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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1329665
審判番号 不服2017-1196  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-27 
確定日 2017-07-12 
事件の表示 特願2016-509889「表面特性検査方法及び表面特性検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日国際公開、WO2015/145833、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年10月8日(優先権主張2014年3月24日)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月27日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月26日付けで手続補正がされ、同年10月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
平成28年10月25日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は、次のとおりである。

本願請求項1-6、8-11に係る発明は、以下の引用文献1-4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2013-529286号公報
2.特開平10-217122号公報
3.特開昭55-7630号公報
4.特開平5-203503号公報

第3 本願発明
本願請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は、平成28年8月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ショットピーニング処理された被検体の表面特性を検査する表面特性検査方法であって、
交流ブリッジ回路と、
前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、
前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて、被検体の表面特性を評価する評価装置と、を備え、
前記交流ブリッジ回路は、第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に渦電流を励起するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器と、被検体と同一構造の基準検体を配置し、前記検査検出器からの出力と比較する基準となる基準状態を検出する基準検出器とを有し、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗、前記基準検出器及び前記検査検出器がブリッジ回路を構成する表面特性検査装置を用意する検査装置準備工程と、
前記評価装置における被検体の表面特性の評価に使用するしきい値を決定するしきい値設定工程と、
表面から深部に残留応力を付与する第1ショットピーニング処理と、前記第1ショットピーニング処理後に前記第1ショットピーニング処理よりも低強度のショットピーニングを行い、前記第1ショットピーニング処理よりも浅い表面近傍に更に残留応力を付与する第2ショットピーニング処理と、が施された被検体に、前記検査検出器によって渦電流を励起する渦電流励起工程と、
前記第2ショットピーニング処理後に実施された前記渦電流励起工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記第1ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する良否判断工程と、
を有し、
前記渦電流励起工程においては、前記交流ブリッジ回路に供給される交流電力の周波数が、前記第1ショットピーニング処理により残留応力が付与された深さまで前記渦電流が浸透するように設定されることを特徴とする表面特性検査方法。
【請求項2】 前記渦電流励起工程は、前記基準検体として、表面処理を施していない未処理品を前記基準検出器に配置した状態で実施されることを特徴とする請求項1に記載の表面特性検査方法。
【請求項3】 前記しきい値設定工程は、前記第1ショットピーニング及び前記第2ショットピーニング処理が適正に行われた被検体に渦電流を励起した際の前記交流ブリッジ回路の出力信号に基づいて前記しきい値を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面特性検査方法。
【請求項4】 更に、前記渦電流励起工程よりも高い周波数の交流電力を前記交流電源によって供給して、被検体に渦電流を励起する第2渦電流励起工程と、この第2渦電流励起工程により渦電流が励起されているときの前記交流ブリッジ回路の出力信号に基づいて、前記第2ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する第2良否判断工程と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の表面特性検査方法。
【請求項5】 前記しきい値設定工程は、所定の第1周波数の交流電力を前記交流ブリッジ回路に供給して得られた出力信号に基づいて決定されるしきい値、及び前記第1周波数よりも高い第2周波数の交流電力を前記交流ブリッジ回路に供給して得られた出力信号に基づいて決定される第2しきい値を決定し、前記しきい値は前記良否判断工程における良否判断に使用され、前記第2しきい値は前記第2良否判断工程における良否判断に使用されることを特徴とする請求項4に記載の表面特性検査方法。
【請求項6】 前記第2良否判断工程は、前記良否判断工程よりも前に実施されることを特徴とする請求項4に記載の表面特性検査方法。
