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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1329710
審判番号 不服2015-19758  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2017-07-11 
事件の表示 特願2011-545665「平面アンテナ用のインピーダンス整合回路」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日国際公開、WO2010/081635、平成24年 7月 5日国内公表、特表2012-515482、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2009年12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年1月15日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月30日付けで拒絶理由が通知され、平成25年12月3日付けで手続補正がされ、平成26年6月27日付けで拒絶理由が通知され、平成26年12月25日付けで手続補正がされ、平成27年6月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成27年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされ、平成28年10月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年2月16日付けで手続補正がされ、平成29年4月17日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成27年6月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項1-17
・引用文献等1-6

<引用文献等一覧>
1.特開平 8-154007号公報
2.米国特許第4015223号明細書
3.米国特許第6469590号明細書
4.特開平10-209897号公報
5.米国特許出願公開第2004/0087286号明細書
6.欧州特許出願公開第1988641号明細書


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について
請求項1に記載の「第2容量素子(WCE)」は、「第2容量素子(C2)」の誤記と認められる。

よって、従属項も含め、請求項1ないし16に係る発明は明確でない。

●理由2(進歩性)について
(1)請求項1について
引用文献1ないし4

<引用文献等一覧>

1.特開2005-295435号公報
2.米国特許第6469590号明細書
3.特開2008-205793号公報
4.特開2006-196871号公報


第4 本願発明

本願請求項1-14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明14」という。)は、平成29年4月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-14のうち、本願発明1と本願発明14は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
マルチバンド整合回路(MBAS)であって、第1及び第2のインピーダンス整合回路(IAS1,IAS2)と、デュアルバンド方向性結合器(DBRK)とを備え、前記第1及び第2のインピーダンス整合回路(IAS1,IAS2)が異なる周波数帯域で使用され、前記デュアルバンド方向性結合器(DBRK)が、前記第1及び第2のインピーダンス整合回路(IAS1,IAS2)の両方の信号経路(SP)に接続され、
前記第1及び第2のインピーダンス整合回路(IAS1,IAS2)の各々は、平面アンテナを整合するために用いられ、
信号経路入力端(SPE)及び信号経路出力端(SPA)を備える前記信号経路(SP)と、
可変容量を有し、且つ前記信号経路入力端(SPE)と前記信号経路出力端(SPA)との間に接続された第1容量素子(C1)、及び可変容量を有し、且つ前記信号経路(SP)と大地(M)との間に接続された第2容量素子(C2)と、
前記信号経路入力端(SPE)と大地(M)との間に相互接続された第1誘導素子(L1)、及び前記信号経路出力端(SPA)と大地(M)との間に相互接続された第2誘導素子(L2)と、
可変容量を有する前記第1容量素子(C1)及び前記第2容量素子(C2)のいずれか一方と並列接続された固定容量を有する第3容量素子(WCE)と、ここにおいて、前記第1容量素子(C1)及び前記第3容量素子(WCE)の並列の組み合わせ又は前記第2容量素子(C2)及び前記第3容量素子(WCE)の並列の組み合わせが、前記第1容量素子(C1)又は第2容量素子(C2)のみよりもより高いQ値を有する、
前記信号経路出力端(SPA)に接続され、且つインピーダンスが30?60Ωであるアンテナ給電線(AL)と、
を備える、マルチバンド整合回路(MBAS)。」

「【請求項14】
マルチバンド整合回路であって、
第1、第2及び第3のインピーダンス整合回路と、デュアルバンド方向性結合器(DBRK)とを備え、
前記第2及び第3のインピーダンス整合回路の信号経路(SP)が、同一の前記デュアルバンド方向性結合器に接続され、
前記第1、第2及び第3のインピーダンス整合回路の各々は、平面アンテナを整合するために用いられ、
信号経路入力端(SPE)及び信号経路出力端(SPA)を備える前記信号経路(SP)と、
可変容量を有し、且つ前記信号経路入力端(SPE)と前記信号経路出力端(SPA)との間に接続された第1容量素子(C1)、及び可変容量を有し、且つ前記信号経路(SP)と大地(M)との間に接続された第2容量素子(C2)と、
前記信号経路入力端(SPE)と大地(M)との間に相互接続された第1誘導素子(L1)、及び前記信号経路出力端(SPA)と大地(M)との間に相互接続された第2誘導素子(L2)と、
可変容量を有する前記第1容量素子(C1)及び前記第2容量素子(C2)のいずれか一方と並列接続された固定容量を有する第3容量素子(WCE)と、ここにおいて、前記第1容量素子(C1)及び前記第3容量素子(WCE)の並列の組み合わせ又は前記第2容量素子(C2)及び前記第3容量素子(WCE)の並列の組み合わせが、前記第1容量素子(C1)又は第2容量素子(C2)のみよりもより高いQ値を有する、
前記信号経路出力端(SPA)に接続され、且つインピーダンスが30?60Ωであるアンテナ給電線(AL)と、
を備える、マルチバンド整合回路(MBAS)。」


