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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61C
管理番号 1330133
異議申立番号 異議2017-700392  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-19 
確定日 2017-07-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6009256号発明「義歯安定材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6009256号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6009256号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年7月19日を出願日とする特許出願であって、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?4に係る特許に対し、特許異議申立人藤田節(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6009256号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
以下、本件特許発明1のグリセリンのアセチル誘導体、すなわち後記構造式(1):

[式(1)中、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は同一又は異なって、水素原子、アセチル基、又は式:R^(4)CO-(R^(4)は、炭素数2?30の有機基である。)で示される基である。但し、R^(1)、R^(2)及びR^(3)の少なくとも一つはアセチル基であり、且つR^(1)、R^(2)及びR^(3)の少なくとも一つは式:R^(4)CO-である。]
で表されるグリセリンのアセチル誘導体を、「本件アセチル誘導体」という。

第3 申立理由の概要
1 申立人は、証拠として
甲第1号証:特開2002-58685号公報
甲第2号証:特表平10-512747号公報
甲第3号証:国土交通省自動車交通局平成22年(2010年)4月28日プレスリリース「旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正する省令並びに関係通達の改正について」、写し
甲第4号証:特開平10-290812号公報
甲第5号証:特開2004-350694号公報
甲第6号証:特開平7-157408号公報
甲第7号証:国際公開第2006/055350号
甲第8号証:米国特許第5023093号明細書
甲第9号証:米国特許第5116626号明細書
甲第10号証:「日本食品化学学会編-食品添加物活用ハンドブック-II食品添加物実用 必須データ編」(日本食品化学学会編、食品添加物活用ハンドブック企画編集委員会、産業調査会事典出版センター、2009年1月30日初版発行)、写し
を提出し、概略、以下のように主張している。

2 本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項並びに周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。よって、これらの特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証
請求項1、2、段落[0002]の記載からみて、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「酢酸ビニル樹脂及びエタノールを含有する義歯安定剤組成物。」

2 甲第2号証
請求項1、第6ページ第16行?同第27行、第8ページ第3行?同第13行、第9ページ第21行?同第23行の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲2事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニルの可塑剤としてトリ酢酸グリセロール、アセチル化モノグリセリド、及びそれらの混合物を加えることでチューインガムベース組成物を構成し、木材、床、アスファルト、敷石、コンクリート、カーペット、革、髪の毛及び布を含む種々の表面から容易に剥がすことができるチューインガムベース組成物を提供すること。」

3 甲第3号証
第1ページ1.、第1ページ2.(2)、第7ページQ14の記載からみて、以下の事項が記載されていると認められる(以下、「甲3事項」という。)。
「事業用自動車の事業者が乗務員の酒気帯びの有無を確認する際、アルコールを含む入れ歯安定剤にアルコール検知器が反応することがあるため、アルコールを含まないものを使用するよう注意すること。」

4 甲第4号証
段落[0001]、[0040]、[0054]、[0091]、[0111]、[0136]、[0137]の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲4事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニル、トリアセチン、エタノールを含有する義歯安定剤を構成し、任意成分である乳化剤としてアセチル化グリセリル脂肪酸エステルを必要に応じて添加すること。」

5 甲第5号証
段落[0011]、[0020]、[0042]の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲5事項」という。)。
「酢酸ビニル樹脂、エタノールを含有する義歯安定剤。」

6 甲第6号証
請求項1、段落[0001]、[0009]、[0022]、[0023]、[0028]の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲6事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニル、トリアセチルグリセリン、60%エタノールを含有する義歯安定剤を構成し、任意成分である乳化剤としてアセチル化グリセリル脂肪酸エステルを必要に応じて配合すること。」

7 甲第7号証
請求項1、4、7、段落[000117](実施例3)の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲7事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニル、トリアセチンを含有する義歯ライナー組成物。」

8 甲第8号証
請求項1、第6欄第17行?同第19行の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲8事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニル及びアセチル化モノグリセリドを含有するチューインガムベース組成物。」

9 甲第9号証
請求項1の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲9事項」という。)。
「ポリ酢酸ビニル及びアセチル化モノグリセリドを含有するガムベース。」

10 甲第10号証
第538ページ右欄第1行?同第12行、第538ページ右欄第14行、第539ページ左欄第12行?同第18行、第539ページ中欄第19行?同第26行の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「甲10事項」という。)。
「酢酸モノグリセリドがチューインガムの可塑剤として広く用いられていること。」

