• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項1号公知 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 1項2号公然実施 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1329547
審判番号 不服2015-17161  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-18 
確定日 2017-06-12 
事件の表示 特願2012-230258「腸内環境及び腸管バリア改善サプリメント」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 79208〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月17日の出願であって、平成27年6月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成28年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同月7日に手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成29年3月6日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス、生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、乳酸菌の菌生成物質のいずれかもしくはそれらの混合物であるバイオジェニックス及び難消化性食品成分であるプレバイオティクスのうち少なくとも一つからなる(A)成分と、
L-グルタミン、亜鉛類、ビタミンA類、ビタミンD類のうち少なくとも一つからなる(B)成分と、
を混合してなり、(A)成分であるプロバイオティクス、バイオジェニックス、プレバイオティクスのうち少なくとも一つにより、善玉菌と称される腸内細菌の数を増やし、又悪玉菌と言われる腸内細菌を減少させることで腸内細菌が本来行なっている、有害菌の抑制、栄養産生を行い、腸管ぜん動促進、粘膜防御機能活性化を促し、(B)成分を併用することによって、腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー、IgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善するための、食物抗原特異性のIgG値を低下させる腸管バリア改善サプリメント。」

第3 判断
1 引用例
当審において平成28年12月28日付けで通知した拒絶理由に引用した引用例は、以下のとおりである。
引用例1:国際公開第2010/114864号
引用例2:特開2005-34135号公報
引用例3:Amazon.co.jp:日本機能性医学研究所 mdFood 「エムディ・フード」10食分、[online]、2012年1月19日、[2015年4月8日検索]、インターネット
引用例4:松本光晴、「腸内増殖型ビフィズス菌LKM512の腸内代謝産物を介した保健機能」、ミルクサイエンス、日本酪農科学会、2009年、Vol.58、No.3、p.143-152
引用例5:Steven O. Stapel、「Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report」、Allergy、2008年、Vol.63、p.793-796

2 特許法第29条第1項第2号及び同条第2項についての判断
(1)公然実施発明
引用例3には、「mdFood「エム・ディ フード」10食分」と表示された商品写真が掲載され、その上に「ヘルス&ビューティー>栄養補助食品>サプリメント・ビタミン」との記載、よく一緒に購入されている商品として「対象商品:日本機能性医学研究所 mdFood「エムディ・フード」10食分」との記載、登録情報として「メーカー型番:mdFood4010p」、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2010/1/19」との記載、原材料・成分として「□栄養成分・・・●原材料名:・・・オリゴ糖・・・イヌリン・・・有胞子性乳酸菌・・・環状オリゴ糖、L-グルタミン、・・・グルコン酸亜鉛・・・β-カロテン・・・V.A、V.D、葉酸、(原料の一部に大豆・リンゴを含む)」との記載がそれぞれ認められる(「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)。
そうすると、日本機能性医学研究所 mdFood「エムディ・フード」10食分(メーカー型番mdFood4010p)というサプリメントについて、遅くとも2012年1月19日には販売されていたこと、成分として、有胞子性乳酸菌、イヌリン、オリゴ糖、環状オリゴ糖、L-グルタミン、グルコン酸亜鉛、β-カロテン、V.A、V.Dを含むことが認められる。
よって、本願出願前に以下の発明が公然実施をされたと認められる。
「有胞子性乳酸菌、イヌリン、オリゴ糖、環状オリゴ糖、L-グルタミン、グルコン酸亜鉛、β-カロテン、V.A、V.Dを含むサプリメント。」(以下「公然実施発明」という。)

