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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1330082
異議申立番号 異議2016-701018  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-26 
確定日 2017-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5908393号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5908393号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の一群の請求項[1?12]について訂正することを認める。 特許第5908393号の請求項7に係る特許についての申立を却下する。 特許第5908393号の請求項1ないし6、及び、請求項8ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5908393号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成23年9月30日(優先権主張 平成22年9月30日 日本国(JP)、平成23年6月29日 日本国(JP))を国際出願日とする特願2012-504589号の一部を平成24年12月26日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月1日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 株式会社クラレにより特許異議の申立てがされ、平成29年1月16日付けで取消理由が通知され、同年3月14日付けで訂正請求がなされると共に意見書が提出され、これに対して同年4月21日付けで特許異議申立人より意見書の提出があったものである。

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第1の層と、
前記第1の層の第1の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第2の層と、
前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第3の層とを備え、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも低く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.14以下であり、
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層における前記可塑剤の含有量が50重量部以上であり、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれている前記可塑剤の含有量は、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2,第3の層に含まれている前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.07以上であるか、または、前記第1の層の厚みが55μm以上である、合わせガラス用中間膜。」と記載されているのを、
「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第1の層と、
前記第1の層の第1の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第2の層と、
前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第3の層とを備え、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも低く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.14以下であり、
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層における前記可塑剤の含有量が50重量部以上であり、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれている前記可塑剤の含有量は、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2,第3の層に含まれている前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.07以上であるか、または、前記第1の層の厚みが55μm以上であり、
前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である、合わせガラス用中間膜。」
と訂正する。(下線部は訂正箇所)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8において「請求項1?7のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?6のいずれか1項」に訂正する

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9において「請求項1?8のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?6、及び8のいずれか1項」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12において、「請求項1?11のいずれか1項」とあるのを「請求項1?6、及び8?11のいずれか1項」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「第1の層」を、「第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である」と特定したものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されてあった「第1の層」の構成を限定することで、概念的に下位の発明にするものだから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項7に記載された構成を請求項1に加えたものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項にも適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項7の削除は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で行ったものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3?5
訂正事項3、4、5は、それぞれ多数項引用形式の請求項8、9、12において、請求項7の引用を削除したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3?5は、それぞれ請求項8、9、12の実質的な内容を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で行ったものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4)一群の請求項についての説明
訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?12は、請求項2?12が請求項1を直接又は間接的に引用しているから一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?5は、この一群の請求項について訂正を請求したものと認められ、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3.結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、
請求項1ないし6、請求項7、及び請求項8ないし12について、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の[1?12]について請求項毎に訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6、8?12に係る発明(以下、項番毎に「本件発明1」のように記し、総称して「本件発明」と記す。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6、8?12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、下線部は、訂正請求により訂正された箇所を示す。

【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第1の層と、
前記第1の層の第1の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第2の層と、
前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第3の層とを備え、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも低く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.14以下であり、
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層における前記可塑剤の含有量が50重量部以上であり、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれている前記可塑剤の合有量は、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2,第3の層に含まれている前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.07以上であるか、または、前記第1の層の厚みが55μm以上であり、
前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも5モル%以上低い、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率がそれぞれ10モル%以上、50モル%以下、かつアセチル化度がそれぞれ3モル%未満である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が50?90重量部である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記第2,第3の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量がそれぞれ10?60重量部である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、9.2モル%以下であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、8.5モル%を超え、9.2モル%以下である場合には、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が3000を超えるポリビニルアルコールのアセタール化物である、請求項1?6のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上であるか、又は前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?6、及び8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上である、請求項9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である、請求項9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
第1の合わせガラス構成部材と、
第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?6、及び8?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である、合わせガラス。

2.特許異議申立理由及び取消理由の概要
特許異議申立人は、異議申立理由として以下に示す甲各号証に基づく新規性及び進歩性要件違反並びに記載要件違反を主張し、本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。

<甲各号証>
・甲第1号証:特開2007-331964号公報
・甲第2号証:特開平6-926号公報
・甲第3号証:特開2010-150065号公報

(異議申立理由)
○理由1.新規性要件違反(甲1)
訂正前の請求項1-5、9、11、12に記載された発明に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

