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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1330067
異議申立番号 異議2016-700070  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-29 
確定日 2017-05-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5756372号発明「非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5756372号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5756372号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5756372号に係る出願(特願2011-187665号、以下「本願」という。)は、平成23年8月30日に出願人楠本化成株式会社(以下「特許権者」という。)によりなされた特許出願であり、平成27年6月5日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨・経緯
本件特許につき平成28年1月29日付けで異議申立人津崎愛美(以下「申立人」という。)により「特許第5756372号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。
その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年 3月23日付け 異議申立書副本送付(特許権者あて)
平成28年 4月14日付け 取消理由通知
平成28年 6月20日 意見書・訂正請求書
平成28年 6月30日付け 通知書(申立人あて)
平成28年 8月 3日 意見書(申立人)
平成28年10月21日付け 取消理由通知(決定の予告)
(なお、以降、特許権者からの意見書又は訂正請求書の提出はなかった。)

第2 平成28年6月20日付けの訂正請求について
上記平成28年6月20日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。

1.訂正内容
本件訂正は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項1ないし4(すなわち全請求項)について一群の請求項ごとに訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲請求項1に「ジアマイド化合物(A)を40?90重量%、ジアマイド化合物(B)を0?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?60重量%含有し」とあるのを、「ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有し」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書(の発明の詳細な説明)を下記ア.?ク.のとおりに訂正する。

ア.段落【0014】に記載されているジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)及びワックス(C)の含有量「40?90重量%」、「0?50重量%」及び「10?60重量%」を、それぞれ「40?80重量%」、「10?50重量%」及び「10?40重量%」と訂正する。
イ.段落【0020】に記載されているジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)及びワックス(C)の含有量「40?90重量%」、「0?50重量%」及び「10?60重量%」を、それぞれ「40?80重量%」、「10?50重量%」及び「10?40重量%」と訂正する。
ウ.段落【0027】に記載されているジアマイド化合物(A)の含有量上限値「90重量%」を、「80重量%」と訂正する。
エ.段落【0031】に記載されているジアマイド化合物(B)の含有量下限値「0重量%」を、「10重量%」と訂正する。
オ.段落【0037】に記載されているワックス(C)の含有量上限値「60重量%」を、「40重量%」と訂正する。
カ.段落【0038】に記載されているジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびワックス(C)の含有量「40?90重量%」、「0?50重量%」及び「10?60重量%」を、それぞれ「40?80重量%」、「10?50重量%」及び「10?40重量%」と訂正する。
キ.段落【0055】の表2から、配合実施例3、4、5、6、10及び11(ジアマイド化合物(B)を含んでいない配合例)に関する記載を削除する。
ク.段落【0061】の表4から、配合実施例3、4、5、6、10及び11に関する記載を削除する。

2.検討
上記訂正事項1は、請求項1の本件特許に係る「垂れ防止剤」における「ジアマイド化合物(A)」、「ジアマイド化合物(B)」及び「ワックス(C)」の含有量範囲につきそれぞれ減縮するものであり、同項記載の発明の範囲を実質的に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、上記訂正事項2は、いずれも、訂正事項1に係る訂正により生起する特許請求の範囲(請求項1)の記載内容と明細書の発明の詳細な説明の記載内容との不一致を整合するように単に正すものであるから、同法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
なお、本件訂正は、訂正後の請求項1ないし4につき一群の請求項ごとに訂正するものであり、上記訂正事項1の請求項1に係る訂正により、同項を引用する請求項2ないし4についても、特許請求の範囲が実質的に減縮されているものと認められる。
そして、上記訂正事項1及び2による訂正は、本件特許明細書に記載された「ジアマイド化合物(A)」、「ジアマイド化合物(B)」及び「ワックス(C)」の含有量範囲内で、特許請求の範囲におけるそれらの含有量範囲を実質的に減縮しているのであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであることが明らかであり、また、本件特許に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでないことも明らかである。
してみると、本件訂正に係る上記訂正事項1及び2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件をも満たすものと認められる。

3.訂正請求に係る検討のまとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第3 本件特許に係る請求項に記載された事項
上記適法な訂正請求により訂正された本件特許に係る請求項1ないし4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を含み、上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有し、5?30ミクロンの範囲の粒子径を有する粉末であることを特徴とする非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項2】
ジアミンが、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミンまたはキシリレンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項3】
カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)が、酸化ポリエチレンワックス(酸価が3?70 mg KOH/g)、酸化エチレン-プロピレン共重合体ワックス(酸価が3?70 mg KOH/g)またはエチレン-アクリル酸共重合体ワックス(酸価が5?180 mg KOH/g)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項4】
ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を加熱して融解させ、均一に混合した後に冷却し、冷却物を微粉砕することにより請求項1に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得る方法。」
(以下、上記訂正された請求項1ないし4に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明4」という。また、以上をまとめて「本件発明」ということがある。)

第4 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第9号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(5)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であり、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)
(4)本件特許の請求項1?4に係る発明は、(明細書の)発明の詳細な説明に記載されておらず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由4」という。)
(5)本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、明確でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由5」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特公昭51-48464号公報
甲第2号証:特開2008-260834号公報
甲第3号証:友重徹ら著、「合成ワックス」、高分子、1977年、第26巻、9月号、第637?642頁
甲第4号証:日本薬局方解説書編集委員会編、「第十四改正日本薬局方解説書」株式会社廣川書店、平成16年2月13日第3刷発行、D-972?975頁
甲第5号証:Neville Chemical Europe社発行,「SYNTHETIC HYDROCARBON RESIN」カタログ(<URL:http://deskr.com/new/dnload/dnload.inc.php?fn=HydrocarbonresinexNeville.pdf>で配信されたもの。2011年3月31日公開、第1?4頁)(部分訳添付)
甲第6号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 6」(縮刷版第24刷)昭和55年9月15日、共立出版株式会社発行、第274頁(「展色剤」の欄)
甲第7号証:「JISハンドブック 30 塗料」、第1版第1刷、2009年1月30日、財団法人日本規格協会発行、第74頁(「ジンクリッチペイント」の欄)
甲第8号証:新村出編「広辞苑」第六版第一刷、2008年1月11日、株式会社岩波書店発行、第2545頁(「ベンジルアルコール」の欄)
甲第9号証:「大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について(通知)」平成17年6月17日、環境省環境管理局長通達(環管大発第050617001号)、第1頁及び別紙1
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲9」と略していう。)

第5 当審の判断
当審は、
上記取消理由2及び取消理由4につき依然として理由があるから、その余の取消理由につき検討するまでもなく、訂正された本件発明1ないし4についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
以下、事案に鑑み、取消理由4、取消理由2の順に詳述する。

I.取消理由4について
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0012】の記載)からみて、「人や環境に対して有害な有機溶剤を含有しない非水系無溶剤型防食塗料に添加するための粉末状垂れ防止剤であって、比較的低温での分散であっても優れた垂れ防止効果を発揮し、塗料の貯蔵安定性を害することがなく、また有害な有機溶剤が含まれていない非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤並びにその製造方法」の提供にあるものと認められる。
ここで、「(有機)溶剤」につき検討すると、「溶剤」とは、樹脂、顔料、添加剤などを溶解あるいは分散して、取り扱いやすく、塗装などを容易にする揮発性の液体であると定義付けすることができ、有機物からなる溶剤が「有機溶剤」と定義できるところ、複数の溶質が存在する系における一部の溶質が溶解するものの他の溶質が溶解しない溶剤、すなわち「希釈剤」についても「溶剤」の範ちゅうに属するものと認められる(必要ならば下記参考文献の「溶剤」の項参照。)。
しかるに、申立人が申立書第16頁第16行?第17頁第4行で主張するとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、有機溶剤を含有しない非水系無溶剤型防食塗料に対して本件特許に係る粉末状垂れ防止剤を添加使用した場合につき記載されておらず、また、本件発明に係る「垂れ防止剤」が、上記課題を解決できるであろうと当業者が認識できるような作用機序についても不明である。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例(比較例)に係る記載を検討すると、いずれの実験例においても「ベンジルアルコール」なる有機溶剤及び「ネシレスEPX-L2」なる商品名の非反応性希釈剤、すなわち有機溶剤を使用した場合のみであり、「無溶剤型」の防食塗料に係る実験例ではないから、当該実施例(比較例)に係る記載に基づいて、本件発明が、上記解決しようとする課題を解決できるであろうと当業者が認識できると認めることはできない。
なお、本件発明に係る「垂れ防止剤」は、従来技術(例えば下記甲1又は甲2に開示された技術)に比して「比較的低温での分散であっても優れた垂れ防止効果を発揮し、塗料の貯蔵安定性を害することがな」いであろうと、当業者が認識できるような技術常識が存するものとも認められない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえその技術常識に照らしたとしても、上記請求項1及び同項を引用する請求項2ないし4に記載された事項で特定される本件発明1ないし4が、上記解決しようとする課題を解決できるであろうと認識できると認めることはできない。
したがって、本件発明1ないし4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(知財高裁特別部平成17年(行ケ)10042号判決参照。)。
よって、本件特許に係る上記請求項1ないし4の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものではない。
結局、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

参考文献:社団法人色材協会編「塗料用語辞典」1993年1月20日、技報堂出版株式会社発行、421頁(「溶剤」の欄)

II.取消理由2について
取消理由2につき検討する。

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由2は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし9に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1及び2に係る各引用発明の認定をそれぞれ行う。なお、記載事項の摘示における下線は当審が付した。

(1)甲1の記載事項及び記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「1 水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30モルパーセント含む有機酸混合物とアミンとの反応から得られる約100℃?約160℃の融点を有するアマイドワツクスと、約2?約50の酸価、約95℃?約120℃の軟化点、約0.92?約0.98の密度、約1?約20の針入度をもつ乳化性ポリエチレンワツクスとを、微細に分割された固体粒子を含む非水流体系に混在せしめることを特徴とする該非水流体系のレオロジー特性及び懸濁特性を改善する方法。」(第1欄第21行?第31行、特許請求の範囲の欄)

