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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1330123
異議申立番号 異議2016-700963  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-06 
確定日 2017-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5900527号発明「低分子量有機物含有水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5900527号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5900527号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年3月31日に特許出願され、平成28年3月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし3に係る特許について、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所、特許異議申立人三田翔により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年1月26日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である同年3月16日に意見書の提出がされたものである。

第2.本件特許発明について
本件請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法であって、
該高圧型逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュールを複数段有し、前段の逆浸透膜モジュールのブラインが後段の逆浸透膜モジュールの被処理水となり、
該高圧型逆浸透膜分離装置は、有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であり、
該高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とすることを特徴とする低分子量有機物含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水TDSが1500mg/L以下であることを特徴とする低分子量有機物含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記高圧型逆浸透膜分離装置の運転圧力が1.5?3MPaであることを特徴とする低分子量有機物含有水の処理方法。」

第3.当審の取消理由について
A 当審が権利者に通知した取消理由(概要)
(1)本件請求項1の「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であり」は、特許異議申立人の三田翔が提出した異議申立書の第31頁第8行から第32頁第24行に記載のとおり、本件特許明細書の記載(および図面)によりサポートされたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではなく、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。また、本件請求項1を引用する同請求項2、3についても同様である。(以下、「当審の取消理由36-6-1(1)」という。)
(2)本件請求項1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、同第32頁第25行から第33頁第7行に記載のとおり、本件特許明細書の記載(および図面)によりサポートされたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではなく、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。また、本件請求項1を引用する同請求項2、3についても同様である。(以下、「当審の取消理由36-6-1(2)」という。)

B 判断
(1) 当審の取消理由36-6-1(1)について
特許異議申立人の三田翔が提出した異議申立書の第31頁第8行から第32頁第24行における主張の概要は、以下のものである。
○本件特許明細書(および図面)における「純水フラックス」という用語は一般的な用語ではなく、本件特許明細書中に定義もないため、その意味は定かではない。
○本件特許明細書の実施例は、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を有効圧力2.0MPaで使用したときの純水フラックスの数値を明らかにするものではない。
○本件特許明細書(および図面)における純水フラックスが「高圧型逆浸透膜分離装置に純水を通水した場合のフラックス」を意味するものと解釈した上で、本件特許明細書の実施例において、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を有効圧力2.0MPaで使用したときの純水フラックスを計算すると、0.46m^(3)/(m^(2)・D)となり、この数値は、「0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)」の範囲から外れている。
○本件特許明細書(および図面)には、「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であ」る高圧型逆浸透膜分離装置を用いて「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」実施例が記載されておらず、「生物処理を行うことなく、低分子量有機物を確実に十分に除去することができる」という本件特許発明1の効果を奏するかどうかについて、出願時の技術常識から推認可能であるとはいえない。
したがって、本件請求項1の「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であり」は、本件特許明細書の記載(および図面)によりサポートされたものではない。
以下、上記主張について検討する。
●本件特許明細書(および図面)における「純水フラックス」の意味について
本件特許明細書の「この高圧型RO膜装置は、上述の通り、単位操作圧力当たりの膜透過水量は低く、本発明においては、有効圧力が2.0MPa、温度25℃における純水の透過流束が0.6?1.3m^(3)/m^(2)/dayで、NaCl除去率は99.5%以上の特性を有するものを好適に用いることができる。」(【0016】)および「この高圧型逆浸透膜分離装置としては、有効圧力2.0MPaにおいて純水フラックス0.6?1.3m^(3)/(m^(2)/day)であるものが好ましい。」(【0018】)との記載からして、「純水フラックス」は、「膜面を透過した純水の透過流速」(膜面透過流速)に当たるというべきであり、その意味は明らかである。
●本件特許明細書の実施例において、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を有効圧力2.0MPaで使用したときの膜面透過流速(純水フラックス)の数値がどれくらいになるかについて
権利者は、平成29年3月16日付け意見書を提出し、この中で、逆浸透膜モジュールが「SWC4-MAX」であって、原水が海水である場合について、圧力(PMa)と膜面透過流速(純水フラックス)(m^(3)/m^(2)・D)の数値がどれくらいになるかの「<実験データ>」「<表A>」を示している。以下、参照。


具体的には、「給水圧(MPa)、有効圧(MPa)(ブライン圧と処理水圧との圧力差)、(at2.0MPa,25℃)での膜面透過流速(m^(3)/m^(2)・D)」が、「2.47(MPa)、2.342(MPa)、0.76289517(m^(3)/m^(2)・D)」、「2.02(MPa)、1.937(MPa)、0.778279713(m^(3)/m^(2)・D)」、「1.5(MPa)、1.45(MPa)、0.777430446(m^(3)/m^(2)・D)」および「1(MPa)、0.972(MPa)、0.751243601(m^(3)/m^(2)・D)」であるデータが示されており、給水圧は、運転圧力に、また、(at2.0MPa,25℃)における2.0MPaは、有効圧力に当たると見るのが妥当である。
●本件特許明細書の実施例において、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を有効圧力2.0MPaで使用したときの膜面透過流速(純水フラックス)が0.46m^(3)/(m^(2)・D)(計算値)になるかどうかについて
特許異議申立人の三田翔は、異議申立書の31頁下から11行?同32頁15行において、
「丸の3(当審注:「丸の3」は「丸字の3」を意味する。)本件明細書の実施例1及び2には、SWC4 MAXを用いて、模擬半導体工場排水を処理したことが記載されている。本件明細書の段落番号0016より、 「有効圧力=平均操作圧力-浸透圧-二次側(透過側)圧力=[(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2]-浸透圧-二次側圧力」である。
ここで、甲第11号証より、操作圧力が5.5MPaであり、濃縮水出口圧力は、エレメント当たりの最大圧力損失が0.07MPaであることから、運転圧力は、5.5-0.07=5.43MPaの範囲である。
また、浸透圧は、甲第8号証より、「浸透圧Π=8.31×m_(B)×ν×φ×T」であり、m_(B)(溶質B(本件明細書では、NaCl)の質量モル濃度[mol/kg]は0.565、ν(溶質1分子が解離するイオン数)は2、φ(浸透係数)は0.912、T(絶対温度[K])は25℃として298なので、浸透圧Π=8.31×0.565×2×0.912×298=2.55(MPa)となる。
また、二次側(透過側)圧力は、膜の性能を評価するため、0(MPa)である。
以上より、有効圧力=[(5.5+5.43)/2]-2.55-0=2.92(MPa)となる。
よって、甲第11号証に記載された透過水量及び有効膜面積、並びに上記で算出した有効圧力から、1MPaにおける純水フラックス=透過水量27.3[m^(3)/D]/有効膜面積40.8[m^(2)]/有効圧力2.92[MPa]=0.23[m^(3)/(m^(2)・D・MPa)]となる。
そして、2MPaかけたときの純水フラックス=0.23[m^(3)/(m^(2)・D・MPa)]×2[MPa]=0.46[m^(3)/(m^(2)・D)]となる。
これらのことから、SWC4 MAXの有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスは、0.46m^(3)/(m^(2)・D)となり、この値は、本件請求項1記載の発明に規定されている「有効圧力2MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)」との範囲から外れている。」との主張をしている。
ここで、上記0.46m^(3)/(m^(2)・D)(計算値)を導き出す前提として、運転圧力を5.43MPa(計算値)としており、一方、本件特許明細書には、「前記高圧型逆浸透膜分離装置の運転圧力が1.5?3MPaであることが好ましい。」(【0011】)との記載がある。
そうすると、上記0.46m^(3)/(m^(2)・D)(計算値)を導き出す前提の運転圧力と、本件特許明細書における運転圧力とは、異なる数値であることからして、本件特許明細書の実施例において、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を有効圧力2.0MPaで使用したときの純水フラックスが0.46m^(3)/(m^(2)・D)(計算値)となる、と断定することはできず、この数値に技術的合理性があるとはいえない。
●本件特許明細書(および図面)に、「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であ」る高圧型逆浸透膜分離装置を用いて「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」実施例が記載されているか、また、「生物処理を行うことなく、低分子量有機物を確実に十分に除去することができる」という本件特許発明1の効果が奏されるかどうかについて
上記「2つ目の●」で示したように、上記「<実験データ>」「<表A>」には、「SWC4-MAX」(逆浸透膜モジュール)を、給水圧(運転圧力)が1?2.47(MPa)で、at2.0MPa(有効圧力)で使用したときの純水フラックス(膜面透過流速)がどれくらいになるかの数値(データ)が示されており、
また、本件特許明細書には、
「【0026】
本発明では、原水水質は、分子量200以下の低分子量有機物濃度が0.5mgC/L以上、特に10?200mgC/Lとりわけ100?200mgC/Lであることが好ましい。低分子量有機物としては、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、酢酸、酢酸塩、アセトン、TMAH(水酸化トリメチルアンモニウム)、MEA(モノエタノールアミン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)などが例示される。原水のTDSは1500mg/L以下であることが好ましい。」(当審注:下線は、当審が付与した。以下、同じ。)
「【0033】
[実施例2]
実施例2では、高圧型RO装置として、次の構成のものを用いた。
バンク数:2
1次バンクの高圧型ROユニット数:8本
2次バンクの高圧型ROユニット数:4本
1個の高圧型ROユニット内のモジュール数:4本(各モジュールは直列に接続)
高圧型RO膜:日東電工株式会社海水淡水化用高圧型逆浸透膜SWC4-MAX
【0034】
IPAをTOCとして500μg/L含有する模擬半導体工場排水(IPA水溶液)を上記高圧型RO装置に回収率75%、膜面有効圧1.5MPa、最終段モジュールのブライン量2.1m^(3)/(m^(2)・D)、2.9m^(3)/(m^(2)・D)又は4.1m^(3)/(m^(2)・D)で通水した。透過水のTOC濃度の測定結果を表2に示す。
【0035】
[比較例2]
実施例2において、最終段のブライン量を1.7m^(3)/(m^(2)・D)又は1.2m^(3)/(m^(2)・D)で通水したこと以外は実施例2と同じ条件にて処理を行った。透過水のTOC濃度の測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】