【請求項7】 前記しきい値設定工程は、前記検査検出器に未処理の被検体を配置したときの前記交流ブリッジ回路の出力信号EA、及び前記検査検出器に前記第1ショットピーニング及び前記第2ショットピーニング処理が適正に行われた被検体を配置したときの前記交流ブリッジ回路の出力信号EBに基づいて、下式によりしきい値Ethiを設定することを特徴とする請求項3または請求項5に記載の表面特性検査方法。
Ethi=(EAav・σB+EBav・σA)/(σA+σB)
EAav:出力信号EAの平均値、EBav:出力信号EBの平均値、σA:出力信号EAの標準偏差、σB:出力信号EBの標準偏差
【請求項8】 前記評価装置は記憶手段を備え、この記憶手段には、各被検体の識別情報と該被検体の表面特性の検査データが関連付けて記憶されることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の表面特性検査方法。
【請求項9】 ショットピーニング装置により表面から深部に残留応力を付与する第1ショットピーニング処理と、前記第1ショットピーニング処理後に前記第1ショットピーニング処理よりも低強度のショットピーニングを行い、前記第1ショットピーニング処理よりも浅い表面近傍に更に残留応力を付与する第2ショットピーニング処理と、が施された被検体の表面特性を検査する表面特性検査装置であって、
交流ブリッジ回路と、
前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、
前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて、被検体の表面特性を評価する評価装置と、を備え、
前記交流ブリッジ回路は、第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に渦電流を励起するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器と、被検体と同一構造の基準検体を配置し、前記検査検出器からの出力と比較する基準となる基準状態を検出する基準検出器とを有し、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗、前記基準検出器及び前記検査検出器はブリッジ回路を構成し、前記評価装置は、前記第2ショットピーニング処理後にのみ、前記交流ブリッジ回路に交流電力が供給され、前記検査検出器が前記被検体の電磁気特性を検出し、前記基準検出器が基準状態を検出している状態における前記交流ブリッジ回路からの出力信号としきい値とを比較して、前記被検体の表面特性を評価し、前記被検体に対する前記第1ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを判断し、
前記交流電源は、前記第1ショットピーニング処理により残留応力が付与された深さまで前記渦電流が浸透する周波数の交流電力を前記交流ブリッジ回路に供給することを特徴とする表面特性検査装置。
【請求項10】 前記基準検体は、表面処理を施していない未処理品であることを特徴とする請求項9に記載の表面特性検査装置。
【請求項11】 前記コイルは、リッツ線により形成されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の表面特性検査装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。
ア 「【0001】
本発明は、ショットピーニング処理や熱処理、窒化処理などの表面処理を施した処理材の表面処理状態の良否を非破壊で検査する表面特性検査装置及び表面特性検査方法に関する。」
イ 「【0033】
図1に示すように、本発明の実施形態による表面特性検査装置1は、交流電源10、交流ブリッジ回路20及び判断装置30を備えている。
【0034】
交流電源10は、交流ブリッジ回路20に周波数が可変の交流電力を供給可能に構成されている。
【0035】
交流ブリッジ回路20は、可変抵抗21、基準検体Sの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた基準検出器22及び被検体Mの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた検査検出器23を備えている。
【0036】
可変抵抗21は、抵抗RAを抵抗R1と抵抗R2とに分配比γを可変に分配することができるように構成されている。抵抗R1、抵抗R2は、基準検出器22及び検査検出器23とともにブリッジ回路を構成している。本実施形態では、抵抗R1と抵抗R2とを分配する点A及び基準検出器22と検査検出器23との間の点Bが判断装置30の交流電源10に接続され、抵抗R1と基準検出器22との間の点C及び抵抗R2と検査検出器23との間の点Dが増幅器31に接続されている。また、ノイズの低減のため、基準検出器22及び検査検出器23側が接地されている。
【0037】
判断装置30は、交流ブリッジ回路20から出力される電圧信号を増幅する増幅器31、全波整流を行う絶対値回路32、直流変換を行うローパスフィルタ(LPF)33、交流電源10から供給される交流電圧と増幅器31から出力される電圧の位相を比較する位相比較器34、交流電源10から供給される交流電圧の周波数を調整する周波数調整器35、R1とR2の分配を最適化する非平衡調整を行うとともに、LPF33からの出力に基づいて被検体Mの表面状態の良否を判断する判断手段36及び判断手段36による判断結果を表示、警告する表示手段37を備えている。
【0038】
増幅器31は、点C及び点Dに接続され、点Cと点Dとの間の電位差が入力される。また、絶対値回路32、LPF33の順に判断手段36に接続されている。位相比較器34は、交流電源10、増幅器31及び判断手段36に接続されている。周波数調整器35は、交流電源10及び増幅器31に接続されている。また、判断手段36は、制御信号を出力することにより、交流ブリッジ回路20の点Aの位置、即ち、抵抗R1と抵抗R2の分配比γを変更することができるように構成されており、これにより、後述する可変抵抗設定工程が実行される。