(a2)
「本発明は微細に分割された固体粒子を含む非水流体系の熱的にまた経時的に安定なレオロジー特性及び懸濁特性の調節方法に関するものである。
従来、レオロジー特性の調節のために使用されてきた添加剤にはステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、モンモリナイトの誘導体、重合油、脂肪酸、ダイマー酸あるいはそのアルキルエステル、水素添加ひまし油、乳化性ポリエチレンワックス等があるが、これらはいずれも種々の欠点を有している。・・(中略)・・重合油は一次的性質としての異状なまでの増粘性と関連して乾燥塗膜の光沢の低下に大きく影響するか、そうでないときにはダレ防止性の点で著しく不充分なものであった。脂肪酸、ダイマー酸などは、その添加によって塗料の粘度に比較的変化を与えない場合が多い点で特徴あるものといえるが、塗料に通常使用される亜鉛華、鉛白、黄鉛、炭酸カルシウムの如き顔料と共用すると乾燥塗膜の光沢の低下が著しかったり、はなはだしい場合には顆粒が見られるようになるなど塗料の価値を著しく傷つけることが多かった。また、ダイマー酸のアルキルエステル類は、光沢の低下の度合が小さい点で比較的良好な結果を与えるものを作ることができるのであるが、反面ダレ防止性が低下するという大きな償いを必要とする。水素添加ひまし油は塗料等の非水分散系において適当に膨潤・分散しているときはダレ防止性等に有効であることは公知であるが、このものは常温では効果が出難く50℃を越えれば顆粒を生じ、はなはだしい場合には40℃でも顆粒の発生の危険がある。しかるに、一般の練合分散機では温度コントロールが充分に出来ないため、冬期製造したものは効果が出難く、夏期に製造したものは顆粒が出る結果となり、非常に分散の条件が厳しいという欠点を有している。
この欠点を改良するべく多くの試みがなされたがその一つであるアマイドを水素添加ひまし油に併用する方法でも顆粒の発生に対する抵抗の程度はせいぜい60℃までが実状で、一般の分散機が70℃以上になることが少なくない点を考えるとなお不充分であり、相変らず顆粒発生の危険は避けられない。加えて、この変性の結果多くは低温分散時の効力が低下する傾向にあった。従って、適当な分散温度は効果の弱い領域まで含めてもせいぜい20℃の範囲を越えることはないという狭さで使用しずらかったことは明白である。また、乳化性ポリエチレンワックスにもある程度のダレ防止効果があるばかりでなく、水素添加ひまし油のような顆粒生成の危険から逃れられる点でこれが優れていることは明白であるが、最近の塗料業界が塗った直後のウエツト膜で250μ程度でもダレないことを要求している点を考慮すると著しく弱い効果しかなく、充分な効果を得るために添加量を増していくと乾燥塗膜の光沢の低下が大きくなる欠点があり、現在では沈降防止の目的しか活かされていない状況にあるといわなければならない。このように従来技術では、微粒子懸濁液中に存在させた微細な膨潤体粒子の作用によってレオロジー特性を調節する場合、その膨潤体の膨潤度合によって得られる効果に違いが生じ、さらに膨潤度合そのものが練合分散温度、練合分散機の種類、ビヒクルの種類等によりかなり影響を受けるだけでなく、従来技術によって提供される組成物の使用出来る条件の幅が狭いので、満足な結果を得るためには使用条件をかなり厳密にコントロールする必要があったのであり、レオロジー特性の調節剤として完全に満足できて効果のあるものがなかったことが明瞭である。」(第1欄第33行?第3欄第36行)

(a3)
「本発明の目的は、微細に分割された固体粒子を含む非水流体系のレオロジー特性及び懸濁特性を改善する組成物を、微細に分割された固体粒子を含む非水流体系に混在せしめる事を特徴とした熱的にまた経時的に安定なレオロジー特性及び懸濁特性を改善する方法を提供することである。本発明のこれらの目的及び他の目的は、以下のより詳しい記載から明らかとなるであろう。
本発明の方法は、水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30モルパーセント含む有機酸混合物とアミン(これらのアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等のアルコールアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、キシリレンジアミン等のポリアミン類及びベンジルアミンを含む)との反応から得られる約100℃?約160℃の融点を有するアマイドワツクス(これ以外の融点範囲のものについては本発明の効果が認められない)と、乳化性ポリエチレンワツクス(これらの乳化性ポリエチレンワツクスは約700?約6,000の分子量をもつべきもので、好ましくは約1000?約3500の範囲であり、酸価は少なくとも2以上のもので望ましくは約2?約50の範囲が特に有効である。より低い及びより高い分子量の乳化性ポリエチレンワックスについては本発明の効果が認められない)とを併用する方法で、微細粒子を含む非水流体系に適当量添加することにより、両者の相乗効果によって、そのレオロジー特性及び懸濁特性を調節するものである。
・・(中略)・・
本発明は、この両者を併用することによって個個に使用された場合と比べて厳しい使用条件を必要とするような煩わしさもなく、レオロジー特性、懸濁特性を改善する著しい効果を示し、また経時における安定性の点においても著しく優れている点で有用である。」(第3欄第37行?第5欄第1行)

(a4)
「本発明の併用方法は、両者を個々別々に添加する方法でも、混合物、共融物の形で同時に添加する方法でも良く、またその形状も粉状でも非水媒体中に分散した形でも良いが、両者を同時に非水媒体中に分散したものを、微細に分割された固体粒子を含む非水流体系に添加した場合において、特に練合分散機械及び練合分散温度を選ばない点で実用上最も優れた方法であるといえる。
即ち、使用に当ってはこれら二者を通常の顔料、その他の固体粒子と同様に、塗料その他の非水ビヒクル系に対して一般的な方法(サンドグラインドミル、アトライター、ロールミル、ボールミル、デイゾルバー等)で分散すれば良いのであり、練合分散温度も常温から70℃以上の高温まで広範囲にわたって実用的な効果が期待できるため、旧知の方法の欠陥は殆んど解決したのである。
本発明の二者の併用の割合は、乳化性ポリエチレンワツクスとアマイドワツクスの比が、前者が90に対して後者が10の割合から、前者が15に対して後者が85の割合の範囲にあれば有効である。
本発明のレオロジー特性・懸濁特性調節剤の添加量は、要求される効果(ダレ防止性、顔料沈降防止性等)、懸濁液の性質、懸濁液を製造する分散条件、使用される有機質流体の種類等のいくつかの因子に依存するため制限的なものではないが、通常固型分で0,1%?5%の範囲にある。」(第5欄第21行?第6欄第2行)

(a5)
「以下、本発明のレオロジー特性・懸濁特性調節方法とその効果を実施例について説明する。これら実施例について配合割合はいずれも固型分重量パーセントによって示す。
実施例 1
平均分子量2800、酸価17、軟化点97℃、密度0.920、針入度18の乳化性ポリエチレンワツクス2部と、ヘキサメチレンジアミン1モルと水素添加ひまし油脂肪酸2モルとからアマイド化して得られるN,N’-12-ヒドロキシステアロイルへキサメチレンジアマイド(融点132℃)1部をキシロール7部で分散液としたもの(実施例1-1)、同上の乳化性ポリエチレンワツクス1部をキシロール4部で分散液としたもの2部と、同上のアマイド1部をキシロール4部で分散液としたもの1部とを併用したもの(実施例1-2)、同上の乳化性ポリエチレンワツクス1部をキシロール4部で分散液としたもの10部と、同上のアマイドを粉砕機で30μに粉砕したもの1部とを併用したもの(実施例1-3)、同上の乳化性ポリエチレンワツクス1部と同上のアマイド1部を粉砕機で90μに混合粉砕したもの(実施例1-4)を、第1表の配合の標準的な長油大豆油変性アルキツド樹脂塗料に添加したときの塗料についての粘度(ストマー粘度計で25℃において測定した値)、ダレ防止性、顔料沈降防止性、促進貯蔵安定性(50℃恒温槽内にて30日間の促進試験)及び乾燥塗膜の光沢(JIS-K-5400、64に基ずくグロスメーターの値)を他の添加剤を最適の方法で使用した場合と比較して第2表に示す。




