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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1329994
審判番号 不服2016-7492  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-23 
確定日 2017-07-06 
事件の表示 特願2015- 84424「トリアリルイソシアヌレート」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月27日出願公開、特開2015-134820〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成21年5月25日に出願した特願2009-125334号の一部を平成25年12月13日に特願2013-257645号として新たに特許出願し、その一部をさらに、平成26年7月14日に特願2014-144151号として新たに特許出願し、その一部をさらに平成27年4月16日に新たに特許出願としたものであって、同年12月1日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月18日付けで拒絶査定がされ、同年5月23日に拒絶査定不服審判が請求され、同年10月27日付け及び同年11月28日付けで上申書が提出され、当審にて、平成29年2月17日付けで拒絶理由(以下「当審で通知した拒絶理由」という。)が通知され、同年2月28日に意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
この出願の請求項1に係る発明は、平成29年2月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
以下の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が500ppm以下(但し30ppm以下を除く)であることを特徴とするトリアリルイソシアヌレート。

【化1】

(化学式(I)の波線の結合は、シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物を示す。)


第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した拒絶理由の1つは、概略、以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である「特開昭57-200371号公報」に記載された発明及び「特開平11-255753号公報」に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
特開昭57-200371号公報を、以下「刊行物1」という。
特開平11-255753号号公報を、以下「刊行物2」という。

拒絶理由の対象となった請求項1に係る発明は、本願発明である。

第4 当審の判断
当審は,当審で通知した拒絶の理由のとおり,本願発明は,上記刊行物1に記載された発明及び上記刊行物2に記載された技術的事項及び本願出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と判断する。
理由は以下のとおりである。

(1)刊行物の記載事項
ア 刊行物1
当審の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開昭57-200371号公報には、以下の記載がある。
(1a)「オルトジクロロベンゼン溶媒中で第3級アミンの存在下シアヌール酸とアリルクロライドを反応させた後、反応混合物からトリアリルインシアヌレートを回収するトリアリルイソシアヌレートの製造法において、(a)前記溶媒中にシアヌール酸とトリ-n-プロビルアミンとをモル比1:3?3.9の割合に加えた反応系に、これを攪拌下105℃以上に保ちながら前記シアヌール酸1モルに対し3?3.9モルとなる量のアリルクロライドを徐々に添加し、アリルクロライドの全量を添加した後徐々に昇温させ180℃以下の温度で原料シアヌール酸の95%以上を反応させる工程;(b)(a)の工程で得られた反応液を冷却し、これに水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(c)(b)の工程で回収された有機層液に希塩酸を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(d)(c)の工程で回収された有機層液に希炭酸ソーダ水溶液を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(e)(d)の工程で回収された有機層に水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(f)(e)の工程で回収された有機層液から溶媒を留去することにより粗トリアリルイソシアヌレートを回収する工程;(g)(f)の工程で回収された粗トリアリルイソシアヌレートを精留することにより精製トリアリルイソシアヌレートを回収する工程からなることを特徴とする高純度トリアリルイソシアヌレートの製造法。」(特許請求の範囲)

(1b)「本発明の目的は、高純度のトリアリルイソシアヌレートを製造する方法を提供することにあり、・・・簡易な製造工程によって効率的に高純度のトリアリルイソシアヌレートを製造する方法を提供することにある。」(2頁左下欄1?8行)

(1c)「実施例1
攪拌機、リフラックスコンデンサー、温度針、滴下ロートを具備させた反応器に、オルトジクロロベンゼン・・・、シアヌール酸・・・及びトリ-n-プロピルアミンを仕込み、加熱により内容物温度を150℃に昇温させた。次いで、滴下ロートよりアリルクロライドを・・・上記反応系に滴下した。滴下中反応系の温度を105?120℃に保った。アリルクロライドの全量を滴下した後、内容物温度を10℃/時の速度で昇温し、170℃に達した後同温度で4時間反応を続けた。
次いで、反応液を冷却後、これに水・・・を加え攪拌により洗浄した。次いで攪拌を止めて静置することにより分液し、水層を除去した。回収した有機層液に5%の塩酸・・・を加えて攪拌洗浄後静置分液し、水層を除去した。回収した有機層液に、10%の炭酸ソーダ水溶液・・・を加え攪拌洗浄後分液し、水層を除去する操作を2回繰り返した。回収した有機層液に、再び水・・・を加え攪拌洗浄後分液し、水層を除去し、有機層液を回収した。・・・得られた有機層液を減圧蒸留に付し、溶媒を留去することにより粗トリアリルイソシアヌレート・・・を得た。
次いで、上記粗粗トリアリルイソシアヌレートを精密蒸留器に移し、減圧精留を行ない、2mmHgで140?141℃の留分・・・を回収した。このものはガスクロマトグラフィー分析により純度99.92%であることを確認した。収率は仕込みシアヌヌール酸を基礎として81.5%である。」(実施例1)

