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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1330015
審判番号 不服2015-2287  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-05 
確定日 2017-07-04 
事件の表示 特願2013-509031「切断クラウンを備えた格納式注射器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日国際公開、WO2011/139229、平成25年6月20日国内公表、特表2013-525062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、2010(平成22)年12月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月7日 米国、2010年8月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月10日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年4月1日に意見書の提出とともに手続補正がなされたが、同年9月29日付けで拒絶査定された。
これに対して、平成27年2月5日に拒絶査定に対する審判請求と同時に手続補正がなされ、平成28年6月14日付けで当審から拒絶の理由が通知され、同年11月17日に意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年11月17日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
外筒(140);
針(1520)を備え、前記針(1520)の内部が該外筒(140)内のチャンバと流体連通している針ユニット;
該針ユニットを前記外筒(140)の一端で保持するための保持機構(1540);
前記外筒(140)の中を前記針ユニットに向かって可動である中空のプランジャ(120);
前記針ユニットを該プランジャ(120)内に押しやるための駆動機構(1600);
および
前記針ユニットに面する前記プランジャ(120)の端部にある切断クラウン(1200)を備える格納式注射器であって、
前記プランジャ(120)が、前記プランジャ(120)の長手方向軸(122)に沿って力を加えることによって進められる際、該切断クラウン(1200)が、前記保持機構(1540)を切断するように構成されることで、前記駆動機構(1600)が前記針ユニットを前記外筒(140)内に格納し、
前記切断クラウン(1200)の外形が複数の切断歯(1220)を含んでおり、前記切断歯(1220)が、前記切断クラウン(1200)の他の部分が前記保持機構(1540)の他の部分を切断する前に前記保持機構(1540)の第1の部分を切断し、前記切断歯(1220)が、隣接した前記切断歯(1220)の間の空間を占め歯から歯にわたるアーチ型のブリッジ(1210)を有し、
前記プランジャ(120)が、前記プランジャ(120)の長手方向軸(122)に沿って力を加えることによって進められる際、前記保持機構(1540)の第1の部分を切断するための先の尖った端部を形成するために、前記切断歯(1220)が、前記プランジャ(120)の長手方向軸(122)に向かって内向きに先細になっている、
格納式注射器(100)。」(以下「本願発明」という)

2 当審が通知した拒絶の理由
一方、当審が平成28年6月14付けで通知した拒絶の理由の「理由1」の概要は、以下のとおりである。
本件出願の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表平6-503236号公報
引用文献2:特開昭52-48888号公報
引用文献3:実公昭51-12959号公報
引用文献4:特表2003-512897号公報

3 引用例の記載事項
(1)当審が通知した上記拒絶の理由で引用した特表平6-503236号公報(以下「引用文献1」という)には、図1?13とともに次の事項が記載されている。
a 「図面を参照すると、図1は遠位端部14と近位端部16とを有する円筒バレルを含む安全注射器を示す。近位端部16は概ね開放していてプランジャ18のバレル12への挿入を可能にする。近位端部16はオペレータがプランジャ18を作動させるときにその指を守るフランジ20を含んでよい。
バレルの遠位端部14はばねハウジング22を受ける形状になっている。ハウジング22は、遠位端部14へ取り付けられるときに遠位端部14を圧縮するばね24の1端部を含む作用をする。ハウジング22は遠位端部14に取り付けられ、ばね24は針30上を慴動してハウジングフランジ28と遠位端部14の一部、もしくは保持器32との間で圧縮される。従って、ばねハウジング22はハウジング22がバレル12へ取り付けられるときに保持器32に付勢力を与える作用をする。ばね24上への圧縮力は保持器32と取り付けられた針30とをプランジャへ向けて付勢する。
プランジャ18は遠位端部34と近位端部36とを有する中空円筒部材である。近位端部36は閉鎖され、かつオペレータの指を置くための適宜圧力点となるプランジャフランジ38を有していてよい。プランジャの遠位端部34には短い円筒部40が形成されている。円筒部40は内径がプランジャ18の内径よりも小さい中空を有する。また、円筒部40の外径はプランジャ18の外径よりも小さいのが好ましい。円筒部40の遠位端部で円筒部40の外径と内径との間には概ね円筒ナイフの形状のカッティングチップ42がある。」(5ページ右上欄15行-左下欄11行)
b 「図3-6はカッティングチップ42の1態様を示す。ここでは、該カッティングチップは円筒状ナイフエッジをから成り、該ナイフエッジの全周で部材44とタブ48とを同時に穿孔する。多くの場合に、他の部の前に部材44の一部ととタブ48とを穿孔するために、図7-9に示されたような面取りしたカッティングチップ42Aに形成するのが望ましい。面取りしたカッティングチップ42Aは部材44とタブ48の穿孔および貫通をより容易にする。」(6ページ右上欄10-16行)
c 「本発明の格納式針を有する安全注射器は、従って、患者に流体を配送し、流体が移送された後に続いて針を注射器内へ収縮させることができる。」(7ページ左下欄25-27行)
d 図8及び図9には、面取りされた円筒ナイフ形状のカッティングチップ42aの、プランジャの長手方向軸に向かって内向きに先細とされたナイフエッジが、カッティングチップ先端部に形成されている様が看取される。

