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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1330098
異議申立番号 異議2016-700291  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-08 
確定日 2017-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5813310号発明「コーティング装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5813310号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5813310号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議申立に係る特許

本件特許異議申立に係る特許第5813310号は、平成22年12月2日、特許権者である株式会社パウレック(以下、単に「特許権者」という。)より特願2010-269318号として出願され(優先権主張 平成21年12月3日、日本国)、平成27年10月2日、発明の名称を「コーティング装置」、請求項の数を「3」として特許権の設定登録を受けたものである(以下、請求項1?3に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件特許」という。)。

2 手続の経緯

本件特許に対して、平成28年4月8日、特許異議申立人である谷水浩一、浅見保男、及び、比留川浩介(以下、単に「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年7月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月2日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、同年10月26日、異議申立人のうちの一人である谷水浩一より意見書が提出され、さらに、同年12月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月3日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが何らの応答もなかったものである。
なお、平成28年9月2日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年3月3日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項1?3(すなわち全請求項)について一群の請求項ごとに訂正するものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1) 訂正事項1

本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記回転ドラムの内部の粉粒体層と接触するように」とあるのを、「前記回転ドラムの回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、」と訂正する。同請求項1を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。(当審注:下線は、訂正箇所を表すもの。以下同じ。)

(2) 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「前記端部に配置された」とあるのを、「前記端部の内壁の中央領域に設置された」と訂正する。同請求項1を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3

本件特許明細書の段落【0022】に記載されている「回転ドラムの内部の粉粒体層と接触するように」とあるのを、「回転ドラムの回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、」と訂正する。

(4) 訂正事項4

本件特許明細書の段落【0022】に記載されている「前記端部に配置された」とあるのを、「前記端部の内壁の中央領域に設置された」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記訂正事項1は、透光部材が粉粒体層と接触する態様を具体的に特定するものであり、同項記載の発明の範囲を実質的に減縮するものであり、また、上記訂正事項2は、透光部材の配置態様を具体的に特定するものであり、同項記載の発明の範囲を実質的に減縮するものであり、いずれも、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、上記訂正事項3及び4は、いずれも、上記訂正事項1及び2に係る訂正により起因する特許請求の範囲(請求項1)の記載内容と明細書の発明の詳細な説明の記載内容との不一致を整合するように単に正すものであるから、同法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、これらの訂正事項は、本件特許明細書の段落【0029】、【0034】、【図1】、【図2】の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加に該当しない。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

3 小括

上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項1?3についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、総じて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1「処理すべき粉粒体が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置において、
前記回転ドラムの軸方向の一方の端部に測定部が設けられており、該測定部は、前記回転ドラムの回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、前記端部の内壁の中央領域に設置された透光部材と、該透光部材によって前記回転ドラムの内部と仕切られた前記測定部の内部に配置され、該透光部材と接触する前記粉粒体層の粒子の物性を該透光部材を介して測定する光学センサとを備えていることを特徴とするコーティング装置。」

本件発明2「前記光学センサが近赤外線分光分析装置の近赤外線センサであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。」

本件発明3「前記回転ドラムの前記端部は、該回転ドラムを回転駆動する回転駆動機構の中空状駆動軸に連結され、前記測定部の内部は前記中空状駆動軸の中空部に通じていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング装置。」

2 取消理由の概要

訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、平成28年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1?3に係る発明は、引用文献1(異議申立人の提出した甲第1号証)に記載された発明(引用発明)、引用文献2(異議申立人の提出した甲第2号証)の記載事項、引用文献8に記載されている公知の技術事項、及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 甲号証等の記載

(1) 甲第1号証(特開平7-794号公報、引用文献1)

甲第1号証には、「造粒やコーティング等を行なう装置」(発明の名称)について、次の記載がある(当審注:下線は当審が付したものである。以下同じ。)。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は造粒装置で、造粒中の粒子の形状、粒子径等を観察可能にした造粒装置に関するものである。」

「【0027】又造粒開始から所定の粒子径になるまでの工程として、赤外線水分計による水分量の検出により、所定粒子径に対応する水分量よりは若干少ない水分量(所定粒子径より僅かに小さい径)までを求め、その後所定の粒子径になるまでを画像により定めてもよい。」

「【0047】図9は他のコーティング装置つまり、パンコーティング装置に本発明を適用した実施例8を示す図で、(A)は回転軸37に沿った断面図、(B)はそれに垂直な断面図である。
【0048】この実施例では従来のパンコーティング装置のコーティングパンを回転させる回転軸に図1等に示す撮影装置の先端部11を取付けたものである。
【0049】この実施例においても、コーティング中の粒子を観察、計測し、それにもとづき錠剤の膜厚、表面状態(平滑度等)、疑集の有無、色むら等の評価を行なう。それと共にコーティング液量、ドラムの回転数、空気量、熱風温度を制御出来る。又水分計を設け一定水分に制御し、最良な状態でのコーティングを行なうことも出来る。
【0050】実施例では撮影装置としてファイバースコープを用いたが、レンズによる画像の伝達する方法や先端部内にCCDを配置して電気信号をケーブルにより送り画像を得るようにしてもよい。更に高速ストロボ装置の代りにレーザー発光装置を用いることも可能である。」

「【図9】



(2) 甲第2号証〔実願平4-3807号(実開平5-63635号)のCD-ROM、引用文献2〕

甲第2号証には、「粉体の付着防止装置」(考案の名称)について、次の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、粉体処理装置、例えば、粉体の造粒、乾燥時に使用される流動層造粒乾燥装置に組込み、内部監視用ガラス窓への粉体の付着を防止するのに適した粉体の付着防止装置に関するものである。」