第5 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について

当審拒絶理由に引用された特開2005-295435号公報(以下「引用文献1」という。下線は当審が付与。)には、

「【0019】
以下、本発明の実施形態に係るチューナ入力回路について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るチューナ入力回路の概略構成を示すブロック図である。
図1において、受信装置には、電波を受信するアンテナ1、受信信号を増幅する高周波増幅器2、局部発振器4にて生成された局部発振信号を受信信号に混合することにより、受信信号を中間周波信号に変換する周波数変換器3、局部発振信号を生成する局部発振器4、中間周波信号に基づいて電界強度を検出する電界強度検出部5、インダクタL1、L2、結合コンデンサC1、C2、可変容量素子TC1およびスイッチSW1が設けられている。なお、アンテナ1にて受信される受信信号は、アナログテレビ放送または地上デジタル放送などを挙げることができ、周波数帯としては、VHF帯またはUHF帯のいずれでもよい。
【0020】
ここで、インダクタL2と可変容量素子TC1とは並列接続され、同調回路A1を構成することができる。そして、インダクタL2および可変容量素子TC1からなる同調回路A1は、高周波増幅器2と接地点との間に接続されている。また、アンテナ1と高周波増幅器2との間には、並列接続された結合コンデンサC1、C2が接続されている。ここで、結合コンデンサC2には、スイッチSW1が直列接続されている。なお、結合コンデンサC1は、高周波増幅器2との間の結合度を確保したり、補ったりするものである。また、結合コンデンサC2は、スイッチSW1のオン・オフに伴って、高周波増幅器2との間の結合度を増減させるものである。また、アンテナ1と接地点との間には、インダクタL1が接続されている。ここで、インダクタL1は、同調回路A1のインピーダンスをステップダウンさせることにより、入力インピーダンスを50Ωまたは75Ωに整合させるものである。なお、インダクタL1、L2は、相互インダクタンスによりM結合させるようにしてもよい。
【0021】
そして、アンテナ1にて受信された受信信号は、インダクタL1および結合コンデンサC1を介し同調回路A1に入力され、希望波が選択される。そして、同調回路A1にて選択された信号は、高周波増幅器2にて増幅が行われた後、周波数変換器3に送られる。また、局部発振器4では局部発振信号が生成され、局部発振信号が周波数変換器3に出力される。そして、高周波増幅器2から出力された信号が周波数変換器3に送られると、周波数変換器3にて局部発振信号と混合され、高周波増幅器2から出力された信号が中間周波信号に変換される。そして、周波数変換器3にて生成された中間周波信号は、電界強度検出部5に送られ、電界強度検出部5にて受信信号の電界強度の検出が行われる。そして、電界強度検出部5は、電界強度の入力レベルに基づいてスイッチSW1のオン/オフを行うことにより、アンテナ1と高周波増幅器2との間の結合度を制御する。
【0022】
これにより、妨害波の影響を考慮しつつ、アンテナ1と高周波増幅器2との間の結合度を調整することができる。このため、特定の帯域における耐妨害特性とNFとのトレードオフを行う必要がなくなり、全帯域に渡って感度および耐妨害特性の両立を図ることが可能となる。
ここで、電界強度検出部5にて検出された電界強度が弱い時は、スイッチSW1をオンするとともに、電界強度が強い時は、スイッチSW1をオフすることができる。
【0023】
これにより、電界強度が弱い時は、結合度を上昇させて挿入損失を減らすことが可能となり、NFを良くして感度を向上させることが可能となる。また、結合度を上昇させることで、選択度が悪化し耐妨害特性が劣化した場合においても、弱電界地域にて受信しているため、妨害波の電界も弱くなり、妨害波の影響による受信品質の劣化を抑制することができる。
【0024】
一方、電界強度が強い時は、結合度を下降させて選択度を向上させることが可能となり、耐妨害特性を向上させることが可能となる。また、結合度を下降させることで、挿入損失が増大し、NFが劣化して感度が低下した場合においても、強電界地域にて受信しているため、受信波の電界も強くなり、感度の低下による受信品質の劣化を抑制することができる。」

