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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1330106
異議申立番号 異議2016-700849  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-09 
確定日 2017-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5882428号発明「合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5882428号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。 特許第5882428号の請求項1?3、7、12?15に係る特許を維持する。 特許第5882428号の請求項4?6、8?11に対する特許異議申立ては却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5882428号の請求項1?15に係る特許についての出願は、2009年9月30日(優先権主張2008年9月30日、日本国、2008年12月19日、日本国、2009年7月10日、日本国)を国際出願日とする特願2009-543265号の一部を平成26年9月10日に新たな特許出願としたものであって、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社クラレにより特許異議の申立てがなされ、平成28年11月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月12日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、この訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年3月3日に意見書(以下、「異議申立人意見書」という。)の提出がなされ、平成29年3月14日付け取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月12日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
平成29年5月12日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。なお、本件訂正請求により、平成29年1月12日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

(1)特許請求の範囲の請求項1に記載された
「周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有し、前記遮音層は可塑剤を含有する合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を160重量部以下含有することを特徴とする」を
「周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有し、前記遮音層は可塑剤を含有する合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有し、
前記アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5.1mol%以上、8.9mol%以下である
ことを特徴とする」
に訂正する(以下、「訂正事項1」という)。

(2)特許請求の範囲の請求項4?6を削除する(以下、「訂正事項2」という)。

(3)特許請求の範囲の請求項7に記載された「請求項1、2、3、4、5又は6」を「請求項1、2又は3」に訂正する(以下、「訂正事項3」という)。

(4)特許請求の範囲の請求項8?11を削除する(以下、「訂正事項4」という)。

(5)特許請求の範囲の請求項12に記載された「請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11」を「請求項1、2、3又は7」に訂正する(以下、「訂正事項5」という)。

(6)特許請求の範囲の請求項13に記載された「請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12」を「請求項1、2、3、7又は12」に訂正する(以下、「訂正事項6」という)。

(7)特許請求の範囲の請求項15に記載された「請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14」を「請求項1、2、3、7、12、13又は14」に訂正する(以下、「訂正事項7」という)。

(8)願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0054】、【0057】?【0062】、【0072】、【0075】、及び【表1】?【表7】における「実施例1?9、12?51」を、それぞれ「参考例1?9、12?51」に訂正する(以下、「訂正事項8」という)。

(9)本件特許明細書の段落【0063】及び【0064】における「実施例及び比較例」を「実施例、比較例、及び参考例」に訂正する(以下、「訂正事項9」という)。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「遮音層」における「アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部」に対する「可塑剤」の含有量を「160重量部以下」から「71重量部以上、160重量部以下」に減縮するものであり、また、「アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル基量」を「5.1mol%以上、8.9mol%以下」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項1に関連する記載として、本件特許明細書には、「第1の態様の遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう。)100重量部に対して可塑剤を71重量部以上含有する。本発明者らは、大量の可塑剤とポリビニルアセタール樹脂とを含有する遮音層はガラス転移温度が充分に低く、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内に調整できることを見出した。」(段落【0012】)と記載され、また、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が「5.1mol%」である実施例10、及び、「8.9mol%」である実施例11が記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4は、訂正前の請求項4?6、8?11を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2及び4は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(3)訂正事項3、5、6及び7
訂正事項3、5、6及び7は、訂正事項2及び4に係る訂正に伴い、請求項7、12、13及び15における引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項3、5、6及び7は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(4)訂正事項8及び9
訂正事項8及び9は、訂正事項1及び4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項8及び9は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項15が、訂正前の請求項1?14を引用するものであるから、訂正事項1?7の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?15について請求されたものである。また、訂正事項8及び9の明細書の訂正は、この一群の請求項の全てについて請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項1?3、7、12?15に係る発明(以下、「本件発明1?3、7、12?15」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりである。

【請求項1】
周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有し、前記遮音層は可塑剤を含有する合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有し、
前記アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5.1mol%以上、8.9mol%以下である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が2600以上であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が21.5mol%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
遮音層が2枚の保護層の間に挟みこまれており、前記保護層はポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有することを特徴とする請求項請求項1、2、3又は7記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
遮音層が2枚の保護層の間に挟み込まれており、前記保護層の周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T2がT1より高いことを特徴とする請求項1、2、3、7又は12記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
保護層の周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T2が0℃?40℃の範囲内であることを特徴とする請求項12又は13記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
請求項1、2、3、7、12、13又は14記載の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?15に係る特許に対して平成28年11月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1
請求項1、3、7、12?15に係る発明は、甲第4号証(実験結果報告書)及び参考資料1(特開平6-115980号公報)の記載を参酌すると、甲第1号証(特表2008-532817号公報)に記載された発明といえるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、請求項2、3、5?7、12?15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)取消理由2
請求項8?15に係る発明は、参考資料2(特開2000-272937号公報)の記載を参酌すると、甲第2号証(特開2007-331959号公報)に記載された発明といえるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3)取消理由3
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、可塑剤量が特定量よりも低い場合に、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲に調製する手段を記載しておらず、請求項1?15に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、請求項1?15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(4)取消理由4
請求項1?15に係る発明は、「0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供する」(段落【0007】)との課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものでないから、請求項1?15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してなされたものである。

なお、平成29年3月14日付けで特許権者に通知した取消理由は、平成29年1月12日付けの訂正の請求に付随して生じた記載不備に対してなされたものであり、その要旨は、当該訂正請求によって訂正された発明の詳細な説明の実施例と比較例の対比において、当該訂正請求によって訂正された請求項1?3、7、12?15に係る発明は、課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてないというものである。