【0039】
基準検出器22及び検査検出器23を構成する磁気センサとして、磁気センサと被検体の表面を当接、又は近接させることにより閉磁路を形成する形状の磁気センサを用いる。本実施形態では、図2に示すように、E字型のコアを備えた磁気センサを採用した。
【0040】
磁気センサ40は、中央の脚部41aと、脚部41aの両脇に配置された脚部41b、41cとが被検体Mの表面Maに対向して配置される基部41dから表面Maに向かってE字型になるように立設された磁性体からなるE字型のコア41と、脚部41aに巻かれたコイル42から構成されている。
【0041】
ここで、コア41を磁性体により形成すると、コア41内部の磁束密度を高くすることができ、S/N比(S:鋼材へ浸透する磁気、N:漏れ磁気)を高くすることができるので、磁気センサ40による電磁気特性の検出感度を向上させることができ、好ましい。強磁性体としては、例えば鉄、スーパーマロイ、パーマロイ、珪素鋼、フェライト(Mn-Zn系、Ni-Zn系)、カーボニル鉄ダスト、モリブデン・パーマロイ、センダスト等が挙げられる。
【0042】
磁気センサ40は、脚部41、41b、41cのそれぞれの先端部が被検体Mの表面に接触可能に形成されている。例えば、被検体Mが平板の場合には、脚部41a、41b、41の先端部を同一平面上になるように形成し、脚部41a、41b、41cが被検体Mの表面に夫々当接されるように磁気センサ40が配置される。
なお、本実施形態の表面特性検査装置1は、基準検出器22の磁気センサに基準検体Sを当接させて配置するための基準検体配置装置51、及び検査検出器23の磁気センサに被検体Mを当接させて配置するための被検体配置装置52を備えている(図1)。
【0043】
表面Ma近傍にショットピーニングによる残留応力層Mbが形成された鋼材を被検体Mの例として説明する。交流電源10によりコイル42に所定の周波数の交流電力を供給すると、コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透し、脚部41a、41c及び被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまでの領域により閉磁路が形成される。
【0044】
コイル12に鎖交する交流磁界Hは、磁気が浸透した残留応力層Mbの電磁気特性に応じて変化するため、残留応力層Mbの特性(表面処理状態)に応じてコイル42のインピーダンスが変化する。このため、コイル42により、残留応力層Mbの電磁気特性を検出することができる。」
ウ 「【0059】
次に、表面特性検査装置1による被検体の表面特性検査方法について図4を参照して説明する。
【0060】
まず、準備工程S1では、本発明の実施形態による表面特性検査装置1を準備する。また、表面処理状態が良好であると保証されている基準検体及び表面処理を施していない検体または表面処理状態が不良な検体である参照検体を用意しておく。
【0061】
次に、可変抵抗設定工程S2では、基準検体Sを基準検出器22に当接させ、参照検体を検査検出器23に当接させる。ここで、検査精度を向上させるためには、各検体と各検出器の接触条件を揃えておくことが好ましい。本実施形態においては、基準検体配置装置51により、基準検体Sと基準検出器22の間の位置関係及び押付荷重が設定され、被検体配置装置52により、参照検体又は被検体Mと検査検出器23の間の位置関係及び押付荷重が設定される。また、基準検体配置装置51及び被検体配置装置52は、各検体と検出器の位置関係及び押付荷重が略同一になるように設定される。なお、本実施形態においては、基準検体配置装置51及び被検体配置装置52は、各検体を載置する位置調整可能なXYステージ、及び押付荷重を一定とする負荷荷重調整装置によって構成されている。また、負荷荷重調整装置は、マイクロメータと、一定荷重が負荷されると空転する公知の機構とを組み合わせることにより構成されている。さらに、基準検出器22及び検査検出器23は、近接して配置されているため、これらの検出器の設置環境を同じにすることができ、温湿度や周囲の電磁気環境が変化した場合でも、その影響を受けにくなっている。
【0062】
続いて、交流電源10から交流ブリッジ回路20に交流電力を供給する。この状態で、表面特性検査装置1による不良な検体の検出感度が高くなるように、可変抵抗21の分配比γを調整する。即ち、基準検出器22に基準検体Sが押し付けられ、検査検出器23に参照検体が押し付けられた状態で、交流ブリッジ回路20から大きな出力信号が出力されるように、可変抵抗21の分配比γを調整する。このように可変抵抗21を設定しておくことにより、検査検出器23に押し付けられた被検体Mの表面処理状態が不良である場合と、表面処理状態が良好である場合の出力信号の差異が大きくなり、検出精度を高くすることができる。具体的には、オシロスコープなど波形表示機能を持つ表示装置(例えば、判断手段36が備えている)にて交流ブリッジ回路20からの出力信号の電圧振幅、またはLPF33からの電圧出力をモニターし、出力が大きくなるように分配比γを調整する。好ましくは、出力が最大値又は極大値(局所平衡点)をとるように、可変抵抗21の分配比γを調整して、設定する。
【0063】
可変抵抗21の分配比γの調整は、差分電圧(E2-E1)を大きくすることにより表面状態の差異に応じた出力差を増大させ、検査精度を向上させるために行われる。上述したように成分A、Bは分配比γを調整することにより変化するため、基準検出器22、検査検出器23のインピーダンス(RS+jωLS)、(RT+jωLT)に応じて、可変抵抗21の分配比γを調整し、交流ブリッジ回路20からの出力である差分電圧(E2-E1)を大きくすることができ、検査精度を向上させることができる。
【0064】
周波数設定工程S3では、基準検体Sを基準検出器22に当接させ、参照検体を検査検出器23に当接させた状態で、交流電源10から交流ブリッジ回路20に交流電力を供給し、周波数調整器35により交流ブリッジ回路20に供給する交流電力の周波数を変化させて交流ブリッジ回路20から電圧振幅出力またはLPF33からの電圧出力をモニターする。
