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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) C12P 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) C12P |
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管理番号 | 1329510 |
審判番号 | 不服2015-2376 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-06 |
確定日 | 2017-06-14 |
事件の表示 | 特願2013-168759「再生ベースの生分解性1,3-プロパンジオールを含む生分解性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日出願公開、特開2014- 27937〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は,国際出願日である平成19年2月12日(パリ条約に基づく優先権主張 平成18年2月10日(7件),同年9月25日,同年10月24日,同年11月15日,同年12月4日及び平成19年1月17日,いずれもアメリカ合衆国)にされたとみなされる特許出願(特願2008-554433号)の一部を新たに特許出願したものであって,平成26年10月3日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成27年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正され,平成28年6月13日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。 第2 本願発明及び本件拒絶理由について 本願の請求項1?9に係る発明は,平成27年2月6日に補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものである。 また,本件拒絶理由の内容は,本審決末尾に掲記のとおりである。 第3 むすび 請求人は,本件拒絶理由に対して,指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,本件拒絶理由を覆すに足りる根拠は見いだせず,本願は本件拒絶理由によって拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 以下,本件拒絶理由の内容を掲記する。 1.本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 第1 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は,平成27年2月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9にそれぞれ記載されたとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「1,3-プロパンジオールと成分とを含む生分解性組成物であって, 前記1,3-プロパンジオールが,少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有し,生物学的に誘導されたものであり,400ppm未満の全有機不純物濃度を有し,10ppm未満の過酸化物濃度を有し,10ppm未満のカルボニル基濃度を有し,220nmにおいて0.200未満,250nmにおいて0.075未満,275nmにおいて0.075未満の紫外線吸収を有し,1:0から0:1を超える範囲でC-14/C-12同位体比を有し, 前記組成物が,石油ベースのグリコールを含む組成物よりも環境への影響が少なく, 前記組成物が,食品,香味剤,酵素安定剤,医薬組成物および農薬組成物からなる群より選択される, 前記組成物。」 第2 拒絶理由について A.理由1 1.引用する刊行物及びその記載事項 刊行物1.中国特許出願公開第1687433号明細書 刊行物2.国際公開第2004/101479号 (1)刊行物1には,以下の事項が記載されている。なお,刊行物1は中国語で記載されているところ,本合議体による訳で摘示する。 ア.「1,腸内細菌の高細胞密度発酵を利用する1,3-プロパンジオールの製造方法であって,その特徴はバッチ発酵方式の高細胞密度発酵プロセスにあり,そのプロセスは以下のとおりである 1)種培養工程:腸内細菌を活性化した後,滅菌培地に接種し,細胞密度がOD_(650)≧4.0に達するまで,35℃?38℃で,振盪しながら好気性培養を行う:……。」(請求項1) イ.「背景技術 1,3-プロパンジオールは有機合成原料及び中間体として重要であり,幅広い用途を有している。1,3-プロパンジオールは,可塑剤,洗浄剤,防腐剤,乳化剤の合成:また,食品,化粧品及び製薬等で使用することができる。