ここに採用したダレ防止性は次の試験方法によって評価したものであり、その数値が大きいものほど良好なダレ防止性があると判定されるものである。なお、「13ミル以上」とは13ミルの未乾燥塗膜厚にあっても0.2インチダレ下る部分がないこと、即ち初めて0.2インチを越えてダレ下る膜厚は13ミルを越えているとの意味に用いている(13ミルを越える膜厚はこの試験機では測定できない)。この試験では、サグテスターと呼ばれる金属製で3ミル(0.003インチ)から13ミルまで1ミルきざみで段階的に深くなる各各の0.25インチの幅を有する合計11個の溝がそれぞれ0.2インチ幅で等間隔に配列するように工作された試験装置が、この溝の深さにより3ミルから13ミルまで順次厚くなる未乾燥塗膜のバンドを平滑ガラス板上に引くために使用される。これらのバンドが引かれると直ちに平滑ガラス板は、好ましくは恒温(20℃±1℃)、恒湿(相対湿度55%)の室内において24時間または塗膜が乾燥するまでバンドを引いた方向が横(水平方向)になるように、そして3ミルの未乾燥塗膜が最上段にくるように垂直位置につるされる。この乾燥塗膜を観察して、初めて0.2インチを越えてダレ下った部分のあるバンドの未乾燥時における塗膜厚を判定してダレ防止性とする。なお、ここでダレ防止試験に用いた塗料は所定の配合に従って作成した塗料に更にシンナーをそれぞれ適量加えることによっていずれも一定の70KU(25℃)なる粘度を示すように調整したものである。このようにした理由は、可能な限り塗装の作業性を一定にしたときのダレ防止性を求めようとしたためであって、一般に塗料の粘度が高くなると塗装の作業性は悪くなるがダレ防止性は良くなるという因果関係が存在することへの考慮によるものである。顔料の沈降防止試験では、上記ダレ防止試験に使用した70KU(25℃)に調整された塗料を密封し常温の室内に30日間静置した後ふたを開き、撹拌棒を静かに差し入れて容器底部の顔料の沈降程度を評価した。最上部の僅かな顔料希薄部の存在は考慮外とし、はとんど初期の分散状態を維持していて沈降のないものを最良とした。沈降しているもの(これはケーキングと称す)は比較的簡単な攪拌で再分散するものなどその程度によって比較的良好、やや不良と分け、かなり固い沈降ができていて再分散の困難なものは最悪とした。貯蔵安定性の試験も、上記ダレ防止試験に使用した70KU(25℃)に調整された塗料を密封し、50℃の恒温槽内にて促進試験を行ない、30日貯蔵後ふたを開いて上部のクリアー分離の度合を見ると共に、前記沈降防止試験と同様の方法で沈降の状態を評価した。また、塗膜の光沢測定用の板を作る方法と同じ方法で塗膜を作り顆粒発生の有無も調べた。
第2表に見られる如く、従来品については添加量を調節して本発明のレオロジー特性・懸濁特性調節方法の場合より若干ダレ防止性を悪くした場合でも乾燥塗膜の光沢が低下するか、あるいはまた光沢においては比較的低下のないダイマー酸ブチルエステルのようにダレ防止性が大きく劣る。また、促進貯蔵安定性においても顆粒の発生やクリアー分離が大きいなど欠点が明白である。これによって、本発明のレオロジー特性・懸濁特性調節方法が著しく有用であることが解るであろう。
・・(中略)・・
実施例 5
平均分子量3000、酸価13、軟化点114℃、密度0.963、針入度2.3の乳化性ポリエチレンワツクス1部と、キシリレンジアミン2モルとセバチン酸・リシノレイン酸・水素添加ひまし油脂肪酸各1モルとからアマイド化して得られるアマイド(融点160℃)1部をキシロール8部で分散液としたもの(実施例5-1)、平均分子量3400、酸価16、軟化点100℃、密度0.925、針入度7の乳化性ポリエチレンワツクス1部をキシロール4部で分散液としたもの9部と、同上のアマイド1部をキシロール4部で分散液としたもの1部とを併用したもの(実施例5-2)を、第8表の配合による石油樹脂配合アルキツド樹脂塗料(ブルー色)に、試験用サンドグラインドミルを用いて、分散温度70℃、回転数1750r.p.m.分散時間30分でそれぞれ0.5%添加したときにおける前記と同じ方法による試験結果を第9表に示す。




・・(中略)・・
実施例 7
平均分子量2200、酸価18、軟化点107℃、密度0.940、針入度4.5の乳化性ポリエチレンワツクス1部と、キシリレンジアミン1モルと水素添加ひまし油脂肪酸2モルとからアマイド化して得られるN,N’-12-ヒドロキシステアロイルキシリレンジアマイド(融点134℃)1部を粉砕機で50μに混合粉砕したものを、第12表による溶剤型エポキシ樹脂塗料(グレー色)の配合Aに、試験用サンドグラインドミルを用いて分散温度50℃、回転数1750r.p.m.分散時間30分で、それぞれ0.4%、0.6%添加したときにおける前記と同じ方法による試験結果を第13表に示す。但し、ダレ防止試験に際しては、配合Bの硬化剤を加えて行なった。

・・(中略)・・
実施例 9
実施例1-1で用いた添加剤を、第16表の配合によるジンクリツチペイントに試験用サンドグラインドミルを用いて、分散温度50℃、回転数1750r.p.m、分散時間30分で0.4%添加したときにおける前記と同じ方法による試験結果を第17表に示す。但し、粘度は業界の習慣に照らし70KUとせずフォード・カップ^(#)4を用いて60±5秒(20℃)になるようキシロールで調整して試験を行なった。




」(第6欄第3行?第22欄最下行)

イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記記載(特に下線部の記載)からみて、
「水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30モル%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス10?85重量部と2?50の酸価を有する乳化性ポリエチレンワックス90?15重量部とを粉砕機で90μなどのミクロンオーダーの粒径となるまで混合粉砕してなる、塗料などの非水流体系の粉末状レオロジー特性改善剤。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30モル%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス10?85重量部と2?50の酸価を有する乳化性ポリエチレンワックス90?15重量部とを粉砕機で90μなどのミクロンオーダーの粒径となるまで混合粉砕してなる、甲1発明1の粉末状レオロジー特性改善剤の製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲2の記載事項及び記載された発明

ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2?22の脂肪族カルボン酸、及び炭素数2?16のジアミンとダイマージアミンとの何れかのジアミンを縮合させた低分子量アミド化合物と、同種の該カルボン酸、同種の該ジアミン及び重量平均分子量2000?100000のカルボキシル基含有ポリマーを縮合させた高分子量アミド化合物とを含有する微粒子が、有機溶媒中に分散されて膨潤していることを特徴とする非水系塗料用流動調整剤。
【請求項2】
該微粒子が、重量比で、該低分子量アミド化合物:該高分子量アミド化合物の99?50:1?50を含有することを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用流動調整剤。
【請求項3】
該脂肪族カルボン酸が、炭素数2?12の脂肪族ジカルボン酸、又は同種の該脂肪族ジカルボン酸とダイマー酸とを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用流動調整剤。
【請求項4】
該ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸が、水素添加したひまし油の加水分解物であることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用流動調整剤。
【請求項5】
該カルボキシル基含有ポリマーが、ポリアルキレンを酸化した化合物と、カルボキシル基含有化合物モノマーを共存させつつ、共重合モノマーに共重合され、又は重縮合モノマーに重縮合された化合物とから選ばれる酸化ポリアルキレンであることを特徴とする請求項1に記載の非水系塗料用流動調整剤。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載の非水系塗料用流動調整剤を0.1?20重量%と、塗料用樹脂と、該樹脂を溶解又は分散する溶剤とを含んでいることを特徴とする非水系塗料。」

(b2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系塗料を掻き混ぜるときの流動性を高め、それを塗布した後の流動性を低下させる塗料用流動調整剤、及びその流動調整剤を含有し綺麗に塗装できる非水系塗料に関するものである。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、非水系塗料を掻き混ぜたときの流動性を高め、それを塗布した後の流動性を低下させ、しかもその塗装面に不均一な厚さや液滴状の荒れや凝集模様の凹凸を生じさせず、塗装面の平滑を保持させるために、非水系塗料に添加される流動調整剤を提供することを目的とする。」

(b3)
「【発明の効果】
【0015】
本発明の非水系塗料用流動調整剤は、非水系塗料に添加されていると、それを素早く掻き混ぜる際の高い剪断速度での流動性を高くし、それを塗布した後の低い剪断速度での流動性を低くするという優れた揺変性を、発現させる。
【0016】
従って、本発明によれば、その揺変性は、高分子量アミド化合物を含有していない従来の低分子量アミド化合物からなる流動調整剤と同等以上である。しかも、この流動調整剤を含有する非水系塗料は、それを塗布した塗装面に不均一な厚さや液滴状の荒れや凝集による凝集模様の凹凸や色分かれを生じさせず、従来のアミド系の流動調整剤よりも優れた塗装面の平滑性の保持効果を奏する。」

(b4)
「【0018】
本発明の非水系塗料用流動調整剤の好ましい実施の一態様は、12-ヒドロキシステアリン酸のようなヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を主成分とする水素添加ひまし油加水分解物である脂肪族カルボン酸、及びジアミンである脂肪族ジアミンを縮合させた低分子量アミド化合物と、同種の脂肪族カルボン酸、同種のジアミン、及びカルボキシル基含有ポリマーを縮合させた高分子量アミド化合物とを、99?50:少なくとも1好ましくは1?50の重量比で含有する微粒子の5?50重量部好ましくは10?30重量部が、有機溶媒例えば弱溶解性溶媒の95?50重量部に分散されて膨潤しているというものである。
【0019】
従来のような高分子量アミド化合物を含有していない低分子量アミド化合物からなる流動調整剤や、低分子量アミド化合物と適度な酸価を有する乳化性ポリエチレンワックスのようなカルボキシル基含有ポリマーとの単なる混合物からなる流動調整剤は、塗布した塗装面に不均一な厚さや液滴状の荒れや凝集による凝集模様の凹凸や色分かれを生じさせてしまう。特に後者は低分子量アミド化合物に特有な揺変性と、カルボキシル基含有ポリマーに特有な凝集緩和性とが、独立して発現されるため、互いに悪影響を及ぼし、かえって揺変作用と凝集緩和作用とを低減させてしまう。
【0020】
しかし、本発明のように、低分子量アミド化合物と、カルボキシル基含有ポリマーを化学的に縮合させた高分子量アミド化合物とを含有する微粒子が、有機溶媒中に分散されて膨潤させると、低分子量アミド化合物に特有な揺変性と、カルボキシル基含有ポリマーに特有な凝集緩和性とを、互いに損なうことなく発現させることができる。
【0021】
なお、脂肪族カルボン酸は、水素添加ひまし油加水分解物を例に示したが、ヒドロキシ飽和脂肪族モノカルボン酸を含むものであればよく、具体的には炭素数2?22のヒドロキシ飽和脂肪族モノカルボン酸の単一又は複数の混合物が挙げられる。そのラセミ体又は光学活性体のヒドロキシ飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば(dl)、(d)又は(l)-12-ヒドロキシステアリン酸であってもよく、その一方の光学活性体が多い混合物であってもよい。
【0022】
脂肪族カルボン酸は、ひまし油加水分解物のようにリシノール酸を主成分とする不飽和脂肪族モノカルボン酸を含むものであってもよく、具体的には炭素数2?22のヒドロキシ不飽和脂肪族モノカルボン酸の単一又は複数の混合物も挙げられる。そのラセミ体又は光学活性体のヒドロキシ不飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば(dl)、(d)又は(l)-12-リシノール酸であってもよく、その一方の光学活性体が多い混合物であってもよい。
【0023】
脂肪族カルボン酸は、前記のヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸のみからなっていてもよいが、別なカルボン酸を含んでいてもよい。別なカルボン酸は、例えば、脂肪族基の途中に又は末端にカルボキシル基を二つ有し、直鎖状、分岐鎖状又は環状であって飽和又は不飽和のもので、炭素数2?12の脂肪族ジカルボン酸、ダイマー酸、それらの混合物が挙げられる。より具体的には、脂肪族ジカルボン酸の例として、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸、ダイマー酸などを使用できるがこれらに限られるものではない。ダイマー酸は、大豆油、トール油、亜麻仁油、綿実油などの植物油から得られる不飽和脂肪酸を重合したもので、二量体酸の他にモノマー酸や三量体酸を少量含んでいてもよい。
【0024】
ジアミンとして、脂肪族ジアミンを例に示したが、直鎖状、分岐鎖状又は環状であって飽和又は不飽和のもので、炭素数2?16の脂肪族ジアミン又は芳香族ジアミンであってもよく、ダイマージアミンであってもよく、それらの単一又は複数の混合物であってもよい。また第1アミノ基を二つ有するジアミン、第2アミノ基を二つ有するジアミンであってもそれらの混合物であってもよく、第3アミノ基を有するジアミンを含むものであってもよい。ジアミンは、炭素数2?14の脂肪族ジアミンが好ましい。ジアミンの例としては、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4-ジアミノジフェニルメタン、ダイマージアミン、などを使用できるがこれらに限られるものではない。ダイマージアミンは、ダイマー酸誘導体として、ダイマー酸のカルボキシル基を化学反応させて得ることができる。
【0025】
カルボキシル基含有ポリマーは、例えば、酸化ポリアルキレンが挙げられる。具体的には、酸化ポリエチレンのような酸化ポリアルキレンや、不飽和基を有するカルボキシル基含有化合物モノマーと不飽和基を有する共重合モノマーとの共重合体や、重縮合性官能基を有するカルボキシル基含有化合物モノマーと重縮合性官能基を有する重縮合モノマーとの重縮合体が挙げられる。カルボキシル基含有ポリマーは、流動調整剤の揺変性等の物性を損なわない限り、モノマーの種類や比を任意に選択したものであってもよい。カルボキシル基含有ポリマーは、酸価が10以上、好ましくは20?140の共重合体又は重縮合体であることが好ましい。
【0026】
また、カルボキシル基含有ポリマーは、より具体的には、ポリアルキレンであるポリエチレンをオゾン酸化法で処理した酸化ポリエチレンのような酸化ポリアルキレンが挙げられる。
・・(中略)・・
【0029】
溶媒は特に制限されないが、例えばトルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ミネラルターペン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン等の環式飽和炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸プロピル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸アミル、コハク酸メチル、アジピン酸メチルのようなエステル系溶媒のような媒体が挙げられる。それらを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせ混合して用いてもよい。溶媒は、これらに、さらにメタノール、エタノールのような脂肪族アルコールやベンジルアルコールのような環状アルコール等を、単独あるいは2種類以上を組み合わせて混合したものであると、微粒子の膨潤を一層促進し、揺変性が一層優れたペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られる。芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒や環式飽和炭化水素系溶媒やエステル系溶媒と、脂肪族アルコールや環状アルコールとは、例えば、重量比で、10?95:0?85、好ましくは60?90:5?30である。」

