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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1329535
審判番号 不服2016-5752  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-18 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2014-536122号「内燃機関用吸気モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日国際公開、WO2013/056763、平成26年12月 4日国内公表、特表2014-532147号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)9月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年(平成23年)10月18日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月17日に国内書面が提出され、平成26年6月17日に国際出願翻訳文提出書により、明細書、特許請求の範囲、要約書の翻訳文が提出され、平成27年4月27日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年4月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年4月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成28年4月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
[1]本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年8月3日提出の手続補正書により補正された)下記の(1)に示す請求項1を下記の(2)に示す請求項1に補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
内燃機関に空気を供給する少なくとも1つのエアガイド部材(12)と、前記エアガイド部材(12)と接続し、かつ内燃機関のシリンダヘッドを少なくとも部分的にカバーするシリンダヘッドカバー(14)とを備える自動車の内燃機関用吸気モジュール(10)であって、
前記吸気モジュール(10)は、潤滑剤分離装置(28)、空気を冷却するための冷却装置(26)、前記エアガイド部材(12)及び前記シリンダヘッドカバー(14)が一体化されていることを特徴とする、
内燃機関用吸気モジュール。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
内燃機関に空気を供給する少なくとも1つのエアガイド部材(12)と、前記エアガイド部材(12)と接続し、かつ内燃機関のシリンダヘッドを少なくとも部分的にカバーするシリンダヘッドカバー(14)とを備える自動車の内燃機関用吸気モジュール(10)であって、
前記吸気モジュール(10)は、潤滑剤分離装置(28)、排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置(26)、前記エアガイド部材(12)及び前記シリンダヘッドカバー(14)が一体化されていることを特徴とする、
内燃機関用吸気モジュール。」(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的について
本件補正は、「空気を冷却するための冷却装置(26)」の記載を、「排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置(26)」の記載にするものであるから、本件補正前の発明特定事項である「冷却装置」が、「排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却する」ことを限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断
1.刊行物1
(1)刊行物1の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-108156号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「吸気モジュール」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は、理解の一助のために当審にて付したものである。)

1a)「【請求項1】
複数の燃焼室を有する内燃機関のシリンダヘッドに搭載されるヘッドカバーと、
エアコネクタおよび吸気管を有し、前記吸気管は前記エアコネクタから前記燃焼室の数に応じて分岐し前記ヘッドカバーの反シリンダヘッド側に設けられる直線状のストレートポート部、ならびに前記ストレートポート部の反エアコネクタ側の端部と前記燃焼室とを接続するカーブポート部から構成されているインテークマニホールドと、
隣接する前記ストレートポート部の間に、前記インテークマニホールドおよび前記ヘッドカバーを貫いて前記シリンダヘッド側に一方の端部が突出して設けられている点火コイルと、
を備えることを特徴とする吸気モジュール。
【請求項2】
前記エアコネクタの反ストレートポート部側に、前記インテークマニホールドと一体に支持されているスロットル装置を備えることを特徴とする吸気モジュール。
【請求項3】
前記ヘッドカバーおよび前記インテークマニホールドは、樹脂で一体に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の吸気モジュール。
【請求項4】
前記ヘッドカバーと前記インテークマニホールドとは周縁部が接合され、前記ヘッドカバーと前記インテークマニホールドとの間には空気が流動可能な空間部が形成されていることを特徴とする請求項3記載の吸気モジュール。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

1b)「【0002】
【従来の技術】
従来、エンジンの吸気系は、例えばエアクリーナ、スロットル装置およびインテークマニホールドなどの機能の異なる複数の装置から構成されている。そのため、吸気系の装置の一部を一体化してエンジンに搭載する吸気モジュールが広く利用されている。吸気系を構成する複数の装置をモジュール化することにより、エンジンへの組み付けの簡略化、ならびに軽量化が図られるという利点がある。」(段落【0002】)

