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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1329683
審判番号 不服2016-16430  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-07-11 
事件の表示 特願2014-163505「変速機コントローラ及びその電流制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年3月22日出願公開、特開2016-38075、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月11日の出願であって、平成28年1月7日付けで拒絶理由が通知され、同年3月7日に手続補正がされ、同年8月3日付け(発送日:同年8月9日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 請求項1、5について
引用文献1(特に段落【0011】ないし【0101】、図1ないし図9を参照。)には、変速機コントローラの温度が変速機コントローラの動作温度範囲を超えている状況において、複数の電子デバイスのうち供給電流を減少させても変速機の変速比に影響を及ぼさない特定の電子デバイスに供給する電流を減少させることが記載されている。
本願の請求項1、5に係る発明と引用文献1(特に段落【0011】ないし【0101】、図1ないし図9を参照。)に記載された発明とを比較すると、両者は以下の点で相違し、残余の点で一致する。
本願の請求項1に係る発明では、「・・・、前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えているか判断し、前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えていると判断した場合は、・・・」という制御条件が記載されている点に対し、引用文献1に記載された発明では、そのような制御条件が記載されていない点(以下、「相違点」という。)。
上記相違点について検討すると、電子機器を用いた装置において、通常のコントローラに使用される電子回路等の動作温度を測定と判断とを行い、該動作温度が該電子回路の動作温度範囲を超えていれば、該電子回路の電流を減少させる制御は、本願の出願前における周知の技術(例えば、引用文献2の段落【0017】と図1、引用文献3の段落【0013】と図1ないし図6、引用文献4の段落【0008】と段落【0015】と図5と図8、引用文献5の段落【0034】ないし【0041】と図5、引用文献6の段落【0022】ないし【0024】と段落【0043】と図4ないし図8を参照。)である。
そうすると、引用文献1に記載の発明に、周知事項である引用文献2ないし6に記載されたコントローラ等の電子回路の温度判定を踏まえた電流制御を組み合わせて、本願の請求項1、5に係る発明にすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 請求項2について
引用文献7(特に段落【0019】、図2を参照。)には、変速機の元圧であるライン圧を調整するソレノイドバルブ33aは、変速機コントローラから供給される電流が小さいほどライン圧が高くなる特性を有することが記載されている。
そして、引用文献1に記載の発明において、変速機である点で共通する引用文献2ないし7に記載された電流と油圧との関係を組み合わせて、本願の請求項2に係る発明にすることは、当業者が容易になし得たことである。

3 請求項3について
引用文献8(特に段落【0041】、段落【0042】、図3を参照。)には、変速機のロックアップクラッチに供給するロックアップ圧を調整するソレノイドバルブは、供給電流が小さいほどロックアップクラッチに供給される油圧が低くなる特性を有することが記載されている。

4 請求項4について
引用文献9(特に第5頁右上欄第2行ないし左下欄第14行、図2、図5を参照。)には、車両がコースト走行状態である状況において、電子デバイスに供給する電流を減少させることが記載されている。

引用文献等一覧
1.特開2012-167722号公報
2.特開2006-278238号公報(周知文献)
3.特開2009-232550号公報(周知文献)
4.特開2007-118715号公報(周知文献)
5.特開2011-191152号公報(周知文献)
6.特開2009-85137号公報(周知文献)
7.特開2009-14138号公報
8.特開2008-169938号公報
9.特開平4-171509号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成28年3月7日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。