(b5)
「【0030】
この非水系塗料用流動調整剤は、例えば、以下のようにして調製される。
【0031】
先ず、脂肪族カルボン酸の1モル当量と、脂肪族ジアミンの0.5モル当量とを、無溶媒で、常圧又は真空下で、160?230℃に加熱しながら、2?10時間、脱水縮合反応させる。すると、脂肪族カルボン酸と脂肪族ジアミンとが縮合し、酸価及びアミン価が20以下であり、淡黄色?淡褐色の固体で、その融点が100?160℃であって熱溶融している低分子量アミド化合物となる。それに対して少なくとも1重量%、好ましくは1?50重量%、一層好ましくは1?10重量%のカルボキシル基含有ポリマーを加え、さらに1?5時間、脱水縮合反応させる。すると、その低分子量アミド化合物のうちの一部が、それの未反応のアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基との脱水縮合反応により、高分子量アミド化合物となる。その結果、高分子量アミド化合物と低分子量アミド化合物とを含有し、酸価が30以下、好ましくは5?20で、アミン価が20以下好ましくは7以下であるワックスが得られる。次いでそのワックスを粉砕機でミクロンオーダー例えば20μm以下、好ましくは10μm以下に粉砕した微粒子にする。その微粒子と、溶媒とを配合し、その微粒子を、ディスパーを用いた機械的な分散方法により、又はガラスビーズ等のメディアを利用した湿式分散機を用いた分散方法により、溶媒へ分散させつつ、温熱下、例えば溶媒に応じ40?100℃好ましくは50?90℃に加熱しながら、加熱条件や溶媒に応じて適切な時間をかけて、その溶媒に含浸させる。すると、微粒子が膨潤し、ペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られる。
【0032】
脂肪族カルボン酸と、脂肪族ジアミンとを脱水縮合させた後、カルボキシル基含有ポリマーを加えてさらに脱水縮合させた例を示したが、脂肪族カルボン酸と、脂肪族ジアミンと、カルボキシル基含有ポリマーとを同時に混合して脱水縮合させてもよい。」

(b6)
「【実施例】
【0036】
以下に、本発明を適用する非水系塗料用流動調整剤、及びそれを用いた非水系塗料とを調製した実施例と、本発明を適用外の非水系塗料用流動調整剤、及びそれを用いた非水系塗料とを調製した比較例とを示す。
【0037】
(実施例1)
(低分子量アミド化合物と高分子量アミド化合物とを含有する微粒子の調製)
攪拌器、温度計、分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸600.0重量部を加え、80?100℃に加温して溶融させた。その後、ジアミンであるヘキサメチレンジアミン116.0部を加え、170℃で、窒素雰囲気下、5?8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価4.2、アミン価9.4の低分子量ジアミド化合物を得た。更に、重量平均分子量10000、酸価80mgKOH/gのプロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマーを、68.0重量部を加え、170℃で1?2時間、脱水しながら縮合反応を行い、低分子量ジアミド化合物の一部の未反応アミノ基に反応させてアミド化させ高分子量ジアミド化合物を生成させたところ、淡黄色で低分子量ジアミド化合物と高分子量ジアミド化合物との混合物(酸価6.0、アミン価4.2)をワックス状生成物として得た。得られた生成物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化した微粒子を得た。
【0038】
(微粒子の分散による懸濁液の調製)
密閉容器に、ミネラルターペン120重量部、ベンジルアルコール40重量部、調製した微粒子40重量部を加え、10?20℃で十分に分散させ、懸濁液を得た。
【0039】
(懸濁液の加熱による非水系塗料用流動調整剤の調製)
懸濁液の入った密閉容器を、公知の手法により加温処理すると、微粒子が膨潤し、ペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られた。
【0040】
(実施例2)
(低分子量アミド化合物と高分子量アミド化合物とを含有する微粒子の調製)
攪拌器、温度計、分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸600.0重量部を加え、80?100℃に加温して溶融させた。その後、ジアミンである1,4ジアミノブタン88.0重量部を加え、170℃で、窒素雰囲気下、5?8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価3.4、アミン価7.3の低分子量ジアミド化合物を得た。更に、カルボキシル基含有ポリマーとして重量平均分子量10000、酸価41mgKOH/gのエチレン・アクリル酸共重合体である酸化ポリエチレンを、32.6重量部を加え、170℃で1?2時間、脱水しながら縮合反応を行い、低分子量ジアミド化合物の一部の未反応アミノ基に反応させてアミド化させ高分子量ジアミド化合物を生成させたところ、淡黄色で低分子量ジアミド化合物と高分子量ジアミド化合物との混合物(酸価5.5、アミン価3.8)をワックス状生成物として得た。得られた生成物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化した微粒子を得た。
【0041】
(微粒子の分散による懸濁液の調製)
密閉容器に、ミネラルターペン120重量部、ベンジルアルコール40重量部、調製した微粒子40重量部を加え、10?20℃で十分に分散させ、懸濁液を得た。
【0042】
(懸濁液の加熱による非水系塗料用流動調整剤の調製)
懸濁液の入った密閉容器を、公知の手法により加温処理すると、微粒子が膨潤し、ペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られた。
【0043】
(比較例1)
(低分子量アミド化合物を含有する微粒子の調製)
攪拌器、温度計、分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸600.0重量部を加え、80?100℃に加温して溶融させた。その後、ジアミンであるヘキサメチレンジアミン116.0重量部を加え、170℃で、窒素雰囲気下で5?8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させたところ、淡黄色で酸価4.5、アミン価8.8の低分子量ジアミド化合物を得た。得られたジアミド化合物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化した微粒子を得た。
【0044】
(微粒子の分散による懸濁液の調製)
密閉容器に、ミネラルターペン120重量部、ベンジルアルコール40重量部、調製した微粒子40重量部を加え、10?20℃で十分に分散させ、懸濁液を得た。
【0045】
(懸濁液の加熱による非水系塗料用流動調整剤の調製)
懸濁液の入った密閉容器を、公知の手法により加温処理すると、微粒子が膨潤し、ペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られた。
【0046】
(比較例2)
比較例1のヘキサメチレンジアミンの代わりに1,4ジアミノブタン88.0重量部を用い、淡黄色のジアミド化合物(酸価4.7、アミン価7.1)を得たこと以外は比較例1と同様にしてペースト状の非水系塗料用流動調整剤を得た。
【0047】
(比較例3)
(低分子量アミド化合物とカルボキシル基含有ポリマーとを含有する微粒子の調製)
攪拌器、温度計、分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸600.0重量部を加え、80?100℃に加温して溶融させた。その後、ジアミンであるヘキサメチレンジアミン116.0重量部を加え、170℃で、窒素雰囲気下、5?8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価4.2、アミン価9.4の低分子量ジアミド化合物を得た。更に、重量平均分子量10000、酸価80mgKOH/gであるプロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマーを、68.0重量部を加え、1?5分溶融させ、低分子量ジアミド化合物とカルボキシル基含有ポリマーとの混合物(酸価11.7、アミン価9.4)を得た。得られた混合物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化した微粒子を得た。
【0048】
(微粒子の分散による懸濁液の調製)
密閉容器に、ミネラルターペン120重量部、ベンジルアルコール40重量部、調製した微粒子40重量部を加え、10?20℃で十分に分散させ、懸濁液を得た。
【0049】
(懸濁液の加熱による非水系塗料用流動調整剤の調製)
懸濁液の入った密閉容器を、公知の手法により加温処理すると、微粒子が膨潤し、ペースト状の非水系塗料用流動調整剤が得られた。
【0050】
実施例1?2、及び比較例1?3で得られた非水系塗料用流動調整剤について、以下のようにして性能評価試験を行った。
【0051】
(揺変付与性性能評価試験)
ポリオール樹脂66.7重量部に、酸化チタン29.6重量部を加え、サンドグラインダーで十分に分散した塗液をミルベースとする。ミルベース100重量部に実施例1?2及び、比較例1?3で得られた非水系塗料用流動調整剤10.0重量部をそれぞれ添加し、ディスパー2000rpmで10分間分散した分散液を得た。更にミネラルターペン可溶NAD(非水ディスパージョン)樹脂100重量部を加え、ディスパー2000rpmで2分間分散して非水系塗料用流動調整剤を含有する非水系塗料サンプルを得た。なお、ペースト状揺変性付与剤を添加していない塗液をブランクの塗液サンプルとした。各非水系塗料サンプルを、B型粘度計により、6rpm及び60rpmでの粘度(mPa・s)を測定した。6rpmにおける粘度を、60rpmにおける粘度で除し、TI値(チクソトロピックインデックス:Thixotropic Index)を算出した。TI値は高いほど揺変性が優れていることを示す指標である。その結果を表1に示す。
【0052】
(垂れ面の凝集状態評価試験)
揺変付与性性能評価試験の際に得た非水系塗料サンプル100.0重量部に、イソシアネート樹脂9.3重量部を加え、更に希釈溶剤としてミネラルターペン30.0重量部を添加し、ディスパー2000rpmで1分間攪拌した。これにより、過剰に希釈され、垂れが発生しやすい凝集状態評価試験用塗液とした。これをアルミ塗板上に流して塗装し、直ちに垂直に塗板を立て、1日間室温で乾燥後、塗膜の状態を目視で観察することにより、垂れ面の凝集状態を評価した。凝集模様が観察された塗膜を×、凝集模様が観察されない塗膜を○とする2段階で評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】