【0065】
周波数調整器35は、周波数調整器35において設定された初期周波数f1になるように交流電源10へ制御信号を出力し、周波数f1における増幅器31からの出力電圧Ef1が周波数調整器35に入力され、記憶される。続いて、周波数f1よりも所定の値、例えば100Hz高い周波数f2になるように交流電源10へ制御信号を出力し、周波数f2における増幅器31からの出力電圧Ef2が周波数調整器35に入力され、記憶される。
続いて、Ef1とEf2との比較を行い、Ef2>Ef1であれば、周波数f2よりも所定の値高い周波数f3になるように制御信号を出力し、周波数f3における増幅器31からの出力電圧Ef3が周波数調整器35に入力され、記憶される。そして、Ef2とEf3との比較を行う。これを繰り返し、Efn+1<Efnとなったときの周波数fn、つまり出力が最大となる周波数fnを、しきい値設定工程S4及び交流供給工程S6で用いる周波数として設定する。これにより、表面処理状態、形状などが異なりインピーダンスが異なる被検体Mに対応して交流ブリッジ回路20からの出力を大きくする周波数を一度の操作により設定することができる。最適な周波数は、被検体の材料、形状、表面処理状態により、変化することとなるが、これがあらかじめわかっている場合、周波数の設定は不要である。これにより、表面処理状態の変化に出力が敏感に対応し、検査の感度を向上させることができる。
ここで、周波数設定工程S3は、可変抵抗設定工程S2よりも先に実施することもできる。
【0066】
しきい値設定工程S4では、基準検体Sを基準検出器22に当接させ、基準検体Sまたは参照検体を検査検出器23に当接させ、周波数設定工程S3において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する。交流ブリッジ回路20から出力された電圧出力は、増幅器31で増幅され、絶対値回路32において全波整流を行い、LPF33において直流変換を行い、判断手段36へ出力される。
検査検出器23に基準検体Sを当接させたときに判断手段36へ出力された出力値を正常しきい値、検査検出器23に参照検体を当接させたときに判断手段36へ出力された出力値を不良しきい値として設定し、判断手段36に記憶させておく。
【0067】
表面処理状態と電磁気特性との関係では、例えば、化合物層が形成されると透磁率は低下する。また、表面が硬化すると透磁率は上昇する。ショットピーニング処理などにより圧縮の残留応力を付与した場合には、逆磁歪効果により透磁率が低下する。不良しきい値は、透磁率の差に対応して正常しきい値から変化する。
後述する良否判断工程(S7)においては、被検体Mを検査検出器23に当接させたときの出力値と、正常しきい値及び不良しきい値を比較して、被検体Mの良否が判断される。設定された正常しきい値が不良しきい値よりも大きい場合には、被検体Mの出力値が正常しきい値以上のとき良品と判断され、被検体Mの出力値が不良しきい値以下のとき不良品と判断される。
なお、被検体の種類等によっては、不良しきい値の方が正常しきい値よりも大きくなる場合がある。このような場合には、被検体Mの出力値が正常しきい値以下のとき良品と判断され、被検体Mの出力値が不良しきい値以上のとき不良品と判断される。
【0068】
また、上記のように被検体Mの良否を判断した場合、被検体Mの出力値が、正常しきい値と不良しきい値の間の値である場合には、良否を判定できないことになる。そこで、表面状態が異なる複数の参照検体を用いて出力測定を行い、正常しきい値との差が小さくなるように不良しきい値を設定することもできる。また、被検体の破壊検査を併用することにより、不良しきい値をより精密に決定しても良い。
【0069】
検体配置工程S5では、表面処理状態の良否を判定すべき被検体Mを検査検出器23に当接させる。なお、基準検出器22は、しきい値設定工程S4において当接させた基準検体Sが当接された状態となっている。
次いで、交流供給工程S6では、周波数設定工程S3において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する。交流ブリッジ回路20に交流電力が供給されることにより、交流ブリッジ回路20から電圧出力信号が出力される。この出力信号は、増幅器31で増幅され、絶対値回路32において全波整流され、LPF33において直流変換される。
良否判断工程S7では、LPF33において直流変換された信号が判断手段36に入力され、判断手段36は、入力された信号に基づいて被検体Mの表面状態の良否を判断する。判断手段36による判断結果は、表示手段37により表示され、表面状体が不良である場合には警告する。
【0070】
被検体Mの表面処理状態の良否の判断は、LPF33からの出力値(測定値)と、しきい値設定工程S4において設定された正常しきい値及び不良しきい値を比較することにより行われる。
【0071】
検査状態判断工程S8では、位相比較器34により交流電源10から供給される交流電力の波形と交流ブリッジ回路20から出力される交流電圧波形を比較し、それらの位相差を検出する。この位相差をモニターすることにより、検査状態が良好であるか否かを判断することができる。例えば、検査検出器23の被検体Mへの接触状態が異なり検出器と被検体とのリフトオフが変化すると位相がずれる場合がある。このため、交流ブリッジ回路20からの出力が同じであっても、位相差が大きく変化した場合には、検査状態に変化があり、検査が適正に行われていない可能性があると判断することができる。
【0072】
以上の工程により、被検体Mの表面処理状態の良否を簡単かつ高精度に検査することができる。検査を継続するには、被検体Mのみを交換して、検体配置工程S5、交流供給工程S6、良否判断工程S7、検査状態判断工程S8を繰り返し行えばよい。被検体Mの種類、表面処理の種類などを変更する場合には、再度、可変抵抗設定工程S2、周波数設定工程S3、しきい値設定工程S4を実施する。」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ショットピーニング処理や熱処理、窒化処理などの表面処理を施した処理材の表面処理状態の良否を非破壊で検査する表面特性検査方法であって、