「【0011】
上記した流動層造粒乾燥装置(A)には、第1処理容器(1a)内部の状況、例えば、温度、水分等を管理、監視するためのセンサが組込まれている。
【0012】
ところで、上記センサの第1処理容器(1a)への組込方法は、一般的に、センサの検出部を第1処理容器(1a)内に突出させるようにしていた。
【0013】
しかし、上記方法を取ると、センサの検出部が粉体の流動の障害になると同時に、センサの検出部に粉体が付着し、検出精度が低下する等と言った種々の問題があった。
【0014】
そこで、近年、図4に示す如く、第1処理容器(1a)の側壁部(1a’)にガラス窓(15)を有する凹状をした検出部(16)を形成し、このガラス窓(15)の外側、即ち第1処理容器(1a)の外部に赤外線センサ等の非接触型のセンサ(B)を配置し、このセンサ(B)によって内部の状況を監視するものが開発されている。
【0015】
尚、図中、(17)は、造粒作業時、第1処理容器(1a)内を流れる粉体がガラス窓(15)に付着するのを防止するため、ガラス窓(15)の内方側に配置したエアーノズルであり、このエアーノズル(17)から第1処理容器(1a)内に向けてエアーを噴出させることにより、凹状の検出部(16)内への粉体の侵入を防ぎ、ガラス窓(15)に粉体が付着し、センサ(B)による第1処理容器(1a)内部の監視が疎外(当審注:「阻害」の誤記と認定する。)されるのを防止するようにしている。」

「【0022】
【実施例】
図1及び図2は、本考案に係る粉体の付着防止装置を、処理容器内部監視用のガラス窓の側方に配置し、ガラス窓への粉体の付着を防止した実施例を示すものである。
【0023】
同図に於いて、(1a)は、流動層造粒乾燥装置(A)の第1処理容器、(20)は、第1処理容器(1a)の側壁部(1a’)を切り欠くことにより、側壁部(1a’)に形成した内部監視用のガラス窓、(B)は、ガラス窓(20)の外方側に配置した非接触型のセンサであり、このセンサ(B)により第1処理容器(1a)の内部を監視するようにしてある。」

「【0025】
(30)は、第1処理容器(1a)内方側のガラス窓(20)の側方に形成した粉体の付着防止装置である。」

「【0030】
そして、この高圧エアーの流れにより、ガラス窓(20)のガラス板(22)内周面にエアーカーテンが形成されるため、ガラス窓(20)に粉体が付着することはなく、また、万一、ガラス窓(20)の内周面に粉体が付着しても、この粉体は高圧エアーの流れにより即座にガラス窓(20)の内周面より吹き飛ばされる。
【0031】
従って、ガラス窓(20)の外方側に設置したセンサ(B)による第1処理容器(1a)内の監視を、常に良好な状態で行うことが可能となる。」

「【図1】



「【図4】



(3) 甲第3号証(特開2006-136763号公報)

甲第3号証には、「粉粒体処理装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「【0011】
下記の特許文献7では、流動層容器の内部に臨ませて配置した水分検知アダプタから流動層容器で流動する粉粒体に向けて赤外線を照射すると共に、粉粒体粒子で反射した光を受光し、赤外線の減衰量(吸収量)に基づいて粉粒体粒子の水分量を測定している。
【特許文献1】特開平5-236号公報
【特許文献2】特開平6-262054号公報
【特許文献3】WO97/15816号公報
【特許文献4】特開平7-333113号公報
【特許文献5】特許第3450405号公報
【特許文献6】特開平11-216351号公報
【特許文献7】特開平6-55054号公報」

「【0014】
特許文献7に記載された技術は、流動層容器内で流動する(運動状態にある)粉粒体粒子を水分検知アダプタで検知するものであるため、水分検知アダプタからの粒子の距離によって検知量にばらつきが生じ、測定データの信頼性が十分に得られない場合がある。」

「【0019】
また、本発明で用いる測定部には、近赤外分光法、ラマン分光法、赤外分光法により粉粒体の物性値を測定する測定装置が含まれる。例えば、近赤外分光法は、近赤外領域(波長範囲800?2500nm)の光を測定対象物に照射し、その反射光又は透過光を検出して解析することにより、対象物の物性値を求める手法である。この近赤外分光法によれば、粉粒体粒子の粒子径等の形態的性質に加え、成分含量や水分率等の組成的性質を求めることが可能となる。さらに、これらの性質に基づいて、粒子の溶出制御性能等の化学的性質を評価することもできる。例えば、薬物粒子のコーティング操作において、近赤外分光法により求めた粒子表面の膜剤物質の含量から溶出制御膜の性能を求めることができ、薬物粒子の溶出特性を評価することができる。」

(4) 甲第4号証(特開平6-55054号公報)

甲第4号証には、「流動層内における粉粒体の水分測定装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「【0004】そして本出願人はこのような要望に応えるべく特公平3-32014号「流動層処理装置における粉粒体の水分検知方法」なる出願に及んでいる。このものは流動層処理装置の流動室周壁部適所に検知筒を取り付け、この上端に赤外線吸収式水分計を設けるとともに、検知筒から流動室に向けて空気を吹き込むというものである。即ち赤外線吸収式水分計を用いて精度の良い測定をするためには、赤外線が照射される被測定物の表面状態と測定距離が安定していることが必要となるが、流動中の粉粒体は気流中に浮遊懸濁した状態で沸騰状態のように激しく運動しているため、これに単に赤外線を照射しても精度の良い水分測定は不可能である。」

(5) 甲第5号証(特開昭61-61628号公報)

甲第5号証には、「パンコーテイングの制御方法および装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「これら一連の操作を自動化するために、パン中に錠剤の表面水分を感知するセンサーを設置し、それに絶縁抵抗計を接続することによって、スプレー、ポーズおよびドライの3工程中の表面水分量を抵抗値に変換し連続して測定し、」(第3頁右上欄第11?15行)