【0054】
表1から明らかなように、本発明を適用する実施例の非水系塗料用流動調整剤を用いた塗料サンプルは、本発明を適用外の比較例の非水系塗料用流動調整剤を用いた塗料サンプルに比べると、揺変付与性と垂直面でのタレ防止性能とがいずれも優れていた。従って、実施例の塗料サンプルは、比較例の塗料サンプルに比べ、適度な凝集力を有していることに起因して、垂れ難いうえ、凝集模様が出現しないから、塗装面が綺麗である。」

イ.甲2に記載された発明
上記摘示(b6)(特に【0047】)における「比較例3」において、微粒子中に含まれる低分子量ジアミド化合物の総量が680重量部(12-ヒドロキシステアリン酸600重量部(2モル部)+ヘキサメチレンジアミン116重量部(1モル部)-水(脱水縮合による)36重量部(2モル部)で算出できる。)で、プロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマーが68重量部であることは、当業者に自明であるから、上記甲2には、上記記載からみて、
「水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸とヘキサメチレンジアミンとの縮合反応生成物である低分子量ジアミド化合物680重量部と酸価80mgKOH/gであるプロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマー68重量部とを溶融混合し、冷却してなる混合物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化してなる、微粒子状非水系塗料用流動調整剤の製造方法。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)甲3ないし甲9の記載事項
上記甲3ないし甲9には、それぞれ、申立人が申立書第8頁第27行(最下行)?第10頁第4行でそれぞれ主張するとおりの当業者の周知技術に係る事項が記載されている。

2.検討
甲1発明及び甲2発明に基づく取消理由2につき、以下検討する。

(1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「乳化性ポリエチレンワックス」は、酸価を有するポリエチレンワックス、すなわち酸価を発現させるカルボキシル基を有するポリオレフィンワックスの範ちゅうに属するものであって、また、甲1発明1における「水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス」は、本件発明1における「水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と」を併用する場合との間で、「水素添加ヒマシ油脂肪酸を含む脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの縮合反応により得られるジアマイド化合物の混合物」である点で一致するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲1発明1とは、「水素添加ヒマシ油脂肪酸を含む脂肪族モノカルボン酸とジアミンとの縮合反応により得られるジアマイド化合物の混合物と、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスを含み、粉末であることを特徴とする非水系塗料用粉末状物」の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

相違点1:本件発明1では「水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と」を併用するのに対して、甲1発明1では「水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス」である点
相違点2:本件発明1では「上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有」するのに対して、甲1発明1では、「水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス10?85重量部」及び「乳化性ポリエチレンワックス90?15重量部」を含有する点
相違点3:本件発明1では、「5?30ミクロンの範囲の粒子径を有する粉末」であるのに対して、甲1発明1では、「90μなどのミクロンオーダーの粒径となるまで混合粉砕してなる・・粉末状」物である点
相違点4:本件発明1では、「非水系無溶剤防食塗料用・・垂れ防止剤」であるのに対して、甲1発明1では、「塗料などの非水流体系のレオロジー特性改善剤」である点

イ.検討

(ア)前提事項
上記各相違点につき検討するにあたり、前提として「水素添加ヒマシ油脂肪酸」と「炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸」との関係及びそれらから生成するジアマイドにつき検討すると、ヒマシ油は、甲4に見られるとおり、リシノール酸を主成分とし、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの少量の他の炭素数2?22、特に炭素数14?20の脂肪酸を含有する脂肪酸混合物のグリセリドであって、単一の「ヒマシ油脂肪酸」なる化合物のグリセリドではないから、ヒマシ油由来の「水素添加ヒマシ油脂肪酸」なる単一化合物が存するものでもなく、「水素添加ヒマシ油脂肪酸」は、12-ヒドロキシステアリン酸(リシノール酸の水添物)を主成分とし、ステアリン酸(もともと含有していたものとオレイン酸、リノール酸の水添物とからなる)、パルミチン酸などの少量の他の炭素数14?18の飽和脂肪酸を含有する混合物であるものと認められるとともに、「水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとのジアマイド」についても、単一化合物ではなく、ジアマイド混合物であるものと認められる。

(イ)相違点1について
上記相違点1につき上記(ア)の前提事項に基づき検討すると、甲1発明1の「30モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え70モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物」における「水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸」が多い(例えば70モル%)脂肪族モノカルボン酸混合物のジアミンとの縮合(混合)物と、本件発明1の水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合(混合)物(「ジアマイド化合物(A)」)の50重量%程度及び水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合(混合)物(「ジアマイド化合物(B)」)の50重量%程度を併用してなる混合物とは、最終的なジアマイド組成物の組成比として、略同等のものであることが当業者に自明である。
[例えば、甲1発明1の、30モル%の水素添加ヒマシ油脂肪酸と70モル%の他の脂肪族モノカルボン酸との混合物をジアミンと反応させる場合、アミド化反応の偏りがないならば、生成物は、ジ(水素添加ヒマシ油脂肪酸)アマイド:(水素添加ヒマシ油脂肪酸)(他の脂肪族モノカルボン酸)ジアマイド:ジ(他の脂肪族モノカルボン酸)アマイドの組成比がおおよそ9:42:49のモル比のジアマイド混合物が生成するものと認められ、水素添加ヒマシ油脂肪酸を含有しないジアマイド化合物を50モル%程度含有するジアマイド混合物となる。
{なお、本件特許に係る明細書(【0050】【表1】参照)に記載された「A-3」なるジアマイド混合物でさえ、同様に、水素添加ヒマシ油脂肪酸を含有しないジアマイド化合物を16モル%程度含有するジアマイド混合物であるものと認められる。}
それに対して、本件発明1の、例えば、水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合(混合)物(「ジアマイド化合物(A)」)の50重量%程度及び水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が18の脂肪族モノカルボン酸であるステアリン酸などの脂肪酸とジアミンとの縮合(混合)物(「ジアマイド化合物(B)」)の50重量%程度からなる混合物は、水素添加ヒマシ油脂肪酸の平均分子量が炭素数18の脂肪酸と概ね同等であるから、それぞれ50モル%程度含有するジアマイド混合物であるものと認められる。]
してみると、甲1発明1における「水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス」と、本件発明1における「水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と」を併用することとは、区別することができない態様が包含されているものと認められる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

(ウ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、本件発明1は、甲1発明1におけるジアマイド化合物:ポリオレフィンワックスの重量組成比において、60?85:40?15の範囲で、本件発明1におけるジアマイドの総量((A)+(B)):カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の組成比と重複するとともに、また、甲1発明1における「水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30モル%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス」を単独で含有する態様と本件発明1における例えば「20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)」と「炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)」とを併せて含有する態様とは、上記(イ)でも説示したとおり、ジアマイド組成物全体としての組成比についても、実質的な差異が存するものとは認められない。
してみると、甲1発明1に係る「『水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス10?85重量部』及び『乳化性ポリエチレンワックス90?15重量部』含有する」点には、本件発明1に係る「『上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有』する」組成物と区別することができない態様が包含されているものと認められる。
したがって、上記相違点2は、組成物として両者を区別することができないから、実質的な相違点であるとはいえない。