交流電源10、交流ブリッジ回路20及び判断装置30を備えている表面特性検査装置1であり、
交流電源10は、交流ブリッジ回路20に周波数が可変の交流電力を供給可能に構成されており、
交流ブリッジ回路20は、可変抵抗21、基準検体Sの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた基準検出器22及び被検体Mの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた検査検出器23を備えており、
可変抵抗21は、抵抗RAを抵抗R1と抵抗R2とに分配比γを可変に分配することができるように構成され、抵抗R1、抵抗R2は、基準検出器22及び検査検出器23とともにブリッジ回路を構成しており、
判断装置30は、交流ブリッジ回路20から出力される電圧信号を直流変換するローパスフィルタ(LPF)33からの出力に基づいて被検体Mの表面状態の良否を判断する判断手段36を備えており、
磁気センサ40は、中央の脚部41aと、脚部41aの両脇に配置された脚部41b、41cとが被検体Mの表面Maに対向して配置される基部41dから表面Maに向かってE字型になるように立設された磁性体からなるE字型のコア41と、脚部41aに巻かれたコイル42から構成されている表面特性検査装置1を準備するとともに、表面処理状態が良好であると保証されている基準検体及び表面処理を施していない検体または表面処理状態が不良な検体である参照検体を用意する準備工程S1と、
可変抵抗設定工程S2と、
周波数設定工程S3と、
後述する良否判断工程S7において被検体Mの良否を判断するために用いられる、正常しきい値と不良しきい値を設定するしきい値設定工程S4と、
被検体Mを検査検出器23に当接させる検体配置工程S5と、
周波数設定工程S3において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する交流供給工程S6と、
被検体Mの表面処理状態の良否の判断が判断手段36において、LPF33からの出力値(測定値)と、しきい値設定工程S4において設定された正常しきい値及び不良しきい値を比較することにより行われる良否判断工程S7と、
を有し、
交流電源10によりコイル42に所定の周波数の交流電力を供給すると、コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透する、
表面特性検査方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。
ア 「【0004】…、請求項3記載の発明における金型表面の処理方法は、熱処理された金型の表面をピーニング処理したときにこの処理面の表面近傍に圧縮残留応力の最大値を生成することが可能な方法であって、熱処理した金型の表面に対して複数回のピーニング処理を行ない、この複数回のピーニング処理のうち少なくとも1回のピーニング処理の投射材については、比重をより重く、粒子径をより小さく、かつ、硬さをより硬くしたことを特徴とする。」
イ 「【0009】この表1において、摘要における比較例は、この欄が一般的なピーニング処理の一つを行なったときのデータを示すことを意味する。また、摘要における未処理は、この欄がピーニング処理を行なわないことを意味する。さらに、摘要における1回目、2回目とは同一の金型に対して投射材の比重、粒子径および硬度をぞれぞれ変えて二段階に亘りピーニング処理を行なったことを意味する(金型Bの場合)。」

したがって、上記引用文献2には、「同一の金型に対して投射材の比重、粒子径および硬度をぞれぞれ変えて二段階に亘りピーニング処理を行う」という技術事項が記載されているものと認められる。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。
ア 「本発明は発電用ボイラーの過熱管等に使用される、例えばオーステナイトステンレス鋼管等の非磁性鋼製管体の内面に施されたピーニング加工層深さの検査方法に関するものである。」(第1頁左下欄第4?7行)
イ 「次に以上の如き、装置を用いて本発明方法を実施する場合の手順について説明する。まず第4図に示すように、被検管体と管径,肉厚が同一であって内面にピーニング加工を施していない、すなわちピーニング加工層深さが0の基準管体PS1,PS2を2本用意しておき、基準管体PS1には第1のコイルL1を、また基準管体PS2には第2のコイルL2を夫々適当な位置にまで挿入する。この状態で発振器OSCを起動し、オシロスコープCRTを観察しつつ平衡調整用素子B1,B2を操作してブリッジ回路BRGの平衡をとる。これにより検査の準備が完了したことになる。
次に第5図に示すように第1のコイルL1はそのまま基準管体PS1内に挿入した状態にしておく一方、第2のコイルL2は基準管体PS2から抜き出し、被検管体PT内に挿入してその一端に位置せしめる。この状態で再び発振器OSCを起動する。そうすると基準管体PS1の内面には加工層が存在しないのに対し被検管体PTの内面には第6図に示す如く加工層PNGが存在するので両管体2内面表層部における硬度が異り、このために電気伝導度が相異し、その結果渦電流の深さ方向分布が両者で相異ることになる。この渦電流はコイルL1,L2に電圧を誘起せしめるので、結局コイルL1とL2のインピーダンスが変化することとなりブリッジ回路BRGは不平衡となる。けだし平衡調整用素子B1,B2は、両コイルL1,L2が夫々基準管体PS1,PS2に挿入されて等インピーダンスとなっている場合にブリッジ回路BRGを平衡させるべく調整されているからである。」(第3頁右下欄第2行?右下欄第12行)

したがって、上記引用文献3には、「ピーニング加工を施していない管体を基準管体とし、ピーニング加工を施した管体を被検管体とし、渦電流の深さ方向分布が両者で相異ることを利用して、ピーニング加工層の深さを検査する」という技術事項が記載されているものと認められる。

