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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1330083
異議申立番号 異議2016-700911  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-23 
確定日 2017-06-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5889624号発明「液体調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5889624号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5889624号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5889624号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年2月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人猪瀬則之より特許異議の申立てがなされ、当審において同年12月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされ、特許異議申立人より同年3月16日に意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 平成29年2月6日の本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めるものであり、訂正の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の成分(A)に「胡麻」とあるのを、「煎り胡麻 5?10質量%」と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様である。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「液体調味料」とあるのを、「乳化型液体調味料」と訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「液体調味料」とあるのを、「乳化型液体調味料」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「液体調味料」とあるのを、「乳化型液体調味料」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正の目的について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の成分(A)について、「胡麻」と特定されていたものを、訂正後の請求項1は、胡麻について「5?10質量%」とその量を限定し、さらに「煎り胡麻」とその種類を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、特許異議申立人は、意見書において、「訂正後請求項1乃至3に係る発明は、単に煎り胡麻の配合量を規定しているのみであって、それ以外の胡麻(例えばすり胡麻)について何ら規定がないことにもご留意下さい。」(意見書4ページ)、「単に『煎り胡麻 5?10質量%』と規定するのみで、他に胡麻成分が含まれることが全く排除されていない以上、煎り胡麻以外の胡麻がいくら含まれていても良いことになります。」(意見書4ページ)と主張しているが、本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、「成分(A)胡麻」以外に胡麻成分を含むものではないものであるところ、本件訂正は、その「成分(A)」について、訂正前に単に「(A)胡麻」としていたものを、含有する胡麻の量とともに、「煎り胡麻」とその種類を限定するものであるから、訂正後の「乳化型液体調味料」が「煎り胡麻」以外の胡麻を含み得ると解する余地はない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
イ 訂正事項2は、訂正前の請求項1に「液体調味料」とあったものを、「乳化型液体調味料」とより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ウ 訂正事項3は、訂正前の請求項2に「液体調味料」とあったものを、「乳化型液体調味料」とより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
エ 訂正事項4は、訂正前の請求項3に「液体調味料」とあったものを、「乳化型液体調味料」とより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
ア 訂正事項1の「煎り胡麻」については、本件特許明細書の段落【0009】に、「胡麻は、胡麻を焙煎香が得られる程度に焙煎した煎り胡麻、それを常法で擂ったもの、粉砕したものが、胡麻の香気を増強させる点から好ましい。
胡麻の焙煎方法としては、特に限定されず、例えば、ローターリーキルンに代表される直接又は間接熱風による機器を用いて行う方法、マイクロ波による方法等が挙げられる。風味強調の点からは、直火焙煎等の高温・短時間で焙煎する方法が好ましい。また、洗い胡麻を皮を剥かずに焙煎することが好ましい。皮を剥かないことにより、焙煎した後の特有な風味が得られる。」と記載され、訂正事項1の「煎り胡麻」の含有量である「5?10質量%」については、段落【0010】に、「本発明の液体調味料中、(A)胡麻の含有量は、1?15質量%(以下、単に「%」とする)、更に3?12%、殊更5?10%であるのが、胡麻の香気が強く感じられつつも、香気バランスが良好である点から好ましい。」と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2?4の「乳化型液体調味料」については、本件特許明細書の段落【0019】に、「本発明の液体調味料は、油相及び水相を含む液体調味料であるのが、胡麻風味を生かす点で特に好ましい。
本発明の液体調味料が油相を含む場合、例えば、水相として水を主成分として用い、油相を上層、水相を下層とした分離型、水中油型の乳化物からなる乳化型、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型が挙げられる。
本発明の液体調味料中の油相は5%以上、さらに20%以上、特に30?50%含有するのが好ましい。」と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ さらに、本件訂正請求は、一群の請求項1?3になされたものである。

(3) 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1?4は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ訂正事項1?4は、同条9項で準用する同法126条4?6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1?3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、訂正後の本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。