「【0026】
なお、上述した第1実施形態では、スイッチSW1のオン/オフによって結合コンデンサC2の結合を制御する方法について説明したが、結合コンデンサC2およびスイッチSW1の代わりに、可変容量コンデンサなどを用いてもよく、電界強度検出部5にて検出された電界強度に基づいて、可変容量コンデンサの容量を制御するようにしてもよい。
図3は、本発明の第2実施形態に係るチューナ入力回路の概略構成を示すブロック図である。」

【図1】

の記載がある。

引用文献1の「インダクタL1、L2、結合コンデンサC1、C2、可変容量素子TC1、スイッチSW1で構成されている回路」について、インダクタL1が、「同調回路A1のインピーダンスをステップダウンさせることにより、入力インピーダンスを50Ωまたは75Ωに整合させるもの」であり、インダクタL2と可変容量素子TC1は「同調回路A1」を構成し、結合コンデンサC1、C2は「高周波増幅器2との間の結合度」を「増減させ」て「確保」している。
つまり、「インダクタL1、L2、結合コンデンサC1、C2、可変容量素子TC1、スイッチSW1で構成されている回路」は、全体として「インピーダンス整合回路」である。

また、引用文献1は、結合コンデンサC2に直列接続されているスイッチSW1のオン・オフに伴って結合コンデンサC1との合成容量を変更させるのであるから、引用文献1の「結合コンデンサC1、C2とスイッチSW1」は、全体として「可変容量コンデンサ」を構成している。

したがって、引用文献1には、

「インピーダンス整合回路であって、
インピーダンス整合回路は、アンテナを整合するために用いられ、
アンテナ1との接続部及び高周波増幅部2との接続部を備える前記信号経路と、
可変容量を有し、且つ前記アンテナ1との接続部と前記高周波増幅部2との接続部との間に接続された可変容量コンデンサ、及び可変容量を有し、且つ前記信号経路と接地点との間に接続された可変容量素子TC1と、
前記アンテナ1との接続部と接地点との間に相互接続されたインダクタL1、及び前記高周波増幅部2との接続部と接地点との間に相互接続されたインダクタL2と、
を備える、インピーダンス整合回路。」

が記載されている。

2.引用文献2?4について

当審拒絶理由に引用された米国特許明細書第6469590号明細書(以下「引用文献2」という。下線は当審が付与。)には、

「It is yet another object of the present invention to provide an antenna, as above, in which the filter includes a power matching feature that matches the impedance of the antenna with the impedance of the receiver/transceiver.」(2欄1-4行)
(当審訳:
本発明のさらなる別の目的は、上記のように、アンテナのインピーダンスを受信機/送受信機のインピーダンスと整合させる電力整合機能を含むフィルタを含むアンテナを提供することである。)

