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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1330072
異議申立番号 異議2016-700540  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-10 
確定日 2017-05-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5837284号発明「アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5837284号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5837284号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 本件特許第5837284号は、平成28年11月4日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであると認める。
これに対して、平成28年12月16日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜系太陽電池であるアモルファスシリコン太陽電池用基板材として優れた表面性状を有するアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜シリコン太陽電池基板材には、ソーダガラスなどのガラス、金属箔であるステンレス鋼、合成樹脂であるポリイミドが主に用いられている。面積あたりの価格では、一般的にステンレス鋼、ガラス、ポリイミドの順に高くなっている。また、太陽電池におけるシリコン層の成膜工程では高温プロセスを経るが、ステンレス鋼やガラスと比較してポリイミドは耐熱性が大きく劣る。よって、価格および耐熱性についての観点から、太陽電池基板材の素材としてステンレス鋼が選択される場合がある。
【0003】
太陽電池基板材としてステンレス鋼板が用いられた構成としては、耐腐食性を向上させるために、可撓性基板である導電性基板としてステンレス鋼板が用いられた構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-97727号公報(第5,9頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1などでは、耐腐食性の向上を目的として太陽電池基板材としてステンレス鋼板を用いただけであり、ステンレス鋼板における成膜性はあまり考慮されていなかった。
【0006】
すなわち、太陽電池基板に蒸着されるアモルファスシリコン層は、1μm以下の薄い層であるとともに、均一かつ連続的に形成する必要があるため、太陽電池基板としてステンレス鋼板を用いる場合、ステンレス鋼板表面の表面疵やマイクロクラックなどは、成膜状態を悪化させて歩留り低下の原因となる。また、ステンレス鋼板表面において、表面凹凸は成膜状態に影響し、製膜不良が発生すると回路が短絡してしまうおそれがある。例えば、凹凸の高低差が大きい場合などには、ピンホールなどの発生や膜厚の不均一化を招いて、回路短絡や電池特性の低下が起こってしまうという問題などが考えられる。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、成膜性が良好なアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載されたアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板は、表面にアモルファスシリコン層が形成されるアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板において、鋼板表面は、表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7未満であるものである。
【0009】
請求項2に記載されたアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法は、請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法であって、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延は、総圧延率が70%以上であり、仕上焼鈍前に行う冷間圧延は、圧延率が30%以上であり、かつ、最終パスにて粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延するものである。
【0010】
請求項3に記載されたアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法は、請求項2に記載されたアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法において、調質圧延は、潤滑剤を用いることなく、粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて伸び率0.1?2.0%に圧延するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、鋼板表面は、表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7未満であることにより、成膜層の膜厚を均一化しやすく、成膜層の短絡を抑制でき、成膜性を向上できる。
【0012】
請求項2に記載された発明によれば、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延は総圧延率が70%以上であり、仕上焼鈍前に行う冷間圧延は圧延率が30%以上であり、かつ、最終パスにて粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延するため、鋼板表面の表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7未満であり、成膜性が良好なアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板を容易に製造できる。
