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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1330011
審判番号 不服2016-2853  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-25 
確定日 2017-07-25 
事件の表示 特願2013-190244「X線検出器において3Dゴーストアーチファクトを低減させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日出願公開、特開2014- 28281、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月7日(パリ条約による優先権主張 2005年11月9日 欧州特許庁)を国際出願日として出願した特願2008?539579号の一部を、平成25年9月13日に新たに出願したものであって、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年3月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月18日付けで意見書が提出され、同年10月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。」されたところ、平成28年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。その後当審において同年9月26日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成29年3月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるものと認められる。
そして、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
被験体に照射するX線源と、該被験体を通過したX線放射線を受け、該X線放射線の強度分布を表す電気信号を生成するX線検出器とを有するX線システムを使用して、前記被験体について得られるX線画像におけるアフターグローによるゴーストを低減させる方法であって、前記X線検出器が、該X線検出器に入射するX線放射線を受け、前記X線放射線を光学放射に変換するシンチレータを有し、前記方法は、前記X線源と前記X線検出器との間に被験体が存在しないとき、前記X線源にX線放射線ビームを生成させ、前記検出器に該X線放射線を受けさせ、前記検出器に入射する前記X線放射線により、前記検出器において生じる均一なゴーストを表す電気信号を生成させることにより、ゴースト除去スキャンを定期的に得るステップを有し、前記ゴースト除去スキャンに用いられる線量は、シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量である、方法。」

なお、本願発明2?4は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開平10-201752号公報)には、図面と共に以下の事項が記載されている。(以下、下線は当審にて付した。)

(引1a)「【0007】そこで、本発明はこれらの課題を解消するため、シンチレータ素子等をX線検出器に用いた場合であっても虚像などのない良好な画像が得られるX線CT装置の提供を目的とする。」

(引1b)「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、X線発生部と、X線を受けて発光する蛍光素子とこの蛍光素子の発光量を電気信号に変換する光電変換素子とを多数組み合わせたX線検出器とを有するX線CT装置であって、被検体撮像に先立ち前記X線検出器に前記蛍光素子が放射線損傷を受け出力感度が略一定となるだけのX線を前記X線発生部から照射させる制御手段を備えたことを特徴とする。」

(引1c)「【0013】X線検出部2は、入射X線を光に変換するシンチレータ素子と、このシンチレータ素子で変換された光を検出し電気信号として出力するフォトダイオードとからなるX線検出素子をX線発生部を中心として円弧状に約500?1000チャンネル程度配列した構成を備え、各チャンネルから得られるデータに対して増幅等通常必要とされる処理を施した後、AD変換して、演算制御部4に送出する。演算制御部4は、X線CT装置全体の動作制御を行うと共に、X線検出部2より送出された各チャンネル毎のデータに基づき被検体3の断層像を演算により求める。また、演算制御部4は、X線CT装置の立ち上げ時、或いは、長時間X線の照射がない場合に、前記各シンチレータ素子の感度が安定するだけのX線照射を行うようX線発生部1に対して与える。
【0014】次に、本発明の作用を演算制御部4の動作を示す図2及び図3に示されるフローチャートに基づいて説明する。」

(引1c)「【0025】上述した実施の形態では、各X線検出素子の感度が一定となるX線照射量を予め求めたが、通常のX線検出素子、例えば、シンチレータ素子などを用いたものなどであれば、5000mAs程度X線を照射すれば感度が安定するため、撮像に先立って行うX線照射量を5000mAs程度或いはそれ以上の所定値に固定しても良い。」