○理由2.新規性要件違反(甲2)
訂正前の請求項1-6、9、10、12に記載された発明に係る特許は、同発明が、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

○理由3.進歩性要件違反(甲1)
訂正前の請求項6、8に記載された発明に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

○理由4.進歩性要件違反(甲3、甲1)
訂正前の請求項1-10、12に記載された発明に係る特許は、同発明が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

○理由5.委任省令要件違反
本件特許は、訂正前の請求項7-12に記載された発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されていないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

○理由6.サポート要件違反
本件特許は、訂正前の請求項1-12に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(取消理由の概要)
当審は、上記異議申立理由を検討した結果、上記異議申立理由の「理由1」「理由2」「理由5」「理由6」を取消理由とした。
また、「理由3」について、訂正前の請求項8(訂正前の請求項7を引用しない場合)に記載された発明に係る特許についてのみ取消理由とし、「理由4」について、取消理由としなかった。


3.取消理由について
(1)理由1ないし3について
理由1ないし3は、訂正前の請求項7に記載された発明を除く、訂正前の請求項1ないし6に記載された発明と、訂正前の請求項8ないし12に記載された発明についての新規性及び進歩性要件違反に関する取消理由であった。
しかし、本件訂正により、本件発明1は、訂正前の請求項7に記載された発明の特定事項であった「第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘着性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である」こと(以下、「特定事項X」という。)が特定され、訂正前の請求項7に記載された発明は削除された。
また、本件発明2ないし6と本件発明8ないし12は直接又は間接的に特定事項Xを有する本件発明1を引用するものである。
よって、本件発明1ないし6と本件発明8ないし12についての新規性及び進歩性要件違反に関する理由1ないし3は解消した。

(2)理由5について
本件訂正により、本件発明1は、上記特定事項Xが付加されてさらに限定され、訂正前の請求項7に記載された発明に相当するものとなり、本件発明2ないし6と本件発明8ないし12は直接又は間接的に本件発明1を引用するものとなった。
したがって、理由5は、「本件特許は、本件発明1ないし6と本件発明8ないし12の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されていないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。」といえる。
そして、理由5について検討すると、本件特許明細書には、「上記比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))は、0.65以上であり、好ましくは1.0以下である。上記比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が0.65以上であると、かなり過酷な条件で又は長期間にわたり合わせガラスが保管されたとしても、合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長を十分に抑制できる。」(【0045】)という特定事項Xの比についての技術的意義が記載されており、【表1】(【0158】)?【表6】(【0163】)に記載の実施例4?9、11?15、17?23の値をみると、上記比が0.65以上であると発泡を抑制できていることが読みとれるものといえる。
すると、特定事項Xの比と発泡の抑制との間には明らかに実質的な相関の存在が理解される。そして、明細書の記載要件では、作用機序や臨界的意義があることまでは要求されないから、発明の詳細な説明には、本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないとまでいうことはできない。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし6と本件発明8ないし12の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されていないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものに対してされたものといえず、取り消されるべきものでない。

(3)理由6について
理由6について検討すると、本件発明の解決すべき課題は、「合わせガラスの遮音性を高めるために・・・中間膜中の可塑剤の含有量を多くすると、合わせガラスの遮音性を改善できる。しかしながら、可塑剤の含有量を多くすると、合わせガラスに発泡が生じることがある」(【0011】)ので、遮音性と、発泡の発生及び発泡の成長を抑制できる合わせガラスを得ること(【0011】?【0013】等)であり、【表1】(【0158】)?【表6】(【0163】)に記載の実施例4?9、11?15、17?23の値をみても、遮音性が維持され、上記特定事項Xの比が0.65以上であると発泡を抑制できていることが読みとれるものといえる。
すなわち、比較例の有無によらず、実施例により解決すべき課題が解決されているといえるから、本件発明は発明の詳細な説明の記載により裏付けられているものといえる。
よって、本件特許は、本件発明1ないし6と本件発明8ないし12が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものに対してされたものとはいえず、取り消されるべきものでない。

