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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1329982
審判番号 不服2015-4514  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2017-07-06 
事件の表示 特願2010- 81694「加飾合成樹脂成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開、特開2011-212904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年3月31日に出願された特許出願であって、平成26年2月27日付けで拒絶理由が通知され、平成26年5月2日に手続補正書及び意見書が提出され、同年12月1日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、平成27年3月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成28年9月13日付けで当審から拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月21日に手続補正書及び意見書が提出され、平成29年1月24日付けで最後の拒絶理由(以下「当審最後の拒絶理由」という。)が通知され、同年4月7日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 平成29年4月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]

平成29年4月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 平成29年4月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は特許請求の範囲の全文を変更するものであるところ、特許請求の範囲全体の記載のうち、本件補正前の請求項1及び当該請求項に対応する本件補正後の請求項1の記載を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(平成28年11月21日付け手続補正書)

「インサート材としてインサートラベル(11)を成形金型のキャビティ面に配設した状態でインサート成形され、該インサートラベル(11)により表面を加飾した合成樹脂成形品の製造方法であって、
成形品(1)は、表面に所定の形状を有し、突出高さが0.6mm以下の凸部(2)を突出形成したものであり、
前記インサートラベル(11)が前記凸部(2)の形状に沿って貼着されており、前記インサートラベル(11)は合成樹脂製フィルムを基材層(12)としたものであり、
前記基材層(12)の表面側の凸部(2)を被覆する領域に、前記キャビティ面の中に粗面化加工により形成された粗面化領域の微細な凹凸構造がインサート成形と同時に転写された粗面転写領域(R)を有することを特徴とする加飾合成樹脂成形品の製造方法。」

・ 本件補正後

「インサート材としてインサートラベル(11)を成形金型のキャビティ面に配設した状態でインサート成形され、該インサートラベル(11)により表面を加飾した合成樹脂成形品の製造方法であって、
成形品(1)は、表面に所定の形状を有し、突出高さが0.6mm以下の凸部(2)を突出形成したものであり、
前記インサートラベル(11)が前記凸部(2)の形状に沿って貼着されており、前記インサートラベル(11)は、肉厚が0.075?0.2mmの合成樹脂製フィルムを基材層(12)とし、該基材層(12)の裏面側の所定の領域に加飾層(13)として金属薄膜層(13a)を積層したものであり、
前記基材層(12)の表面側の凸部(2)を被覆する領域に、前記キャビティ面の中に粗面化加工により形成された粗面化領域の微細な凹凸構造がインサート成形と同時に転写された粗面転写領域(R)を有することを特徴とする加飾合成樹脂成形品の製造方法。」
以下、本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。

2 本件補正の目的について

本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「インサートラベル」について、訂正前には、その構成要素である合成樹脂製フィルムの厚みを特定していなかったものを、「肉厚が0.075?0.2mmの」と特定し、さらに、「該基材層(12)の裏面側の所定の領域に加飾層(13)として金属薄膜層(13a)を積層し」たものである点を特定する補正であって、しかも、補正の前後で、請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらないから、当該本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(本件補正が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ、本件補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち、本願補正発明は、下記引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献 : 特開平10-180796号公報

以下、特許を受けることができない理由を、下記4において詳述する。

なお、引用文献は、平成29年1月24日付け当審最後の拒絶理由における引用文献4である。

4 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1) 引用文献の記載事項
引用文献には、以下の事項が記載されている。なお、下線については、当審において付与した。

ア 「【請求項1】 溶融樹脂が射出されるキャビティ凹部の内面に凸文字成形用凹部を有する可動型と、固定型とからなる成形同時絵付け用金型と、前記凸文字成形用凹部の内表面に収まる面積の凸文字用蒸着柄層を有する絵付けフィルムとを用意し、可動型の凸文字成形用凹部に、絵付けフィルムの凸文字用蒸着柄層を合致させて型閉めした後、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、溶融樹脂の冷却固化後に型開きをすることを特徴とする装飾された凹凸文字部を有する成形同時絵付け品の製造方法。
【請求項2】 可動型の凸文字成形用凹部の底面と側面の少なくとも一方にシボ加工あるいはローレット加工が施されている請求項1に記載の装飾された凹凸文字部を有する成形同時絵付け品の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1、2)