「直径が750mmで従来のオニオン型コーティングパン〔パン中にセンサー(ステンレス製で直径4.0mm、長さ約85mmの中央をL型に折し曲げたものを用い、位置は錠剤がかぶさるような場所に固定)3を設置し、それに絶縁抵抗計(東亜電波工業株式会社製 DSM-515A)9が接続されている〕1内に素錠(重量175mg、直径8mm、厚さ4.45mm)を110,000錠仕込み、コーティングパンを回転させながら錠剤を25℃前後に温めた。次いでスプレーガン2によりシロップ7を噴霧させた。このとき適量と思われるスプレー量に相当する抵抗値(所望値)AΩを測定した。」(第3頁右下欄第5?17行)





(6) 甲第6号証(特開平3-121071号公報)

甲第6号証には、「コーティング装置およびコーティング方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

「コーティングパン(11)には、錠剤投入口、錠剤排出口、所要数のコーティング液噴霧ノズル、艶だし液噴霧パイプ、乾燥用空気供給口、排気口、錠剤温度測定センサー用座、錠剤水分測定センサー用座、サンプリングパイプ用座などが配設されている。」(第3頁左下欄第6?11行)

「錠剤水分検出部(23)は、コーティングパン内に配設された一方の絶縁抵抗測定用端子と、コーティングパンに接続されたもう一方の絶縁抵抗測定用端子と、電圧印加部と、絶縁抵抗測定部とからなる。」(第4頁左下欄第12?16行)





(7) 甲第7号証(特表2003-527129号公報)

甲第7号証には、「核に被覆を形成するための方法及び装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「【請求項11】 大量の核に被覆を形成するための被覆形成装置システムにおいて、被覆形成槽、被覆形成溶液ディスペンサー、ガス入口ポート、ガス出口ポート、ファン、ガス乾燥素子、ガス加熱素子、並びに前記大量の核の表面温度を測定するための温度センサ及び前記大量の核の表面の含水量を測定するための水分センサの内の少なくとも1つを備えることを特徴とするシステム。」

「【請求項16】 前記水分センサが近赤外線水分センサであることを特徴とする請求項11記載のシステム。」

「【0028】
本明細書で説明されるように、本発明では、大量の被覆された核の表面温度を測定するために温度センサが用いられる。大量の被覆された核の表面の含水量を測定するために水分センサが用いられる。本発明で用いられる温度センサ及び水分センサは、非接触型センサであることが有利である。どのような非接触型温度センサ及び水分センサも本発明の方法及び装置での使用に適するであろうことが、当業者には理解されよう。そのような非接触型センサは、赤外線センサ及び近赤外線センサであることが好ましい。センサは回転している大量の被覆された核と接触していないから、被覆された核との度重なる衝突により生じるセンサへの損傷は本質的に排除される。さらに、センサとの度重なる衝突による被覆された核への損傷はおこらない。本発明に用いられる水分センサは近赤外線水分センサであり、温度センサは赤外線温度センサであることが最も好ましい。そのような水分センサの例は、米国カリフォルニア州ミルピタス(Milpitas)のセンサ・コントロールズ社(Sensor Controls, Inc.)から入手可能である。そのような温度センサの例は、米国カリフォルニア州サンタクルス(Santa Cruz)のレイテック社(Raytek, Corp.)及び米国ミズーリ州セントルイス(St. Louis)のワトロー(Watlow)社から入手可能である。」

(8) 引用文献8(特開2004-148292号公報、当審において新たに引用)

引用文献8には、「コーティング装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「【0060】
図1に示すように、通気ダクト8は、ケーシング4内で分離可能に構成されており、第2ディスクプレート22がスライド移動して第1ディスクプレート21から離反したときに、通気ダクト8が分離されるようになっている。詳述すると、通気ダクト8は、ケーシング4の上面壁部に取り付けられた第1部分8aと、第2ディスクプレート22に取り付けられた第2部分8bとを有し、粉粒体の処理時は、第1部分8aの接合端面と第2部分8bの接合端面とが、少なくとも一方に装着されたOリング等のシール部材を介して相互に接合された状態にある。このような状態から、第2ディスクプレート22がスライド移動して第1ディスクプレート21から離反してゆくと、同図に仮想線で示すように、第2部分8bが第2ディスクプレート22と伴に移動して第1部分8aから分離される。このとき、第2部分8bは第2ディスクプレート22のスライド移動方向、すなわち、軸線Aに沿って斜め下方に移動するため、第1部分8aと第2部分8bとの分離は円滑に行なわれる。
【0061】
また、回転ドラム2の内部には、後端部を介してサンプリング用パイプ29が挿入されている。このサンプリング用パイプ29は、中空状の駆動軸3bの内部を通り、第1ディスクプレート21の中心部を貫通して回転ドラム2の内部の粉粒体層11中に埋没する。粉粒体の処理時あるいは処理後に、サンプリング用パイプ29を介して、粉粒体層11の内部から所要量の粉粒体がサンプリングされる。」

(9) 参考資料1(特開平8-215556号公報、異議申立人が平成28年10月26日に提出した意見書に添付されたもの)

参考資料1には、「真空式粉粒体処理装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

「【請求項1】粉体・粒体等を入れて密閉可能な回転型容器1と、該容器1の減圧手段2と噴霧手段3と加熱手段4と回転駆動手段5とを備え、容器1を回転させながら液を噴射し、施皮または造粒と乾燥処理を行うようにした真空式粉粒体処理装置において、
上記回転型容器1を透明性のあるガラスで形成するとともに、該容器1を、多細孔金属板とガラス板製の窓板7付きの外箱体6内に収容して、該外箱体6に容器1内へ向けた加熱手段4を設け、
かつ、上記回転型容器1の開口基部10に取り付けた中空状の外軸部11を、外箱体6と一体的な軸受け部12で回転可能に軸支し、該外軸部11内に、減圧手段2へ通じるダクト管16を内装する中空状の内軸部13を設けて構成したことを特徴とする、真空式粉粒体処理装置。」