…… 現在,1,3-プロパンジオールの製造方法は次のカテゴリに分類される。:(1)シェル社のエチレンオキシド法……。(2)デグサ社のアクロレイン法……。(3)生物発酵法:微生物の触媒作用で,発酵性炭素源は1,3-プロパンジオールに変換されるように発酵される。(4)その他の方法:…… 上記の1,3-プロパンジオール合成の化学的方法は工業的な大量生産には適しておらず,化学的方法は製造コストが高く,技術的困難性が高く,特に触媒の製造も比較的困難である。同時に化学的方法は再生できない有限の資源を消費するだけでなく,環境への汚染を引き起こす。原料としてデンプン,ブドウ糖又はグリセリン(ブドウ糖の発酵により得られる)等の再生可能な資源を利用する発酵法は,製造コストが比較的低く,生成物選択性がよく,転化率は高く,生成物の分離が簡単で,環境汚染がない。したがって,微生物を利用した1,3-プロパンジオール生産プロセスの研究が注目されている。」(4頁5行?5頁4行) (2)刊行物2には,以下の記載がされている。なお,刊行物2は英語で記載されているところ,その訳として対応する特表2007-502325号公報の記載を援用する。 ア.「1. 1,3-プロパンジオールを生産することができる有機体の発酵培地からの生物学的に生産された1,3-プロパンジオールの精製方法であって, (a)発酵培地を濾過にかける工程と, (b)工程aの生成物を,アニオンおよびカチオン分子が除去されるイオン交換精製にかける工程と, (c)工程bの生成物を少なくとも2つの蒸留塔を含む蒸留手順にかける工程であって,前記蒸留塔の1つが1,3-プロパンジオールの沸点を超える沸点を有する分子を除去し,そして前記蒸留塔の他が1,3-プロパンジオールの沸点より下の沸点を有する分子を除去する工程と を含む方法。 …… 22. 220nmで約0.200未満のおよび250nmで約0.075未満のおよび275nmで約0.075未満の紫外吸収を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 23. 約0.15未満の「b」色値および275nmで約0.050未満の吸光度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 24. 約10ppm未満の過酸化物濃度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 25. 組成物中に約400ppm未満の全有機不純物の濃度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 26. 組成物中に約300ppm未満の全有機不純物の濃度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 27. 組成物中に約150ppm未満の全有機不純物の濃度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物。 28. 組成物中に約400ppm未満の全有機不純物の濃度を有する1,3-プロパンジオールを含む組成物。 29. 組成物中に約300ppm未満の全有機不純物の濃度を有する1,3-プロパンジオールを含む組成物。 30. 組成物中に約150ppm未満の全有機不純物の濃度を有する1,3-プロパンジオールを含む組成物。 31. 約10ppm未満の過酸化物の濃度を有する1,3-プロパンジオールを含む組成物。 32. 約10ppm未満のカルボニル基の濃度を有する1,3-プロパンジオールを含む組成物。」(42?47頁の“CLAIMS”;公表公報の特許請求の範囲) イ.「Fisherらは,国際公開第00/24918号パンフレットで,ポリオール生産微生物によって生み出された培養物からのポリオール製品の精製方法を開示している。該方法は,タンパク性物質の除去または不活性化と組み合わせて,微生物を殺すまたは分離することなしの微生物細胞分離を含む前処理操作を用いる。その次の精製工程は,イオン交換クロマトグラフィー,活性炭処理,蒸発濃縮,沈殿および結晶化をはじめとするさらなる処理と共に,フロス浮選または凝集,引き続く吸収/吸着のような方法を用いるタンパク性物質のさらなる除去または不活性化を含む。Fisher方法論の第一目標は,精製ポリオールが食品グレード製品での使用に好適であるようにタンパク性異物を無視できるレベルより下まで除去することにある。」(1頁36行?2頁10行;公表公報の【0006】) ウ.「本発明のさらなる態様は,組成物中約400ppm未満,好ましくは約300ppm未満,最も好ましくは約150ppm未満の全有機不純物の濃度を有する生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを含む組成物に関する。 本発明のさらなる態様は,次の特性の少なくとも1つの有する1,3-プロパンジオールを含む組成物に関する:1)220nmで約0.200未満の,および250nmで約0.075未満の,および275nmで約0.075未満の紫外吸収,または2)約0.15未満のL^(*)a^(*)b^(*)「b^(*)」色値および275nmで約0.075未満の吸光度を有する組成物,または3)約10ppm未満の過酸化物組成,または4)約400ppm未満の全有機不純物の濃度。」