3 甲号証及び参考資料について
(1)甲第1号証(特表2008-532817号公報)
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア 「【請求項1】
可塑化された熱可塑性ポリマーを含む第1ポリマーシート;および
可塑化された熱可塑性ポリマーを含む第2ポリマーシートを含み、前記第2ポリマーシートの前記可塑化された熱可塑性ポリマーにおける可塑剤の量は、前記第1ポリマーシートの前記可塑化された熱可塑性ポリマーにおける可塑剤の量より、100部当たり少なくとも10部多く、前記第1ポリマーシートおよび前記第2ポリマーシートは、それぞれ5mol%未満の残留アセテート含有量を有する、ポリマー中間層。」
イ 「【0005】
発明の要旨
本発明は、パネルを貫通して透過される音の量を低減するために、多層ガラスパネルタイプの用途において使用することのできる、多層中間層を提供する。この効果は、一緒に単一の多層中間層にされている、2つ以上のポリマーシートにおいて可塑剤濃度の差異を維持することによって達成される。」
ウ 「【0006】
詳細な説明
本発明によれば、多層中間層(この中間層は、異なる可塑剤濃度を有する2つのポリマーシートを有する。)を、パネル中に組み込むことによって、驚くべきことに、多層ガラスパネルに優れた音響抑制特性が付与できることがわかった。本明細書全体を通して詳細に記述されているように、異なる可塑剤濃度を安定的に含有するように、ポリマーシートを配合することによって、多層ガラスパネルを貫通する音響透過が、例えば、関心のある周波数または周波数領域において2デシベルを超えて低減できることが発見された。・・・」
エ 「【0009】
本明細書において使用される「可塑剤含有量」は、重量当たりの重量を基準として、樹脂100部当たり(phr)の部として測定できる。例えば、可塑剤の30gがポリマー樹脂の100gに添加された場合は、得られた可塑化ポリマーの可塑剤含有量は、30phrであることになる。本明細書全体を通して、ポリマーシートの可塑剤含有量が与えられた場合、この特定のシートの可塑剤含有量は、この特定のシートを製造するために使用された溶融物中の可塑剤のphrを参照して規定される。」
オ 「【0012】
本発明の様々な実施形態において、ポリマーシートの熱可塑性ポリマー成分の残留ヒドロキシル含有量は異なっており、安定した可塑剤の差を有するシートを製造することができる。・・・本明細書において使用される残留ヒドロキシル含有量は、ASTM1396に従って重量パーセントに基づいて測定される。」
カ 「【0014】
可塑剤の所与の種類に関して、ポリ(ビニルブチラール)におけるこの可塑剤の相溶性は、ヒドロキシル含有量によって主に求められる。通常、ポリ(ビニルブチラール)の残留ヒドロキシル含有量が多い程、可塑剤の相溶性または収容力がより低減される。同様に、より少ない残留ヒドロキシル含有量を有するポリ(ビニルブチラール)は、可塑剤の相溶性または収容力を増大させることになる。これらの特性を用いて、それぞれのポリ(ビニルブチラール)ポリマーのヒドロキシル含有量を選択し、適切な可塑剤の充填ができるように、およびポリマーシート間の可塑剤含有量の差を安定的に維持するように、ポリマーシートのそれぞれを配合することができる。」
キ 「【0023】
本発明の様々な実施形態において、本発明の多層中間層は、ガラスシートの2枚の間に積層された場合、本発明の多層中間層の厚さに匹敵する厚さの単一の従来の中間層を有する比較参照パネルと比較して、合せガラスパネルを通る音響透過を、少なくとも2デシベル(dB)低減させる。」
ク 「【0026】
本発明の、およびこれらの出願において使用されている方法とは明らかに異なる、様々な実施形態において、本発明の2つの隣接ポリマーシートは、前述のように異なる可塑剤含有量を有し、それぞれが5mol%未満、4mol%未満、3mol%未満、2mol%未満、または1mol%未満の、残留アセテート含有量をさらに有する。これらの残留アセテート濃度は、どの組み合わせにおいても、上で与えられた残留ヒドロキシル含有量と結合されて、可塑剤含有量および残留ヒドロキシル含有量において記述された差を有しながら、殆ど、ないし全く残留アセテート含有量を有しない、本発明の2つのポリマーシートを形成することができる。・・・」
ケ 「【0050】
適切な任意の可塑剤を本発明のポリマー樹脂に添加して、ポリマーシートを形成するようにすることができる。・・・好ましい実施形態において、可塑剤は、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート)である。」
コ 「【0066】
実施例
3GEH(トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート))の様々な量を配合した、記録された残留ヒドロキシル含有量を有するポリ(ビニルブチラール)シートおよびこれらのシートの厚さを表1に列挙する。これらのシートは、本発明の中間層を構成するために使用するか、または参照パネルを製造するための従来の中間層として使用する。すべてのシートにおいて、残留アセテート含有量は無視することができ、1mol%未満である。
【0067】
【表1】