1c)「【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を示す一実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施例による吸気モジュールを図2に示す。吸気モジュール1は、エアクリーナ10、ダクトケース20、スロットル装置30、インテークマニホールド40、ヘッドカバー60、点火コイル70、ECU80および燃料供給手段90を備えている。エアクリーナ10、ダクトケース20、スロットル装置30、インテークマニホールド40、ヘッドカバー60、点火コイル70、ECU80および燃料供給手段90から構成される吸気モジュール1は、図示しないエンジンのシリンダヘッドに搭載される。ヘッドカバー60をシリンダヘッドに取り付けることにより、吸気モジュール1はエンジンに搭載される。
【0012】
本実施例の場合、吸気モジュール1が搭載されたエンジンは、前輪駆動の車両に搭載される。そのため、車両の進行方向に対し図示しないエンジンの駆動軸は垂直に配置される。吸気モジュール1は、図示しないエンジンとともに車両のエンジンルームに収容される。」(段落【0011】及び【0012】)

1d)「【0016】
インテークマニホールド40は、エアコネクタ41および吸気管50を有している。吸気管50は、エアコネクタ41と図示しないエンジンの燃焼室とを連通する。エアコネクタ41からは、エンジンの燃焼室に対応する数の吸気管50が分岐している。吸気管50は、ストレートポート部51とカーブポート部52とを有している。図2に示すように、エアコネクタ41からエアクリーナ10側へ直線的に伸びて形成されているストレートポート部51のエアクリーナ10側の端部には、エアコネクタ41側へ折り返すカーブポート部52が接続されている。インテークマニホールド40のストレートポート部51は、図3に示すようにヘッドカバー60の反シリンダヘッド側に設置されている。図2に示すように、吸気管50の各ストレートポート部51の間には、隣接するストレートポート部51を接続する板状の翼部53が形成されている。
【0017】
ヘッドカバー60は、図示しないエンジンのシリンダヘッドに搭載される。ヘッドカバー60は樹脂により形成されている。・・・」(段落【0016】及び【0017】)

1e)「【0022】
インテークマニホールド40のヘッドカバー60側に形成される箱状の空間部43には、ヘッドカバー60の一部が収容される。ヘッドカバー60の外周縁にはフランジ部61が形成されている。ヘッドカバー60のフランジ部61は、インテークマニホールド40の裾部42に形成されているフランジ44と対応する位置に形成されている。ヘッドカバー60の上方からインテークマニホールド40を被せてヘッドカバー60のフランジ部61とインテークマニホールド40のフランジ44とを重ね合わせた後、例えば振動溶着などによりフランジ部61とフランジ44とを溶着することにより、インテークマニホールド40とヘッドカバー60とは一体に接合される。」(段落【0022】)

1f)「【0029】
上記構成の吸気モジュール1では、インテークマニホールド40とヘッドカバー60とを一体に形成することにより、インテークマニホールド40およびヘッドカバー60の強度が高められる。そのため、スロットル装置30など吸気モジュール1を構成する装置は一体に形成されているインテークマニホールド40およびヘッドカバー60に支持される。その結果、吸気モジュール1を構成する装置を車両のシャシーなどに支持する場合と比較して、支持のための部材を必要としない。したがって、部品点数を低減することができるとともに、組み付けを容易にすることができる。」(段落【0029】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1g)上記(1)1d)段落【0016】の記載から、インテークマニホールド40は、エンジンの吸気を行うためのものであることが分かる。

1h)上記(1)1e)及び1f)並びに図1の記載から、ヘッドカバー60と、インテークマニホールド40とは接合され、一体に形成されるものであることが分かる。

1i)上記(1)1c)段落【0012】の記載から、吸気モジュールは車両用エンジンに設けられるものであることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図4の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エンジンの吸気を行うためのインテークマニホールド40と、インテークマニホールド40と接合し、かつエンジンのシリンダヘッドに搭載されるヘッドカバー60とを備える車両用エンジンの吸気モジュール1であって、
吸気モジュール1は、インテークマニホールド40及びヘッドカバー60が一体に形成されている、車両用エンジンの吸気モジュール1。」

