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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F01D |
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管理番号 | 1330087 |
異議申立番号 | 異議2016-700759 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-23 |
確定日 | 2017-06-02 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5869173号発明「蒸気タービンのロータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5869173号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第5869173号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5869173号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成23年3月30日に出願された特願2011-74206号の一部を平成26年10月28日に新たな出願とした特願2014-219739号の一部を平成27年6月10日に新たな出願としたものであって、平成28年1月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年8月23日に特許異議申立人政平愛弓(以下、単に「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年11月21日付けで取消理由が通知(以下、単に「取消理由通知」という。)され、平成29年1月24日付け(平成29年1月25日受付)で意見書が提出されるとともに平成29年1月24日付け(平成29年1月25日受付)で訂正の請求がされ、平成29年3月14日に異議申立人により意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成29年1月24日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を、 「【請求項1】 異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、 前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。」(下線は、訂正箇所を示すために特許権者が付したものである。)に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を、 「【請求項2】 異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、 前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。」(下線は、訂正箇所を示すために特許権者が付したものである。)に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0009】を、 「【0009】 上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。 すなわち、本発明の第一の態様に係る蒸気タービンのロータは、異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、第一ロータ部材と、第二ロータ部材とを備え、前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である。」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0010】を、 「【0010】 また、本発明の第二の態様に係る蒸気タービンのロータは、異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、第一ロータ部材と、第二ロータ部材とを備え、前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「Ni基合金」を、本件訂正後に「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」と限定するとともに、本件訂正前の請求項2における「材料」を、本件訂正後に「内部が中実の材料」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 また、訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2の、請求項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項2における「Ni基合金」を、本件訂正後に「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」と限定するとともに、本件訂正前の請求項2における「材料」を、本件訂正後に「内部が中実の材料」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 また、訂正事項2の、請求項2に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3の、明細書の段落【0009】に係る訂正は、上記訂正事項1により請求項1が訂正されるのに伴い、明細書の段落【0009】の記載を請求項1の記載に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項3の、明細書の段落【0009】に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4の、明細書の段落【0010】に係る訂正は、上記訂正事項2により請求項1が訂正されるのに伴い、明細書の段落【0010】の記載を請求項2の記載に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項4の、明細書の段落【0010】に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 ア 本件発明1 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、 前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。」 イ 本件発明2 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、 前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1及び2に係る発明に対して平成28年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2)請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。 3 甲号証の記載等 (1)甲第1号証 甲第1号証(「火力原子力発電 2006年10月号」(Vol.57 No.601)、p89?p106、社団法人火力原子力発電技術協会、平成18年10月15日発行)には、次の事項が記載されている。 ア 「2.2.1 A-USCタービン開発目標 現在のUSC技術では600℃級が主流であるが,700℃の蒸気条件を採用すれば,図8に示すように二段再熱の場合で熱効率が約46%にまで向上し,600℃級一段再熱との相対比で約10%向上する。このような大幅な熱効率向上とCO_(2)排出量削減の観点から700℃級USC(以下,A-USC)の実現が強く望まれており,日米欧の各国で開発が進められている。 A-USC用の蒸気タービンを実現するための最重要課題のひとつは,高温材料の開発である。600℃級USC用蒸気タービンの開発が12Cr鋼の改良による高温強度の向上によって実現したように,A-USCタービンの開発においても更なる高温に耐えうる材料の開発が必要である。 A-USCタービン用の候補材料としては,ボイラ同様Ni基合金に期待が掛かっており,日米欧の各国で開発が進められているが,A-USCタービンに適用可能な材料とするためには,単に高温強度の高い材料を開発するだけでなく,タービンロータや車室に適用可能なレベルの大型鋼塊製造技術の開発や,高温蒸気中における特性の確認,溶接性の検証などの開発課題がある。また,Ni基合金などの高温材料は従来の材料に比べると高価であり,経済的な設計を実現するためにはNi基合金の適用部位を極力制限する必要がある。このため,溶接構造の適用や,より効果的な冷却構造の開発によって,高温材料の使用範囲を低減することがA-USCタービン設計における目標となっている。 以下に,A-USC実用化のための開発課題とその開発状況について説明する。」(第94ページ右欄第2ないし29行) イ 「また一方で,大型鋼塊製造性を向上させたとしても,Ni基合金で従来の蒸気タービンと同等サイズのロータを完全一体で製造することは技術面および設備容量の点で難しくなることが予想され,高温高圧の部分をコンパクトな別車室とする構造や,分割製作したロータ部材を軸方向に溶接で連結した溶接ロータの採用も検討する必要がある。溶接ロータを採用する場合,図11のようにNi基合金をロータ中央部(高温部)のみに適用し,両端の中・低温部には12Cr鋼を適用することで,高価なNi基合金の使用量を低減した経済的な設計が可能となるが,このような溶接ロータを実現するためには,Ni基合金どうしの共材溶接技術および,Ni基合金と12Cr鋼の異材溶接技術の確立が必要である。 