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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B25F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B25F
管理番号 1330094
異議申立番号 異議2016-700316  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-14 
確定日 2017-05-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5796741号発明「電動工具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5796741号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4-8〕について訂正することを認める。 特許第5796741号の請求項5、6、8に係る特許を取り消す。 同請求項1ないし4に係る特許を維持する。 同請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5796741号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年8月28日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社マキタ(以下「特許異議申立人」という)より請求項1?8に対して特許異議の申立てがされ、平成28年9月2日付けで取消理由が通知され、平成28年11月7日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年12月8日に特許異議申立人から意見書が提出され、平成29年1月12日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、それに対して特許権者からは応答がなかったものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項4に「前記バッテリ保持部に前記制御装置を搭載する回路基板が収容され、前記通信端子は、前記回路基板に接続される」と記載されているのを、「前記バッテリ保持部は前方に延びるように構成され、前記制御装置を搭載する回路基板が前後方向に延びるように前記バッテリ保持部に収容され、前記通信端子はリード線を介して前記回路基板に接続される」と訂正することを請求する。
イ 訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項5に「前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、前記通信端子は前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記胴体部の端部に設けられる」と記載されているのを、「前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記胴体部の端部の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続される」と訂正することを請求する。
ウ 訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項6に「前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、前記通信端子は前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記ハンドル部の外側表面に設けられる」と記載されているのを、「前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記ハンドル部の外側表面の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続される」と訂正することを請求する。
エ 訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項7を削除することを請求する。
オ 訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか一項に記載の電動工具。」と記載されているのを、「請求項1から6のいずれか一項に記載の電動工具。」と訂正することを請求する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、バッテリ保持部の形状、回路基板の収容形態及び通信端子の接続構造について、それぞれ構成を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、発明特定事項を直列的に付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、明細書の段落【0046】及び【0058】の記載並びに図1、図2及び図5の記載からみて、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められるから、新規事項の追加に該当しない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、ハウジングの分割形状並びに通信端子の取付け箇所及び接続方法について、それぞれ具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、発明特定事項を直列的に付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2は、明細書の段落【0044】、【0046】及び【0084】の記載並びに図1及び図18の記載からみて、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められるから、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、ハウジングの分割形状並びに通信端子の取付け箇所及び接続方法について、それぞれ具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、発明特定事項を直列的に付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3は、明細書の段落【0044】、【0046】及び【0083】の記載並びに図1及び図17の記載からみて、明細書に記載された事項の範囲内のものと認められるから、新規事項の追加に該当しない。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項7を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項7の削除に伴い、請求項8が引用する請求項を請求項7を含まないものにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 一群の請求項について
訂正前の請求項4?8は、請求項8が訂正の請求の対象である請求項4?7の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成28年12月8日付け意見書において、上記訂正事項2及び3の「前記通信端子は、・・・前記分割されたハウジングの分割面に設けられ」る旨の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にあるとは言えず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反すると主張している(2ページ10行?3ページ13行の「(2)訂正事項について」の記載を参照)ので、これを検討する。
特許異議申立人の上記主張は、訂正事項の根拠として示されている段落【0044】、【0046】及び【0084】には、通信端子197がハウジング196の分割面に設けられる旨の記載はなく、図17や図18の記載を見ても、開口穴196dに通信端子197が配置されていることは理解できるが、この位置が分割面であるか否かは不明であり、また、ハウジング196にハッチングされている部分が分割面(合わせ面)であるとしても、通信端子197が、左右のうち片側の分割ハウジングのみに組み込まれるのか、左右の分割ハウジングに跨がって組み込まれるのか不明で、前者の場合は分割面に設けられるとは言えないというものである。
確かに、明細書の段落【0044】、【0046】、【0083】、【0084】等には、「通信端子がハウジングの分割面に設けられる」旨の直接の記載はない。しかし、図17には、通信端子187が分割された片側のハウジングのハンドル部186bと組合わせて配置されている状態が図示されており、図18には、通信端子197が同様に分割された片側のハウジング196の開口穴196dと組合わせて配置されている状態が図示されている。そして、当該図17及び図18のような図を見た当業者であれば、分割されたハウジングにもう片方のハウジングを組み合わせることにより、通信端子がハウジングの分割面に挟み込まれて配置された従来周知の構造(例えば、異議申立人が提出した参考資料4の特開2009-117117号公報の図2に示された分割構造の工具本体TにプラグPを挟んで配置した構造を参照)となることは、当然理解するものと認められる。よって、通信端子を、分割されたハウジングの分割面に設けるという事項は、図17及び図18を根拠にして、当業者が当然認識するものである。
また、通信端子が分割されたハウジングの両方に跨がるものか否かについては、たとえ通信端子が分割されたハウジングの片側に嵌め込まれたものであったとしても、もう一方のハウジングの分割面にも接しているのであるから、当然、通信端子はハウジングの分割面に設けられたものと言うことができるので、分割面から外れることになるから分割面に設けられると言えない筈であるという特許異議申立人の主張を認めることはできない。
よって、上記訂正事項2及び3の「前記通信端子は、・・・前記分割されたハウジングの分割面に設けられ」る旨の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にあるとは言えないとする、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(4)訂正についてのまとめ
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項4?8について訂正を認める。