(エ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、甲1には、甲1発明1に係る実施例として、ジアマイド又はジアマイドと乳化性ポリエチレンワックスとの混合物を粉砕機で30μ又は50μのミクロンオーダーに(混合)粉砕して使用することが記載されている(「実施例1-3」及び「実施例7」に係る各記載参照。)ように、甲1発明1の粉末状レオロジー特性改善剤においても、30μ程度に粉砕することが想定されているから、相違点3に係る粉末の粒子径範囲を「5?30ミクロンの範囲」とした点に格別な技術的意義が存するものとは認められず、上記相違点3は、実質的な相違点であるとはいえないか、若しくは当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(オ)相違点4について
さらに、上記相違点4につき検討すると、甲1には、甲1発明1の「レオロジー特性改善剤」に関する従来の課題として「最近の塗料業界が塗った直後のウェット膜で250μ程度でもダレないことを要求している」ことを挙げていること(上記摘示(a2)第3欄第18行?第20行)からみて、甲1発明1の「レオロジー特性改善剤」は、非水系塗料の塗布後におけるウェット塗膜のダレを防止する、すなわち、垂れ防止を行うためのものである点で実質的な差異があるものとは認められない。
そして、本件発明1における「無溶剤防食塗料」につき検討すると、「無溶剤」である点については、上記I.で説示した理由により、格別な技術的意義が存するものと認められないとともに、「防食塗料」は塗料の周知の一種であるところ、塗料を垂直面などに塗布した後のウェット塗膜につきダレ(垂れ)を防止すべきことは、防食塗料ならずとも塗料全般に共通の課題であることは、当業者に自明であるから、本件発明1において「非水系無溶剤防食塗料用」とした点に格別な技術的意義が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点4は、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(カ)本件発明1の効果について
さらに、本件発明1の効果につき検討すると、甲1には、甲1発明1の「レオロジー特性改善剤」により、塗料製造直後のみならず、50℃30日間貯蔵後においても、ダレ防止性が良好(例えば10ミル以上)であり、貯蔵後であってもダレ防止性が高い水準で維持され、その低下が少ないことが記載されている(上記摘示(a5)、「第9表」、「第13表」、「第17表」等の各実施例の結果参照)から、本件発明1における効果と略同等のものと認められ、本件発明1の効果が甲1発明1のものに比して、格別顕著なものと認めることもできない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(2)本件発明2及び3について
本件発明1を引用する本件発明2及び3と甲1発明1とをそれぞれ対比すると、本件発明2では、上記(1)ア.で示した相違点1ないし4に加えて新たに相違する点がなく、その余で一致することが明らかである。
また、本件発明3では、甲1において、甲1発明1に係る「乳化性ポリエチレンワックス」として酸価4ないし43のものを使用する実施例が記載されている(摘示(a5)、「実施例3」ないし「実施例8」参照)から、本件発明3における「カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)が、酸化ポリエチレンワックス(酸価が3?70 mg KOH/g)・・である」に相当し、この点につき実質的な相違点であるとはいえず、結局、本件発明3についても、上記(1)ア.で示した相違点1ないし4に加えて新たに相違する点がなく、その余で一致するものといえる。
そして、上記相違点1ないし4については、上記(1)イ.で説示したとおりの理由により、いずれも、実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記(1)イ.で説示したとおり、本件発明の効果が甲1発明1のものに比して、格別顕著なものと認めることもできない。
してみると、本件発明2及び3のいずれについても、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(3)本件発明4について
本件発明1を目的製造物として引用する本件発明4(製造方法)につき上記甲1発明2と対比すると、上記(1)イ.(ア)で前提事項を提示し、(イ)及び(ウ)で当該前提事項に基づいて「相違点1」及び「相違点2」につきそれぞれ説示したとおり、甲1発明1における「30モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え70モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの反応から得られるアマイドワックス」は、本件発明における「『ジアマイド化合物(A)』と『ジアマイド化合物(B)』との混合物」と区別することができないから、実質的に、上記(1)ア.で示した本件発明1と甲1発明1との間の相違点1ないし4に加えて下記の点で相違し、その余で一致する。

相違点5:本件発明4では、「ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を加熱して融解させ、均一に混合した後に冷却し、冷却物を微粉砕する」のに対して、甲1発明2では、「水素添加ひまし油脂肪酸または水素添加ひまし油脂肪酸を少なくとも30%含む有機酸混合物とエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はキシリレンジアミンなどのアミンとの反応から得られるアマイドワックス10?85重量部と2?50の酸価を有する乳化性ポリエチレンワックス90?15重量部とを粉砕機で90μなどのミクロンオーダーの粒径となるまで混合粉砕してなる」点