2 引用例1に記載の発明
上記アの(引1a)及び(引1c)の記載より、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「シンチレータ素子等をX線検出器に用いた場合であっても虚像などのない良好な画像が得られる目的を達成するために、
X線発生部と、X線を受けて発光する蛍光素子とこの蛍光素子の発光量を電気信号に変換する光電変換素子とを多数組み合わせたX線検出器とを有するX線CT装置において、
被検体撮像に先立ち前記X線検出器に前記蛍光素子が放射線損傷を受け出力感度が略一定となるだけのX線を前記X線発生部から照射させる制御手段を備え、
X線CT装置全体の動作制御を行うと共にX線CT装置の立ち上げ時、或いは、長時間X線の照射がない場合に、前記各シンチレータ素子の感度が安定するだけのX線照射を行うようX線発生部1に対して与える演算制御部4の動作であって、
シンチレータ素子などを用いたものなどであれば、5000mAs程度X線を照射すれば感度が安定するため、撮像に先立って行うX線照射量を5000mAs程度或いはそれ以上の所定値に固定した
演算制御部4の動作。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「被検体」、「X線発生部」、「X線」、「X線CT装置」、「画像」及び「虚像」は、それぞれ本願発明1の「被験体」、「X線源」、「X線放射線」、「X線システム」、「X線画像」及び「ゴースト」に相当するから、両者は、以下の(一致点)で一致し、以下の(相違点)で相違している。

(一致点)
「被験体に照射するX線源と、該被験体を通過したX線放射線を受け、該X線放射線の強度分布を表す電気信号を生成するX線検出器とを有するX線システムを使用して、前記被験体について得られるX線画像におけるゴーストを低減させる方法であって、前記X線検出器が、該X線検出器に入射するX線放射線を受け、前記X線放射線を光学放射に変換するシンチレータを有し、前記方法は、前記X線源と前記X線検出器との間に被験体が存在しないとき、前記X線源にX線放射線ビームを生成させ、前記検出器に該X線放射線を受けさせ、前記検出器に入射する前記X線放射線により、前記検出器において生じる均一なゴーストを表す電気信号を生成させることにより、ゴースト除去スキャンを定期的に得るステップを有する方法。」

(相違点)
本願発明1は、「アフターグローによるゴーストを低減させる方法であって」、「前記ゴースト除去スキャンに用いられる線量は、シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量である」のに対し、引用発明は、どの様な「虚像」を低減させるものであるのか限定されておらず、また、線量についても、本願発明1のような限定がなされていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、「虚像」などのない良好な画像を得るために、「撮像に先立って行うX線照射量を5000mAs程度或いはそれ以上の所定値に固定した」ものであるが、引用発明には、除去対象の「虚像」に関し、何ら限定がない以上、引用発明のX線照射量を、「シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量」とする動機付けがあるとはいえない。
そして、本願発明1は、「前記ゴースト除去スキャンに用いられる線量は、シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量である」とすることにより、シンチレータトラップのほとんどが満たされるので、アフターグローによるゴーストが、強いが均一なゴーストとなることにより、不均一なゴーストが抑制されるという効果を有するものである。(本願明細書段落【0019】参照)
また、平成27年3月19日付けで最後の拒絶理由で引用された、引用例2(特開2001-309915号公報)にも、上記相違点に関する構成が記載も示差もされておらず、当該技術分野において周知の事項であるともいえない。
そうすると、本願発明は、引用発明や、引用例2に記載された発明から容易に想到できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4も、本願発明1の「アフターグローによるゴーストを低減させる方法であって」、「前記ゴースト除去スキャンに用いられる線量は、シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量である」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の理由について
原査定は、請求項1?4について上記引用文献1に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年3月23日付け手続補正により補正された請求項1は、「アフターグローによるゴーストを低減させる方法であって」、「前記ゴースト除去スキャンに用いられる線量は、シンチレータトラップが実質的に満たされるような線量であり、それぞれの被験体についてのその後のスキャンを得るために使用される線量と実質的に同じオーダーの検出器線量である」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-4は、上記引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1には、「差分ゴースト」と記載されているが、この「差分ゴースト」の「差分」とは、何と何との差分を取ったものであるのか、本願明細書及び図面記載並びに当該技術分野における技術常識を考慮しても理解することができないから、「差分ゴースト」がどういうものであるのか理解できない。したがって、請求項1に係る発明は明確ではないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年3月23日付けの補正において、「差分ゴースト」が「アフターグローによるゴースト」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2013-190244(P2013-190244)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南川 泰裕田邉 英治  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 福島 浩司
▲高▼見 重雄
発明の名称 X線検出器において3Dゴーストアーチファクトを低減させる方法  
代理人 笛田 秀仙  

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