(1d)「本発明に用いられるオルトジクロロベンゼン(以下、DCBと略称する。)、トリ-n-プロピルアミン(以下、TPAと略称する。)、シアヌール酸(以下、CAと略称する。)及びアリルクロライド(以下、ACと略称する。)は全て市販工業製品で充分であるが、副生物を生成させ易い不純物を含有しないものが好ましく、使用前にそれらの純度を測定した後、特にCA、AC、及びTPAは純品量として(a)工程における比率で用いられる。本発明に用いられるDCBは、本発明の目的物であるトリアリルイソシアヌレート(以下、TAICと略称する。)の良溶媒として作用するのみならず、TPA及びACに対しても良溶媒として作用し、(a)工程の反応を円滑に進行させることによって副生物の生成を少なからしめる作用をする。本発明に用いられるTPAは、(a)工程においてACとCAの反応によって生成する塩化水素の受容体であり、TAICの生成を促進する作用をするのみならず、意外にも、TAICとの分離が困難であるプロピルジアリルイソシアヌレートを副生させず、かつTAICを高収率に生成せしめる作用をすることが見出れた。TPAの代りにトリエチルアミンを使用すると、TAICの収率は高くてもエチルジアリルインシアヌレートが数%以上も副生し、また、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等をTPAの代りに使用するとTAICの収率が著るしく低下するのに対し、TPAを使用する本発明の方法によれば、かかる難点を招来せしめず、また、驚くべきことに(b)工程?(g)工程の簡易な精製工程を付加するのみで容易に純度99.9%以上もの高純度TAICが得られる。
本発明の(a)工程は、TAICとの分離除去が困難であるプロピルジアリルイソシアヌレートの副生を極力抑え、CAとACとの反応によるTAICの生成を円滑に進めるための工程である。モノアリルイソシアヌレート及びジアリルイソシアヌレートの副生を抑えることも目的物TAICの収率を高めるには重要なことであるが、少量の副生モノアリルインシアヌレート及びジアリルイノシアヌレートは後続の精製工程によって容易に反応生成液から分離除去することかできるので、少量のモノアリルイソシアヌレート及びジアリルイソシアヌレートの副生は許容される。同様に、反応系に副生するTPAの塩酸塩も後続の精製工程によって容易に反応液から分離除去することができる。
本発明の(a)工程において、溶媒DCBは、通常、CA100重量部に対し200?2000重量部の割合で用いられる。200重量部以下では、副生物の生成割合が高くなり易く、また、2000重量部以上では、反応に長時間を要し、その間に副生物が生成し易くなり好ましくない。反応を促進するための手段として、単に高温を採用するのみではやはり副生物が生成し易。本発明の(a)工程には、原料CAとACとはCA1モルに対しAC3?3.9モルの比率で用いられる。上記比率が3以下では目的物TAICの収率が低くなり、また3.9以上の比率では、過剰分のACを回収精製するのに多大のエネルギーを要し好ましくない。(a)工程に使用するTPAの量もCA1モルに対し3?3.9モルの比率となる量が好ましい。TPAは、反応系に副生ずる塩化水素を受容し、TPAの塩酸塩とじて使用量としてCA1モルに対し3モル以下の比率では、TAICの収率を低めたり、反応に長時間を要すこととなり好ましくなく、また、CA1モルに対し3.9モル以上にも大過剰使用すると、副生物の生成を招き易く、更に過剰分のTPAを回収精製するためのエネルギー消費量の増大を招き好ましくない。
本発明の(a)工程における反応は、溶媒DCB中に予め上記比率のCAとTPAを加えた反応系に、これを攪拌下105℃以上に保ちながら上記比率のACを徐々に添加することにより開始される。ACを添加する温度が105℃以下では、反応に長時間を要し、目的物TAICの収率が低下し好ましくない。また、反応系にACを添加する際、徐々に添加しないと、加えられたACが高温のために系外へ蒸発し、これを捕捉し反応系へ戻すために容量の大きいコンデンサーを必要とし、効率を低下せしめることとなる。
