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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F 審判 一部申し立て 発明同一 C02F |
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管理番号 | 1330127 |
異議申立番号 | 異議2017-700267 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-14 |
確定日 | 2017-07-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5990726号発明「水処理薬剤の安定化方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5990726号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許第5990726号の請求項1?5に係る特許についての出願は、特許法第41条に基づく優先権主張(平成23年3月29日)を伴う平成24年2月23日の出願であって、平成28年8月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?4に係る特許に対し、特許異議申立人の椎名一男により特許異議の申立てがされたものである。 II.本件特許発明 特許第5990726号の請求項1?4に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1?4の特許に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)と認められる。 「【請求項1】 有効成分としてアゾール系化合物とマレイン酸系化合物とを含む水処理薬剤に、前記水処理薬剤中の前記アゾール系化合物の濃度低下を抑制するための安定化成分としてスルファミン酸を添加することを特徴とする水処理薬剤の安定化方法。 【請求項2】 前記アゾール系化合物がベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾールであり、前記マレイン酸系化合物がマレイン酸またはその誘導体をモノマー単位に有する重合体である請求項1に記載の水処理薬剤の安定化方法。 【請求項3】 前記水処理薬剤が、前記安定化成分を含まない場合に、温度50℃の条件下で2週間以内に前記アゾール系化合物の濃度が80%未満の低下を示す水処理薬剤である請求項1または2に記載の水処理薬剤の安定化方法。 【請求項4】 前記水処理薬剤が、前記水処理薬剤100重量部中に0.01?10重量部のアゾール系化合物と2.0?50重量部のマレイン酸系化合物とを含む請求項1?3のいずれか1つに記載の水処理薬剤の安定化方法。」 III.申立理由の概要 1 本件特許発明1?4は、本件特許についての出願の優先日(平成23年3月29日)以前の平成22年12月21に出願され、上記優先日以後の平成24年7月12に出願公開された甲第1号証(以下、「甲1」という。)である、特願2010-284288号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲および図面(特開2012-130852号公報)に記載された発明と同一であり、発明者が同一ではなく、しかも優先日の時点で出願人も同一でないから、特許法第29条の2の規定に違反するもの(特許を受けることができないもの)であるので、取り消すべきものである。(以下、「申立理由1」という。) 2 本件特許発明1?4は、本件特許についての出願の優先日(平成23年3月29日)以前の平成22年3月18日に出願公開された甲第2号証(以下、「甲2」という。)である、特開2010-58079号公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するもの(特許を受けることができないもの)であるので、取り消すべきものである。(以下、「申立理由2」という。) IV.申立理由1(特許法第29条の2)について IV-1 甲1記載の事項 (1-a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、冷却水系、紙パルププロセス水系、集塵水系、スクラバー水系、排水系などの各種水系に次亜ハロゲン酸とハロゲン安定化剤と添加して殺菌殺藻処理するに際し、上記ハロゲン安定化剤を有効活用してハロゲン安定化剤の必要最低限の添加濃度で優れた殺菌・殺藻効果を得るとともに、その使用量の低減により該ハロゲン安定化剤由来の窒素分及びCOD分を低減しながら、水系の殺菌殺藻を行いうる水系処理方法に関するものである。」(当審注:下線は、当審が付与した。以下同じ。) (1-b)「【0015】 本発明で用いる次亜ハロゲン酸生成化合物は、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸を生成する化合物であり、具体的には次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩などが相当するが、例えば次亜ハロゲン酸生成化合物が次亜塩素酸塩の場合、ハロゲン安定化剤の被処理水系における濃度を一定に保ちながら、酸化還元電位を一定範囲に維持するように次亜塩素酸塩の添加量を制御することにより、生成する結合塩素は一定が保たれ、また遊離塩素濃度も系の運転条件(特にpH)に依存せずに殺菌に必要な濃度が維持されることを見出した。」 (1-c)「【0049】 本発明のハロゲン安定化剤は、スルファミン酸、スルホンアミドから選択される1種以上が用いられるが、スルファミン酸はナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などの水溶性塩類であってもよく、スルホンアミドは、例えばp-トルエンスルホンアミド、m-トルエンスルホンアミド、o-トルエンスルホンアミド、イミドジスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、アルキルスルホンアミド、スルファミドなどであるが、スルファミン酸またはスルホンアミドは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」 (1-d)「【0059】 (実施例1) 本発明の実施形態の例を図1に示す。