との記載、具体的には、最終段ブライン量(m^(3)/(m^(2)・D))が「2.1」、「2.9」、「4.1」である実施例2は、最終段ブライン量(m^(3)/(m^(2)・D))が「1.2」、「1.7」である比較例2と比べて、透過水中のTOC(低分子量有機物のイソプロピルアルコール)の量が少なくなることの記載があることからして、本件特許明細書には、「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であ」る高圧型逆浸透膜分離装置を用いて「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであると共に、「生物処理を行うことなく、低分子量有機物を確実に十分に除去することができる」という効果を示す実施例2の記載があるということができる。
そして、本件特許明細書(および図面)には、「SWC4-MAX」以外の「(高圧型)逆浸透膜モジュール」を排除する記載はない。
したがって、特許異議申立人の三田翔の上記主張をもって、『本件請求項1の「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であり」は、本件特許明細書の記載(および図面)によりサポートされたものではない』ということはできない。
そして、本件請求項1を引用する同請求項2、3についても同様である。

(2) 当審の取消理由36-6-1(2)について
特許異議申立人の三田翔が提出した異議申立書の第32頁第25行から第33頁第7行における主張の概要は、以下のものである。
「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」における「2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)」は、本件特許明細書の実施例において用いられている「SWC4-MAX」が固有値として有する「最小濃縮液流量」に対応するものであることからして、上記「逆浸透膜モジュール」は、「SWC4-MAX」に特定されるべきであるにも関わらず、そのようにされずに、一般化されており、本件特許明細書(および図面)の範疇を超えるものである。
したがって、本件請求項1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、本件特許明細書の記載(および図面)によりサポートされたものではない。
以下、上記主張について検討する。
上記「(1) 当審の取消理由36-6-1(1)について」の「4つ目の●」で示したように、本件特許明細書には、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」実施例2の記載(サポート)があるということができる。また、上記「ブライン水量」の「2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)」(範囲)の特に「5m^(3)/(m^(2)・D)」が、「SWC4-MAX」の「最小濃縮液流量」に対応するものであることを示す根拠は、申立人により十分に示されているとはいえない。さらに、本件特許明細書(および図面)には、「SWC4-MAX」以外の「(高圧型)逆浸透膜モジュール」を排除する記載はない。
そうすると、上記ブライン水量の「2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)」は、「SWC4-MAX」が固有値として有する「最小濃縮液流量」に対応するものである、と断言することはできないので、上記「逆浸透膜モジュール」は、「SWC4-MAX」に特定すべきである、との上記主張に合理性があるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の三田翔の上記主張をもって、『本件請求項1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、本件特許明細書(および図面)の記載によりサポートされたものではない』ということはできない。
そして、本件請求項1を引用する同請求項2、3についても同様である。

C 小括
以上のとおりであるから、当審の取消理由によっては、本件特許発明1ないし3を取り消すことはできない。

第4.特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てについて
A 申立ての取消理由(概要)
(α)本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(α)」という。)
(β)本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(β)」という。)
(γ)本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(γ)」という。)

B 証拠方法
本件特許の出願前に頒布された甲第1ないし6号証は、以下のものである。
・甲第1号証:特開2012-245439号公報
・甲第2号証:特開平8-108048号公報
・甲第3号証:特開2000-51663号公報
・甲第4号証:特開2000-93751号公報
・甲第5号証:Masahide Taniguchi et al., Boron reduction performance of reverse osmosis seawater desalination process,Journal of Membrane Science 183 (2001) 259-267、写し及び訳文
・甲第6号証:Shin-ichi NAKAO et al.,ANALYSIS OF SOLUTES REJECTION IN ULTRAFILTRATION,JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING OF JAPAN,VOL.14 NO.1 1981 p.32-37、写し及び訳文

C 甲第1号証に記載の事項
(甲1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置において、該一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であり、且つ単段にて設置されていることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力5.52MPa以上、標準運転圧力における純水フラックス0.5m^(3)/m^(2)・D以上、NaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有することを特徴とする超純水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、原水を処理する前処理システムを有し、該前処理システムの処理水が前記一次純水システム及びサブシステムで順次処理される超純水製造装置であって、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水のTDSが1500mg/L以下であることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記高圧型逆浸透膜分離装置の膜面有効圧力が1.5?3MPaであることを特徴とする超純水製造装置。」(当審注:下線は、当審が付与した。以下同じ。)

(甲1-2)「【0013】
請求項3の超純水製造装置は、請求項1又は2において、原水を処理する前処理システムを有し、該前処理システムの処理水が前記一次純水システム及びサブシステムで順次処理される超純水製造装置であって、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水のTDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下であることを特徴とするものである。」