イ 「【0004】この発明の目的は、射出成形品上の凸文字あるいは凹文字に、絵付けフィルムの最も意匠性の高い絵柄を合致させ意匠効果を持たせた成形同時絵付け品を生産効率よく、外観不良なく、安価に製造できる製造方法を提供することにある。」

ウ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながらこの発明を詳しく説明する。この発明の製造方法に用いる絵付けフィルムを先に説明する。絵付けフィルム1は、蒸着柄層2を有するものである。具体的には、絵付けフィルム1は、基体フィルム3上に表面保護層4が形成されその上に蒸着柄層2が形成され、その上に透明接着層5を形成したものがある。蒸着柄層2の上には、文字・記号パターン層や、表示用透明窓を有する隠蔽着色層が形成されていてもよい。透明接着層5は、後述する射出成形品6との接着性を有するものでもよい。後述する射出成形された射出成形品6に絵付けフィルム1が接着した後、絵付けフィルム1の基体フィルム3を剥離する用い方をする場合は、絵付けフィルム1の表面保護層4を剥離層として形成してもよい。
【0009】基体フィルム3の材質としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ビニロン樹脂、アセテート樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の透明なプラスチックフィルム、プラスチックフィルムを使用する。基体フィルム3の膜厚としては、12μm?200μmのものを使用することができる。」

エ 「【0011】蒸着柄層2は、凸文字部7を有する射出成形品6を製造する際に使用する場合は、凸文字用蒸着柄層8となる(図1、図4)。射出成形品6の凸文字部7とは、射出成形品6表面の一部において、文字パターンが形成される部分を隆起させた部分のことである。凸文字用蒸着柄層8は射出成形品6の隆起させた部分に形成される。
・・・
【0013】蒸着柄層2は、金属、金属酸化物、金属フッ化物、金属ハロゲン化物、金属窒化物、金属硫化物等の金属材料を用いて、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング(以下、「金属蒸着等」という。)などの方法によって、金属薄膜として形成したものである。真空蒸着等に用いる金属としては、クロム、チタン、アルミニウム、スズ、ニッケル等がある。真空蒸着等に用いる金属酸化物としては、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化インジウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ等がある。蒸着柄層2は、メタリック粉をインキ化したもので形成してもよい。メタリック粉としては、アルミニウムや黄銅、パール粉などの金属粉や、金属や金属化合物をビーズにコーティング(蒸着等)した顔料がある。」

オ 「【0017】透明接着層5は、後述する溶融した溶融樹脂11を冷却固化した射出成形品6の表面に上記の各層を接着するための層である。射出成形品6をポリアクリル系樹脂で成形すると同時に射出成形品6の表面に前記絵付けフィルム1を接着させる場合は、透明接着層5としてポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、溶融樹脂11の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用すればよい。透明接着層5の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコーティングや、グラビア印刷、スクリーン印刷法等の印刷がある。透明接着層5の乾燥膜厚は、1μm?5μmとするのが一般的である。」