開放式循環水系は冷水塔8、循環ポンプ9、熱交換器10、循環水ライン11、補給水ライン12、強制ブローライン13から構成される。循環水ライン11に酸化還元電位測定セル3を設置し、酸化還元電位測定セル3に白金電極1と参照電極(銀/塩化銀電極)2を挿入して、白金電極1と参照電極(銀/塩化銀電極)2の間に電位差計4を接続して酸化還元電位を測定した。電位差計4からの出力信号は制御部5に入力され、制御部5では酸化還元電位の測定値と設定値を比較して、測定値が設定値よりも低い場合に次亜ハロゲン酸生成化合物供給ポンプ6に出力信号を送り、次亜ハロゲン酸生成化合物タンク7に入った次亜ハロゲン酸生成化合物を開放式循環水系に添加した。 【0060】 冷水塔8の循環水に浸漬した電気伝導率測定セル14からの信号を電気伝導率指示調節計15に入力させて循環水の電気伝導率を測定し、電気伝導率の測定値と設定値を比較して、測定値が設定値よりも高い場合にブローダウン弁16に出力信号を送り、ブローダウン弁16を開いて一定流量の循環水をブローダウンし、それと同時に組成物供給ポンプ17に出力信号を送って組成物供給ポンプ17を作動させ、組成物タンク18に入った濃度測定対象化合物とハロゲン安定化剤を含む組成物を循環水中の維持濃度に相当する分だけ冷水塔8の循環水に添加した。」 【0061】 ・・省略・・ 【0062】 組成物タンク18には、ポリマレイン酸(BWA社製ベルクレン200LA)の10%、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体(共重合比50:50重量%、重量平均分子量約6,000)の10%、スルファミン酸の6.8%、メチルベンゾトリアゾールの1%、水酸化ナトリウムの10%を含む組成物を入れた。」 【0063】 ・・省略・・ 【0064】 1ヶ月の試験期間中、酸化還元電位は450±1mVの範囲に維持されたが、循環水中の全菌数は1×10^(2)個/mL以下であった。試験期間中の組成物の平均濃度は平均105mg/Lであり、スルファミン酸の平均添加濃度は0.074mmol/Lであった。熱交換器10に設定した炭素鋼製チューブ(JIS G3445:STKM11A、外径12.7mm、長さ500mm)の腐食速度は1.9mdd、銅合金製チューブ(JIS H3300:C 6871 復水器用黄銅2種、外径12mm、長さ500mm)の腐食速度は0.1mddであり、試験チューブ表面に孔食の発生は認められなかった。また、冷却塔内に藻の付着は認められなかった。ハロゲン安定化剤由来の窒素濃度は1.0mg/Lであった。」 IV-2 甲1記載の発明 (1-e)上記(1-c)からして、甲1には、「ハロゲン安定化剤としてのスルファミン酸を用いる」ことの記載があると認められる。 (1-f)上記(1-d)からして、甲1には、「『ポリマレイン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体、スルファミン酸、メチルベンゾトリアゾール、水酸化ナトリウムを含む組成物』および次亜ハロゲン酸生成化合物を冷水塔の循環水に添加する」ことの記載があると認められる。 (1-g)上記(1-a)、(1-b)および(1-d)からして、甲1には、「ハロゲン安定化剤を用いて、次亜ハロゲン酸生成化合物より生成される次亜ハロゲン酸を安定化させる」ことの記載があると認められる。 上記(1-e)ないし(1-g)からして、甲1には、「『ポリマレイン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体、ハロゲン安定化剤としてのスルファミン酸、メチルベンゾトリアゾール、水酸化ナトリウムを含む組成物』および次亜ハロゲン酸生成化合物を冷水塔の循環水に添加し、ハロゲン安定化剤としてのスルファミン酸を用いて、次亜ハロゲン酸生成化合物より生成される次亜ハロゲン酸を安定化させる方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。 IV-3 対比・判断 本件特許発明1?4は、「アゾール系化合物とマレイン酸系化合物とを含む水処理薬剤に、」「スルファミン酸を添加する」ことを発明特定事項にするものであるから、「スルファミン酸」を、混合された「アゾール系化合物およびマレイン酸系化合物」に添加するものである。 一方、甲1発明は、『ポリマレイン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体、ハロゲン安定化剤としてのスルファミン酸、メチルベンゾトリアゾール、水酸化ナトリウムを含む組成物』を構成にするものであって、「スルファミン酸」、「メチルベンゾトリアゾール(アゾール系化合物)」および「ポリマレイン酸(マレイン酸系化合物)」等を混合することで該『組成物』が生成されるところ、甲1には、これらを混合する手順についての記載はなく、また、一般に、「スルファミン酸」を、混合された「アゾール系化合物およびマレイン酸系化合物」に添加することが、当業者にとって周知技術であったともいえない。 そうすると、甲1発明は、「スルファミン酸」を、混合された「アゾール系化合物およびマレイン酸系化合物」に添加するものであるか不明であるから、本件特許発明1?4と甲1発明とが同一であるとはいえない。 IV-4 小括 上記からして、本件特許発明1?4は、甲第1号証である、特願2010-284288号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲および図面(特開2012-130852号公報)に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反するもの(特許を受けることができないもの)であるとはいえず、取り消されるものではない。 V.申立理由2(特許法第29条第1項第3号)について V-1 甲2記載の事項 (2-a)「【請求項1】 アニオン性ポリマーと、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、を含有し、 前記アニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、 前記共重合体における2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合は10モル%以上である水処理剤。」 (2-b)「【請求項5】 水系の水処理方法であって、前記水系に、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、この共重合体における2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合が10モル%以上であるアニオン性ポリマーと、を添加する水処理方法。」 (2-c)「【0018】 (アニオン性ポリマー) アニオン性ポリマーは、一般にスケール抑制作用を奏することが知られており、従来、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸の塩が使用されている。このうち本発明で使用されるアニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体である。なお、アニオン性ポリマーは、更に他のモノマー単位を有していてもよい。」 (2-d)「【0028】 そこで、スライム抑制剤は、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアゾール系化合物を含有することが好ましい。かかるスライム抑制剤は、比較的安価に製造できるともに、少量でも充分なスライム抑制作用を奏する。」 (2-e)「【0031】 スルファミン酸化合物は、例えば、スルファミン酸、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸及びN-フェニルスルファミン酸、及び/又はこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩)であってよい。これらのスルファミン酸化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スルファミン酸が好ましく、スルファミン酸の含有量は水処理剤の全質量に対して1.5?9質量%であることが好ましく、4.5?8質量%であることがより好ましい。 【0032】 次亜塩素酸イオン及びスルファミン酸は、次式のように反応して、N-モノクロロスルファミン酸イオン又はN,N-ジクロロスルファミン酸イオンを形成し、塩素系酸化剤の有効成分が安定化する点で好ましい。 ClO^(-)+H_(2)NSO_(3)H→HClNSO_(3)^(-)+H_(2)O 2ClO^(-)+H_(2)NSO_(3)H+H^(+)→Cl_(2)NSO_(3)^(-)+2H_(2)O」 V-2 甲2記載の発明 上記(2-a)ないし(2-e)からして、甲2には、[「ホスホン酸化合物、『塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物(スルファミン酸)、及びアゾール系化合物を含有するスライム抑制剤』、アニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)を含有する水処理剤」を水系に添加する、スルファミン酸化合物(スルファミン酸)を用いて塩素系酸化剤を安定化させる方法。](以下、「甲2発明」という。)が記載されているということができる。 V-3 対比・判断 本件特許発明1?4は、上記「IV-3 対比・判断」で示したように、「スルファミン酸」を、混合された「アゾール系化合物およびマレイン酸系化合物」に添加するものである。 一方、甲2発明は、「ホスホン酸化合物、『塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物(スルファミン酸)、及びアゾール系化合物を含有するスライム抑制剤』、アニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)を含有する水処理剤」を構成にするものであって、「ホスホン酸化合物」、『塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物(スルファミン酸)、及びアゾール系化合物を含有するスライム抑制剤』、「アニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)」等を混合することで該『水処理剤』が生成されるところ、上記『スライム抑制剤』を生成する際に、少なくとも、「塩素系酸化剤」、「スルファミン酸化合物(スルファミン酸)」及び「アゾール系化合物」が混合され、そして、これと「アニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)」が混合されるものであるといえるので、「スルファミン酸化合物(スルファミン酸)」を、混合された「アゾール系化合物およびアニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)」に添加するものではない。 そうすると、甲2発明は、「スルファミン酸化合物(スルファミン酸)」を、混合された「アゾール系化合物およびアニオン性ポリマー(例えば、マレイン酸)」に添加するものでないから、本件特許発明1?4と甲2発明とは実質的に相違する。 V-4 小括 上記からして、本件特許発明1?4は、甲第2号証である、特開2010-58079号公報に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するもの(特許を受けることができないもの)であるとはいえず、取り消されるものではない。 VI.まとめ したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-06-30 |
出願番号 | 特願2012-37561(P2012-37561) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(C02F)
P 1 652・ 161- Y (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 瀧口 博史 |
登録日 | 2016-08-26 |
登録番号 | 特許第5990726号(P5990726) |
権利者 | ナルコジャパン合同会社 株式会社片山化学工業研究所 |
発明の名称 | 水処理薬剤の安定化方法 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 野河 信太郎 |
代理人 | 金子 裕輔 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 甲斐 伸二 |
代理人 | 稲本 潔 |
代理人 | 金子 裕輔 |