(甲1-3)「【0022】
この高圧型逆浸透膜は、従来の超純水製造装置の一次純水システムに用いられている低圧又は超低圧型逆浸透膜に比べて膜表面のスキン層が緻密となっている。そのため、高圧型逆浸透膜は低圧型又は超低圧型逆浸透膜に比べて単位操作圧力当りの膜透過水量は低いものの有機物除去率は極端に高い。TDS(全溶解性物質)1500mg/L以下の塩類濃度の給水を逆浸透膜処理する場合においては、回収率90%時の運転条件下で逆浸透膜にかかる浸透圧は最大1.0MPa程度である。従って、TDS1500mg/L以下の給水の処理に高圧型逆浸透膜分離装置を用いた場合、好ましくは15?3MPa、特に好ましくは2?3MPa程度の膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)で、低圧型又は超低圧型逆浸透膜と同程度の水量を確保することが可能となる。その結果、1段RO膜処理のみで従来の2段ROと同等の処理水水質・処理水量を得ることが可能となり、それに伴い膜本数、ベッセル、配管が削減でき低コスト、省スペース化が可能となる。」

(甲1-4)「【実施例】
【0025】
<実験例1>
電子デバイス工場排水(電気伝導率100mS/m、TDS600mg/L、TOC10mg/L)を1段のみ設置された高圧型逆浸透膜分離装置(RO膜はSWC4+:日東電工製。運転圧力5.52MPaにおけるフラックス24.6m^(3)/m^(2)・D、NaCl除去率99.8%(NaCl32000mg/L))に回収率73%の条件で通水した。その結果、透過水のTOCは0.85mg/Lとなった。膜面有効圧力は2.0MPaであった。【0026】
<実験例2>
実験例1と同じ電子デバイス工場排水を、超低圧RO膜(ES-20:日東電工製)を充填した2段RO装置に前段RO回収率75%、後段RO回収率90%、全体水回収率73%の条件(後段RO濃縮水は前段RO給水に合流)で通水した。その結果、第1段目RO透過水のTOC濃度は1.35mg/L、第2段目RO透過水のTOC濃度は0.9mg/Lとなった。膜面有効圧力は1段目0.5MPa、2段目0.75MPaであった。」

D 甲第1号証に記載の発明
上記「(甲1-1)」ないし「(甲1-4)」からして、甲第1号証には、「TDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下の電子デバイス工場排水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する電子デバイス工場排水の処理方法であって、膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)を1.5?3MPaとし、標準運転圧力5.52MPa以上における純水フラックスが0.5m^(3)/m^(2)・D以上、NaCl除去率が99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、高圧型逆浸透膜分離装置のRO膜が単段である、電子デバイス工場排水の処理方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

E 対比・判断
(α) 取消理由29-2(α)について
本件特許発明1と甲1発明との対比にあたり、まず、本件特許発明1の「有効圧力」と、甲1発明の「膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)」それぞれの意味について確認する。
本件特許明細書には、「ここで、有効圧力とは平均操作圧力から浸透圧差と二次側圧力とを差し引いた膜に働く有効な圧力で、・・・である。なお、平均操作圧力は、膜の一次側における膜供給水の圧力(運転圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値で、以下式により表わされる。
平均操作圧力=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2」(【0016】)との記載があり、これからして、本件特許発明1の「有効圧力」は、[平均操作圧力=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2]から浸透圧差と二次側圧力とを差し引いた膜に働く有効な圧力であり、一方、甲1発明の「膜面有効圧力」は、1次側と2次側との圧力差(差圧)である。
上記からして、本件特許発明1の「有効圧力」と、甲1発明の「膜面有効圧力」それぞれの意味は、異なるものである。

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「電子デバイス工場排水」は、本件特許発明1の「原水」および「有機物含有水」に相当する。

○甲1発明の「RO膜」は、本件特許発明1の「逆浸透膜モジュール」に相当する。

○甲1発明の「TDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下の電子デバイス工場排水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する電子デバイス工場排水の処理方法」と、本件特許発明1の「原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法」とは、「原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する有機物含有水の処理方法」という点で一致する。

○甲1発明の「膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)を1.5?3MPaとし、標準運転圧力5.52MPa以上における純水フラックスが0.5m^(3)/m^(2)・D以上、NaCl除去率が99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、高圧型逆浸透膜分離装置のRO膜が単段である」と、本件特許発明1の「該高圧型逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュールを複数段有し、前段の逆浸透膜モジュールのブラインが後段の逆浸透膜モジュールの被処理水となり、該高圧型逆浸透膜分離装置は、有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)であり、該高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」(当審注:スペース字を省略し、字詰めを行った。)とは、「該高圧型逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュールを有し、純水フラックスが所定の値である」という点で一致する。
上記より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する有機物含有水の処理方法であって、該高圧型逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュールを有し、純水フラックスが所定の値である、有機物含有水の処理方法」という点で一致し、少なくとも以下の点で相違している。
本件特許発明1は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるのに対して、甲1発明は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「RO膜(逆浸透膜モジュール)」が「単段」であり、複数段を前提とする「最終段のRO膜(末端逆浸透膜モジュール)」は存在していない点(以下、「相違点」という。)。
「相違点」について検討する。
甲第1号証には、「(甲1-4)」で示したように、超低圧RO膜を充填したRO装置を2段にする実施例2の記載があるものの、このRO膜は、超低圧のものであって、高圧型のものではないことからして、そもそも、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であるようにすることの記載はなく、
甲第2号証(特に、【請求項1】、【0001】【産業上の利用分野】、【0011】、【0042】【実施例】)には、逆浸透膜モジュールユニットを多段に配置すると共に、逆浸透膜モジュールユニット間の濃縮液流路に昇圧ポンプを配し、透過流束(純水フラックス)を0.57m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積26.5m^(2)、増水量15m^(3))(計算値)にし、最終エレメントの濃縮水流量(ブライン水量)を1.89m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積26.5m^(2)、濃縮水流量50m^(3)日程度)(計算値)にすることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第3号証(特に、【請求項1】、【0001】【発明の属する技術分野】、【0012】、【0066】【実施例】)には、供給水昇圧用加圧ポンプの下流に、逆浸透膜モジュールユニットを多段に配置し、透過流束(純水フラックス)を0.57m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積6.6m^(2)、増水量3.75m^(3))(計算値)にし、最終エレメントの濃縮水流量(ブライン水量)を1.89m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積26.5m^(2)、濃縮水流量50m^(3)日程度)(計算値)にすることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第4号証(特に、【請求項1】、【0001】【発明の属する技術分野】、【0012】、【0066】【実施例】)には、逆浸透膜モジュールユニットを多段に配置すると共に、逆浸透膜モジュールユニットの供給液流路の少なくとも1ヶ所に昇圧ポンプを配し、透過流束(純水フラックス)を0.57m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積6.6m^(2)、増水量3.75m^(3))(計算値)にし、最終エレメントの濃縮水流量(ブライン水量)を1.89m^(3)/(m^(2)・D)(膜面積26.5m^(2)、濃縮水流量50m^(3)日程度)にすることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第5号証には、塩、ホウ素について、膜面流量を大きくして濃度分極を小さくすると、溶質の除去率が高くなることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
本甲第6号証には、低分子量有機物を含む溶質について、膜面流量を大きくして濃度分極を小さくすると、溶質の除去率が高くなることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はない。
上記からして、甲第2号証ないし甲第6号証のいずれにも、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、また、甲1発明は、そもそも、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「RO膜(逆浸透膜モジュール)」が「単段」であり、複数段を前提とする「最終段のRO膜(末端逆浸透膜モジュール)」は存在していないことからして、甲1発明に、甲第1号証ないし甲第6号証記載の事項を適用したとしても、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」との事項を構成することは、当業者が容易に想起し得ることであるとは言い難い。
そして、本件特許発明1は、「本発明は、低分子量有機物をRO処理する方法において、生物処理を行うことなく、低分子量有機物を確実に十分に除去することができる低分子量有機物含有水の処理方法を提供することを目的とする」(【0009】)との記載からして、RO処理において、低分子量有機物を確実に十分に除去することができることを作用効果にするものであるところ、本件特許明細書の【0036】【表2】(上記「第3.」の「B」参照)には、TOCがIPA(イソプロピルアルコール)である水溶液を処理する試験において、実施例2では、最終段ブライン量が2.1m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは18μgC/L、最終段ブライン量が2.9m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは17μgC/L、最終段ブライン量が4.1m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは16.8μgC/Lであり、比較例2では、最終段ブライン量が1.2m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは32μgC/L、最終段ブライン量が1.7m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは25μgC/Lであり、最終段ブライン量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とすることにより、透過水中のTOC(IPA)が少なくなる、つまり、低分子量有機物を確実に十分に除去することができるという作用効果の確認がなされている。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲第1号証(甲第2号証)ないし甲6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(β) 取消理由29-2(β)について
本件特許発明2は、本件特許発明1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」という事項を有しているので、上記「(α) 取消理由29-2(α)について」で示した理由と同じ理由により、甲1発明、甲第1号証(甲第2号証)ないし甲6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(γ) 取消理由29-2(γ)について
本件特許発明3は、本件特許発明1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」という事項を有しているので、上記「(α) 取消理由29-2(α)について」で示した理由と同じ理由により、甲1発明、甲第1号証(甲第2号証)ないし甲6号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