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。
ア 「【0010】
【作用】励磁コイルに励磁電流として高周波の交流電流を流すと、磁路における磁束は時間的に変化する。従って、電磁誘導により、鋼材の組織に渦電流が生じる。さらにこの渦電流によって高周波の磁界が生じる。これは検出コイルによりインピーダンス変化、ひいては出力電圧値の変化として測定される。ここで、鋼材の組織(マルテンサイト相、オーステナイト相など)に応じてその透磁率が異なるので、鋼材の組織に応じて検出コイルの出力電圧値は変化する。ここで鋼材の組織割合は加工誘起変態の程度によって変化するため、検出コイルの出力電圧値により、残留応力の程度が把握される。
【0011】また、励磁コイルに流す励磁電流の周波数を変更すると、鋼材表面における磁束の浸透深さは変化する。そのため、励磁電流の周波数を変更すれば、鋼材の表面からの深さに応じた電圧信号が検出コイルから出力されることになる。」
イ 「【0024】そこで、鋼材1の加工面11の深さ方向における圧縮残留応力分布を測定する場合には次の様にして行う。すなわち、ショットピーニングによる圧縮残留応力発生層は一般的に表面から深さ300μm程度とされており、その範囲に磁束を浸透させる必要があり、そのため本発明者は励磁電流の周波数は1KHz?1MHzの範囲が適当と考えた。従って、本実施例では、図1に示す周波数可変タイミング回路238により発振器231からの励磁電流の周波数を1KHz?1MHzの範囲で変更する。具体的には1MHzから初め、次第に周波数を低下させ、1KHzに至る(f1 、f2 、f3 、f4 ?)。ここで図11において、周波数f1 での加工面11における磁束の浸透深さはh1 とされる。また、励磁電流の周波数f2 での磁束の浸透深さはh2 とされる。また、周波数f3 での磁束の浸透深さはh3 とされる。」

したがって、上記引用文献4には、「鋼材の加工面の深さ方向における圧縮残留応力分布を測定する場合、励磁コイルに流す励磁電流の周波数を変更すると、鋼材表面における磁束の浸透深さが変化するので、深さ300μm程度とされているショットピーニングによる圧縮残留応力発生層の残留応力の程度を把握するには、励磁電流の周波数を1KHz?1MHzの範囲で変更する。」という技術事項が記載されているものと認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明は、「ショットピーニング処理や熱処理、窒化処理などの表面処理を施した処理材の表面処理状態の良否を非破壊で検査する表面特性検査方法」であるから、本願発明1と同様に「ショットピーニング処理された被検体の表面特性を検査する表面特性検査方法」といえる。
イ 引用発明の「交流ブリッジ回路20」は、本願発明1の「交流ブリッジ回路」に相当する。
ウ 引用発明の「交流電源10」は、「交流ブリッジ回路20に周波数が可変の交流電力を供給可能に構成されて」いるから、本願発明1の「前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源」に相当する。
エ 引用発明の「判断装置30」は、「交流ブリッジ回路20から出力される電圧信号を直流変換するローパスフィルタ(LPF)33からの出力に基づいて被検体Mの表面状態の良否を判断する判断手段36を備え」るものであるから、本願発明1の「前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて、被検体の表面特性を評価する評価装置」に相当する。
オ 引用発明における「ブリッジ回路」の構成と、本願発明1における「ブリッジ回路」の構成とを対比すると、
(ア)引用発明の「可変抵抗21」、「基準検体Sの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた基準検出器22」及び「被検体Mの磁気的特性を検出する磁気センサを備えた検査検出器23」がそれぞれ、本願発明1の「可変抵抗」、「基準検出器」及び「検査検出器」に相当する。
(イ)引用発明の「可変抵抗21」は、「抵抗RAを抵抗R1と抵抗R2とに分配比γを可変に分配することができるように構成され」ているから、本願発明1における「第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗」に相当する。
(ウ)引用発明の「検査検出器23」の「磁気センサ」は、「中央の脚部41aと、脚部41aの両脇に配置された脚部41b、41cとが被検体Mの表面Maに対向して配置される基部41dから表面Maに向かってE字型になるように立設された磁性体からなるE字型のコア41と、脚部41aに巻かれたコイル42」から構成されており、「交流電源10によりコイル42に所定の周波数の交流電力を供給すると、コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透」するものである。
よって、引用発明における「検査検出器23」と、本願発明1における「交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に渦電流を励起するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器」とは、「交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に交流磁気が浸透するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器」の点で共通する。
(エ)引用発明の「基準検体S」は、「表面処理状態が良好であると保証されている基準検体」であるから、「被検体M」とは、表面処理状態が異なるのみで、「同一構造」と認められる。よって、引用発明における「基準検体S」が、本願発明1における「被検体と同一構造の基準検体」に相当するといえる。