従来の中間層および本発明の中間層の実施例を表2に示す。
【0068】
【表2】



甲第1号証には、上記コの実施例の中間層番号8に注目すると、ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)とポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)とポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)からなる多層シートを有する中間層が記載され、上記エ、オ及びケを参酌すると、前記ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)は、残留ヒドロキシル含有量が11.8重量%、残留アセテート含有量が1mol%未満であり、樹脂100重量部あたり、可塑剤3GEH(トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート))を72.9重量部配合したポリ(ビニルブチラール)シートであること、及び、前記ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)は、残留ヒドロキシル含有量が18.5重量%、残留アセテート含有量が1mol%未満であり、樹脂100重量部あたり、可塑剤3GEHを35重量部配合したポリ(ビニルブチラール)シートであることが記載されている。また、上記ウ及びキによれば、甲第1号証には、前記多層シートを有する中間層が、遮音性の合わせガラス用中間層であることが記載されている。
これら記載を整理すると、甲第1号証には、
「遮音性の合わせガラス用中間層であって、ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)とポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)とポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)からなる多層シートを有し、ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)は、残留ヒドロキシル含有量が11.8重量%、残留アセテート含有量が1mol%未満であり、樹脂100重量部あたり、可塑剤3GEH(トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート))を72.9重量部配合したポリ(ビニルブチラール)シートであり、ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-3)は、残留ヒドロキシル含有量が18.5重量%、残留アセテート含有量が1mol%未満であり、樹脂100重量部あたり、可塑剤3GEHを35重量部配合したポリ(ビニルブチラール)シートである、合わせガラス用中間層」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証(特開2007-331959号公報)
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
遮音層と、前記遮音層を狭持する2層の保護層とからなる合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、ポリビニルアルコールを炭素数が4又は5のアルデヒドによりアセタール化して得られる、アセチル化度が4?7モル%のポリビニルアセタール100重量部に対して、可塑剤を45?75重量部含有し、
前記保護層は、ブチラール化度が60?75モル%、アセチル化度が3モル%以下のポリビニルブチラール100重量部に対して、可塑剤を20?45重量部含有する
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。」
イ 「【0015】
上記遮音層を形成するポリビニルアセタールのアセチル化度の下限は4モル%、上限は7モル%である。4モル%未満であると、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることが困難となり、ブリードアウトの原因となったりすることがある。また、7モル%を超えると、遮音層の疎水性が低くなり、白化の原因となる。好ましい下限は5モル%である。」
ウ 「【0045】
(実施例3)
遮音層の作製においてアセチル化度7モル%のポリビニルブチラールを用い、可塑剤配合量を60重量部とし、遮音層の厚みを0.12mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。
【0046】
(実施例4)
遮音層の作製においてアセチル化度5モル%のポリビニルブチラールを用い、可塑剤配合量を60重量部とし、遮音層の厚みを0.12mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして合わせガラス用中間膜及び合わせガラスを作製した。」

(3)甲第3号証(特開平6-926号公報)
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 アセタール基の炭素数が4?6であり、かつ、アセチル基が結合しているエチレン基量の平均値の、主鎖の全エチレン基量に対するモル分率が8?30モル%であるポリビニルアセタール樹脂(A)と可塑剤とからなる少なくとも1つの層(A)と、
アセタール基の炭素数が3?4であり、かつ、アセチル基が結合しているエチレン基量の平均値の、主鎖の全エチレン基量に対するモル分率が4モル%以下であるポリビニルアセタール樹脂(B)と可塑剤とからなる少なくとも1つの層(B)とが積層されてなる、合わせガラス用中間膜。」
イ 「【0039】ポリビニルアセタール樹脂(A)において、残存アセチル基量の平均値は8?30モル%に限定される。その理由は、この量が8モル%以下であると遮音性能が十分に発揮されず、30モル%以上ではアルデヒドの反応率が著しく低下するからである。ポリビニルアセタール樹脂(A)においてアセチル基量の平均値のより好ましい値は10?24モル%である。」

(4)甲第4号証(実験結果報告書)
甲第4号証には、甲1発明のポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)に相当する実験シートを作製し、本件特許明細書の段落【0009】に記載された方法に準じて測定した、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が、-7.1℃であるとの実験結果が示されている。

(5)参考資料1(特開平6-115980号公報)
参考資料1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0021】ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより得られ、通常、主鎖のエチレン基にアセタール基とアセチル基と水酸基を有する。」

4 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ポリ(ビニルブチラール)」は、本件発明1の「アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂」に相当する。また、甲1発明の「合わせガラス用中間層」は「遮音性」であり、「ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)」も遮音性を有しているといえるから、甲1発明の「ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)」は、本件発明1の「遮音層」に相当する。さらに、甲1発明の「樹脂100重量部あたり、可塑剤3GEH(トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキサノエート))を72.9重量部配合」することは、本件発明1の「ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有」することに相当する。また、甲1発明の「残留アセテート含有量」は、本件発明1の「アセチル基量」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「遮音層を有し、前記遮音層は可塑剤を含有する合わせガラス用中間膜であって、前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有する合わせガラス用中間膜」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)遮音層の動的粘弾性に関して、本件発明1は「周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である」ことが特定されているのに対して、甲1発明はその点について特定されていない点。
(相違点2)ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量に関して、本件発明1は「5.1mol%以上、8.9mol%以下」であるのに対して、甲1発明は「1mol%未満」である点。
そして、上記相違点のうち、少なくとも相違点2は、ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が異なっており、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に記載する発明に該当しない。

次に、本件発明1が甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかを検討する。
上記相違点2について検討すると、甲第1号証には、上記3(1)ア、イ、ウ、オ、カ及びクによれば、多層ガラスパネルに優れた音響抑制特性を付与するために、異なる可塑剤濃度を有する複数のポリマーシートを積層した多層中間膜を用いること、そして、前記多層中間膜の複数のポリマーシートにおいて異なる可塑剤濃度を安定的に含有させるため、それぞれのポリマーシートの熱可塑性ポリマー成分の残留ヒドロキシル含有量を制御し、この残留ヒドロキシル含有量に対応して、残留アセテート含有量を5mol%未満とすることが記載されている。すなわち、甲第1号証に記載された多層中間膜において、ポリマーシートの熱可塑性ポリマー成分の残留アセテート含有量を5mol%未満とすることは、甲第1号証の技術思想を実現するために欠くことのできない事項といえる。
そうしてみると、甲1発明において、「ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)」のアセチル基量が「1mol%未満」であることを、「5mol%未満」との数値範囲を超えて、「5.1mol%以上、8.9mol%以下」とすることには阻害要因がある。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定を違反しているといえない。