さらに,設計面から蒸気タービン用Ni基合金に要求される特性に低熱膨張性がある。かつて649℃の蒸気条件を採用した米国のEddystone 1号機ではオーステナイト系材料が使用されたが,線膨張係数の高さに起因する熱応力による疲労損傷を惹き起こし,弁室に亀裂が発生する等のトラブルに見舞われた。一般的にNi基合金の線膨張係数は,オーステナイト鋼ほど高くないが,600℃級USCタービンで使用されているフェライト系12Cr鋼より高く,熱応力増加や回転部・静止部間の伸び差増大が懸念される。従って,A-USCタービンの信頼性・運用性を損なわぬよう,低熱膨張Ni基合金の開発が求められる。また,前述した12Cr鋼との異材溶接に関しても,両者の線膨張係数は近い方が望ましい。」(第96ページ右欄第5行ないし第97ページ右欄第4行) ウ 「ケースAは最も熱効率が高いと考えられる2段再熱のケースであり,基本システム構成を図14に示す。超高圧タービン(VHP)入口の主蒸気条件は圧力35MPa,温度700℃である。再熱蒸気温度は第一段,第二段ともに720℃とした。この温度条件はヨーロッパのAD700プロジェクトで検討されたものと同じである。本構成による熱効率は46%(送電端,高位発熱量基準)と予測された。 このような構成とした場合,適用材料は図15のようになる。まずボイラを見ると,過熱器や再熱器の一部で開発Ni基合金が使われ,その他の部分は従来材料でまかなえることがわかる。そして,ボイラからタービンへの蒸気管,弁も開発Ni基合金で構成する。タービンは内部ケーシングとロータの一部に開発Ni基合金を適用する。この検討ではケースAを担当したメーカはロータに溶接構造を適用することを想定しており,従来材料(12Cr鋼)と開発Ni基合金は図11で紹介したように接合部で溶接される。タービン翼は高温になる部分だけ従来ガスタービンで使われてきたNi基合金を適用する。」(第99ページ右欄第6行ないし第100ページ左欄第1行) 上記アないしウ並びに図11、12及び15によれば、甲第1号証には以下の発明(以下、順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、Ni基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第二ロータ部材は、12%Cr鋼からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々溶接され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と溶接される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と溶接される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との溶接端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、 前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である、蒸気タービンのロータ。」 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、Ni基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第二ロータ部材は、12%Cr鋼からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々溶接され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と溶接される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と溶接される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との溶接端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、 前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である、蒸気タービンのロータ。」 (2)甲第2号証 甲第2号証(国際公開第2009/154243号)には、次の事項が記載されている。 ア 「蒸気タービンを含む石炭焚火力発電では、従来より高効率化が進められてきており、現在では一般的に600℃級以下の蒸気条件で発電が行われ、タービンロータ、動翼等の主要部材には前記蒸気温度に対する耐熱性を有する12Cr鋼などの高クロム鋼(フェライト系耐熱鋼)が用いられている。 また近年、CO_(2)排出量削減と、更なる熱効率向上のために、700℃級の蒸気条件を採用した発電技術が求められているが、700℃級の蒸気条件を採用すると前記12Cr鋼などの高クロム鋼(フェライト系耐熱鋼)では強度不足となる。 そこで、タービンロータの材料として、更に高い高温強度を有するNi基合金を適用することが考えられるが、Ni基合金は大型鋼塊の製造が難しいためタービンロータの大型化が難しく、さらに非常に高価格であるため、Ni基合金のみを用いてタービンロータを製造することは現実的ではない。」(明細書第1ページ第13ないし24行) イ 「従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、Ni基合金と12Cr鋼などの他の耐熱性鉄鋼材料とを溶接によって接合しても、該接合部における強度を維持することができ、700℃級の蒸気条件でも採用可能なタービンロータ及びその製造方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため本発明においては、 蒸気又は燃焼ガスが作動流体として導入される回転機器に備えられ、通過する作動流体温度に応じて異なる強度の複数の部材を溶接によって接合した回転機器のロータにおいて、室温(「常温」ともいう。以下同様。)から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下であるNi基合金で形成された第1の部材と、高クロム鋼で形成された第2の部材とを溶接によって接合することで構成され、前記作動流体の入口にあたる部位を前記Ni基合金で形成した第1の部材とすることを特徴とする。 前記第1の部材と前記第2の部材とを溶接によって接合して構成することで、ロータの大型化にも対応することができる。 また、前記第1の部材を室温から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下であるNi基合金で形成し、前記第2の部材を高クロム鋼で形成することにより、前記第1の部材と前記第2の部材との線膨張係数の差が小さくなるため、前記第1の部材と前記第2の部材との溶接継手部にかかる熱応力も小さくなり、従って前記溶接継手部においても充分な強度を維持することができる。 また、蒸気又は燃焼ガスである作動流体の入口にあたる部位をNi基合金で形成した第1の部材とすることで作動流体のロータへの導入温度と略同温となる高温部におけるロータの強度を維持することができ、その他の部位(作動流体のロータへの導入温度未満の部位)においても高クロム鋼で形成した第2の部材とすることで充分な強度を維持することができる。 本発明は、作動流体が700℃級の蒸気であっても適用可能である。 また、それぞれNi基合金で形成された少なくとも2つの前記第1の部材と、それぞれ高クロム鋼で形成された少なくとも2つの前記第2の部材とから構成され、前記2つ以上の第1の部材同士を溶接によって接合し、該第1の部材同士が接合された部材の両端部それぞれに、前記第2の部材を溶接によって接合することで構成されることが好ましい。 これにより、ロータのさらなる大型化に対応することができるとともに、ロータ設計の自由度が高くなる。 また、前記高クロム鋼で形成された第2の部材の少なくとも一端側に、低合金鋼で形成された第3の部材を溶接によって接合することで構成されることが好ましい。 低合金鋼は通常ロータの軸受けに使われる金属との相性がよく、ロータの端部に低合金鋼で形成された第3の部材を溶接によって接合することにより、ロータ端部における軸受けとの接触部で溶接肉盛などの加工が不要となる。 また、室温から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下を満たすNi基合金の組成として、前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?15%、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:17?25%、Al:0.2?2%、Ti:0.5?4.5%、Fe:10%以下、B:0.02%以下及びZr:0.2%以下の1種又は2種を含有し、Al+Tiの原子%が2.5?7.0%であり、残部Niと不可避的不純物からなっていてもよい。 さらに、前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%、Mo:17?26%、Al:0.1?2.0%、Ti:0.1?2.0%、Fe:10%以下、B:0.02%以下、Zr:0.2%以下、W及びReとを含有し、残部の成分は実質的にNiからなり、Al+Tiの原子%が1?5.5%であり、次式:17≦Mo+(W+Re)/2≦27を満たしてもよい。 さらに、前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:17?27%、Al:0.1?2%、Ti:0.1?2%、Nb及びTaをNb+Ta/2:1.5%以下、Fe:10%以下、Co:5%以下、B:0.001?0.02%、Zr:0.001?0.2%を含有し、残部Niと不可避的不純物からなっていてもよい。 