3.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 訂正後の請求項1?8に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明8」という)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、
外部から前記制御装置と通信をするための通信線を接続する通信端子を設け、
前記通信端子は前記バッテリ保持部に設けられるものであって、前記バッテリの接続端子とは別に設けられることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御装置における前記モータの駆動方法を記憶する記憶手段を有し、
前記制御装置はマイクロプロセッサーを含み、
前記モータの駆動方法は、前記記憶手段に格納されるコンピュータプログラム及び/又は制御パラメータによって決定されることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記通信端子は、前記バッテリ保持部の前記バッテリを取り外した際に露出する部分に設けられ、前記バッテリを取り外した際に前記通信端子に接続ケーブルを接続可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記バッテリ保持部は前方に延びるように構成され、
前記制御装置を搭載する回路基板が前後方向に延びるように前記バッテリ保持部に収容され、
前記通信端子はリード線を介して前記回路基板に接続されることを特徴する請求項3に記載の電動工具。
【請求項5】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、
外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、
前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記胴体部の端部の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続されることを特徴とする電動工具。
【請求項6】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、
外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、
前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記ハンドル部の外側表面の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続されることを特徴とする電動工具。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記ハウジングの前記通信端子の開口部に、前記開口部を閉鎖するソケットカバーを設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電動工具。」

イ 引用例
取消理由通知において示した引用例は、以下のものである。(本通知においては、以下、「甲第○号証」又は「乙第○号証」のことを、略して「甲○」又は「乙○」と呼ぶ。)
甲1:「OPERATING INSTRUCTIONS BNG-2009/2010/2013」,Blind Rivet Setting Tool,[online],2011年4月1日,HS-Technik GMBH,[2016年4月5日検索],インターネット<URL:http://www.hs-technik.com/products/blind-rivet-technology/bng-downloads/、「Manual」 BA_BNG-2009-2010-2013_V.2.0_E_i.pdf>
甲5:特開2009-220214号公報
甲6:特開2005-212097号公報
甲7:欧州特許出願公開第2025475号明細書
甲8:特開2009-279683号公報
甲9:米国特許出願公開第2010/0001017号明細書
甲10:米国特許第7311025号明細書

甲1については、特許権者が平成28年11月7日付け意見書において、公知日が不明確であるため引用例として不適切であると主張しているので、当該主張について検討する。
特許権者が提出した乙1に、インターネットのホームページに掲載された甲1のPDF文書のプロパティが示されている。それによると、甲1のPDF文書の作成日として「2011/07/09 19:35:46」と記載されている。そうすると、甲1のPDF文書の作成日は2011年7月9日であることになり、当該PDF文書がインターネットのホームページに掲載されたのはその日以降であって、その日より前にインターネットのホームページで甲1が公開されていたことを示す根拠は不明であることになる。そうすると、甲1は本件特許の優先日である平成23年(2011年)5月19日よりも前に公知であったとはいえないから、特許権者の主張のとおり、甲1を引用例として用いることは不適切であると認められる。
特許異議申立人は、平成28年12月8日付け意見書において、甲1に「Date of issue:April 2011」と記載されているから、2011年4月の末日が公衆に利用可能となった日付と判断すべきと主張している(1ページ最終行-2ページ9行)。しかし、甲1はあくまでもインターネットのホームページ上で公開され公衆に利用可能となったものを証拠として採用したものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できず、甲1は本件特許の引用例としては不適切であると認める。

甲5の図1からみて、ハウジング101は、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部で構成されていることが看取される。そうすると、甲5には、「先端工具を駆動するモータ(ブラシレスDCモータ2)と、モータの回転を制御する制御装置(制御部6)と、モータを収容するハウジング(ハウジング101)と、ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリ(充電電池1)を有する電動工具であって、前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、外部から前記制御装置と通信をするための通信線を接続する通信端子(コネクタのメス部9)を設けた電動工具。」(以下「甲5発明」という)が記載されている。

