の複合材料は、炭素繊維の複数の層を持つエポキシ母材とすることができる。しかしながら、任意の非導電性母材及び導電性繊維を使用することができる。
【0029】
前に述べたように、撮像パネル42及び関連電子装置46は外部の電子装置からの干渉を受けやすく、またこのような外部の装置も撮像パネル42及び関連電子装置46によって発生された電子ノイズから悪影響を受けることがある。更に、米国連邦通信委員会(FCC)のような監督官庁により、装置によって放出されるEMIの量が規制されることがある。或る特定の実施形態では、ハウジング又は閉鎖容器30は内部部品について所望のEMI遮蔽を提供する。しかしながら、軽量のハウジング30を構成するために使用される非金属材料組成物は、導電性材料を利用しない場合、ハウジング30を形成するために使用される従来の金属材料(例えば、金属及び金属合金)に比べて相対的に導電度が悪い。そこで、開示の実施形態ではハウジング30の1つ以上の部分に導電性材料を利用して接続する。更に、X線サブシステム40全体の周りに連続したEMIシールドを作ることが望ましい。EMIシールドの中に何らかの非導電性のギャップ、空間及び/又は切れ目があると、それはEMIシールドとしてのハウジング30の有効性を減じることがある。このような非導電性のギャップ、空間及び/又は切れ目は、ハウジング30を形成するために複数の非金属材料組成物が使用される場合に特に問題になることがある。図4?7を参照して以下に詳しく説明するように、ハウジング30の結合部、湾曲部及び継ぎ目における非金属材料組成物の中に進入路を形成することにより、このような材料の導電性コア又は繊維を通る連続した導電路、従って、連続したEMIシールドを設けることができる。別のやり方で、結合部、湾曲部及び継ぎ目に導電路が存在すると、撮像パネル42及び/又は関連電子装置46の動作に悪影響を及ぼすEMIが最小にされる。従って、それらの進入路は相互接続することによって且つ一般的に非導電性母材内に包含されている導電性材料を使用することによって非金属材料組成物を有効なEMIシールドにする。」
d「【0034】
次に図7について説明すると、可搬型X線検出器の非導電性表面101を持つ非金属ハウジング100の断面を示している。非金属ハウジング100は、本発明技術の一実施形態に従って非導電性表面101上に配置された導電性の第2の層102を持つ。非金属ハウジング102は本書で述べた複合材料又は配合プラスチック、或いは非導電性表面を持つ任意の他の材料であってよい。この二次導電層102は、非金属ハウジング100に適用して、EMI遮蔽能力を高める又は生成することのできる任意の導電層であってよい。一実施形態では、二次導電層102は、表面101上に吹き付けて硬化させる導電性ペイントであってよい。導電性ペイントは、導電性を増大させて表面101上にEMI遮蔽特性を生成するために銅、銀又は任意の金属の粒子を含有することができる。第2の実施形態では、二次導電層102は銅及び/又はニッケルのような金属であってよく、また表面101上に堆積させることができる。このような金属は、電気メッキにより堆積することができ、或いは無電解メッキのような化学的還元法により堆積することができる。第3の実施形態では、二次導電層は、導電特性を持つ金属箔又は織布であってよい。例えば、織布は銅及び/又はニッケルで被覆することができる。箔又は織布は、粘着剤又は他の種類の湿式接着剤のような接着剤を使用することにより、非金属ハウジング102の表面101に固着することができる。更に、箔又は織布は、担持層に前もって固着し、次いで非金属ハウジング100中の非金属部分に対してオーバーモールドすることができる。」
e「【図3】


f「【図7】



2 引用文献1に記載された発明の認定
上記「1」のd(【0034】)において、「二次導電層102」は「導電性の第2の層102」と同じものであり、また「非金属ハウジング102」とあるのは、明らかに「非金属ハウジング100」の誤りである。
また、上記「1」のc(【0026】?【0029】)における「ハウジング30」(【0026】,【0029】)及び「閉鎖容器30」(【0027】?【0029】)は、同じものであって、上記dの「非金属ハウジング100」とも同じものである。
よって上記「1」のa?fの記載から、引用文献1には、
「可搬型X線検出器の非導電性表面101を持つ非金属ハウジング100であって、
非金属ハウジング100は、非導電性表面101上に配置された導電性の第2の層102を持ち、
非金属ハウジング100は複合材料又は配合プラスチック、或いは非導電性表面を持つ任意の他の材料であってよく、
配合プラスチックは、基材の樹脂と添加材又は充填材とを含むことができ、基材の樹脂は、ポリカーボネートのような、熱硬化性又は熱可塑性であってよく、
導電性の第2の層102は、
非金属ハウジング100に適用して、EMI遮蔽能力を高める又は生成することのできる任意の導電層であってよく、
または、表面101上に吹き付けて硬化させる導電性ペイントであってよく、導電性ペイントは、導電性を増大させて表面101上にEMI遮蔽特性を生成するために銅、銀又は任意の金属の粒子を含有することができ、
または銅及び/又はニッケルのような金属であってよく、表面101上に堆積させることができ、
または、導電特性を持つ金属箔又は織布であってよく、織布は銅及び/又はニッケルで被覆することができる
可搬型X線検出器用の非金属ハウジング100。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。