しかるに、上記相違点1ないし4については、上記(1)イ.でそれぞれ説示したとおりの理由により、いずれも、実質的な相違点ではないか、若しくは当業者が適宜なし得ることである。
また、上記相違点5につき検討すると、上記甲2発明でも開示されているとおり、微粒子状非水系塗料用流動調整剤の製造において、「水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸とヘキサメチレンジアミンとの縮合反応生成物である低分子量ジアミド化合物」と「プロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマー」「とを溶融混合し、冷却してなる混合物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化」することは、少なくとも当業者に知られた技術であるから、甲1発明2における「アマイドワックス」と「乳化性ポリエチレンワックス」「とを粉砕機で90μなどのミクロンオーダーの粒径となるまで混合粉砕」することに代えて、アマイドワックスと乳化性ポリエチレンワックスとを溶融混合し、冷却してなる混合物を粉砕し、5?30μのミクロンオーダーに微粒化することにより、レオロジー特性改善剤の粉末状物を得ることは、上記甲1発明2及び甲2発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることである。
なお、本件特許明細書、甲1及び甲2の各記載を検討しても、上記工程の代替を妨げる技術的要因が存するものとは認められず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本件発明4において上記工程とすべき格別な技術的要因又は課題が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点5は、上記甲1発明2及び甲2発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、本件発明4は、上記甲1発明2及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、それぞれ、甲1に記載された発明又は甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件請求項1ないし4に係る各発明は、いずれも特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。
結局、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系無溶剤防食塗料に少量添加することによって、塗装時における垂れを防止することが可能な、非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料組成物を被塗面に高膜厚に塗装したり、垂直面に塗装する際の垂れを防止するために、塗料組成物に、塗装時の高せん断速度領域では流動し易く、塗着後の低せん断速度領域では流動し難くする垂れ防止剤(レオロジーコントロール剤、チキソトロピック剤、揺変性付与剤または粘性調整剤などと呼ばれる場合がある)が添加されている。
【0003】
従来は、非水系塗料用の垂れ防止剤としてモンモリナイトの誘導体、重合油、水素添加ヒマシ油、乳化性ポリエチレンワックス、ポリエステル系重合物、ポリアマイド系重合物、ジアマイド化合物などが知られている。
【0004】
例えば特許文献1では、水素添加ヒマシ油脂肪酸または水素添加ヒマシ油脂肪酸を少なくとも30モルパーセント含む有機酸混合物とアミンとの反応から得られるアマイドワックスと、乳化性ポリエチレンワックスとを併用して用いた場合、微細に分割された固体粒子を含む非水流体系において垂れ防止性が改善されることが開示されている。併用方法は、両者を個々に添加する方法でも、混合物、共融物の形で同時に添加する方法でも良く、またその形状も粉状でも非水媒体中に分散した形でも良いが、両者を同時に非水媒体中に分散したものが練合分散機械および練合分散温度を選ばない点で実用上最も優れた方法であると述べている。
【0005】
特許文献2では、ポリオールとポリカルボン酸との反応から得られ、その末端部に少なくとも2個の活性水素部分を有するポリエステル系重合物が、塗料を含む非水組成物に抗垂れ性を付与することが開示されている。
【0006】
特許文献3では、ヒドロキシステアリン酸とプライマリージアミン及びジカルボン酸から得られるオリゴマー状ポリアマイドと、水素添加ヒマシ油の粉末状組成物が、非水系コーティング材の流動特性を改善し、垂れ防止性を付与することが開示されている。また特許文献4では、炭素数2?6を有する脂肪族プライマリージアミンと12-ヒドロキシステアリン酸及び脂肪族ジカルボン酸とを反応して得られるポリアマイドワックスを微粉砕し、有機溶媒中で膨潤させた組成物が非水系塗料に対し優れた垂れ止め性を付与することが開示されている。さらに特許文献5では、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族カルボン酸及びジアミンを縮合させた低分子量アマイド化合物と、同種の該カルボン酸、同種の該ジアミン及びカルボキシル基含有ポリマーを縮合させた高分子量アマイド化合物とを含有する微粒子を有機溶媒中で膨潤させた組成物が、非水系塗料に対し垂れ防止性を付与することが開示されている。
【0007】
特許文献6では、水素添加ヒマシ油脂肪酸及び直鎖飽和脂肪酸の混合物とキシリレンジアミンを反応させて得られるジアマイド化合物が、有機ビヒクルに対し垂れ防止性を付与することが開示されている。
【0008】
特許文献7では、12-ヒドロキシステアリン酸及びヒマシ油脂肪酸とポリアミン類との反応生成物と、ポリイソシアネート類とを反応させて得られるウレタン変性アマイド化合物が、非水系塗料の塗膜の垂れを抑えることが開示されている。
【0009】
さらに特許文献8では、炭素数3?4を有する直鎖飽和脂肪酸と12-ヒドロキシステアリン酸との混合物とプライマリージアミンとを反応させて得られる脂肪酸アマイド、及び炭素数6?22を有する直鎖飽和脂肪酸と12-ヒドロキシステアリン酸の混合物とプライマリージアミンとを反応させて得られる脂肪酸アマイドからなる組成物が、非水系塗料の垂れ防止剤、特に重防食塗料に優れた効果のある垂れ防止剤であることが開示されている。
【0010】
しかしながら、非水系防食塗料、特に人や環境に対して有害性があると指摘されている有機溶剤を含有しない非水系無溶剤防食塗料に従来の技術で得られる垂れ防止剤を添加した場合、垂れ防止効果が不十分である、垂れ防止剤中の有機溶剤が問題になる、垂れ防止効果に対して分散温度の影響が大きい、塗料の貯蔵安定性が悪い、等の問題があり、これらの問題を解決した垂れ防止剤が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭51-48464号公報
【特許文献2】特開2010-242099号公報
【特許文献3】特開昭51-2750号公報
【特許文献4】特開平5-271585号公報
【特許文献5】特開2008-260834号公報
【特許文献6】特開昭60-223876号公報
【特許文献7】特開2008-115199号公報
【特許文献8】特開昭63-235381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、非水系防食塗料、特に人や環境に対して有害な有機溶剤を含有しない非水系無溶剤防食塗料に添加するための粉末状垂れ防止剤であって、比較的低温での分散であっても優れた垂れ防止効果を発揮し、塗料の貯蔵安定性を害することがなく、また有害な有機溶剤が含まれていない非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく様々な検討を重ねた結果、非水系防食塗料、特に人や環境に対して有害な有機溶剤を含有しない非水系無溶剤防食塗料において好適に使用できる非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤並びにその製造方法を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を含み、上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有し、5?30ミクロンの範囲の粒子径を有する粉末であることを特徴とする非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤が提供される。
【0015】
上記の垂れ防止剤において、ジアミンは、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミンまたはキシリレンジアミンであることが好ましい。
【0016】
上記の垂れ防止剤において、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)は、酸化ポリエチレンワックス(酸価が3?70mg KOH/g)、酸化エチレン-プロピレン共重合体ワックス(酸価が3?70mg KOH/g)またはエチレン-アクリル酸共重合体ワックス(酸価が5?180mg KOH/g)であることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、また、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を加熱して融解させ、均一に混合した後に冷却し、冷却物を微粉砕することにより、上記各々の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得る方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤は、非水系防食塗料、特に人や環境に対して有害性が指摘されている有機溶剤を含有しない非水系無溶剤防食塗料に添加した場合、従来の非水系塗料用垂れ防止剤では満足な結果を得ることができなかった場合においても、有害な有機溶剤の増加を伴うことなく、優れた垂れ防止効果と貯蔵安定性の良い塗料を提供することができる。
【0019】
本発明の粉末状垂れ防止剤は、非水系のエポキシ樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、塩化ゴム系塗料、タールエポキシ樹脂塗料、タールウレタン樹脂塗料、ノンタールエポキシ樹脂塗料、変性エポキシ樹脂塗料、フタル酸樹脂系塗料およびフェノール樹脂系塗料などの防食塗料において垂れ防止効果が認められ、特に無機系顔料の配合量が多く、人や環境に対して有害性があると指摘されている有機溶剤を含有しない無溶剤型エポキシ樹脂塗料に添加した場合には、比較的低温度の分散条件において、従来の技術では達成できなかった優れた垂れ防止効果を発揮し、塗料の貯蔵安定性に悪影響をほとんど与えない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、前記したとおり、水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を含み、上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有し、5?30ミクロンの範囲の粒子径を有する粉末であることを特徴とする非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤およびその製造方法に関するものである。
以下、このような本発明を実施するために必要な具体的な要件につき、詳細に説明する。
【0021】
1.非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤組成物
1-1.ジアマイド化合物(A)
ジアマイド化合物(A)(以下、成分(A)ともいう)は、ヒマシ油に触媒を用いて水素添加し、実質的に不飽和結合が無くなった水素添加ヒマシ油を加水分解して得られる水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応により、または、水素添加ヒマシ油脂肪酸と水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上との混合物とジアミンとの縮合反応により、得られる。
【0022】
水素添加ヒマシ油脂肪酸は、12-ヒドロキシステアリン酸を主成分としており、その他にステアリン酸や不飽和脂肪酸などを含む複雑な混合物であることが一般的である。市場に流通している12-ヒドロキシステアリン酸と呼ばれる商品は、組成上は水素添加ヒマシ油脂肪酸と同じであり、水素添加ヒマシ油脂肪酸は市場から容易に入手可能である。
【0023】
水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の例として酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で用いても混合物で用いてもよい。また、オレイン酸やリシノール酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸や分岐脂肪族モノカルボン酸も用いることができるが、全脂肪酸中の含有量が多くなると本発明の組成物の粉砕性が悪くなる可能性があるため、粉砕性を阻害しない範囲で用いることが望ましい。
【0024】
水素添加ヒマシ油脂肪酸と水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上との混合物における各成分の混合比率は、20モル%以上で100モル%未満の前者対0モル%を超え80モル%以下の後者である。水素添加ヒマシ油脂肪酸の混合割合が2割未満になった場合には垂れ防止効果が低下する。
【0025】
ジアミンの例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を挙げることができるが、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミンまたはキシリレンジアミンが好ましい。これらのジアミンは1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明の組成物における上記成分(A)として、水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応で得られるジアマイド化合物(A’)を単独で用いてもよいし、水素添加ヒマシ油脂肪酸と水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上との前記モル比での混合物とジアミンとの縮合反応により得られるジアマイド化合物(A”)を単独で用いてもよいが、ジアマイド化合物(A’)とジアマイド化合物(A”)の両方が含有されていてもよい。
【0027】
成分(A)は、本発明の組成物中で最も垂れ防止効果に寄与する成分である。成分(A)含有範囲は、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして40?80重量%であり、好ましくは50?80重量%である。成分(A)の含有量が40重量%未満および80重量%を超えた場合には垂れ防止性が低下する。
【0028】
1-2.ジアマイド化合物(B)
ジアマイド化合物(B)(以下、成分(B)ともいう)は、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られるが、上述したジアマイド化合物(A)はジアマイド化合物(B)には含まれない。
【0029】
炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の例としては、ジアマイド化合物(A)の場合と同様に酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等を挙げることができるが、これら以外にジアマイド化合物(A)の場合と重複しない範囲で水素添加ヒマシ油脂肪酸を使用することもできる。脂肪族モノカルボン酸はそれぞれ単独で用いても混合物で用いてもよい。また、オレイン酸やリシノール酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸や分岐脂肪族モノカルボン酸も用いることができるが、全脂肪酸中の含有量が多くなると本発明の組成物の粉砕性が悪くなる可能性があるため、粉砕性を阻害しない範囲で用いることが望ましい。
【0030】
ジアミンの例としては、ジアマイド化合物(A)の場合と同様に、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を挙げることができるが、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミンまたはキシリレンジアミンが好ましい。これらのジアミンは1種のみで用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
ジアマイド化合物(B)を配合する目的は、ジアマイド化合物(A)とカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)との相溶性を向上させること、本発明による組成物の粉砕性を向上させること、および低温分散時における粉末状垂れ防止剤の膨潤性を向上させること等であるが、アマイド結合を持っているので垂れ防止効果も幾分かは期待できる。これらの目的と、ジアマイド化合物(A)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)による垂れ防止効果との関係により、ジアマイド化合物(B)の含有範囲は、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして10?50重量%であり、好ましくは10?40重量%である。成分(B)の含有量が50重量%を超えた場合には垂れ防止性が低下する。
本発明の組成物において、上記成分(B)は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0032】
1-3.カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)
本発明に用いられるカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)(以下、成分(C)ともいう)は、カルボキシル基を持つポリオレフィンワックスであれば特に限定されない。
【0033】
上記成分(C)の例としては、ポリエチレンワックスを酸素等と接触させて得られる酸化ポリエチレンワックス、エチレン-プロピレン共重合体ワックスを酸素等と接触させて得られる酸化エチレン-プロピレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックスを酸素等と接触させて得られる酸化ポリプロピレンワックス、エチレン-アクリル酸共重合体ワックス、エチレン-メタクリル酸共重合体ワックス、エチレン-無水マレイン酸共重合体ワックスの加水分解物、プロピレン-無水マレイン酸共重合体ワックスの加水分解物等を挙げることができるが、酸化ポリエチレンワックス(酸価が3?70mg KOH/g)、酸化エチレン-プロピレン共重合体ワックス(酸価が3?70mg KOH/g)またはエチレン-アクリル酸共重合体ワックス(酸価が5?180mg KOH/g)が特に好ましい。
本発明の組成物において、上記成分(C)は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0034】
成分(C)が酸化ポリオレフィンワックスの場合、酸価は2?80mg KOH/gの範囲であることが好ましく、軟化点は85?130℃の範囲であることが好ましい。市販品としてはハネウェル社製のA-Cポリエチレンおよび三井化学社製の三井ハイワックスなどが挙げられる。
【0035】
成分(C)がエチレン-アクリル酸共重合体ワックスの場合、酸価は5?200mg KOH/gの範囲であることが好ましい。具体的にはハネウェル社製のA-C 580およびA-C 5120などの市販品が挙げられる。
【0036】
成分(C)がエチレン-エチレン性不飽和ジカルボン酸共重合体ワックスの場合、酸価は5?200mg KOH/gの範囲であることが好ましい。具体的にはハネウェル社製のA-C 575AおよびA-C 907Aなどの市販品を加水分解したものが挙げられる。
【0037】
成分(C)は、塗料中で無機顔料などの粉末状物質に吸着することにより構造を形成するが、主としてジアマイド化合物(A)による強力な網目構造との相乗効果により垂れ防止性に寄与しているものと考えられる。成分(C)の含有範囲は、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして10?40重量%であるが、好ましくは15?40重量%である。成分(C)の含有量が10重量%未満では、最適膨潤温度の上昇、垂れ防止性の低下または塗料の貯蔵安定性の低下などの問題が発生し、40重量%を超えると垂れ防止剤の粉砕性の低下および垂れ防止性の低下などの問題が発生する。
【0038】
1-4.その他の成分
本発明の組成物は、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、成分(A)を40?80重量%、成分(B)を10?50重量%、および成分(C)を10?40重量%含有するが、各成分が上記重量%の範囲内から外れない場合においては、他の垂れ防止剤成分である水素添加ヒマシ油、ポリアマイド系重合物またはポリエステル系重合物などの1種以上をさらに含むことができる。
【0039】
2.非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤の製造方法
本発明の粉末状垂れ防止剤は、特許文献1の実施例1-4に記載されているようなアマイド化合物と乳化性ポリエチレンワックスとを混合粉砕する方法とは異なり、ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を加熱して融解させ、撹拌することにより均一に混合し、冷却後に適切な粉砕機を用いて微粉砕する方法により得られる。以下により詳細に説明する。
【0040】
本発明の製造方法は、水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとを反応させるか、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上との混合物とジアミンとを反応させてジアマイド化合物(A)を生成させるジアマイド合成工程(S1)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとを反応させてジアマイド化合物(B)を生成させるジアマイド合成工程(S2)と、これらジアマイド化合物(A)およびジアマイド化合物(B)とカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)とを加熱して融解させ、撹拌することにより均一に混合する混合工程と、冷却後に適切な粉砕機を用いて微粉砕する粉砕工程とを含んでいる。
【0041】
上記ジアマイド合成工程(S1)およびジアマイド合成工程(S2)における反応条件は特に限定されないが、例えば、上記記載の脂肪族モノカルボン酸の2モル当量とジアミンの1モル当量とを、無溶媒または縮合反応で発生する水を容易に除去する目的で適当な有機溶媒を用いて、150?220℃に加熱しながら2?10時間反応させることによりジアマイド化合物(A)およびジアマイド化合物(B)を得ることができる。
【0042】
ジアマイド化合物(A)およびジアマイド化合物(B)とカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)とを加熱して融解させ、撹拌することにより均一に混合する混合工程は、以下の方法により行うことができる。
〔1〕成分(A)、成分(B)および成分(C)を容器に入れ、外部から加熱することにより全成分を融解させ、撹拌を行って均一に混合する方法。
〔2〕成分(A)、成分(B)および成分(C)中の1成分を容器に入れ、外部から加熱することにより融解させ、他の2成分を追加して全ての成分を融解させた後、撹拌を行って均一にする方法。この方法は、ジアマイド合成工程(S1)またはジアマイド合成工程(S2)の合成終了時に、融解状態となっている成分(A)または成分(B)に他の2成分を追加して全ての成分を融解させた後、撹拌を行って均一にする方法を含んでいる。
〔3〕成分(A)、成分(B)および成分(C)中の2成分を容器に入れ、外部から加熱することにより融解させ、他の1成分を追加して全ての成分を融解させた後、撹拌を行って均一にする方法。本発明の組成物が成分(B)を含有しない場合、〔3〕の方法は適用されない。
【0043】
成分(A)、成分(B)および成分(C)を融解させる温度は特に限定されないが、撹拌効率および混合物の冷却方法の観点から140?180℃が好ましい。
【0044】
混合工程において成分(A)、成分(B)および成分(C)からなる組成物は均一となる必要があるが、完全に相溶して透明状態になることが必須条件ではない。本発明の粉末状垂れ防止剤は、分離状態が激しくて不均一とならない限りは、均一な分散状態であっても期待される効果を発揮する。
【0045】
上記混合工程で均一となった成分(A)、成分(B)および成分(C)からなる組成物を冷却固化する方法は限定されないが、例えば、ベルトフレーカーのような冷却装置を用いて冷却することにより、フレーク状の固形物とすることができる。このフレーク状固形物の形状は、次の工程である粉砕工程に適している。
【0046】
粉砕工程において、フレーク状固形物を微粉末状の垂れ防止剤とするには、通常はピン式粉砕機やハンマーミル粉砕機のような機械式粉砕機を用いて粗い粉末状物質とし、次いでジェットミル粉砕機のような気流式粉砕機を用いて微細な粉末状物質にする方法が用いられる。垂れ防止効果および塗料の貯蔵安定性を考慮すると、粉末状垂れ防止剤の平均粒子径は5?30ミクロンの範囲が好ましく、5?20ミクロンの範囲がより好ましい。平均粒子径が5ミクロン未満である場合には粉砕効率が低下する傾向が認められ、40ミクロンを超える場合には垂れ防止効果の低下および塗料の貯蔵安定性が悪くなる傾向が認められる。
【実施例】
【0047】
以下、アマイド合成実施例、配合実施例、配合比較例、及び試験実施例により本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例中の「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0048】
ジアマイド化合物(A)および(B)の製造
アマイド合成実施例1
攪拌装置、冷却管、および温度計を備えた内容量が1リットルの4つ口フラスコに水素添加ヒマシ油脂肪酸622部(2.0モル)を計量し、加熱して100℃とした。次に加熱して融解させたヘキサメチレンジアミン116部(1.0モル)を徐々に加えて攪拌し、その後175℃まで緩やかに加熱して脱水反応を行った。4時間反応することによりジアマイド化合物(A)として合成アマイドA-1を得た。
【0049】
アマイド合成実施例2?4
アマイド合成実施例1と同様の方法を用いて表1の配合比率で合成を行い、ジアマイド化合物(A)として合成アマイドA-2?3およびジアマイド化合物(B)として合成アマイドB-1を得た。
【0050】
【表1】