カ 「【0019】この発明の第1の態様を説明する。つまり、溶融樹脂11が射出されるキャビティ凹部12の内面に凸文字成形用凹部13を有する可動型14と、固定型15とからなる成形同時絵付け用金型と、前記凸文字成形用凹部13の内表面に収まる面積の凸文字用蒸着柄層8を有する絵付けフィルム1とを用意し、可動型14の凸文字成形用凹部13に、絵付けフィルム1の凸文字用蒸着柄層8を合致させて型閉めした後、キャビティ内に溶融樹脂11を射出し、溶融樹脂11の冷却固化後に型開きをする(図1?図3)。
【0020】まず、可動型14の凸文字成形用凹部13に、絵付けフィルム1の凸文字用蒸着柄層8を合致させる。「合致」は、可動型14と固定型15との間にインサートシート送り装置(図示せず。)で絵付けフィルム1を連続的に送り込み、センサー等で送り込みを停止させ、必要により微調整することによって、自動で合致させてもよい。あるいは、可動型14と固定型15との間に絵付けフィルム1を人手で送り込んで合致させてもよい。絵付けフィルム1は、型閉めの前あるいは後に、真空吸引口16から吸引し、可動型14のキャビティ凹部12の内面に沿うように延伸させてもよい(図2)。必要により、凸文字成形用凹部13の内表面(底面130と側面131の少なくとも一方)に線状の凹凸を形成し、溶融樹脂11の表面に線状の模様を形成するための、いわゆるローレット加工を施してもよい。ローレット加工の凹凸としては、深さ0.015mmで、ピッチ0.03mmのものがある。あるいは、シボ加工が施されていてもよい。シボの番手の例としては、棚澤八光社製TH110などがある。
【0021】つぎに、型閉めした後、キャビティ内に溶融樹脂11を射出し(図3)、溶融樹脂11の冷却固化後に型開きをする。可動型14に射出口が設けられている場合は、可動型14の射出口から射出してもよい。あるいは、固定型15に射出口17が設けられている場合は、固定型15の射出口17から射出してもよい。装飾された凸文字部7を有する射出成形品6の表面に前記絵付けフィルム1の透明接着層5を接着させ、成形同時絵付け品18を得る。」

キ 「【0022】溶融樹脂11が冷却固化された後に、基体フィルム3を剥離して、蒸着柄層2と透明接着層5のみを射出成形品6に転写させてもよい。絵付けフィルム1が剥離層を有する場合は、剥離層も転写層として射出成形品6に接着する。溶融樹脂11としては、アクリル樹脂やABS、AS、ポリカーボネート樹脂などの射出成形用樹脂を用いる。
【0023】この発明の第1の態様の製造方法によって得られる成形同時絵付け品18は、射出成形品6表面に形成された凸文字部7の表面に凸文字用蒸着柄層8が形成されている。つまり、射出成形品6表面において、文字パターンが形成される部分を隆起させ、その隆起させた部分に、凸文字用蒸着柄層8が形成されている。隆起の高さは、約0.01mm?3.0mmである。隆起の目立ち易さと、絵付けフィルムの破れにくさを考慮すると、隆起の高さは、約0.1mm?0.3mmが好ましい。隆起の勾配は、1度?89度がある(図8(b)参照)。隆起の目立ち易さと、絵付けフィルムの破れにくさを考慮すると、隆起の勾配は、45度?80度が好ましい。隆起の形状は、断面四角形状、断面台形状(図8)、断面半円状、断面三角状(図10)などがある。凸文字用蒸着柄層8は、隆起した部分の頂面19と側面20との両方に形成してもよい(図8(a))。凸文字用蒸着柄層8は、隆起した部分の頂面19のみに形成してもよい(図9)。」

ク 「【0032】
【発明の効果】この発明の成形同時絵付け品の製造方法は、溶融樹脂が射出されるキャビティ凹部の内面に凸文字成形用凹部や凹文字成形用凸部を有する可動型と、固定型とからなる成形同時絵付け用金型と、前記凸文字成形用凹部や凹文字成形用凸部のの表面に収まる面積の蒸着柄層を有する絵付けフィルムとを用意し、可動型の凸文字成形用凹部や凹文字成形用凸部に、絵付けフィルムの蒸着柄層を合致させて型閉めした後、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、溶融樹脂の冷却固化後に型開きをすることを特徴とする。よって、射出成形品上の凸文字あるいは凹文字に、絵付けフィルムの最も意匠性の高い絵柄を合致させ意匠効果を持たせた成形同時絵付け品を生産効率よく、外観不良なく、安価に製造できる。つまり、作業としては、射出成形用金型と絵付けフィルムとを用いた一工程だけなので、従来のように労力と生産コストはかからない。また、射出成形品の表面が凹凸文字を有する状態でも転写不良を起こさないので、外観品質が良好である。また、平面でなく立体面であっても転写できるため、凹凸文字にはシボやローレットなどの意匠性の高い絵柄も形成可能となる。」