「【請求項1】
変速機に取り付けられた複数の電子デバイスに電流を供給する変速機コントローラであって、
前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えているか判断し、前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えていると判断した場合は、前記複数の電子デバイスのうち供給電流を減少させても前記変速機の変速比に影響を及ぼさない特定の電子デバイスに供給する電流を減少させる、
ように構成されることを特徴とする変速機コントローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機コントローラであって、
前記特定の電子デバイスは、前記変速機の元圧であるライン圧を調整するソレノイドバルブであり、前記変速機コントローラから供給される電流が小さいほど前記ライン圧が高くなる特性を有する、
ことを特徴とする変速機コントローラ。
【請求項3】
請求項1に記載の変速機コントローラであって、
前記特定の電子デバイスは、前記変速機のロックアップクラッチに供給するロックアップ圧を調整するソレノイドバルブであり、供給電流が小さいほど前記ロックアップクラッチに供給される油圧が低くなる特性を有する、
ことを特徴とする変速機コントローラ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の変速機コントローラであって、
前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えており、かつ、車両がコースト走行状態である状況において、前記特定の電子デバイスに供給する電流を減少させる、
ように構成されることを特徴とする変速機コントローラ。
【請求項5】
変速機に取り付けられた複数の電子デバイスに電流を供給する変速機コントローラにおける電流制御方法であって、
前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えているか判断し、
前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えていると判断した場合は、前記複数の電子デバイスのうち供給電流を減少させても前記変速機の変速比に影響を及ぼさない特定の電子デバイスに供給する電流を減少させる、
ことを特徴とする変速機コントローラにおける電流制御方法。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用文献1(特開2012-167722号公報)には、「ベルト式無段変速機の制御装置」に関し、図面(特に図1、図4ないし図8参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

1 「【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、第1供給圧と第2供給圧を制御する2つの電磁弁による電力消費を低減することで、燃費や電費を向上させることができるベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。」