(4頁34行?5頁8行;公表公報の【0018】?【0019】) エ.「実施例#9 純度キャラクタリゼーション 下のチャートで,本発明の方法によって精製した生物学的に生産された1,3-プロパンジオールを,幾つかの純度態様で,化学的に生産された1,3-プロパンジオールの2つの別個の商業的に得られる調製物と比較する。表17 (審決注: 表17の記載を省略する。) 」(40頁10行?41頁2行;公表公報の【0152】?【0153】) 2.刊行物1に記載された発明 刊行物1には,1,3-プロパンジオールを含む食品又は製薬について記載され,1,3-プロパンジオールがデンプン,ブドウ糖又はグリセリン等から発酵方法により得られることが記載されている。また,刊行物1には,化学合成によるものよりも,生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールの方が環境への影響がないことも記載されている。 したがって,これらの記載から,刊行物1には, 「1,3-プロパンジオールが生物学的に誘導されたものであり,1,3-プロパンジオールを含む食品又は製薬組成物」 の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 3.対比・判断 (1)請求項1 ア.本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明は食品又は製薬組成物に関するものであるから,1,3-プロパンジオール以外に成分を含むものであることは自明である。そして,引用発明の製薬組成物は本願発明の医薬組成物に相当する。 また,1,3-プロパンジオールが生分解性であることは当業者に周知のことである。 さらに,刊行物1には,化学合成によるもの(石油ベース)よりも,生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールの方が環境への影響がないことも記載されている。 そうすると,両者は, 「1,3-プロパンジオールと成分とを含む生分解性組成物であって, 前記1,3-プロパンジオールが,生物学的に誘導されたものであり, 前記組成物が,石油ベースのグリコールを含む組成物よりも環境への影響が少なく, 前記組成物が,食品,香味剤,酵素安定剤,医薬組成物および農薬組成物からなる群より選択される, 前記組成物。」 の点で一致し,次の点で相違している。 相違点1: 1,3-プロパンジオールについて,本願発明が「1,3-プロパンジオールが,少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有し,生物学的に誘導されたものであり,400ppm未満の全有機不純物濃度を有し,10ppm未満の過酸化物濃度を有し,10ppm未満のカルボニル基濃度を有し,220nmにおいて0.200未満,250nmにおいて0.075未満,275nmにおいて0.075未満の紫外線吸収を有し,1:0から0:1を超える範囲でC-14/C-12同位体比を有し」と特定しているのに対し,引用発明においてはそのような特定はない点 相違点2: 1,3-プロパンジオールについて,本願発明が「少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有し」と特定しているのに対し,引用発明においてはそのような特定はない点 イ.上記相違点について検討する。 (ア)相違点1 本願発明の「1,3-プロパンジオールが,少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有し,生物学的に誘導されたものであり,400ppm未満の全有機不純物濃度を有し,10ppm未満の過酸化物濃度を有し,10ppm未満のカルボニル基濃度を有し,220nmにおいて0.200未満,250nmにおいて0.075未満,275nmにおいて0.075未満の紫外線吸収を有し」との事項は,本願明細書の【0060】?【0071】の記載から見て,1,3-プロパンジオールの純度が高いことを示すものと解される。 刊行物2には,生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールの精製について記載されており,そのような1,3-プロパンジオールが「400ppm未満の全有機不純物濃度を有し,10ppm未満の過酸化物濃度を有し,10ppm未満のカルボニル基濃度を有し,220nmにおいて0.200未満,250nmにおいて0.075未満,270nmにおいて0.075未満の紫外線吸収」を有することが記載されている(摘示(2)ア,ウ及びエ)。 また,本願発明の「1:0から0:1を超える範囲でC-14/C-12同位体比を有し」との点は,本願明細書の【0042】?【0058】の記載を踏まえると,「バイオベースの炭素」,すなわち石油ベースではなく大気起源の炭素を含むものであることを意味しているものと言える。 