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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1329533
審判番号 不服2016-4717  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-31 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2013-242867「内分泌前駆細胞、膵臓ホルモン発現細胞及びそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 79247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年(2007年)3月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月2日、2006年7月26日、2006年10月18日、いずれも米国)を国際出願日とする出願である特願2008-557431号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年11月25日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成27年 1月26日付け 拒絶理由通知書
平成27年 8月 3日 意見書・手続補正書
平成27年11月27日付け 拒絶査定
平成28年 3月31日 審判請求書・手続補正書
平成28年 5月10日 手続補正書(請求の理由の補充)
平成28年 7月25日付け 前置報告書
平成28年 9月 2日 上申書

第2 本願発明の認定
この出願の請求項1?9に係る発明は、平成28年3月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項5】
膵臓上皮に特徴的なマーカーを発現し、PDX1およびNKX6.1または膵臓特異的転写因子1a(PTF1a)を発現する細胞集団。

第3 原査定で引用された刊行物及び技術常識に係る刊行物に記載された事項
平成27年11月27日付け拒絶査定で引用された下記の刊行物について、以下「引用文献A」という。また、本願優先日前に頒布された技術常識に係る下記の刊行物について、以下「引用文献B」、「引用文献C」、「引用文献D」、「引用文献E」という。

引用文献A:STEM CELLS,2004, Vol.22, No.3, pp.265-274(原査定における引用文献1)
引用文献B:特表2006-500003号公報
引用文献C:特表2004-527249号公報
引用文献D:Current Opinion in Genetics & Development,2003, Vol.13, p.401-407
引用文献E:Nature Genetics,2002, Vol.32, p.128-134

1 引用文献A:STEM CELLS,2004, Vol.22, No.3, pp.265-274
引用文献Aには以下の記載がある。(原文は英語のため、当審による日本語翻訳文で示す。なお、下線は当審で付した。)

(a-1)我々はここに、hES細胞由来のインスリン産生細胞の未分化な膵島様クラスターの形成方法を示す。
プロトコルは数ステップからなる。胚様体が最初に培養され、インスリン-トランスフェリン-セレニウム-フィブロネクチン培地に、続いてN2、B27とbFGFを補足された培地に播種される。次に、培地中のグルコース濃度が低下され、bFGFが除去され、ニコチンアミドが添加される。細胞を解離させ、懸濁培養することで、より高いインスリン分泌と、単層培養した細胞よりも長い耐久性を有する細胞塊の形成が起こる。(要約左欄第8行?同右欄第4行)