第5 判断
1 本件特許発明1について
(1) 本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、その機能からみて、甲1発明の「義歯安定剤組成物」は、本件特許発明1の「義歯安定材用組成物」に相当する。

イ したがって、両者は「酢酸ビニル樹脂」「を含有する義歯安定材用組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

ウ 義歯安定材用組成物が、本件特許発明1では、酢酸ビニル樹脂以外に本件アセチル誘導体を含有し、エタノールの配合量が1質量%以下であるのに対し、甲1発明では、酢酸ビニル樹脂以外にエタノールを含有し、エタノールの配合量が5?40質量%(好ましくは10?25質量%)である点(以下、「相違点」という。)。

(2) 相違点についての判断
ア 相違点について検討する。

イ まず、甲第4号証?甲第7号証には義歯安定材用組成物が記載されているものの、以下に示すとおり、本件アセチル誘導体を含有しつつエタノールの配合量が1質量%以下であるとの発明特定事項が記載も示唆もされていない。
(ア) 甲第4号証について
甲4事項のトリアセチンは前記構造式(1)におけるR^(1)、R^(2)、R^(3)の全てがアセチル基となった物質であるから、本件アセチル誘導体に該当しない。
一方、甲4事項のアセチル化グリセリル脂肪酸エステル、すなわちアセチル化モノグリセリドは前記構造式(1)におけるR^(1)、R^(2)、R^(3)の組合せが、水素原子、アセチル基、R^(4)CO-(R^(4)は有機基。ただし炭素数は不明。)で示される基となった物質であるから、本件アセチル誘導体を含むものである。
そうすると、甲1発明の義歯安定材用組成物に甲4事項を適用しても、甲第4号証の段落[0024]、[0045]の記載によれば、接着性や流動性を調整するためにエタノールを含有することが望ましいとされており、その配合量は実施例において5?25質量%であり、エタノールの配合量を1質量%以下とする技術思想は示されていないから、本件アセチル誘導体を含有する義歯安定材用組成物が得られるにすぎない。

(イ) 甲第5号証について
甲5事項にはグリセリンのアセチル誘導体が含まれていない。
そうすると、甲1発明の義歯安定材用組成物に甲5事項を適用しても、甲第5号証の段落[0024]の記載によれば、粘度を調整するためにエタノール(好ましくは無水エタノール)を10?25質量%含有することとされており、無水エタノールの配合量は実施例において20.5質量%であり、エタノールの配合量を1質量%以下とする技術思想は示されていないから、エタノールを含有する義歯安定材用組成物が得られるにすぎない。

(ウ) 甲第6号証について
甲6事項のトリアセチルグリセリンはトリアセチンと同義であり、前記(ア)に示したとおり本件アセチル誘導体に該当しない。
一方、甲6事項のアセチル化グリセリル脂肪酸エステルは、前記(ア)に示したとおり本件アセチル誘導体を含むものである。
そうすると、甲1発明の義歯安定材用組成物に甲6事項を適用しても、甲第6号証の段落[0028]の記載によれば、実施例の義歯安定剤も60%エタノールを含有しており、その配合量を[表1]に基づいて残部として算出すると26重量%であり、エタノールの配合量を1質量%以下とする技術思想は示されていないから、本件アセチル誘導体を含有する義歯安定材用組成物が得られるにすぎない。

(エ) 甲第7号証について
甲7事項のトリアセチンは、前記(ア)に示したとおり本件アセチル誘導体に該当しない。
そうすると、甲1発明の義歯安定材用組成物に甲7事項を適用しても、トリアセチンを含有する義歯安定材用組成物が得られるにすぎない。

ウ 次に、甲第2号証、甲第8号証、甲第9号証にはアセチル化モノグリセリドが記載されており、前記イ(ア)に示したとおり本件アセチル誘導体を含むものである。
しかしながら、その用途はチューインガム組成物であり、本件アセチル誘導体を含有しつつエタノールの配合量が1質量%以下である義歯安定材用組成物については記載も示唆もされていない。また、チューインガム組成物に求められる特性は「例えば、咀嚼性、粘着性、フレーバー放出性、跳性、薄膜形成性、弾性等」(甲第2号証の第5ページ第26行?同第27行を参照。)である一方、義歯安定材用組成物に求められる特性は「塗布後経時的に固くなるので、概ね2日から4日の連続使用が可能」(本件特許明細書の段落【0003】を参照。)であることや「pH」、「密着強さ」、「ちょう度」、「剥離性」(本件特許明細書の段落【0055】?段落【0058】を参照。)などであり、それぞれに求められる特性は異なるものであるから、チューインガム組成物を義歯安定材用組成物に転用する示唆もない。