ケ 「【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法の一実施例を示す断面図である。
【図2】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法の一実施例を示す断面図である。
【図3】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法の一実施例を示す断面図である。
【図4】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法で用いる絵付けフィルムの一実施例を示す断面図である。
・・・
【図9】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法によって得られる成形同時絵付け品の一実施例を示す斜視図である。
【図10】 この発明の成形同時絵付け品の製造方法によって得られる成形同時絵付け品の一実施例を示す斜視図である。」(図面の簡単な説明の図1?4、8、10)

コ 「

」(図1?3)

サ 「

」(図4)

シ 「

」(図9、図10)

(2) 引用文献に記載された発明
引用文献には、上記(1)アの請求項2を引用する請求項1の成形同時絵付け品の製造方法として、

「溶融樹脂が射出されるキャビティ凹部の内面に凸文字成形用凹部を有する可動型と、固定型とからなる成形同時絵付け用金型と、前記凸文字成形用凹部の内表面に収まる面積の凸文字用蒸着柄層を有する絵付けフィルムとを用意し、可動型の凸文字成形用凹部の底面と側面の少なくとも一方にシボ加工あるいはローレット加工が施されている可動型の凸文字成形用凹部に、絵付けフィルムの凸文字用蒸着柄層を合致させて型閉めした後、キャビティ内に溶融樹脂を射出し、溶融樹脂の冷却固化後に型開きをする装飾された凹凸文字部を有する成形同時絵付け品の製造方法。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3) 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「蒸着柄層を有する絵付けフィルム」、「可動型と固定型」、「成形同時絵付け品」は、それぞれ、本願補正発明における「インサートラベル」、「成形金型」、「加飾合成樹脂成形品」に相当する。
また、引用発明の「蒸着柄層を有する絵付けフィルム」は、上記(1)ウの記載から、膜厚が12μm?200μmのプラスチックフィルムである基体フィルム上に蒸着層が形成されているものであるから、本願補正発明の「合成樹脂製フィルムの基材層」を有しているといえるし、基材層の膜厚が、12μm?200μmとは、厚みが0.12?0.2mmと同義であるから、本願補正発明の「厚み0.075?0.2mm」と重複一致する。
さらに、引用発明の「蒸着柄層を有する絵付けフィルム」は、上記(1)エの記載から、該蒸着柄層は、本願補正発明と同じく、「該基材層」「の所定の領域に加飾層として金属薄膜層を積層したもの」といえる。
引用発明の「装飾された凹凸文字部」は、成形品として凸部を突出形成したものを含むことは明らかである。
引用発明は「可動型の凸文字成形用凹部に、絵付けフィルムの凸文字用蒸着柄層を合致させて」いるから、蒸着柄層を有する絵付けフィルム(本願補正発明のインサートラベル)が成形品の凹凸部(本願補正発明の凸部)の形状に沿って貼着されているといえる。
引用発明の「シボ加工あるいはローレット加工」は、本願補正発明の「粗面化加工」に相当し、「可動型の凸文字成形用凹部の底面と側面の少なくとも一方にシボ加工あるいはローレット加工が施されている」領域が、本願補正発明における「粗面化領域」であって、当該「シボ加工あるいはローレット加工」で形成されたものが、本願補正発明における「微細な凹凸構造」に相当し、成形品に転写された部分が「粗面転写領域(R)」に相当する。