(2)対比
本願明細書の「本発明の実施例に係る腸内環境及び腸管バリア改善サプリメントは、プロバイオティクスとして有胞子性乳酸菌、プレバイオティクスとしてイヌリン、オリゴ糖及び環状オリゴ糖を含む(A)成分と、L-グルタミン、グルコン酸亜鉛、β-カロテン、V.A、V.Dからなる(B)成分と・・・を混合して構成されていて」(【0039】)との記載を参酌すると、公然実施発明の「有胞子性乳酸菌」、「イヌリン、オリゴ糖、環状オリゴ糖」、「L-グルタミン、グルコン酸亜鉛、β-カロテン、V.A、V.D」は、それぞれ、本願発明の「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス」、「難消化性食品成分であるプレバイオティクス」、「L-グルタミン、亜鉛類、ビタミンA類、ビタミンD類のうち少なくとも一つからなる(B)成分」に相当し、公然実施発明の「有胞子性乳酸菌、イヌリン、オリゴ糖、環状オリゴ糖」は、本願発明の「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス、生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、乳酸菌の菌生成物質のいずれかもしくはそれらの混合物であるバイオジェニックス及び難消化性食品成分であるプレバイオティクスのうち少なくとも一つからなる(A)成分」に相当する。
よって、本願発明と公然実施発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス、生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、乳酸菌の菌生成物質のいずれかもしくはそれらの混合物であるバイオジェニックス及び難消化性食品成分であるプレバイオティクスのうち少なくとも一つからなる(A)成分と、
L-グルタミン、亜鉛類、ビタミンA類、ビタミンD類のうち少なくとも一つからなる(B)成分と、
を混合してなるサプリメント。

[相違点1]
本願発明は、「(A)成分であるプロバイオティクス、バイオジェニックス、プレバイオティクスのうち少なくとも一つにより、善玉菌と称される腸内細菌の数を増やし、又悪玉菌と言われる腸内細菌を減少させることで腸内細菌が本来行なっている、有害菌の抑制、栄養産生を行い、腸管ぜん動促進、粘膜防御機能活性化を促し、(B)成分を併用することによって、腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー、IgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善するための、食物抗原特異性のIgG値を低下させる腸管バリア改善サプリメント」であることが特定されているのに対し、公然実施発明は、このような特定がなされていない点。

(3)判断
ア.上記相違点1は、単に(A)成分、(B)成分の効果を特定し、サプリメントの用途あるいは効果を特定したものであって、サプリメントという物の発明について、成分等の構成を実質的に特定するものではない。
よって、相違点1は実質的な相違点ではないから、本願発明は公然実施発明である。
イ.また、相違点1が実質的な相違点であるとしても、以下に示すように、該相違点は当業者が容易に想到し得たものである。
引用例2には、「プロバイオティクス、プレバイオティクスおよびバイオジェニックスである1種または2種以上を含む成分を摂取することにより、腸内で有用菌が増殖して有機酸を生成し、この有機酸が腸管粘膜の再生や有害菌の抑制などを行うことで、消化、吸収あるいは代謝機能を促進させる」(【0015】)と記載されている(下線は当審による。以下同じ。)。
引用例4には、「Pb(審決注:プロバイオティクスのこと)摂取により腸内菌叢を改善すれば腸内PA濃度が適正化され、充実したバリア機能と共に免疫系の破綻を改善し、様々な生理機能が得られる」(144頁右欄14-17行)、「腸内菌叢の代謝産物である短鎖脂肪酸が大腸を刺激し蠕動運動を活発化した」(147頁左欄下から7-6行)、「PAによる腸管組織の構造的・生化学的な回復を誘導する作用である。PAの作用で高齢者のバリア機能が回復し、病原細菌、毒素やアレルゲンが生体内に浸入しにくい腸管バリアを形成し」(147頁右欄8-11行)と記載されている。
上記引用例2、4の記載を参酌すれば、有害菌の抑制、栄養産生、腸管ぜん動促進、粘膜防御機能活性化、腸内環境と腸管のバリア機能回復は、プロバイオティクス、バイオジェニックス、プレバイオティクスの効果として周知であったと認められ、これによって、アレルゲンが生体内に浸入しにくい腸管バリアを形成し、食物アレルギーが改善されることも周知であったといえる。
してみれば、公然実施発明が「(A)成分であるプロバイオティクス、バイオジェニックス、プレバイオティクスのうち少なくとも一つにより、善玉菌と称される腸内細菌の数を増やし、又悪玉菌と言われる腸内細菌を減少させることで腸内細菌が本来行なっている、有害菌の抑制、栄養産生を行い、腸管ぜん動促進、粘膜防御機能活性化を促し、(B)成分を併用することによって、腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー」「を改善する」ことは、上記周知技術に照らして当業者が容易に予測し得たことである。
また、引用例5には、「Commercial laboratories all over Europe are currently offering broad-scale IgG4 testing against foods to the public, claiming that these tests represent reliable tools for the diagnosis of food allergies.」(793頁右欄下から4-1行)(当審訳:ヨーロッパ各地の商業検査機関は、現在、食物アレルギーの診断のための信頼性のあるツールであると主張して、食物に対して広範なIgG4 検査を提供している。)、「Measurement of IgG against foods is considered useful for antigen avoidance in irritable bowel syndrome by some investigators ・・・」(794頁右欄11-13行)(当審訳:何人かの研究者によって、過敏性腸症候群における抗原回避のために、食品に対するIgGの測定が有用であると考えられている・・・)と記載されている。
上記引用例5の記載を参酌すれば、食物アレルギーの検査としてIgG値を測定することが周知であったといえ、このことは食物アレルギーが改善すると食物抗原特異性のIgG値が低下するとの認識が周知であったことを意味する。
そうすると、上記のとおり、公然実施発明は「食物抗原に対するアレルギー」「を改善する」のであるから、「IgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善」し、「食物抗原特異性のIgG値を低下させる」ことも、当業者が容易に認識し得たことである。
以上によれば、公然実施発明のサプリメントについて、「腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー、IgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善するための」「腸管バリア改善サプリメント」とすることに何ら困難性は認められない。
したがって、相違点1に係る本願発明の特定事項は、公然実施発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