2.刊行物2
(1)刊行物2の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-106627号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「エンジンの吸気装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は、理解の一助のために当審にて付したものである。)

2a)「【請求項1】
複数の気筒を列状に配置したエンジン本体の吸気側面に固定され、サージタンク部と分岐管部とを有する合成樹脂製の吸気系構造体を備えたエンジンの吸気装置において、
前記吸気系構造体は、サージタンク部に延設されて前記エンジン本体側に張り出し、前記エンジン本体のクランク室から導入されたブローバイガスからオイルを分離するタンク状のオイルセパレータを有し、
前記オイルセパレータは、前記エンジン本体のブローバイガス排出口に接続されてクランク室から排出されるブローバイガスを導入する導入口と、前記導入口の周囲に延設され、前記エンジン本体に固定される取付フランジとを有している
ことを特徴とするエンジンの吸気装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【0008】
上記課題を解決するために本発明は、複数の気筒を列状に配置したエンジン本体の吸気側面に固定され、サージタンク部と分岐管部とを有する合成樹脂製の吸気系構造体を備えたエンジンの吸気装置において、前記吸気系構造体は、サージタンク部に延設されて前記エンジン本体側に張り出し、前記エンジン本体のクランク室から導入されたブローバイガスからオイルを分離するタンク状のオイルセパレータを有し、前記オイルセパレータは、前記エンジン本体のブローバイガス排出口に接続されてクランク室から排出されるブローバイガスを導入する導入口と、前記導入口の周囲に延設され、前記エンジン本体に固定される取付フランジとを有していることを特徴とするエンジンの吸気装置である。この態様では、オイルセパレータ全体を樹脂成形品として、吸気系構造体に組み付けることができるので、オイルセパレータをエンジン本体に設けた従来の構成に比べて大幅に軽量化を図ることができる。また、オイルセパレータがブローバイガスの導入口の周囲に取付フランジを有しているので、オイルセパレータとエンジン本体との間の気密性が高まるとともに、取付フランジを吸気系構造体のエンジン本体への支持部として兼用でき、樹脂成形品による軽量化にも拘わらず、全体の剛性を高く維持することが可能になる。
【0009】
好ましい態様において、前記吸気系構造体は、複数の樹脂成形体を組み合わせた組立体であって、前記樹脂成形体は、少なくとも分岐管部の上流部を構成する分割体と、この分割体に一体成形され、前記オイルセパレータの一部を構成するハウジング分割体と、このハウジング分割体に溶着されることにより、前記オイルセパレータ全体を構成するエンジン側分割体と有している。この態様では、吸気系構造体を樹脂成形品で構成するに当たり、一部の分割体にオイルセパレータのハウジングが一体成形されるので、部品点数を削減することができる。
【0010】
好ましい態様において、前記取付フランジは、前記エンジン本体の吸気側面からみて当該吸気系構造体の投影エリアから下方に突出した位置にレイアウトされている。この態様では、分岐管部の下流端、すなわち、吸気系構造体の上端側の取付部位と取付フランジとの対向間隔が長くなるので、吸気系構造体のエンジン本体に対する取付剛性が高くなる。また、取付フランジをエンジン本体に取り付ける際の作業も容易になる。」(段落【0008】ないし【0010】)

2c)「【0014】
以上説明したように、本発明は、オイルセパレータ全体を樹脂成形品として、吸気系構造体に組み付けることができ、従来の構成に比べて大幅に軽量化を図ることができる。しかも、取付フランジによってオイルセパレータとエンジン本体との間の気密性を高めることができるとともに、取付フランジを吸気系構造体のエンジン本体への支持部として兼用でき、樹脂成形品による軽量化にも拘わらず、全体の剛性を高く維持することが可能になるという顕著な効果を奏する。」(段落【0014】)