4.取消理由としなかった異議申立理由(理由4)について
甲第3号証には、
ア)「自動車等の車両、航空機、建築物等の窓ガラス等」として使用される「合わせガラス」として「ポリビニルブチラール樹脂等であるポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する合わせガラス用中間膜を介在させ、積層し、一体化させた合わせガラス」(【0002】)において、
イ)「遮音性に優れ、かつ、耐熱性にも優れる合わせガラス用中間膜を提供することを目的」として(【0006】)、
ウ)「中間膜」を、「樹脂組成物A」でなる「中間層」(【0062】)を「樹脂組成物C」でなる「保護層」(【0063】)で「挟持」(【0007】)した構造とし、
エ-1)「中間層」は、「樹脂組成物A」として「アセチル基量が13mol%」、「ブチラール化度が65mol%」、「水酸基含有率22mol%(=100-65-13)」の「ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度4200)」に、同「樹脂組成物A」「100重量部」に対して「可塑剤」「100重量部」を添加して形成された「厚さ0.1mm」のものとし、
エ-2)「保護層」は、「樹脂組成物C」として「アセチル基量が1mol%」、「ブチラール化度が65mol%」、「水酸基含有率34mol%(=100-65-1)」の「ポリビニルブチラール樹脂(平均重合度1700)」に、同「樹脂組成物C」「100重量部」に対して「可塑剤」「40重量部」添加して形成された「厚さ0.35mm」のものとし、
エ-3)「中間層」を「保護層」で挟持して「合わせガラス用中間膜」とする(実施例7【0073】、実施例1【0062】?【0066】)、
ことが記載されている。

すると、甲第3号証に記載された「合わせガラス用中間膜」は、本件発明1と比較して、
A)本件発明1の「第1の層の厚みの前記第2、第3の層の合計厚みに対する比が0.14以下」に相当する「中間層」の厚さの二つの「保護層」の合計厚みに対する比が
0.1/(0.35+0.35)=1/7=0.1428>0.14
であり、
B)本件発明1の上記特定事項Xを満たすか不明である点で相違する。

ここで、相違点B)について検討するに、特許異議申立書57-59頁には概ね次のように記載されている。
甲第3号証に特定事項Xの直接の記載はない。
そこで、本件特許明細書の記載を参酌すると、本件特許明細書には、
i)弾性率G’はポリアセタール樹脂を得るためのポリビニルアルコールの平均重合度に影響されること(【0053】)、
ii)本件発明のポリビニルアルコールの平均重合度は3000を越えるのがよいこと(【0022】)
iii)比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))をポリビニルアルコールの平均重合度で制御する場合、合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長を十分に抑制し、かつ合わせガラスの遮音性をより一層高めることができること(【0047】)
iv)比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))を0.65以上にする方法としては、第1の層2中のポリビニルアセタール樹脂を合成する際に、平均重合度が比較的高いポリビニルアルコールを使用する方法があること(【0048】)
v)実施例4-9、11-15、17-23は第1の層2(中間層A)のポリビニルアセタールの原料であるポリビニルアルコールの平均重合度3300であること(表1【0158】、表2【0159】、表5【0162】)
以上から、第1の層2(中間層A)のポリビニルアセタールの原料であるポリビニルアルコールの平均重合度が3300程度以上あれば比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))は0.65以上であるといえる。
すると、上記エ-1)で、甲第3号証の実施例7では、ポリビニルアルコールの「平均重合度4200」であるから、比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))は0.65以上と推測できる。