(a-2)インビトロ分化方法
未分化なhES細胞は、分裂期に不活化されたマウス胚線維芽細胞の上で、80%ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、20%ノックアウト血清代替物、1mMグルタミン、1%非必須アミノ酸、0.1mM2-メルカプトエタノール、そして4ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(全てGIBCO Invitrogen;Paisley、UKより)において増殖した(ステージ1)。細胞は1mg/ml I型コラーゲンを作用させることにより解離された。30分後、細胞は5mlピペットで回収され、凝集させるためにプラスチックペトリ皿(Miniplast;Ein-Shemer、イスラエル)に移された。
得られたEB(ステージ2)は80%ノックアウトDMEM(GIBCO Invitrogen)、20%超高品質ウシ胎児血清(Hyclone;Logan、UT)、1mMグルタミン、そして1%非必須アミノ酸(いずれもGIBCO Invitrogen)において、3日毎に培地を交換しながら7日間培養された。
7日目のEB(平均10,000細胞からなる)は、1ウェルあたり300EBの密度で6ウェルプラスチック培養皿(Nunc;Roskilde、デンマーク)に播種され、培地I:インスリン(10mg/l)-トランスフェリン(6.7ng/l)-セレニウム(ITS)(5.5mg/l)、そして1mMグルタミン(全てGIBCO Invitrogen)、さらに5μg/mlフィブロネクチン(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社;マンハイム、ドイツ)を含むDMEM(DMEM)/F12 1:1においてさらに1週間培養された(ステージ3)。ITSとフィブロネクチン(ITSF)培地での1週間後、細胞はトリプシン-EDTA(バイオロジカルインダストリーズ;Beit Haemek、イスラエル)によって単一細胞まで解離され、プラスチック組織培養皿に2×10^(5)/ml密度で、培地II:N2サプリメント(500μg/mlインスリン、10,000μg/mlトランスフェリン、0.63μg/mlプロゲステロン、1,611μg/mlプトレシン、0.52μg/亜セレン酸塩)、B27培地(いずれもGIBCO Invitrogen)、メーカーの指示により、1mMグルタミン、10ng/mlbFGF(GIBCO Invitrogen)を含むDMEM/F12 1:1中に播種された。播種前に、組織培養皿は0.1%ゼラチンかポリ-L-オルニチン(15ng/ml)(シグマケミカル社;セントルイス、MO)で被覆された。このステージで、細胞塊が形成され(ステージ4)、1日おきに培地を交換しながら一週間を通して拡大した。
次のステージ(ステージ5)において、bFGFは除去され、10mMニコチンアミド(シグマケミカル社;セントルイス、MO)が添加された。グルコースを含有しないDMEMが用いられたために、培地中の総グルコース濃度は3,151mg/lから901mg/lに減少した(培地IIIは、このために、N2、B27培地、1mMグルタミン、10mMニコチンアミドが添加された、901mg/lグルコースを含むDMEM/F12 1:1を含んだ)。培地IIIでの4日間の培養後、形成された細胞塊はトリプシン-EDTAで解離され、ペトリ皿において培地IIIにより浮遊培養が続けられた(ステージ6)。(第266頁左欄第38行?同右欄第39行)

(a-3)図2
図2。分化プロトコールの概要。
プロトコールは幾つかのステージからなる。ステージ1:未分化hES細胞の増殖(バー=10μM)。ステージ2:EBの形成(バー=30μM)。ステージ3:1週間、培地I(DMEM/F12 1:1、インスリン-トランスフェリン-セレニウム-フィブロネクチンと1mMグルタミン)へのEBの播種(バー=30μM)。ステージ4:細胞の解離及び1週間の培地II(N2、B27培地、1mMグルタミン、10ng/mlbFGFを含むDMEM/F12 1:1)への播種(バー=5μM)。ステージ5:培地IIIへの交換(bFGFの除去、10μMニコチンアミドの追加、グルコース濃度の3,151mg/lから901mg/lへの減少)(バー=10μM)。ステージ6:細胞の解離及び培地IIIでのペトリ皿における浮遊培養(バー=10μM)。


(a-4)図3.いくつかの分化ステージにおける、膵臓遺伝子発現のRT-PCR分析。
未分化hES細胞と分化途中の細胞の双方から単離された総RNAが、示された遺伝子のプライマーを用いてRT-PCR分析された。レーン1:未分化hES細胞。レーン2:ITSF培地で培養されたステージIIIの細胞。レーン3:N2、B27、bFGFを含むDMEM/F12で培養されたステージIVの細胞。レーン4:N2、B27、ニコチンアミドを含む高グルコース量のDMEM/F12で培養されたステージV-H細胞。レーン5:ステージV-H細胞と同じ状況で、ただし低グルコース量で培養されたステージV-L細胞。レーン6:ステージV-Lと同じ培地中で浮遊培養されたステージVIの細胞。レーン7:PCR反応でRTアーゼを用いなかった場合を示す。


(a-5)RT-PCR反応により、図3に示されるように、分化中のhES細胞で膵臓遺伝子の発現が向上した。転写因子である、膵臓十二指腸ホメオボックス1(PDX1)は主にステージIIIのmRNAに表れ、ステージIVで減少し、再びステージVIで発現した。(第269頁右欄第5?9行)