「【0023】c)同じく、回転型容器1が透明性のガラス製であることで、外箱体6の多細孔金属板とガラス板製の窓板7を介して、容器1の内部を観察することが容易になっている。従来の如く容器に窓を設けるため容器の小型化が難しかったのと異なり、容器1に窓を形成する必要がないので、この面からも容器1の小型化を図ることが容易となり、小型の容器1で少量の粉体・粒体等8の処理を行えるようになる。」

「【0038】同じく、回転型容器が透明性のあるガラス製であるため、従来と異なり容器に内部観察用の窓を設ける必要がなく、この面から容器の小型化を図ることが容易になるし、該容器の形状を多角殻形状にも球殻形状にも容易に製造することができる。さらに、加熱手段として必ずしもマイクロ波を用いる必要がなく、例えば遠赤外線を用いて容器外部から加熱することもでき、装置のシンプル化を図れることにもなる。」

4 引用文献1(甲第1号証)に記載された発明の認定

引用文献1の【0047】?【0049】、【図9】の記載より、引用文献1の図9に記載された実施例8のパンコーティング装置は、処理すべき粒子が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動されるコーティングパンを備え、当該コーティングパンの軸方向の一方の端部に、測定部として粒子の水分を測定する水分計7が設けられていることがわかる。

してみると、引用文献1には、

「処理すべき粒子が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動されるコーティングパンを備えたパンコーティング装置において、
前記コーティングパンの軸方向の一方の端部に測定部が設けられており、該測定部は、前記粒子の水分を測定する水分計7を備えているパンコーティング装置。」

の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5 対比・判断

(1) 本件発明1について

本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「処理すべき粒子」、「その軸線回りに回転駆動されるコーティングパン」、及び「パンコーティング装置」は、それぞれ、本件発明1の「処理すべき粉粒体」、「回転ドラム」、及び「コーティング装置」に相当する。

イ 本件訂正明細書の【0030】によれば、「粉粒体(例えば医薬品錠剤)のコーティング処理時、透光部材3aの表面と接触する粉粒体層Aの粒子の物性(被膜厚み、水分、コーティング性能、不純物等)に関する情報を透光部材3aを介してNIRセンサ3bによりリアルタイムで測定し、」と記載されていることもあり、引用発明の「水分」は、本件発明1の「物性」に包含される。

そうすると、両者は、

「処理すべき粉粒体が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置において、
前記回転ドラムの軸方向の一方の端部に測定部が設けられており、該測定部は、前記粉粒体層の粒子の物性を測定する光学センサを備えているコーティング装置。」

である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>

測定部について、本件発明1は、回転ドラム回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、回転ドラムの端部の内壁の中央領域に設置された透光部材と、該透光部材によって前記回転ドラムの内部と前記測定部の内部とは仕切られた前記測定部の内部に配置され、該透光部材と接触する前記粉粒体層の粒子の物性を該透光部材を介して測定する光学センサとを備えているのに対して、引用発明の水分計7は、その測定が、透光部材を介して行われることは規定されておらず、しかも、水分が測定される粒子が、透光部材と接触するような粉粒体層の表層部よりも内部の粒子であることは規定されていない点。

<相違点2>

測定部の測定手段について、本件発明1では、「光学センサ」を備えているのに対して、引用発明では、「水分計7」を備えているものの、該「水分計7」が「光学センサ」であるのかどうか不明である点。

以下、上記相違点について検討する。

<相違点1>について

引用文献2には、引用文献2の【0014】?【0015】、【0022】?【0023】、【0025】、【図1】、【図4】の記載より、流動層造粒乾燥装置(A)の第1処理容器(1a)の側壁部(1a’)に形成されたガラス窓(20)の外側に配置された赤外線センサ等の非接触型センサ(B)により第1処理容器(1a)の内部を監視する構成、及び第1処理容器(1a)の内側の該ガラス窓(20)の側方に形成された粉体の付着防止装置により該ガラス窓(20)への粉体が付着し、当該センサ(B)による第1処理容器(1a)内部の監視が阻害されるのを防止する構成が記載されているといえる。
しかしながら、引用文献2のコーティング装置〔流動層造粒乾燥装置(A)〕の非接触型のセンサ(B)は、透光部材〔ガラス窓(20)〕を備えているものの、当該透光部材は、本件発明1のような「回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように」「設置された透光部材」ではない。
また、同じく上記取消理由で引用した引用文献8においては、上記「3 (8)」からみて、処理すべき粒子が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置において、駆動軸を中空状駆動軸とし、測定部の内部を前記中空状駆動軸の中空部に通じるものとすることが記載されているといえるだけであり、さらに、異議申立人が平成28年10月26日付けの意見書とともに提出した参考資料1においては、上記「3 (9)」からみて、回転形容器を備えたコーティング装置において、回転容器の内部を容易に観察できるように、当該回転容器を透明性のあるガラスで形成すること、及び、従来から回転容器に、内部観察用の窓を設けていたことが記載されているといえるだけであって、いずれも、本件発明1のような「回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように」「設置された透光部材」が、開示ないし示唆もされていないことは明らかである。
そして、この点に係る<相違点1>により、本件発明1は、測定対象物(透光部材と接触する粒子)と光学センサとの間の距離(測定距離)が一定になり、測定対象物(透光部材と接触する粒子)の物性の測定値の精度が向上するという顕著な効果を奏するものである。
よって、上記<相違点2>を検討するまでもなく、上記<相違点1>が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献8に記載されている公知の技術事項、及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件発明2、3について