F 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける取消理由によっては、本件特許発明1ないし3を取り消すことはできない。

第5.特許異議申立人三田翔による異議申立てについて
A 申立ての取消理由(概要)
<特許法第29条第2項
(ア)本件特許発明1は、甲第1号証?甲第19号証に基いて、具体的には、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証ないし甲第19号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(ア)」という。)
(イ)本件特許発明1は、甲第3号証?甲第19号証に基いて、具体的には、甲第3号証に記載の発明、甲第4号証ないし甲第19号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(イ)」という。)
(ウ)本件特許発明1は、甲第3号証?甲第19号証に基いて、具体的には、甲第4号証に記載の発明、甲第3号証、甲第5号証ないし甲第19号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(ウ)」という。)
(エ)本件特許発明2、3は、甲第1号証?甲第19号証に基いて、具体的には、甲第4号証に記載の発明、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第19号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由29-2(エ)」という。)
<特許法第36条第6項第1号
(ア)本件特許発明1ないし3の構成要件の「有効圧力2.0MPaにおける純水フラックスが0.6?1.3m^(3)/(m^(2)・D)」は、本件特許明細書および図面にサポートされたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではなく、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由36-6-1(ア)」という。)
(イ)本件特許発明1ないし3の構成要件の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、本件特許明細書および図面にサポートされたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではなく、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由36-6-1(イ)」という。)
<特許法第36条第6項第2号
(ウ)本件特許発明1ないし3の構成要件の「最終段の末端逆浸透膜モジュール」は、どの逆浸透膜モジュールであるのか不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものではなく、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由36-6-2」という。)

B 証拠方法
本件特許の出願前に頒布された甲第1ないし10、12ないし19号証、および、同出願後に頒布された甲第11号証は、以下のものである。
・甲第1号証:特開2006-26484号公報
・甲第2号証:JIS K3805-1990
・甲第3号証:特開2013-141643号公報
・甲第4号証:特開2012-245439号公報
・甲第5号証:「浄水膜」、第76頁、技報堂出版株式会社、2003年6月10日発行
・甲第6号証:特開2000-167358号公報
・甲第7号証:特開2000-288356号公報
・甲第8号証:「現場で役立つ膜ろ過技術」第23頁?第24頁、第108頁?第109頁、株式会社工業調査会、2006年7月10日発行
・甲第9号証:特開2009-240917号公報
・甲第10号証:特開2000-218135号公報
・甲第11号証:スパイラル型逆浸透エレメント SWC4 MAX 取扱説明書、2015年8月、表紙および1/34?34/34
・甲第12号証:「膜による水処理技術の新展開」、第125頁、株式会社シ-エムシー出版、2004年9月30日発行
・甲第13号証:「トコトンやさしい膜分離の本」、第136?137頁、日刊工業新聞社出版、2010年7月20日発行
・甲第14号証:日東電工SWC4 MAXのスペックシート、2011年1月11日発行
・甲第15号証:Performance of high area spiral wound elements in waste water reuse RO system」、Desalination and Water Treatment 6 (2009) 61-68頁
・甲第16号証:「膜技術プロセスの開発と応用展開」、第42頁、住友化学 2007-1
・甲第17号証:特表2007-523744号公報
・甲第18号証:特開2007-313445号公報
・甲第19号証:特開2001-347142号公報

C 甲第1、3、4号証に記載の事項
C-1 甲第1号証に記載の事項
(甲1-1)「従来より、多孔性支持体上に実質的に選択分離性を有する活性なスキン層(薄膜)を形成してなる複合逆浸透膜が知られている。現在、かかる逆浸透膜として、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなるスキン層が支持体上に形成されたものが多く知られている(例えば、特許文献1-4を参照)。」(【0003】)

(甲1-2)「本発明の目的は、高い塩阻止率を有すると共に、IPA等の非電解質有機物及びホウ素等の通常pH領域における非解離物質の分離性能に優れた複合逆浸透膜、及びその製造方法を提供することにある。」(【発明が解決しようとする課題】【0006】)

(甲1-3)「[評価試験]
実施例および比較例で得られた複合逆浸透膜の性能は、複合逆浸透膜に操作圧力1.5MPa、温度25℃、pH6.5にて、濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液を30分間透過させた後、IPA阻止率を測定した。IPA阻止率は、GC分析装置にて供給液及び透過液の濃度測定を行い、その測定結果から下記式により算出した。
<IPA阻止率>
阻止率(%)=(1-(膜透過液中のIPA濃度/供給液中のIPA濃度))×100

また、複合逆浸透膜に操作圧力5.5MPa、温度25℃、pH6.5にて、塩化ナトリウム3.2重量%とホウ素5ppm(ホウ酸29ppm)とを含有する水溶液を1時間透過させた後、塩化ナトリウム阻止率、ホウ素阻止率および透過流束を測定した。塩化ナトリウム阻止率は、通常の電導度測定によって行い、ホウ素阻止率は、ICP分析装置にて濃度測定を行い、その測定結果からそれぞれ下記式により算出した。
<NaCl阻止率>
阻止率(%)=(1-(膜透過液中のNaCl濃度/供給液中のNaCl濃度))×100
<ホウ素阻止率>
阻止率(%)=(1-(膜透過液中のホウ素濃度/供給液中のホウ素濃度))×100」(【0043】)