反応系を低温に保てば、溶媒DCB中に一時にCA、TPA及びACを仕込むことができるが、反応に長時間を要すのみならず、やはり目的物TAICの収率向上が達成できない。しかし、反応系にACを徐々に添加する際、反応系の温度を150℃以上もの高温にすると、やはり、大型コンデンサーが必要となるので、効率よく(a)工程におけるACの添加を達成するには通常105?150℃程度に保つのが特に好ましい。ACを反応系に徐々に添加する方法としては、反応器に連設させたACの貯蔵容器から反応系にACを滴下する方法、或は、定量式ポンプを通して反応液中へ遂次供給する方法等により容易に達成され、通常、リフラックスコンデンサーを用い、蒸発ACを戻しながら数時間以内にACの全量を反応系に添加させることができる。上記の如くしてACの全量を反応系に添加し終えても、その時点におけるTAICの生成率は低く、TAICの収率を高めるには尚、引きつづき反応を継続させる必要がある。ACの添加終了後急激に反応温度を高めると、反応系に共存するACがやはり系外へ大速度で蒸発するので、前記の如くこれを捕捉し反応系へ戻すための大型コンデンサーを必要とし好ましくない。反応の進行と共にACは消費され、反応系に共存するACの量が遂次減少するので、これに応じで、容量の大きくないコンデンサーから蒸発ACを少しづつ反応系へ戻すためにリフラックスコンデンサーを使用し、フラッディンの発生を防ぎながら徐々に昇温することにより、反応を促進させるのが好ましい。
・・・
上記(a)工程により得られた反応液は、目的物TAICを溶解した液であり、本発明の高純度TA工Cの製造法としては、上記反応液から目的物以外の物質を分離除去し、精製TTAICを回収するための(b)?(g)工程を必要とする。本発明の(b)工程は、上記(a)工程による反応液から副生したTPAの塩酸塩を主として除去するための工程である。この(b)工程は、(a)工程で得られた反応液を冷却し、これに水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収することからなる。
・・・
水洗により反応液中のTPAの塩酸塩は水層に移行する。
・・・
上記(b)工程で回収された有機層液は、次いで(c)工程により更に精製される。(c)工程は、(b)工程で回収された有機層液に希塩酸を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収することからなる。この(c)工程は、(a)工程の反応に使用した過剰分の残存TPAを主として除去する工程である。
・・・
次いで、(c)工程で回収された有機層液は、(d)工程に付される。
(d)工程は、(c)工程で回収された有機層液に希炭酸ソーダ水溶液を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程からなり、前記(a)工程の反応において副生した少量のモノアリルインシアヌレート及びジアリルイソシアヌレートを主として除去するための工程である。
・・・
上記(b)?(d)工程により、DCB以外の比較的多量に存在した目的外物質は除去できるが、無機塩等尚少量に存在する物質を除去するために、上記(d)工程で回収された有機層液は、次いで(e)工程により再び水洗される。(e)工程は、(d)工程で回収された有機層液に水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収することからなり、前記(b)工程と同様にして容易に行なうことかできる。使用水量は、(b)工程における程の多量を要しない。(e)工程で回収された有機層液は、次いで、(f)工程に付され、主として溶媒のDCBが除去される。(f)工程は、蒸留法によって溶媒を留去し、粗TAICを回収することからなる。蒸留は減圧下に行なうことにより効率よく溶媒を除くことができ、粗TAICが容易に回収される。ここに得られた粗TAICは、純TAIC分を、通常、92?96%含み、本発明の目的とする高純度TAICを得るには、上記粗TAICを更に精製する必要がある。上記粗TAICの分析も、ガスクロマトグラフィー分析及び質量分析により容易に行なうことかでき、上紀粗TAIC中には、プロプルジアリルイソシアヌレートが殆んど含まれていないこと及びこれを更に蒸留分別することにより、不純物が除かれ、99.9%以上の高純度TAICが得られることが見出された。
・・・
本発明の方法により得られた高純度なTAICは、・・・各種の用途に用いることかでき、合成樹脂分野における架橋剤、改良剤、変性剤等として、また、塗料、接着剤等の分野におりても反応性成分として用いられ、すぐれた性能を発揮する。」(2頁右下欄16行?6頁左上欄12行)