2 「【0013】
ベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。」

3 「【0022】
ベルト式無段変速機を搭載したエンジン車の制御系は、図1に示すように、両調圧方式による油圧制御ユニットである変速油圧コントロールユニット7と、電子制御ユニットであるCVTコントロールユニット8(制御手段)と、を備えている。前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri(第1供給圧)と、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec(第2供給圧)と、を作り出す。前記CVTコントロールユニット8は、変速比制御やライン圧制御や前後進切替制御やロックアップ制御、等を行う。
【0023】
前記変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、第1減圧弁73と、第1ソレノイド74と、第2減圧弁75と、第2ソレノイド76と、を備えている。
【0024】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧する。このオイルポンプ70とレギュレータ弁71とライン圧ソレノイド72は、ライン圧調圧手段に相当する。
【0025】
前記第1減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてプライマリ圧室45に導くプライマリ圧Ppriを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第1減圧弁73は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第1ソレノイド74を備える。
【0026】
前記第2減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧としてセカンダリ圧室46に導くセカンダリ圧Psecを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第2減圧弁75は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第2ソレノイド76を備える。
【0027】
前記CVTコントロールユニット8は、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ情報やスイッチ情報を入力する。なお、エンジンコントロールユニット90からエンジン回転センサ91からのエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へエンジン回転数制御指令やフューエルカット指令やフューエルカットリカバー指令等を出力する。このCVTコントロールユニット8で行われる、変速比制御・ライン圧制御・前後進切替制御・ロックアップ制御の概略を説明する。
【0028】
前記変速比制御は、車速やスロットル開度等に応じて決められる目標変速比を達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Priと、セカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを設定する。そして、設定したプライマリ圧Priとセカンダリ圧Psecを得る指示電流を第1ソレノイド74と第2ソレノイド76に出力する制御である。
【0029】
前記ライン圧制御は、ベルト式無段変速機の各油圧要素(ロックアップクラッチ20、前進クラッチ31、後退ブレーキ32、プライマリプーリ42、セカンダリプーリ43)での必要油圧のうち最大油圧を目標ライン圧として設定する。そして、設定した目標ライン圧を得る指示電流をライン圧ソレノイド72に出力する制御である。
【0030】
前記前後進切替制御は、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32を締結/解放する制御である。また、前記ロックアップ制御は、走行状況がロックアップ領域であるか否かの判断に応じてロックアップクラッチ20を締結/解放する制御である。
【0031】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたベルト式無段変速機構4のプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを作り出す変速油圧制御系を示す。図5は、実施例1の変速油圧制御系に備える電磁弁(第1ソレノイド74,第2ソレノイド76)への指示電流Iに対するプーリへの供給圧P(Ppri,Psec)の関係を示す。以下、図4および図5に基づいて、変速油圧制御構成を説明する。
【0032】
変速油圧制御系には、図4に示すように、第1減圧弁73(第1調圧弁)と、第1ソレノイド74(第1電磁弁)と、第2減圧弁75(第2調圧弁)、第2ソレノイド76(第2電磁弁)と、を備えている。
【0033】
前記第1減圧弁73は、プライマリプーリ42のプライマリ圧室45とライン圧油路77とを連通するよう第1スプール73aに付勢力を作用させる第1スプリング73bを有する。第1スプール73aには、プライマリ圧Ppriによるフィードバック油圧力が、第1スプリング73bによる付勢力と同じ方向に作用する。
【0034】