イ 本件発明2、3、7、12?15について
本件発明2、3、7、12?15は、本件発明1を減縮するものであるから、上記アでの検討と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に記載する発明に該当しない。また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定を違反しているといえない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、合わせガラス用中間膜において、遮音性を発揮させ、ブリードアウトや白化を防ぐために、遮音層を形成するポリビニルアセタールのアセチル化度を4?7mol%とするとの甲第2号証の記載事項(上記3(2)ア、イ及びウ参照)、及び、遮音性を発揮させるために、ポリビニルアセタール樹脂の残存アセチル基量の平均値は8?30モル%とするとの甲第3号証の記載事項(上記3(3)ア及びイ参照)に基づき、甲1発明の「ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)」として、アセチル基量が4?7mol%または8?30モル%であるポリビニルアセタール樹脂を選択することは当業者が容易になし得たことであり、アセチル基量が5.1mol%以上、8.9mol%以下程度であるポリビニルアセタール樹脂を選択することは、当業者が適宜採用する設計変更にすぎないから、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものであることを主張している(異議申立人意見書の第2頁第5行?第3頁第19行)。
しかしながら、上記アで検討したとおり、甲第1号証に記載された多層中間膜において、ポリマーシートの熱可塑性ポリマー成分のアセチル基量を5mol%未満とすることは、甲第1号証の技術思想を実現するために欠くことのできない事項であるから、甲1発明において、「ポリ(ビニルブチラール)シート(PVB-10)」として、この範囲を超えたアセチル基量のポリビニルアセタール樹脂を選択することは、当業者が適宜採用する設計変更とはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)取消理由2(特許法第29条第1項第3号)について
取消理由2の対象となった請求項は、訂正によって削除されたため、取消理由2に理由はない。

(3)取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について
本件発明1は、「周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有し」、「前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有し、前記アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5.1mol%以上、8.9mol%以下である」との特定事項を含む「ガラス用中間膜」の発明である。
これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その実施例として、アセタール基の炭素数が4、アセチル基量が5.1mol%のポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)80重量部を添加した樹脂組成物であって、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-5.7℃である樹脂組成物からなる遮音層を備えた合わせガラス用中間膜(実施例10)、及び、アセタール基の炭素数が4、アセチル基量が8.9mol%ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤として3GOを80重量部添加した樹脂組成物であって、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-6.5℃である樹脂組成物からなる遮音層を備えた合わせガラス用中間膜(実施例11)が記載されている。
そして、発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0025】には、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤の含有量が71重量部未満であると、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃を範囲内にすることができないことが記載され、さらに、参考例1?9、12?32には、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤を71?160重量部添加した樹脂組成物は、その周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内であることも記載されている。
そして、これら記載事項を踏まえれば、実施例10及び11に記載されたポリビニルブチラール樹脂を用いて、可塑剤の含有量が71?160重量とした場合にも、樹脂組成物の周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内に調製することは、当業者であれば過度な試行錯誤を必要とせず実施できるものといえるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
本件発明1を引用する本件発明2、3、7、12?15に対しても同様である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?3、7、12?15を当業者が実施できる程度に記載されているから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(4)取消理由4(特許法第36条第6項第1号)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の記載からみて、発明の解決しようとする課題は、「0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供すること」といえる。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであること、すなわち、本件発明1によって、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供のできることを、発明の詳細な説明の記載により当業者が認識できる範囲のものであることを要する。
そこで検討するに、発明の詳細な説明の実施例10及び11には、上記(3)で検討したとおりの合わせガラス用中間膜が記載されていると共に、当該中間膜を用いた合わせガラスの0℃における共振周波数の1次モード(100Hz近傍)の損失係数が0.2であり、比較例1のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が60重量部であり、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が2.8℃である樹脂組成物を用いた場合の損失係数(0.08)より向上していることも記載されている。
また、発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0025】には、遮音層における、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が71重量部未満であると、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃を範囲内にすることができず、遮音層の0℃以下の環境下において固体音の遮音性が低下することが記載されていると共に、参考例1?9、12?32には、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が71?160重量であり、その周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である樹脂組成物を用いた場合の前記損失係数が0.19以上であり、前記比較例1の損失係数より向上していることも記載されているから、実施例10及び11に記載されたポリビニルブチラール樹脂を用いて、可塑剤の含有量が71?160重量とすると共に、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内とした樹脂組成物を用いた場合にも、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供することができることを認識できる。
そうしてみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
本件発明1を引用する本件発明2、3、7、12?15に対しても同様である。
したがって、本件発明1?3、7、12?15は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