イ 刊行物2の記載事項
当審の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平11-255753号公報には、以下の記載がある。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,耐熱性樹脂用原料,特に電子材料用として好適な低ハロゲンの高品位トリアリルイソシアヌレートとその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】トリアリルイソシアヌレートは,各種の樹脂にすぐれた耐熱性を付与する架橋剤として知られている。・・・しかし,トリアリルイソシアヌレートを用いた耐熱性樹脂を,特にパソコンや携帯電話用プリント基板等の電子材料用樹脂に使用する場合には,通常の電気機器用樹脂等の汎用樹脂用途とは異なり,高密度に配線が集積していることから,微量のハロゲンイオン残存量が大きな障害となる。」

(2b)「【0004】このため特公昭58-22118号公報所載の発明でも、塩酸洗浄工程を終えて水層からトリアリルイソシアヌレート含有有機層を分離した後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を更に30℃の水で2回洗浄し、2回目の水洗の際には、苛性ソーダ水溶液で中和して分液する水洗工程が試みられているが、本発明者らの知見によると、それでも残存ハロゲンイオン量は数ppm程度である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この種の耐熱性樹脂をICや、LSIのごとき半導体チップ中での封止剤等に用いる場合には、絶縁信頼性の上で、前述のような残存ハロゲンイオン量程度ではいまだ不十分であり、実用に供し得ない。誘電特性を下げる原因としては、樹脂中に微量含まれる塩素イオン等のハロゲンイオンが大きな障害であることはつとに知られている。したがって、配線が高密度に集積した半導体チップ上で用いる樹脂は、極近接した配線内で高い絶縁特性を示さねばならず、一般的な電子材料では問題にならない数ppmレベルの微量ハロゲンイオンでも半導体チップの耐久性、安定性をいちじるしくおとしめる。現在の半導体チップ等の集積度から、数ppmよりもさらに一桁以上低いハロゲンイオン残量の高純度トリアリルイソシアヌレートが強く望まれていた。
【0006】本発明は、前記のごとき課題を解決したもので、ハロゲンイオン残存量がきわめて少ない高品位のトリアリルイソシアヌレートと、その製造法を提供することを目的としている。」