2d)「【0019】
吸気系構造体20は、図3に示すように、樹脂の射出成形品を複数個成形し、振動溶着で一体化した組立体である。
【0020】
組立体としての吸気系構造体20は、エンジン本体1のシリンダブロック2に固定されるサージタンク部30と、サージタンク部30と連続し、エンジン本体1の吸気ポート3毎に分岐する分岐管部60とを有している。」(段落【0019】及び【0020】)

2e)「【0031】
図3を参照して、吸気装置10は、上下に2分割された一対の内周分割体100A、100Bと、両内周分割体100A、100Bの外側に配置される一対の外周分割体200A、200B、並びに下側の外周分割体200Bに一体形成されたハウジング分割体33Aと接合されるエンジン側分割体33Bとを有している。
【0032】
上側の内周分割体100Aは、サージタンク部30(プレナム部32)の上部と、導入管31と、分岐管部60の下流端とを一体に有する樹脂製の射出成形品である。この内周分割体100Aの外周部には、分岐管部60の下流側内周部分を区画する溝部101Aが形成されているとともに、この溝部101Aの外側には、上側の外周分割体200Aと接合される接合面102Aが形成されている。また、内周分割体100Aは、分岐管部60の下流端側部分も一体に構成しており、フランジ61は、この内周分割体100Aに一体成形されている。
【0033】
下側の内周分割体100Bは、サージタンク部30(プレナム部32)の下部と、分岐管部60の上流端とを一体に有する樹脂製の射出成形品である。この内周分割体100Bの外周部には、上側の内周分割体100Aと同様に、分岐管部60の上流側内周部分を区画する溝部101Bが形成されているとともに、この溝部101Bの外側には、下側の外周分割体200Bと接合される接合面102Bが形成されている。
【0034】
上側の外周分割体200Aは、分岐管部60の下流側部分を構成するものであり、その内面には、各分岐管部60を形成する溝と上側の内周分割体100Aと接合される接合面とを有している。
【0035】
下側の外周分割体200Bは、分岐管部60の上流側部分を構成するものであり、その内面には、各分岐管部60を形成する溝201Bと下側の内周分割体100Bと接合される接合面202Bとを有している。
【0036】
図1および図3を参照して、下側の外周分割体200Bの下部には、エンジン本体1に対向するハウジング分割体33Aが一体成形されている。他方、エンジン側分割体33Bは、ハウジング分割体33Aと接合することにより、オイルセパレータ33を構成する分割体である。
【0037】
ハウジング分割体33Aには、囲繞室Cを区画する筒状壁33bや排出路33d並びにエンジン本体側に突出するバッフル33fが一体に形成されている。
【0038】
エンジン側分割体33Bには、導入口33eやフランジ35、並びにハウジング分割体33Aのバッフル33fの上下に配置されて、エンジン本体の外側に突出するバッフル33fが一体に形成されている。そして、何れの分割体33A、33Bにおいても、各バッフル33fは、オイルセパレータ33のハウジング33aの幅方向全長にわたって延びている。この結果、両分割体33A、33Bを接合した際、オイルセパレータ33の剛性が高くなる。
【0039】
そして、各分割体100A、100B、200A、200B、33Bを振動溶着によって一体化し、ボルト37で取付フランジ35をシリンダブロック2に固定し、ボルト62で分岐管部60のフランジ61をシリンダヘッド6に固定することにより、オイルセパレータ33を一体に有する吸気系構造体20をエンジン本体1に固定することが可能になる。」(段落【0031】ないし【0039】)

2f)「【0046】
以上説明したように、本実施形態では、オイルセパレータ33全体を樹脂成形品として、吸気系構造体20に組み付けることができ、従来の構成に比べて大幅に軽量化を図ることができる。しかも、取付フランジ35によってオイルセパレータ33とエンジン本体1との間の気密性を高めることができるとともに吸気系構造体20自身の組付強度も高まり、樹脂成形品による軽量化にも拘わらず、全体の剛性を高く維持することが可能になるという顕著な効果を奏する。」(段落【0046】)

(2)刊行物2記載の技術
上記(1)並びに図1ないし図5の記載を総合すると、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されている。