本件発明2、3は、本件発明1を直接的または間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3も、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献8に記載されている公知の技術事項、及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(3) 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について

異議申立人が、平成28年4月8日に提出した特許異議申立書によれば、本件発明1?3は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明及び甲第2号証(引用文献2)の記載事項並びに周知技術(甲第3号証乃至甲第7号証)に基づいて、出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
そこで、甲第3号証乃至甲第7号証の記載内容について検討するに、甲第3号証は、上記「3 (3)」からみて、流動する粉粒体粒子を水分検知アダプタ(光学センサ)で検知する場合、水分検知アダプタと粒子の距離によって検知量にバラツキが生じるという課題、及び、近赤外分光法により粉粒体粒子の水分率を求めることができる旨が、それぞれ記載されており、また、甲第4号証は、上記「3 (4)」からみて、赤外線照射による水分測定において、流動中の粉粒体は激しく運動しているため、赤外線が照射される被測定物の測定距離が不安定となり、制度の良い水分測定が不可能である旨、記載されており、また、甲第5号証は、上記「3 (5)」からみて、パン中の錠剤の水分の測定において、錠剤がかぶさるような位置にセンサーを固定し、錠剤層の内部の水分を測定することが記載されており、また、甲第6号証は、上記「3 (6)」からみて、コーティングパン中の錠剤の水分の測定において、錠剤水分検出器を錠剤層の内部に固定し、錠剤層の内部の水分を測定することが記載されており、さらに、甲第7号証は、上記「3 (7)」からみて、水分センサとして近赤外線水分センサが記載されているといえる。
しかしながら、甲第3号証乃至甲第7号証においては、いずれも上記の記載の限りであって、本件発明1のような「回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように」「設置された透光部材」を開示ないし示唆するものではない。
これに対し、異議申立人は、異議申立書において、光学センサによる錠剤の水分の測定において、光学センサをどの位置に設置するかは当業者が必要に応じて適宜設定する設計事項であり、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明に甲第2号証(引用文献2)に記載された事項を適用した際に、ガラス窓を錠剤層と接触するように配置し、ガラス窓と接触する錠剤層の水分を測定することに格別な困難性を有しない(異議申立書第14頁第7?10行)、また、甲第3号証及び甲第4号証に示されるように、光学センサによる粉体の水分の測定において、運動が激しい状態の粒子を測定すると、センサと粉体との距離の変動によって検知量にばらつきが生じることは周知の課題であるから、赤外線センサと粉体の距離が一定となるように、ガラス窓を粉体層と接触するように配置し、ガラス窓に接触する粉体層を測定することは当業者が容易になし得たことである(同第14頁第15?21行)旨主張している。
また、異議申立書は、本件発明の効果について、甲第5号証及び甲第6号証に示されるように、パンコーティング装置において、粉粒体層の内部の水分を測定する構成は、出願日前周知技術であるから、本件発明の効果は、出願日前周知技術により把握される効果を超えるものではない(同第15頁第14?18行)旨主張している。
しかしながら、甲第2号証に記載された「粉体の付着防止装置」は、「処理容器に形成したガラス窓への粉体の付着を防止する」(【0001】)ものであるから、ガラス窓に粉体が常に付着してしまうような態様で設置することは想定されていないというべきである。
そうすると、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された事項を適用する際に、甲第2号証のガラス窓を錠剤層と接触するように配置することは、甲第2号証のガラス窓の配置について想定されていない態様とするものであって、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。
してみると、上記相違点1に係る発明特定事項において、「回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、回転ドラムの端部の内壁の中央領域に設置された透光部材」を、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることで、粉粒体の水分量の測定が高い精度で行えるという、格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、異議申立人が申し立てた証拠に基づいても、上記<相違点1>が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明及び甲第2号証(引用文献2)の記載事項並びに周知技術(甲第3号証乃至甲第7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2、3も同様である。

(4) 小括

よって、本件発明1?3は、引用発明、引用文献2の記載事項、引用文献8に記載されている公知の技術事項、及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。また、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明及び甲第2号証(引用文献2)の記載事項並びに周知技術(甲第3号証乃至甲第7号証)に基づいたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 まとめ