【0013】
請求項3に記載された発明によれば、調質圧延は、潤滑剤を用いることなく、粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて伸び率0.1?2.0%に圧延するため、成膜性が良好なアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0016】
アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板は、例えばフェライト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼などのステンレス鋼にて板状に形成されたものである。
【0017】
この太陽電池基板材用ステンレス鋼板は、鋼板表面において、表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7より小さい。
【0018】
Rzは、JIS B 0601:’94にて規定され、鋼板表面の凹凸の高低差を示す十点平均粗さであって、粗さ曲線において、最も高い凸部を示す山頂から高い順に5番目までの凸部の高さの平均と、最も深い凹部を示す谷底から深い順に5番目までの凹部の深さの平均との和である。
【0019】
鋼板表面の十点平均粗さRzが0.3μmより大きいと、凹凸の高低差が大きく、膜厚の不均一化および成膜層の短絡を招くだけでなく、パーティクルなどの汚れを凹部にトラップしやすい状態であることから、成膜性が悪化する。
【0020】
Rskは、JIS B 0601:’01に規定され、鋼板表面の凸部および凹部の鋭角度合いを示す高さ方向の特徴平均パラメータであって、Rsk>0の場合は凸部形状が鋭角でかつ凹部形状が鈍角な状態であり、Rsk<0の場合は凸部形状が鈍角でかつ凹部が鋭角な状態である。また、特徴平均パラメータRskの数値が正に大きくなるに従い凸部形状がより鋭角になり、特徴平均パラメータRskの値が負に大きくなるに従い凹部形状がより鋭角になる。
【0021】
鋼板表面の凹凸では、鋼板表面の特徴平均パラメータRskが0.7以上で凸部が鋭角であると、成膜層の膜厚が不均一になり短絡が起こりやすくなるため、成膜性が悪化してしまう。
【0022】
ここで、鋼板表面の凹部が鋭角な場合、凹部の深さによってはパーティクルなどの汚れをトラップしやすくなる。すなわち、鋭角な凹部の深さが深い場合は、汚れをトラップしやすく、成膜性が悪化してしまう可能性が考えられる。
【0023】
しかしながら、十点平均粗さRzを0.3μm以下にすることで、凸部と凹部との高低差を規定できるので、凹部の深さも制御できる。すなわち、特徴平均パラメータRskが負の大きな値を示し鋼板表面に鋭角な凹部が形成された場合であっても、十点平均粗さRzが0.3μm以下でありその鋭角な凹部の深さが浅いので、汚れをトラップしにくく、成膜性が悪化しない。
【0024】
したがって、鋼板表面は、十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7未満である表面性状とした。
【0025】
そして、例えば図1に示すように、太陽電池基板材用ステンレス鋼板上に下部電極層、pin型太陽電池および上部電極層が順次形成され、太陽電池が形成される。なお、下部電極層は、ステンレス鋼板表面にZnO、AgおよびZnOが順次スパッタリングにより蒸着されて形成される。また、pin型太陽電池は、下部電極層上にn型非晶質シリコン層、i型非晶質シリコン層およびp型微結晶質シリコン層が順次プラズマ化学気相蒸着(CVD)法にて蒸着されて形成される。さらに、上部電極層は、pin型太陽電池上にIndium Tin Oxide(ITO)膜およびAgが順次スパッタリングにより蒸着されて形成される。
【0026】
次に、アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法について説明する。
【0027】
アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板は、従来のステンレス鋼板のように、例えば、精錬および鋳造の後、熱間圧延、中間圧延(冷間圧延)、中間焼鈍、仕上圧延(冷間圧延)、仕上焼鈍および調質圧延が順次行われる。
【0028】
熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延である中間圧延および仕上圧延では、各冷間圧延における総圧延率を70%以上となるように圧延する。なお、熱間圧延以降は、焼鈍、冷間圧延、研磨などの工程に適宜通板されるため、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延の総圧延率が70%以上であればよい。
【0029】
また、仕上焼鈍の前に行う冷間圧延である仕上圧延は、そのステンレス鋼板の表面性状へ影響が大きい重要な工程である。このような仕上焼鈍の前に行う冷間圧延の際には、圧延率が30%以上となるように圧延するとともに、この冷間圧延の最終パスでは、算術粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延する。
【0030】
さらに、調質圧延は、潤滑剤を用いることなく、算術粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて、伸び率0.1%以上2.0%以下に圧延すると好ましい。
【0031】
ここで、鋼板表面の微細な窪みであるマイクロクラックは、その深さが深いと、鋼板表面の表面性状が悪化し、太陽電池を成膜する際の短絡の原因となる。したがって、十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7未満という表面性状を得るには、冷間圧延によりマイクロクラックの原因となる表面疵を引き伸ばして、マイクロクラックの深さを浅くすることが重要である。
【0032】
調質圧延を行うまでの各冷間圧延の総圧延率が70%より低いと、鋼板表面の表面性状に悪影響を及ぼす、例えば深さが0.5μm以上のマイクロクラックが発生しやすく、鋼板表面の表面性状を十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7未満に制御しにくい。したがって、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延を行うまでの各冷間圧延の総圧延率を70%以上とした。