(2c)「【0014】
【実施例1】3000リットルの反応器に、90重量%のシアン酸ソーダ660kg、無水塩化カルシウム70kg、臭化カリウム7.4kg及びジメチルホルムアミド1970kgを仕込み、攪拌しつつ110℃に加熱した。アリルクロライド665kgを6時間かけて液中へ添加し、内温度110?125℃にて2時間攪拌を続けた後、反応液スラリ?から真空蒸留によりジメチルホルムアミドを留去回収した。次いで、40℃の水1600リットルを加え、攪拌しながら6規定の塩酸水380kgを徐々に添加、水層のpHを4.5に調整した。静置後水層を分離し、トリアリルイソシアヌレート含有有機層に2重量%の炭酸ナトリウム水溶液820リットルを加え、40℃にて攪拌、1回目のアルカリ洗浄を行つた。このときのpHは10.0であった。静置後、水層を分離し、トリアリルイソシアヌレート含有層に再び2重量%の炭酸ナトリウム水溶液820リットルを加え、40℃にて2回目のアルカリ洗浄を行った。pHは10.6であった。水層を分離後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を加熱脱水し、120?130℃、1?1.5mmHgにて蒸留して、精製トリアリルイソシアヌレート643kgを得た(収率89%)。得られた精製トリアリルイソシアヌレート中の塩素イオン濃度をイオンクロマトグラフィーにより定量した結果、0.17ppmであつた。
【0015】
【実施例2】実施例1と同様に反応し、ジメチルホルムアルデヒドを留去し、塩酸水により脱塩洗浄を行った。水層を分離後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層に、2重量%の炭酸ナトリウム水溶液820リットルとシクロヘキサン40リットルを加え、40℃にて攪拌、1回目のアルカリ洗浄を行つた。pHは9.6であった。静置後水層を分離し、トリアリルイソシアヌレート含有有機層に、2重量%の炭酸ナトリウム水溶液820リットルを加え、60℃にて2回目の洗浄を行つた。水層を分離後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を加熱脱水し、120?130℃、1?1.5mmHgにて蒸留して精製トリアリルイソシアヌレート635kgを得た(収率88%)。得られた精製トリアリルイソシアヌレートに含まれる塩素イオン濃度を、イオンクロマトグラフィーにより定量した結果、0.1ppmであつた。
【0016】
【比較例1】実施例1と同様に反応させてた後、ジメチルホルムアルデヒドを留去し、塩酸水により脱塩洗浄を行った。水層を分離後、トリアリルイソシアヌレート含有有機層に、30℃の水820リットルを加え攪拌、1回目の水洗を行つた。pHは3.0であった。静置後水層を分離し、トリアリルイソシアヌレート含有有機層に30℃の水820リットルを加え攪拌、2回目の水洗を行つた。2回目水洗では、水層のpHが7になるように1規定の苛性ソーダ水溶液で中和した後、水層を分離した。次いで、トリアリルイソシアヌレート含有有機層を加熱脱水し、120?130℃、1?1.5mmHgにて蒸留して精製トリアリルイソシアヌレート647kgを得た(収率90%)。得られた精製トリアリルイソシアヌレートに含まれる塩素イオン濃度を、イオンクロマトグラフィーにより定量した結果、7ppmであつた。」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「高純度のトリアリルイソシアヌレート」(摘記(1b))に関して、摘記(1a)には、「オルトジクロロベンゼン溶媒中で第3級アミンの存在下シアヌール酸とアリルクロライドを反応させた後、反応混合物からトリアリルインシアヌレートを回収するトリアリルイソシアヌレートの製造法」として、「(a)前記溶媒中にシアヌール酸とトリ-n-プロビルアミンとをモル比1:3?3.9の割合に加えた反応系に、これを攪拌下105℃以上に保ちながら前記シアヌール酸1モルに対し3?3.9モルとなる量のアリルクロライドを徐々に添加し、アリルクロライドの全量を添加した後徐々に昇温させ180℃以下の温度で原料シアヌール酸の95%以上を反応させる工程;(b)(a)の工程で得られた反応液を冷却し、これに水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(c)(b)の工程で回収された有機層液に希塩酸を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(d)(c)の工程で回収された有機層液に希炭酸ソーダ水溶液を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(e)(d)の工程で回収された有機層に水を加えて洗浄した後分液し、有機層液を回収する工程;(f)(e)の工程で回収された有機層液から溶媒を留去することにより粗トリアリルイソシアヌレートを回収する工程;(g)(f)の工程で回収された粗トリアリルイソシアヌレートを精留することにより精製トリアリルイソシアヌレートを回収する工程からなる」「高純度トリアリルイソシアヌレートの製造法」が記載され、その具体例として、実施例1(摘記(1c))には、摘記(1a)の製造方法に相当する「オルトジクロロベンゼン」を溶媒として、「トリ-n-プロピルアミン」の存在下、「シアヌール酸」と「アリルクロライド」とを反応させ、その後洗浄、溶媒留去、精留を経て「純度99.92%」の「トリアリルイソシアヌレート」を得たことが開示されているといえる。
したがって、刊行物1には、
「純度が99.92%のトリアリルイソシアヌレート」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明と引用発明とは、「トリアリルイソシアヌレート」の点で一致し,以下の点で相違する。

相違点
トリアリルイソシアヌレートに含まれる不純物について、本願発明は、「以下の化学式(I)

で表される有機塩素化合物を含有し且つその含有量が500ppm以下(但し30ppm以下を除く)」であり、「化学式(I)の波線の結合は、シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物を示す」と特定されているのに対して、引用発明は、トリアリルイソシアヌレートの「純度が99.92%」と特定されている点。