(a-6)インスリンと、Nkx6.1、Isl1、Glut2、プロホルモン転換酵素2(PC2)といった他の膵臓β細胞特異的遺伝子は、ステージVIのmRNAにのみ見られた。(第270頁左欄第5?8行)

(a-7)グルカゴンとニューロゲニン3(Ngn3)は、ステージIIIとステージVIにおいて高発現していた。(第269頁右欄第9?11行)

2 引用文献B:特表2006-500003号公報
引用文献Bには、以下の記載がある。

(b-1)分化細胞の特徴
細胞は、形態学的特徴の顕微鏡観察、発現された細胞マーカーの検出または定量等の表現型基準、インビトロで測定可能な機能的基準、および宿主動物に注入した際の挙動に従い、特徴づけされ得る。
表現型マーカー
本発明の細胞は、それらが様々な種類の膵島細胞に特有の表現型マーカーを発現するか否かに従って特徴づけされ得る。有用なマーカーには、表2に示すマーカーが含まれる。(【0074】?【0075】)

(b-2)表2

3 引用文献C:特表2004-527249号公報
引用文献Cには、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

(c-1)近年、いくつかの遺伝子が、胚形成中における膵臓の内分泌細胞の生成にとって必須であることが照明されている (Edlund (1998) Diabetes、47:1817-1823; St-Onge らの(1999) Curr. Opin. Genet. Dev.、9:295-300)。膵臓の発生には、周辺の中胚葉組織から発散する一連の誘導信号および膵臓の上皮組織で発現された転写因子が関与する。転写因子 Pdx1 (Idx1, STF1, IPF1 とも呼ばれる)を含むホメオボックスは、その発生・成長中に膵臓膵芽のすべての細胞で発現し、成獣の β細胞に限られるようになる。(【0011】)

(c-2)Nkx2.2、Nkx6.1、Nkx6.2、Isl1、および NeuroD はまた、β細胞の適切な分化および機能(作用)に必要な必須転写因子でもある。(【0011】)

(c-3)基本ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子 neurogenin3 (ngn3)は、膵臓の上皮組織における初期の内分泌前駆物質の特異化に必要とされ、ひとたび内分泌分化が始まると下方制御される(Apelqvist らの(1999) Nature、400:877-881; Jensen らの(2000) Diabetes、49:163-176; Gradwohl らの(2000) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、97:1607-1611)。(【0011】)

4 引用文献D:Current Opinion in Genetics & Development,2003,Vol.13, p.401-407
引用文献Dには、以下の記載がある。(原文は英語のため、当審による日本語翻訳文で示す。)

(d-1)早期膵臓発生におけるPtf1aの役割を調べる最近の研究は、この遺伝子が以前は外分泌系の発生にのみ働いていたと考えられていたが、膵臓の特定においてより初期から、基礎的な役割を担っていたことを示した(図3)。Ptf1aの発現がe(当審注:胚発生日数)10.5の膵芽に限定され、Ptf1aなしでは膵臓は大きく形成を損なった。(第404頁右欄第26?32行)

(d-2)図3。隣接する組織の競合する誘導。マウス胚の前腸形成におけるe8.5ステージの略図;胚は側面から示しており、前方が上向きで、腹側が左向きである。腹側前腸内胚葉に隣接する心臓中胚葉からのシグナル(赤)は肝臓マーカーを誘導する(緑)。心臓中胚葉からのシグナルを受け取らない腹側内胚葉は当初から膵臓マーカー(濃い青)を発現する。Pdx1陽性内胚葉(薄い青)のすべてが膵臓(濃い青)になるわけではない。Pdx1ドメインにおけるPTf1aの発現はそれらの細胞を膵臓へと運命づける。


5 引用文献E:Nature Genetics,2002,Vol.32,p.128-134
引用文献Eには、以下の記載がある。(原文は英語のため、当審による日本語翻訳文で示す。なお、下線は当審で付した。)