そうすると、両者は、
「インサート材としてインサートラベルを成形金型のキャビティ面に配設した状態でインサート成形され、該インサートラベルにより表面を加飾した合成樹脂成形品の製造方法であって、
成形品は、表面に所定の形状を有し、凸部を突出形成したものであり、
前記インサートラベルが前記凸部の形状に沿って貼着されており、
前記インサートラベルは肉厚が0.075?0.2mmの合成樹脂製フィルムを基材層とし、該基材層の所定の領域に加飾層として金属薄膜層を積層したものであり、
凸部を被覆する領域に、キャビティ面の中に粗面化加工により形成された粗面化領域の微細な凹凸構造がインサート成形と同時に転写された粗面転写領域を有する加飾合成樹脂成形品の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
凸部に関し、本願補正発明は、「突出高さが0.6mm以下の凸部」と特定するのに対して、引用発明では、このような特定がない点。
<相違点2>
転写された粗面転写領域(R)が存在する場所に関し、本願補正発明は、「基材層の表面側」と特定するのに対して、引用発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
引用文献には「この発明の第1の態様の製造方法によって得られる成形同時絵付け品18は、射出成形品6表面に形成された凸文字部7の表面に凸文字用蒸着柄層8が形成されている。つまり、射出成形品6表面において、文字パターンが形成される部分を隆起させ、その隆起させた部分に、凸文字用蒸着柄層8が形成されている。隆起の高さは、約0.01mm?3.0mmである。隆起の目立ち易さと、絵付けフィルムの破れにくさを考慮すると、隆起の高さは、約0.1mm?0.3mmが好ましい。・・・」(上記(1)キ)との記載があるから、凸部の高さを好ましい範囲である0.1?0.3mmとするようにし、結果的に本願補正発明において特定する「0.6mm以下」とすることは、想到容易である。

相違点2について
まず、本願補正発明における微細な凹凸構造を転写する対象が当該「基材層の表面側」とは、どのような位置であるかを確認する。
本願明細書の【発明の実施するための形態】欄及び図面において、本願補正発明の実施態様として、そのインサートラベル11、(加飾)成形品1、(加飾)成形品1をインサート成形するための金型31の構成は、本願明細書に添付された図2、図3、図4に下記のように記載されている。

ここで、インサートラベル11は、上記図3に示されるように基材層12、金属薄膜層13a(13)、接着層15からなる。そして、インサートラベル11は、図2に示されるように、(加飾)成形品4(1)の表面に存在するものであり、「成形品の表面に貼着するための接着層」(段落【0034】)との記載から、接着層15は、インサート成形時には、射出される樹脂側に存在するといえる。
そうすると、射出する樹脂の方向から把握される配置関係において、射出される樹脂とインサートラベル11の各層との配置は、射出される樹脂/接着層15/金属薄膜層13a(13)/基材層12となっていて、基材層12が金型面に接して、金型面に形成されている微細な凹凸(Rm)が転写されるものと理解できる。
よって、本願補正発明における「基材層の表面側」とは、基材層12の金属薄膜層13a(13)と反対側であると理解できる。

一方、引用発明の「蒸着柄層を有する絵付けフィルム」の具体的な記載として、引用文献には以下の記載がある。
「絵付けフィルム1は、蒸着柄層2を有するものである。具体的には、絵付けフィルム1は、基体フィルム3上に表面保護層4が形成されその上に蒸着柄層2が形成され、その上に透明接着層5を形成したものがある」(上記(2)ウ)
「透明接着層5は、後述する溶融した溶融樹脂11を冷却固化した射出成形品6の表面に上記の各層を接着するための層である。」(上記(2)オ)
「後述する射出成形された射出成形品6に絵付けフィルム1が接着した後、絵付けフィルム1の基体フィルム3を剥離する用い方をする場合は、絵付けフィルム1の表面保護層4を剥離層として形成してもよい。」(上記(2)ウ)
「【図4】

」(上記(2)サ)


」(上記(2)コ)
これらの記載から、図4には、蒸着柄層2を有する絵付けフィルム1として、基体フィルム3上に表面保護層4が形成され、その上に蒸着柄層2が形成され、その上に透明接着層5を形成した絵付けフィルム1が記載されている。透明接着層5は、溶融した溶融樹脂11を冷却固化した射出成形品6の表面に上記の各層を接着するための層(本願補正発明の接着層15)であり、上記図1?3に示されているインサート成形時の蒸着柄層2を有する絵付けフィルム1の位置からみて、射出される樹脂と蒸着柄層2を有する絵付けフィルム1の各層との配置は、射出される樹脂/透明接着層5/蒸着柄層2/表面接着層4/基体フィルム3となっており、この基体フィルム3が金型面に接して、金型面にシボ加工あるいはローレット加工により形成されたもの(本願補正発明の金型面に形成された微細な凹凸)が転写されると理解できる。
そうすると、射出される樹脂の方向から把握される配置関係において、引用発明における基体フィルム3は、本願補正発明の基材層12に相当するから、金型面に形成された微細な凹凸が転写される側は、基体フィルム3の蒸着柄層2と反対側であり、本願補正発明の「基材層の表面側」と同じ側といえる。よって、相違点2は実質上の相違点ではない。