【0033】
また、調質圧延までに行う各冷間圧延による総圧延率を管理するだけでなく、仕上焼鈍前の冷間圧延を特定の条件にて行い、マイクロクラックの痕跡が残存しないように引き延ばすことが表面性状の向上に重要である。仕上焼鈍前の冷間圧延は、圧延率が30%より低いと、表面性状に悪影響を与えるマイクロクラックが残存しやすい。したがって、仕上圧延前の冷間圧延の圧延率は30%以上とした。
【0034】
さらに、仕上焼鈍前の冷間圧延の最終パスに用いられる圧延ロールは鋼板表面の凹凸に影響しやすく、粗さRaが0.4μmより粗い圧延ロールを用いると、鋼板表面の凹凸の高低差が大きくなり、鋼板表面の十点平均粗さRzが0.3μmより大きくなりやすい。したがって、仕上焼鈍前の冷間圧延では、最終パスにて算術粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延する。
【0035】
調質圧延は、鋼板表面を最終的に決定付ける工程であり、この調質圧延にてマイクロクラックが発生して表面性状が悪化する場合もある。
【0036】
具体的には、調質圧延において、鋼板表面に光沢を付与することや錆びを防ぐことなどを目的として添加剤を配合した圧延油、潤滑油および防錆剤などの潤滑剤を使用した場合、この潤滑剤の油膜がロールと鋼板表面との間に入り込むことで、調質圧延の際にマイクロクラックが発生してしまう。
【0037】
したがって、調質圧延では、潤滑油および防錆剤などの潤滑剤を用いることなく圧延することが好ましい。なお、ロールと鋼板表面との間に油膜が入り込むことを防止できればよいので、例えば、ロール異物除去のために洗浄液などを用いてロールを洗浄する作業や、洗浄液などを用いてワイパなどによる拭き取る作業のように、洗浄液を用いてロールと鋼板表面との間に油膜や異物が入り込むことを防止してもよい。
【0038】
また、調質圧延における圧延ロールの粗さや調質圧延におけるステンレス鋼板の伸び率もマイクロクラックの発生に影響するので、特定の調質圧延条件にて引き延ばすことが好ましい。
【0039】
具体的には、調質圧延では、調質圧延による伸び率が0.1%より低いと鋼板表面の表面性状に悪影響を与えるマイクロクラックの残存数が多くなり、調質圧延による伸び率が2.0%より高いと異物などの噛み込みなどを助長してしまう。したがって、調質圧延では、伸び率を0.1%以上2.0%以下に圧延することが好ましく、この調質圧延では、算術粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いることが好ましい。
【0040】
そして、このようなアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板によれば、鋼板表面は、表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7未満であるので、マイクロクラックや表面疵が少なく、鋼板表面の平滑性が良好である。したがって、太陽電池を形成する際に蒸着を行うための表面性状が良好であり、鋼板表面の成膜性を向上できる。
【0041】
アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板を製造する際には、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延は総圧延率が70%以上であり、また、仕上焼鈍前に行う冷間圧延は圧延率が30%以上であり、かつ、最終パスにて粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延するため、マイクロクラック数が少なく、鋼板表面の凹凸の高低差が小さくなる。したがって、十点平均粗さRzが0.3μm以下で特徴平均パラメータRskが0.7未満の平滑な鋼板表面であるステンレス鋼板を形成しやすく、成膜性が良好なアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板を容易に製造できる。
【0042】
調質圧延は、潤滑剤を用いることなく、算術粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて伸び率0.1?2.0%に圧延するため、調質圧延でのマイクロクラックの発生を抑制できる。したがって、十点平均粗さRzが0.3μm以下で特徴平均パラメータRskが0.7未満の平滑な鋼板表面であるステンレス鋼板を形成しやすく、成膜性が良好なアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板を容易に製造できる。
【0043】
なお、上記一実施の形態では、太陽電池基板材用ステンレス鋼板を製造する際に、精錬および鋳造後、熱間圧延、中間圧延、中間焼鈍、仕上圧延、仕上焼鈍、および調質圧延を順次行い、調質圧延では、潤滑剤を用いることなく、算術粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて伸び率0.1?2.0%に圧延する構成としたが、このような構成には限定されず、熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延は総圧延率が70%以上であり、仕上焼鈍前に行う冷間圧延は圧延率が30%以上であり、かつ、最終パスにて算術粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延する方法であればよい。
【実施例】
【0044】
以下に示す本実施例および比較例のステンレス鋼板を用いて太陽電池基板材としての成膜評価を行った。炭素(C):0.01質量%、ケイ素(Si):0.52質量%、マンガン(Mn):0.2質量%、クロム(Cr):18.2質量%、ニオブ(Nb):0.41質量%、銅(Cu):0.48質量%を含有し、残部が鉄(Fe)および不可避的不純物であるフェライト系ステンレス鋼板と、C:0.04質量%、Si:0.48質量%、Mn:0.2質量%、Cr:18.4質量%、ニッケル(Ni):8.2質量%、窒素(N):0.02質量%を含有し、残部が鉄(Fe)および不可避的不純物であるオーステナイト系ステンレス鋼板とを表1に示す条件にて形成した。なお、鋼種a,b,d,f,i,kは供試材としてフェライト系ステンレス鋼を用い、鋼種c,e,g,h,j,lは供試材としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いた。