「A marine radio system utilizing an integral marine antenna filter, made in accordance with the concepts of the present invention, is indicated generally by the numeral 20 in the accompanying drawings and is best seen generally in FIG.1. The marine radio system includes a radio transceiver 22. Although the present invention is discussed in the context of use with a radio transceiver, it will be appreciated that the aspects of the present invention are equally applicable to antennas used with just receivers. As is common with such transceiver 22, a transmit/receive antenna 24 is connected thereto. As noted in FIG.2, the transceiver has a terminal A and a terminal A' which connect to a terminal Z and a terminal Z' of the antenna 24. A filter system 26 is integrally incorporated into the antenna 24 and connected to the transceiver 22. Incorporation of the filter system 26 into the antenna body 27 is advantageous inasmuch as the connection of the components is accurate and reliable. The antenna 24 includes components such as a coaxial cable having a center conductor and a shield ground wire, ferrules, and the like. The length of the coaxial cable and, thus, the antenna may be varied according to the particular end use of the antenna.
As best seen in FIG.2, the filter 26 has an end 28 which is connected to the terminal A-A' and an antenna end 30 which is represented by the terminal ends Z-Z'. Included in the filter 26 is a power matching tee circuit 34 which effectively matches the impedance of the antenna components to the impedance of the transceiver for maximum power transfer. The tee circuit 34 includes a capacitor C1 which has one end connected to terminal Z. Serially connected to capacitor to C1 is a variable capacitor network 36 which includes a fixed capacitor C2 that is connected in parallel to a variable capacitor C3. In the preferred embodiment, the approximate values of these capacitors are as follows: C1=15pF; C2=5pF; and C3=7-25pF. As will be discussed in detail below, selection of these values is dependent upon the frequency band desired to be received by the transceiver and the frequency desired to be suppressed. The tee circuit 34 also includes an inductor L1 , which has an approximate value of about 0.06μH, that is connected between the variable capacitor network 36 and capacitor C1 at one end, while the opposite end is connected to the Z' terminal.
A shunt circuit 40 is also included in the filter 26. It is connected across terminals A and A' and includes a variable capacitor network 42 which includes a capacitor C4 and a variable capacitor C5 connected in parallel. Serially connected to the variable capacitor network 42 is a series inductor L2. In the preferred embodiment, capacitor C4 has an approximate value of 1 pF and capacitor C5 has an approximate value of 0.25-1.5pF. The inductor L2 has an inductance of about 0.544 micro H.
In order to fully understand development of the component values selected for the filter 26 and how they are connected to one another is revealed in the following discussion. It will be appreciated that this discussion is equally applicable to any situation in which an antenna is desired to receive a predetermined frequency band while minimizing receipt of nearby adjacent or relatively close frequency bands.」(3欄23行-4欄15行)
(当審訳:
本発明の概念に従う統合海上アンテナフィルタを必須利用する海上無線システムは、添付図面の番号20として示され、図1に最も良く理解される。海上無線システムは無線送受信機22を含む。また本発明は無線送受信機の使用に関連して記載されているが、本発明の態様は受信機と共に用いられるアンテナに等しく適用可能であることが理解されよう。このような送受信機22に共通して送信/受信アンテナ24が接続されている。図2に示すように、送受信機はアンテナ24の端子Zと端子Z'に接続する端子Aと端子Aを有している。フィルタシステム24はアンテナ24に一体的に組み込まれ、送信機22に接続されている。アンテナ本体27にフィルタシステム26を組み込むことは、構成要素の接続が正確で信頼性があるので有利である。アンテナ24は中心導体とシールドアース線を有する同軸ケーブル、フェルールなどの要素を含む。同軸ケーブル、すなわちアンテナの長さは、アンテナの最終用途に従って変更することができる。
図2に最も良く示されるように、フィルタ26は端子A-A'に接続される端部28と端子Z-Z'によって表されるアンテナ端部30とを有する。フィルタ26には、最大電力伝送のためにアンテナ構成要素のインピーダンスを送受信機のインピーダンスに効果的に整合させる電力整合T回路34が含まれている。T回路34は、端子Zに一端が接続された容量C1を含む。可変容量C3が並列に接続された固定容量C2を含む可変容量ネットワーク36が容量C1に直列に接続されている。好ましい実施形態では、これらのおおよその容量値は以下のとおり:C1=15pF, C2=5pF, C3=7-25pF。以下に詳細に説明するように、これらの値の選択は、送受信機が受信を期待される周波数帯と抑制が期待される周波数に依存する。さらに、T回路34は、可変容量ネットワーク36と容量C1に一端が接続され端子Z'に他端が接続される約0.06μHのインダクタL1を含む。
シャント回路40もフィルタ26に含まれる。それは、端子AとA'間に接続され、容量C4と可変容量C5が並列に接続された可変容量ネットワーク42を含む。可変容量ネットワーク42に直列に直列インダクタL2が接続される。好ましい実施形態では、容量C4は約1pFであり、容量C5は約0.25-1.5pFである。インダクタL2はのインダクタンスは約0.544μHである。
フィルタ26の成分値をどのように決定するかを完全に理解するため、どのように他と接続されているか、以下の記載で明らかにされる。この議論が、アンテナが、近傍周波数の受信を最小限とする場合における予め決められた周波数帯を受信する場合のあらゆる状況に等しく適用できることが理解されよう。)

の記載があるから、引用文献2によれば、「可変容量ネットワークを可変容量と可変容量素子に並列に接続された固定容量で構成すること。」は周知である。


当審拒絶理由に引用された特開2008-205793号公報(以下「引用文献3」という。下線は当審が付与。)には、

「【0006】
そこで本発明は、上記の課題に鑑み、インダクタンス素子とキャパシタンス素子とを備えた高周波整合回路において、キャパシタをMEMSにより構成することにより、所望の周波数帯の高周波信号にインピーダンス整合するともに、高いQ値を有する高周波整合回路を提供することを目的とする。」

当審拒絶理由に引用された特開2006-196871号公報(以下「引用文献4」という。下線は当審が付与。)には、

「【0060】
また、本発明の薄膜コンデンサの誘電体層3が、直流バイアス電圧の印加により誘電率が変化する高Q値の誘電体から成ることにより、可変容量素子として障壁容量を用いた可変容量ダイオードを用いた場合に比べて、高周波でも可変容量コンデンサにおける損失を少なくすることができる可変容量コンデンサとなる。また、絶縁体層5の剥離を防止して耐湿信頼性に優れた可変容量コンデンサを提供することができる。」