ウ.請求人は、平成29年3月6日付け意見書で「(A)成分と(B)成分の各々の効果ないし用途は出願時点において周知であって既知の属性ではあるものの、他方で、(A)成分と(B)成分が組み合わさった場合の効果は未知のものでしたので、未知の属性を利用したものです。また、その未知の属性を利用して「腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー、特にIgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善する」という用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明ですから、用途発明として新規性を有するといえます。」と主張する。
しかし、上記イ.に示したように、相違点1に係る本願発明の効果や用途はいずれも周知であるか周知技術に照らして容易に予測ないし想到し得たものであるから、本願発明について、未知の属性を発見したということはできず、新たな用途を提供したともいえない。よって、本願発明は用途発明として新規性を認められるものではなく、上記請求人の主張は採用できない。

(4)小括
本願発明は公然実施発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は公然実施発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項についての判断
(1)引用発明
引用例1には、以下の事項が記載されている。

「1. A composition comprising at least one probiotic species in a carrier comprised of at least two sugar alcohols selected from the group consisting of erythritol, lactitol, maltitol, mannitol, sorbitol, and xylitol, wherein said at least one probiotic species is selected from the group consisting of Bifidobacterium breve, Lactobacillus brevis, Lactococcus lactis, Pediococcus acidilactici, Lactobacillus helveticus, Bacillus coagulans and Streptococcus salivarius.」(41頁2-7行)(当審訳:エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトールからなる群から選ばれる2種以上の糖アルコールで構成される担体中に、少なくとも1つのプロバイオティック種を含む組成物であって、該少なくとも1つのプロバイオティック種は、Bifidobacterium breve, Lactobacillus brevis, Lactococcus lactis, Pediococcus acidilactici, Lactobacillus helveticus, Bacillus coagulans 及び Streptococcus salivarius からなる群から選択されることを特徴とする組成物。)

「[0002] This invention relates generally to probiotic formulations and more specifically to probiotic oral dosage forms that remain stable under storage conditions.」(当審訳:本発明は、一般に、プロバイオティック製剤に関し、より詳細には、保存条件下で安定性を維持するプロバイオティック経口投与形態に関する。)