甲6には、段落【0003】及び【0004】に、「最新のコードレス電動工具は、家庭内や商用建設作業場所ではより身近なものなりつつある。・・・釘打ち機やドリルや螺子回しや丸鋸や往復動鋸や糸鋸やサンダー等の電動工具は、現在一般にはコードレス版にて製造されている。・・・マイクロコントローラやメモリモジュール等の今日の電子部品は、多くのコードレス電動工具のハウジング内にそれらを簡単に装着できるよう十分に小型になっている。一部の既知の工具には、工具の使用法に関するデータや工具の操作に関する他の関連情報を収集し記憶させるべく、この種の電子部品が組み込んである。加えて、この種の電子部品は工具の動作を制御するのに用いるアルゴリズムやプログラムの記憶に用いられる。」「コードレス電動工具と通信して動作データを抽出し、制御アルゴリズムを入力し、制御プログラムを更新し、かつ/又は制御係数を更新する公知の方法は、・・・追加の電気式或いは光学式の通信端子又はポートを工具に追加し、電子部品との通信を可能にしなければならない」と記載されている。
そうすると、甲6の上記記載からは、「工具の動作を制御するプログラムを記憶し制御を行うマイクロコントローラ等の電子部品が組み込まれたコードレス電動工具において、外部から該電子部品と通信をするための通信端子を設ける」技術思想、すなわち、甲6の図1及び図2に示された態様以外の、コードレス電動工具のどこかの箇所に「外部から制御装置と通信をするための通信線を接続する通信端子を設け」る技術が公知であったことが理解できる。
また、上記公知のコードレス電動工具は、電動ドリルや電動螺子回しも含まれていることからみて、「先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する」ものであることも、当業者には明らかである。
さらに、コードレス電動工具のハウジングの構造として、「前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され」るものは、甲6の図1や甲5の図1にも示されているように従来周知の構造である。
そうすると、甲6には、「先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子を設けた電動工具。」(以下「甲6発明」という)が記載されている。

甲7の特にFig.1には、ラップトップコンピュータ8とUSBケーブル9を用いて接続するUSBソケット7をプレス装置に設けた構成及びハウジング1のUSBソケット7の開口部に、開口部を閉鎖するダミープラグを挿入する構成が記載されている。

甲9には、「先端工具を駆動するモータ(モータ28)と、モータの回転を制御する制御装置(制御装置12)と、モータを収容するハウジングと、ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリ(バッテリーパック60)を有する電動工具(ディスペンスツール10)であって、ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、胴体部から下方に延びるハンドル部(ハンドル部11)と、ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子(通信ポート62)を設け、前記通信端子(通信ポート62)は、前記バッテリ(バッテリーパック60)の接続端子とは別に設けられるものである電動工具(ディスペンスツール10)。」(以下「甲9発明」という)が記載されている(特にFig.1を参照)。

甲10には、「先端工具を駆動するモータ(モータ・モジュール25)と、モータの回転を制御する制御装置(電子モジュール26)と、モータを収容するハウジング(ハウジング29)と、ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリ(バッテリーパック30)を有する電動工具(パワード・ドライバー21)であって、ハウジングは、前後方向に延びる胴体部(胴体部35)と、胴体部から下方に延びるハンドル部(ハンドル部37)と、ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部(嵌合部41)を含んで構成され、外部からの通信線を接続するための通信端子(USBポート63)を設け、前記通信端子(USBポート63)は、前記バッテリの接続端子(導電性スライドコネクタ39)とは別に設けられるものである電動工具(パワード・ドライバー21)。」(以下「甲10発明」という)が記載されている。

ウ 対比・判断
(ア)特許法第29条第1項
a 本件発明1?3に対して
甲1は上記のとおり、引用例としては不適切であることから、本件発明1?3は、甲1に記載された発明と同一であるということはできない。

b 本件発明5に対して
本件発明5と甲9発明とを対比すると、本件発明5の、「ハウジングは、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され」、「通信端子は、胴体部の端部の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して制御装置に接続される」構成については、甲9発明は有していないため、本件発明5は甲9発明と同一であるということはできない。

c 本件発明6に対して
本件発明6と甲10発明とを対比すると、本件発明6の「ハウジングは、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され」、「通信端子は、前記ハンドル部の外側表面の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続される」構成については、甲10発明は有していないため、本件発明6は甲10発明と同一であるということはできない。