e 上記摘記事項a?c及び認定事項dを、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「バレル12;
針30が取り付けられ、バレル12の遠位端部14に形成された保持器32;
前記バレル12の中を前記針30が取り付けられた保持器32に向かって可動である中空のプランジャ18;
前記針30が取り付けられた保持器32を該プランジャ18に向けて付勢するばね24;
および
前記針30が取り付けられた保持器32に面する前記プランジャ18の遠位端部34に、円筒ナイフ形状のカッティングチップ42aを備える格納式針を有する安全注射器であって、
前記プランジャ18が、前記プランジャ18の長手方向軸に沿って力を加えることによって進められる際、該円筒ナイフ形状のカッティングチップ42aが、前記保持器32を切断するように構成されることで、前記ばね24が前記針30が取り付けられた保持器32を前記バレル12内に格納し、
前記円筒ナイフ形状のカッティングチップ42aの外形が面取りしたナイフエッジであり、前記面取りしたナイフエッジにより、他の部の前に部材44とタブ48の一部を切断することで、部材44とタブ48の穿孔及び貫通をより容易にし、
前記プランジャ18が、前記プランジャ18の長手方向軸に沿って力を加えることによって進められる際、部材44とタブ48を穿孔及び貫通するための先の尖った端部を形成するために、前記面取りしたナイフエッジが、前記プランジャ18の長手方向軸に向かって内向きに先細になっている、
格納式針を有する安全注射器。」(以下「引用発明」という)

(2)当審が通知した上記拒絶の理由で引用した特開昭52-48888号公報(以下「引用文献2」という)には、第1?6図とともに次の事項が記載されている。
a 「本発明は穿孔器の抜刃の改良に関する。書類綴じ込み用孔を穿孔する穿孔器は周知のように事務用品として広く利用され、これまで種々変形したものが提案されている。」(1ページ左下欄8-11行)
b 「パイプ刃12はパイプ材をせん盤で適当な長さに切断した後、このパイプ材の下端部の内周面に小型フライス盤で刃先を切削形成して製作される。・・・刃先15は十分書類等のシート状体を打抜いて穿孔する・・・」(2ページ右上欄4-11行)
c 第3図及び第4図に示されたパイプ刃12は、パイプ刃先15の外形が、一対の刃と当該刃の間の空間を占め刃から刃にわたる湾曲形状を有していることが看取される。