以上のことは,前審で提出した意見書及び審判請求書において,請求人は本願発明の1,3-プロパンジオールは,刊行物2に記載の方法により製造されたものであることを認めていることからも首肯できる。すなわち,刊行物2に記載の1,3-プロパンジオールは,本願発明の1,3-プロパンジオールと相違するものではなく,したがって,本願発明と同じく「1,3-プロパンジオールが,少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有し,生物学的に誘導されたものであり,400ppm未満の全有機不純物濃度を有し,10ppm未満の過酸化物濃度を有し,10ppm未満のカルボニル基濃度を有し,220nmにおいて0.200未満,250nmにおいて0.075未満,275nmにおいて0.075未満の紫外線吸収を有し,1:0から0:1を超える範囲でC-14/C-12同位体比を有し」ているものであることに疑問の余地はないといえる。 ところで,一般に,食品や医薬品に使用する成分は,その純度をできる限り高くしたものの方が不純物の存在による悪影響を排除できることから,各成分は精製して不純物をできる限り除くことが望ましいものと当業者に認識されている(例えば,刊行物2の摘示(2)イ参照)。 そうすると,本願発明の1,3-プロパンジオールと同等の高純度のものが刊行物2に記載されているように公知であるから,刊行物1の生物学的に誘導された1,3-プロパンジオールとして高純度であることが明らかな刊行物2記載の1,3-プロパンジオールを採用してみることは,当業者が容易に想到し得るものである。 (イ)相違点2 「少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有」するとは,本願明細書の【0059】の記載を踏まえると,生物学的に誘導される1,3-プロパンジオール(100%のバイオベース炭素含有量のもの)を,化学的に合成した1,3-プロパンジオール(0%のバイオベース炭素含有量のもの)と組み合わせて使用してもよいことを意味しているものと解される。 刊行物1,2においても,生物学的に誘導される1,3-プロパンジオールを使用するものであって,100%のバイオベース炭素含有量のものであるから,「少なくとも1%のバイオベース炭素含有量を有」している。 したがって,この点で両者は相違しないし,このことは,刊行物1の1,3-プロパンジオールを刊行物2の1,3-プロパンジオールに変えたとしても,同じである。 ウ.以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また,効果について検討しても,本願発明によって得られる効果が,格別予想外の効果を奏したものということもできない。 (2)請求項2 食品や医薬組成物で使用される通常の成分にすぎない。 (3)請求項3?5 上記(1)イ(イ)で指摘したとおり。 (4)請求項6 請求項1について指摘したように,刊行物1,2のいずれも,1,3-プロパンジオールは発酵プロセスによって,生物学的に製造されたものである。 (5)請求項7?9 刊行物2の摘示(2)アの請求項23(本願請求項9),請求項26及び29(本願請求項7)並びに請求項27及び30(本願請求項8)に記載されているとおりである。 なお,上記(1)イ(ア)で指摘したとおり,本願発明と引用発明で使用する1,3-プロパンジオールは同じものであるから,本請求項で特定する点で相違することはない。 B.理由2 請求項1は,「1,3-プロパンジオールと成分とを含む生分解性組成物」に係る発明であるが,「成分」がどのようなものであるか,また何が「生分解性」であるのか明確ではない。 すなわち,請求項1は,さらに「前記組成物が,食品,香味剤,酵素安定剤,医薬組成物および農薬組成物からなる群より選択される」と特定しているが,これらの組成物は一般的には多岐多様なものを「成分」として含むものであるところ,そのような成分は必ずしも「生分解性」ではないことは明らかである。そうすると,「生分解性組成物」とは,何が「生分解性」なのか不明であるとともに,「成分」は「生分解性」のものに限られるのか,そのような「生分解性」の成分にはどのようなものが該当するのか不明である。 |
審理終結日 | 2017-01-12 |
結審通知日 | 2017-01-17 |
審決日 | 2017-01-30 |
出願番号 | 特願2013-168759(P2013-168759) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZF
(C12P)
P 1 8・ 537- WZF (C12P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 崇之 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 須藤 康洋 |
発明の名称 | 再生ベースの生分解性1,3-プロパンジオールを含む生分解性組成物 |
代理人 | 鶴田 聡子 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 新井 栄一 |
代理人 | 田中 夏夫 |
代理人 | 菊田 尚子 |
代理人 | 藤田 節 |