「[0029] In the composition and method of the present invention, the composition may further include a vitamin, a dietary mineral, and/or a trace mineral. The vitamin may be selected from the group consisting of vitamin A(retinol) ・・・ vitamin D1(lamisterol), vitamin D2(ergocalciferol), vitamin D3(dihyrotachysterol), vitamin D4(7-dehydrositosterol)・・・. The trace mineral may be selected from the group consisting of chromium, cobalt, copper, fluorine, iodine, iron, manganese, molybdenum, selenium, and zinc.」(当審訳:本発明の組成物および方法では、組成物はさらに、ビタミン、栄養ミネラル、および/または微量ミネラルを含んでもよい。ビタミンは、ビタミンA(レチノール)・・・ビタミンD1(ラミステロール)、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(ジヒドロタキステロール)、ビタミンD4(7-デヒドロシトステロール)・・・からなる群から選択することができる。・・・微量ミネラルは、クロム、コバルト、銅、フッ素、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレン、亜鉛からなる群から選択することができる。)

これらの記載によれば、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
「少なくとも1つのプロバイオティック種を含む組成物であって、
組成物はさらに、ビタミン、栄養ミネラル、微量ミネラルを含み、
ビタミンは、ビタミンA、ビタミンD1、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンD4から選択され、微量ミネラルは亜鉛である
組成物。」(以下「引用発明」という。)

(2)対比
引用発明の「プロバイオティック種」は、本願発明の「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス」に相当するとともに「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス、生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、乳酸菌の菌生成物質のいずれかもしくはそれらの混合物であるバイオジェニックス及び難消化性食品成分であるプレバイオティクスのうち少なくとも一つからなる(A)成分」に相当する。
引用発明の、「ビタミンA、ビタミンD1、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンD4」及び「亜鉛」は、本願発明の「L-グルタミン、亜鉛類、ビタミンA類、ビタミンD類のうち少なくとも一つからなる(B)成分」に相当する。
引用発明の「組成物」は、経口投与形態であること([0002])を踏まえると、本願発明の「サプリメント」に相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「乳酸菌、ビフィズス菌、糖化菌、納豆菌、酵母菌のいずれか、もしくはそれらの混合物であるプロバイオティクス、生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、乳酸菌の菌生成物質のいずれかもしくはそれらの混合物であるバイオジェニックス及び難消化性食品成分であるプレバイオティクスのうち少なくとも一つからなる(A)成分と、
L-グルタミン、亜鉛類、ビタミンA類、ビタミンD類のうち少なくとも一つからなる(B)成分と、
を混合してなるサプリメント。」

[相違点2]
本願発明は、「(A)成分であるプロバイオティクス、バイオジェニックス、プレバイオティクスのうち少なくとも一つにより、善玉菌と称される腸内細菌の数を増やし、又悪玉菌と言われる腸内細菌を減少させることで腸内細菌が本来行なっている、有害菌の抑制、栄養産生を行い、腸管ぜん動促進、粘膜防御機能活性化を促し、(B)成分を併用することによって、腸内環境と腸管のバリア機能を回復させて食物抗原に対するアレルギー、IgGが誘導される遅発型の食物アレルギーを改善するための、食物抗原特異性のIgG値を低下させる腸管バリア改善サプリメント」であることが特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がなされていない点。