【0045】
太陽電池の成膜評価では、これらフェライト系ステンレス鋼板およびオーステナイト系ステンレス鋼板を供試材として用い、従来の方法にて太陽電池を形成して成膜性の評価を行った。
【0046】
具体的には、図1に示すように、まず、各ステンレス鋼板の表面に、ZnOを20nm、Agを250nm、ZnOを20nm順次スパッタリングにより蒸着させて下部電極層を形成した。
【0047】
次いで、下部電極層上にpin型太陽電池をプラズマCVD法にて作製した。すなわち、下部電極層上に、n型非晶質シリコン層を20nm、i型非晶質シリコン層を300nm、p型微結晶質シリコン層を20nm順次形成した。
【0048】
さらに、pin型太陽電池上に、ITO膜を70nm、Agを250nm順次スパッタリングにより蒸着させて、上部電極層を形成した。
【0049】
また、太陽電池セルのサイズは5mm×5mmとし、1枚の各ステンレス鋼板上にアモルファスシリコン太陽電池をそれぞれ16セルずつ形成した。セルの形成後、150℃×2時間の真空焼鈍を行い、評価用の太陽電池とした。
【0050】
このように形成した太陽電池に対して、山下電装株式会社製のソーラシミュレータを使用して光電変換率を求めた。回路の短絡などによる成膜結果を考慮し、光電変換率の測定を行った16セルのうちの光電効率の測定が行えたセルの比率、すなわち、セルの歩留りを算出して成膜性を評価した。
【0051】
また、表面性状の評価については、株式会社東京精密製の表面粗さ測定装置を用いて、表面粗さパラメータである十点平均粗さRzおよび特徴平均パラメータRskの測定を行った。なお、表面粗さは、JIS’94規格に基づき、測定方向を圧延方向に対して直角方向であるC方向とし、測定距離を4mmとし、測定速度を0.3mm/sとし、カットオフ値を0.8mmとして算出した。本実施例および比較例の表面粗さパラメータおよびセルの歩留りを表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、規定した上記各条件にて形成した鋼種a,b,c,d,e,h,kのステンレス鋼を用いた本実施例は、十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7未満であった。また、セルの歩留りはそれぞれ90%以上であり、成膜性が良好であると言える。なお、例えば従来から太陽電池基板材として用いられているガラス基板の成膜の歩留りは、90%以上であり、本実施例はセルの歩留りがガラス基板と同程度であった。
【0054】
本実施例は、十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7未満であり、鋼板表面の表面性状が平滑であるため、マイクロクラックや表面凹凸による回路の短絡が発生しにくいので、成膜性が良好であると考えられる。
【0055】
これに対して、規定した上記各条件とは異なる条件が含まれた製造工程にて形成した鋼種f,g,iのステンレス鋼板を用いた比較例は、十点平均粗さRzが0.3μmより大きく、セルの歩留りが13%、16%、0%と非常に低かった。
【0056】
また、規定した上記各条件とは異なる条件が含まれた製造工程にて形成した鋼種jのステンレス鋼板を用いた比較例は、特徴平均パラメータRskが0.7以上であり、セルの歩留りが13%と非常に低かった。
【0057】
また、規定した上記各条件とは異なる条件が含まれた製造工程にて形成した鋼種lのステンレス鋼板を用いた比較例は、十点平均粗さRzが0.3μmより大きく、かつ、特徴平均パラメータRskが0.7以上であり、セルの歩留りが0%だった。
【0058】
各比較例では、規定した上記条件とは異なる製造工程が含まれており、鋼板表面にマイクロクラックなどが多数発生し、鋼板表面の凹凸の高低差が大きく、凸部の頂点が鋭角形状であったため、回路の短絡が起こりやすい表面性状であったと考えられる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にアモルファスシリコン層が形成されるアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板において、
鋼板表面は、表面粗さパラメータの十点平均粗さRzが0.3μm以下であり、かつ、高さ方向の特徴平均パラメータRskが0.7未満である
ことを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板。
【請求項2】
請求項1記載のアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法であって、
熱間圧延以降から仕上焼鈍後の調質圧延までに行う冷間圧延は、総圧延率が70%以上であり、
仕上焼鈍前に行う冷間圧延は、圧延率が30%以上であり、かつ、最終パスにて粗さRaが0.4μm以下の圧延ロールを用いて圧延する
ことを特徴とするアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項3】
調質圧延は、潤滑剤を用いることなく、粗さRaが0.1μm以下の圧延ロールを用いて伸び率0.1?2.0%に圧延する
ことを特徴とする請求項2記載のアモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-23 
出願番号 特願2010-67790(P2010-67790)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (H01L)
P 1 651・ 537- ZAA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森 竜介
松川 直樹
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5837284号(P5837284)
権利者 日新製鋼株式会社
発明の名称 アモルファスシリコン太陽電池基板材用ステンレス鋼板およびその製造方法  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 襄  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 聡  

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