C-2 甲第3号証に記載の事項
(甲3-1)「本発明は、電子産業プロセスから排出されるIPA(イソプロパノール)、エタノール、メタノールなどの低分子量有機物を含有する排水を効率的に処理して回収する方法及び装置に関する。」(【技術分野】【0001】)

(甲3-2)「本発明で処理対象とする電子産業プロセス排水は、一般に、IPA、エタノール、メタノール、酢酸や酢酸塩、アセトン、TMAH(水酸化トリメチルアンモニウム)、MEA(モノエタノールアミン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の低分子量有機物を、TOCとして1?20mg/L程度含有する低分子量有機物含有排水である。ここでいう低分子量とは例えば分子量400以下(特に100以下)をいう。また、この電子産業プロセス排水は、通常、例えばコロイダルシリカなどのSSを5?100mg/L程度含有するため、まず、SS除去処理手段1でSSを除去する。」(【0027】)

(甲3-3)「[実施例1]
TOC(TOC値のうち10%は、IPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物):10mg/L、SS:50mg/Lの電子産業プロセス排水を原水として、図1に示す装置で処理した。」(【0040】)

(甲3-4)「まず、SS除去処理手段1にて、原水に塩化第二鉄200mg/Lを添加して凝集浮上濾過し、濾過水をRO膜分離装置2でRO膜分離処理した。RO膜分離装置2としては日東電工社製RO膜「ES-20」(NaCl除去率99.5%)を充填したものを用い、水回収率75%で運転した。なお、RO膜給水のpHは6.5とした。」(【0041】)

C-3 甲第4号証に記載の事項
甲第4号証は、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける甲第1号証であり、甲第4号証(甲第1号証)には、上記「第4.」の「C」で示した記載がある。

D 甲第1、3、4号証に記載の発明
D-1 甲第1号証に記載の発明
上記「(甲1-1)」ないし「(甲1-3)」からして、甲第1号証には、「複合逆浸透膜(多孔性支持体上にスキン層(薄膜)を形成した膜)に操作圧力1.5MPa、温度25℃、pH6.5にて、濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液を30分間透過させる、複合逆浸透膜を用いたイソプロピルアルコール(IPA)水溶液の処理方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。)

D-2 甲第3号証に記載の発明
上記「(甲3-1)」ないし「(甲3-4)」からして、甲第3号証には、「TOC(TOC値のうち10%は、IPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物):10mg/L、SS:50mg/Lの電子産業プロセス排水(原水)を日東電工社製RO膜「ES-20」(NaCl除去率99.5%)を充填したRO膜分離装置に通水して処理する電子産業プロセス排水の処理方法。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているということができる。)

D-3 甲第4号証に記載の発明
甲第4号証(特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける甲第1号証)には、上記「第4.特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てについて」の「D」で示したように、「TDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下の電子デバイス工場排水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する電子デバイス工場排水の処理方法であって、膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)を1.5?3MPaとし、標準運転圧力5.52MPa以上における純水フラックスが0.5m^(3)/m^(2)・D以上、NaCl除去率が99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、高圧型逆浸透膜分離装置のRO膜が単段である、電子デバイス工場排水の処理方法。」(以下、「甲4発明」という。)が記載されているということができる。

E 対比・判断
<特許法第29条第2項
(ア) 申立理由29-2(ア)について
甲1発明は、上記「D-1」で示したように、「複合逆浸透膜(多孔性支持体上にスキン層(薄膜)を形成した膜)に操作圧力1.5MPa、温度25℃、pH6.5にて、濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液を30分間透過させる、複合逆浸透膜を用いたイソプロピルアルコール(IPA)水溶液の処理方法。」(再掲)である。
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
○甲1発明の「濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液」は、イソプロピルアルコール(IPA)の濃度が些少であることからして、これの比重は水の比重とほぼ同じ1g/ccであると類推され、また、イソプロピルアルコール(C_(3)H_(8)O)の分子量が60であり、この分子量60の内の36が炭素であることからして、炭素濃度は900mgC/L(算出値)になるといえるので、本件特許発明の「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水」に相当する。

○甲1発明の「圧力1.5MPa」で操作される「複合逆浸透膜(多孔性支持体上にスキン層(薄膜)を形成した膜)」は、本件特許明細書の「従って、TDS1500mg/L以下の給水の処理に高圧型逆浸透膜分離装置を用いた場合、好ましくは1.5?3MPa、特に好ましくは2?3MPa程度の膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)で、低圧型又は超低圧型逆浸透膜と同程度の水量を確保することが可能となる。」(【0022】)において、1.5MPaが本件特許発明1で規定される圧力(高圧)の範疇内のものであるとの認識が示されていることからして、本件特許発明1の「高圧型逆浸透膜分離装置」に相当する。

○甲1発明の「複合逆浸透膜(多孔性支持体上にスキン層(薄膜)を形成した膜)に操作圧力1.5MPa、温度25℃、pH6.5にて、濃度0.15重量%のイソプロピルアルコール(IPA)水溶液を30分間透過させる、複合逆浸透膜を用いたイソプロピルアルコール(IPA)水溶液の処理方法」と、本件特許発明1の「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法」とは、「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法」という点で一致する。