(イ)特許法第29条第2項
a 本件発明1に対して
本件発明1と甲5発明とを対比すると、本件発明1は、制御装置と通信をするための通信線を接続する通信端子について、「前記通信端子は前記バッテリ保持部に設けられるものであって、前記バッテリの接続端子とは別に設けられる」という事項を有するのに対し、甲5発明の電動工具は、外部機器13のコネクタのオス部13aと接続するコネクタのメス部9を設ける場所が不明である点で相違する。
一方、甲6には、図1及び図2に、電動工具の携帯電池パックと取り替えて接続可能なデータ転送装置が記載されて、データ転送装置のコネクタ18bを電動工具の給電端子22a、22bに接続する構造が示されている。さらに、甲6には、従来技術として、コードレス電動工具に通信端子を追加して設けることで電子部品との通信を可能にすることも記載されている。また、甲7には、ラップトップコンピュータ8と接続するインターフェースであるUSBソケット7を、プレス装置のハウジング1の側部に設けた構造が示されている。
しかし、制御装置と通信するための通信端子を、バッテリの接続端子とは別にバッテリ保持部に設ける点については、甲6や甲7には記載されておらず、該記載された事項から示唆されるものでもない。なお、甲1には、電動工具のバッテリを外した底部にあるソケットに、コンピュータに接続したケーブルのUSBプラグを挿入して接続する構造は開示されているものの、甲1は上記のとおり公知とは認められないため、引用例として採用することはできない。
よって、本件発明1は、甲5発明、甲6及び甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

b 本件発明2?4に対して
本件発明2?4は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲5発明、甲6及び甲7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

c 本件発明5に対して
本件発明5と甲6発明とを対比すると、本件発明5は以下の相違点で甲6発明と相違しており、その余の点で一致する。
(a)本件発明5は、「前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記胴体部の端部に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続される」ものである点。
(b)本件発明5は、「ハウジングは、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、通信端子は、前記分割されたハウジングの分割面に設けられ」るものである点。
次に上記相違点について検討する。
上記相違点(a)については、甲9のFIG.1にも、制御装置12と通信することを可能にするための通信ポート62を、バッテリーパック60の接続端子とは別にハンドル13の後部に取り付けた電気モータ28の下部に設けた配置構造として示されている。ここで、通信ポート62が設けられた「ハンドル13の後部に取り付けた電気モータ28の下部」とは、図面の配置構成から見て、本件発明5の「胴体部の端部」に相当するものと認められる。また、通信ポート62のようなコネクタと制御装置の制御基板とをケーブルのような通信線を介して接続することは、一般的に周知の接続構造にすぎない。そして、上記したように通信端子(ポート)を電動工具のどこかに配置しようという技術思想は甲6にも示されているから、甲6発明のどこかに通信端子を設けようとして、甲9に示された通信ポート62の配置構造を参考にして、甲6発明に用いることに困難性は認められない。
上記相違点(b)については、ハウジングを2分割で構成し、当該分割された一方のハウジングにもう片方のハウジングを組み合わせることにより、通信端子がハウジングの分割面に挟み込まれて配置された構造とすることは、当該技術分野において従来周知の事項(例えば、異議申立人が提出した参考資料4の特開2009-117117号公報の図2に示された分割構造の工具本体TにプラグPを挟んで配置した構造を参照)にすぎない。そうすると、甲6発明に甲9に示された通信ポート62の配置構造を適用する際に、上記従来周知の事項を勘案して、通信ポートをハウジングの分割面に設けることに格別の困難性はない。
したがって、本件発明5は、甲6発明に上記甲9に記載された通信ポートの配置構造及び従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものである。

d 本件発明6に対して
本件発明6と甲6発明とを対比すると、本件発明6は以下の相違点で甲6発明と相違しており、その余の点で一致する。
(c)本件発明6は、「前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記ハンドル部の外側表面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続される」ものである点。
(d)本件発明6は、「ハウジングは、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、通信端子は、前記分割されたハウジングの分割面に設けられ」るものである点。
次に上記相違点について検討する。
上記相違点(c)については、甲10のFig.1にも、通信やデータのダウンロード機能を提供するUSBポート63を、バッテリーパック30を接続する導電性スライドコネクタ39とは別にハンドル部37に設けた配置構造として示されている。また、USBポート63のようなコネクタと制御装置の制御基板とをケーブルのような通信線を介して接続することは、一般的に周知の接続構造にすぎない。そして、上記したように通信端子(ポート)を電動工具のどこかに配置しようという技術思想は甲6にも示されているから、甲6発明のどこかに通信端子を設けようとして、甲10に示されたUSBポート63をハンドル部37に設ける配置構造を参考にして、甲6発明に用いることに困難性は認められない。
上記相違点(d)については、ハウジングを2分割で構成し、当該分割された一方のハウジングにもう片方のハウジングを組み合わせることにより、通信端子がハウジングの分割面に挟み込まれて配置された構造とすることは、当該技術分野において従来周知の事項(例えば、異議申立人が提出した参考資料4の特開2009-117117号公報の図2に示された分割構造の工具本体TにプラグPを挟んで配置した構造を参照)にすぎない。そうすると、甲6発明に甲10に示されたUSBポート63の配置構造を適用する際に、上記従来周知の事項を勘案して、USBポートをハウジングの分割面に設けることに格別の困難性はない。
したがって、本件発明6は、甲6発明に上記甲10に記載されたUSBポートの配置構造及び従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものである。