5 平成29年1月12日付けの訂正の請求に付随して生じた記載不備について
特許異議申立人は、当該訂正請求で訂正された発明の詳細な説明において、実施例10の損失係数が、比較例12(訂正前の実施例9)の損失係数より小さいことから、ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が「5.1mol%以上、8.9mol%以下」を有するように訂正された請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により、「0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供する」(段落【0009】)との課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものでないこと、及び、発明の詳細な説明には、上記課題を解決できることが具体的に記載されていないため、上記請求項1に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないことを主張している(異議申立人意見書の第6頁第19行?第8頁第7行)。
これに対して、上記2に記載したとおり、平成29年3月14日付けで取消理由を通知し、上記第2で検討したとおり、本件訂正請求によって、訂正前の発明の詳細な説明の「実施例1?9、12?32」は、それぞれ「参考例1?9、12?32」に訂正された。
そして、訂正後の発明の詳細な説明に記載されている実施例と比較例を対比すると、実施例10及び11の損失係数(0.20)は、比較例1の損失係数(0.08)より向上しており、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜が得られていると認められる。さらに、上記4(3)及び(4)で検討したとおり、発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0025】の記載や参考例1?9、12?32の記載を参酌すれば、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるし、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、平成29年1月12日付けの訂正の請求に付随して生じた記載不備は、本件訂正請求によって解消した。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、7、12?15に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1?3、7、12?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4?6、8?11に係る発明は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4?6、8?11に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラス
【技術分野】
【0001】
本発明は、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜に関する。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少ないため、安全性が高い。そのため、自動車等の車両、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用されている。合わせガラスとして、少なくとも一対のガラス板間に、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する合わせガラス用中間膜を介在させ、積層し、一体化させた合わせガラス等が挙げられる。
【0003】
近年、合わせガラスを軽量化するために、合わせガラスの厚さを薄くすることが検討されている。しかし、合わせガラスの厚さを薄くすると、遮音性が低下するという問題があった。このような合わせガラスを自動車等のフロントガラスとして用いた場合、風切り音やワイパーの駆動音等の5000Hz程度の音域の遮音性が充分に得られない。
【0004】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、複数枚のガラス板と、該複数枚のガラス板間に介在された中間膜とを備えた合わせガラスであって、中間膜は、アセタール化度が60?85mol%のポリビニルアセタール樹脂と、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、可塑剤とを含み、ポリビニルアセタール樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量が30質量部を超え、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の含有量が0.001?1.0質量部である遮音層を有する合わせガラスが開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている合わせガラスは遮音性に優れるとされている。車の騒音や警笛の音等の空気音と、車のエンジンの振動による音等の固体音とがあるが、特許文献1に記載の合わせガラスは、0℃以下の環境下において固体音の遮音性が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-070200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供することを目的とする。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有する合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本明細書においてtanδとは、動的粘弾性測定によって得られる損失正接の値を意味する。本発明において、tanδは、以下の方法で測定することができる。
得られた合わせガラス用中間膜を用いて、試験シート(直径8mm)を作製する。この試験シートの動的粘弾性を、せん断法にて、歪み量1.0%及び周波数1Hzの条件下において、昇温速度3℃/分で動的粘弾性の温度分散測定をすることにより、tanδを測定できる。上記tanδの最大値を示す温度とは、得られた損失正接の最大値を示す温度を意味する。上記tanδの最大値を示す温度は、例えば、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)を用いて、測定することができる。
【0010】
本発明の合わせガラス用中間膜は、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有する。遮音層のtanδの最大値を示す温度T1が-30℃未満であると、合わせガラス用中間膜の強度が低下し、0℃を超えると、0℃以下の環境下において、固体音の遮音性が低下してしまう。遮音層のtanδの最大値を示す温度T1のより好ましい下限は-25℃、より好ましい上限は-5℃であり、更に好ましい下限は-22℃、更に好ましい上限は-6℃であり、特に好ましい下限は-18℃、特に好ましい上限は-10℃である。
【0011】
tanδの最大値を示す温度T1が上記範囲にある遮音層は、例えば、以下の2つの態様がある。
第1の態様は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上含有する遮音層である。
第2の態様は、アセタール基の炭素数が5以上であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を50重量部以上含有する遮音層である。
以下にこれらの態様について詳しく説明する。
【0012】
第1の態様の遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう。)100重量部に対して可塑剤を71重量部以上含有する。本発明者らは、大量の可塑剤とポリビニルアセタール樹脂とを含有する遮音層はガラス転移温度が充分に低く、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内に調整できることを見出した。第1の態様の遮音層は、ポリビニルアセタール樹脂に対して大量の可塑剤を含有しているため、0℃以下の環境下であっても、固体音の遮音性に優れる。
【0013】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aはポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造される。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aに含まれるアセタール基の炭素数は3又は4である。即ち、上記ポリビニルアセタール樹脂Aを製造するのに用いるアルデヒドは、炭素数が3又は4のアルデヒドである。上記ポリビニルアセタール樹脂Aに含まれるアセタール基の炭素数が3未満であると、ガラス転移温度が充分に低下せず、0℃以下の環境下において、固体音の遮音性が低下することがある。
【0015】
上記炭素数が3又は4のアルデヒドは、例えば、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒドが好適である。上記アルデヒドは、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の好ましい下限は15mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量が15mol%未満であると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Aとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の上限は特にないが、実質的な上限は30mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量が30mol%を超えると、上記ポリビニルアルコールとアルデヒドとの反応性が著しく低下することからポリビニルアセタール樹脂の製造が困難になることがある。上記アセチル基量のより好ましい下限は17mol%、より好ましい上限は25mol%であり、更に好ましい下限は17.5mol%、更に好ましい上限は22mol%である。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aの水酸基量の好ましい上限は21.5mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの水酸基量が21.5mol%を超えると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Aとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの水酸基量の下限は特にないが、実質的な下限は10mol%である。上記水酸基量のより好ましい上限は20mol%、更に好ましい上限は18.5mol%である。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度が500未満であると、合わせガラスの耐貫通性が低下することがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度が5000を超えると、合わせガラス用中間膜の成形が困難になることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3500であり、更に好ましい上限は3000である。
また、得られる合わせガラスの板ズレを防止する効果を得るためには、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度が2600以上であることが好ましく、2700以上であることがより好ましい。ここで板ズレとは、合わせガラスを立てかけた状態で高温環境下に保管したときに、ガラス板の重さにより一方のガラス板に対して他方のガラス板がずれてしまう現象を意味する。