さらに、前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%未満、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:5?20%未満、W:10%以下、Al:0.1?2.5%、Ti:0.10?0.95%、Nb及びTaをNb+Ta/2:1.5%以下、B:0.001?0.02%、Zr:0.001?0.2%、Fe:4%以下を含有し、Al+Ti+Nb+Taの原子%が2.0?6.5%であり、残部Niと不可避的不純物からなっていてもよい。 また、前記高クロム鋼として、 前記高クロム鋼が、室温から700℃までの平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃であり、重量%で、Cr:7%を超え10.0%未満、Ni:1.5%以下、V:0.10%?0.30%以下、Nb:0.02?0.10%、N:0.01?0.07%、C:0.10%以上、Si:0.10%以下、Mn:0.05?1.5%、Al:0.02%以下、及びMo並びにWをA(1.75%Mo、0.0%W)、B(1.75%Mo、0.5%W)、C(1.53%Mo、0.5%W)、D(1.3%Mo、1.0%W)、E(2.0%Mo、1.0%W)、F(2.5%Mo、0.5%W)、G(2.5%Mo、0.0%W)、Aを結ぶ直線の内側(直線を含まず)の量を含有し、残部が鉄及び付随的不純物よりなっていてもよい。 さらに、前記高クロム鋼が、線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃であり、重量%で、C:0.08?0.25%、Si:0.10%以下、Mn:0.10%以下、Ni:0.05?1.0%、Cr:10.0?12.5%、Mo:0.6?1.9%、W:1.0?1.95%、V:0.10?0.35%、Nb:0.02?0.10%、N:0.01?0.08%、B:0.001?0.01%、Co:2.0?8.0%を含有し、残部が鉄及び付随的不純物よりなっていてもよい。」(第2ページ第17行ないし第5ページ第14行) ウ 「(構成) まず図1を用いて実施例1に係る例えば650℃以上の高温蒸気が導入される蒸気タービンに用いられるタービンロータの構成について説明する。 図1に示すように、タービンロータ1は、2つのNi基合金部11a、11b、2つの高クロム鋼部12a、12b、2つの低クロム鋼部13a、13bから構成されている。」(第8ページ第15ないし20行) エ 「(材料) 次に、タービンロータ1を構成する、Ni基合金部11a、11b、高クロム鋼部12a、12b、低クロム鋼部13a、13bの材料について説明する。 (A)Ni基合金部 Ni基合金部は、650℃以上であって好ましくは700℃程度の高温であっても安定して使用可能な耐熱性を有し、室温から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下であるNi基合金で形成されている。前記範囲の線膨張係数を有するNi基合金を用いることで、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bとの線膨張係数の差が小さくなるため、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bとの間の溶接継手22a、22bにかかる熱応力も小さくなり、従って前記溶接継手においても充分な強度を維持して、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bを接合することができる。 前記線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下であるNi基合金として表1にまとめた(1)?(4)の化学組成範囲の材料が挙げられる。 なお、Ni基合金は、(1)?(4)の範囲に限定されるものではなく、650℃以上の高温であっても安定して使用可能な耐熱性を有し、室温から700℃までの平均線膨張係数が前記の12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃、望ましくは14.0×10^(-6)/℃以下の範囲のNi基合金であれば他の組成であってもよい。 【表1】(省略) 表1中における%は重量%を意味する。 また、表1中における(1)?(4)の組成のNi基合金には不可避的不純物も含まれるが、その含有率は0%に近いほど好ましい。 (B)高クロム鋼部 高クロム鋼部は、650℃程度の温度まで安定して使用可能な耐熱性を有し、室温から700℃までの平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃である高クロム鋼で形成されている。前記範囲の線膨張係数を有するNi基合金を用いることで、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bとの線膨張係数の差が小さくなるため、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bとの間の溶接継手22a、22bにかかる熱応力も小さくなり、従って前記溶接継手においても充分な強度を維持して、Ni基合金部11a、11bと高クロム鋼部12a、12bを接合することができる。 前記線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃である高クロム鋼として表2にまとめた(5)(6)の化学組成範囲の材料が挙げられる。 なお、高クロム鋼は、(5)(6)の範囲に限定されるものではなく、650℃程度の温度まで安定して使用可能な耐熱性を有し、室温から700℃までの平均線膨張係数が前記の11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲の高クロム鋼であれば他の組成であってもよい。 このような範囲の高クロム鋼には、一般にタービンロータに使用される12Cr鋼も含まれており、従来よりタービンロータに使用されている12Cr鋼を高クロム鋼として使用できる。 【表2】(省略) 表2中における%は重量%を意味する。 また、表2中における(5)(6)の組成の高クロム鋼には不可避的不純物も含まれるが、その含有率は0%に近いほど好ましい。」(第9ページ第8行ないし第12ページ下から第5行) オ 「【書類名】請求の範囲 【請求項1】 蒸気又は燃焼ガスが作動流体として導入される回転機器に備えられ、通過する作動流体温度に応じて異なる強度の複数の部材を溶接によって接合した回転機器のロータにおいて、 室温から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃であるNi基合金で形成された第1の部材と、高クロム鋼で形成された第2の部材とを溶接によって接合することで構成され、 前記作動流体の入口にあたる部位を前記Ni基合金で形成した第1の部材とすることを特徴とする回転機器のロータ。 【請求項2】 それぞれNi基合金で形成された少なくとも2つの前記第1の部材と、 それぞれ高クロム鋼で形成された少なくとも2つの前記第2の部材とから構成され、 前記2つ以上の第1の部材同士を溶接によって接合し、 該第1の部材同士が接合された部材の両端部それぞれに、前記第2の部材を溶接によって接合することで構成されることを特徴とする請求項1記載の回転機器のロータ。 【請求項3】 前記Ni基合金で形成された第1の部材同士の溶接継手に1段目の時効処理を施した後、前記第1の部材と前記第2の部材とを溶接し、前記第1の部材同士の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後熱処理とを同温度で同時に行って形成されることを特徴とする請求項2記載の回転機器のロータ。 【請求項4】 前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?15%、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:17超?25%、Al:0.2?2%、Ti:0.5?4.5%、Fe:10%以下、B:0.02%以下及びZr:0.2%以下の1種又は2種を含有し、Al+Tiの原子%が2.5?7.0%であり、残部Niと不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1?3何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項5】 前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%、Mo:17?26%、Al:0.1?2.0%、Ti:0.1?2.0%、Fe:10%以下、B:0.02%以下、Zr:0.2%以下、W及びReとを含有し、残部の成分は実質的にNiからなり、Al+Tiの原子%が1?5.5%であり、次式: 17≦Mo+(W+Re)/2≦27 を満たすことを特徴とする請求項1?3何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項6】 前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:17?27%、Al:0.1?2%、Ti:0.1?2%、Nb及びTaをNb+Ta/2:1.5%以下、Fe:10%以下、Co:5%以下、B:0.001?0.02%、Zr:0.001?0.2%を含有し、残部Niと不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1?3何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項7】 