すなわち、異議申立書には、以上のように、甲第3号証の実施例7の「中間層」であれば、特定事項Xを満たすと主張されている。

当該主張について判断する。
弾性率G’はポリアセタール樹脂を得るためのポリビニルアルコールの平均重合度に影響され、同平均重合度が3300であれば特定事項Xの比が0.65以上であると主張する点は、上記i)?v)から明らかなように、本件特許明細書に記載された内容を根拠とするものであるが、本件特許明細書には、「第1の層」(中間層)のポリアセタール樹脂を得るためのポリビニルアルコールの平均重合度が3300以上であれば特定事項Xの比が0.65以上になるという明示の記載は無く、またデータとしてみても、上記v)に示される本件特許明細書の実施例4-9、11-15、17-23の特定事項Xの比は0.65以上であるが、それらのポリビニルアルコールの平均重合度は全て3300という一律な値であるにすぎず、3300を越える値に対して特定事項Xの比は0.65以上であるかは確認できない。
また、「弾性率G’と温度との関係は、ポリビニルアセタール樹脂の種類に大きく影響され、特にポリビニルアセタール樹脂を得るために用いられる上記ポリビニルアルコールの平均重合度に大きく影響され」(【0053】)るとも記載されるから、特定事項Xの比は、ポリビニルアルコールの平均重合度の他に、「ポリビニルアセタール樹脂の種類」すなわち「水酸基の含有率」「アセチル化度」「ブチラール化度」等にも影響されると考えられるところ、上記実施例において、ポリビニルアルコールの平均重合度は全ての実施例で3300でありながら、それら実施例は「ポリビニルアセタール樹脂の種類」が少しづつ異なり、特定事項Xの比は必ずしも一定値を採らないことから、特定事項Xの比はポリビニルアルコールの平均重合度以外の要因も影響することは明らかである。
そうであれば、ポリビニルアルコールの平均重合度が3300以上であれば必ず特定事項Xの比が0.65以上になるとまではいえない。
さらに本件特許明細書には「特に、合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長をより一層抑制し、合わせガラスの遮音性を充分に高め、かつ中間膜を容易に成形できることから、上記第1の層中のポリビニルアセタール樹脂(1)を得るために用いられる上記ポリビニルアルコールの平均重合度は3010以上であることが好ましく、3020以上であることがより好ましく、4000以下であることが好ましく、4000未満であることがより好ましく、3800以下であることが更に好ましく、3600以下であることが特に好ましく、3500以下であることが最も好ましい。」(【0071】)とも記載されているから、「ポリビニルアルコールの平均重合度」は「4000以下であることが好まし」いものとも考えられるし、平均重合度が4000以上のポリビニルアルコールを用いた場合にまで特定事項Xの比が0.65以上になることが記載されているともいえない。
したがって、甲第3号証に「中間層」の「ポリビニルブチラール樹脂」を形成するポリビニルアルコールの平均重合度が4200であることが記載されているからといって、当該中間層の特定事項Xの比が必ず0.65以上になるとまではいえない。
そして、甲第1、2号証には、上記特定事項Xについて記載も示唆も無いことは取消理由1,2の内容から明らかなので、上記相違点B)に係る点は、甲第1、2号証に記載された技術的事項をみても当業者が容易に成し得たこととはいえない。
よって、上記A)について検討するまでもなく、理由4は採用できず、本件発明1-10、12に係る特許は、同発明が、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証に記載の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでなく、取り消されるべきものでない。

5.むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?6、8?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6、8?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項7に係る特許は訂正により削除されたため、本件特許の請求項7に対する特許異議の申立については対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第1の層と、
前記第1の層の第1の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第2の層と、
前記第1の層の前記第1の表面とは反対の第2の表面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む第3の層とを備え、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも低く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.14以下であり、
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層における前記可塑剤の含有量が50重量部以上であり、
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれている前記可塑剤の含有量は、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2,第3の層に含まれている前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層の厚みの前記第2,第3の層の合計厚みに対する比が0.07以上であるか、または、前記第1の層の厚みが55μm以上であり、
前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の各水酸基の含有率よりも5モル%以上低い、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記第2,第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率がそれぞれ10モル%以上、50モル%以下、かつアセチル化度がそれぞれ3モル%未満である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
前記第1の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が50?90重量部である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記第2,第3の層における前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量がそれぞれ10?60重量部である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、9.2モル%以下であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率と前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率との差が、8.5モル%を超え、9.2モル%以下である場合には、前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が3000を超えるポリビニルアルコールのアセタール化物である、請求項1?6のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上であるか、又は前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?6、及び8のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%以上である、請求項9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である、請求項9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
第1の合わせガラス構成部材と、
第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?6、及び8?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である、合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-24 
出願番号 特願2012-282990(P2012-282990)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 新居田 知生
中澤 登
登録日 2016-04-01 
登録番号 特許第5908393号(P5908393)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 特許業務法人せとうち国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 特許業務法人宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 田口 昌浩  

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