上記より、本件特許発明1と甲1発明とは、、「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法。」という点で一致し、少なくとも以下の点で相違している。
本件特許発明1は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるのに対して、甲1発明は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であるか、また、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるか不明である点(以下、「相違点’」という。)。
「相違点’」について検討する。
甲第2号証(特に、表1)には、「操作圧力50?60kgf/cm^(2)(5?6Mpa)で使用される逆浸透膜は、高圧型である」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第3号証には、上記「E-2」で示したように、「TOC(TOC値のうち10%は、IPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物):10mg/L、SS:50mg/Lの電子産業プロセス排水を原水として、日東電工社製RO膜「ES-20」(NaCl除去率99.5%)を充填したRO膜分離装置を用いてRO膜分離処理する方法。」(甲3発明)が記載されており、この「ES-20」は、下記で示す甲第9号証(【0031】)からして、超低圧型のRO膜であって、高圧型のRO膜でなく、また、純水フラックス量の明示がないことからして、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第4号証(特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける甲第1号証)には、上記「第4.特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てについて」の「E 対比・判断」で示したように、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第5号証(特に、76頁の図3-2)には、「圧力容器内にエレメントが複数直列に充填され、前段エレメントの濃縮水が後段エレメントの被処理水となるスパイラル型モジュールを用いて処理する」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第6号証(特に、【0001】、【0002】、【0005】、【図12】)には、「圧力容器内に複数の分離膜エレメントを装填し、前段の分離膜エレメントのブラインを、後段の分離膜エレメントの被処理水として逆浸透分離処理する」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第7号証(特に、【0001】、【0003】、【図4】)には、「圧力容器内に複数の分離膜エレメントを直列に装填し、前段の分離膜エレメントのブラインを、後段の分離膜エレメントの被処理水として逆浸透分離処理する」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第8号証(特に、「第2章 浸透圧について」の23、24頁)には、「溶媒_(A)、溶質_(B)の溶液において溶媒のモル分率をX_(A)、活量をα_(A)とするときの、電解質溶液の活量α_(A)と浸透係数φおよび浸透圧Πの関係」が記載され、また、同「第6章 膜モジュールと運転方法」の108頁には、「スパイラル膜モジュールの並べ方に、クリスマスツリー配列という方式がある。・・・前段の複数のモジュールからの濃縮水を一つにまとめて、後段のモジュールに再配分する並べ方だ(図6.12)。」との記載があり、同109頁の図6.12)には、クリスマスツリー配列(ポンチ絵)の記載もあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第9号証には、特に、「本発明は、逆浸透膜、ナノ濾過膜等の透過膜の阻止率を向上させる方法とこれに適した透過膜装置に関するもので、特に、前段の透過膜モジュールの濃縮水が後段の透過膜モジュールの給水となるように複数段に配置された透過膜装置の透過膜の阻止率を向上させる方法とこれに適した透過膜装置に関する。」(【0001】)、「一方、超純水製造装置や排水回収装置などに使用されている逆浸透膜は水回収率を向上させるため、前段の膜モジュールの濃縮水を後段の膜モジュールの給水となるよう膜モジュールを複数段に配置することが一般的である。しかしながらこのようにモジュールが複数段に配置されている場合には、前段に配置されているモジュールの透過膜に阻止率向上剤が吸着するため、後段のモジュールでは給水中の阻止率向上剤の濃度が低下し、その結果、最前段と最後段に配置された膜モジュールでは阻止率向上処理に違いが生じ、全てのモジュールに均等に阻止率向上処理を施すことは困難であった。」(【0008】)、「第1段目が7つのモジュール、第2段目が5つのモジュール、第3段目が3つのモジュールで構成された透過膜装置に日東電工製8インチ超低圧芳香族ポリアミド系逆浸透膜ES20の新品膜エレメントを1モジュールあたり4本装填した。第1段目の給水圧力を0.6MPaとし、給水量50m^(3)/h、第1段目の1モジュールあたりの給水量を10m^(3)/hとして通水を行った。阻止率向上処理は透過水、濃縮水をすべて回収して給水とする全量循環運転を行いながら、各段毎に給水に阻止率向上剤を添加した。阻止率向上剤としては重量平均分子量3000のポリエチレングリコール1重量%水溶液を用い、添加濃度は各段での給水水量に対して2mg/Lになるように添加した。2時間循環通水後、ポリマー溶液を廃棄し、純水でフラッシングを行い、処理を終了した。」(【0031】)、【図1】(図示省略)との記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第10号証(特に、【0001】、【0003】、【図2】)には、「前段の膜モジュールの濃縮水を後段の膜モジュールの給水となるよう膜モジュールを複数段に配置する」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第11号証は、「2015年8月制定」の「スパイラル型逆浸透エレメント SWC4 MAX 取扱説明書」であり、本件特許の出願日の2014年3月31日からみて、非公知の文献であるものの、「スパイラル型逆浸透エレメント SWC4 MAX」そのものは、甲第14、15号証(公知文献)において示されているように、本件出願前において既に知られたものであるところ、請求人は、甲第11号証の「SWC4 MAX」の最小ブライン水量が1.976m^(3)/(m^(2)・d)(計算値)であり、また、実際の運転におけるブライン水量を、この1.976m^(3)/(m^(2)・d)よりもわずかに大きい水量(例えば、2.1m^(3)/(m^(2)・d))にするのは当業者の通常の手法である旨の主張をしているが、そもそも、甲第11号証の6/34の末尾には、「※ 仕様、使用条件は変更することがあります。」と明示されており、また、「SWC4 MAX」の特性について、甲第11号証と甲第14、15号証は、膜面積、透過水量、塩阻止率で一致し、甲第11号証と甲第14号証とは、最高操作圧力、最高供給流量、最大圧力低下(最高圧力損失)等で一致しているものの、最高運転温度については、甲第11、15号証(明記なし)、甲第14号証(45℃)であって、比較できない特性もあることからして、甲第11号証の「SWC4 MAX」と甲第14、15号証の「SWC4 MAX」とが同一であると断定できない、つまり、甲第11号証の「SWC4 MAX」の最小ブライン水量が例えば2.1m^(3)/(m^(2)・d)になり得ることは、あくまでも、甲第11号証のみにおける事項であって、非公知の事項であるというべきであり、
甲第12号証(特に、「第4章 膜を用いる海水淡水化システムの現状と今後の展開」の125?126頁の表2およびその説明)には、「圧力容器内にRO膜エレメント(例えば、SWC4+)を複数個挿入して海水の淡水化を行う」こと、「SWC3、透過水量23.5m^(3)/d、膜面積29.3m^(2)、計測条件5.5Mpa」、「SWC3+、透過水量26.5m^(3)/d、膜面積27.3m^(2)、計測条件5.5Mpa」、「SWC4+、透過水量24.6m^(3)/d、膜面積27.3m^(2)、計測条件5.5Mpa」であること、つまり、高圧型RO膜エレメントにおいて、計測条件5.5Mpaのときの透過水量/膜面積(計算値)が0.8m^(3)/(m^(2)・d)、0.97m^(3)/(m^(2)・d)、0.9m^(3)/(m^(2)・d)であり、「複数個のRO膜エレメントが圧力容器内に挿入された装置(高圧型逆浸透膜分離装置)」の「RO膜エレメント(逆浸透膜モジュール)」が「複数段」であることの開示はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第13号証(特に、「第5章 膜分離の透過流束と阻止率」の136?137頁の「60 濃度分極が阻止率におよぼす影響 膜の真の阻止率とみかけの阻止率」)には、「逆浸透膜に圧力をかけて膜の透過流束がある程度になると、膜本来の阻止率が現れるが、さらに圧力を上げて透過流束が大きくなると、膜面に濃度分極現象が生じるため、阻止率が下がり、透過流束が更に上がるとこの傾向は大きくなり、極限では阻止率が0になる」ことの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第14号証には、「SWC4 MAXのNaCl阻止率が99.8%、透過水量が27.3m^(3)/d、有効膜面積が40.8m^(2)、最高操作圧力が8.27MPa、操作温度の上限が45℃、pH範囲が2?11、最大供給液量が17.0m^(3)/d、テスト時の操作圧力が5.5MPa、テスト時の温度が25℃、テスト時の回収率が10%、テスト時のpHが6.5?7.5である」こと、つまり、高圧型の「SWC4 MAX」の透過水量/有効膜面積(計算値)が0.68m^(3)/(m^(2)・d)であることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第15号証(特に、表2)には、「SWC4 MAXの有効膜面積が40.9m^(2)、透過水量が27.3m^(3)/d、阻止率が99.8%である」こと、つまり、高圧型の「SWC4 MAX」の透過水量/有効膜面積(計算値)が0.68m^(3)/(m^(2)・d)であることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第16号証(特に、42頁)には、「膜エレメントの配列の組み方であるが、エレメントは膜保護(破裂、過濃縮防止」のため最大供給液量、最小濃縮液量が決められている。