4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「バレル12」、「針30」、「プランジャ18」及び「格納式針を有する安全注射器」は、それぞれ本願発明の「外筒」、「針」、「プランジャ」及び「格納式注射器」に相当することは、当業者には自明である。
引用発明の「針30が取り付けられ、バレル12の遠位端部14に形成された保持器32」は、針30をバレル12に接続する機能やバレル12の端部で保持されている構造を勘案すると、本願発明の「針を備え、前記針の内部が該外筒内のチャンバと流体連通している針ユニット」及び「該針ユニットを前記外筒の一端で保持するための保持機構」を兼ねている部材であると認められる。
引用発明の「前記針30が取り付けられた保持器32を該プランジャ18に向けて付勢するばね24」は、その機能から見て、本願発明の「前記針ユニットを該プランジャ内に押しやるための駆動機構」に相当するものである。
引用発明の「プランジャ18の遠位端部34に、円筒ナイフ形状のカッティングチップ42aを備える」点は、その形状から見て、本願発明の「プランジャの端部にある切断クラウン」に相当するものである。そして、引用発明の「カッティングチップ42a」は、円筒形状のナイフエッジとなっているから、外形が切断歯を含むことは明らかである。また、引用発明の「前記面取りしたナイフエッジにより、他の部の前に部材44とタブ48の一部を切断することで、部材44とタブ48の穿孔及び貫通をより容易に」することは、本願発明の「前記切断クラウンの他の部分が前記保持機構の他の部分を切断する前に前記保持機構の第1の部分を切断」することに相当していることも、当業者には自明である。

そうすると、引用発明は、以下の点で本願発明と一致し、また相違する。
<一致点>
「外筒;
針を備え、前記針の内部が該外筒内のチャンバと流体連通している針ユニット;
該針ユニットを前記外筒の一端で保持するための保持機構;
前記外筒の中を前記針ユニットに向かって可動である中空のプランジャ;
前記針ユニットを該プランジャ内に押しやるための駆動機構;
および
前記針ユニットに面する前記プランジャの端部にある切断クラウンを備える格納式注射器であって、
前記プランジャが、前記プランジャの長手方向軸に沿って力を加えることによって進められる際、該切断クラウンが、前記保持機構を切断するように構成されることで、前記駆動機構が前記針ユニットを前記外筒内に格納し、
前記切断クラウンの外形が切断歯を含んでおり、前記切断歯が、前記切断クラウンの他の部分が前記保持機構の他の部分を切断する前に前記保持機構の第1の部分を切断し、
前記プランジャが、前記プランジャの長手方向軸に沿って力を加えることによって進められる際、前記保持機構の第1の部分を切断するための先の尖った端部を形成するために、前記切断歯が、前記プランジャの長手方向軸に向かって内向きに先細になっている、
格納式注射器。」
<相違点>
本願発明が、「切断クラウンの外形が複数の切断歯を含んでおり、前記切断歯が、隣接した前記切断歯の間の空間を占め歯から歯にわたるアーチ型のブリッジを有し」ているのに対し、引用発明では、カッティングチップ42が、面取りしたナイフエッジの形状はしているが、アーチ型のブリッジを有する複数の切断歯は有していない点。

5 当審の判断
上記相違点について検討する。
打ち抜き加工に使用する円筒刃で、アーチ型のブリッジを有する2つの切断歯を有するものは、例えば、引用文献2にも、書類綴じ込み用孔を穿ける穿孔器に用いられているパイプ刃12(第3図、第4図を参照)として示されているように、日常的に接する程度の従来周知のものにすぎない。そして、このような従来から身近なものにも利用されている円筒刃の構造を、引用発明の「格納式針を有する安全注射器」の「円筒ナイフ形状のカッティングチップ42a」に適用することは、当業者にとって格別困難性のあることではない。
また、引用発明のカッティングチップ42aは、面取りしたナイフエッジの形状にすることで、円筒刃の全体で同時に切断を行うのではなく、一部を他部よりも先に切断を行うようにすることで穿孔及び貫通をより容易にするものである。そうすると、引用発明において、このように一部を他部よりも先に切断する円筒刃の形状として周知の、引用文献2に示された穿孔器のパイプ刃12のような2つの山部と谷部とを連続して形成した形状のものを採用しようとする動機付けがあるものと言える。
よって、引用発明のカッティングチップ42aの外形形状を、本願発明のように「隣接した切断歯の間の空間を占め歯から歯にわたるアーチ型のブリッジを有」するように構成することは、当業者であれば容易に想到する事項であると認められる。
そして、本願発明によってもたらされる効果も、引用発明及び引用文献2に記載された事項から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものではない。