前記第2減圧弁75は、セカンダリプーリ43のセカンダリ圧室46とライン圧油路77とを連通するよう第2スプール75aに付勢力を作用させる第2スプリング75bを有する。第2スプール75aには、セカンダリ圧Psecによるフィードバック油圧力が、第2スプリング75bによる付勢力と同じ方向に作用する。
【0035】
前記第1ソレノイド74は、第1スプリング73bの付勢力に対抗する第1スプール73aへの作用力を、指示電流Iが増加するほど増加させる。つまり、第1スプール73aには、図4の左方向に加わるスプリング付勢力とフィードバック油圧力に対し、図4の右方向に第1ソレノイド74による作用力を加える。よって、図5に示すように、指示電流Iが所定値(例えば、1A)以上のときプライマリ圧Ppriはゼロで、指示電流Iが所定値より低くなるのに比例してプライマリ圧Ppriが高くなるという関係によりプライマリ圧Ppriを調圧する。
【0036】
前記第2ソレノイド76は、第2スプリング75bの付勢力に対抗する第2スプール75aへの作用力を、指示電流Iが増加するほど増加させる。つまり、第2スプール75aには、図4の右方向に加わるスプリング付勢力とフィードバック油圧力に対し、図4の左方向に第2ソレノイド76による作用力を加える。よって、図5に示すように、指示電流Iが所定値(例えば、1A)以上のときセカンダリ圧Psecはゼロで、指示電流Iが所定値より低くなるのに比例してセカンダリ圧Psecが高くなるという関係によりセカンダリ圧Psecを調圧する。ここで、第1ソレノイド74や第2ソレノイド76による作用力としては、ソレノイド力(電磁力)であっても良いし、あるいは、パイロット圧を元圧としてデューティ制御により調圧された作動信号圧とスプール受圧面積を掛け合わせた油圧力であっても良い。
【0037】
図6は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される変速油圧制御における第1ソレノイド74と第2ソレノイド76への指示電流低下処理の構成および流れを示す(指示電流低下手段)。以下、図6の各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS1では、エンジン回転数やアクセル開度等の情報に基づきベルト式無段変速機への入力トルクTinを演算し、ステップS2へ進む。
【0039】
ステップS2では、ステップS1での入力トルクTinの演算に続き、車速やスロットル開度等に応じて決められる目標変速比を達成するようにセカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを演算し、ステップS3へ進む(油圧設定手段)。
【0040】
ステップS3では、ステップS2でのセカンダリ圧Psecの演算に続き、車速やスロットル開度等に応じて決められる目標変速比を達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Priを演算し、ステップS4へ進む(油圧設定手段)。
【0041】
ステップS4では、ステップS3でのプライマリ圧Priの演算に続き、ステップS1で演算された入力トルクTinに基づき、前進クラッチ31または後退ブレーキ32のクラッチ圧Pcを演算し、ステップS5へ進む。
【0042】
ステップS5では、ステップS4でのクラッチ圧Pcの演算に続き、ステップS1で演算された入力トルクTinに基づき、ロックアップクラッチ20のロックアップ圧PLUを演算し、ステップS6へ進む。
【0043】
ステップS6では、ステップS5でのロックアップ圧PLUの演算に続き、ベルト式無段変速機の各油圧要素での必要油圧(以下、要素圧という。)であるセカンダリ圧Psec、プライマリ圧Pri、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLUのうち、最大油圧を選択することでライン圧PLを演算し、ステップS7へ進む。
【0044】
ステップS7では、ステップS6でのライン圧PLの演算に続き、セカンダリ圧Psecが他の要素圧(プライマリ圧Pri、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)を超えているか否かを判断する。YES(セカンダリ圧>他の要素圧)の場合はステップS8へ進み、NO(セカンダリ圧≦他の要素圧)の場合はステップS9へ進む。
【0045】
ステップS8では、ステップS7でのセカンダリ圧>他の要素圧であるとの判断、つまり、セカンダリ圧Psec=ライン圧PLであるとの判断に続き、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットを行い、リターンへ進む。
【0046】
ステップS9では、ステップS7でのセカンダリ圧≦他の要素圧であるとの判断に続き、プライマリ圧Priが他の要素圧(セカンダリ圧Psec、クラッチ圧Pc、ロックアップ圧PLU)を超えているか否かを判断する。YES(プライマリ圧>他の要素圧)の場合はステップS10へ進み、NO(プライマリ圧≦他の要素圧)の場合はステップS11へ進む。
【0047】
ステップS10では、ステップS9でのプライマリ圧>他の要素圧であるとの判断、つまり、プライマリ圧Pri=ライン圧PLであるとの判断に続き、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットを行い、リターンへ進む。」