【0019】
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
【0020】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されず、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。
【0021】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されず、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4?8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。
【0022】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、例えば、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,2-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジヘキシルアジペート、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0023】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0024】
上記可塑剤は、ジヘキシルアジペート(DHA)、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(4G7)及びトリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(3G7)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(4G7)、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(3G7)等のジエステル化合物がより好ましく、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)が更に好ましい。
【0025】
第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタール樹脂A100重量部に対して下限が71重量部である。第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量が71重量部未満であると、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃を範囲内にすることができず、0℃以下の環境下において固体音の遮音性が低下する。第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量の好ましい下限は80重量部、より好ましい下限は100重量部である。
第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量の上限は特にないが、上記ポリビニルアセタール樹脂A100重量部に対する好ましい上限は160重量部である。第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量が160重量部を超えると、可塑剤がブリードアウトして合わせガラス用中間膜の透明性が低下したり、得られる合わせガラスを立てかけた状態で高温環境下に保管したときに板ズレが発生したりすることがある。第1の態様の遮音層における可塑剤の含有量のより好ましい上限は150重量部であり、更に好ましい上限は140重量部であり、特に好ましい上限は120重量部である。
【0026】
第2の態様の遮音層は、アセタール基の炭素数が5以上であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂B」ともいう。)100重量部に対して可塑剤を50重量部以上含有する。本発明者らは、アセタール基の炭素数が特定の範囲にあるポリビニルアセタール樹脂Bは、ガラス転移温度が充分に低く、一定以上の可塑剤を配合することにより、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内に調整できることを見出した。第2の態様の遮音層は、アセタール基の炭素数が5以上であるポリビニルアセタール樹脂を含有しているため、0℃以下の環境下であっても、固体音の遮音性に優れる。
【0027】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bはポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造される。
上記ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより製造される。
【0028】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bに含まれるアセタール基の炭素数は5以上である。即ち、上記ポリビニルアセタール樹脂Bを製造するのに用いるアルデヒドは、炭素数が5以上のアルデヒドである。上記ポリビニルアセタール樹脂Bに含まれるアセタール基の炭素数が5未満であると、ガラス転移温度が充分に低下せず、大量の可塑剤を用いなければ、0℃以下の環境下において、遮音性が低下することがある。上記アセタール基の炭素数は特にないが、実質的には12が上限である。炭素数が12を超えるアルデヒドを用いて工業的にポリビニルアセタール樹脂を合成することは困難であり、現時点においてアセタール基の炭素数が12を超えるポリビニルアセタール樹脂の市販品もない。上記アセタール基の炭素数のより好ましい下限は6、より好ましい上限は11である。
【0029】
上記炭素数が5以上のアルデヒドは、例えば、n-バレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、n-ウンデシルアルデヒド、n-ドデシルアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-デシルアルデヒド等が好適である。上記アルデヒドは、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bのアセチル基量の好ましい下限は5mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Bのアセチル基量が5mol%未満であると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Bとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Bのアセチル基量の上限は特にないが、実質的な上限は30mol%である。上記アセチル基量のより好ましい下限は8mol%、更に好ましい下限は10mol%、特に好ましい下限は12mol%である。
【0031】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bの水酸基量の好ましい上限は39mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Bの水酸基量が39mol%を超えると、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂Bとの相溶性が低く、可塑剤がブリードアウトすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Bの水酸基量の下限は特にないが、実質的な下限は10mol%である。上記水酸基量のより好ましい上限は35mol%である。
【0032】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度の好ましい下限は2600、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度が2600未満であると、合わせガラスの耐貫通性が低下したり、得られる合わせガラスを立てかけた状態で高温環境下に保管したときに板ズレが発生したりすることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度が5000を超えると、合わせガラス用中間膜の成形が困難になることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度のより好ましい下限は2700、より好ましい上限は3200である。
【0033】
上記可塑剤は特に限定されず、第1の態様の遮音層で用いる可塑剤と同様の可塑剤を用いることができる。
【0034】
第2の態様の遮音層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタール樹脂B100重量部に対する下限が50重量部である。第2の態様の遮音層では、アセタール基の炭素数が5以上であるポリビニルアセタール樹脂Bを用いることにより、第1の態様の遮音層に比べて少量の可塑剤の配合であっても周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を-30℃?0℃の範囲内に調整することができ、0℃以下の環境下での固体音の遮音性を実現することができる。第2の態様の遮音層における可塑剤の含有量の好ましい下限は60重量部である。
第2の態様の遮音層における可塑剤の含有量の上限は特にないが、上記ポリビニルアセタール樹脂B100重量部に対する好ましい上限は80重量部である。第2の態様の遮音層における可塑剤の含有量が80重量部を超えると、可塑剤がブリードアウトして合わせガラス用中間膜の透明性が低下したり、得られる合わせガラスを立てかけた状態で高温環境下に保管したときに板ズレが発生したりすることがある。第2の態様の遮音層における可塑剤の含有量のより好ましい上限は75重量部である。
【0035】
上記遮音層の厚さの好ましい下限は20μm、好ましい上限は1800μmである。上記遮音層の厚さが20μm未満であると、充分な遮音性を発揮できないことがある。上記遮音層の厚さが1800μmを超えると、合わせガラス用中間膜全体の厚さが厚くなってしまい実用的ではないことがある。上記遮音層の厚さのより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は500μmである。
【0036】
本発明の合わせガラス用中間膜は、遮音層が2枚の保護層の間に挟み込まれており、保護層、遮音層、保護層の順で積層されていることが好ましい。上記保護層は、上記遮音層と組み合わせることにより、0℃以下の環境下のみならず、0℃を超える環境下における固体音の遮音性を付与する役割を有する。上記保護層は、第1の態様の遮音層を用いる場合においては、上記遮音層からの可塑剤のブリードアウトを防止する役割も有する。
【0037】
上記保護層は、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T2が上記T1より高いことが好ましく、0℃?40℃の範囲内であることがより好ましい。上記保護層のtanδの最大値を示す温度T2が上記T1より高いことにより、0℃以下の環境下のみならず、0℃を越える環境下における固体音の遮音性が得られる。更に、上記T2を0℃?40℃の範囲内とすることにより、常温域における固体音の遮音性が得られる。なお、常温域とは、5℃?35℃の範囲内を意味する。上記T2のより好ましい下限は3℃、より好ましい上限は39℃である。
【0038】
上記保護層は、ポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂C」ともいう。)と可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタール樹脂Cはポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造される。