前記Ni基合金が、重量%で、C:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:5?20%未満、Mo、W及びReの1種又は2種以上をMo+(W+Re)/2:5?20%未満、W:10%以下、Al:0.1?2.5%、Ti:0.10?0.95%、Nb及びTaをNb+Ta/2:1.5%以下、B:0.001?0.02%、Zr:0.001?0.2%、Fe:4%以下を含有し、Al+Ti+Nb+Taの原子%が2.0?6.5%であり、残部Niと不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1?3何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項8】 前記高クロム鋼が、室温から700℃までの平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃であり、重量%で、Cr:7%を超え10.0%未満、Ni:1.5%以下、V:0.10%?0.30%以下、Nb:0.02?0.10%、N:0.01?0.07%、C:0.10%以上、Si:0.10%以下、Mn:0.05?1.5%、Al:0.02%以下、及びMo並びにWをA(1.75%Mo、0.0%W)、B(1.75%Mo、0.5%W)、C(1.53%Mo、0.5%W)、D(1.3%Mo、1.0%W)、E(2.0%Mo、1.0%W)、F(2.5%Mo、0.5%W)、G(2.5%Mo、0.0%W)、Aを結ぶ直線の内側(直線を含まず)の量を含有し、残部が鉄及び付随的不純物よりなることを特徴とする請求項1?7何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項9】 前記高クロム鋼が、室温から700℃までの平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃であり、重量%で、C:0.08?0.25%、Si:0.10%以下、Mn:0.10%以下、Ni:0.05?1.0%、Cr:10.0?12.5%、Mo:0.6?1.9%、W:1.0?1.95%、V:0.10?0.35%、Nb:0.02?0.10%、N:0.01?0.08%、B:0.001?0.01%、Co:2.0?8.0%を含有し、残部が鉄及び付随的不純物よりなることを特徴とする請求項1?7何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項10】 前記高クロム鋼で形成された第2の部材の少なくとも一端側に、 低合金鋼で形成された第3の部材を溶接によって接合することで構成されることを特徴とする請求項1?9何れかに記載の回転機器のロータ。 【請求項11】 前記低合金鋼が、2.25CrMoV鋼又はCrMoV鋼であることを特徴とする請求項10に記載の回転機器のロータ。 【請求項12】 前記Ni基合金で形成された第1の部材同士の溶接継手に1段目の時効処理を施した後、前記第1の部材と前記第2の部材とを溶接し、さらに前記第2の部材と第3の部材を溶接し、前記Ni基合金の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後処理と、前記第2の部材と第3の部材の溶接部の溶接後処理とを同温度で同時に行って形成されることを特徴とする請求項10又は11に記載の回転機器のロータ。 【請求項13】 室温から700℃までの平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃であるNi基合金で形成された少なくとも2つの第1の部材同士を溶接によって接合し、 該第1の部材同士の溶接継手に1段目の時効処理を施し、 前記第1の部材同士が接続された部材の両端部それぞれに、高クロム鋼で形成された第2の部材を溶接によって接合し、 前記第1の部材同士の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後処理を同温度で同時に行うことを特徴とする回転機器のロータの製造方法。 【請求項14】 前記第1の部材同士の溶接継手の1段目の時効処理を700?1000℃で行い、前記第1の部材同士の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後処理とを600?800℃で実施することを特徴とする請求項13記載の回転機器のロータの製造方法。 【請求項15】 少なくとも2つの前記第1の部材同士を溶接によって接合し、 該第1の部材同士の溶接継手に1段目の時効処理を施し、 前記第1の部材同士が接続された部材の両端部それぞれに、高クロム鋼で形成された第2の部材を溶接によって接合し、 前記第2の部材の少なくとも一端側に、低合金鋼で形成された第3の部材を溶接によって接合し、 前記第1の部材同士の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後処理と、前記第2の部材と第3の部材の溶接部の溶接後処理とを同温度で同時に行うことを特徴とする請求項13記載の回転機器のロータの製造方法。 【請求項16】 前記第1の部材同士の溶接継手の1段目の時効処理を700?1000℃で行い、前記第1の部材同士の溶接継手の2段目の時効処理と、前記第1の部材と第2の部材の溶接部の溶接後処理と、前記第2の部材と第3の部材の溶接部の溶接後処理とを600?800℃で実施することを特徴とする請求項15記載の回転機器のロータの製造方法。」(請求の範囲の請求項1ないし16) 上記アないしオ及び図1の記載から、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認める。 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、Ni基合金からなり、 前記第二ロータ部材は、内部が中実の高クロム鋼からなり、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である、蒸気タービンのロータ。」 (3)周知技術1 蒸気タービンの高温部を構成するロータ部材の内部に中空部を設ける技術は、本件出願の原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開平9-53404号公報(甲第4号証)の段落【0014】及び図1、特開2007-321630号公報(甲第5号証)の段落【0054】及び図5等の記載を参照。)である。 (4)周知技術2 高圧タービンと中圧タービンとをシール部材により区画することは、蒸気タービンの技術分野において本件特許出願の原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平11-93607号公報(甲第3号証)の段落【0005】、【0015】及び図1、特開2000-356110号公報の段落【0002】ないし【0005】及び図8、特開平5-240001号公報の段落【0012】及び【0013】並びに図1等の記載を参照。)である。 4 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「溶接」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「接合」に相当する。 また、甲1発明1における「12%Cr鋼」は、「中・低温部用材料」という限りにおいて、本件発明1における「Ni基合金よりも成型容易性を有する材料」に相当する。 また、甲1発明1における「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」は、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」という限りにおいて、本件発明1における「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である」に相当する。 よって、本件発明1と甲1発明1とは、 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、Ni基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第二ロータ部材は、内部が中実の中・低温部用材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、 前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である、蒸気タービンのロータ。」 という点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (ア)「第1ロータ部材」の「Ni基合金」に関して、本件発明1においては、「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」からなるのに対して、甲1発明1においては、「Ni基合金」からなるが、「内部に軸方向の中空部を有する」かどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。) (イ)「第2ロータ部材」の「内部が中実の中・低温部用材料」に関して、本件発明1においては、第二ロータ部材が、「前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料」からなるのに対し、甲1発明1においては、第二ロータ部材が、「内部が中実の12%Cr鋼」からなる点(以下、「相違点2」という。)。 (ウ)「第一ロータ部材の平均線膨張係数」及び「第二ロータ部材の平均線膨張係数」に関して、本件発明1においては、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である」のに対し、甲1発明1においては、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」点(以下、「相違点3」という。)。 (エ)「シール部分」に関し、本件発明1においては、「前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し」ているのに対し、甲1発明1においては、そのようなシール部分を有しているかどうか明らかでない点(以下、「相違点4」という。)