(e-1)我々は、Ptf1aは通常、膵臓へと運命づけられた前腸細胞にのみ発現し、通常の膵島、腺房、膵管の前駆細胞の大半がこの遺伝子を発現すると結論づける。Ptf1aは、膵芽へと割り当てられた細胞が膵臓の器官発生を続けるのか、十二指腸へと変換するのかを決定する重要な遺伝子である。(第131頁左欄第1?7行)

(e-2)β-ガラクトシダーゼの発現は、それ故Ptf1aが活性化されている細胞を標識し、活性なβ-ガラクトシダーゼ発現部位は、子孫にも遺伝する。(第129頁左欄第14?16行)

(e-3)早期胚ステージ(11.5及び12.5d.p.c(当審注:交尾後日数))において、β-ガラクトシダーゼが拡張する背側及び腹側膵臓上皮において広汎に発現していたが、グルカゴン産生内胚葉細胞塊には見られなかった(図4a-c)。その後のステージ(14.5、16.5そして18.5d.p.c;データ示さず)と新生児(図2d-h)では、β-ガラクトシダーゼ発現は全ての腺房細胞とほとんどの膵管及び膵島細胞(膵管の約95%、インスリン産生細胞そしてグルカゴン産生細胞の75%)で見られた。(第129頁左欄第23?30行)

(e-4)図2。Ptf1a遺伝子は膵島、膵臓腺房及び膵管の前駆細胞で発現している。d。全ての腺房細胞(矢印)、大半の膵管上皮(矢印の頭)と膵島(点線で囲まれた部分)はβ-ガラクトシダーゼを発現する。(図2説明第1-2行、同第14-17行)

(e-5)図2


第4 当審の判断
1 引用文献に記載された発明
引用文献Aには、摘示(a-4)?(a-6)の通り、ステージVIの細胞はPDX1及びNkx6.1を発現することが記載されている。上記記載からみて、引用文献Aには、「PDX1およびNkx6.1を発現する細胞集団」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明の対比
引用発明の「Nkx6.1」は、本願発明の「NKX6.1」に相当する。
よって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は「PDX1およびNKX6.1または膵臓特異的転写因子1a(PTF1a)を発現する細胞集団。」である点で一致し、一方、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明が「膵臓上皮に特徴的なマーカーを発現する細胞集団」であるのに対し、引用発明には膵臓上皮に特徴的なマーカーを発現することについては明記がない点。

3 相違点について
上記相違点について検討する。まず、「膵臓上皮に特徴的なマーカー」について、本願明細書には以下の記載がある。(下線部は当審で付した。)

(1)レチノイン酸の濃縮及びノギンの添加は、9日目又は11日目でのPDX1の発現レベルにほんのわずかしか影響しなかった(図30A)。しかし、低用量RA(0.1μM)へのノギンの添加によって、9日目の内分泌前駆マーカーNGN3の発現(図30B)、並びに11日目のINS及びGCG遺伝子発現の初期発生(図30E及び図30F)が劇的に高められた。この結果は、特に低濃度のRA(0.1μM)及び高濃度のノギン(100ng/ml)を用いた条件「C」下での、PTF1A(図30C)及びNKX6.1(図30D)の発現の増大によって示されるような膵臓上皮への分化の増強によるものであり得る。これらの結果によって、ノギンとレチノイドシグナル伝達との組合せが相乗的に作用し、膵臓上皮を特異化し、最終的にhESCから誘導された前腸内胚葉から膵臓内分泌細胞を分化することが示された。(【0710】)

(2)様々な時点で回収した移植片の組織学的検査によって、増殖及び成熟した膵臓上皮の存在が示された。後の時点で回収した移植片は、この上皮をより大量に有していた。膵臓上皮は、形態、並びにPDX1及びNKX6.1等の典型的な発生マーカーの発現によって同定された。ホルモンマーカーの検査によって、膵臓上皮の膵島様細胞クラスターが、正常な膵臓発生に類似した様式で出芽分離することが示された。これらの細胞クラスターは、NKX6.1陽性及びPDX1陽性でもあるインスリン産生細胞を含む単一陽性ホルモン産生細胞を含有していた。細胞クラスター構造は、正常な胎児膵島の構造と類似していた。(【0713】)