上記ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより製造される。
上記ポリビニルアルコールの鹸化度の好ましい下限は80mol%、好ましい上限は99.8mol%である。
【0039】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cに含まれるアセタール基の炭素数は特に限定されない。即ち、上記ポリビニルアセタール樹脂Cを製造するのに用いるアルデヒドは特に限定されず、上記ポリビニルアセタール樹脂A、ポリビニルアセタール樹脂Bに用いるアルデヒドと同様のアルデヒドを用いることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂Cに含まれるアセタール基の炭素数は3又は4であることが好ましい。上記アルデヒドは、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0040】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセチル基量は10mol%以下であることが好ましい。アセチル基量が10mol%を超えると、合わせガラス用中間膜の強度が充分に得られないことがある。
また、上記第1の態様の遮音層と組み合わせる場合には、上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセチル基量は3mol%以下であることが好ましい。アセチル基量が3mol%以下であるポリビニルアセタール樹脂は可塑剤との相溶性が低い。可塑剤との相溶性が低いポリビニルアセタール樹脂Cを含有する保護層を用いることにより、第1の態様の遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトすることを防止することができる。
上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセチル基量のより好ましい上限は2.5mol%である。
【0041】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセタール化度の好ましい下限は60mol%、好ましい上限は75mol%である。このようなポリビニルアセタール樹脂Cを含有する保護層を用いることにより、特に第1の態様の遮音層に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトすることを防止することができる。上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセタール化度が60mol%未満であると、保護層の耐湿性が低下することがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Cのアセタール化度が75mol%を超えると、アセタール化反応が進みにくいので好ましくない。
【0042】
上記保護層に用いる可塑剤は、上述した可塑剤を用いることができる。上記保護層に用いる可塑剤は、上記遮音層に用いる可塑剤と、同一であってもよく、異なってもよい。
【0043】
上記保護層における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタール樹脂C100重量部に対して好ましい下限が25重量部、好ましい上限が50重量部である。上記保護層における可塑剤の含有量が25重量部未満であると、合わせガラスの耐貫通性が著しく低下することがある。上記保護層における可塑剤の含有量が50重量部を超えると、上記保護層から可塑剤がブリードアウトすることにより、合わせガラス用中間膜の透明性が低下することがある。上記保護層における可塑剤の含有量の好ましい下限は30重量部、好ましい上限は45重量部である。
【0044】
上記保護層の厚さの好ましい下限は100μm、好ましい上限は1000μmである。上記保護層の厚さが100μm未満であると、常温域における固体音の遮音性が低下したり、上記遮音層から可塑剤がブリードアウトしたりすることがある。上記保護層の厚さが1000μmを超えると、合わせガラス用中間膜全体の厚さが厚くなってしまい実用的ではないことがある。上記保護層の厚さのより好ましい下限は200μm、より好ましい上限は500μmである。
【0045】
上記遮音層及び上記保護層は、必要に応じて分散助剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、接着力調整剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤、蛍光増白剤、青色顔料等の添加剤を含有してもよい。
【0046】
本発明の合わせガラス用中間膜が、上記遮音層及び上記保護層とを有するものである場合、上記遮音層は、上記周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である領域1と、上記保護層を構成する樹脂組成物からなる領域2とが水平に配置されていなもよい。上記遮音層をこのような構造とすることにより、板ズレの発生を効果的に防止することができる。
上記領域1と領域2との配置は特に限定されず、例えば、上記領域1と領域2とがストライプ状に交互に配置されていてもよく、上記領域1が中央部に、該領域1を囲むように上記領域2が周辺部に配置されていてもよい。
【0047】
本発明の合わせガラス用中間膜は、必要に応じて更に他の層を有していてもよい。例えば、他の層として熱線吸収粒子を含有する層を有する場合には、本発明の合わせガラス用中間膜に遮熱性の機能を付与することができる。
【0048】
本発明の合わせガラス用中間膜の厚さの好ましい下限は300μm、好ましい上限は2000μmである。本発明の合わせガラス用中間膜の厚さが300μm未満であると、充分な固体音の遮音性や耐貫通性が得られないことがある。本発明の合わせガラス用中間膜の厚さが2000μmを超えると、実用化されている合わせガラスの厚みを超えてしまうことがある。本発明の合わせガラス用中間膜の厚さのより好ましい下限は400μm、より好ましい上限は1200μmである。
【0049】
本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法は特に限定されず、例えば、上記遮音層を形成するための樹脂組成物、及び、保護層を形成するための樹脂組成物をそれぞれ調製した後、共押出する方法や、それぞれを押出やプレス成形によりシート化した後に積層し、一体化させる方法等が挙げられる。
【0050】
本発明の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。なお、本発明の合わせガラスをペアガラスの一部として用いてもよい。
本発明の合わせガラスに用いられる透明板は特に限定されず、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができ、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリカーボネートやポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
【0051】
上記板ガラスとして、2種類以上の板ガラスを用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色された板ガラスとの間に、本発明の合わせガラス用中間膜を挟み込ませることにより得られた合わせガラスが挙げられる。また、上記無機ガラスと、上記有機プラスチックス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を挟み込ませることにより得られた合わせガラスが挙げられる。
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラス、パノラマガラスとして用いることができる。
また、本発明の合わせガラスの製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供することができる。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0054】
(参考例1)
(1)樹脂組成物Aの調製
アセタール基の炭素数が4、アセチル基量が13mol%、水酸基量が22.5mol%、平均重合度が2300のポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)71重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、遮音層用の樹脂組成物Aを調製した。
なお、n-ブチルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルブチラール樹脂を用いた。
【0055】
(2)樹脂組成物Cの調製
アセタール基の炭素数が4、アセチル基量が1mol%、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)30.5重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、保護層用の樹脂組成物Cを調製した。
なお、n-ブチルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルブチラール樹脂を用いた。
【0056】
(3)合わせガラス用中間膜の作製
樹脂組成物Aを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.1mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.1mmの樹脂組成物シートAを得た。
樹脂組成物Cを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.35mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.35mmの樹脂組成物シートCを得た。
得られた樹脂組成物シートA、CをC/A/Cの順に積層した。該積層体を2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.8mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.8mmの合わせガラス用中間膜を得た。
【0057】
(実施例10、11、参考例2?9、12?27、比較例1)
樹脂組成物Aに含まれるポリビニルアセタール樹脂の種類及び可塑剤の配合量を表1?4に示したようにした以外は参考例1と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
なお、参考例20では、参考例2の樹脂組成物Aの調製において、ポリビニルブチラール樹脂の代わりに、プロピオンアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。
【0058】
(参考例28)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Cの調製において、可塑剤として、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)を用いたこと以外は参考例5と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
【0059】
(参考例29)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Cの調製において、可塑剤として、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(3G7)を用いたこと以外は参考例5と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