。 以下、上記相違点について判断する。 (ア)相違点1及び2について 相違点1に関して、蒸気タービンの高温部を構成するロータ部材の内部に中空部を設ける技術は、本件出願の原出願の出願前に周知の技術(上記「周知技術1」)である。 したがって、甲1発明1において、周知技術1を適用することにより、蒸気タービンの高温部を構成するロータ部材の内部に中空部を設けることまでは当業者が容易に想到できることであるといえる。 また、相違点2に関して、「12%Cr鋼」が、「Ni基合金よりも成型容易性を有する材料」であることは、技術常識である(例えば、甲第2号証の明細書第1ページ第13ないし24行の記載を参照。)。 しかしながら、甲1発明1において、「Ni基合金からなる第一ロータ部材」のみに「軸方向の中空部」を設けるとともに「前記Ni基合金よりも成型容易性を有する材料」を内部が中実のままとすることにより、「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」からなる第一ロータ部材の両端部に「前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料」からなる第二ロータ部材を各々接合し、その結果、「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」からなる第一ロータ部材が密閉されるようになることが容易であるとまではいえない。 してみれば、甲1発明1において、周知技術1を適用することにより、相違点1及び2に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。 そして、本件発明1は、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項を有することにより、明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。 そうすると、相違点3及び4について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、甲2技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)まとめ 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1、甲2技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (ウ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、平成29年3月14日付け意見書において、「・・・甲1発明のNi合金からなるロータ中央部(「第一ロータ部材」に相当)の内部に中空部を設けた場合、その中空部は、甲1発明に係る中実の12%Cr鋼からなるロータ部材(「第二ロータ部材」に相当)に挟まれる結果、密閉されたものとなることは明らかである。」(第7ページ第5ないし8行)と主張している。 しかしながら、特許異議申立人は、「Ni合金からなるロータ中央部の内部に中空部を設けた」という事項が記載された引用文献を提示しているわけではないから、特許異議申立人の上記主張は、当を得ていない。 イ 本件発明2について 本件発明2と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「溶接」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明2における「接合」に相当する。 また、甲1発明2における「12%Cr鋼」は、「中・低温部用材料」という限りにおいて、本件発明1における「Ni基合金よりも成型容易性を有する材料」に相当する。 また、甲1発明2における「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」は、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」という限りにおいて、本件発明2における「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である」に相当する。 よって、本件発明2と甲1発明2とは、 「異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、Ni基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第二ロータ部材は、内部が中実の中・低温部用材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、 前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である、蒸気タービンのロータ。」 という点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (ア)「第1ロータ部材」の「Ni基合金」に関して、本件発明2においては、「内部に軸方向の中空部を有するNi基合金」からなるのに対して、甲1発明2においては、「Ni基合金」からなるが、「内部に軸方向の中空部を有する」かどうか明らかでない点(以下、「相違点1’」という。) (イ)「第2ロータ部材」の「内部が中実の中・低温部用材料」に関して、本件発明2においては、第二ロータ部材が、「前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料」からなるのに対し、甲1発明2においては、第二ロータ部材が、「内部が中実の12%Cr鋼」からなる点(以下、「相違点2’」という。)。 (ウ)「第一ロータ部材の平均線膨張係数」及び「第二ロータ部材の平均線膨張係数」に関して、本件発明2においては、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である」のに対し、甲1発明2においては、「前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が所定の範囲内である」点(以下、「相違点3’」という。)。 (エ)「シール部分」に関し、本件発明2においては、「前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し」ているのに対し、甲1発明2においては、そのようなシール部分を有しているかどうか明らかでない点(以下、「相違点4’」という。)。 以下、上記相違点について判断する。 (ア)相違点1’及び2’について 相違点1’及び2’は、上記相違点1及び2と同じものであり、相違点1’及び2’についての判断も、上記相違点1及び2についての判断と同じである。 してみれば、甲1発明2において、周知技術1を適用することにより、相違点1’及び2’に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。 そして、本件発明2は、相違点1’及び2’に係る本件発明2の発明特定事項を有することにより、明細書に記載された顕著な効果を奏するものである。 そうすると、相違点3’及び4’について判断するまでもなく、本件発明2は、甲1発明2、甲2技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)まとめ 以上のとおり、本件発明2は、甲1発明2、甲2技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許の請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 (ウ)特許異議申立人の意見について 上記ア(ウ)と同様である。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由はない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 蒸気タービンのロータ 【技術分野】 【0001】 本発明は、蒸気タービンのロータに関するものである。 【背景技術】 【0002】 現在、蒸気タービンを用いた火力発電においては、600℃級以下の蒸気条件で発電を行うのが一般的である。この蒸気条件においては、蒸気タービンを構成するタービンロータ、動翼等の主要部材に、例えば12Cr鋼等の高Cr鋼(高クロム鋼、フェライト系耐熱鋼)が用いられることが多い。 【0003】 ところが、近年、CO_(2)排出量削減や更なる熱効率向上の要請に応えるために、700℃級以上の蒸気条件で発電をすることが求められている。しかしながら、この蒸気条件でフェライト系耐熱鋼を用いると、主要部材の高温強度が不足してしまう。 【0004】 そこで、更に高い高温強度を確保するために、主要部材にNi基合金(ニッケル基合金)を用いることになる。しかしながら、このNi基合金を用いると主要部材を大型化するのが難しく、またコストが増加してしまう欠点がある。 【0005】 下記特許文献1においては、タービンロータの大型化とコスト抑制とを図るために、Ni基合金で形成された第一部材と、高Cr鋼で形成された第二部材とを溶接によって接合してタービンロータを構成している。そして、特定の組成のNi基合金を用いることで、接合部の強度を確保しようとしている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】国際公開第2009/154243号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 ところで、一般にNi基合金は、熱伝導率が低く、線膨張係数が大きい性質を有している。このため、蒸気タービンの起動時には、タービンロータ(Ni基合金)の外側が内側に比べて高温となって大きく熱膨張することから、タービンロータの内部に過大な応力が生じてしまうという問題がある。 