以上のとおりであるから、取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コーティング装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、食品、農薬等の粉粒体のコーティング、混合、乾燥等を行うコーティング装置に関し、特に、軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品、農薬等の錠剤、ソフトカプセル、ペレット、顆粒、その他これらに類するもの(以下、これらを総称して粉粒体という。)にフィルムコーティングや糖衣コーティング等を施すために、回転ドラムを備えたコーティング装置が使用されている。
【0003】
この種のコーティング装置は、例えば下記の特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1は、水平な軸線回りに回転駆動される通気式の回転ドラムを備えたコーティング装置を開示している。回転ドラムは、多角筒形の周壁部と、周壁部の一端から軸方向一方に向かって延びた多角錐形の一端部と、周壁部の他端から軸方向他方に向かって延びた多角錐形の他端部とで構成される。周壁部の各面にはそれぞれ多孔板が装着され、多孔板の多孔部によって周壁部に通気性が与えられている。そして、各多孔板の外周側にそれぞれジャケットが装着され、ジャケットと多孔板との間に通気チャンネルが形成される。
【0005】
また、回転ドラムの他端側、即ちモータ等を含む回転駆動機構が設置されている側には、回転ドラムに対する乾燥エア等の処理気体の通気を制御する通気機構が配備されている。この通気機構は、回転ドラムの回転に伴って所定位置に来た通気チャンネルをそれぞれ給気ダクトと排気ダクトに連通させる機能を有する。
【0006】
例えば、回転ドラムの回転に伴い、ある通気チャンネルが回転ドラムの上部に達すると、その通気チャンネルが給気ダクトと連通し、ある通気チャンネルが回転ドラムの下部に達すると、その通気チャンネルが排気ダクトと連通する。したがって、給気ダクトから回転ドラムの上部の通気チャンネルに導入された処理気体は、周壁部の上部の多孔板を通じて回転ドラムの内部に流入し、そして、粉粒体層(転動床)の内部を通過した後、周壁部の下部の多孔板を通じて通気チャンネルに流出し、さらに、通気チャンネルを通って排気ダクトに排出される。
【0007】
特許文献2は、処理すべき粉粒体が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される通気式の回転ドラムを備えたコーティング装置において、回転ドラムは、その軸線方向に沿って、一端部と、他端部と、一端部と他端部とを連続させる周壁部とを有し、他端部は回転ドラムを回転駆動する回転駆動機構の側に位置し、一端部及び他端部にはそれぞれ通気口が設けられ、一端部及び他端部のうち一方の通気口は、処理気体を外部から回転ドラムの内部に供給するための給気口となり、一端部及び他端部のうち他方の通気口は、処理気体を回転ドラムの内部から外部に排出するための排気口となり、給気口を介して回転ドラムの内部に供給された処理気体が、回転ドラムの内部の粉粒体層中を通過して排気口から排出される構成を開示している。
【0008】
回転ドラムは通気式のものであるが、通気口が一端部と他端部に設けられており、周壁部には給排気用の通気部(多孔部)は設けられていない。したがって、従来の通気式の回転ドラムのように、周壁部の通気部(多孔部)を外周側からジャケットで覆って通気チャンネルを形成するといった複雑な通気構造を設ける必要はない。すなわち、同文献のコーティング装置は、通気式の回転ドラムを備えているが、回転ドラムの周壁部には給排気用の通気部(多孔部)はなく、言い換えれば、回転ドラムの周壁部は気密な構造を有し、また、回転ドラムの周壁部の外周側にジャケットで覆われる通気チャンネルもない。そのため、従来装置に比べて、洗浄作業、洗浄後のバリデーション作業を容易かつ確実に行なうことができる。
【0009】
一端部及び他端部のうち一方の通気口は給気専用、他方の通気口は排気専用となり、一端部又は他端部の給気口を介して回転ドラムの内部に供給された処理気体(熱風、冷風等)は、回転ドラムの内部の粉粒体層中を通過して他端部又は一端部の排気口から排出される。そのため、粉粒体層の内部まで通気が行き渡り、粉粒体層の乾燥等の処理が斑なく充分に行なわれる。
【0010】
回転ドラムは、その軸線が水平線に対して、0°≦θ≦90°の範囲内の所定角度θをなす状態で配設される。すなわち、回転ドラムは、その軸線が水平線と平行な状態(θ=0°)、その軸線が鉛直線と平行な状態(θ=90°)、その軸線が水平線に対して傾斜した状態(0°<θ<90°)のうち、いずれか一つの状態を選択して配設され、運転される。好ましくは、回転ドラムは、その軸線が水平線に対して所定角度θをもって傾斜した状態で配設される。この場合、軸線の傾斜角度θは20°≦θ≦70°より好ましくは30°≦θ≦45°、特にθ=30°又はθ=45°に設定される。
【0011】
回転ドラムの軸線が水平線に対して所定角度θで傾斜していることにより、回転ドラムの内部で処理し得る粉粒体の容積量が多くなるので、1回当りの処理量が増大して、生産効率が向上する。また、回転ドラムが傾斜した軸線の回りに回転することにより、回転ドラムの内部に収容された粉粒体は、回転ドラムの回転に伴い、回転方向への動きと軸線方向への動きとを伴った状態で流動するので、粉粒体層の攪拌混合効果が高く、例えば、回転ドラムの内部にいわゆるバッフル(攪拌羽根)を配設していない場合でも、充分な攪拌混合効果が得られる。もちろん、バッフルを併用すれば、より高い攪拌混合効果を得ることができる。回転ドラムの軸線を傾斜させる場合、通常、回転ドラムの後端部を傾斜下方側に位置させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001-58125号公報
【特許文献2】特開2004-148292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
コーティング品質は装置面においては混合性、乾燥効率、スプレー性能で決定し、シビアなパラメータ設定が要求される。これらのパラメータ設定には製造者の熟練を必要とすることが多い。
【0014】
日によって受け入れ錠剤の水分値が異なることが多いが、コーティングを行う前の錠剤予熱は時間や排気(品温)温度で制御されていることが一般的であり、品質に影響を与える水分値によって工程が移行するわけではない。
【0015】
スプレー終了後にアフタードライを行うが、この工程も時間や排気(品温)温度で制御されていることが一般的であり、品質に影響を与える水分値を監視しているわけではないため、誤差が大きく、精密な制御が行えない。