【0051】
非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤の製造
配合実施例1
内容量が0.5リットルの容器に合成アマイドA-1を120部、合成アマイドB-1を40部およびエチレン-アクリル酸共重合物A-C 5120(ハネウェル社製、酸価:120)を40部計量し、180℃に加熱して混合した。得られた混合物を冷却後、粗粉砕および研究用コンパクトジェットミル(装置名「CO-JET SYSTEMα MARK III」、株式会社セイシン企業社製)を用いて微粉砕することにより、平均粒径が10μmである非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得た。
【0052】
配合実施例2?13
配合実施例1と同様の方法を用いて表2の配合比率で各成分を混合し、非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得た。
【0053】
配合比較例14、16?17
配合実施例1と同様の方法を用いて表2の配合比率で各成分を混合し、非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得た。
【0054】
配合比較例15
内容量が0.5リットルの容器に合成アマイドA-1を60部および酸化ポリエチレンA-C 629(ハネウェル社製、酸価:16、軟化点:101℃)を140部計量し、180℃に加熱して混合した。得られた混合物を冷却後に粗粉砕し、研究用コンパクトジェットミルを用いて微粉砕を試みたが、粉砕性が悪いため、非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得ることが出来なかった。
【0055】
【表2】

【0056】
非水系無溶剤型エポキシ樹脂塗料を用いた試験
試験実施例1
〔塗料配合〕
表3に記載した配合の非水系無溶剤型エポキシ樹脂塗料組成物を用いて、非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤(以下においては添加剤とも言う)の性能試験を行った。
【0057】
【表3】

【0058】
〔塗料の作製方法〕
内容量が1リットルの容器にビスフェノールA型エポキシ樹脂エピコート828を168部、反応性希釈剤SY-40Mを24部、非反応性希釈剤ネシレスEPX-L2を48部、ベンジルアルコールを48部、硫酸バリウムBAを160部、タルク#1を160部、ネフェリンサイアナイトMINEX7を136部および酸化チタンR-820を56部仕込んだ。内容物をカウレスディゾルバー(装置名「T.K.オートホモミキサー」、羽根の直径6cm、プライミクス株式会社製)で攪拌(1000rpm×2分間)し、添加剤4部を加えてさらに撹拌(4000rpm×20分間)した。得られた分散物の100部を量り取り、変性ポリアミンであるサンマイドX-4150を10.9部加え、均一になるように撹拌して非水系無溶剤型エポキシ樹脂塗料を作製した。
【0059】
〔塗料の粘度およびTI値〕
上記に記載した塗料について、B型粘度計を用いて25℃における60rpmの粘度(P:ポイズ、以下同様)と6rpmの粘度(P)を測定し、TI値(チキソトロピックインデックス)は6rpmにおける粘度を60rpmにおける粘度で除して算出した。
【0060】
〔垂れ防止性の評価〕
サグテスター(「垂れ試験器」 太佑機材株式会社製)を用いて垂れ試験紙(「全黒測定紙」 太佑機材株式会社製)に塗料を100ミクロン間隔の厚さで塗布し、この試験紙を薄い塗膜帯が上方になるように垂直に立てて常温で風乾後、初めて各塗膜間の間隔を超えて垂れ下がることにより下方の塗膜帯に接触した部分が認められる塗膜厚の一段薄い塗膜厚を判定して垂れ防止性とした。初期評価の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
〔貯蔵安定性の評価〕
主剤と添加剤の分散物を密栓して50℃の恒温槽の中に2週間保存した後、再び垂れ防止性を上記と同様の方法で評価した。貯蔵安定性試験後の評価結果を表4に示す。
【0063】
表4の結果から明らかなように、本発明の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を添加した非水系無溶剤型エポキシ樹脂塗料は、垂れ防止剤を添加しない塗料(ブランク)と比較して垂直面での垂れ防止性が優れており、配合比較例の添加剤を添加した塗料と比較して50℃における貯蔵安定性が良好であることが確認された。
【0064】
以上の結果から明らかなように、本発明のジアマイド化合物/カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス混合物を基本的成分とする非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤は、非水系無溶剤防食塗料に添加した場合、優れた垂れ防止効果を発揮し、貯蔵安定性においても優れていることは明白である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素添加ヒマシ油脂肪酸とジアミンとの縮合反応、または、20モル%以上で100モル%未満の水素添加ヒマシ油脂肪酸と0モル%を超え80モル%以下の水素添加ヒマシ油脂肪酸以外の炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とからなる混合物とジアミンとの縮合反応、により得られるジアマイド化合物(A)と、炭素数が2?22である脂肪族モノカルボン酸の1種以上とジアミンとの縮合反応により得られる(A)以外のジアマイド化合物(B)と、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を含み、上記ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)の合計重量を基準にして、ジアマイド化合物(A)を40?80重量%、ジアマイド化合物(B)を10?50重量%、およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を10?40重量%含有し、5?30ミクロンの範囲の粒子径を有する粉末であることを特徴とする非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項2】
ジアミンが、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミンまたはキシリレンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項3】
カルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)が、酸化ポリエチレンワックス(酸価が3?70mg KOH/g)、酸化エチレン-プロピレン共重合体ワックス(酸価が3?70mg KOH/g)またはエチレン-アクリル酸共重合体ワックス(酸価が5?180mg KOH/g)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤。
【請求項4】
ジアマイド化合物(A)、ジアマイド化合物(B)およびカルボキシル基含有ポリオレフィンワックス(C)を加熱して融解させ、均一に混合した後に冷却し、冷却物を微粉砕することにより請求項1に記載の非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤を得る方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-23 
出願番号 特願2011-187665(P2011-187665)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (C09D)
P 1 651・ 121- ZAA (C09D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 内藤 康彰  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 橋本 栄和
岩田 行剛
登録日 2015-06-05 
登録番号 特許第5756372号(P5756372)
権利者 楠本化成株式会社
発明の名称 非水系無溶剤防食塗料用粉末状垂れ防止剤およびその製造方法  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
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