一方、タービンロータ全体が徐々に昇温するように時間を掛けてウォームアップを行うと、熱応力の発生を抑えることができるが、蒸気タービンの迅速な起動が阻害されるという問題がある。 【0008】 本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、回転機械の迅速な起動を許容し、かつ、ロータに生じる熱応力を抑制することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。 すなわち、本発明の第一の態様に係る蒸気タービンのロータは、異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、第一ロータ部材と、第二ロータ部材とを備え、前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するにNi基合金からなり、前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である。 【0010】 また、本発明の第二の態様に係る蒸気タービンのロータは、異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、第一ロータ部材と、第二ロータ部材とを備え、前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内である。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、回転機械の迅速な起動を許容し、かつ、ロータに生じる熱応力を抑制することができる。 また、本発明によれば、良好な運転性能を得ることができると共にロータの破損を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本発明の第一実施形態に係る高中圧タービンT1の概略構成断面図であって、高中圧タービンT1の軸線Pを含む子午断面図である。 【図2】本発明の実施形態に係る軸体11の拡大断面図である。 【図3】本発明の第二実施形態に係る高中圧タービンT2における軸体11_(A)の拡大断面図である。 【図4】本発明の第三実施形態に係る高中圧タービンT3における軸体11_(B)の拡大断面図である。 【図5】本発明の第四実施形態に係る高中圧タービンT4における軸体11_(C)の拡大断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。 『第一実施形態』 図1は本発明の第一実施形態に係る高中圧タービン(回転機械)T1の概略構成断面図であって、高中圧タービンT1の軸線Pを含む子午断面図である。なお、以下の説明においては、軸線Pの延在方向を「タービン軸方向(軸方向)」と、軸線Pの周方向を「タービン周方向」と、軸線Pの径方向を「タービン径方向」と称する。 【0014】 図1に示すように、高中圧タービンT1は、タービン軸方向の一方側に高圧タービン(回転機械)1Aが、タービン軸方向の他方側に中圧タービン(回転機械)1Bが、それぞれ構成されている。 高中圧タービンT1は、ロータ10とステータ50とを有している。 【0015】 ロータ10は、回転可能に支持された軸体11と、軸体11に複数構成された動翼列12(12A,12B)とを有している。 【0016】 軸体11は、ステータ50をタービン軸方向に貫通しており、タービン軸方向の両端を、ステータ50の外部に配設された軸受装置91,92によって支持されている。この軸体11のその他の構成については、後に詳述する。 【0017】 複数の動翼列12(12A,12B)は、それぞれ、軸体11の外周に拘束された複数の動翼がタービン周方向に配列されることで構成されている。複数の動翼列12Aは高圧タービン1Aに、複数の動翼列12Bは中圧タービン1Bにそれぞれ配設されている。 【0018】 ステータ50は、外部車室ケーシング60と、内部車室ケーシング70(70A,70B)と、静翼列52(52A,52B)とを有している。 【0019】 外部車室ケーシング60は、外部から内部空間61を区画する車室壁60aと、内部空間61をタービン軸方向に二つに仕切る隔壁60bとを有している。隔壁60bは、内部空間61においてタービン軸方向の略中央に配設されており、内部空間61を、タービン軸方向の一方側の高圧タービン室61Aと、タービン軸方向の他方側の中圧タービン室61Bとに仕切っている。 外部車室ケーシング60の車室壁60aには、高圧タービン1Aにおいて、タービン軸方向の他方側に形成された複数の導入ノズル63Aと、タービン軸方向の一方側に形成された排出ノズル64Aとが形成されている。また、車室壁60aには、中圧タービン1Bにおいて、タービン軸方向の一方側に形成された複数の導入ノズル63Bと、タービン軸方向の他方側に形成された排出ノズル64Bとが形成されている。 この外部車室ケーシング60は、ロータ10に挿通されており、車室壁60aのタービン軸方向の両端からロータ10(軸体11)の両端を突出させている。 なお、車室壁60aがロータ10の両端との間に形成する隙間は、それぞれシール装置93A,93Bによって封止されている。また、隔壁60bがロータ10の中央側との間に形成する隙間は、シール部材94A,94Bによって封止されている。 【0020】 内部車室ケーシング70(70A,70B)は、両端開放型の筒状部材であって、内周部に静翼列52(52A,52B)を保持する静翼保持環71を含んでいる。 内部車室ケーシング70Aは、高圧タービン1Aに配設され、内部車室ケーシング70Bは、中圧タービン1Bに配設されている。これら内部車室ケーシング70A,70Bは、それぞれ、外部車室ケーシング60の車室壁60aの内壁及び隔壁60bに拘束されている。これら内部車室ケーシング70A,70Bは、それぞれ、ロータ10に挿通されてロータ10の外周10aの周囲を囲っており、ロータ10の外周10aと静翼保持環71との間に環状流路(流路)3(3A,3B)がタービン軸方向に延びている。 【0021】 内部車室ケーシング70Aの、タービン軸方向の他方側における他端開放部は、隔壁60bに突き合わされて閉塞されていると共にロータ10との間がシール部材94Aによって封止されている。 内部車室ケーシング70Aの他端開放部側は、シール部材94A及び軸体11の外周との間に、タービン周方向に延びると共に環状流路3に連通したマニホールド(作動流体導入部)3aを画定している。このマニホールド3aは、各導入ノズル63Aに挿し込まれると共にそれぞれ内部車室ケーシング70Aに気密に接続された連結管80Aに連通しており、この連結管80Aを介してボイラBから高圧蒸気(作動流体)S1(約700℃)が供給される。このマニホールド3aは、環状流路3に高圧蒸気S1を導入する部分であって、高圧タービン1Aに供給された高圧蒸気S1がロータ10に最初に接する部分である。つまり、運転時の高圧タービン1Aにおいては、ロータ10の各部位の中で、マニホールド3aに曝される部位が最も高温となる。 なお、内部車室ケーシング70Aの一端開放部は、タービン軸方向の一方側に向けて開放されている。 【0022】 内部車室ケーシング70Bは、両端開放部がそれぞれタービン軸方向に開放されている。内部車室ケーシング70Bのタービン軸方向の一方側には、内部車室ケーシング70の外周部から鍔状に延出するフランジ部70aが形成されており、このフランジ部70aが車室壁60aの内壁に連結されていることで、一端開放部の周囲にマニホールド3bが画定されている。このマニホールド3bには、各導入ノズル63Bに挿し込まれた連結管80Bを介して、ボイラBから中圧蒸気(作動流体)S2(約700℃)が供給される。 一方、この内部車室ケーシング70Bにおいては、軸体11のタービン軸方向の一方側がシール部材94Bによって被覆されている。すなわち、マニホールド3bに供給された中圧蒸気S2は、シール部材94Bに沿って環状流路3Bに導入されることとなり、ロータ10のうちシール部材94Bからの露出部(作動流体導入部)3cが、中圧蒸気S2が最初に接する部分となる。つまり、運転時の中圧タービン1Bにおいては、ロータ10の各部位の中で、シール部材94Bから露出部3cが最も高温となる。 【0023】 複数の静翼列52(52A,52B)は、それぞれ、内部車室ケーシング70(70A,70B)の静翼保持環71に拘束された静翼がタービン周方向に配列されることで構成されている。 静翼列52Aは、高圧タービン1Aの環状流路3Aにおいて、タービン軸方向の他方側から一方側に向けて、動翼列12Aと交互になるように配設されている。静翼列52Bは、中圧タービン1Bの環状流路3Bにおいて、タービン軸方向の一方側から他方側に向けて、動翼列12Bと交互になるように配設されている。 【0024】 図2は、軸体11の拡大断面図である。 図2に示すように、軸体11は、ロータ部材20,30,40がタービン軸方向に相互に接合されて構成されている。より具体的には、ロータ部材20,30,40は、それぞれの軸線を軸線Pに重ねた状態で、上記の順番で接合されることで、全体として軸状になっている。 【0025】 ロータ部材(第二ロータ部材)20は、相対的に小径に形成された小径部21と、相対的に大径に形成された大径部22とを有している。 大径部22は、タービン軸方向の一方側の一端部20aが皿状に窪んでおり、他端部20bが例えば低圧タービンのロータR_(L)の端部に接続されている(図1参照)。 【0026】 ロータ部材(第二ロータ部材)40は、相対的に小径に形成された小径部41と、相対的に大径に形成された大径部42とを有している。 ロータ部材40は、ロータ部材40のタービン軸方向の他方側の他端部40bが皿状に窪んでおり、一端部40aが例えば超高圧タービンのロータR_(VH)の端部に接続されている(図1参照)。 これらロータ部材20及び40の材質は、例えば高Cr鋼を用いており、例えば鍛造によって形成されている。この高Cr鋼としては、例えば、下記の表1に示す1-1,1-2の組成のものを好適に用いることができる。