請求人は平成28年11月17日付け意見書において、「引用文献1と引用文献2の発明は、引用文献1が注射器の分野であるのに対し、引用文献2は紙の書類に孔を開ける穿孔器の分野であることから、それぞれの分野は互いに全く異なります。このように、引用文献2の穿孔器は、本願発明の格納式注射器の分野とは全く異なっており、医療機器として使用するための注射器と紙に孔を開ける穿孔器の設計に関する教示とを当業者が組み合わせることは、何らかの教示が無ければ容易ではないと思われます。したがって、当業者が、格納式注射器の分野で直面する課題を克服するために、紙に孔を開けるための穿孔器が開示された引用文献2を参照すると仮定することは不適切であると思われます。書類に孔を開ける技術と、ヒト/動物の皮膚を穿孔する技術とは全く異なるものです。」と主張している。
しかし、引用発明のカッティングチップ42aは、注射器という医療機器に用いられるものでもあるが、一方、針30を取り付けた保持器32という非金属材料の切断・剪断による穴開けに用いる円筒ナイフであって、非金属材料の切断技術に係るものでもある。(注射器自体が「ヒト/動物の皮膚を穿孔する技術」に属するものであっても、その注射器の外筒や針ユニットを切断する技術は、非金属材料の切断技術にも属するものである。)そうすると、引用発明のカッティングチップ42aに対して、同様に非金属材料の円筒工具による穴開け切断技術に係る引用文献2に記載された穿孔器のパイプ刃12の構造を組み合わせることが、当業者にとって困難性があるものとは認められない。
よって、上記請求人の主張を採用することはできない。

また、請求人は上記意見書において、「引用文献2のこのような孔の開け方は、プランジャに長手方向軸に沿って力が加えられることにより切断クラウンが進められ、切断クラウンに設けられた特別な先端形状を有する切断歯によってのみ穿刺/穿孔が行われる本願の請求項1の格納式注射器による孔の開け方とは異なります。」とも主張している。
しかし、上記主張でいう「特別な先端形状」とは、本願発明の「切断歯」が、「プランジャの長手方向軸に向かって内向きに先細になっている」事項を指すと解されるが、上記「4 対比」の項で示したとおり、当該事項は引用発明と一致する関係であるから、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用したものについて孔の開け方が異なることにはならない。
よって、請求人の上記主張は失当である。

さらに、請求人は上記意見書において、「引用文献2は、上述のような穿孔方法が本願の請求項1の発明と異なるだけでなく、本願の請求項1の格納式注射器の切断クラウンの切断歯の切断輪郭は、引用文献2のパイプ刃12の切断輪郭とは大きく異なっています。・・・本願の請求項1に記載の格納式注射器の切断クラウン(100)は、アーチ型のブリッジによって形成される尖った先端(120)を有しています。」とも主張している。
しかし、請求項1には、「先の尖った端部を形成するために、前記切断歯(1220)が、前記プランジャ(120)の長手方向軸(122)に向かって内向きに先細になっている」事項は記載されているものの、「アーチ型のブリッジによって形成される尖った先端」については記載されていない。
よって、請求人の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから、採用することはできない。

6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、拒絶をすべきものである。
よって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2017-01-13 
結審通知日 2017-01-24 
審決日 2017-02-09 
出願番号 特願2013-509031(P2013-509031)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉橋 紀夫  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 栗田 雅弘
刈間 宏信
発明の名称 切断クラウンを備えた格納式注射器  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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