【0060】
(参考例30)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Cの調製において、可塑剤として、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)を用いたこと以外は参考例5と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
【0061】
(参考例31)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Cの調製において、可塑剤として、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(4GH)を用いたこと以外は参考例5と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
【0062】
(参考例32)
樹脂組成物A及び樹脂組成物Cの調製において、可塑剤として、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(4G7)を用いたこと以外は参考例5と同様にして合わせガラス用中間膜を得た。
【0063】
(評価)
実施例、比較例、及び参考例で得られた合わせガラス用中間膜について以下の評価を行った。結果を表1?4に示した。
【0064】
(1)周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1及びT2の測定
実施例、比較例、及び参考例で得られた樹脂組成物A、B及びCをそれぞれ150℃でプレス成形し、厚さ0.8mmのシートを作製した。次いで、シートを直径8mmの円形に切り抜き、試験シートを作製した。試験シートの動的粘弾性を、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製「ARES」)を用いて、せん断法にて、歪み量1.0%及び周波数1Hzの条件下において、昇温速度3℃/分で動的粘弾性の温度分散測定をすることにより、tanδを測定し、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1及びT2を測定した。
【0065】
(2)Loss factor評価
得られた合わせガラス用中間膜を縦30mm×横320mmに切り出し、2枚の透明なフロートガラス(縦25mm×横305mm×厚さ2.0mm)で挟み込み、真空ラミネーターにて90℃で、30分保持し、真空プレスした。ガラスからはみ出た合わせガラス用中間膜を切り落とし、評価用サンプルを作製した。
得られた評価用サンプルについて、測定装置「SA-01」(リオン社製)を用いて0℃の条件下で中央加振法により損失係数を測定した。得られた損失係数の共振周波数の1次モード(100Hz近傍)の損失係数を評価した。
【0066】
(3)板ズレの評価
得られた合わせガラス用中間膜(15×30cm)を2枚の透明なフロートガラス(縦15cm×横30cm×厚さ2.0mm)で挟み込み、真空ラミネーターにて90℃で、30分保持し、真空プレスして評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルの一方の面を垂直面に固定し、他方の面に両面テープを用いてフロートガラス(15×30cm×厚み15mm)を接着した。合わせガラスの側面にズレ量を測定するための基準線を引き、80℃の環境下にて30日間放置した。30日経過した後、評価用サンプルの2枚のガラスのズレ量を測定した。
【0067】
(4)ブリードアウト評価
得られた合わせガラス用中間膜を縦100mm×横100mmに切り出し、離型処理された厚さ100μmのPETフィルム(縦100mm×横100mm)と、透明なフロートガラス(縦100mm×横100mm)とを、ガラス/PETフィルム/合わせガラス用中間膜/PETフィルム/ガラスの順に積層し、真空ラミネーターにて90℃で、30分保持し、真空プレスした。その後、ガラス及びPETフィルムを取り除き、合わせガラス用中間膜を取り出し、23℃の環境下にて、油性マジックを用いて、合わせガラス用中間膜の表面に、長さ8cmの線を5本引いた。合わせガラス用中間膜を23℃で4週間保管した。合わせガラス用中間膜を目視にて観察し、4週間保管してもすべての線が滲まなかった場合を「◎」、3週間保管後ではすべての線が滲まなかったが、4週間保管後には少なくとも1本の線が滲んだ場合を「○」、2週間保管後ではすべての線が滲まなかったが、3週間保管後には少なくとも1本の線が滲んだ場合を「△」と評価した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
(参考例33)
(1)樹脂組成物Bの調製
アセタール基の炭素数が5、アセチル基量が13mol%、水酸基量が22.5mol%、平均重合度が2300のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、遮音層用の樹脂組成物Bを調製した。
なお、n-バレルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。
【0073】
(2)樹脂組成物Cの調製
アセタール基の炭素数が4、アセチル基量が1mol%、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)30.5重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、保護層用の樹脂組成物Cを調製した。
なお、n-ブチルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルブチラール樹脂を用いた。
【0074】
(3)合わせガラス用中間膜の作製
樹脂組成物Bを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.1mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.1mmの樹脂組成物シートBを得た。
樹脂組成物Cを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.35mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.35mmの樹脂組成物シートCを得た。
得られた樹脂組成物シートB、CをC/B/Cの順に積層した。該積層体を2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.8mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.8mmの合わせガラス用中間膜を得た。
【0075】
(参考例34?51、比較例2、3)
樹脂組成物Bに含まれるポリビニルアセタール樹脂の種類及び可塑剤の配合量を表4?6に示したようにした以外は参考例1と同様にして合わせガラス用中間膜を得て、同様の評価を行った。結果を表5?7に示した。
なお、アセタール基の炭素数が5のポリビニルアセタール樹脂は、n-バレルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が6のポリビニルアセタール樹脂は、n-ヘキシルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が7のポリビニルアセタール樹脂は、n-ヘプチルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が8のポリビニルアセタール樹脂は、n-オクチルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が9のポリビニルアセタール樹脂は、n-ノニルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が10のポリビニルアセタール樹脂は、n-デシルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が11のポリビニルアセタール樹脂は、n-ウンデシルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。アセタール基の炭素数が12のポリビニルアセタール樹脂は、n-ドデシルアルデヒドによりアセタール化されているポリビニルアセタール樹脂を用いた。
【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、0℃以下の環境下において固体音の遮音性に優れる合わせガラス用中間膜を提供することができる。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1が-30℃?0℃の範囲内である遮音層を有し、前記遮音層は可塑剤を含有する合わせガラス用中間膜であって、
前記遮音層は、アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して可塑剤を71重量部以上、160重量部以下含有し、
前記アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5.1mol%以上、8.9mol%以下である
ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が2600以上であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が21.5mol%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
アセタール基の炭素数が3又は4であるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
遮音層が2枚の保護層の間に挟みこまれており、前記保護層はポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有することを特徴とする請求項1、2、3又は7記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
遮音層が2枚の保護層の間に挟み込まれており、前記保護層の周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T2がT1より高いことを特徴とする請求項1、2、3、7又は12記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
保護層の周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T2が0℃?40℃の範囲内であることを特徴とする請求項12又は13記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
請求項1、2、3、7、12、13又は14記載の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-07 
出願番号 特願2014-184187(P2014-184187)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 536- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 宮澤 尚之
山本 雄一
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5882428号(P5882428)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラス  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
代理人 森住 憲一  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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