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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1330024
審判番号 不服2016-4433  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-24 
確定日 2017-07-03 
事件の表示 特願2014-131828「ココナッツ果汁入り飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月18日出願公開、特開2016- 7206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月26日の出願であって、平成27年12月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年3月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「ココナッツ果汁と、安定剤を含有し、pHが4.6未満であり、且つ、20℃における粘度が1?1.8mPa・sに調整されたココナッツ果汁入り飲料。」

第3 引用文献
1 原査定の拒絶の理由に引用された特表2006-506051号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
ココナッツ水飲料の製造方法であって、
ココナッツ水に、このココナッツ水のpHを4.5未満のレベルまで低下させるに十分な量の食品用の酸を配合する工程を含む方法。」

「【請求項34】
ココナッツ水を含み、pHが4.5未満であるココナッツ水飲料。」

「【0006】
残念ながら、ココナッツ水の自然のpHは、4.8から5.2の範囲にある。その結果、このものは低酸性食品に分類される。上記のように、商業的な生産のためには、そのような低酸性食品は、約115?125℃の温度でレトルト熱処理を行って、商業的に殺菌する必要がある。しかしながら、そのような処理は、食品を商業的に殺菌するのみならず、ココナッツ水の味や香りなどの感覚的特性を大きく劣化させる。例えば、低酸性熱処理によって、ココナッツ水には、腐敗したような調理しすぎの臭いと味が生じる。」

「【0007】
そこで、高酸性食品は低酸性食品に適用される厳しい熱処理に耐える必要がないことから、ココナッツ水のpHを4.5未満のレベルまで低下させ、ココナッツ水が高酸性食品として分類されるようにすることが、本発明の目的である。したがって、本発明の目的は、ココナッツ水本来の好ましい香りと味が保持されるように、pHが4.5未満のココナッツ水飲料を製造する方法を開発することにある。」

これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ココナッツ水を含み、pHが4.5未満であるココナッツ水飲料。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-312404号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、果汁含有飲料に関し、果汁の風味を損なうことなく、また、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持しつつ、果汁の沈殿を有意に抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、果汁含有飲料に水溶性ヘミセルロースを単独で添加するか、或いは、水溶性ヘミセルロースに加えて、HMペクチン、カルボキシメチルセルロース、タマリンドシードガム及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上を併用して添加することにより、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持しつつ、果汁の沈殿を有意に抑制することができることを見いだした。
【0007】
即ち、本発明は、果汁含有飲料中において、水溶性ヘミセルロース単独で使用するか、或いは水溶性ヘミセルロースに加えて、HMペクチン、カルボキシメチルセルロース、タマリンドシードガム及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上を併用して使用することを特徴とする、果汁含有飲料中の果汁の沈殿を抑制する方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、果汁含有飲料に関して、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持しつつ、果汁の沈殿を有意に抑制することができる。」

「【0010】
本発明の果汁含有飲料は、果汁成分を含有する飲料であれば特に限定されない。果汁の飲料中の配合割合としては、果汁の沈殿が問題となる量で有れば特に制限はないが、一般的には、飲料に対し1%以上添加した場合、果汁の沈殿が問題となる場合が多い。また、上限は特になく、果汁100%含有する飲料であっても本発明の効果を発揮する。」

「【0013】
本発明で使用する果汁は、果実を原料とした液汁・搾汁のことを言い、果汁の種類は特に限定されない。例えば、柑橘果汁(スイートオレンジ果汁、ミカン果汁、グレープフルーツ果汁、レモン果汁、ライム果汁、キーライム果汁など)、りんご果汁、ブドウ果汁、モモ果汁、パイナップル果汁、グァバ果汁、バナナ果汁、マンゴ果汁、アセロラ果汁、パパイア果汁、パッションフルーツ果汁、梅果汁、梨果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ストロベリー果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁、キウイ果汁、カシス果汁、メロン果汁などの果物由来の果汁などを挙げることができる。」

3 原査定の拒絶の理由に引用された「Transactions of the Chinese Society of Agricultural Engineering,2013年10月,Vol.29, No.19,pp.262-267」(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(訳は当審による。)。