以上のことから、本願補正発明は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4) 審判請求人の主張の検討
審判請求人は、平成29年4月7日提出の意見書において、「刊行物4(当審注:上記引用文献)は、絵付けフィルムの最も意匠性の高い絵柄を合致させ意匠効果を持たせた成形同時絵付け品を効率よく、外観不良なく、安価に製造することを目的としており、本願請求項1に係る発明(当審注:本願補正発明)のように、成形品の凸部の陰影を強調し、凸部の立体的な形状をより強調する課題とは全く異なるものであります。よって、刊行物4に記載の発明(当審注:引用発明)は、本願請求項1に係る発明の技術的な課題と全く異なるため、本願請求項1に規定される特徴事項に導く上での動機づけを与えるものではありません。」と主張する。

以下、上記主張について検討する。
まず、刊行物4(引用文献)に記載の発明は、「射出成形品上の凸文字あるいは凹文字に、絵付けフィルムの最も意匠性の高い絵柄を合致させ意匠効果を持たせた成形同時絵付け品を生産効率よく、外観不良なく、安価に製造できる製造方法を提供すること」(上記(1)イ)を課題としているから、刊行物4(引用文献)においても、本願のインサートフィルムと同じ絵付けフィルムを利用することで、意匠効果を持たせることが明記されている。
そして、絵付けフィルムを一体化した成形品の凸部に微細なシボ加工、ローレット加工を施すことで、立体的な視覚効果、すなわち、立体的な意匠効果が得られることは当業者において周知(拒絶査定時の引用文献3である特開昭63-15717号公報の第3頁右上欄下から1行?左下欄第6行)であることを踏まえれば、刊行物4(引用文献)の課題は、本願補正発明と全く異なるものとのはいえず、意匠効果を高める点では同一ともいえる。よって、審判請求人の主張は失当であって採用できない。

(5) まとめ
本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成29年4月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年11月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「インサート材としてインサートラベル(11)を成形金型のキャビティ面に配設した状態でインサート成形され、該インサートラベル(11)により表面を加飾した合成樹脂成形品の製造方法であって、
成形品(1)は、表面に所定の形状を有し、突出高さが0.6mm以下の凸部(2)を突出形成したものであり、
前記インサートラベル(11)が前記凸部(2)の形状に沿って貼着されており、前記インサートラベル(11)は合成樹脂製フィルムを基材層(12)としたものであり、
前記基材層(12)の表面側の凸部(2)を被覆する領域に、前記キャビティ面の中に粗面化加工により形成された粗面化領域の微細な凹凸構造がインサート成形と同時に転写された粗面転写領域(R)を有することを特徴とする加飾合成樹脂成形品の製造方法。」

2 引用刊行物の記載事項と引用発明

当審最後の拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平10-180796号公報の記載事項及び引用発明は、上記第2の4(1)及び(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、本願補正発明との比較において、本願補正発明の「インサートラベル」についての構成要素である合成樹脂製フィルムについて「肉厚が0.075?0.2mm」との特定をせず、さらに、「該基材層(12)の裏面側の所定の領域に加飾層(13)として金属薄膜層(13a)を積層し」たことも特定しない「インサートラベル」と特定するものである(上記第2_1参照)。すなわち、本願補正発明は、本願発明の構成をすべて包含するものであるといえる。
そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2017-05-02 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2010-81694(P2010-81694)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B29C)
P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大畑 通隆粟野 正明  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
大島 祥吾
発明の名称 加飾合成樹脂成形品の製造方法  
代理人 渡辺 一豊  

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