e 本件発明8に対して
本件発明5及び6を引用する本件発明8と、甲6発明とを対比すると、上記相違点(a)?(d)に加え、「前記ハウジングの前記通信端子の開口部に、前記開口部を閉鎖するソケットカバーを設けた」点でも相違する(以下「相違点(e)」という)。
しかし、上記相違点(e)に係る構造は、甲7にも、ハウジング1に設けたUSBケーブル9を接続するUSBソケット7のソケット開口部をダミープラグを挿入して覆う構造として例示されているように、コードレス電動工具の構造として従来周知の事項にすぎず、甲6発明に適用することにも格別困難性があるものとは認められない。
したがって、本件発明8は、甲6発明に、甲9に記載された通信ポートの配置構造又は甲10に記載されたUSBポートの配置構造、並びに従来周知の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、本件発明1及び2に係る特許について、甲2?4を提出し、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張している。
しかしながら、本件発明1及び2は、「前記通信端子は前記バッテリ保持部に設けられるものであって、前記バッテリの接続端子とは別に設けられる」という事項を有しており、当該事項は甲2?4に記載されておらず、当業者が容易に想到できるものではない。
したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明5、6、8は、甲6発明、刊行物2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5、6、8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明5、6、8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
一方、本件発明1?4に係る特許については、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明7に係る特許は、訂正により削除されたため、本件発明7に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含んで構成され、
外部から前記制御装置と通信をするための通信線を接続する通信端子を設け、
前記通信端子は前記バッテリ保持部に設けられるものであって、前記バッテリの接続端子とは別に設けられることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御装置における前記モータの駆動方法を記憶する記憶手段を有し、
前記制御装置はマイクロプロセッサーを含み、
前記モータの駆動方法は、前記記憶手段に格納されるコンピュータプログラム及び/又は制御パラメータによって決定されることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記通信端子は、前記バッテリ保持部の前記バッテリを取り外した際に露出する部分に設けられ、前記バッテリを取り外した際に前記通信端子に接続ケーブルを接続可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記バッテリ保持部は前方に延びるように構成され、
前記制御装置を搭載する回路基板が前後方向に延びるように前記バッテリ保持部に収容され、
前記通信端子はリード線を介して前記回路基板に接続されることを特徴する請求項3に記載の電動工具。
【請求項5】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、
外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、
前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記胴体部の端部の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続されることを特徴とする電動工具。
【請求項6】
先端工具を駆動するモータと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記モータを収容するハウジングと、前記ハウジングに着脱可能に固定されるバッテリを有する電動工具であって、
前記ハウジングは、前後方向に延びる胴体部と、前記胴体部から下方に延びるハンドル部と、前記ハンドル部の下部に設けられるバッテリ保持部を含み、前後方向及び上下方向と交差する左右方向に2分割されて構成され、
外部からの通信線を接続するための通信端子を設け、
前記通信端子は、前記バッテリの接続端子とは別に設けられるものであって、前記ハンドル部の外側表面の前記分割されたハウジングの分割面に設けられ、通信線を介して前記制御装置に接続されることを特徴とする電動工具。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記ハウジングの前記通信端子の開口部に、前記開口部を閉鎖するソケットカバーを設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電動工具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-13 
出願番号 特願2011-276547(P2011-276547)
審決分類 P 1 651・ 841- ZDA (B25F)
P 1 651・ 121- ZDA (B25F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
渡邊 真
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5796741号(P5796741)
権利者 日立工機株式会社
発明の名称 電動工具  
代理人 上田 恭一  
代理人 青稜特許業務法人  
代理人 鹿久保 伸一  
代理人 青稜特許業務法人  
代理人 鹿久保 伸一  
代理人 石田 喜樹  
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