「【請求項1】
次の成分(A)?(D):
(A)煎り胡麻 5?10重量%、
(B)白糖、
(C)三温糖、中双糖及び含蜜糖から選ばれる1種又は2種以上の糖、
(D)グルタミン酸又はその塩 グルタミン酸換算で0.25?0.5質量%、
を含有し、成分(B)と(C)の合計含有量が8?17質量%であり、成分(B)と(C)の合計含有量に対する成分(C)の含有質量比[(C)/(B+C)]が0.4?0.9である乳化型液体調味料。
【請求項2】
成分(B)と(C)の合計含有量が、8?12質量%であり、且つ含有質量比[(C)/(B+C)]が、0.4?0.6である請求項1記載の乳化型液体調味料。
【請求項3】
成分(B)が上白糖である請求項1又は2記載の乳化型液体調味料。」

2 取消理由の概要
請求項1?3に係る特許に対する、平成28年12月2日付けの取消理由の概要は、以下のとおりである。
「液体調味料の胡麻の香気が、液体調味料中に用いる胡麻の処理状態(煎り胡麻、ゴマの粉砕状態等)や、液体調味料中の胡麻の含有量に大きく影響されることは、技術的に明らかであるから、上記課題を解決するための手段において記載されるグルタミン酸や糖類による胡麻の風味や香気の改善効果は、胡麻の処理状態や、胡麻とグルタミン酸や糖類との配合比率に大きく依存するものと認められる。
加えて、液体調味料中において、胡麻の香気及び後味の甘味に、液体調味料中に含まれる醸造酢、醤油、食塩、卵黄、マヨネーズ風調味料及びキャノーラ油の匂いや味が影響を及ぼすことは、各原料の有する匂いや味の程度を勘案すれば技術的に明らかである。」との事項、及び「食品のフレーバー(匂い)感覚は、食品成分の構成(エマルションか、そうでないか)が因子となることは技術常識である(例えば、特許異議申立人が提出した甲6号証参照。)。」との事項を勘案すれば、特定の乳化型の液体調味料以外の液体調味料を含む、請求項1?3に係る特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものとなっており、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 上記訂正事項1により、液体調味料に含有される「胡麻」について、「煎り胡麻」と胡麻の処理状態が特定され、液体調味料における胡麻の含有量について、液体調味料において「5?10質量%」と特定され、さらに「液体調味料」が「乳化型液体調味料」と特定されたことにより、当審が通知した上記取消理由は解消した。
イ この点について、特許異議申立人は、意見書において、「『成分(B)と(C)の合計含有量が8?17質量%』『成分(B)と(C)の合計含有量に対する成分(C)の含有質量比[(C)/(B+C)]が0.4?0.9』といったパラメータと関連して、本件発明の作用効果を奏することが読み取れるのは、煎り胡麻を8質量%配合した場合のみであり、5?10質量%の範囲が実験的に裏付けられたものであるとは到底認められません。」(4ページ)、「本件明細書の実施例はいずれもキャノーラ油を41%も配合し乳化させたものであり、特定の配合に係るエマルションについてのみ実験を行っておりますので、『乳化型液体調味料』のように抽象的にその範囲を拡張することは出来ません。」(5ページ)と主張しているので、以下に検討する。
ウ 本件発明は、本件特許明細書の段落【0006】に、「本発明者は、胡麻を配合した液体調味料を製造し、胡麻風味の発現について検討したところ、グルタミン酸を一定範囲で含有させれば、喫食当初に発現する胡麻の香気が強く感じられることを見出した。また、甘味付与のために一般的に用いられる白糖に加え、特定の糖を一定の割合で含有させれば、胡麻の香気が一層強まりつつも、香気バランスを良好に保てること、更に後に残る甘味が抑えられた風味の良好な液体調味料とすることができることを見出した。」と記載されるように、グルタミン酸、白糖及び特定の糖(三温糖、中双糖及び含蜜糖から選ばれる1種又は2種以上の糖)の3つの成分を液体調味料にバランス良く含有させることを技術思想とする発明であって、それにより上記のとおり、胡麻の香気や風味の発現を図りつつも、香気バランスを良好に保ち、風味の良好な液体調味料とすることができるようにしたものと認められる。
そして、上記技術思想については、本件特許出願前に公知ないし周知であったとはいえず、また、当業者の技術常識であったともいえない。
そうすると、本件発明は、煎り胡麻の含有量を最適化することに技術的特徴を有するものではない。
また、実施例の8%の前後の市販されている一般的な煎り胡麻を配合した調味料の範囲なら、多少の効果の差があるとしても、課題を解決し得たものと認識できる。
したがって、煎り胡麻含有量が8質量%以外の「(A)煎り胡麻 5?10重量%」の全範囲で実施例がないことをもって、直ちにサポート要件を満たさないとすることはできない。
エ 「液体調味料」についても、油相を有することを前提とした「乳化型液体調味料」と訂正したことについて、「キャノーラ油を41%も配合し乳化させたものであり、特定の配合に係るエマルションについてのみ実験を行なっておりますので、『乳化型液体調味料』のように抽象的にその範囲を拡張することは出来ません。」(5ページ)との特許異議申立人の主張についても、油相の種類や割合が、煎り胡麻の香気や風味に格別影響したとする根拠はなく、また、本件発明が上記ウで述べたとおりの発明であるところ、同様に、サポート要件を満たさないとすることはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ 以上のとおり、本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件請求項1?3に係る特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさないとすることはできず、特許法113条4号に該当するということはできない。