4 「【0059】
[2つの供給圧が異なるときの指示電流低下作用]
上記燃費向上を目指すためには、2つの供給圧が異なるとき、2つの電磁弁のうち指示電流を低下させることが可能な電磁弁を判別し、判別された電磁弁への指示電流を低下させることが必要である。以下、これを反映する2つの供給圧が異なるときの指示電流低下作用を説明する。
【0060】
セカンダリ圧Psecが他の要素圧より高い場合には、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ステップS8では、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットが行われる。
【0061】
プライマリ圧Ppriが他の要素圧より高い場合には、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS9→ステップS10→リターンへと進む流れが繰り返される。そして、ステップS10では、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットが行われる。
【0062】
すなわち、ノーマリーハイの第1ソレノイド74は、指示電流Iがゼロのときにスプリング付勢力によりプライマリ圧室45とライン圧油路77とを連通し、ノーマリーハイの第2ソレノイド76は、指示電流Iがゼロのときにスプリング付勢力によりセカンダリ圧室46とライン圧油路77とを連通する。このライン圧油路77のライン圧PLは、プライマリ圧Ppriまたはセカンダリ圧Psecが他の要素圧より高い場合には、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecのうち高い方の油圧に調圧される。例えば、図7に示すプーリ比に対する油圧特性において、プーリ比ia(1より小さいハイ変速比)よりロー変速比側領域では、セカンダリ圧Psecが他の要素圧より高く、セカンダリ圧Psecに沿ったライン圧PLに調圧される。一方、プーリ比iaよりハイ変速比側領域では、プライマリ圧Ppriが他の要素圧より高く、プライマリ圧Ppriに沿ったライン圧PLに調圧される。
【0063】
したがって、プライマリ圧Ppriが他の要素圧より高い場合には、第1ソレノイド74への指示電流Iを、ライン圧PLに対応する所定値からゼロまでの何れの値にしても、第1ソレノイド74により作り出されるプライマリ圧Ppriは、レギュレータ弁71およびライン圧ソレノイド72により調圧されたライン圧PLを保つ。また、セカンダリ圧Psecが他の要素圧より高い場合には、第2ソレノイド76への指示電流Iを、ライン圧PLに対応する所定値からゼロまでの何れの値にしても、第2ソレノイド76により作り出されるセカンダリ圧Psecは、レギュレータ弁71およびライン圧ソレノイド72により調圧されたライン圧PLを保つ。例えば、図5の場合においては、指示電流Iを、ライン圧PLに対応する0.5Aから0AまでのE領域の何れの値にしてもライン圧PLが確保される。
【0064】
つまり、供給圧が高い方の電磁弁(第1ソレノイド74または第2ソレノイド76)への指示電流については、ライン圧PLに対応する所定値からゼロまで低下させることが可能である。この点に着目し、供給圧が高い方の第1ソレノイド74または第2ソレノイド76への指示電流をカットし、ライン圧対応の所定値から低い側に最も乖離したゼロ出力を維持するようにした。
【0065】
よって、プーリ比iaよりロー変速比側領域では、図7に示すように、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットにより、セカンダリ圧Psecがライン圧PLに調圧される。このとき、プライマリ圧Ppriは、セカンダリ圧Psecより低く、第1ソレノイド74への指示電流により、プーリ比がハイ変速比側へ向かうにしたがって徐々に高くなる変速圧に調圧される。
【0066】
一方、プーリ比iaよりハイ変速比側領域では、図7に示すように、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットにより、プライマリ圧Ppriがライン圧PLに調圧される。このとき、セカンダリ圧Psecは、プライマリ圧Ppriより低く、第2ソレノイド76への指示電流により、プーリ比がハイ変速比側へ向かうにしたがって徐々に低くなる変速圧に調圧される。
【0067】
上記のように、実施例1では、プライマリ圧Ppriがセカンダリ圧Psecより高い場合、第1ソレノイド74へプライマリ圧Ppriに対応する指示電流より低い指示電流を出力し、セカンダリ圧Psecがプライマリ圧Ppriより高い場合、第2ソレノイド76へセカンダリ圧Psecに対応する指示電流より低い指示電流を出力する構成を採用した。
この構成により、供給圧が高い方の第1ソレノイド74または第2ソレノイド76への指示電流低下分と出力時間を積算した電力消費量が低減する。つまり、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを制御する2つの第1ソレノイド74と第2ソレノイド76によるトータル電力消費量が低減する。
したがって、両ソレノイド74,76の電力消費によるバッテリの充電容量低下が抑えられ、バッテリ充電目的のエンジン過稼動が抑制されるのに伴う燃料消費量の削減により、燃費の向上が図られる。
【0068】
実施例1では、プライマリ圧Ppriがセカンダリ圧Psecより高い場合、第1ソレノイド74への指示電流をカット(指示電流=ゼロ)し、セカンダリ圧Psecがプライマリ圧Ppriより高い場合、第2ソレノイド76への指示電流をカット(指示電流=ゼロ)する構成を採用した。
この構成により、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを制御する2つの第1ソレノイド74と第2ソレノイド76によるトータル電力消費量を最大限低減させることができ、より一層の燃費向上が図られる。」