第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「可搬型X線検出器の非導電性表面101を持つ非金属ハウジング100」が、本願発明の「可搬型X線検出器用の筐体を構成するための筐体構成要素」に相当する。
引用発明の「複合材料又は配合プラスチック、或いは非導電性表面を持つ任意の他の材料であってよく、配合プラスチックは、基材の樹脂と添加材又は充填材とを含むことができ、基材の樹脂は、ポリカーボネートのような、熱硬化性又は熱可塑性であってよ」い「非金属ハウジング100」が、本願発明の「ポリマーを含む第一の層」に相当する。
引用発明の「非金属ハウジング100」の「非導電性表面101上に配置された」「導電性の第2の層102」であって、「非金属ハウジング100に適用して、EMI遮蔽能力を高める又は生成することのできる任意の導電層であってよく、または、表面101上に吹き付けて硬化させる導電性ペイントであってよく、導電性ペイントは、導電性を増大させて表面101上にEMI遮蔽特性を生成するために銅、銀又は任意の金属の粒子を含有することができ、または銅及び/又はニッケルのような金属であってよく、表面101上に堆積させることができ、または、導電特性を持つ金属箔又は織布であってよく、織布は銅及び/又はニッケルで被覆することができる」「導電性の第2の層102」が、本願発明の「該第一の層に対して上記筐体の内側となる面に形成され、電磁遮蔽を提供する第二の層」に相当する。
引用発明の「可搬型X線検出器用の非金属ハウジング100」が、本願発明の「可搬型X線検出器用の筐体構成要素」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明との間には次の一致点、相違点がある。
(一致点)
「可搬型X線検出器用の筐体を構成するための筐体構成要素であって、
ポリマーを含む第一の層と、
該第一の層に対して上記筐体の内側となる面に形成され、電磁遮蔽を提供する第二の層と、を備えた可搬型X線検出器用の筐体構成要素。」
(相違点)
本願発明は、「第一の層と第二の層の間に形成される第三の層であって、前記第一及び第二の層に破損が生じた場合にも前記第一の層に付着して前記第一の層の構造的一体性を保つ金属メッシュ構造からなる第三の層」を備えるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点。

2 相違点についての判断
上記相違点に係る構成は、引用文献1に記載されておらず、また、他に上記相違点に係る構成を備えた筐体(ハウジング)が記載された文献を発見することはできなかった。よって、上記相違点が容易に想到し得たものであるということはできない。
なお、この点について、原審において審査官は、引用発明の「銅及び/又はニッケルで被覆」(当審注:原審においては本願発明の「電磁遮蔽を提供する第二の層」に相当するとしている)された「導電特性を持つ」「織布」が、上記相違点に係る「第三の層」に相当するとしているが、上記の本願発明の「第三の層」は、「第一及び第二の層に破損が生じた場合にも前記第一の層に付着して前記第一の層の構造的一体性を保つ金属メッシュ構造からなる」ものであって、引用発明の「EMI遮蔽特性を生成するため」の「導電特性を持つ」「織布」とは明らかに異なるものである。したがって、上記原審の判断を維持することはできない。
そして、本願発明の上記相違点に係る発明特定事項により、本願発明は、「破損が生じても、第三の層が構造的一体性を提供して、内側面の近くに位置し得る電子設備に大きな問題を生ずることなく破損した第一の層及び破損した第二の層を一時的に利用可能な状態に保つ。」(本願明細書【0039】参照)という顕著な効果を奏するものであるから、上記相違点が単なる設計的事項であるということもできず、また、上記相違点が引用発明に基づいて容易に想到し得たものであるということもできない。

3 小括
よって、本願発明は、実質的に引用発明と同一の発明であるということもできないし、また、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1に係る発明について、上記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当し、特許を受けることができない、また、上記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年5月10日付けの手続補正により補正された請求項1は「第一の層と第二の層の間に形成される第三の層であって、前記第一及び第二の層に破損が生じた場合にも前記第一の層に付着して前記第一の層の構造的一体性を保つ金属メッシュ構造からなる第三の層」を備えるという発明特定事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明は、実質的に引用発明と同一の発明であるということもできないし、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、当審拒絶理由1で、請求項1及び6の記載に関して、
(1)請求項1における「第一の層の内部に形成され、・・・提供する第二の層」の記載は、第二の層が第一の層の中に形成されているという意味に解し得るが、そのようなことは発明の詳細な説明には記載されておらず、上記の「第一の層の内部に形成され」は意味が不明である。
(2)請求項1及び6の「金属メッシュ構造を含む(第三の層)」の記載は、第三の層が金属メッシュに加えて金属メッシュ以外の別の部材も含んでいることを意味しているように解することができるが、そのような第三の層は、発明の詳細な説明に記載されていない。
(3)請求項6の記載では、第三の層が、第一の層に第二の層の反対側(筺体の最も外側に)形成されるものも含まれることになるが、そのようなものは発明の詳細な説明に記載されていない。
から、本願は特許法第36条第6項第1号及び第2号に違反しているとの拒絶理由を通知しているが、平成29年5月10日付けの手続補正における補正の結果、これらの拒絶理由は、いずれも解消した。

第7 むすび
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-22 
出願番号 特願2011-244055(P2011-244055)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01T)
P 1 8・ 113- WY (G01T)
P 1 8・ 537- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 放射線写真撮影装置用の堅牢化された密閉容器  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  

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