相違点の判断
相違点について検討する。
(ア)本願発明は、上記「化学式(I)で表される有機塩素化合物」を含有することについて特定するところ、本願明細書には、かかる有機塩素化合物に関連して以下の記載が認められる。
(i)「(1)シアン酸ソーダ法やイソシアヌル酸法で得られるTAICには,不純物の1つとして化学式(I)で表される有機塩素化合物が含まれている・・・」(本願明細書【0008】)
(ii)「(2)化学式(I)で表される有機塩素化合物は,シアン酸ソーダとアリルクロライド中に不純物として含まれている化学式(II)で表される1,3-ジクロロプロペンとの反応で生成する。また,シアヌール酸と1,3-ジクロロプロペンとの反応でも生成する。」(本願明細書【0010】)
(iii)「(3)化学式(I)で表される有機塩素化合物は,蒸留などの分離手段で除去することが出来ないが,化学式(II)で表される1,3-ジクロロプロペンは,アリルクロライドの蒸留精製により容易に分離することが出来る。」(本願明細書【0012】)
(iv)「本発明においては,上記の何れの場合においても原料として1,3-ジクロロプロペンの含有量(シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物としての含有量)が200ppm以下であるアリルクロライドを使用することが重要である。」(本願明細書【0021】)
(v)「通常,工業用アリルクロライドには,プロピルクロライド,1,2-ジクロロプロペン,1,3-ジクロロプロパン,1,3-ジクロロプロペン類などの不純物が含まれている。1,3-ジクロロプロペンの含有量が200ppm以下であるアリルクロライドは,工業用アリルクロライドを精密蒸留することにより得ることが出来る。精密蒸留に使用する蒸留塔の理論段数は,通常50段以上,好ましくは60?90段であり,また,還流比は,通常5以上,好ましくは7?10である。1,3-ジクロロプロペンの含有量(シス型もしくはトランス型またはシス型とトランス型の任意の割合の混合物としての含有量)は,好ましくは100ppm以下である。」(本願明細書【0022】)

(イ)上記(ア)によれば、本願発明において特定される化学式(I)で表される有機塩素化合物は、刊行物1に示されるシアヌール酸とアリルクロライドを反応させる製造法においても、その出発原料の一つである「アリルクロライド」が、不純物として「1,3-ジクロロプロペン」を含有することに起因して生成されることが明らかである(上記ii)。
(ウ)以上を踏まえて検討すれば、引用発明の「トリアリルイソシアヌレート」は、少なくとも「シアヌール酸」と「アリルクロライド」とを反応させて得られるものであるところ、かかる出発原料としての「アリルクロライド」が「1,3-ジクロロプロペン」を含んでいるため、化学式(I)で表される有機塩素化合物を含んでいるといえる。

(エ)そして、引用発明において、本願発明と同様に、ガスクロマトグラフィーを用いて決定した純度が99.92%であるから、全不純物の量が0.08%(800ppm)であるといえる。

(オ)刊行物2の摘記(2a)?摘記(2c)から、トリアリルイソシアヌレートの技術分野において(摘記(2a))、塩酸で洗浄する手法では、残存ハロゲンイオン量は数ppm程度であるところ(摘記(2b))、アルカリ性側で洗浄することで、0.17ppm、0.10ppmといったさらに低い塩素イオン濃度をもつ精製トリアリルイソシアヌレートを得ることが記載され、500ppmをはるかに下廻るところまで塩素イオンを低減でき、すなわち、有機塩素化合物を低減できることが理解できる(摘記(2c))。
刊行物2によると、生成するトリアリルイソシアヌレートの塩素イオン濃度をできる限り低くしておく必要のあることが理解でき(摘記(2a)摘記(2b))、最終的に塩素イオンを発生する可能性のある、原料中の有機塩素化合物、生成物中の有機塩素化合物も含めて、塩素を含む不純物を除去しておくべきことは、当業者は当然に理解するといえる。

そして、引用発明のトリアリルイソシアヌレートは、高純度のものを得ることを目的とした方法の結果生じたものであり、刊行物2に記載されるように、化学式(I)で表される有機塩素化合物を含めて含有される有機塩素化合物は、各化合物が加水分解性を有するかどうかが程度の差は不明であっても、塩素イオンを放出する可能性があるのであるから、除去しておこうとする動機付けは存在するといえる。