の記載があるから、引用文献3、4によれば、「整合回路において高いQ値を有する可変容量素子を用いること。」は周知である。


第6 対比・判断

1.請求項1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「接地点」は、本願発明1の「大地(M)」に、
引用発明の「整合回路」のアンテナ1との接続部が、本願発明1の「信号経路入力端(SPE)」に、
引用発明の「整合回路」の高周波増幅部2との接続部が、本願発明1の「信号経路出力端(SPA)」に、
引用発明の「信号経路」は、本願発明1の「信号経路(SP)」に、
引用発明の「可変容量コンデンサ」は、本願発明1の「第1容量素子(C1)」に、
引用発明の「可変容量素子TC1」は、本願発明1の「第2容量素子(C2)」に、
引用発明の「インダクタL1」は、本願発明1の「第1誘導素子(L1)」に、
引用発明の「インダクタL2」は、本願発明1の「第2誘導素子(L2)」に、
それぞれ相当する。


したがって、本願発明1と引用発明は、

「整合回路であって、
インピーダンス整合回路は、アンテナを整合するために用いられ、
信号経路入力端(SPE)及び信号経路出力端(SPA)を備える前記信号経路(SP)と、
可変容量を有し、且つ前記信号経路入力端(SPE)と前記信号経路出力端(SPA)との間に接続された第1容量素子(C1)、及び可変容量を有し、且つ前記信号経路(SP)と大地(M)との間に接続された第2容量素子(C2)と、
前記信号経路入力端(SPE)と大地(M)との間に相互接続された第1誘導素子(L1)、及び前記信号経路出力端(SPA)と大地(M)との間に相互接続された第2誘導素子(L2)と、
を備える、整合回路。」

で一致し、下記の点で相違する。

相違点1

一致点の「整合回路」について、本願発明1は、「マルチバンド整合回路」であって「第1及び第2のインピーダンス整合回路とデュアルバンド方向性結合器(DBRK)」を備えるのに対し、引用発明は「インピーダンス整合回路」であってマルチバンドに関する記載が無く、単一の「インピーダンス整合」回路しか有さず、デュアルバンド方向性結合器も有しない点。

相違点2

一致点の「インピーダンス整合回路」について、本願発明1は、第1容量素子(C1)及び第2容量素子(C2)のいずれか一方と並列接続された第3容量素子(C3)を有し、第1容量素子(C1)と第3容量素子(C3)の組み合わせ又は第2容量素子(C2)と第3容量素子(C3)の組み合わせが、第1容量素子(C1)又は第2容量素子(C2)のみよりも高いQ値を有するのに対し、引用発明は、第3容量素子を備えておらず、Q値についても記載されていない点。

相違点3

本願発明1は、信号経路出力段(SPA)にインピーダンスが30?60Ωであるアンテナ給電線を有するのに対し、引用発明はアンテナ給電線について明記されておらず、インピーダンスについての記載も無い点。

相違点4

一致点の「インピーダンス整合回路」について、本願発明1は「平面アンテナ」を整合するために用いられるのに対し、引用発明の「アンテナ」は「平面アンテナ」であるかどうか記載が無い点。

(2)相違点についての判断

事案に鑑みて、相違点1について先に検討すると、引用文献1には、「インピーダンス整合回路」をマルチバンドで用いることについて記載はなく、そもそも引用発明は、単一の「インピーダンス整合回路」しか有していないから、「方向性結合器」が周知の事項だとしても、引用発明に周知の事項を適用する動機がなく、仮に適用したとしても、「第1及び第2のインピーダンス回路」に相当する構成は導き出すことができない。また、引用文献2-4にも、相違点1に係る本願発明1に相当する構成は記載されていない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)明確性について

平成29年4月17日付けの補正により、「第2容量素子(WCE)」は、「第2容量素子(C2)」と補正されたので、明確となった。

2.請求項2-13について

本願発明2-13は、本願発明1を引用して記載した発明であって、本願発明1の構成要件をすべて含むから、同様の理由により当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.請求項14について

本願発明14も「デュアルバンド方向性結合器」を備える「マルチバンド整合回路」であるから、同様の理由により当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定についての判断

平成29年4月17日付けの補正により、本願発明1は、「マルチバンド整合回路」となった。当該「マルチバンド整合回路」は、原査定における引用文献1-6には記載されておらず、周知技術でもないので、本願発明1は、当業者であっても、原査定における引用文献1-6に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

本願発明2-14についても同様である。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-29 
出願番号 特願2011-545665(P2011-545665)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H03H)
P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
発明の名称 平面アンテナ用のインピーダンス整合回路  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 奥村 元宏  
代理人 井関 守三  

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