(オ)引用発明において、「抵抗R1、抵抗R2は、基準検出器22及び検査検出器23とともにブリッジ回路を構成して」いるから、上記(ア)-(エ)を踏まえると、引用発明における「交流ブリッジ回路20」と、本願発明1における「第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に渦電流を励起するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器と、被検体と同一構造の基準検体を配置し、前記検査検出器からの出力と比較する基準となる基準状態を検出する基準検出器とを有し、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗、前記基準検出器及び前記検査検出器がブリッジ回路を構成」とは、「第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に磁気が浸透するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器と、被検体と同一構造の基準検体を配置し、前記検査検出器からの出力と比較する基準となる基準状態を検出する基準検出器とを有し、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗、前記基準検出器及び前記検査検出器がブリッジ回路を構成」する点で共通するものといえる。
カ 引用発明の「(表面特性検査装置1を準備する)準備工程S1」は、次の相違点は除いて、本願発明1の「表面特性検査装置を用意する検査装置準備工程」に相当する。
キ 引用発明の「しきい値設定工程S4」は、「後述する良否判断工程S7」(すなわち、「被検体Mの表面処理状態の良否の判断が(判断装置30の)判断手段36において…行われる良否判断工程S7」)において被検体Mの良否を判断するために用いられる、正常しきい値と不良しきい値を設定する工程であるから、本願発明1の「前記評価装置における被検体の表面特性の評価に使用するしきい値を決定するしきい値設定工程」に相当する。
ク 引用発明において、「ショットピーニング処理」の施された「被検体Mを検査検出器23に当接させる検体配置工程S5」、及び、「検査検出器23」の「磁気センサ」が、「周波数設定工程S3において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する交流供給工程S6」により「交流電源10によりコイル42に所定の周波数の交流電力を供給すると、コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透」することと、本願発明1の「表面から深部に残留応力を付与する第1ショットピーニング処理と、前記第1ショットピーニング処理後に前記第1ショットピーニング処理よりも低強度のショットピーニングを行い、前記第1ショットピーニング処理よりも浅い表面近傍に更に残留応力を付与する第2ショットピーニング処理と、が施された被検体に、前記検査検出器によって渦電流を励起する渦電流励起工程」とは、「ショットピーニング処理が施された被検体に、前記検査検出器によって交流磁気を浸透させる工程」の点で共通する。
ケ 引用発明の「良否判断工程S7」は、「ショットピーニング処理」の施された「被検体Mの表面処理状態の良否の判断が判断手段36において、LPF33からの出力値(測定値)と、しきい値設定工程S4において設定された正常しきい値及び不良しきい値を比較することにより行われる」工程であり、ここで「判断手段36」は、「判断装置30」が備えるものであり、また、「LPF33からの出力」は、「交流ブリッジ回路20から出力される電圧信号を直流変換するローパスフィルタ(LPF)33からの出力」であるから、本願発明1の「前記第2ショットピーニング処理後に実施された前記渦電流励起工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記第1ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する良否判断工程」と引用発明の「良否判断工程S7」とは、「ショットピーニング処理後に実施された前記交流磁気を浸透させる工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する良否判断工程」の点で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ショットピーニング処理された被検体の表面特性を検査する表面特性検査方法であって、
交流ブリッジ回路と、
前記交流ブリッジ回路に交流電力を供給する交流電源と、
前記交流ブリッジ回路からの出力信号に基づいて、被検体の表面特性を評価する評価装置と、を備え、
前記交流ブリッジ回路は、第1の抵抗と第2の抵抗とに分配比が可変に構成された可変抵抗と、交流磁気を励起可能なコイルを備え被検体に交流磁気が浸透するように当該コイルを配置可能に形成された検査検出器と、被検体と同一構造の基準検体を配置し、前記検査検出器からの出力と比較する基準となる基準状態を検出する基準検出器とを有し、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗、前記基準検出器及び前記検査検出器がブリッジ回路を構成する表面特性検査装置を用意する検査装置準備工程と、
前記評価装置における被検体の表面特性の評価に使用するしきい値を決定するしきい値設定工程と、
ショットピーニング処理が施された被検体に、前記検査検出器によって交流磁界を浸透させる工程と、
ショットピーニング処理後に実施された前記交流磁気を浸透させる工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する良否判断工程と、
を有する表面特性検査方法。」

(相違点1)