5 「【0081】
[代表的な走行パターンでの指示電流カット作用]
実施例1の制御装置が適用されたエンジン車で停車状態から走行状態を経過して停車状態に至るという代表的な走行パターンにおける指示電流カット作用を、図8に基づいて説明する。
【0082】
まず、時刻t1に至るまでのブレーキ操作による停車状態では、最ロー側変速比に固定されていてセカンダリ圧Psecがプライマリ圧Ppriより高い。このため、プライマリ圧電流カットはOFFであり、第1ソレノイド74により変速圧を調圧する。セカンダリ圧電流カットはONであり、第2ソレノイド76を経由してセカンダリ圧室46にライン圧PLを導く。
【0083】
そして、時刻t1にてブレーキ解放を開始し、時刻t2にてブレーキ完全解放にすると共にアクセル踏み込みを開始するが、時刻t2までは最ロー側変速比に固定されていてセカンダリ圧Psecがプライマリ圧Ppriより高い。このため、時刻t1に至るまでと同様に、プライマリ圧電流カットはOFFであり、セカンダリ圧電流カットはONである。
【0084】
時刻t2のアクセル踏み込みを開始により車両が走行を開始し、時刻t3までアクセル踏み込み操作を行った後、アクセル踏み込み量を一定に保ち、時刻t4に達するまでは、プーリ比が最ロー側変速比からハイ変速比側に移行しつつもセカンダリ圧Psecがプライマリ圧Ppriより高い。このため、時刻t2に至るまでと同様に、プライマリ圧電流カットはOFFであり、セカンダリ圧電流カットはONである。
【0085】
時刻t4にてセカンダリ圧Psec=プライマリ圧Ppriになると、その直前の油圧関係が、セカンダリ圧Psec>プライマリ圧Ppriであるため、その後、セカンダリ圧Psec<プライマリ圧Ppriの油圧関係になると予測される。よって、時刻t4からプライマリ圧電流カットをOFFからONに切り替え、第1ソレノイド74を経由してプライマリ圧室45にライン圧PLを導く。同時に、セカンダリ圧電流カットをONからOFFに切り替え、第2ソレノイド76による変速圧への調圧を開始する。そして、この油圧制御状態を、クラッチ圧Pc≧プライマリ圧Ppriになる時刻t5まで継続する。
【0086】
時刻t5にてクラッチ圧Pc≧プライマリ圧Ppriになってから時刻t6にてアクセル戻し操作を開始し、クラッチ圧Pc<プライマリ圧Ppriになる時刻t7までの間は、クラッチ圧Pcを目標ライン圧としてライン圧PLが調圧される。このため、時刻t5から時刻t7までの間は、プライマリ圧電流カットをONからOFFに切り替え、第1ソレノイド74への指令電流によりライン圧PLを調圧する。このとき、セカンダリ圧電流カットはOFFを維持し、第2ソレノイド76により変速圧を調圧するという通常処理が行われる。
【0087】
時刻t7にてクラッチ圧Pc<プライマリ圧Ppriになると、プライマリ圧電流カットをOFFからONに再び切り替え、第1ソレノイド74を経由してプライマリ圧室45にライン圧PLを導く。そして、アクセル足離し時刻t8とブレーキ操作開始時刻t9とブレーキ操作開始時刻t10を経由し、時刻t11にてセカンダリ圧Psec=プライマリ圧Ppriになるまでこの状態を継続する。
【0088】
時刻t11にてセカンダリ圧Psec=プライマリ圧Ppriになると、その直前の油圧関係が、セカンダリ圧Psec<プライマリ圧Ppriであるため、その後、セカンダリ圧Psec>プライマリ圧Ppriの油圧関係になると予測される。よって、時刻t11以降は、プライマリ圧電流カットをONからOFFに切り替え、第1ソレノイド74による変速圧への調圧を開始する。同時に、セカンダリ圧電流カットをOFFからONに切り替え、第2ソレノイド76を経由してセカンダリ圧室46にライン圧PLを導く。そして、この油圧制御状態は、停車時刻t12を含み、例えば、次にセカンダリ圧Psec=プライマリ圧Ppriとなるまで継続する。
【0089】
このように、実施例1では、代表的な走行パターンにおいて、時刻t5?時刻t7を除く走行区間と停車区間にて、燃費向上に有効なセカンダリ圧電流カットかプライマリ圧電流カットが実施されることになる。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1に則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ベルト式無段変速機構4に取り付けられた第1ソレノイド74及び第2ソレノイド76に電流を供給するCVTコントロールユニット8であって、
プーリ比iaよりロー変速比側領域では、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットにより、セカンダリ圧Psecがライン圧PLに調圧され、プーリ比iaよりハイ変速比側領域では、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットにより、プライマリ圧Ppriがライン圧PLに調圧される、
ように構成されるCVTコントロールユニット8。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、後者の「ベルト式無段変速機構4」は前者の「変速機」に相当し、以下同様に、「第1ソレノイド74」又は「第2ソレノイド76」は「電子デバイス」に、「CVTコントロールユニット8」は「変速機コントローラ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「プーリ比iaよりロー変速比側領域では、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットにより、セカンダリ圧Psecがライン圧PLに調圧され、プーリ比iaよりハイ変速比側領域では、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットにより、プライマリ圧Ppriがライン圧PLに調圧される」ことは、「プーリ比iaよりロー変速比側領域では、図7に示すように、第2ソレノイド76への指示電流をゼロとするセカンダリ圧電流カットにより、セカンダリ圧Psecがライン圧PLに調圧される。このとき、プライマリ圧Ppriは、セカンダリ圧Psecより低く、第1ソレノイド74への指示電流により、プーリ比がハイ変速比側へ向かうにしたがって徐々に高くなる変速圧に調圧される。」(段落【0065】)との記載及び「一方、プーリ比iaよりハイ変速比側領域では、図7に示すように、第1ソレノイド74への指示電流をゼロとするプライマリ圧電流カットにより、プライマリ圧Ppriがライン圧PLに調圧される。このとき、セカンダリ圧Psecは、プライマリ圧Ppriより低く、第2ソレノイド76への指示電流により、プーリ比がハイ変速比側へ向かうにしたがって徐々に低くなる変速圧に調圧される。」(段落【0066】)との記載からみて、前者の「複数の電子デバイスのうち供給電流を減少させても変速機の変速比に影響を及ぼさない特定の電子デバイスに供給する電流を減少させる」ことに相当する。