これらの組成の高Cr鋼は、室温から700℃までの平均線膨張係数が概ね11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)℃となっている。 なお、表1以外の他の組成の高Cr鋼を用いてもよいのは勿論である。 【0027】 【表1】 なお、表1における%は、重量%を意味する。 【0028】 ロータ部材(第一ロータ部材)30は、タービン軸方向の両端部(接合端部)30a,30bがそれぞれ皿状に窪んでいる。 このロータ部材30は、Ni基合金で形成されており、比較的に低い熱伝導率と高い線膨張係数とを有している。このNi基合金としては、例えば、下記の表2に示す2-1,2-2,2-3,2-4,2-5,2-6の組成のものを好適に用いることができる。これらの組成のNi基合金は、室温から700℃までの平均線膨張係数が概ね12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)℃となっており、他の組成のNi基合金と比較して低く抑えられている。 なお、表2以外の他の組成のNi基合金を用いてもよいのは勿論である。 【表2】 なお、表2における%は、重量%を意味する。 【0029】 このロータ部材30の一端部30aは、ロータ部材40の他端部40bに対して突き合わされた状態で溶接によって接合されている。また、ロータ部材30の他端部30bは、ロータ部材20の一端部20aと突き合わされた状態で溶接によって接合されている。 ロータ部材30のタービン軸方向の両端部30a,30bにおける接合箇所は、高中圧タービンT1の運転状態で必要な強度が確保されることを条件として、可能な限り肉厚dを小さく設定することが望ましい。 【0030】 図2に示すように、このロータ部材30の内部は中空に形成されている。より具体的には、軸線P上においてタービン軸方向に一定の内径D1で形成された孔31が延びており、一端部30aと他端部30bとを連通させている。すなわち、ロータ部材30は、ロータ部材30を中実に形成した場合(孔31を形成しなかった場合)と比較して、熱容量が小さくなっている。 ロータ部材30の孔31が形成されたタービン軸方向中央側における各部位の肉厚は、内径D1の外径D2に対する比の値が1/2以上となるように、かつ、ロータ部材30のタービン軸方向の両端部30a,30bの肉厚d以上となるように形成されている。 【0031】 続いて、上記構成からなる高中圧タービンT1の作用について図を用いて説明する。 まず、高中圧タービンT1を起動すると、高圧タービン1Aに高圧蒸気S1が、中圧タービン1Bに中圧蒸気S2がそれぞれ流入する。 【0032】 図1に示すように、例えば、高圧タービン1Aには、超高圧タービン(不図示)を経た後にボイラBで再加熱された高圧蒸気S1が、連結管80Aを介してマニホールド3aに供給される。そして、高圧蒸気S1は、ロータ部材30に沿って環状流路3Aに導入され、動翼列12Aと静翼列52Aとを順に流れることでロータ10に回転力を付与する。環状流路3Aを経た高圧蒸気S1は、排出ノズル64Aを介して、高圧タービン1Aから排出されてボイラBに送られる。 【0033】 一方、例えば、中圧タービン1Bには、高圧タービン1Aから排出された後にボイラBで再加熱された中圧蒸気S2が、連結管80Bを介してマニホールド3bに供給される。そして、中圧蒸気S2は、マニホールド3bからシール部材94Bに沿って環状流路3Bに導入され、環状流路3Bにおいて動翼列12Bと静翼列52Bとを順に流れることで、ロータ10に回転力を付与する。環状流路3Bを経た中圧蒸気S2は、排出ノズル64Bを介して、中圧タービン1Bから排出されてボイラ(不図示)に送られる。 【0034】 この際、ロータ10におけるロータ部材30の内部が中空に形成されていることで熱容量が小さくなっていることから、ロータ部材30の内部(より正確には肉部)において外側と内側との温度差がつき難い。 換言すれば、ロータ部材30が中空に形成されていることで、ロータ部材30の外周端から内周端までの熱伝達経路の距離が、ロータ部材30を中実に形成した場合に比べて短くなっており、高圧蒸気S1からロータ部材30の外周端に伝達した熱が、ロータ部材30の内周端まで速やかに伝導(到達)する。このため、ロータ部材30の内部においてタービン径方向の温度勾配が緩やかになって、ロータ部材30の内部の外側と内側とが同様の温度となる。 【0035】 ロータ部材30の内部において外側と内側とに生じる温度差に比例して、ロータ部材30の外側と内側との熱伸びの差も僅かなものとなる。このため、ロータ部材30の内部において生じる熱応力が大幅に抑制される。 このような状態を継続させながら、ロータ部材30は、高中圧タービンT1の運転状態の温度まで全体的に昇温することとなる。 そして、高中圧タービンT1は、起動状態から定常状態に移行する。定常状態に移行した後には、ロータ部材30は、全体的に一定の温度となって回転する。 【0036】 以上説明したように、高中圧タービンT1によれば、Ni基合金からなるロータ部材30がタービン軸方向全部に亘って内部が中空であるので、内部を中実に形成した場合と比較して、ロータ部材30の熱容量が小さくなる。これにより、高中圧タービンT1において迅速な起動をした場合に、ロータ部材30内部の外側と内側とに生じる温度差が抑制されてロータ部材30が全体的に昇温する。これにより、ロータ部材30の内部に生じる熱応力を抑制することができる。従って、高中圧タービンT1の迅速な起動を許容し、かつ、ロータ10に生じる熱応力を抑制することができる。 【0037】 また、軸体11がロータ部材30に対してタービン軸方向に隣接すると共に高Cr鋼からなるロータ部材20,40を含むので、軸体11全体をNi基合金で形成した場合に比べて、ロータ10のコストを抑えることができる。さらに、Ni基合金と比較して優れた成型容易性を有する高Cr鋼で、軸体11の一部を形成することで、ロータ10の製造を容易に行うことができる。 【0038】 また、ロータ部材30が表2の組成からなるNi基合金で形成することで、室温から700℃までの平均線膨張係数が他の組成のNi基合金と比較して小さくなる。これにより、他の組成のNi基合金と比較して、ロータ部材30に熱伸びが生じ難くなるので、ロータ部材30の内部に生じる熱応力を更に抑制することができる。 また、ロータ部材20,40に表1の組成からなる高Cr鋼で形成すると共に、ロータ部材30に表2の組成からなるNi基合金を形成することで、互いの線膨張係数の差が小さくなる。これにより、ロータ部材20,40と、ロータ部材30との接合部の強度確保が可能である。 【0039】 また、ロータ部材30のタービン軸方向中央側の肉厚が、内径D1の外径D2に対する比の値が1/2以上となるように形成されているので、ロータ部材30の内部の外側と内側とに生じる温度差を更に抑制し、ロータ部材30の内部に生じる熱応力を更に抑制することができる。一方、ロータ部材30のタービン軸方向中央側の肉厚が、ロータ部材30のタービン軸方向における両端部30a,30bの肉厚d以上となるように形成されているので、必要な強度を確保することができる。 【0040】 さらに、本発明に係る高中圧タービンT1は、ロータ10を備えるので、700℃級以上の蒸気条件においてNi基合金を用いたとしても、高中圧タービンT1の迅速な起動が許容され、かつ、ロータ10に生じる熱応力が抑制される。これにより、良好な運転性能を得ることができると共にロータ10の破損を防止することができる。そして、蒸気S1,S2を比較的に高温(約700℃)に設定することでCO_(2)排出量削減や更なる熱効率向上の要請に十分に応えることができる。 【0041】 『第二実施形態』 以下、本発明の第二実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の説明及びその説明に用いる図面において、既に説明を終えた構成要素と同様の構成要素については、同一の符号を付して、重複した説明を省略する。 【0042】 図3は、本発明の第二実施形態に係る高中圧タービン(回転機械)T2における軸体11_(A)の拡大断面図である。 上述した第一実施形態の軸体11が一体的に形成されたロータ部材30を有していたのに対して、図3に示すように、本実施形態に係る高中圧タービンT2の軸体11_(A)は、ロータ部材30に相当する位置にロータ部材(第一ロータ部材)32A,32Bが配設されている。 【0043】 ロータ部材32A,32Bは、ロータ部材30と同様に、Ni基合金で形成されており、タービン軸方向の両端部(接合端部)32a,32bがそれぞれ皿状に窪んでいる。このロータ部材32A,32Bのそれぞれの内部は中空に形成されている。 ロータ部材32Aの一端部32aは、ロータ部材40の他端部40bと突き合わされた状態で溶接によって接合されている。 ロータ部材32Bの一端部32dは、ロータ部材20の一端部20aと突き合わされた状態で溶接によって接合されている。 また、ロータ部材32Aの他端部32bと、ロータ部材32Bの他端部32cとは、互いに突き合わされた状態で溶接(共材溶接)によって接合されている。 【0044】 ロータ部材32Aは、軸線P上においてタービン軸方向に一定の内径D1で形成された孔31Aが延びている。ロータ部材32Bは、軸線P上においてタービン軸方向に一定の内径D3(≠内径D1)で形成された孔31Bが延びている。 すなわち、ロータ部材32A,32Bは、相互に異なる内径となっている。 【0045】 この高中圧タービンT2によれば、上述した第一実施形態の主要な効果を得ることができる他、マニホールド3a及び露出部3cにおいて、それぞれの内径(D1≠D3)が相互に異なるので、マニホールド3a及び露出部3c(高圧タービン1A、中圧タービン1B)においてそれぞれ温度分布を調整することができる。 なお、ロータ部材32A,32Bを同一の内径にしても、上述した第一実施形態の主要な効果を得ることが可能である。 