【0016】
錠剤コーティング品質であるコーティング性能は被膜厚みや緻密さで決定するが、これらの測定はコーティング終了後に事後評価される。目的とするコーティング性能が得られないときはコーティング条件を再考するなど、所望の品質を得るためには多くの時間やコストを必要とする。一般的に本工程は工程時間が長く、単位操作工程の下流となるため多くの時間とコストを費やしており、ミスが許されない。
【0017】
工程中、何らかの原因で錠剤水分値が規格より増加または減少していたとしても、監視する手段が無い。
【0018】
フィルムコーティングでは、受け入れ錠剤の状態によっては過乾燥となり、錠剤が脆くエッジ欠けなどの不良につながることもある。シュガーコーティングでは、サイクル毎の乾燥は時間で制御されており、工程時間の延長につながっているケースも多い。
【0019】
従来利用されている錠剤の水分制御技術は、ドラム内(錠剤転動層内)にセンサがあるが、スプレーダストなどによってセンサ(温度計や、各種のプローブ・光源によるセンサ)面が汚れるため、再現性の高いデータを得ることは困難である。
【0020】
ドラム外から測定する場合は、コーティング中にコーティング液によってドラムが汚れるため計測値の再現性や測定値の信頼性が欠ける問題がある。
【0021】
近年は、近赤外線(NIR)センサを用いた計測が注目されているが、センサやセンサ面の汚れ問題が解決されず、十分に効果を得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明は、処理すべき粉粒体が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置において、回転ドラムの軸方向の一方の端部に測定部が設けられており、測定部は、回転ドラムの回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、前記端部の内壁の中央領域に設置された透光部材と、透光部材によって回転ドラムの内部と仕切られた測定部の内部に配置され、透光部材と接触する粉粒体層の粒子の物性を透光部材を介して測定する光学センサとを備えた構成を提供する。透光部材は、例えば透明なガラスで形成される。測定部の透光部材を介して光学センサにより粉粒体層の粒子の物性を測定する構成とすることにより、コーティング中のスプレーダストやドラムの汚れといった影響を受けることなくコーティング粒子の物性をリアルタイムで測定することが可能となる。
【0023】
上記構成において、光学センサは、例えば近赤外線(NIR)分光分析装置の近赤外線センサである。NIR分光分析装置を使用してリアルタイムで錠剤品質(水分等)測定して管理することにより、ロット間のバラツキなどがある場合においても、高い再現性を持ったコーティング製品を製造できる。
【0024】
例えば、コーティング品質である被膜厚み、水分、コーティング性能、不純物をリアルタイムモニターおよび制御を実施する。光学センサにより、透光部材を介して非接触式で測定する。
【0025】
好ましくは、回転ドラムの前記端部は、回転ドラムを回転駆動する回転駆動機構の中空状駆動軸に連結され、測定部の内部は中空状駆動軸の中空部に通じている。これにより、中空状駆動軸の中空部を利用して測定部の内部に光学センサを設置することができる。そして、透光部材の表面と接している粉粒体層の粒子(錠剤等)を光学センサで測定する。透光部材は錠剤の摩損が発生しないよう回転ドラムの内壁面と段差なく設置するのが好ましい。また、測定部には、透光部材に対する付着防止用エアパージがあってもよく、エアパージは結露防止のため温風でもよい。また、エアパージは間欠入力でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】粒子の水分値の測定値と実測値を示す図である。
【図4】吸光度(ABS)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るコーティング装置を示している。このコーティング装置は、特開2004-148292号公報(特許文献2)に記載されたコーティング装置と同様の基本構成を有し、水平線に対して傾斜した軸線回りに回転駆動される通気式の回転ドラム1を備えている。
【0028】
回転ドラム1は、その軸線方向に沿って、一端部1aと、他端部1bと、一端部1aと他端部1bとを連続させる周壁部1cとを有し、他端部1bは回転ドラム1を回転駆動する回転駆動機構2の側に位置する。一端部1a及び他端部1bにはそれぞれ通気口が設けられ、一端部1aの通気口は処理気体を外部から回転ドラム1の内部に供給するための給気口となり、他端部1bの通気口は処理気体を回転ドラム1の内部から外部に排出するための排気口となる。一端部1aの給気口を介して回転ドラム1の内部に供給された処理気体は、回転ドラム1の内部の粉粒体層中Aを通過して他端部1bの排気口から排出される。
【0029】
回転ドラム1の端部には測定部3が設けられており、この実施形態では、測定部3は、他端部1bの内壁(多孔部を有するディスクプレート)の中央領域に設置された透光部材3aと光学センサ3bとを備えている。透光部材3aは、例えば、透明なガラス、特に強化ガラスで椀状に形成され、その周縁部が他端部1bの内壁と段差がない状態で設置されている。回転ドラム1の回転時、透光部材3aの表面の全領域(又は一部領域)は粉粒体層Aと接触する。光学センサ3bは、例えば、近赤外線(NIR)分光分析装置のNIRセンサであり、透光部材3aによって回転ドラム1の内部と仕切られた測定部3の内部に配置されている。測定部3の内部は回転駆動機構2の中空状駆動軸2aの中空部に通じており、NIRセンサ3bの検出情報は、中空状駆動軸2aの中空部に挿通されたケーブル3cを介して外部のNIR分光分析装置の処理部に送られる。
【0030】
粉粒体(例えば医薬品錠剤)のコーティング処理時、透光部材3aの表面と接触する粉粒体層Aの粒子の物性(被膜厚み、水分、コーティング性能、不純物等)に関する情報を透光部材3aを介してNIRセンサ3bによりリアルタイムで測定し、そのデータをNIR分光分析装置の処理部で処理してモニターし、その結果に応じて、フィードバック制御又は手動操作でコーティング操作条件(給気風量、給気温度、スプレー条件、回転ドラム1の回転数等)を適宜調整することにより、高い品質のコーティング処理を行うことが可能となる。
【0031】
図2は、本発明の第2の実施形態に係るコーティング装置を示している。このコーティング装置は、特開2001-58125号公報(特許文献1)に記載されたコーティング装置と同様の基本構成を有し、水平線と平行な軸線回りに回転駆動される通気式の回転ドラム11を備えている。
【0032】