本願発明1においては、「被検体」が「表面から深部に残留応力を付与する第1ショットピーニング処理と、前記第1ショットピーニング処理後に前記第1ショットピーニング処理よりも低強度のショットピーニングを行い、前記第1ショットピーニング処理よりも浅い表面近傍に更に残留応力を付与する第2ショットピーニング処理と、が施された被検体」であるのに対し、引用発明の「被検体M」は、このような「第1ショットピーニング処理と第2ショットピーニング処理」がされたものとはされていない点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記検査検出器によって渦電流を励起する渦電流励起工程」を有し、「前記渦電流励起工程においては、前記交流ブリッジ回路に供給される交流電力の周波数が、前記第1ショットピーニング処理により残留応力が付与された深さまで前記渦電流が浸透するように設定される」ものであるのに対し、引用発明では、「検査検出器23」の「磁気センサ」が、「周波数設定工程S3において設定された周波数の交流電力を交流電源10から交流ブリッジ回路20に供給する交流供給工程S6」により「交流電源10によりコイル42に所定の周波数の交流電力を供給すると、コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透」ことは示されているものの、該「交流供給工程S6」が、渦電流を励起する工程であるか、また、該「交流供給工程S6」おける交流電力の周波数が、前記第1ショットピーニング処理により残留応力が付与された深さまで前記渦電流が浸透するように設定されるものであるか、不明な点。

(相違点3)
本願発明1の「良否判断工程」は、「前記第2ショットピーニング処理後に実施された前記渦電流励起工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記第1ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する」ものであるのに対し、引用発明の「良否判断工程S7」は、このようなものでない点。

(相違点4)
本願発明1は、「被検体に渦電流を励起するように」コイルを配置可能としているのに対し、引用発明では、コイル42は、「コア41に交流磁界Hが発生し、周波数に応じて被検体Mの残留応力層Mbの所定の深さまで磁気が浸透」するように、「磁性体からなるE字型のコア41」の「脚部41aに巻かれ」ているものの、該構成が、被検体Mに渦電流を励起するようにコイル42を配置可能としたものであるか、明らかでない点。

(2)相違点についての判断
事例に鑑み、上記相違点1-3について総合して検討する。
引用文献1には、
ア 「表面から深部に残留応力を付与する第1ショットピーニング処理と、前記第1ショットピーニング処理後に前記第1ショットピーニング処理よりも低強度のショットピーニングを行い、前記第1ショットピーニング処理よりも浅い表面近傍に更に残留応力を付与する第2ショットピーニング処理と、が施された被検体」を、表面特性検査の「被検体M」とすることも、
イ 該「被検体M」に対し、交流電力を交流ブリッジ回路20に供給し、「検査検出器23」によって前記「被検体」に「磁気」を「浸透」させるにあたり、交流電力の「周波数が、前記第1ショットピーニング処理により残留応力が付与された深さまで前記渦電流が浸透するように設定され」ることも、
ウ 「前記第2ショットピーニング処理後に実施された前記渦電流励起工程において前記交流ブリッジ回路から出力された出力信号と前記しきい値とを比較して、前記第1ショットピーニング処理が適正に行われたか否かを前記評価装置により判断する」ことも、
記載や示唆はなされていない。

また、引用文献2-4には、「二段階」の「ピーニング処理」(引用文献2)、「渦電流の深さ方向分布」を「利用して、ピーニング加工層の深さを検査する」こと(引用文献3)、及び、「励磁コイルに流す励磁電流の周波数を変更」すると「磁束の浸透深さが変化する」ことを利用して、「ショットピーニング」による「加工面の深さ方向における圧縮残留応力分布を測定する」こと(引用文献4)が記載されているものの、これらは、上記相違点1?3に関する断片的な記載にすぎず、引用文献2-4は、上記相違点1?3に係る本願発明1の構成を有機的に組み合わせることについて、何ら記載ないし、示唆するものではない。

したがって、本願発明1は、上記相違点4について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-6、8について
本願発明2-6、8は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明9-11について
本願発明9は、本願発明1に対応する物の発明であり、本願発明10、11は、本願発明9の発明特定事項を全て含んでおり、本願発明9-11は、本願発明1の検討において、相違点としてあげた事項に対応する発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明1-6、8-11は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
なお、本願発明7は、原査定の対象となっていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-11は、当業者が引用発明及び引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものではない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-28 
出願番号 特願2016-509889(P2016-509889)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 蔵田 真彦  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関根 洋之
清水 稔
発明の名称 表面特性検査方法及び表面特性検査装置  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 松下 満  
代理人 渡邊 誠  

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