よって、各エレメントがその値に納まるように配列(ツリー構造)を組む。」との記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第17号証には、「本発明は、らせんに巻かれた逆浸透またはナノ濾過のエレメントを含む容器に溶液を通過させることにより、高い浸透力の溶液特に海水を処理する装置および方法である。本発明は、容器内で透過流束のさらに均一な分布を可能にする。従来の方法に比べて有利な性能の特性は、より高い容器の生産性、増加した回収率および加えられる圧力に関するより少ない必要条件を含む。」(【技術分野】【0001】)、「もし濾過システムのデザイナーが、耐圧容器中の最後のエレメントの透過流束を最大にするためにらせんに巻かれたモジュールを選ぶならば、上流ユニットは、製造者により推奨されるのよりも高い透過流束を有するだろう。高い最初の透過流束は、ファウリングおよびスケールによりらせんに巻かれたエレメントの寿命を実質的に短くする。高い透過流束は、また濃度の分極化を促進し、膜の有効な阻止率を低下させる。しかし、下流エレメントの低い透過流束も、生産性の低下のために望ましいものではなく、低い透過流束は、透過液中の高い溶質濃度を意味し、そのため回収率を低下させる。」(【0012】)、「エレメントの製造者は、濾過システムのデザインに使用するためにらせんに巻かれたエレメント用の操作ガイドラインを提供している。一般に、ガイドラインは、適用される圧力の上限、最大の供給液流量、最小の濃縮液流量、最大の回収率(供給液の体積により除された透過液の体積)および最大の透過流束を含む。以下の表2のエレメントは、すべて、代表的な海水テスト中約23m^(3)/日(6000gpd)の流れを有する。これは、海水操作のための55-69バール(800-1000psi)の通常の範囲と一致する。代表的な浸透力では、32.5m^(2)(350ft^(2))の活性面積を有する23m^(3)/日の海水エレメントは、透過流束についてしばしば引用される上限である34L/m^(2)/時(20gfd)より低く、55バール(800psi)で操作することが保証されている。時間の経過によるファウリングおよび温度と浸透力とにおける差は、68.9バール(1000psi)においてすらまたは或る条件では82.7バール(1200psi)においてすら、これらの制限内に同じエレメントを維持できる可能性がある。」(【0013】)との記載、特に、55-69バール(5.5?6.9MPa)における透過流束/活性表面積(計算値)が0.71m^(3)/(m^(2)・D)であることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第18号証には、「界面活性剤を含有する排水をNF膜に通水するNF膜通水工程と、
前記NF膜に通水した排水を活性炭で処理する活性炭処理工程と
を含む排水処理方法。」(【請求項1】)、「本発明は排水処理方法等に係り、より詳しくは、界面活性剤を含有する排水を処理する排水処理方法等に関する。」(【技術分野】【0001】)、「なお、「RO膜」とは、膜分離技術振興協会が定める規格(AMST-002)のRO膜モジュールの項目で定義された測定方法における脱塩率(塩化ナトリウム除去率)が93%以上のろ過膜を意味し、「NF膜」とは、同規格のNF膜の項目で定義された脱塩率(塩化ナトリウム除去率)が5%以上93%未満のろ過膜を意味するものである。」(【0014】)、「(濃縮水循環量)
NF膜の透過しない濃縮側の水をNF膜供給水に循環することを意味する。通常、NF膜、RO膜ともに膜表面での過度の濃度分極を避けるために、濃縮水の最小流量を決めている。しかし、少ないモジュール数で回収率を高く、すなわち濃縮水を少なくすると最小濃縮水量より少なくなる場合がある。これを避けるために、濃縮水の量を大きくするとともに、その大部分を供給水に循環する方式が取られる。
(濃縮水ブロー量)
NF膜の透過しない濃縮側の水のうちで、供給水側に循環せずに、系外に排水する量を意味する。
(SV≒18)
活性炭体積あたりに通水する水の量(空間速度)を意味する。SV:Space Velocity。処理量(m^(3)/h)/充填剤量(m^(3))で算出される。」(【0033】)との記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、
甲第19号証には、「本発明は、高濃度溶液を逆浸透分離するための新規な高濃度溶液の逆浸透分離方法に関するものである。本発明によって、高濃度溶液から高い収率、少ないエネルギー、費用で低濃度溶液を得ることができ、一方では濃縮液を従来の逆浸透法より一層高い濃度、少ないエネルギー、費用で得ることができる分離方法を提供することができる。本発明の方法は特にかん水の脱塩、海水の淡水化、また排水の処理、有用物の回収に用いることができる。特に高濃度の溶液から低濃度溶液を得る場合や、高濃度溶液をさらに高い濃度に濃縮する場合に効果が大きい。」(【0001】【発明の属する技術分野】)、「逆浸透膜エレメントは、通常複数本の逆浸透膜のエレメントを1本の圧力容器に直列に装填した状態(これをモジュールと称す)で使用され、実際のプラントではこのモジュールを多数本並列に設置して使用される。海水淡水化の収率というのは、プラント全体に供給される全供給海水に対する全透過水量の割合であり、通常の条件では、モジュールが並列に設置されているので、モジュール1本あたりの供給量とモジュール1本から得られる透過水量の割合(モジュール内の各エレメントからの透過水量の合計)と一致する。ここで、モジュール内部の各エレメントから得られる透過水は、例えば1モジュールが逆浸透膜エレメント6本から構成され、1モジュールに198m^(3)/日の海水を供給し、合計78m^(3)/日の真水が得られる場合(収率40%)は、実際に起こっている現象をシミュレーションしてみると、1本目のエレメントで18?19m^(3)/日、2本目のエレメントで15?17m^(3)/日、3本目からも徐々に減っていき、合計して78m^(3)/日の透過水となる。」、「一方、逆浸透膜分離装置の運転条件設定について考慮する必要のある事項としては、ファウリング(膜面汚れ)の防止と濃度分極の防止がある。」(【0010】)、「ここでいう濃度分極の防止というのは、主にモジュール内部で上流側エレメントから下流側エレメントに向かうに従って供給水の量が低下しており、最終のエレメントに流れる供給水の膜面流速が低下することによる濃度分極の防止である。濃度分極が生じると膜性能を十分に発揮できないばかりでなく、ファウリングの発生を加速し、逆浸透膜エレメントの寿命低下を引き起こす。このため、最終エレメント(膜面積26.5m^(2)の場合)の濃縮水流量は50m^(3)/日程度以上に保って置く必要がある。」(【0011】)との記載、特に、最終の逆浸透膜エレメントの濃縮水流量/膜面積(計算値)が1.89m^(3)/(m^(2)・D)であることの記載はあるものの、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はない。
上記からして、甲第2号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)のいずれにも、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、また、甲1発明は、そもそも、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であるか不明なものであることからして、甲1発明に、甲第2号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項を適用したとしても、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」との事項を構成することは、当業者が容易に想起し得ることであるとは言い難い。
そして、本件特許発明1は、「本発明は、低分子量有機物をRO処理する方法において、生物処理を行うことなく、低分子量有機物を確実に十分に除去することができる低分子量有機物含有水の処理方法を提供することを目的とする」(【0009】)との記載からして、RO処理において、低分子量有機物を確実に十分に除去することができることを作用効果にするものであるところ、本件特許明細書の【0036】【表2】(上記「第3.」の「B」参照)には、TOCがIPA(イソプロピルアルコール)である水溶液を処理する試験において、実施例2では、最終段ブライン量が2.1m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは18μgC/L、最終段ブライン量が2.9m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは17μgC/L、最終段ブライン量が4.1m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは16.8μgC/Lであり、比較例2では、最終段ブライン量が1.2m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは32μgC/L、最終段ブライン量が1.7m^(3)/(m^(2)・D)のときの透過水中のTOCは25μgC/Lであり、最終段ブライン量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とすることにより、透過水中のTOC(IPA)が少なくなる、つまり、低分子量有機物を確実に十分に除去することができるという作用効果を確認し得る記載がある。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ) 申立理由29-2(イ)について
甲3発明は、上記「D-2」で示したように、「TOC(TOC値のうち10%は、IPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物):10mg/L、SS:50mg/Lの電子産業プロセス排水(原水)を日東電工社製RO膜「ES-20」(NaCl除去率99.5%)を充填したRO膜分離装置に通水して処理する電子産業プロセス排水の処理方法。」(再掲)である。
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
○甲3発明の「TOC(TOC値のうち10%は、IPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物):10mg/L、SS:50mg/Lの電子産業プロセス排水(原水)」は、TOC10mgの内の10%(1mg)がIPA、エタノール、メタノールの低分子量有機物であることからして、本件特許発明1の「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水」に相当する。