(3)判断
相違点2は、実質的に前記「2」で検討した相違点1と同じである。
よって、前記「2(3)」における判断と同様に、相違点2は実質的な相違点ではないか、相違点2に係る本願発明の特定事項は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(4)小括
本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 特許法第36条第6項第1号についての判断
本願明細書の「本発明は、腸の脆弱性及び腸管アレルギーの改善を目的とした腸内環境及び腸管バリア改善サプリメントに関する。」(【0001】)、「この発明は、健康の維持・増進作用を有する食品素材を、腸の脆弱性及び腸管アレルギーを改善できるように配合してなり、腸環境・バリア指数を低下させる腸内環境及び腸管バリア改善サプリメントを提供することを課題とする。」(【0005】)との記載に照らせば、本願発明は、腸の脆弱性及び腸管アレルギーを改善することを課題とするものである。
そこで、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討する。
本願の発明の詳細な説明には、本願発明の効果を具体的に実証するものとして実施例1が記載されている。
該実施例1のサプリメントは「プロバイオティクスとして有胞子性乳酸菌、プレバイオティクスとしてイヌリン、オリゴ糖及び環状オリゴ糖を含む(A)成分と、L-グルタミン、グルコン酸亜鉛、β-カロテン、V.A、V.Dからなる(B)成分と、V.B1、V.B2、ナイアシン(V.B3)、V.B6、V.B12、葉酸からなるビタミンB群;貝カルシウム及びパントテン酸(V.B5)Ca;酸化Mg;大豆ペプチド;L-メチオニンからなる(C)成分と、更に、食品添加物として用いられる多糖類であるマルトデキストリン、V.C、V.E、ビオチン、塩化カリウム、安定剤としてのペクチン、鉄塩化物であるピロリン酸第二鉄を混合して構成」されたものである(【0039】)。
そして、実施例1の臨床例1では「被験者は、初診時にレベルIIIを超えた乳製品と卵を12ヶ月間摂取しないよう指導した。」(【0041】)との条件下で上記サプリメントを摂取し、治療前、3ヵ月後、12ヵ月後のIgGスコアが示され、多くの食品についてIgGスコアが減少したことが示されている。但し「卵は摂取をやめなかったため、改善がない。」(【0044】)となっている。
また、実施例1の臨床例2では「被験者には、初診時の腸環境・バリア指数がレベルIIIを超えた乳製品と卵を6ヶ月間摂取しないよう指導した。」(【0045】)との条件下で上記サプリメントを摂取し、初診時と6ヵ月後のIgGスコアが示され、多くの食品についてIgGスコアが減少したことが示されている。
以上によれば、臨床例1、2として、IgGスコアが減少することが示されているものの、腸の脆弱性及び腸管アレルギーを改善する効果については示されていない。本願明細書に「IgGスコアは抗体量に基づいて、非即時性アレルギーの重症度を示す」(【0041】)との記載はあるものの、当該事実を示す具体的な試験はなされておらず、技術常識であるとも認められないため、IgGスコアが減少することが示されているからといって、腸の脆弱性及び腸管アレルギーを改善する効果が示されているということはできない。
しかも、臨床例1、2は、乳製品と卵を摂取しないよう指導した条件下の試験であることや、摂取をやめなかった卵については改善しなかったことを考慮すると、サプリメント自体の効果が示されているとも認められない。
仮に実施例1のサプリメントの効果が認められるとしても、その効果は、実施例1に示される特定の成分から成るサプリメントについて確認できたというにすぎない。本願発明には、実施例1のサプリメントとは成分の異なるものが広く含まれるところ、本願発明の全てについて効果を認めることはできない。
なお、請求人は、平成29年3月6日付け意見書で、資料1、資料2を提示し、IgG値の低下が食物抗原に対するアレルギーを改善する効果を有することは技術常識であると主張するが、上記資料1、2は、いずれも本願出願前の資料ではなく、また、IgGスコアの減少により腸管アレルギー改善効果が確認できる旨を示しているとも認められないから、該請求人の主張は採用できない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、(1)本願発明は公然実施発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないか、あるいは、本願発明は公然実施発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、(2)本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、あるいは、本願発明は引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、(3)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-17 
結審通知日 2017-04-18 
審決日 2017-05-02 
出願番号 特願2012-230258(P2012-230258)
審決分類 P 1 8・ 112- WZ (A23L)
P 1 8・ 113- WZ (A23L)
P 1 8・ 111- WZ (A23L)
P 1 8・ 537- WZ (A23L)
P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
莊司 英史
発明の名称 腸内環境及び腸管バリア改善サプリメント  
代理人 工藤 一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