したがって、両者は、
「変速機に取り付けられた複数の電子デバイスに電流を供給する変速機コントローラであって、
前記複数の電子デバイスのうち供給電流を減少させても前記変速機の変速比に影響を及ぼさない特定の電子デバイスに供給する電流を減少させる、
ように構成される変速機コントローラ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明1は、「変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えているか判断し、前記変速機コントローラの温度が前記変速機コントローラの動作温度範囲を超えていると判断した場合」は、供給電流を減少させるのに対して、引用発明は、ロー変速比側領域及びハイ変速比側領域で指示電流をゼロにする点。

(2)相違点についての判断
そこで、相違点について検討する。
引用文献1には、変速機コントローラの温度に関する記載がないから、引用発明において、引用文献1に記載された事項から、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

また、仮に、本願の出願前に、電子機器を用いた装置において、通常のコントローラに使用される電子回路等の動作温度の測定と判断を行い、当該動作温度が当該電子回路の動作温度範囲を超えていれば、当該電子回路の電流を減少させる制御が周知技術であるとしても、引用発明は、一方の第2ソレノイド76又は第1ソレノイド74への指示電流がゼロであるときに、他方の第1ソレノイド74又は第2ソレノイド76へは、所定の変速比となる指示電流が供給されているから、引用文献1に上記周知技術を適用した場合、ベルト式無段変速機構4の変速比への影響は避けられないものとなる。
したがって、引用発明に上記周知技術を直ちに適用することはできるとはいえない。

また、原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献2(特開2006-278238号公報)、引用文献3(特開2009-232550号公報、引用文献4(特開2007-118715号公報)、引用文献5(特開2011-191152号公報)、引用文献6(特開2009-85137号公報)、引用文献7(特開2009-14138号公報)、引用文献8(特開2008-169938号公報)、及び引用文献9(特開平4-171509号公報)には、相違点に係る本願発明1の発明特定事項に関する記載はない。

そうしてみると、引用発明に引用文献1ないし引用文献9に記載された事項を適用して、相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献1ないし引用文献9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献1ないし引用文献9に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1ないし引用文献9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、当業者が引用発明及び引用文献1ないし引用文献9に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-29 
出願番号 特願2014-163505(P2014-163505)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上谷 公治  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 小関 峰夫
滝谷 亮一
発明の名称 変速機コントローラ及びその電流制御方法  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 後藤 政喜  

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