○甲3発明の「電子産業プロセス排水の処理方法」は、本件特許発明1の「低分子量有機物含有水の処理方法」に相当する。

○甲3発明の「日東電工社製RO膜「ES-20」(NaCl除去率99.5%)を充填したRO膜分離装置」は、上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、「ES-20」は、超低圧型のRO膜であることからして、「超低圧型RO膜分離装置」に当たり、これと、本件特許発明1の「高圧型逆浸透膜分離装置」とは、「逆浸透膜分離装置」という点で一致する。
上記より、本件特許発明1と甲3発明とは、、「分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水を逆浸透膜分離装置に通水して処理する低分子量有機物含有水の処理方法。」という点で一致し、少なくとも以下の点で相違している。
本件特許発明1は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるのに対して、甲3発明は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であるか、また、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるか不明である点(以下、「相違点”」という。)。
「相違点”」について検討する。
上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、甲第4号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)のいずれにも、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、また、甲3発明は、そもそも、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であるか不明なものであることからして、甲3発明に、甲第4号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項を適用したとしても、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」との事項を構成することは、当業者が容易に想起し得ることであるとは言い難い。
そして、上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、本件特許明細書には、低分子量有機物を確実に十分に除去することができるという作用効果を確認し得る記載がある。
したがって、本件特許発明1は、甲3発明、甲第4号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ) 申立理由29-2(ウ)について
甲第4号証(特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける甲第1号証)であり、上記「第4.特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てについて」の「E 対比・判断」で示したように、本件特許発明1と甲4発明とは、「原水を高圧型逆浸透膜分離装置に通水して処理する有機物含有水の処理方法であって、該高圧型逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュールを有し、純水フラックスが所定の値である、有機物含有水の処理方法」という点で一致し、上記「相違点」と同じく、本件特許発明1は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ものであるのに対して、甲1発明は、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「RO膜(逆浸透膜モジュール)」が「単段」であり、複数段を前提とする「最終段のRO膜(末端逆浸透膜モジュール)」は存在していない点で相違している。
以下、「相違点」について検討する。
上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、甲第3号証、甲第5号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)のいずれにも、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、また、甲4発明は、そもそも、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「単段」であり、複数段を前提とする「最終段のRO膜(末端逆浸透膜モジュール)」は存在していないことからして、甲4発明に、甲第3号証、甲第5号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項を適用したとしても、「高圧型逆浸透膜分離装置」の「逆浸透膜モジュール」が「複数段」であり、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」との事項を構成することは、当業者が容易に想起し得ることであるとは言い難い。
そして、上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、本件特許明細書には、低分子量有機物を確実に十分に除去することができるという作用効果を確認し得る記載がある。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明、甲第3号証、甲第5号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ) 申立理由29-2(エ)について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」という事項を有しているので、上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示した理由と同じ理由により、本件特許発明2、3は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第19号証(非公知の甲第11号証を除く)記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

<特許法第36条第6項第1号
(ア) 申立理由36-6-1(ア)について
当該「申立理由36-6-1(ア)」は、上記「第3.」で示した「当審の取消理由36-6-1(1)」と同じであるので、同「第3.」の「B」の「(1) 当審の取消理由36-6-(1)について」で示した理由と同じ理由により、本件特許発明1ないし3の構成要件の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、本件特許明細書(および図面)にサポートされたものである。

(イ) 申立理由36-6-1(イ)について
当該「申立理由36-6-1(イ)」は、上記「第3.」で示した「当審の取消理由36-6-1(2)」と同じであるので、同「第3.」の「B」の「(2) 当審の取消理由36-6-(2)について」で示した理由と同じ理由により、本件特許発明1ないし3の構成要件の「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」は、本件特許明細書(および図面)にサポートされたものである。

<特許法第36条第6項第2号
(ウ) 申立理由36-6-2について
本件請求項1の「該高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」との記載からして、最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量が2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)であることは明らかである。
ここで、本件特許明細書には、「1次バンク1の各ROユニット3内の最下流側の高圧型ROモジュール5を通り抜けたブライン(濃縮水)は、1次ブライン配管10から取り出され、一旦合流した後、分配配管11を介して2次バンク2の各高圧型ROユニット3に分配供給される。2次バンク2の各高圧型ROユニット3においても、同様にしてRO膜処理が行われ、透過水は透過水配管12から透過水合流取出配管8を介して取り出される。」(【0024】)、「本発明では、この最終段の高圧型ROモジュール(図1の場合は、2次バンク2の各高圧型ROユニット3の最下流側の高圧型ROモジュール5)のブライン量を2.1m^(3)/(m^(2)・D)以上、好ましくは2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)特に好ましくは2.1?4m^(3)/(m^(2)・D)とする。」(【0028】)との記載があり、これらからして、ブライン水量が2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)である逆浸透膜モジュールは、2次バンクの各高圧型ROユニットの最下流側の高圧型ROモジュールである、つまり、この高圧型ROモジュールが「最終段の末端逆浸透膜モジュール」であるといえるので、この点において、本件特許発明1ないし3の構成要件の「最終段の末端逆浸透膜モジュール」が、どの逆浸透膜モジュールであるのか明確である。

F 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人三田翔による異議申立てにおける取消理由によっては、本件特許発明1ないし3を取り消すことはできない。

第6.両異議申立人による異議申立てにおける甲号証に基く進歩性(容易性)について
特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所による異議申立てにおける甲第1ないし6号証、および、特許異議申立人三田翔による異議申立てにおける甲第1ないし19号証(非公知の甲第11号証を除く)のいずれにも、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことの記載はなく、また、複数段の逆浸透膜モジュールの前段の逆浸透膜モジュールのブラインが後段の逆浸透膜モジュールの被処理水となる高圧型逆浸透膜分離装置に、分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水(低分子量有機物含有水)を通水して処理する方法において、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことが、本件特許の出願前の技術常識であるといえないことからして、複数段の逆浸透膜モジュールの前段の逆浸透膜モジュールのブラインが後段の逆浸透膜モジュールの被処理水となる高圧型逆浸透膜分離装置に、分子量200以下の低分子量有機物を0.5mgC/L以上含有する原水(低分子量有機物含有水)を通水して処理する方法において、「高圧型逆浸透膜分離装置における最終段の末端逆浸透膜モジュールのブライン水量を2.1?5m^(3)/(m^(2)・D)とする」ことを発明特定事項とする本件特許発明1ないし3を構成することは、当業者が容易に想起し得ることであるとは言い難い。
そして、上記「(ア) 申立理由29-2(ア)について」で示したように、本件特許明細書には、低分子量有機物を確実に十分に除去することができるという作用効果を確認し得る記載がある。
したがって、本件特許発明1ないし3は、上記甲号証記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7.結論
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-28 
出願番号 特願2014-74080(P2014-74080)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知團野 克也岩下 直人  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山本 雄一
豊永 茂弘
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5900527号(P5900527)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 低分子量有機物含有水の処理方法  
代理人 重野 剛  

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