(2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法29条2項について
特許異議申立人は、証拠方法として下記の甲第1号証?甲第6号証を提出して、訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載の事項、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら、甲第1号証?甲第6号証のいずれの証拠方法においても、
本件発明1?3の「(B)白糖、
(C)三温糖、中双糖及び含蜜糖から選ばれる1種又は2種以上の糖、
(D)グルタミン酸又はその塩 グルタミン酸換算で0.25?0.5質量%、
を含有」するという発明特定事項を備えることにより、上記成分(B)、(C)及び(D)からなる3つの成分を液体調味料に含有させて胡麻の香気や風味の発現の調整を図ること、並びに上記成分(B)、(C)及び(D)について、本件発明1?3で特定された数値の範囲とすることについて記載するところはない。
そして、上記の点により、本件発明1?3は、「胡麻の香気が強く感じられつつも、香気バランスが良好で、且つ後に残る甘味が抑えられた風味の良好な液体調味料を得ることができる。」(段落【0008】)という効果を奏するものであり、本件発明1?3が、甲各号証記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
よって、本件発明1?3は、特許法29条2項の規定に違反したとすることはできず、特許法113条2号に該当するということはできない。

イ 証拠方法
甲第1号証:駐妻日記、’バンバンジーサラダ’のプリントアウト、20
08年5月15日、COOKPAD(レシピID57068
2)
甲第2号証:くろぞうきん、’うちの鍋物の胡麻だれ’のプリントアウト
、2008年11月9日、COOKPAD(レシピID66
6465)
甲第3号証:高比良公成、’至宝の調味料4 砂糖’、株式会社アスペク
ト、2000年2月4日、p.56-59
甲第4号証:東和男、’醗酵と醸造I’、株式会社光琳、平成24年3月
15日、p.162-163
甲第5号証:奥嶋佐知子、’1個、1尾、1切れ、1杯がひと目でわかる
食品の栄養とカロリー事典’、女子栄養大学出版部、201
5年3月20日、p.70-71、78-81、142-1
53、156-157
甲第6号証:藤田哲、’食品の乳化-基礎と応用-’、株式会社幸書房、
2006年2月10日、p.227-229

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)?(D):
(A)煎り胡麻 5?10質量%、
(B)白糖、
(C)三温糖、中双糖及び含蜜糖から選ばれる1種又は2種以上の糖、
(D)グルタミン酸又はその塩 グルタミン酸換算で0.25?0.5質量%、を含有し、成分(B)と(C)の合計含有量が8?17質量%であり、成分(B)と(C)の合計含有量に対する成分(C)の含有質量比[(C)/(B+C)]が0.4?0.9である乳化型液体調味料。
【請求項2】
成分(B)と(C)の合計含有量が、8?12質量%であり、且つ含有質量比[(C)/(B+C)]が、0.4?0.6である請求項1記載の乳化型液体調味料。
【請求項3】
成分(B)が上白糖である請求項1又は2記載の乳化型液体調味料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-26 
出願番号 特願2011-271923(P2011-271923)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 山崎 勝司
莊司 英史
登録日 2016-02-26 
登録番号 特許第5889624号(P5889624)
権利者 花王株式会社
発明の名称 液体調味料  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 中嶋 俊夫  

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