「Abstract: During the storage period, some kinds of quality problems exist in a coconut water beverage such as precipitation and suspension, which could affect the quality and stability of the product.」(267頁「Abstract」の欄)(要約:貯蔵期間において、ココナッツ水飲料には、製品の品質と安定性に影響を与え得る沈殿と懸濁のような幾種類かの品質上の問題が存在する。)

第4 対比
引用発明の「ココナッツ水」、「ココナッツ水飲料」は、それぞれ、本願発明の「ココナッツ果汁」、「ココナッツ果汁入り飲料」に相当する。
引用発明の「pHが4.5未満」は、本願発明の「pHが4.6未満」の範囲内である。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「ココナッツ果汁を含有し、pHが4.6未満であるココナッツ果汁入り飲料。」

[相違点]
本願発明は、「安定剤を含有し」「20℃における粘度が1?1.8mPa・sに調整された」ことが特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がされていない点。

第5 判断
前記「第4 3」に示した引用文献3の記載によれば、ココナッツ水飲料の品質上の問題として、貯蔵期間において沈殿と懸濁を生じることが、当業者には知られていたと認められる。
また、引用文献2には、前記「第4 2」のとおり、果汁含有飲料に関し、果汁の風味を損なうことなく、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持しつつ、果汁の沈殿を有意に抑制する方法として、「果汁含有飲料中において、水溶性ヘミセルロース単独で使用するか、或いは水溶性ヘミセルロースに加えて、HMペクチン、カルボキシメチルセルロース、タマリンドシードガム及びローカストビーンガムから選ばれる1種又は2種以上を併用して使用することを特徴とする、果汁含有飲料中の果汁の沈殿を抑制する方法」との技術事項が開示されている。
そして、引用文献2には、果汁含有飲料は、果汁成分を含有する飲料であれば特に限定されないこと(【0010】)、果汁の種類は特に限定されないこと(【0013】)が記載されているのであるから、具体的な果汁としてココナッツ果汁は例示されていないものの、上記引用文献2に開示された技術事項は、ココナッツ果汁含有飲料にも適用可能であると、当業者には理解される。
そうすると、引用発明のココナッツ水飲料についても沈殿を生じることを当業者は容易に理解し、その問題を解決するために、果汁の風味を損なうことなく、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持しつつ、果汁の沈殿を有意に抑制することができる上記引用文献2の技術事項を適用する動機付けがあるといえる。
ここで、引用文献2の技術事項の「水溶性ヘミセルロース」は、沈殿防止のために添加されるものであるから、本願発明の「安定剤」に相当する。
また、本願発明において「20℃における粘度が1?1.8mPa・sに調整された」とは、本願明細書の「20℃における粘度が1?1.8mPa・sと当該飲料の口当たりに大きな影響を与えない程度の少量の安定剤を添加させる」(【0013】)との記載や、実施例において安定剤添加率が大きいほど粘度も大きいことに照らせば、安定剤を添加すれば粘度が増大することを前提に、粘度の増大の程度を所定値に限定する趣旨であって、安定剤の種類は特定されず、安定剤の添加量を少量とすることで実現されるものと解される。一方、引用文献2の技術事項は、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持することも特徴とするものであって、引用文献2の安定剤は、引用文献2の実施例4と比較例12を参照すると、本願発明が実施例とするHMペクチンに比べても粘度増大の程度が小さいものである。そうすると、引用発明に引用文献2の技術事項を適用するに際しては、粘性が付与されず、のど越しがさっぱりとした状態を維持することは当然に考慮されるのであり、その結果として「20℃における粘度が1?1.8mPa・s」を実現することにも何ら困難性はないというべきである。
したがって、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明に引用文献2の技術事項を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明が、引用発明及び引用文献2の技術事項から予測できない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

なお、審判請求人は、引用文献1及び2には、「pHを4.6未満に下げた場合に進行する凝集・沈殿の問題」については何も記載されてない旨を主張するが、そうであっても、上記のとおり、引用発明に引用文献2の技術事項を適用する動機付けがあるといえるし、引用文献2には、pH3.0のミカン果汁飲料について沈殿が進行することが示されていて(比較例11)、当業者は上記問題を認識し得たともいえるから、当該主張は、上記判断を左右するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-27 
結審通知日 2017-05-08 
審決日 2017-05-19 
出願番号 特願2014-131828(P2014-131828)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 佐々木 正章
紀本 孝
発明の名称 ココナッツ果汁入り飲料  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 小澤 誠次  

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