回転ドラム11は、多角筒形の周壁部11cと、周壁部の一端から軸方向一方に向かって延びた一端部11aと、周壁部11cの他端から軸方向他方に向かって延びた他端部11bとで構成される。周壁部11cの各面にはそれぞれ多孔板が装着され、多孔板の多孔部によって周壁部11cに通気性が与えられている。そして、各多孔板の外周側にそれぞれジャケット11dが装着され、ジャケット11dと多孔板との間に通気チャンネル11eが形成される。
【0033】
回転ドラム11の他端部11bの側には、回転駆動機構12と、回転ドラム11に対する乾燥エア等の処理気体の通気を制御する通気機構14が配備されている。この通気機構14は、回転ドラム11の回転に伴って所定位置に来た通気チャンネル11eをそれぞれ図示されていない給気ダクトと排気ダクトに連通させる機能を有する。例えば、図示されていない給気ダクトから回転ドラム11の上部の通気チャンネル11eに導入された処理気体は、周壁部11cの上部の多孔板を通じて回転ドラム11の内部に流入し、そして、粉粒体層Aの内部を通過した後、周壁部11cの下部の多孔板を通じて通気チャンネル11eに流出し、さらに、通気チャンネル11eを通って図示されていない排気ダクトに排出される。
【0034】
回転ドラム11の端部には測定部13が設けられており、この実施形態では、測定部13は、他端部11bの内壁の中央領域に設置された透光部材13aと光学センサ13bとを備えている。透光部材13aは、例えば、透明なガラス、特に強化ガラスでプレート状に形成され、その周縁部が他端部11bの内壁と段差がない状態で設置されている。回転ドラム11の回転時、透光部材13aの表面の一部領域(又は全領域)は粉粒体層Aと接触する。光学センサ13bは、例えば、近赤外線(NIR)分光分析装置のNIRセンサであり、透光部材13aによって回転ドラム11の内部と仕切られた測定部13の内部に配置されている。測定部13の内部は回転駆動機構12の中空状駆動軸12aの中空部に通じており、NIRセンサ13bの検出情報は、中空状駆動軸12aの中空部に挿通されたケーブル13cを介して外部のNIR分光分析装置の処理部に送られる。
【0035】
粉粒体(例えば医薬品錠剤)のコーティング処理時、透光部材13aの表面と接触する粉粒体層Aの粒子の物性(被膜厚み、水分、コーティング性能、不純物等)に関する情報を透光部材13aを介してNIRセンサ13bによりリアルタイムで測定し、そのデータをNIR分光分析装置の処理部で処理してモニターし、その結果に応じて、フィードバック制御又は手動操作でコーティング操作条件(給気風量、給気温度、スプレー条件、回転ドラム1の回転数等)を適宜調整することにより、高い品質のコーティング処理を行うことが可能となる。
【0036】
図3は、図1に示すコーティング装置を用いた錠剤のコーティング処理において、測定部3により測定した粒子の水分値の測定値と、該粒子の水分値の実測値を示している。同図から理解できるように、粒子の水分値の測定値と実測値とは良好な相関関係を示す。
【0037】
ところで、NIRセンサの投光部から投光される近赤外線光が透光部材の表面で乱反射を起こすと、受光部には粉粒体層の粒子表面で反射した反射光成分に加え、透光部材の表面で乱反射した乱反射光成分も検出されてしまい、検出精度が低下する場合がある。この問題は、透光部材の表面に対するNIRセンサの設置角度(NIRセンサの受光部又は投光部の光軸と透光部材の表面とのなす角度)を調整することによって是正することができる。
【0038】
NIRセンサの好ましい設置角度を求めるために、吸光度(ABS)を測定した。吸光度(ABS)の測定は、図1に示すコーティング装置に粒子(サンプル錠剤)を投入し、回転ドラム1を回転させ、NIRセンサ3bの設置角度を変え、NIRセンサ3bから波長1200?1500nm(水分測定のために必要な波長領域)の光を投光して行った。その測定結果を図4に示す。図4において、横軸はNIRセンサ3bの設置角度(NIRセンサ3bの受光部の光軸と透光部材3aの表面とのなす角度)、縦軸は吸光度(ABS:負の値)である。
【0039】
吸光度(ABS)の値が低いほど、光の乱反射の影響は少なくなる。すなわち、吸光度(ABS)の値が低いほど、錠剤表面で反射した反射光成分の影響が大きくなり、より高精度な測定が可能になる。図4に示す測定結果から、吸光度(ABS)の値が-50以下のときに、オフラインで測定したサンプル錠剤の水分値と良好な相関性を示した。このことから、NIRセンサ3bの設置角度は5?15°が好ましいことが判明した。
【符号の説明】
【0040】
1、11 回転ドラム
2、12 回転駆動機構
2a、12a 中空状駆動軸
3、13 測定部
3a、13a 透光部材
3b、13b NIRセンサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理すべき粉粒体が内部に収容され、その軸線回りに回転駆動される回転ドラムを備えたコーティング装置において、
前記回転ドラムの軸方向の一方の端部に測定部が設けられており、該測定部は、前記回転ドラムの回転時に該回転ドラムの内部の粉粒体層の表層部よりも内部の粒子と接触するように、前記端部の内壁の中央領域に設置された透光部材と、該透光部材によって前記回転ドラムの内部と仕切られた前記測定部の内部に配置され、該透光部材と接触する前記粉粒体層の粒子の物性を該透光部材を介して測定する光学センサとを備えていることを特徴とするコーティング装置。
【請求項2】
前記光学センサが近赤外線分光分析装置の近赤外線センサであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング装置。
【請求項3】
前記回転ドラムの前記端部は、該回転ドラムを回転駆動する回転駆動機構の中空状駆動軸に連結され、前記測定部の内部は前記中空状駆動軸の中空部に通じていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-22 
出願番号 特願2010-269318(P2010-269318)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 健司  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 原 賢一
國島 明弘
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5813310号(P5813310)
権利者 株式会社パウレック
発明の名称 コーティング装置  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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