【0046】 『第三実施形態』 以下、本発明の第三実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の説明及びその説明に用いる図面において、既に説明を終えた構成要素と同様の構成要素については、同一の符号を付して、重複した説明を省略する。 【0047】 図4は、本発明の第三実施形態に係る高中圧タービン(回転機械)T3における軸体11_(B)の拡大断面図である。 上述した第二実施形態の軸体11_(A)が孔31Bを含むロータ部材32Bを有していたのに対して、図4に示すように、本実施形態に係る高中圧タービンT3の軸体11_(B)は、ロータ部材32Bに代えて中実のロータ部材33を有している。 ロータ部材33は、Ni基合金で形成されており、一端部(接合端部)33aがロータ部材32Aの他端部32bに突き合わされた状態で、また他端部33bがロータ部材20の一端部20aに突き合わされた状態で、それぞれ溶接によって接合されている。 【0048】 この高中圧タービンT3によれば、ロータ部材32Aにおいて上述した第一実施形態及び第二実施形態の主要な効果を得ることができる他、ロータ部材33の内部が中実に形成されているので、中圧タービン1Bにおいてロータ部材33の剛性を高めることができる。 なお、ロータ部材33の内部を中空にすると共に(ロータ部材32B)、ロータ部材32Aの内部を中実に形成しても構わない。 【0049】 『第四実施形態』 以下、本発明の第四実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の説明及びその説明に用いる図面において、既に説明を終えた構成要素と同様の構成要素については、同一の符号を付して、重複した説明を省略する。 【0050】 図5は、本発明の第四実施形態に係る高中圧タービン(回転機械)T4における軸体11_(C)の拡大断面図である。 上述した第二実施形態の軸体11_(A)が孔31A,31Bがそれぞれ一定の内径D1,D3で形成されたロータ部材32A,32Bを有していたのに対して、図5に示すように、本実施形態に係る高中圧タービンT4の軸体11_(C)は、それぞれに形成された孔35A,35Bの内径がタービン軸方向の各部位で相違するロータ部材(第一ロータ部材)34A,34Bを有している。 【0051】 ロータ部材34Aの孔35Aは、例えば、タービン軸方向の他方側から一方側に向けて漸次内径が小さくなるように、先細り状に形成されている。 ロータ部材34Bの孔35Bは、例えば、タービン軸方向の一方側から他方側に向けて漸次内径が小さくなるように、先細り状に形成されている。 【0052】 この高中圧タービンT4によれば、上述した第一実施形態及び第二実施形態の主要な効果を得ることができる他、タービン軸方向の各部位において、ロータ部材34A,34Bの内径(孔35A,35B)がそれぞれ異なるので、ロータ部材34A,34B(高圧タービン1A、中圧タービン1B)のそれぞれにおいてタービン軸方向に温度調整をすることができる。 【0053】 なお、本実施形態においては、タービン軸方向の一方側から他方側に向けて漸次内径が小さくなるように、先細り状に孔35Aを形成したが、タービン軸方向の他方側から一方側に向けて漸次内径が小さくなるように形成してもよい。また、孔35Aの一部に一定の内径で形成された部分があってもよい。また、孔35Aの内径がタービン軸方向において増加した後に減少する部分があってもよい。孔35Bについても同様である。 また、本実施形態と同様に、第一実施形態から第三実施形態の各孔の内径をタービン軸方向に変化させてもよい。 【0054】 なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。 例えば、上述した実施形態においては、ロータ部材20,30,40,32A,32B33,34A,34Bのタービン軸方向の端部を皿状に形成したが、他の形状でタービン軸方向に窪みを形成してもよい。また、平タービン軸方向に窪みを形成せずに、平状に形成してもよい。 【0055】 また、上述した実施の形態では、高中圧タービンT1?T4に本発明を適用した場合について説明したが、他の圧力域のタービンに本発明を適用してもよい。また、タービン以外の回転機械に本発明を適用してもよい。 【符号の説明】 【0056】 1A…高圧タービン(回転機械) 1B…中圧タービン(回転機械) 3(3A,3B)…環状流路(流路) 3a…マニホールド(作動流体導入部) 3c…露出部(作動流体導入部) 10…ロータ 10a…外周 20…ロータ部材(第二ロータ部材) 30…ロータ部材(第一ロータ部材) 30a,30b…両端部(接合端部) 32A,32B…ロータ部材(第一ロータ部材) 32a,32b…両端部(接合端部) 32c,32d…両端部(接合端部) 33…ロータ部材(第一ロータ部材) 33a…一端部(接合端部) 34A…ロータ部材(第一ロータ部材) 34B…ロータ部材(第一ロータ部材) 40…ロータ部材(第二ロータ部材) 50…ステータ P…軸線 d…肉厚 D1,D3…内径 D2…外径 S1…高圧蒸気(作動流体) S2…中圧蒸気(作動流体) T1,T2,T3,T4…高中圧タービン(回転機械) (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記一方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記高圧蒸気排出部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記一方の第二ロータ部材の動翼とにより一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の中圧タービン室が構成され、 前記高圧タービン室においては、前記一方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。 【請求項2】 異なる材料からなるロータ部材を軸方向に接合して形成される高中圧一体型の蒸気タービンのロータにおいて、 第一ロータ部材と、 第二ロータ部材とを備え、 前記第一ロータ部材は、内部に軸方向の中空部を有するNi基合金からなり、 前記第一ロータ部材は、前記軸方向の一方側に高圧蒸気導入部を有するとともに、前記軸方向の他方側に中圧蒸気導入部を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部から前記軸方向の一方側端部までの前記高圧蒸気が通過する領域に動翼を有するとともに、前記中圧蒸気導入部から前記軸方向の他方側端部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材は、前記高圧蒸気導入部と前記中圧蒸気導入部との間に、前記高圧蒸気と前記中圧蒸気とを仕切るシール部分を有し、 前記第二ロータ部材は、前記Ni基合金よりも成型容易性を有する内部が中実の材料からなり、 前記第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材の前記軸方向の両端部に各々接合され、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の一方側端部と接合される一方の前記第二ロータ部材は、高圧蒸気排出部を有し、 前記第一ロータ部材の前記軸方向の他方側端部と接合される他方の前記第二ロータ部材は、中圧蒸気排出部を有し、 前記他方の第二ロータ部材は、前記第一ロータ部材との接合端部から前記中圧蒸気排出部までの前記中圧蒸気が通過する領域に動翼を有し、 前記第一ロータ部材の前記高圧蒸気導入部から前記一方の第二ロータ部材の高圧蒸気排出部にわたって前記高圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に配置されている前記第一ロータ部材の動翼により一の高圧タービン室が構成され、 前記第一ロータ部材の前記中圧蒸気導入部から前記他方の第二ロータ部材の中圧蒸気排出部にわたって前記中圧蒸気が一方向に通過する領域が形成され、該領域に連なってそれぞれ配置されている前記第一ロータ部材の動翼と前記他方の第二ロータ部材の動翼とにより一の中圧タービン室が構成され、 前記中圧タービン室においては、前記他方の第二ロータ部材の動翼の段数よりも前記第一ロータ部材の動翼の段数の方が多く、 前記蒸気タービンの運転領域となる室温から700℃までの温度範囲において、前記第一ロータ部材の平均線膨張係数が12.4×10^(-6)/℃?14.5×10^(-6)/℃の範囲内であり、前記第二ロータ部材の平均線膨張係数が11.2×10^(-6)/℃?12.4×10^(-6)/℃の範囲内であることを特徴とする蒸気タービンのロータ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-05-24 |
出願番号 | 特願2015-117787(P2015-117787) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(F01D)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 米澤 篤 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 槙原 進 |
登録日 | 2016-01-15 |
登録番号 | 特許第5869173号(P5869173) |
権利者 | 三菱重工業株式会社 |
発明の名称 | 蒸気タービンのロータ |
代理人 | 森 隆一郎 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 森 隆一郎 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 山崎 哲男 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 山崎 哲男 |