「サージタンク部30と分岐管部60とを有する吸気系構造体20とオイルセパレータ33とを一体で形成してエンジン本体1に固定する技術。」

3.本願補正発明と引用発明との対比・判断
引用発明における「エンジン」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「インテークマニホールド40」は「エアガイド部材」に、「エンジンの吸気を行うためのインテークマニホールド40」は「内燃機関に空気を供給する少なくとも1つのエアガイド部材」に、「接合」は「接続」に、「ヘッドカバー60」は「シリンダヘッドカバー」に、「車両用エンジンの吸気モジュール1」は「自動車の内燃機関用吸気モジュール」あるいは「内燃機関用吸気モジュール」に、「一体に形成されている」は「一体化されている」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「エンジンのシリンダヘッドに搭載されるヘッドカバー60」は、技術常識からみて、エンジンのシリンダヘッドをカバーするためのものに他ならないから、本願補正発明の「内燃機関のシリンダヘッドを少なくとも部分的にカバーするシリンダヘッドカバー」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「内燃機関に空気を供給する少なくとも1つのエアガイド部材と、前記エアガイド部材と接続し、かつ内燃機関のシリンダヘッドを少なくとも部分的にカバーするシリンダヘッドカバーとを備える自動車の内燃機関用吸気モジュールであって、
前記吸気モジュールは、前記エアガイド部材及び前記シリンダヘッドカバーが一体化されている、
内燃機関用吸気モジュール。」

[相違点]
吸気モジュールにおいて、本願補正発明においては、エアガイド部材及びシリンダヘッドカバーとともに、潤滑剤分離装置、排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置が一体化されているのに対して、
引用発明においては、インテークマニホールド40及びヘッドカバー60が一体で形成されているが、潤滑剤分離装置と、排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置が一体に形成されているか不明である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点について]
刊行物2記載の技術は、「サージタンク部30と分岐管部60とを有する吸気系構造体20とオイルセパレータ33とを一体で形成してエンジン本体1に固定する技術。」であって、吸気系構造体20(本願補正発明の「エアガイド部材」に相当)と、オイルセパレータ33(本願補正発明の「潤滑剤分離装置」に相当)とを一体に形成してモジュール化することを示唆している。
そして、特開2011-190744号公報(図1、図2等参照)や実願昭58-180622号(実開昭60-91972号)のマイクロフィルム(第1図ないし第6図参照)によれば、吸気マニホールドに、インタークーラなどの排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置を設けて一体化することは周知である(以下、「周知技術」という。)。
さらに、上記1.(1)1b)の刊行物1の記載において、「エンジンへの組み付けの簡略化、ならびに軽量化」という課題を解決するために「吸気系を構成する複数の装置をモジュール化する」ことが記載されている。
そうすると、引用発明において、上記課題の下で吸気系を構成する複数の装置をモジュール化するため、インテークマニホールド40及びヘッドカバー60が一体に形成されている吸気モジュールに対して、さらに、吸気系と関連する装置である刊行物2記載の技術におけるオイルセパレータを一体となるように形成するとともに、周知技術に基づいてインテークマニホールド40にインタークーラなどの排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された空気を冷却するための冷却装置を設けて一体化した吸気モジュールを形成することにより、上記相違点における本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願補正発明は、全体としてみても引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、国際出願翻訳文提出書により提出された明細書の翻訳文及び平成27年8月3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに国際出願時の図面からみて、上記第2[理由][1](1)に記載したとおりのものである。

2.刊行物の記載等
原査定の理由に引用された刊行物、引用発明及び刊行物2記載の技術は、上記第2[理由][3]1.及び2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2[理由][2]で検討した、「空気」に対しての「排気ガスターボチャージャーのコンプレッサーによって圧縮された」ことの限定を削除したものに相当する。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2[理由][3]3.に記載したとおり、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-16 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2014-536122(P2014-536122)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤間 充北村 亮  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 内燃機関用吸気モジュール  
代理人 赤澤 日出夫  

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