(カ)さらに、摘記(1d)に記載されるように、原料のシアヌール酸とアリルクロライドの反応に際して、トリ-n-プロピルアミンを特定のモル数(シアヌール酸1モルに対して、3?3.9モルの比率)とすることで、反応系に副生する塩化水素を受容し、トリ-n-プロピルアミンの塩酸塩として固定させ反応を促進させ、後の工程において、トリ-n-プロピルアミンの塩酸塩として系外に除去されることが示されており、有機塩素化合物の原因となる、反応中に生成する塩化水素が反応系から除かれることを前提としているといえるので、刊行物1は、塩化物を生成物に混入させずに高純度のTAICを生成し、純度をあげることが示唆されているといえ、化学式(I)で表される化合物(I)を含めた有機塩素化合物は、引用発明において、不純物として当然認識されているものといえる。

(キ)したがって、トリアリルイソシアヌレートに含有する有機塩素化合物を含めた不純物を除去する手段が、刊行物1に記載されているし、刊行物2に記載される塩素を含む不純物の除去手段も知られている以上、当業者であれば、刊行物1や刊行物2の精製手段を用いることによって、引用発明の800ppm含有する有機塩素化合物を含めた不純物をさらに低減して、たとえ化学式(I)の化合物を不純物として意図していなくとも、結果的に化学式(I)で表される有機塩素化合物を500ppm以下(但し30ppm以下を除く)とすることは容易になし得る技術的事項である。

ウ 本願発明の効果について
(ア)さらに効果について検討すると、本願発明のトリアリルイソシアヌレートは500ppm程度の化学式(I)で表される有機塩素化合物を含んだものを発明の範囲としており、原料のアリルクロライドに処理を行わない従来技術である比較例1の590ppmの化学式(I)で表される有機塩素化合物を含んだもの(【0032】)との間で当然顕著な差があるとはいえない上に、引用発明の全不純物が800ppmであるトリアリルイソシアヌレートとの間では、加水分解して塩素を放出しない他の不純物の存在を考慮すると、化学式(I)で表される有機塩素化合物の量に顕著な差は存在しないと考えられる。

(イ)また、仮に、引用発明のトリアリルイソシアヌレートに含まれる化学式(1)で表される有機塩素化合物の量が、500ppmを超える量であったとしても、刊行物1や刊行物2の精製手段を用いることによって、塩素を含んだ有機塩素化合物の量を相対的にさらに減少させることは、当業者の予測の範囲であるといえる。

したがって、本願発明は、引用発明との比較において、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項、本願出願日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超えた顕著な効果を奏するものとはいえない。

エ 小括
以上によれば、上記相違点は当業者が容易に想到し得たものといえる。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、平成29年2月28日付け意見書4頁11?30行において、刊行物1のガスクロマトグラフィー分析における純度99.92%は、「エチルジアリルイソシアヌレート」「ジエチルジアリルイソシアヌレート」「ジアリルイソシアヌレート」のような不純物であると解すべきで、刊行物1に記載も示唆もされていない化合物について分析が行われているとの見解は、技術水準から乖離している旨主張している。
しかしながら、刊行物1には、上記3つの化合物以外の副生物に関しても、直接記載のあるプロピルジアリルイソシアヌレート等を含めて高純度のTAICを得る上で問題となる不純物の対象を限定することなく除去の対象としていると理解すべきで、高純度のTAICを求める場合、構造式が特定されていなくとも、ガスクロマトグラフィーによって、一定のピークを生じたものは、生成物のピーク面積との関係で、不純物のピーク面積に積算されて純度が計算されたものと理解することが自然であり、純度の計算における不純物の対象が3つのみに限定されている旨の請求人の上記主張は根拠のないものである。

イ 請求人は、平成29年2月28日付け意見書4頁下から5行?7頁16行において、本願発明で規定する有機塩素化合物(I)の加水分解性が公知でないので、塩素イオンを放出するかどうかは未知であり、除去しようとする動機付けは存在しない(後知恵)である旨主張している。
しかしながら、有機塩素化合物は、化合物(I)がそうであるように、加水分解性をもつ可能性をもち、塩素イオンを発生する可能性があるのであるから、個別の化合物が加水分解性をどの程度もつかが明確でなくとも、可能性のあるものを含めて有機塩素化合物を予め除いておくことは十分に動機付けられるものであるのは、前記(3)ア(オ)で述べたとおりである。

(5) まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2に記載された技術的事項及び出願日時点の技術常識に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術的事項、及び出願日時点の技術常識に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-27 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2015-84424(P2015-84424)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 佐藤 健史
瀬良 聡機
発明の名称 トリアリルイソシアヌレート  
代理人 岡田 数彦  
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