上記(1)(2)の記載からみて、本願発明の「膵臓上皮に特徴的なマーカー」とは、PDX1、NKX6.1、PTF1Aといったマーカーであると解される。なお、上記解釈は、平成28年9月2日受付の上申書における「実施例19には、PDX1(図30A)、NGN3(図30B)、PTF1A(図30C)およびNKX6.1(図30D)の発現の増大により、膵臓上皮を特定できることが記載されています。すなわち、「膵臓上皮に特異的なマーカー」とは、このようなマーカーを意味することが当業者に明らかです。本願請求項5では、細胞集団が、PDX1およびNKX6.1またはPTF1Aを発現することが規定されています。」との請求人の主張とも概ね整合している。
ここで、PDX1、NKX6.1、PTF1A等が成熟膵細胞や、膵臓への分化過程の膵臓前駆細胞、膵臓上皮細胞等に発現していることは、技術常識として摘記した(b-1)、(b-2)、(c-1)、(c-2)、(d-1)、(d-2)、(e-1)?(e-5)等より広く知られるところである。
してみれば、引用発明において、成熟膵細胞や、膵臓への分化過程の膵臓前駆細胞、膵臓上皮に発現しているタンパク質であることが広く知られるPDX1、NKX6.1、PTF1A等について膵臓上皮に特徴的に発現していると期待し、膵臓上皮に特徴的なマーカーとしてこれらの発現を解析し、発現を示す細胞を選抜することは当業者が容易に想到し得ることである。
なお、上記上申書における請求人の主張のうち、「NGN3(図30B)」、「の発現の増大により、膵臓上皮を特定できることが記載されています。すなわち、「膵臓上皮に特異的なマーカー」とは、このようなマーカーを意味することが当業者に明らかです。」との主張は、本願明細書の実施例19における記載「内分泌前駆マーカーNGN3の発現(図30B)」とは整合しないものであるが、仮にNGN3が「膵臓上皮に特徴的なマーカー」に含まれると解釈したとしても、摘示(a-4)及び(a-7)の通り、引用文献AにはステージVIの細胞はNgn3を発現することが記載されているから、この点は新たな相違点とはならない。さらに、NGN3が膵臓前駆細胞のマーカーであること、膵臓上皮に必要とされる転写因子であることも技術常識として摘記した(b-2)、(c-3)等より広く知られるところから、NGN3についても膵臓上皮に特徴的なマーカーとして発現を解析し、発現を示す細胞を選抜することは当業者が容易に想到し得ることである。

4 本願発明の効果について
本願発明が奏する効果について、本願明細書、特に実施例19及び図30を参酌しても、本願発明の細胞が奏する効果について、最終的にインスリンやグルカゴンを産生する細胞を含むか、特定の分化誘導条件下の培養によりインスリン及びグルカゴン産生細胞へ分化誘導可能であること以上の効果を確認することができない。そして、引用発明においてもインスリン及びグルカゴン産生細胞が得られていることから、この点が引用発明と比較して、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとは認められない。
したがって、本願発明が引用文献に記載された発明との比較において格別顕著な効果を奏するものであるとは認められない。

5 請求人の主張について
請求人は、平成28年5月10日付け手続補正書の「請求の理由」において、本願発明の進歩性について特段の主張を行っていない。

6 まとめ
したがって、本願発明は、引用文献Aに記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項5に係る発明は、引用文献Aに記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-12 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2013-242867(P2013-242867)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 直紀太田 雄三  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 高堀 栄二
山本 匡子
発明の名称 内分泌前駆細胞、膵臓ホルモン発現細胞及びそれらの製造方法  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 川口 嘉之  

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