エ さらに、甲第3号証、甲第10号証には、以下に示すとおり、本件アセチル誘導体を含有しつつエタノールの配合量が1質量%以下である義歯安定材用組成物について記載も示唆もされていない。
(ア) 甲第3号証について
甲3事項はアルコールを含まない義歯安定材を使用するよう注意を促すものであり、義歯安定材からアルコールを除外するよう促すものではない。また、本件アセチル誘導体を使用するよう促すものでもない。

(イ) 甲第10号証について
甲10事項はチューインガムの可塑剤として酢酸モノグリセリドを例示する。この酢酸モノグリセリドはアセチル化モノグリセリドと同義であり、前記イ(ア)に示したとおり本件アセチル誘導体を含むものである。しかしながら、この可塑剤は義歯安定材用組成物ではなく、また、この可塑剤を義歯安定材用組成物に転用する示唆もない。

オ 以上に示したとおり、酢酸ビニル樹脂の可塑剤としてのエタノールを、実質的に全て本件アセチル誘導体で置換して、もってエタノールの配合量を全体の1質量%以下とする技術思想は、甲第1号証?甲第10号証のいずれにも記載も示唆もされておらず、しかも本件の出願時における技術常識であるともいえない。
よって、甲1発明において相違点に係る発明特定事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。
したがって、本件特許発明1は甲1発明及び甲第1号証?甲第10号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書(第15ページの3-4-3.)において、本件特許発明1が、甲1発明に甲2事項及び周知の技術を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである旨、主張しているので以下に検討する。

(ア) 甲第3号証に基づいて、甲1発明においてエタノールに替わる新規な可塑剤を見いだす動機付けがある旨、申立人は主張する。
しかしながら、前記(2)エ(ア)に示したとおり、甲第3号証には、飽くまでアルコールを含まない義歯安定材を使用するよう注意を促すことが記載されているにすぎず、義歯安定材にアルコールを使用してはならないとか、アルコール以外の可塑剤を使用しなければならないといったことを示唆するものとまではいえない。
したがって、甲第3号証の記載に基づいてみても、甲1発明において酢酸ビニル樹脂の可塑剤としてのエタノールを、実質的に全て本件アセチル誘導体で置換して、もってエタノールの配合量を全体の1質量%以下とする動機付けがあるとはいえない。

(イ) 甲1発明において、エタノールに替わる可塑剤として甲第2号証に記載のアセチル化モノグリセリドを使用することは、当業者にとって容易である旨、申立人は主張する。
しかしながら、甲第2号証に記載のアセチル化モノグリセリドは、チューインガム組成物において、脂肪、ワックス、エラストマー溶剤樹脂に替わる可塑剤として使用されるもの(第9ページ第21行?同第23行を参照。)であり、エタノールに替わる可塑剤として使用されるものではない。そうすると、甲1発明のエタノールを、甲第2号証に記載のアセチル化モノグリセリドによって置換しようとする動機付けがなく、その置換は当業者にとって容易ではない。
仮に、甲1発明に甲第2号証に記載のアセチル化モノグリセリドを適用しても、甲第1号証の実施例に含まれるミツロウ(油脂・ワックス類)をアセチル化モノグリセリドによって置換することとなり、その結果として得られる義歯安定剤組成物は、酢酸ビニル樹脂、アセチル化モノグリセリド、相当量のエタノールを含有するものとなってしまい、エタノールの配合量が1質量%以下であるとする発明特定事項を有するものとはならない。

イ 以上に示したとおり、当業者であっても甲1発明において酢酸ビニル樹脂の可塑剤としてのエタノールを、実質的に全て本件アセチル誘導体によって置換して、もってエタノールの配合量を全体の1質量%以下とすることは容易でないことから、申立人による前記主張には理由がない。

2 本件特許発明2?4について
本件特許発明2は本件特許発明1を直接的に引用するものであり、本件特許発明3、4は本件特許発明1を直接的又は間接的に引用するものである。
ここで、前記1に示したとおり、本件特許発明1は甲1発明及び甲第1号証?甲第10号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、本件特許発明2?4も甲1発明及び甲第1号証?甲第10号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 まとめ
したがって、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとの取消理由には、理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-03 
出願番号 特願2012-160925(P2012-160925)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 二階堂 恭弘
平瀬 知明
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6009256号(P6009256)
権利者 福地製薬株式会社 大同化成工業株式会社
発明の名称 義歯安定材  
代理人 岩谷 龍  
代理人 岩谷 龍  

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